劇場版 『ビクティニと黒き英雄』 3話 |
-- side サトシ -- シキジカと一緒にホウオウの“ホウサクさん”にたすけられて、洞窟のような入口に入った。 なかで迷いかけたけど、そのたびになにかのポケモンの声みたいなのが聞こえて、それと同時に映像が流れて道を教えてくれた。 そうやって何かに導かれるように、不思議な結晶の地下道まできた。 サ「だれかいませんかー」 いるわけないだろうけど。 もしかするといるかもしれないし、いたらいたらで、せめて道がきけたらと、目の前にひろがった空間にむけ声を張り上げれば、おれの声はこだまのように反響する。 案の定返答はない。 それを幾度か繰り返したら、結晶や壁とかが、青白く神秘的な光を放った。 それは一瞬のこと。 おれの呼びかけにこたえてひとが仕掛けを発動した――とかでは絶対ないと思う。 なんというか結晶の中が光っている感じで、壁まで同じように発光したんだ。 すごくきれいで、なんだかよびかけられてるような…。 サ「なんだろうないまの」 ピ「ぴぃーか?ぴ!ぴかぴ」 サ「そうだなはやくいかないとな」 こうしちゃいられない!おれはピカチュウとシキジカたちをつれ、再び脳裏によぎった映像を頼りに洞窟をぬけ、ようやく人工的な街道を見つけると、城の中にでることができた。 あそこには、なにかが『いた』のかもしれない。 よくはわからないけど。 なにかが『あった』とは思わない。『いた』んだと思う。 さんに鍛えてもらった波動のおかげで、最近はこういう勘はけっこう当たる。 無意識に周囲の波動を感じて読み取っているせいだとさんには言われたけど。 そのおれの勘にもとくに危険は感じていないので、あの不思議な現象も、道案内してもらえたことも――警戒するようなものでないのだろう。 おれのいたのはどうも秘密の通路みたいな場所だったみたいで、出口の扉はなんと壁が回転扉になっていた。 出た部屋は物置のような場所。 そこからさらに外に出てみれば、バルコニーのような場所で、随分高い場所に出たのはちょっと驚いた。 さらに外をよく見ようと体を乗り出したら、下の方、階段を駆け上がるアイリス、デント、さんの姿がみえた。 サ「アイリス!デントー!早く上がってこいよ!すっごくいいながめだぜ」 ピ「ぴかちゅう!」 サ「さんもはやくはやく!」 夢「え。なに!?このメンバーで一番年配のオレにあの階段を駆け上がれと!?」 デ「人が心配してたのに」 ア「こどもねぇ」 キ「きーばー」 ********** 夢「…はぁー。よ、よお、サトシ。くん。無事そうで、なにより」 サ「さんは…その、死にそうですね」 夢「オレにお前らのような青春まっしぐらな子供たちと同じ体力を期待しないでくれ」 サ「いや‥でもメラルバ抱っこしてたし。それぐらいの体力はあるかなって」 デ「あれ?サトシはしらなかったのかい?かれのメラルバ、いつも浮いてるよ」 サ「は?浮く?メラルバって浮けるのか?」 ア「アザナがだっこしてるんじゃなくて、浮いてるメラルバが風に飛ばないようにおさえてるだけみたいよ。あたしも最初は驚いたもん」 夢「うん。じつはオレ、あんまり体力ないなぁ〜。ポケモンがみんな自律的に動いてくれるからついまかしちゃってたし」 サ「相変わらずポケモンに世話されてますね」 夢「…オーキド研究所の連中よりましだと言いたい。このあいだユッキーなんてキングラーにお茶くみさせてるし、うちの“ツー”に書類の場所聞いてたし!!薪わりにストライクつかってるし、電話かけて最初に出たのフシギダネとか絶対おかしい。あれよりはましだ!」 シェ「しぇぃみ」 サ「あ!“カナン”が外に出てる!」 それから城の中でさんたちと合流したおれは、助けた二匹のシキジカを見送った。 見送ったのはおれとアイリスとデントだけ。 さんは階段を登り終えたときには、息を乱して疲労感たっぷりの様子でぐったりしていた。 そんなさんをみて、デントが苦笑を浮かべている。 アイリスはあきれたように肩をすくめている。 たしかに距離は結構あった気がするけど…。 そんなに疲れるほどだろうか。 なんか疲れすぎているさんからの、じっとりとしたうらめしそうな視線が痛い。 