劇場版 『ビクティニと黒き英雄』7話 |
※ウルガモスの設定は、BW2ゲームの砂の中の神殿。3番道路でしか見ない(=育て野にトレーナーが連れてくる以外では目撃しない)というのを参考にしています。アニメでのウルガモスの立ち位置はわかっていません。捏造です。
真実を追い求めるがゆえに、僕は選ばれた。 白き真実の竜 レシラムに。 「大地の民は今日、大地との絆を取り戻す」 これは僕だけではなく、大地の民全員の願い。 そのためにヴィクテニに力を借りているというのに・・・ どうしてわかってくれないんだ? -- side ドレッド -- ジャ「ドレッド・・・!?」 ド「母さん、みていてください。ヴィクティニの力でエスパータイプのポケモンたちの力をパワーアップしているんです」 僕の邪魔をするのは、見覚えのある人物たち。 ジャンタ、僕の母さん。 カリータ。僕の妹。 昨日城の中で迷っていたサトシくんに、アイリス、デントくん。 城がうくまでは、みんな楽しみに待っていてくれたじゃないか。 さっきまでは賛成していたのに、ヴィクティニの力を使うとわかったとたん手のひらを返すように反対される。 そういえば、あの赤い髪の青年がいないが。 まぁ、いい。 守りの柱がもちあがり、城を囲む。 ヴィクティニはもうとらえてある。 その力で動力源のかわりのエスパーポケモンたちに力を与え、シンボラーのネンリキと僕が城を操縦する。 城は浮いた。 いま、城にいるのは、彼ら五人だけ。 ヴィ「ーーーーー!!!?」 ヴィクティニが力を使う。 それであげたた声に、外にいたサトシくんたちがやってきた。 ド「ヴィクティニの力を貸してもらってるところだ」 サ「苦しんでるじゃないか!こっからだしてやってください」 ド「だめだ。まだヴィクティニの力が必要なんだ」 こうなるとわかっていただろうに、今更。 装置の力が強まったのか、ヴィクティニがまたもがけば、サトシくんは自ら装置を壊そうといどみかかる。 この場にいる全員ごと、エスパーポケモンに指示をだしとめさせる。 そこうしている間に、母さんとカリータまできた。 カ「これ以上やったらヴィクティニが死んじゃう!」 ジャ「もうやめてドレッド」 ド「母さん」 僕がビクティニの力を使って、この城を動かしているというのに、彼らはヴィクティニを開放しろと言う。 やっと大地の民があるべき場所へ帰れるというのに。 この剣の城で龍脈を操って、戻すんだ。 そのためには、些細な犠牲も仕方ない。 なのに、サトシくんたちは、僕の考えなど知りもせず、ヴィクティニをかばう。 それに力を貸してくれと言って、手を伸ばしてきたのはビクティニの方だ。 大地の民が、大地の里へもどれるんだよ? なにを戸惑う必要がある? サ「いまだピカチュウ。十万ボルト!」 ピ「ぴぃか」 そうこうしている間に、空中でとめさせたサトシくんがピカチュウに指示をだした。 空中からでも見事な電撃を放ち、僕のポケモンがピカチュウにやられてしまった。 とらえていたアイリスさん、デントくん、サトシくん、ピカチュウが、カナシバリから解放されてしまう。 その後、床にあしをつけたサトシくんが、またピカチュウに指示を出す。 サ「ピカチュウ!あの装置を壊すんだ!エレキボール!」 そうはさせない。 外に待機させていた“あいつ”を呼ぶ。 ピ「ピッカぁ!!」 ピカチュウのエレキボールがそうちを攻撃しようとしたまさにその瞬間、外から炎の攻撃が、そのエレキボールを相殺する。 ようやくきたか。 ドラゴンのいななく声が響く。 白い姿が、城の外を飛び、優雅に装置のある室内へと舞い降りる。 カ「レシラム」 サ「あれが・・・(あ、なんか、嫌な予感。ものすごいゼリィに似てるし、もしかしてあいつがタマなんじゃ・・・)」 ドラゴンの正体は、レシラムだ。 