劇場版 『ビクティニと黒き英雄』 1話 |
-- side 夢主1 -- ポケモンマスターを目指して旅をしていたサトシたち。 オレ、テッド氏、アイリス嬢、サトシ――は、アイントオークという場所にむかっていた。 始めはオレの我儘で、あの街にいきたいって言ったんだ。 なにせあそこはタマとゼリィの、いわゆる故郷なんだよね。 それにこの時期なら収穫祭に重なるはず。 そういうわけで、オレたちはアイントオークへむかっていた。 「めらめらぁ♪」 「ぴぃかっ!」 「ちゃぁ〜。ピカぁ…」 「きばば?」 背中のリュックの上にのせていれば、普段は地面をはっているせいか高いところが楽しいらしく嬉しそうなメラルバの“うっちゃん”がキャッキャと声を上げる。 それにサトシの肩に乗っていた面倒見がいい“ピカチュウ”が、「よかったね」とばかりに声を上げる。 そんな二匹を、オレの足元を歩いていたオレのピカチュウ“ピカ”が、「若いっていいね。年寄にはついていけないよ」てきな雰囲気で、疲れたように苦笑を浮かべると、オレのズボンの裾を引っ張って手を差し出してくる。 これは疲れたから、自分のモンスターボールをよこせというピカの合図だ。 うん。お年よりは大切にしないとね。 望み通りモンスターボールをだせば、「ぴっかぁ〜(じゃあね)」と周囲に手を振って、自分からモンスターボールの開閉装置を押して中に入ってしまう。 ヨーギラスの“群青さん”もかなり年季が入っていたけど、日々ピカがおっさんじみていく。 夢「“うっちゃん”はずっと若くいてくれ」 オレの切なる願いである。 ちなみにこのメラルバは、イッシュの旅の道中、野放しにしていたオレのポケモンがたまごの状態で届けに来た。 そのあとうちのポケモンは帰って行ったが、卵は置き去り。 手持ちもいっぱいではなかったので、まぁ、いいかと、そのまま卵の面倒を見ていたら少し前に卵からメラルバが孵った。 生まれてすぐオレを認識したらしく、うるうるした瞳でみつめられて。あっけなくノックアウトしたオレは、メラルバに“うっちゃん”と名前を付けたところ、同行者のこどもたちからジトーっとした眼差しをもらった。 ウルガモスなるから“うっちゃん”ではなく、ウルウルした目が可愛かったから。 サ「さんのネーミングセンスって…その、いつも微妙だよな」 ア「どの子もヒラメキって感じがすごいするわよねソレ」 デ「のは、統一感ないからね。たまにいいセンスのネーミングもあるけど、ナンセンスの方が断然多いかな」 サ「フシギバナが“タナカさん”。 ラッキーが“スズキさん”。 バタフリーが“サトウさん”。 ゼニガメが“スギサキさん”。 毒でたおしたからイワークは“ドク”。 フラッシュがつかえるようになったプリンは“ライト”。 っで、伝説ポケモンのスィクンを“タゴサク”ってよぶのも、アブソルを“ポチ”ってよぶのもセレビィをタマネギってよぶのも、はじめ凄い抵抗あったよおれ」 夢「わるかったな」 なんだか物凄くがっかりしたようなサトシがオレをみてくる。 いいんだよ。本人はその名前を喜んでるんだから。 なぁ、“うっちゃん”? 「めっら〜☆」 ほらみろ。メラルバだって“うっちゃん”でいいって言ってんじゃん。 ちなみに言うが、だんじてセレビィはオレのポケモンじゃネェ!! タマネギってのも名前じゃなくて、あいつの全体的イメージだ。 ――ゥォォォーーン サ「ウォーグルか」 ピ「ぴぃか」 アイントオークへ続く山道を歩いていれば、ウォーグルが頭上を飛び、それにサトシが嬉しそうに足を速める。 ア「デントぉ、まだ?」 キ「きぃーば」 デ「そろそろみえてきてもいいはずなんだけど。 そうだ!はしらないかい以前も来たことあったんだろう」 夢「あー…地面を歩いてこの辺来るのは初めてだからさすがに地理には詳しくないなぁ」 デ「なるほどね、じゃぁ、そのときは空から来たのかい?」 夢「そうだよ。でも…たぶんそろそろ」 サ「うわぁー!」 ア「あれは」 デ「そうだね」 メラルバが頭に登ってきたせいでずれた帽子をもちあげつつ、道の先をしめせば、サトシが嬉しそうにかけていく。 その歓声を聞いてアイリスが続き、デントも表情を輝かせる。 