病弱ぬらりひょんがいく
- 夏 目 友 人帳 -



00. 病弱ぬらりひょんの異世界とリップ





屋敷の自分の部屋でいつものように寝ていたはずだ。
そこでみんなが「もう大丈夫だから」「安心して」「ゆっくり休め」と次々に言ってくるものだから、「ああ、もういいのか」って思った瞬間。たぶん死んだ。
気が抜けたというか、もう生命力はすっからかんで、寿命の限界だったように思う。
これで確実に死んだなと思った。
現に、安心して肩から力が抜けた瞬間、そのまま意識が飛んだ。

目が覚めたら、ピヨピヨとかわいらしいコトリの鳴く見知らぬ森の中でした。


まさか死なずにトリップするとは・・・。

でも、このままだと普通に死ぬわ。
死にかけの体に少し生命力を与えられて、この世界で再生されても凄い困る。前世の弱い体のままとかなぜだ!この体でオレが生きていけると思うなよ!
いや、生きるけど!死ぬ気はないけど。

でもこれだけは言わせてくれ。
「オレの体はもとから弱いんだよ!」
なぜその体でのトリップだか転生をチョイスした運命の神!このままだと死んじゃうだろうが!

だれかたすけてくれ〜!!!





 -- side 奴良 --





 以前のように特殊な能力があろうともかまわない。ただし、それが人間であったならのはなしだ。
ただびとであるならば、たとえどこにトリップしようと問題はなかった。
それが言葉の通じない場所ででも。
そういったことでも、異世界慣れしたオレの根性と気合いでなんとかできたはずだから。
でも。

今回は、困ったことに今のオレは妖怪だ。

 妖怪ぬらりひょん・・・の、孫。
その証拠に髪が生まれつき白い。
目だって普段は黄緑だが、気が昂ると瞳孔が縱にひらくし、緑の色が明るくなって金っぽくなる。
しまいにゃ前世の影響か、初代ぬらりひょんにかけられた狐の呪いゆえか、非常にこの身体は弱い。
たぶん鴆(ぜん)より遥かに病弱なこの身では、妖怪としても人としても長くは生きられないだろう。
 理由としては、何個か前の転生先で、太陽神であるアマテラス大神になったことが原因だ。
アマテラスは“陽”そのもののの存在。
まとうは神の力。
 現在は妖怪。
 つまり肉体が完全な妖怪“陰”であるのにたいし、体の中にあるのは神の力“陽”。
たとえぬらりひょんが“陽”の妖であったとしても、それは抑えきれるものではなく、相反する力故、体と力が反発しあってしまうのだ。
なんとか身体に流れる“人”としての血で、ひととしての「気」で、神力が表に出てこないようにおさえこんでいるものの、一人では限界がある。
 力は、神のもの。
肉体は、妖怪。
流れる血は、ひと。
 こうなると、なにが問題かというと、体の中で相反する力も問題が、妖怪であるこの身を祖父が受けた羽衣狐の呪いがむしばむのだ。
おかげで瘴気や“陰”の気配に触れると、肉体の妖怪としての存在が強まり、ひととしての「気」が弱まってしまう。 そのせいで今度は、神力が暴走しかけ、身体の中で反発が起き血反吐を吐くという結果に陥る。
さらにはその“陰”の気によって、ここぞとばかりに羽衣狐の呪いが活性化するというオチつきだ。

 実際、何度も血を吐いては寝込んでいる。
あの世の河だって何度かわたりかけては、祖母だという女性にひきとめられて、そうやって現世に連れ戻してもらっているほど。

 幼いころ、オレが寝込む原因を知った父が、陰陽師に依頼して、呪具を用意してくれた。
 近づく悪いものから、身を守れるように。自分でそれを断ち切れるように――退魔の力のある刀を。
狐の呪いをこれ以上活性化させないために。“陰”の気を増やすことがないように――浄化の力を持つ小さな丸い手鏡。

 妖怪や精霊たちの特徴として、人間のような肉体を持たない彼らは、本来なら影とか意識せずにもぐりこめる。
ただしオレの場合人間でもあるので、肉体がしっかりある。そのため扉を素通りすると言ったような、オバケのような芸当ができない。
せいぜい影の中に、自分の“気”が通ったものをしまうぐらいが、今世の限界だった。
 その影の中に、父からもらった二つの呪具をつねにいれている。
 長い年月影の中に入れていたせいだろう。いろいろ二つの呪具も性質変化しちゃった。
取り込んで浄化するだけだった鏡が、取り込んだものを浄化してオレの力に変換するようになった。
 こいつ(手鏡)、いつか付喪神化したりしてしないだろうかと、ちょっと不安になった。 だって自我をもったら、今の状況ってきっと過度労働にあたりそうで・・・逃亡されかねない。そうしたらオレ死ぬぜ?


 話がそれたかな。
まぁ、要約すると、そんな生命活動の維持さえ難しい半端な妖のオレが、もとの世界から外れてしまったということだ。
 実家には、空気清浄器もとい部屋中に結界が張ってあって、オレの体調が整うようになっていたのだが。
いまはそれがない。
しかも野外である。

どう生きろと?