さすがは僕の妹だ。 大地の民だけあって、レシラムをひとめでわかるとは。 レシラムは強い。 その咆哮だけで、身軽な子供たちは吹き飛ばされる。 だけど母さんがゴルークを呼び出し、レシラムをとめるようにポケモンバトルをしかけてきた。 たしかにゴルークはあの巨体だが、空を飛ぶこともできるから適役だろう。 だが、しかし。 どれほどの力があろうとも。それもすぐに終る。 《伝説》にはかなわい。 レシラムの炎の威力は甚大だ。 その直撃を食らったゴルークは、あっけなく空から落ちていく。 せっかくの援護だったのに残念だったな。 激しい戦闘に慣れていないのだろう。 子供たちや母さん、カリータが、呆然と城の外で行われた空中戦を見ていた。 僕を止めて、ヴィクティニを救うんじゃなかっったのか? 隙だらけだ。 ド「ラングルス!《サイコキネシス》!!」 再びエスパーポケモンに、サトシくんたちをとらえるように指示をだす。 だけどまた途中でサトシくんが、ピカチュウに声をかけていたため、申し訳ないが彼だけ縛る強さをつよめさせてもらった。 へたをすると意識がおちるかもしれないが、邪魔はさせない。 アイリスさんやデントくんが、苦しそうに顔をゆがめるサトシくんを心配するように声をあげ―― シェ「しぇ〜・い・みぃっ☆」 まさにそのタイミングで、それは現れた。 かわいらしい声と共に外から飛び込んできたのは、白くて小さなポケモンだ。 みたことのないそれは、ラングルスによるネンリキで邪魔をするサトシくんたちをとらえたそのタイミングであらわれた。 ド「あのポケモンは?」 フワフワととんでいたスマートな白い小さなポケモンは、ぱぁっとかがやくと、フォルムチェンジし、緑の塊のようになるとポテっと床に転がるように着地する。 その緑の物体はいっけん花束にしかみえなかったが、すぐに小さな足と顔を出した。 「シェイミ!なんでここに?!」 誰かはわからないが、驚きの声があがる。 そうだ。シェイミだ。 あまりに縁が薄い他の地方のポケモンだったから、すぐには名前も出てこなかったけど。 この場にいるということは、肥沃なこの大地にもとからいたか。風に乗ってたまたま来たのか。 それとも誰かのポケモンか。 カ「シェイミですって!?こんなところにいるはずないのに」 サ「くっ!」 ピ「ぴかぴ!?」 デ「サトシ、大丈夫かい?!」 ア「ちょっとまって!もしかしなくてもアレ、アザナさんのカナンじゃ!?」 アイリスさんの慌てたような声で、もう一人の存在を思い出す。 たしかサトシくんたちと共に旅をしているという赤い髪の青年。彼の名前がアザナといわなかっただろうか・・・。 シェ「しぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いみっ!!!!」 そうこうしているうちに、小さな体をフルフルふるわしていたシェイミが・・・。 シェイミが。 しぇいみが ドッゴーーン!!! 《はかいこうせん》をだしたんだが。 しかもその威力の凄まじさと言ったら。 守りの柱が一本ひびが入っていた。 「「「ああ、うん。アザナさんのポケモンだ」」」 とんでもない威力のエネルギーだ。 シェイミの技の余波をうけて、僕のポケモンたちまで目を回してしまっている。 これに驚かずにはいられないというのに、なぜかサトシくんたちは、死んだ魚のような目をして遠くを眺めていた。 いつのまにかラングルスの技もとけていたが、その場を動くものはいなかった。 シェイミはというと。 あれほどの大技をつかったにもかかわらず疲れた様子も見せることなく、 むしろやりすぎちゃったとばかりに「テヘ☆」っとばかりにウィンクをしている。 しかもそのまま《てんしのキッス》で、僕のシンボラーをこんらん状態にさせていた。 