それにたえきれず「う」とくちごもって、次に来るだろう小言に備えて肩身を小さくさせていたら、さんのフードの中からヒョッコリとシェイミが顔を出した。 あのひきこもりがちなシェイミがでてるなんて。おれ、シェイミの顔久しぶりに見たよ。 シェ「み!」 ピ「ぴっかぁ!」 そうこうしているあいだにさんからの愚痴が始まり、ネチネチと嫌味を言われる。 あ〜…うん。アイリスがすごいあきれ顔してるし。デントはもう定番となったこれに見ないようにか、こちらに背をむけて空を見上げていい天気だとか言っている。 さんのピカチュウ“ピカ”も説教が長いけど、あれは言葉でグサグサとツボをついてくるのではなくて体に直接たたきこむから。最近すっかりあの“ピカ”のまととなっているアイリスなんかは、たまにさんのモンスターボールをチラチラとみているほど。 二人とも細かいんだよ。言葉づかいとか、目上の人への態度とか。 あ、“ピカ”はマスターたるさんに、似ただけなのかもしれないけど。 うー・・・・・・地味に長いよさん。 そんなおれたちの横でシェイミがさんのもとからおりてきて、おれの“ピカチュウ”と仲良くハイタッチをして挨拶をしていた。 和むなぁ〜。 夢「…あ、そうだ。なぁ、サトシ。 ここにくるまででお前どっか変な場所でなんかしなかったか?」 サ「変な場所?うーん。なんか水晶みたいな綺麗なのが生えてる場所なら通ったけど。 おれなにもしてないぜ」 ピ「ぴかぴー。ぴかちゅ(うんうん。サトシはなにもしてないよ)」 サ「だよなぁ。ピカチュウもそうおもうだろ」 ぐったりしつつも小言は長くて、元気なんじゃないの?と横でアイリスにつっこまれていたさんに聞かれたことには、覚えがある。 さっきのキラキラした空間だ。 でもそこでおれが何かしたかかといえば…「だれかいませんか」と叫んだことぐらいだろう。 あとはない。 うん。おれ、まださんに迷惑をかけるようなことはしてない…してないよな? そんな。世界遺産から持ち出し禁止の意思や植物を持ち帰ったり、遺跡を傷つけたりするようなこともしてないし。 ただ歩いてただけだし。 ママに告げ口されたりするようなこと、まだしてないよなおれたち。 サ「ピカチュウ。おれ、なにもしてないよな?」 ピ「ぴっかちゅう」 夢「地下に水晶……ふむ、なるほど。地脈のエネルギーによって高圧縮されてできたものか歳月が作り出したものか。ある程度深い地下だとカルシウムや塩が何万年もかけて巨大な結晶が出来ることがある。と、なると、この城の地下がそういう状態だったってことは、原因はやはり『竜脈』のせいか。まだ流れが変わらず『生きてる』のなら、あいつをここからだすのは…」 サ「さん、なにブツブツ言ってんだよ。そのりゅう…なんとかがどうかしたのか?」 夢「ん〜・・気にしなくていいよ。どうせ今の時代を生きている人間が知る必要のない知識だろうし。遺跡調査してるとたまに出る単語なだけさ」 サ「あのさ。おれ、本当に何もしてないから!」 夢「ああ、うん。わかったって。そっか。うん。なるほど、地下ね。教えてくれてありがとうなサトシ。 なんかカナンがゼリィの気配を感じたっていうから、それで気にしてたんだけど。なにもないならそれでいいんだ」 サ「あ、だからカナンがめずらしく外に出てたんだな。そういえば“うっちゃん”は?」 夢「おねむタイムだよ。カナンと入れ違いにね。いまはボールのなかで寝てる」 ビー玉ほどに小さくなった赤と白のモンスターボールを太陽にかざすさんは、優しげにボールをみている。 そのモンスターボールの開閉スイッチには、小さくさんの『名前』が刻まれている。 さんは自分のポケモンを本当に大事にしている。 おっちょこちょいだし、物忘れが激しいからと、さんはモンスターボールに名前を書いている。 今はゼリィとタマの分の手持ちが空いているけど、その分のポケモンをこの新しい土地でゲットすることもない。 おれはその地方ごとにポケモンをゲットしている。 さんみたいに名前を付けているわけでもない。 珍しいポケモンの友達はいるけど、ゲットはしたことはない。 