 力をふるえば、その反動は半端ない。
へたをすると死にかねない。
連発してしまえば身体維持のパイプラインが途切れ、命の危険に陥る可能性がある。
こんな脆弱な自分が人と同じだけの歳月を生きれるかも怪しい。

 ――そんなオレが、寝て目を覚ましたら、トリップしてました。

しかも目が覚めたら身体が10歳ぐらいの子供の姿にまで縮んでいた。
これはたぶんオレという存在をこの世界に誕生させるために、前の世界の姿誰かが模倣した。
だが前の姿の最期の瞬間は死ぬ間際だったせいで弱り切っていた。だからこの肉体は、肉体年齢ピーク時期とでもよべばいいのか、まだ力も安定して居た時間の姿をとったのだろうとおもっている。
おかげで、妖怪や神や人の気配が混ざりに混ざった状態の体が一番しんどくてつらいじきなので物凄い困る。

さぁ、おさらいだ。ここは野外です。
お外だよ。
そして体が弱いままです。
力を抑え込むための結界に囲まれた部屋もない。
知人もいません。


どうしろと?





* * * * *





 ふらりと歩けば、森はすぐに抜けられ、旧家がならぶ我が家の町よりそこそこ都会らしいごく普通の町並みに到着した。
ただ、都会というにはこのあたりはまだまだ田舎らしく、緑が多く、その分ひとならざる者の気配が、街中だというのに濃かった。

 街に出るまでに気付いたことだが、ここの世界の人外生物達は、 【ぬらりひょんの孫】世界の“畏”を駆使して戦う妖怪とは違って、妖怪であるのに随分と穏やかな気配を放っている。

まぁ、それもしかたないかな。

なにせ我が家は、ヤクザ者。
しかも武道派で、爺さんは天下をとった百鬼夜行の主。
いっちゃぁ悪いが、弟が生まれてからは余計に総大長の座を狙うやつが増えバトルロワイヤルが盛んだ。

それに比べてこちらの妖怪たちの穏やかなこと。
空気がまったりしている。
人間を食うらしいが・・・まぁ、穏やかなのは変わりない。


 さて。爺さん、父さん、弟(妖怪バージョン)のようにオレは頭は長くないが、 これでも妖怪の血を少なからずひいている身。
父や弟とはちがって、わけのわからない割合で、それぞれの種族の血の影響を受けてはいるが、まがりなりにも「ぬらりひょん」である。
人の家に侵入するのなんてわけもない・・・・はず。
 だがしかし、困ったことに、人の血の影響で“畏”を使わない普段は、だれにでもオレの姿が見えてしまうのだ。
子供時代、母に連れられて買い物についていけば、白髪の子と指をさされたほど。それはもうくっきり皆さんに見えている。
つまりは清継なみに霊感が欠片一つ全くなく、ドを超えた鈍ちん以外には、普通にオレの姿は見えてしまうのである。
ただオレは長年の習慣で気配を消すのがほぼ癖になっているので、目の前を歩いても気付かれないことは多いが。


『っで。オレなにをすればいいんだろうな?』

 さぁ、ここはどこだ。
 そもそもオレはなんで、妖怪のままトリップ、なんて現象を受け入れているのだろう。
ここにきた原因ってなんだろう。
ちゃんと普通に死んだよな?
ってことはやはり、この肉体はあっちにあったのをこの世界にもってきたのではなく、この世界で新しく誰かによってつくられたものだろう。
トリップっていうより転生だとおもうんよなー。

だから
なんでだ?

しばらく考えてみたが、原因なんて魔女との契約で魂が死ねなくなったせいとしか考えられない。
だが、なぜこの姿で。この場所で。この世界なのかは、やっぱりどれだけ考えてもわからない。答えは出ない。
というより、この先をどうするかのほうが問題だよな。
人間に紛れるか、妖怪らしく山で暮らすか。

まぁ、いつか帰れるかと――期待をむねに――適当にたかをくくってみた。

だってくよくよしててもしょうがないしな。


 とにもかくにも何かをするには、ここがどこでいつなのかを知る必要がある。
間違いなくここは戦国時でないことは確定だが。
困ったことに身体の弱いオレは、誰かに養ってもらわなければ生きてけない。
叶うことなら結界のある場所がいい。
そうでないなら、森の奥でひっそり生きるか。

『よし。妖怪らしく生きよう』

 ぬらりひょんだけど。やっぱり盗みとか、無銭飲食をする気にはなれない。
そもそも人の街って“陰”の気が多いんだよな。
そういうのにあてられないだけ、まだ森の中の方が安全だろう。

 とりあえずまた森にもどるのが一番楽そうだと、いったん町に別れを告げ、再び森の奥へと向かう。



 森のなかをしばらく歩いていて、どこがオレにとって都合がいいだろうかと考える。
 ちょうどいい具合に妖怪がいたので、足をひっかけて転んだところを、ムンズと捕まえた。
力をいれすぎたらしい。
腕ではなく別の場所に力が言ってしまい、身体維持をおろそかにしてしまいオレの力の一部が一瞬外に流れだし――・・・オレは血をはいた。
その突然の事態に、握っていた小さな妖怪たちに逆に心配され、「自分たちは逃げないからつかまえなくていい。 かわりにお前は寝てろ」と、初対面でオレが脅したはずなのに、なぜか逆に説得されてしまった。

 聞き出したところ、この世界には、「友人帳」と「夏目」がいるらしい。
つまりここは【夏目友人帳】の世界だと判明。
ただ今はもう夏目レイコはいないらしい。

『そうか。レイコの・・・はは。どうり“妖怪”の気配が濃いと思ったよ』

 ここは妖怪と夏目の物語が織りなす世界。
ならばこそ、オレが妖怪のままトリップしてきたのも頷ける気がした。



 とりあえず幸先はよくないが、血をはいたせいで貧血になった。
そのままオレは、妖怪たちのアジトに運ばれて看病を受けることとなった。



この世界の主人公とオレが出会うのは、それから随分と先のこと――








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