ド「あ、システム・・・」 『わるいこはーーどぅぉーーくぉおーーーーだぁーーーーーーー!!!!』 シンボラーがたおされてしまっては、城を動かしていたたくさんのエスパーポケモンたちの操作ができなくなる。 つまりシステムはダウンするわけで。 どうしよう。っと思ったそのタイミングで、バッ!と勢いよく、僕らの背後に大きな鳥の影が浮かびあがり、ダン!と勢いよくそこから赤い人影が下りてくる。 そのまま人影は、オレのすぐ背後に降り立つ。 ついでにバサリという羽音とのあと、なにやら背後からとても眩しい光がさしている気がする。 あと振り返るのに抵抗を感じるほどの殺気が、背後からしているのですが。 「「「待ってましたアザナさん!!」」」 《サイコキネシス》で拘束されていたこどもたちから、赤い人影をほめたたえる歓声が上がる。 援軍か? 子供たちがニコニコとしているのにたいし、なぜか母さんやカリータがかなしばりにあったかのように口を開けて呆然と固まっている。 僕の背後には何がいるんだ。 夢『おー・・・やるなカナン!オレの歴代のポケモンたちでもだめなものをあっさり破壊するとは。 っで?苦しんでる奴がいるのもかかわらず見殺しにしようとしてくれちゃってる悪い子はどいつかな?』 言われて呼ばれてもいないのに、もう振り向かずにはいられない空気を感じて、背後へ視線をむける。 ド「・・・・・・」 ああ、もうダメだ。 終ったな。 そこにあるものをみて、思わず言葉を失った。 今なら、母さんたちの気持ちがよくわかる。 僕の背後には、赤い短髪に赤と黒のジャケットと帽子をかぶった少年。 そして赤いヘリコプターにのったモーモントさん。 っと。 虹色の翼をもつ金色の鳥ポケモンがいた。 たとえそれがどの地方の、なんというポケモンかわからなくても、これだけはわかる。 みてくれからして、神と呼ばれるレベルの《伝説》ポケモンだ。 その神を従え、赤い青年は顔を悪魔の様に歪めて、腕を組んで、僕の前で仁王立ちしていた。 ああ、般若がいる。 彼はなまはげではなかったようだ。 般若だ。 こんなはずじゃなかったんだ。 ただみんなの夢をかなえたくて。 僕は・・・ 僕はなにを間違ったのだろう。 * * * * * その後。 まずシステムがダウンしたことで、城が落下しかけた。 それに慌て、シンボラーを正気づかせて、操作パネルを復旧する。 しかしそれで龍脈の動きがとまることはなく、逆に龍脈の力の巨大さに、城のなかに龍脈のエネルギーが逆流してきた。 おさえようにも一度あふれ出した龍脈は、シンボラーでさえとめられなかった。 ポケモンの念能力の縛りから解放されたこどもたちが、サトシくんたちの側に集まっている。 腕にポリゴンをかかえたアザナさんが、サトシのもとに集まる子供たちをみつめ、何かを考えるように城を探るように見渡す。 龍脈による城の震動が大きくなれば、周囲からは不安そうな声が上がりだす。 夢『オレは小石にすぎないが。 そのひとつの小さな石ひとつでさえ、ときにそれは史実が歪むほどの波紋を産み出す』 ふいに静かな声が響いた。 城が龍脈のエネルギーのせいで揺らぎ、母さんや子供たちもポケモンたちも顔色を変えていたなかでは、あせりのかけらさえないその声はやけに大きく響いた。 ア「アザナさん?」 サ「またわけのわからないことを。っで?アザナさんは結局何が言いたいんだよ」 夢『なにって。 いやさ、壮絶な白黒バトルの末に、龍脈の暴走に気付いた若者がようやく城をとめようとしたら、 龍脈が逆流してきて、ビヨ〜ンと物凄い勢いで城がお宙(ソラ)のかなたに飛んで行った。なぁ〜んて原作が、じゃなくて、結果もあり得たんだよなぁとしみじみ思っただけで。 いやはや、オレというイレギュラーに感謝しろよ。 