劇場版 『結晶塔の帝王エンテイ』 2話 |
-- side 夢主1 -- 『こんの!スットコドッコイがぁーーーー!!!!!!』 「きゅぅ」 『ふるえてもダメ!可愛い声出してもだめぇ!!』 目の前にはふせ状態の四足歩行の獣。 色違いのエンテイだ。 しかしそのエンテイは、ガタガタと震えて、目の前のものを見ないようにその獣の手で頭を抑えている。 「きゅ、きゅぅ〜」 『テメェはそれでも伝説のポケモンかぁー!!』 「くるぅ…(主…)」 『ホウサクさん放してくれ!!オレはオレは!!こいつを踏みつけづにはいられネェ!!』 行け!戦え!とモンスターボールをだした瞬間、目の前の敵を見た瞬間おびえてシッポまでまるめてくれた。 いつものことだが。 いつものことだけど。 エンテイに憤って、思わず殴りかかろうとしたけど、背後にいたホウサクさんがあきれたように鳴きながら、くちばしでオレの服をひっぱってひきとめてくる。 そんなオレにさらにエンテイが怯えて縮こまる。 『敵はエンテイなんだから、ここはおまえがいけよ“エンテイ”!!』 オレたちの目の前には、まっとうな色をしたエンテイがいる。 ただし。あっちはとある少女の想像力とアンノーンの力が合わさって生まれた偽物である。 かくいうオレの側でキュンキュン鼻を鳴らして涙目になっているこいつは、スピアーの総攻撃をくらっていたところをオレが助けたときになついてそのままついてきた色違い。そんでもってまぎれもない本物である。 事の発端は―― 故郷の異変をテレビでながれことから。 *********** 結晶に覆われていく花畑。 広がっていく結晶化現象。 その発生源が知り合いの家からだというからなおさら驚きである。 そうしてここまでやってきた。 最初は、コーヒーショップのバイト先で、お客様にコーヒーを運びながらなにげなくみていたテレビで、とある建物を中心に結晶で覆われていくのが映し出された。 違う地方だったが、場所はジョウト。 それだけでまたサトシ関係かとため息が漏れ出た。 劇場版にこういうのあったなぁ〜と思っていたら、《ミィちゃんの安否が》なんていうセリフが聞こえてきて、思わず配膳も忘れてテレビにくぎ付けにされた。 ミィといえば、マサラタウンによく遊びに来ていた教授だか博士だかの娘で、人口密度がめちゃくちゃ少ないマサラタウンにとっては身内も同然の家族。サトシとシゲルなんか、旅に出る前までは、よくミィちゃんと手を繋いで地べたを転げまくっていた。 そのミィちゃんが事件に巻き込まれてるだと!? あんな小さな子が!? ほおっておけるわけがない。 思い立ったが吉日。 『店長!実家で事件が起きたのでちょっといってきます!!』 トレーの上に載っていた珈琲や紅茶だけはしっかり客に運ぶなり、オレはお盆を置いて、そのままバイト先を飛び出した。 格好なんか気にもしなかった。 少し走って街から出ると、人気がなくなったところでモンスターボールをなげた。 でてきたのは、ホウオウの“ホウサクさん”。 オレにとってヤドキングやピカチュウの次に、お世話になりまくっているポケモンだ。 ポンと音を立てて飛び出て来た“ホウサクさん”は、虹色に輝く翼をバサリと広げると、たからかにないた。 「クワァ!」 『わるい。超特急でカントーまでとべるか?』 「クルゥ!」 乗れとばかりにうながされ、その背に遠慮なくのせてもらう。 『わるいな。いまとべるのおまえしかいないんだ。ヤドキング、サポートたのむ』 「やどぉ〜」 “ホウサクさん”の背をそっと撫で、彼の上でもう一つモンスターボールをだす。 現れたのは、古株の相棒。ヤドキング。 口調はのんびりしているけど、このヤドンキングは機敏に動く。 頭かじられてキングだからな。その分、とても叡智にあふれた頼れるポケモンだ。 『ヤドキング。〔まもる〕でオレたちにかかる負荷を。