劇場版 『ビクティニと黒き英雄』 2話 |
――― ト ク ・ ・ ン ―― 音を かんじた。 それはまるで眠りから覚めるための、鼓動のようで・・・。 ただ静かに空間に響いた。 -- side 夢主1 -- 「ここに、いるのか?」 サトシと別れて、合流できそうな場所をさがしてアイリスとデントと歩いていたら、ふいに懐かしい気配がした。 ビクティニとは違う。もっとオレに近い――そう。いうなればオレの仲間の、その気配。 鼓動のような。夢の 微睡から目覚めるためのカウントダウンのような、トクントクンと命の時と同じ感覚で刻まれる空気の揺らぎ。 それはほんの一瞬で、へたをすれば錯覚かとも思えてしまうそれ。 けれどポン!っと音を立ててモンスウターボールからシェイミの“カナン”がとびだして、『それ』を肯定する。 「しぇ〜い、みぃ〜!」 「おまえも感じたのか?」 「みぃ〜♪」 シェイミ“カナン”は、オレが感じたものと同じものを感じ取ったらしく、ボールにひきこもっていたはずなのにボールからでてきて、オレの頭の上にとびのると仲間の気配を探すようにキョロキョロとせわしなく周囲を見渡す。 「しばらく前から“タマ”が起きてるのは気付いてたけど。そっか。“ゼリィ”がここにいるんだな」 「み!」 「うん。会えるといいな」 オレとシェイミが話している間に、生まれたばかりのためかうとうととし始めたメラルバの“うっちゃん”に、思わず笑みがこぼれる。 その暖かい身体をそっとなでて、眠りをさらに促してやれば、あっというまにトロンとしていたメラルバ“うっちゃん”の目が閉じてしまう。 シェイミ“カナン”とおもわず顔を見合わせれば、笑いが互いからこぼれる。 そのまま“うっちゃん”をボールにもどし、かわりにシェイミの小さな身体を抱き上げる。 シェイミはオレの腕の中で「だいじょうぶ?」と心配するような表情でこちらを見上げてきたが、お前なんか重くなんかないよと、草のような身体をなでてやった。 それでようやく落ち着いたのか、「辛くなったら言ってね」と一鳴きすると、シェイミはオレの腕の中におさまり、今度は外を興味深げにみはじめる。 玉にでも姿を変えてねむっているだろうゼクロムやレシラム。 もしかするとあの洞窟の先には、そのどちらかがいて、サトシの心に反応したのかもしれない。 ゼクロムは理想を求める者の前に現れ、レシラムは真実を求める者の前に――。 っと、いう言い伝えだ。 もっともサトシがなにかしたと断言できないが、してないともいいきれない。 なにせトラブルメーカーで伝ポケホイホイ体質なサトシだ。 ふたつの伝説のドラゴンたちにすかれるのは…きっと時間の問題だろう。 「う〜ん。そうなるとやっぱさっきの波動の揺らぎは、サトシがあの洞窟の中でゼクロムあたりに会ったって考えるのが妥当だよな」 「しぇいみぃ〜」 「だな」 これからどうすっかなぁ〜っと、宙にまぎれるように七色に輝く透明な膜のようなものを見上げて――ため息をつく。 すでにうちのサトシくん。ビクティニに遭遇して、もうなつかれてる気がするし。 いや、うん。きっと今頃――。 「事件発生まであとどんだけよ?」 騒動が起きるまでにはそれほど時間はかからなそうだ。 カウントダウン 開始? |