不思議お兄さんは何役者?
- ポケット モン スター -



劇場版 『結晶塔の帝王エンテイ』 3話





 -- side サトシ --





塔の中、アンノーンによってつくられたミィの心の中の世界をとおって、塔の上へと向かった。
ミィは上から来たから、きっとママは上にいるというタケシの考えだ。
だからここにくるまで、タケシやカスミが、幻でできた姿を変えるミィと勝負をしては足止めしてくれた。

上へ上へと進む。
ママを助けたくて。

ピカチュウと長い階段を駆け上がって最上階まできたら――



「・・・さん。何してるんですか?ホウサクさんまで。あとママ」



そこにはベッドがあって、本体のミィを膝枕しているママがいた。
ついでにそのすぐ横には、天井から太い鎖でつるされた結晶でできた鳥籠のような檻があった。
その中には腕を縄のような結晶で拘束された赤毛のウェイターと、虹の翼をもつ大きな鳥ポケモンがいた。
ミィをなでながらベッドに腰掛けたママが、楽しそうに檻の中の赤毛トレーナーと話している。

「あら、サトシ。遅かったわね」
『よぉサトシ。はやくこの事件解決してくんない?そしてハナちゃんのついでにオレも助けて』


えーっと。なんでこの空間はここまで和んでいるんだろう。
いや、ママとさんがそろうといつもこんな空気だけどさ。

そもそもさん、ホウエン地方に行くとか何とか言ってなかったけ?
むしろなんで檻の中に?

「なんでいるんだよ」
『助けに』
「たすけにってママを?でも・・・」

捕まってるようにしかみえない。

『ミィとハナちゃんの両方を助けようと塔の周りを飛んでたら、蔦状の結晶にひきづりこまれたんだよ。塔に入る手間が省けたと思いきや、うちのかわいい子犬ちゃんが痛恨のミスをしてくれてね。おかげでこのありさまさ』
「クル…(あの子が面目ないのです)」
『あとであの野郎、躾けなおす』
「そうねぇ。あのワンちゃんより、ミィちゃんの方が心が強いわねぇ」

「は、ははは・・・」

子犬というのはたぶんポケモンなんだろうけど、さんのポケモンは、普通じゃないのが多いから、なんのポケモンとかあんまりききたくない。
だって現にさんの背後に今いるポケモンだって、ただでさえ伝説級の神様級のポケモン【ホウオウ】だ。
カントー地方のポケモンリーグが終わってからは、さんは遠慮することがなくなったようで、カントーだろうとどこだろうとかまわず、いろんな地方の色んなポケモンを出してくる。
今、その犬ポケモンってなんですか?なんてきいてみたら、なんだか世界中のポケモン研究者とトレーナーの皆さんに頭を下げたくなる気がするんだ。
タケシのめったに変化しない顔がきっと歪むこと間違いなし。

さんは、一匹一匹は強くないが、伝説級のポケモンが手持ちに多い。力がない分トリッキーなバトルをして、勝ちを勝ち取るひとだ。
レッドさんは、伝説系のポケモンは持っていないものの、その伝説級を超える力量を持つポケモンしか手持ちにいない。
はっきり言って、慣れてるおれでも普通じゃないふたりだと思う。
その二人のポケモンを預かるオーキド研究所は、ある意味、研究者にはパラダイス。一般トレーナーからしたら、顎が外れてしばらく動かなくなるような魔境のような場所らしい。
ママとかオーキド博士は、そんなレッドさんやさんのポケモンのおかげで、いろいろ慣れてる。
おれも旅をして、けっこうなれたつもりだ。
そもそも伝説とか珍しいっていってもポケモンはポケモンだし。みんな同じ命だ。
ママ、オーキド博士、グリーンさんとか、おれたちは、どんなポケモンでも同じだと思うから違う扱いはしない。

けれど普通はそうは思わないんだって。
普通は『伝説』や『珍しい』ポケモンは、個体数も少なく、めったに出会うこともなければ、それだけで価値があるからしい。

だからさんのポケモンのことは、絶対聞いちゃいけない。
だって、きいて、また伝説級の名前を出されたらたまらない。
きっと度肝を抜かされるから。
主にタケシとカスミが。


そんなわけで“ホウサクさん”以外のさんのポケモンのことは聞かなかったふりをして、ミィをおこすことにする。

「この結晶塔はミィの心を感じ取って、アンノーンってポケモンがつくってるんだ」
「はやく。ここを出た方がよさそうね」
『あんな馬鹿でかい館に一人でいさせるからわるいんだ。なぁ、ハナちゃん。もしシュリー君がいいって言っていたら、マサラにミィ連れてかね?奥さんが戻ってきたとしてもこんなでっかい館に、一人とか二人は寂しすぎるって。ぜったいここよりマサラの方がいいと思うんだよなぁ』
「そうね。シュリー博士にもきちんとはなさくちゃね」