〔テレキネシス〕でホウサクさんの飛行を手助けしてやってくれ。いくぞ!』 「クルル!」 「ヤド!」 普段はゆったり優雅に飛ぶ“ホウサクさん”も今日はそうも言っていられない。 そんなこんなでマッハでもどってきましたカントー地方。 途中眼下に一瞬報道陣と思われる人だかりと結晶化した大地をみた。 マッハだったのでとまれず、というか一度近くのポケモンセンターまでむかった。 そこで無理をさせまくったヤドキングをあずけて、治療が終わると同時に、オーキド研究所に連絡を取って、手持ちを一部入れ替えた。 そうこうしている間に、さらに事件は起きる。 今度はうちのハナちゃんがエンテイにさらわれていくのが、テレビに映っていた。 それに飲んでいたものを思わず落してしまったら、今度はテレビにサトシがでてきて・・・。 この調子じゃぁ間違いなく、二人は巻き込まれるだろう。 どちらもオレの故郷の者だ。 つまり――身内だ。家族だ。 家族はとても尊いものだと転生人生で学んでいる。 その家族が危機的状況だという。 そいつらを助けなくてどうする。 っで。乗り込もうと再び勢いよくとびでてきた。 ホウオウの“ホウサクさん”はキラキラしていて結構めだつはずなんだけど、さすが伝説に分類されるだけあって、姿を消すのは技とか関係なくできるらしい。 正確には姿を消しているのではなく、人々の視覚に映らないように力が使われているらしい。 詳しいことはよくわからないが、そうやって“ホウサクさん”に頼んで結晶塔のすぐ近くまで飛んでもらった。 とたん。 シュルリと蔦のような結晶が伸びてきて、空をとんでいた“ホウサクさん”がその背に張り付いていたオレごと捕獲された。 『ぬぉっ!?』とか叫んでいる間に、蔦はシュルシュルとまかれ、オレたちはあっというまに結晶塔の中に引きずりこまれた。 そのまま床に投げ出されて苦痛にうめいていたら、目の前にエンテイが現れた。 色違いではなく、正真正銘まともそうな色合いの奴である。 《・・・神か。お主は・・・まさかと思うが、神の、トレーナーか?》 やっこさんはとても渋いいかした声でしゃべりました。 そんでもってホウサクさん。完全に羽をたたんでお座りモード。 《・・・・・私にはかなわない――塔の周りを飛ぶ“強い”気配。警戒して連れ込んだが。必要はなかったか》 『いやいやいや!そこで勝手に完結しないでくれるかい?』 《神よ。しばしそこを離れてはもらえぬか。うるさい紙を追い払うゆえ》 『んだごらぁぁ!!オレがかみっぺらだと。冗談もホドホドにしてくんない? ってか、ダジャレかいまの!?ポケモンがダジャレをいうのか!』 《ダジャレではない。本心だ》 『そっちの方が最悪だ! それよりオレの身内を返せ!!この妄想の分際がぁ!!』 《はぁー。ミィには聞かせられないな。なんと野蛮なトレーナーだ。神が認めし者とは思えない》 『ふんがぁっ!!やや、野蛮!?』 「くわっ。クゥルゥ…(主、口が悪くなってますよ)」 『身内、盾に取られてんだ!口ぐらい悪くなるわっ!!!』 《彼女はミィに必要な存在だ》 「クルルゥ(エンテイ。主は普段はもっと大人しい方ですよ)」 『だまんなさいホウサクさん。いつも言ってんだろ。オレは身内には超甘いと! 奪われるのも。亡くすのも嫌いなんだよ。 だから。 ハナコを返せ!』 《彼女はミィの母親だ。渡さない》 『それこそ断る!! そもそもここを結晶なんかで封鎖したらミィもハナコも死ぬぞ。妄想の産物にゃお前にはわからねーだろうがな。人間は食べないと死ぬんだ。いいのか?』 「クゥ‥ルー(主)」 『むぅー。わかったわかった。はぁー…』 “ホウサクさん”になだめられて、沸点まであがっていた感情をむりやり抑え込む。 そのせいで肺からもやもやした空気と一緒に、デカイため息が出る。 いったん冷めれば、冷静に思考も動き出す。 