おかげで城の上昇具合が、随分緩やかだろ』 カ「そういえば・・・」 モ「これだけ龍脈のエネルギーが流れ込んでるのに」 ア「言われてみれば揺れがさっきより少しおさまってるわね」 デ「今度はどんなテイストで、なにしたんですアザナさん?」 そんなアザナさんに慣れているのか、こどもたちが次々にあきれたような表情を見せた。 そこには先程まであった様な不安はない。 なぜか。 彼の姿におびえたものの、今ではもう・・・大丈夫だ、と。逆に安心感さえある。 そう思える自分がいるのに気付いた。 それから装置がホウオウとシェイミとピカチュウによるトリプルコンボ攻撃により破壊され、ヴィクティニは装置から抜け出した。 赤毛の青年のポケモンたちの回復技、回復アイテムにより、身体の回復をはかり、ヴィクティニはいくぶんか気力を取り戻していた。 しかし装置はともかく、守りの柱は顕在だ。 それがあるかぎりヴィクティニはこの場所を離れることができない。 城をかこうようにそれは宙を回っている。むしろ制御を失い暴走までしている。 おかげでまず龍脈の制御ができず、龍脈のエネルギーが逆流。その力が強く城を押し上げてくるため、ゆっくりとではあるが城が空に舞い上がり始めた。 止める手立てはなく、モーモントさんのヘリコプターやポケモンにのってここから逃げ出そうということになったが、ヴィクティニがでれない。 ヴィクティニが逃げられないのならと、サトシくんが城にとどまろうとし、そこでアザナさんがため息を吐き出す。 夢『はぁー。タマが側にいることで何かやらかしてくれるとは思っていたが、案の定だな』 ふいにアザナと呼ばれていた赤毛の彼が、額を追うようにしてため息をついた。 大きなため息だった。 ア「こんなときまで。そんなにタマのこと悪く言わなくてもいいんじゃない?なんでそこまで言うのよ」 夢『悪い良しの問題じゃないんだよアイリス。タマがドラゴンタイプだからってかばうなよ。 あいつは“知らない”んだよ。龍脈とこの城、そしてヴィクティニの関係を。 自分の目でみたものを信じる。そがれあいつの真実。 だからバカ正直で、知らないことも気にせず言われれば従う。その結果がこれだ』 ア「そ、そうだったわね」 デ「それで?どうやってヴィクティニを逃がすんだい?」 夢『オレにばっかりふるなよ』 デ「すいません。つい」 ア「たしかにアザナならなんとかしそうだものね」 夢『まぁ、打開策ぐらいあるにはあるが』 「「「「「あるのかよ!?」」」」」 サ「でもホウサクさんでもダメ。オレのポケモンたちで一斉攻撃しかけてもびくともしなかったぜ」 ヴィ「びびぃ〜・・・」 夢『たしかに。いままでオレも何度も試したけど、城の結界や守りの柱には、ポケモンたちの攻撃は効かなかった。 ヴィクティニをこの結界から外に出してやれなかったばかりか、結界さえこわせない。 けれど壊せるものはある。結界そのものではなく、その大元である城本体になら、影響を与えることはできる。 だけどさっきシェイミが中から守りの柱へ攻撃をして、ヒビを入れていた。 これでひとつ確信を得たことがある。城とシステムを破壊しても結界が残っているという不安があってためさなかったが、今回のことで新たに策が浮かんだ。 ようするに、この守りの柱は、ヴィクティニからの影響はすべて結界が中和してしまって、どれだけ強かろうとヴィクティニの攻撃は無効化されてしまう。 だけど他のポケモンたちの攻撃は、そうでもない。 だから内側と外から、同時に強力な攻撃を仕掛ける。 今まで守りの柱の結界が邪魔をして、街の中にオレのポケモンが空間をつなげることができず、つれてくることができなかった。 いま守りの柱はこの城の外にのみ展開している。すなわち町の近くの泉に空間をつなげ、カントーからこの地へポケモンを呼び寄せることができるようになったわけだ。 