目の前には岸壁の上に立つ街、アイントオークが一望できた。 あそこの一番高い頂きの山に突き刺さる剣のような城がめにとまる。 《剣の城》だ。 それに…そこから視線をそらすように、オレはメラルバを腕に抱き、帽子をひっぱって目部下まで深くかぶる。 夢「…ごめん、な」 メ「めっらぁ?」 夢「おまえはまだ知らなくていいんだよ」 サトシたちから離れて街を見ていたからか、だれにもオレの謝罪は聞こえないようだった。 腕の中のメラルバだけが不思議そうにオレをみあげてきた。 それにこわばった顔を無理やり笑みにかえて、そっとあたたかなメラルバの頭をなでる。 夢「オレにも不可能なことはたくさんあるんだ」 以前来たとき、オレはあるポケモンと出会った。 その子を自由にさせてあげたくて、たくさんのポケモンで挑んだ。 それでも一匹のポケモンをあの街の外に出してやることができなかった。 アイントオークはオレにとってそんな苦い思い出のある街だ。 どんなに強いポケモンが手持ちにいようとも。 けれど、このイッシュには他地方からは離れすぎいて、向こうの地域のポケモンとの交換ができない。 だから、今回もまた、今の手持ちで挑むしかないのだろう。 今度もまた、オレは役に立てないだろうけど…。 ここが故郷な家出ポケモンたちも心配だ。 でもそれよりも、オレはまたあの子と顔を合わせなければいけない。 そのためにここまで来たのだから。 夢「さぁ、いこうか。アイントオークへ」 オレはもう一度あの街をみてから、今度はいつもみたいに笑えてるよう心がけて、絶景に魅入っているこどもたちをうながした。 今度こそ。と、願いを込めて、オレも一歩踏み出す。 もうアイントオークへの石田畳に入っていた。 その道中、サトシがなにかの声を聞いた。 それにうながされてみれば、二匹の緑のシキジカがとんでもなく細い崖の道のさきにある木の実を食べようとしたのか、片割れがいまにも落ちそうなところだった。 サ「オレがいく!」 ア「ちょ!サトシ!?」 ピ「ぴっか!」 デ「サトシ!」 困っているポケモンを目にした途端自ら岩階段を飛び越えていくサトシに目玉がとびでるほどびびった。 夢「おまえぐらいは命綱をつけろサトシぃー!!!!“うっちゃん”〔いとをはく〕! あいつを捕獲だぁぁ!!」 無謀にも命綱も後先も考えず、肩に“ピカチュウ”をのせたまま崩れた石階段を軽々と飛び越えサトシはシキジカたちのいる場所にいってしまう。 若干まだ感傷に浸っていたオレの心は瞬時に冷えた。いや、なにも冷えたの気持ちだけでなく肝も冷え冷えだ。内臓が冷えて手足までつめたくなったらどうしてくれる。 サトシにツッコミをいれると同時に腕の中のメラルバに思わず糸をとばしてもらって、サトシのリュックにまきつけたほど。 なにしてくれちゃってるの?!超なにしてんのあの子!?え?オレの心臓を壊したいの?! あれほど無茶はしないでって何度も言ってるのに! サ「うわっ」 ア「!?あたしもいく!」 デ「だめだアイリス!足場が持たない!たのめるかい?」 夢「サトシは“うっちゃん”の糸で支えられても向こうのシキジカまでは無理だ!」 サトシとシキジカがいるのは細い細い足場だ。 サトシが歩を進めることで崩れたのを見てアイリスが飛び出そうとするが、生まれたての“うっちゃん”には無理はさせられない。足場が悪いのもしかり。アイリスまであの狭い崖に跳ばれては、二人分の体重を支えきれないので、命綱にはなれない。 そうこうしている間にもシキジカ一匹ががけからおちている相方のシッポをくわえてこらえているが―― それもすぐに限界にきて、二匹共におちる!?そう思った瞬間に、サトシがうまく二匹をキャッチし、もちあげた。 それにオレたちの肩から一気に力が抜ける。 本当にみているこっちがひやひやする。 っが サ「っ!?」 さすがに二匹のポケモンを抱きとめるにはおもすぎたのと、うまくバランスがとれなかったこともあり身体が傾く。 その勢いとポケモンたちの重さも加わり、サトシをささえていたメラルバの糸がきれてしまう。 プチン アデ夢「「「サトシ!」」」 命綱がきれた。 っというか、そもそもオレがささえられるわけないんだよ。 