オーキド研究所に預けた仲間たちはみんな仲良くやっているようだし、不満はない。 おれはおれのスタイルがあるから。 認められなかったシンジと仲良くなれたのだって、トレーナーもポケモンもみんな違うんだって理解したから、わかちあえたんだ。 でもこうやって愛しそうに自分のポケモン一体一体を優しい目で見るさんをみると、おれはもっと深く、もっとしっかり一匹一匹を見た方がいいんじゃないかと思えてしまう。 あるいは――。 あんな優しい眼差しをもらえるのなら、おれもポケモンになりたい!・・・とか、思わないでもないわけで。 夢「なに。そのもの欲しそうな顔。しかたない。ご飯前だけど、デントにマカロンでももらってくるといい。 そうだなー。今日の夜飯は、ここは果物が美味しいから。夜ご飯は果実のソースをつかって炒め物とかどうよ?」 じっとみていたら、お腹がすいていると勘違いされてしまった。 でもそんな話をしていたせいか、おれの腹は本当に空腹を訴えてきた。 それにアイリスが「コドモネェ」といつうものように笑い、デントがどこからとりだしたのか本当にマカロンを用意していた。 おれたちのご飯や健康管理もしてくれている保護者の立場として、さんはマカロンは空腹を満たさないとか、ご飯前だからお菓子は…っと、思うところがあるようだが、実物のマカロンをみたらおれの腹はさらに腹が空腹を訴えてぐうぐう鳴るものだから今回はしぶしぶ食べることを許してくれた。 そこで食べ物がおいしいと言う話になって、デントのマカロンをもらったり、途中でマカロンが消えたりした。 あれ?おれのマカロンはどこに行ったんだ? まぁ、いいか?よくないけど。いまはバトル大会の方が大事だ。 開幕の花火の音が聞こえたからおれたちは慌ててかけだした。 そうしておれたちはテラス部分からは城をかけ、街を目指していた。 だけど城の中は広くてどっちにいけばいいか悩んでしまう。 一度来たことがあるというさんは、もう覚えてないよと案内を拒否。 ア「いそがないとバトル大会の申し込みに間に合わなくなっちゃう!」 「案内しようか」 どこの道を行けばいいのだろうと迷っていたら、ふいに声をかけられた。 「急ぐんだったら、出口はこっちの方が早いよ」 階段を駆け下りているとき、アイリスがもらしたつぶやきに、おれたち以外からのこたえがかえってきた。 正面の階段からとびおりてきたそのひとは、一番の出口を案内してくれた。 それがドレッドさんとの出会いだった。 デ「ありがとうございます」 サ「オレはサトシ!ポケモンマスターを目指してます。 こっちは相棒の“ピカチュウ”」 ピ「ぴかぴかちゅ」 ア「あたし、アイリス。このキバゴとドラゴンマスターを目指して修行中なの」 キ「きばば」 デ「ポケモンソムリエのデントです」 はじめてのひとにはまず挨拶を! そんないれのポリシーに、アイリスが続く。 デントはいつも優雅だ。 大人のゆとりってやつか、丁寧に手を胸元まで持ってきて腰を折る。 さんは、こういうときはあんまり名乗らない。 目立ちたくないといつもさんは言っている。そのため知らないそれもただの通りすがりの人間に対し、夢や名前まで教える必要はないと、しばらく行動を共にしないと名前を教えない。 だけど 夢「サトシと同郷の者で、とりあえずアザナって呼んでくれるとありがたいかな。一応何の因果かこいつらの保護者してます。こいつらにならって目指してるものを言うなら、家出した子をさがすこと。よろしく?」 今回に限ってさんは自己紹介をしていた。 そんなさんのフードにはまるまってしっかり花束にしかみえないシェイミがはいっている。 おれやアイリスとはちがって、その紹介はしないみたいだ。 ド「面白い自己紹介だね。 わたしはドレッド。 この城の修復作業をやっている。 さぁ。ついてきてくれ」 さんの自己紹介が特徴的すぎたのか、ドレッドさんが笑っていた。 道案内のおかげでなんとか城を出ることができたおれたちは、さっそくバトル大会への申し込みをした。 シェ「みぃ〜」 シェイミの不安そうな声が消えて振り向けば、さんがいつもとは違う真剣な顔で《剣の城》をみつめていた。 