そうしたら力のあるポケモンをこの地へ呼び寄せられる。 現にいまもそこそこ力あるポケモンを呼び寄せて、城の外に負荷をかけてくれている。 しかもタイミングよくシステムは起動している。結界の内側には伝説ポケモンレベルの力を持つやつらが複数。これをのがしていつ守りの柱が壊せる? ま、そんなわけで今、この城の外では、オレのポケモンが盛大に頑張ってくれてるわけだ』 ド「試した!?それに城を攻撃って・・・きみは、いったい」 夢『ふ。さてな。オレが誰で。なんて話はいまする必要はないことだ』 興味があるなら、自分自身でその真実をさがしてみろ。 彼は赤いキャップを目深まで深くかぶり直すと、微かに口端を持ち上げる。 その一瞬だけ、なぜか彼の緑の瞳が、違う色に輝いたような気がした。 夢『オレが信頼できなくとも、オレの野放しにしていた放し飼いのポケモンたちはみんな優秀だから信じてくれていい』 ア「野放しって言った!?」 サ「あ、アザナさんのポケモン大型のタイプが多くて、センターとかに預けられないんだよ。それに“その土地”を動けないやつらばかりでさ」 デ「いまので聞いた僕たちが間違っていたのはよぉーくわかったよ」 ド「君たちは本当に“誰”と旅をしてるんだい?土地に縛られたポケモンを手持ちにしてるなんて、そんなこと」 サ「それがアザナさんです」 ア「そうとしか言えないわね」 彼は・・・ アザナと呼ばれている赤毛の青年は、何かを隠してる。 その正体は、きっと彼らの手持ちの強さに通じる気がする。 けれど彼が言うとおり、今は知る必要がないのだろう。 そのときではない。 僕らがいますべきことはただひとつ。 なんとかアザナさんのおかげで持ちこたえているこの白の制御を取り戻し龍脈を鎮静化させること。 夢『沈静化より先に、ヴィクテニと一緒に逃亡すること優先な』 じゃなければ、サトシがヴィクティニのためにと命を張りそうで気が気じゃないと、アザナさんは笑う。 サ「おれ!?」 夢『なんだひていするのか?その腕にヴィクティニかかえてんのに?いままでどれだけお前のむっ鉄砲差にお前の仲間やポケモンがひやひやしたとおもってんだよ』 サ「うぐ!?い、言いかえせない!」 ア「でもどうやって!?」 ジャ「そうね。これほどの大地のエネルギー。たとえ伝説と言われるホウオウでも・・・」 母さんの不安そうな言葉に、アザナさんは不敵な笑みを浮かべ、城の外をとんでいるレシラムをみやる。 レシラムがどうかしたのだろうか。 それとも、なにかのヒントか? 夢『伝説といわれしポケモンは一匹じゃない』 夢『――“タマ”といったら?わかるだろ?』 デ「タマといえば、白。白と言えば黒・・・」 ア「あ!わかった!わかったけど・・・でも。いま、いないじゃない。どうするのよアザナさん」 夢『なんとかするんだよ。城はオレのポケモンたちが手を貸そう』 タマ? ポケモンだろうか? さっきから彼は何を言っているのだろう。 そんなのんきに冷静な判断を述べている時ではないだろうと、みんなが焦る中、ひとり、彼だけが冷静だった。 彼はなんでもないとばかりに、ホウオウになんらかの指示を出すと城をとびたたせ、そのあと抱きしめていたポリゴンから手を離せば、フワリとポリゴンが浮かび上がる。 かわりとばかりに、ちからがまだ弱くぐったりとしたヴィクティニを抱き上げていたサトシの腕の中から、その小さな身体をもちあげ、そっとだきしめた。 そして―― 夢『よし、いけサトシ!』 サ「は?」 夢『ゼリィ、起こしてこい』 サ「え!?ゼリィここにいるのか!?おれ、一度しか見たことないけど」 夢『お前はすでにこの城のどこかで奴と接触してるはずだ』 ビシッ!と指差してしめされたのは、城の地下へ通じる道。 そしておいしそうなカスタードプリンのシールがはられたモンスターボールを彼はサトシくんになげつける。 