このメラルバだって、みかけによらず重いらしい。なんでしんらないかって、〔ねんりき〕〔でんじふゆう〕だかなにかしらの技を使って身体浮かしてるんだよこの子。 本当に規格外。 夢「!?あれは…」 支えていた糸を斬れた衝動も加わってか、サトシが二匹のシキジカをかかえたままさらにぐらつき、根性というバランス感覚だけで足場に無理やり立っているような状態になった。 そうやってバランスをとっているとき、その足がたまたま側の木の実のしげみにつっこみ、オレンジに近いポケモンがサトシの足をつかむのを一瞬目撃する。 それと共に感じた懐かしい気配に、オレはその正体を知る。 ビクティニだ。 あの子もまた木の実を食べに来て、シキジカたちを驚かせてしまったのかもしれない。 ギュッっとビクティニがにぎった場所から“力”が広がるのを遠くでも感じた。 それがサトシに流れ込むのを見て、これなら大丈夫かもしれないと、少し安堵し気持ちに整理をつけ自分自身を落ち着かせるよう深呼吸をする。 考えろ。今の状況はポケモンバトルと同じ。 早く判断をしなければ。 まずはサトシを助けないと。 一番にしなければいけないこと。それを可能にしてくれる手段は――? ビクティニは勝利ポケモン。 力をあたえてくれる。 へたするとあのままおちてもサトシは人間以上の力を出して、そのジャンプ力だけで跳んで戻ってこれるかもしれない。 ビクティニにはそれだけの力がある。 しかしここは崖だ。 たとえふんばれば今のサトシなら無事なだけの力を得たとしても、両手がふさがっている彼が壁を登ることができるはずもなければ、無事に着地できる保証はない。 だが、こうも考えられる。 崖だから。 サトシの立つ小さな岩のとっかかり。 そ例外はなにもない断崖絶壁。街ができたこの山より向こうは、広大な大地が広がっているのが見える。 見渡す限り人家はない。 ならば―― 夢「たのむ“ホウサクさん”!」 サトシがおっこちそうな向こう側は広い大地がひろがっている。 人に見つかる心配なく、その大きな翼を広げても障害はない。 さらに運がいいことに、ここは崖に立つ街。オレたちがいるのは町の更にに下。上にいる街の連中からは死角になる絶壁にいる。 そこからは“飛べるもの”の天下だった。 オレはすぐにモンスタボールをなげると、ホウオウの“ホウサクさん”は次の足場まで持つか持たないかというビックジャンプをしているサトシを空中でうけとめた。 サ「あ、ありがとうなホウサクさん!たすかったぜ!」 ホ「クルルルゥ!」 シ「しきじ〜」 シ「しき!」 ピ「ぴっか!」 3メートル以上ある巨大なホウオウはその虹色の翼をはばたかせ、三匹のポケモンとサトシをその背にのせて飛ぶ。 その背後にはキラキラと虹がかかる。 幻想的な光景。心が洗われりようなその虹をみているだけで、ようやく気持ちも落ち着いてくる。 もうサトシは絶対安心。 そう思わせてくれる七色の美しいポケモンに、感謝だ。 これで本当に肩の荷をおろせるというもの。 やがてホウオウは何かに気付いたように視線を《剣の城》の刺さった岩山へ向けると、そのままオレ達のもとではなく、もう少し下にある大き目の人工的な入口にサトシをおろした。 ――さびしがりやのビクティニが、サトシを呼んでいるのかもしれない。 ホウオウはシキジカとサトシたちを背から下ろすと、そのまま羽をたたみ動こうとはせず、何かを訴えかけるようにオレをみつめてきた。 まっすぐな目に込められた真意がいたいほどわかる。それに頷くとモンスターボールをなげる。 夢「ありがとうホウサクさん」 ア「ちょ、ちょっと!!どうせだったらホウサクさんにここまで連れてきてもらえばよかったじゃないの!」 デ「おちつきなよアイリス。彼は目立つ。それにここは町のすぐそばだ。できるだけ早く戻した方がいい。それに賢いホウサクさんがわざわざサトシをあそこに置いたんだ。たぶん大丈夫だよ」 夢「……サトシ。そっちから中に入れるんじゃないか?上で会おう」 目立つことよりもホウサクさんはきっとビクティニの意思を尊重した。 それゆえの行動だろう。 そうしてオレたちは、いったんサトシと別れて《剣の城》をめざした。 |