『・・・わるい。わるかったエンテイモドキ。 馬鹿みたいに怒鳴ってるんじゃしかたなかったな』 はぁー・・・面倒クセ。 『オレたちには時間がなかったんだ。 お前がTV(人様)の前で大胆に人さらいをしたせいで、もう一人。やっかいなやつが向かってきてるんだよ。 そいつがいるとなぁ。 世界が―――グラっとゆれるんだ』 《は?》 サトシがのりこんでくる。 それすなわち。大惨事になる。なにがって、世界が。 たとえばルギアのときとか。 あれはあれで大変だった。 ああ、そうとも。サトシがきたら、きっと世界は“救われる”んだろう。 だけどそこまでいく間に、面倒事がやってくるのは明白。 まったく。あのトラブルメーカーは誰に似たんだか。 「クゥルルルゥ…(レッドさんでしょう)」 『だろうなぁ』 オレたちは冷静になったのに、オレの言葉に何を思ったか、今度はエンテイモドキが毛を逆立てて臨戦大勢になっていた。 なに?オレはサトシじゃないよ。 そう言っても聞く耳を持たず。 『勘違いしてないか? 別にオレがお前をどうこうしようとしてるわけじゃないぞ?』 「ガルルル」 牙をむきだし、うなられる。 溜息が出る。 結局はバトルですか。 なにその臨戦態勢は。 《紙ごときトレーナーが!ミィと彼女を引きはがそうとするならば・・・わたしが相手をしてやろう!!》 いいけどさ。 だが。 『勝てると思うなよ?』 このオレをなめるなよ。 相手になるのはエンテイモドキ自らのようだ。 なら、オレはお前と同等の力をぶつけてやろう。 『いけ“エンテイ”!』 投げたモンスターボールがパカリとくちをひらき、なかから色が灰色めいたエンテイが現れた。 鼻の周りの赤い部分は灰色に近い青。毛の色も赤茶ではなくオレンジに近い。 色違いのエンテイである。 っが、しかし。 「キュゥ〜ン」 目の前の敵を目にした途端、シッポを丸めてオレの背後に逃げ帰ってきた。 『おい』 「クゥ〜ン。がうがう。くぅ〜!(こわっ!だめです!無理です〜ギブです!!)」 「トゥルゥゥゥ?(エンテイ?)」 ――そして冒頭に戻る。 結論から言うと、オレがエンテイともめている間に、オレたちはエンテイモドキの生み出した結晶にとらわれ、御用となった。 おまえ、伝説の癖に役に立たないなぁ。 オレのポケモンに、現段階では泣き虫とかひきこもりとかはいない。 まぁ、相方の白いドラゴンにいじめられてるせいでちょっとばかし弱気な伝説級な黒いドラゴンとか手持ちにいるけどさぁ。 うちの伝説。けっこう精神面のメンタル弱いの多くね? 横でしっかり結晶で足環をされて身動き取れなくなっているホウサクさんがドンマイとばかりにオレの肩をくちばしで突っついた。 まぁ、さ。スピアーに襲われてたぐらいだもんね。 こいつのメンタル面を強化することから始めればよかったよ。 しかたない。 サトシが助けてくれるのを待つかね。 『とりあえず。二人ともオレの大事な身内なんだから、怪我させんじゃネェぜ?』 縄の代わりに、結晶で手をしばられ、結晶の檻の中。 そこからこちらを怪訝な目で見つめてくるエンテイモドキにむけ、不敵なまでに口端を持ち上げて笑ってやる。 サトシという主人公の威力。 おもいしればいいさ。 こうなっちゃうと、とらわれてるのも含めて、オレはもう出番はないかもねェ〜。 いや〜。サトシくんたちが、気付いてくれるといいんだけど。 放置されるのは勘弁だ。 『終わるのをここで待ってるよ』 サ「まってろよミィ!ママ!!」 エ《私はミィの父親だ!》 夢『あ、なら。ハナコはオレの家族だ!』 ハ「あらぁ。まぁ楽しそうね。じゃぁ、わたしも。わたしはサトシの母親よー!」 ミ「ちがうもん!ママはわたしのママだもん!!」 ホ「クルルルル…くぅーくわっ!(ならわたしも。私の主は赤毛だー!)」 大声大会。勝者決まらず。 |