真剣な顔をして彼は、言った。 夢『好物はプリンだけど、名前はゼリィだから』 意味が分からない。 それでも彼の身内であるらしいサトシくんは意味を理解したのか、モンスターボールを受け取ると駆け出していく。 あそこは・・・そのまま試練の道へ通じる場所。 まさか。 しばらくして、浮いているにもかかわらず城が激しく揺れた。 それとともに、黒い影が城の外を飛び回る。 ゼクロムだ。 どうやらサトシくんが、ゼクロムに選ばれたらしい。 それにしてもどうしてそれをアザナさんは知っていたのだろうか。 そうして土煙と共に飛び出てきて、しばらく宙をかけたと、サトシを背にのせて装置のあるこの部屋に入って聞いたのは、ゼクロムだ。 なぜか外を飛んでいたはずのレシラムが、メラルバを背中にのっけって・・・そのままはかれた糸で簀巻きにされて、ゼクロムに引きずられてもどってきたのだが。 夢『ようやく起きたかバカ!お前がとめないからタマのやつ、またしでかしやがったぞ!どうしてくれんだよゼリィ!』 そんなゼクロムとレシラムの前に、ドン!とばかりにアザナさんが立ちふさがる。 夢『お帰りふたりとも。目覚めの気分はどうだ?』 ゼ「ま、マスター・・・その・・・」 レ「我はわるくない!」 夢『だまらっしゃい!!お前たちの家出は容認したが、お魔たちのトレーナーが誰かまで忘れてもらっちゃこまる! お前らのしたことはなっ!全部オレの責任になるだろうが!! ポケモン協会から苦情が来てんだぞこっちは!!!イッシュで暴れる程度はいいが、寝るな!玉にもどんな! ケンジが心配してたんだからなゼリィ!』 レ「マスター。わ、われは!?」 夢『お前はしばらく自宅謹慎だ!!!この騒動が終わったら覚えてろよ!ったく、お前が動くと碌なことがない』 レ「そんな!?」 ゼ「ますたー・・・ワレ、おうち、帰るぅ・・・」 夢『野太い声してあまったれんな!!謝るよりまずは脳みそ働かせて現状把握!お前たちそろそろいいかげんにしないとこないだみたいに異空間に叩き落とすからな! それが嫌ならさっさと動け! こういう時こそオレのポケモンの腕の見せ所だろ!!』 そこからは怒涛の勢いだった。 夢『うっちゃん、タマの糸といてやって。 タマとゼリィは、力技で城の浮遊を止めろ。 ポリー、やることはわかってるな?システムに侵入して結界の解除を頼む。今回は依然と違う。 ダウンしたシステムだからはいれなかった。けど今回なら、システムが起動している状態だ。 これなら侵入できるだろう。 ピカ様!ちょっと、そこらのエスパーポケモンたちおとなしくさせて。やつらは全員動力源だ。一匹たりとも逃がすな。 カナン、もうちょいがんばれるか?その子たち、回復してやって』 レシラム、ゼクロム。 メラルバ。 シェイミ。 ポリゴン。 ピカチュウ。 ホウオウ。 そういえばあのポケモン、メラルバは、その進化形ウルガモスが一部の地域で太陽の化身として信仰されていたが、 いまではとんと姿を見ることがない。 そこそこ珍しいポケモンに違いない。 ここがイッシュだからこそ、ピカチュウもまた珍しいポケモンの部類に入る。 だからこそよけいに、彼の手持ちメンバーが全員、珍しすぎる伝説系統であることに、驚くわけで。 唖然としてしまう。 開いた口がふさがらないとはまさにこのことあだろう。 しかもあのピカチュウ。尋常じゃない電気エネルギーをもっている。たぶんその実力はきっと伝説級。 なにせたった一匹だけで、この城を動かしていた大量のエスパーポケモン ユニランを気絶させ、 あげくエスパーポケモンたちの動力の代わりに電気を放出し続けているのだ。それはそれは―――余裕な顔をして。 ド「そういえば・・・ホウオウはどこに?」 カ「あ。あれ?ほんとうだ。