01.「呼んではならぬ」 -陣を描く少女- |
※原作 17.18話 「呼んではならぬ」より 小さい頃から時々 変なものを見た 他の人には 見えないらしい それらはおそらく 「妖怪」とよばれるものの類―― side 夏目 貴志 あるとき、祖母レイコのことを知った。 そうして祖母の遺品に入っていた“友人帳”から、おれの生活はおかしな方に向かったのだろう。 友人帳を中心に、ニャンコ先生や、低級、美鈴といった妖怪たちとも出会った。 祓い屋の名取さんにもであった。 妖怪たちとも、まぁ、そこそこうまくやっている。 ひとの友人もできた。 ここにきて、優しい人たちに囲まれ、田村という"仲間"もできた。 こないだなんかは、友人二人に誘われて一泊二日の宿題合宿なんかをして、はしゃいで、食べて――。 優しい人魚にも会った。 人に見えないものが見えるというのは、つらいこともあるけれど。 ここの人たちは優しく、温かい。 大切だと思えるんだ。 だから、今は少しだけ感謝している。 * * * * * ――蝉がミンミンと鳴く夏も盛り。 今日は友人たちに花火に誘われたが、ズシーンズシーンと大きな音が聞こえて、北本と西村たちの声が聞こえなかった。 たまたま目の前を巨大な妖怪が通ったためだ。 思わず視線逸らしたら、“あれ”が視えない友人たちに「流し目」をしたと、おかしな誤解をされた。 学校帰りに買ったジュースはおいしかった。 たまに“あれほど巨大なもの”さえ見えない彼らが、正直、ちょっとうらやましく思える。 もしもおれも…初めから、視えていなければ―― 「あら、おかえりなさい貴志くん」 「ただいまぁ塔子さん」 「もうすぐご飯だから、猫ちゃん迎えに行ってあげてくれるかしら。 たぶん裏通りの空き地あたりにいると思うの」 ――ニャンコ先生―― もしも“視えなく”なってしまったら。 そうしたらおれは・・・ 「それじゃぁ、お願いね。貴志くん」 「あ、はい」 そうだ。何を考えているんだおれは。 “もしも”なんて有り得いない。 それに初めから視えていなかったら・・・おれはニャンコ先生とも出会うことはなかっただろう。 いまは、まだ―― このままで、いい。 塔子さんに言われた通りの場所へ、ニャンコ先生を探しに行った。 呼びかければすぐに先生の声が返ってきたのに安堵して、休憩がてら、おれはごろんと草原に寝っころがる。 ザァーっと心地よく響く草の音を聞いていたら、ふいに話し声のようなものが聞こえた。 ……ヒソヒソ [おい、これはなんだ?変なものがある。何かの文字か?] 聞こえてきたのは、小さな小さな囁きのような声。 ああ、そうか。これは妖か。 [これに似たのを河原でも見たぞ] [何かの呪いじゃないのか?早くここを離れた方がいいかもしれん] [そうだな…] 「変なものって?」 耳を傾けていると、側らの草がカサリと動き、二匹の小さな妖が姿を見せた。 彼等はおれの姿を見ると悲鳴を上げて去ってしまったが、彼らの言う“変なもの”が気になって、二匹がやってきた方向へ向かった。 それは間もなく見つかった。 目玉を中心に、漢字のような、抽象的な記号の描かれた円陣。 はじめはラクガキかとも思ったが、やはり何かのまじない関係な気がした。 これは人にも見えるものだろうか? もっと近づいてよく見よう。 「どうした夏目」 「うわっ!」 にゅっという感じで突如あの招き猫のようなニャンコ先生が、真正面から顔を出してきた。 さすがにドアップはびびる。 しかもなぜか糸で結んだ数匹のトンボを捕まえているし。 まさか 「食べるのか?」 「阿呆、放して恩を売るのだ」 たかが虫になにを期待しているのやら。 おれがあきれていると、先生の視線が地面のサークルに向かう。 「む…」 「どうした先生?」 「なんだこれは見たことのない陣だな…はっ!?」 「先生?」 「まさか宇宙人と交信する系のサークルか!?」 「うわっ専門外だな〜」 さすがにそれはちょっと…。 予想外だよ先生。 まだ妖の方が言葉も通じそうだし、対処の仕様がありそうな分、宇宙人は無理だ。 思わずその場面をリアルに想像し鳥肌が立ったところで―― がりがりがり・・・ 地面を削るような、そんな音が聞こえた。 誘われるようにそちらへ振り向けば、そこには帽子に薄手の外套を羽織った女の子がいた。 彼女は、“なに”を…してるんだ? 「おい。何してるんだ?」 おれの呼びかけに一心不乱に、地面に何かを書いていたらしき女の子の動きが止まる。 「夏目くん…?」 「――おれを知ってるのか…?」 視線が合うと名を呼ばれた。 驚いて聞き返したら、彼女は慌てて自分の口を押え 「しまった。私…、私今あなたの名前を呼んだ?」 なんだ? 「え。ああ…。大丈夫か?」 「…そう…。どうしよう……しまった…」 「…おい?」 うつむいた彼女は、心底困っているようだった。 けれど「―――…ごめん」と、はぁぁ・・・っと大きなため息をつくと、それで決心がついたのか、勢いよく顔を上げた。 強い意志の宿った眼が、見えた。 「ごめんね夏目くん」 「え?」 「私、必ず勝つわ!必ず、勝たなくちゃ!!」 「あっ!おい!?」 彼女はそれだけ言うと、ダッとコートを翻してかけて行ってしまった。 何が何だかわからない。 「…な、何なんだ?…妖か?先生わかる?」 「うむ。あれは人間の娘だな」 「じゃぁ、これはあの娘(コ)が描いたのか」 おれは足元に広がる陣をみつめながら、丸まっているニャンコ先生を抱き上げる。 “勝つ”って一体、何にだろう。 彼女がこの陣に関係があるのもわかる。 まったくなにがなんだかわからないし、あまりいい予感はしないけど。 それでも 真剣な目が気になった――。 * * * * * その日、夢を見た。 黒くて大きな何か。 ―――人間のくせに 私を見たな ククク... お前を 祟ってやろう あと三百と六十日やろう それまでに………ができなければ―― お前の前負けだ 喰 っ て や ろ う 漫画の原作中心。 だけどそのまんま写しとか苦手なので、一部修正や管理人による妄想が入ります。 ご了承ください。 |