不思議お兄さんは何役者?
- ポケット モン スター -



劇場版 『ビクティニと黒き英雄』 6話





空に剣の形をした城が浮かんでいる。
なにをどう間違ったかは知らないが、どうやら“真実”をしりもしない若者が、夢をみすぎたあげく、“しでかして”くれたらしい。

オレはそれをみるなり、フードの中のシェイミをボールにもどし、町の開けた場所まで走った。
剣の城が抜けた山の上から、綺麗な光があふれ出している。
しかしそれは徐々に広がっていき、地面から紫の光となって大地を走った。

開けた場所まで来ると、モンスターバールを放り投げる。

ポン!と軽快な音がして、七色の光をまとって現れるのは、ホウオウの“ホウサクさん”。
オレの最古メンバーのひとり。

ただしここは町の中なので、その神々しい伝説ポケモンの姿に、周囲から驚きの声が上がる。
それをまるっと無視する。
なにせ緊急事態だ。しったこっちゃない。
このままにしておけば、ヴィクティニの命が危ない。それと同時に龍脈は暴走し世界は壊れてしまう。

鳳「(主…)」
夢『ホウサクさん頼む!!』

すでにオレが望むことはわかっているようで、背中にのりやすいようしゃがんでくれたホウサクさんの背に飛び乗り、そのまま周囲そっちのけで飛び上がる。
目指すは上空の[剣の城]。
きっとあそこにはトラブルメーカであるサトシたちもいるのだろうから。








 -- side 夢主1 --








バサリと起きな翼の音がして、風が舞う。
虹色の翅がヒラリと数枚抜け落ち、ホウサクさんは力強く飛び立った。

[剣の城]を目指すように上昇すれば、眼下で紫の光――龍脈が 、地を這う竜の様にまがまがしく眼下の大地を飲み込んでいくさまが目に映る。

一目で街の下に広がる山岳地域の異常が目に入る。
正常であればあかるい黄緑色をした龍脈が、異常をきたして紫の粒子となって、地面から湧き上がっている。
暴れる龍脈の力が強すぎるのだろう。大地は龍脈が走った場所から、一瞬で枯れはてていく。
否、龍脈の力が強いんじゃない。
龍脈が、周囲の台地からエネルギーを吸い取って膨れ上がっているのだ。

地上に吹き出る龍脈は恩恵などではなく、触れただけで命を奪うものへと変質していた。


夢『なんてやっかいな』

たとえウチのホウサクさんが神級レベルの存在であっても、さすがにあのとほうもない力の暴走を止めることなど不可能だ。

夢『だよなホウサクさん』
鳳《まぁ、常識的に考えてアレをとめるのは不可能かと》
夢『ちょいまち!あっちの下方に誰かいる!傍まで行けるか?』
鳳「クルル・・・(おまかせを主)」


飛びながら、森にすむポケモンたちを龍脈が来ない方へ誘導しつついざいつつ進んでいけば、バタバタバタと人工的なプロペラの軌道音がしてきた。
あれは、ギギアルやギギギアルたちの動きを動力としたヘリコプターだ。
アイントオークの町長のモーモントだろう。
あのひとはたしか、[剣の城]の修理をしていた黒と白の不思議頭をしたトイレ君だかトレンディーだっけ?あのひとの知り合いだったはず。

声をかけたら、空から声をかけられるとは思っていなかったようで、かなり驚かれた。
まぁ、オレのポケモンに対してびびっていた割合の方がデカそうな気もするけど。

案の定、彼もまた[剣の城]と向かうところだったらしい。

どうしてホウオウと一緒にいるのかと聞きたそうな視線を受けたが、そもそも伝説だろうがなんだろうがポケモンであるんだからどこにいようとかまわないだろうが。たまたまオレの相棒が伝説と呼ばれているに過ぎない。

夢『この場に。いや、城が空を飛んでるぐらいだ。これから先どんなポケモンがいようと気にするな。それよりも――』
モ「そ、そうだったな」

いまはなによりも早く、城をとめることが先決だ。
優先順位はこの龍脈の暴走を止めること。
雲の上からでは、この地面の様子がきっとわからないのだ。 だから動きを止めないのだろうと推測する。

夢『いまは行きましょう』
モ「そうだな。きっとドレットたちはまだ上にいるはずだ」

ああ、元凶の名前は、トイレ君だかトレンディーでもフレンドリーなどでもなく、ドレットか。
まぁ、いいや。頭真っ二つわけめと名付けよう。

そうしてオレとモーモントは、二人で空の上を目指す。







* * * * *







町が騒がしくなるとか、自分の正体がばれるとか、今更だった。
ホウオウとともに町の中から飛び立ち、空を浮遊する城を追いかける。

本当にサトシ(主人公)がいると、あきないよなぁ。
だってオレたち、この街に来てからまだ一日目だぞ。
たかが一日でこうも騒動がおきるなんて。

主人公という名の、星のもとに生まれた者の宿命だろう。


ふいにポンとボールからシェイミのカナンが飛び出す。
そのままでは落ちてしまうと思って手を伸ばそうとしたものの、シェイミはオレの鞄の中に顔を突っ込むと、ひとつのフラスコビンをとりだした。

シェ「み!」
夢『ああ、なるほど。いってくれるかカナン?』
シェ「しぇーいみっ!」
夢『なら、サトシたちをたのむカナン』
シェ「みぃ!」

渡されたフラスコガラスのコルク栓をひらけば、グラデシアの花が花粉や香りとともに溢れ出す。
その花の力を借りて、シェイミがスカイフォルムにフォームチェンジし、自力で飛行が可能となったことで先に城へと向かってくれた。

モ「ちょっと待ってくれ!今度はシェイミ!?君はいったいどれだけポケモンを」
夢『ほらほら行きますよ町長さん』

町長さんとの会話?そんなもんぶったぎります。
だってオレの手持ち、まだ伝説いるし。
しかも間違いなくこれからその伝説のうちの二匹と出会うことになるし。
いま、驚いてもらっちゃ困るしね。



そうこうしているうちに、城の上部から、レシラムとゴルークがとびでてきた。
大きさからして、レシラムに対抗できる存在はあいつしかいないとふんだのだろう。

っていうか、タマだあれ。
ゼリィのプリンをくって家出したはずのタマだ。
証拠にあのレシラムの白い身体の首元の部分に、オレのポケモンって証拠の黒いバンダナつけてるし。

鳳「きゅい。クルル…(あ、あるじ…あれは)」
夢「言うなホウサクさん。わかってる」

内心物凄く叫びたかった。
ボールも手持ち契約もたしかに解除したが、未練がましくバンダナはずしてないし、言葉の通りお仕置きが終わったら帰ってくるつもりだったのか。

ならば

夢「あのやろう、誰の味方をしてるんだ!!!!」

本当にもう。なにしてくれちゃってんの!?
封印の城は空に浮くは、龍脈は乱れるわ、ヴィクティニくるしんでるわ。


しかもさっきゴルークと空中戦をしていたレシラムと一瞬視線があった。
無視されたけど。
つまり別の誰かの指示を聞いて戦闘を行っているということ。

胃がキリリと痛んだ。








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