いないわ」 デ「さっきまでいたのに」 サ「アザナさん、ホウサクさんは?」 夢『成層圏』 「「「「は?」」」」 夢『オレのレックウザ呼んでもらってる。このままだとこの城、大気圏突破するから。その前に守りの柱を破壊しようかなって』 「「「「「レックウザだと!?」」」」」 さすがに僕でもわかる。 そんな宇宙にいるらしいと噂だけの、伝説のポケモン。 なんと!?実在していたのか! むしろ・・・ え?アザナさんのポケモン? さすがにそれはサトシくんでさえ知らなかったようで、旅仲間のはずの彼らでさえも驚きに目が飛び出さんばかり。 ア「もういやぁ〜!ドラゴンマスターにはなりたいけど、貴方に勝てる気がしないわ!っていうかホウオウにシェイミだけでもおなかいっぱいよ!!」 サ「アザナさん、そんなポケモンまで手持ちにいたのか?どんだけ野放しにしてんだよ」 デ「そこなのかい君が突っ込むのは!?野放しより伝説ポケモンが手持ちにいたことに驚こうよ!」 サ「え。でもアザナさんの手持ち、伝説多いから、今更だろ。 ホウオウの他に、ダークライとかギラティナとか、スィクインとか、サンダース、フリーザー、ファイヤー、ルギアとか、 ミュウツとかルカリオとかいるしなー。ちなみにアザナさんはミュウにストーキングされてるし。 オーキド博士はセレビィの友だちだし。 オレの義妹の手持ちには色違いのエンテイが・・・」 ア「もういい。もういいわサトシ。十分よ。もう聞きたくないわ」 デ「マサラタウンは何かがおかしくないかい?」 サ「そうか?」 ド「えーっと、つまり・・・僕のレシラムは」 サ「あ、レシラムのタマです。あとゼクロムのゼリィ。二匹ともアザナさんのポケモンですよ。しばらく前に家出して出てっちゃったんですよ。 アザナさん二匹を探しにイッシュにきてて。あ、「みつけてくれてありがとう」って、アザナさんがドレッドさんにって」 ド「・・・・・・」 僕が見つけた。 僕を選んでくれた。 そう、思っていた伝説のポケモンレシラムは・・・。 実はすでに誰かの手持ちであったのが逃げ出しただけらしい。 ちなみにミュウやミュウツーまでどこからともなくあらわれて、城が大気圏を突破する前に、守りの柱は破壊された。 僕らは驚きすぎてうっかり逃げるのを忘れてしまっていたが、本当にレックウザが空からホウオウと共におりてきた。 本当に手持ちだったんだなぁと遠い目を向けてしまい、笑い声はかわいたものしか出てこなかった。 夢『なにボケボケしてる?オマエは自分のの尻ぬぐいぐらいテメェでしろ』 僕は結局アザナさんのポケモンたちの協力のもと、 なんとか陸の終わり海との境目で、龍脈の暴走をこの城をつかって止めることに成功した。 * * * * * その後。 「オレのポケモンたちが協力する」との言どおり、アザナさんは湖からギラティナを呼んだ。 何の変哲もなかった湖が、彼の呼び声一つで火神のようになった。 そしてそこになにかが映ったと思いきや、そこからドダイトスやらヤドキングやらスィクンやらレジアイスやら・・・。 いわく。 夢『反転世界から、別の鏡に次元をつなげてもらったんだ。守りの柱があるときはリンクがつながらなくてなー。いやぁ〜仕事が楽になるわ』 別の空間につなげるとは―― それは反転世界を司るギラティナのおかげだという。 本当にどんだけ彼は伝説を従えているのだろう。 そうしてたくさんの珍しすぎるポケモンたちは、アザナさん監修のもと龍脈の暴走で荒れた大地の修復をしていった。 一番すごかったのは、二度と緑が戻らないだろう荒野になっていた箇所の復活をさせるさいのこと。 《くさむすび》をしたシェイミの技にかさねるように、電気をあやつって地面になんらかの作用を与え、それでもって草を急成長させたピカチュウが異常だった。 なにか伝説の使い方が間違ってる気がするが、黙っておいた。 