いつもと違う雰囲気に、シェイミがふあんがっているのだろう。 彼のフードから顔を出すと、心配そうにさんの頬に頬釣りをしていた。 サ「どうかしたんですかさん」 夢「……『真実』をしらぬがために、『理想』を『真実』であると判断したようだなあいつ。 ゆえに“真実を求めるもの”があいつについたか」 サ「しんじつ?なんのこと?」 真実?理想? なんなんだろう。それにさんが言うあいつってだれのことだろう。 さんはおれたちより広い世界を知っているからか、たまにわけのわからないこと言う。 おれにもわかるように教えてよとみつめていたら、こちらをふりかえったさんは驚いたような顔をしていた。 もしかしておれの言葉に返事をしてくれたんじゃなくて、独り言がたまたまかぶったのだろうか。 夢「あれ?サトシ?いつからいたんだ?」 訂正。 たださんの独り言がかぶっただけだったらしい。 サ「理想とかなんとかなんですか?」 夢「あれ。口に出してたかオレ」 サ「ええ。それはもう」 おれの言葉に偏とウンしてくれたのかと思うぐらいにはハッキリと。 夢「…聞いたら泣くよ?」 サ「泣きません!」 夢「あ、そう。じゃぁ、言っちゃうけどね。いやぁ〜なぁ〜にね。これからまた一騒動起きそうだなぁって思ってね」 ひとそうどう…。 涙が出そうになった。 やっぱり聞かなきゃよかったと思った。 だって… サ「怖いこと言わないでくださいよ!さんのそういうのあたるんですから!!」 そう。さんの勘はあたる。 尋常じゃないほど的確にあたる。 怖いぐらいおれがひとりでいるより、おれとさんがそろうと事件へのエンカウント率が激しいのだ。 もうやだ。 今後を想像したら、なぜか視界が歪んできたよ。 なぜか目元がしけってきたよ。 サ「あーもう!《剣の城》になにがあるんですか!」 夢「いやいや。そこまでは知らないよ。っていうか、はやくバトルの申し込みをしなくていいのか?オレもアイリスもデントも終わったぞ」 サ「おれのはとっくに終わってますって。それよりわかってるなら先に対策を練れるんですから!何か知ってるなら教えてくださいよ」 夢「なら。 “それ”がわかってるならさ。サトシは無茶すんなよ。 勝手に体がとか言い訳はきかない。 オレにたよれ。お前の代わりに脳みそ使って、目の前のもん全部ぶっとばして、助けてやるからさ」 サ「さんこそ。無茶ばっかしてるの知ってますよおれ。身体張って他人を守ったりしてるじゃないですか」 夢「なんのことやら」 とりあえず。 さんがみつめていたのが《剣の城》ってことは、あれに関係ある何かが事件の原因に違いない。 なんて面倒な。 ―――っていうか サ「え?さんもバトル大会出るんですか?」 夢「おう。でるぞ」 え? ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!!!!! 普通にさっき流しちゃってたけど。あの伝説を従えるさんがバトル大会にでるだって!? 一般人しか参加してないあの普通の大会に? そ、それはまずくないか? だめだよね? むしろさんのピカチュウがやばい! なぜって、ピカチュウのくせに火花おこして爆発とか普通に起こせるし、氷をだせるし、植物系の技の威力を上げたり。 ホウオウよりもそっちのほうが規格外すぎだし! 夢「さすがにホウサクさんはださねーぞ」 サ「そんなの当然じゃないですか!! いや、そういう問題じゃなくて! は!?えぇ!?本気ででるの!?え?おれ、勝つ自信ないんですけど!」 優勝、もう決まったようなもんですねー。 さんがバトルなんて。 ああ。 おれの人生ココで終わりかな。 なぁ、“ピカチュウ”。おれ、この街から今すぐダシュツしたいかなぁ〜なんて思うんだけど。 ピ「ぴかぴー!?(しっかりしてサトシ!?)」 サ「えーっと・・・・・・・おてやわらかに?」 夢「ああ、安心しろって。賠償金なんか払いたくないからな!」 そのときのさんは今までにないぐらい昏くドンヨリとした空気をまとわりつかせ、笑ってるというより顔をひきつらせてるとしか思えない表情で……笑っていた。 いままでどうんだけ払ってきたんだろうこのひと。 |