再び大地に戻った剣の城。 その城の・・・窓からのぞいた空には、たくさんの伝説が乱舞している。 夢『お前らはそこで正座!!』 ポケモンたちが、大地を修復している最中のこと。 アザナの言葉にレシラムが若干不満そうに、ゼクロムが順々に・・・けれどしっかり言うことを聞いてドスンと腰を降ろす。 人体の構造からして星座は無理で足を投げ出すような形だが、まぁそこはご愛嬌だろう。 むしろ ド「レシラムたちが言うことをきいた!?」 ア「ま、当然よね。レシラムもゼクロムももとはといえばアザナさんのポケモンだし」 カ「なんですって!?」 モ「それ、本当かい?」 デ「信じがたいテーストだけどね。 気弱な黒いほうがゼリィ。ツンてすましてる白い方がタマですよ」 サ「アザナさんは家出した二匹を探してイッシュを回っていたんだ。 ちなみにさっきオレたちを助けてくれたレックウザもアザナさんのポケモン。 大地の修正を手伝うために鏡に次元の穴をあけたのは、アザナさんのギラティナのマサカ。 そこからでてきたスィクイン、ドダイトス、ミュウツーもアザナさんのポケモン。 一緒に出てきてボールを届けてくれた色違いのエンテイは、オレの妹のミィのポケモン」 「「「・・・・・・」」」 デ「うん。驚くの無理ないけど。ちなみにアザナさんはゲットしてもそのまま野放しにしてる手持ちのポケモンが多いから・・・」 ア「たいがい伝説と名のつくポケモンはあらかたアザナさんのポケモンよ」 サ「え。でもキュレムとか聖騎士とかせれびーとかミュウとか、カロス地方のポケモンはあんまりもってないぜ」 ア「もうホウオウとレックウザとレシラムたちだけでも十分よ!」 デ「まぁ、アザナさんも忙しそうだから言ってない土地があってもおかしくはないよ」 サ「行ってないわけじゃなくて、ゲット拒否っただけみたいだけど」 ア「マサラタウンのトレーナーはみんなおかしいのよ」 サ「う〜ん。故郷を悪く言われるのは好きじゃないけど・・・それ以前に否定できない」 僕も否定できない。 伝説ってなんだろう。 手持ちってなんだろう。 色んな意味でマサラタウン、おそるべし。 なんだか、いろいろとありすぎた。 :: オマケ :: 夢『おーギラティナごくろうさん。みんなももどっていいぞー』 一仕事終えたとばかり、わらわらとアザナさんのもとへよってから、アザナさんにじゃれついてから、湖へと飛び込んでいく伝説のポケモンたち。 レシラムもまたその一匹で、ライコウが雷をはなって暴れるレシラムをマヒ状態にさせると、その首根っこをくわえて湖に入っていく。 最後に反転世界の王と呼ばれるギラティナが、外見に似合わないかわいらしい声で「きゅぅん」と一鳴きして、アザナさんに頭を撫でられると、鏡のようになった湖の中に入っていく。 ア「驚くより呆れの方が強いわね」 サ「スィクンとエンテイはしってたけどライコウまでいたんだ」 ア「これってアザナさんがいなかったら、冗談抜きにしてサトシ成層圏突破してたんじゃ・・・」 デ「かもね。どう考えたって、僕たちのポケモンだけじゃ無理だろうしね。 うん。フレバーとおりこして激辛ペーストでもハナにしてしまったかのような気分だったよ」 ドラゴン好きを豪語するアイリスだったが、実際に伝説のドラゴンがホイホイ出てくる状況に、 ドラゴンポケモンだ!と喜ぶより先に、どんだけ伝説つかまえてんのよとあきれ果てている。 ア「今となっちゃぁ、なんかなれてきちゃったわよ」 伝説パレードの終わり、少しほっとしたところで―― パァーっと室内が明るく照らされた。 そちらに視線をやれば、アザナさんが抱きしめていたメラルバの身体が温かい光で点滅している。 あれは・・・ 進化の光!? 夢『あ、メラルバがウルガモスに進化した』 「「「伝説がまた増えただとぉ!?」」」 |