「・・・あの、二人とも。攫われてきたんじゃ?なんでそんなのんびりしてるの?」
「『あぁ、そういえば』」



「まずはミィを起こそう」
「そうね。ミィちゃん。起きて」
『・・・その子は、ハナちゃんをママと思ってる。
まぁ、彼女が本当のママをあんまり覚えてないことと、持っていた写真が、集合写真だからなぁ。勘違いしちゃっても仕方ない』


起こしたミィは、「わたしはあなたの本当のママじゃないの」そういったママのことばに、もう寂しいのは嫌だと思ったのだろう。 そのミィの心に反応して、結晶が暴走するように地面からトゲトゲしたものがつきだしてくる。

『うぉ!?』
「くわ!?(主!?)」

塔の内部が一気に幻想的な空間から、トゲトゲした寒々しい物へと変化したことで、天井の高さが上がった。
そのせいでさんたちが入れられた鳥籠の鎖がジャリリと音を立てて、檻は激しく揺れ一気に上の方へと持ち上げられる。 その際にさんと“ホウサクさん”の悲鳴が聞こえた。
そういえばさんは縛られてるし、“ホウサクさん”は足枷をさせられていたっけ。

『いってぇー!!こらモドキ!お前、もう少し丁寧に扱えよ。オレは結晶じゃないぞ!再生は無理だ!!』

・・・。
あー。うん。
さんは大丈夫そうだ。

頭上に上がりすぎてよく見えないけど、檻の中からガスガスと何かを蹴っているかぶつかるような音と、ジャラジャラ鎖の音がするから、きっとさんは元気なのだろう。


「そうだママは!?ママ!」
「ぴかぴかちゅ?」
「っ…」
「ママ!」
「大丈夫よサトシ」

上の騒動で意識を奪われていたけど、あわててママを探す。
下からつきでてきた結晶はママを傷つけることはなかったようだ。


ミィはやはり母親というのに憧れてるのだろう。 おれのママをなかなか返してはくれなくて、すぐそばにいたママに伸ばした手は、すぐにのびてきた結晶に阻まれてしまった。


おれのママなのに、エンテイはこの場所にいる限りママは、ミィのママだと言い切る。

「ふざけるな!」

ママはおれのママだ。
わからずやの幻なんかに負けてたまるか。

「いけワニノコ!」

ワニノコやヒノアラシで挑むも、エンテイは強い。
エンテイ自身は、どれほど幻だと言っても、己が幻だとは信じず、ひたすらミィの父親だと言って――

ミィの望みを守るために、おれたちに攻撃を仕掛けてくる。


説得しようとミィに何度も声をかける。
ミィの心が、おれが言った「ミィがつくりだした幻」という言葉に揺れているのか、その困惑に空間の結晶がパキンと音をたて、吹雪が舞い始める。
ママがミィちゃんに本当のパパとママの話を持ちかける。


それからエンテイからの攻撃にピカチュウがあたりそうになったとき、思わず庇ってしまって、そのまま塔から落ちかけたら、リザードンが助けてくれた。
リザフィックバレーにいたはずのおれのリザードン。
TVをみてかけつけてくれたみたいだ。

そこからはエンテイが攻撃をしてきて、おれは仲間と戦ったんだ。


室内で戦っている間中、檻の中でさんが『いやー!寒い!いや!?あつうぅぃ!!!ぎゃー!!ゆれる!ゆれてるぅ!!』とか悲鳴が聞こえていたので、ポケモンたちの技とかもろに被害がいっていたのだろう。


部屋の中にいた仲間やママやミィちゃんを傷つけないように、リザードンと外に出て戦った。


エンテイはミィをひとりにしないためにいたのだろうが、エンテイと塔のなかにこもっていてはミィはこのままではひとりぼっちのままだ。

さんは騒がしい人だし、レッドさんもおれもあんまりマサラにはいない。
けどマサラはいつもあったかくて、側に誰かがいることができる。
だけどここでは無理だ。
どんなに好きな人と一緒に居られても。

「それじゃぁだめなんだよ!!」


ひとりぼっち。

その言葉に、ミィがようやく気付いてくれた。
リザードンがエンテイにたおされたとき、エンテイをとめてくれたのはミィだった。



―――ようやく終わった。

ミィが自ら“外”に出ることを願い、閉ざされた結晶塔は花開くように・・・


「パパ?」
「エンテイ・・・」

《わたしはお前をしあわせにするために生まれた。お前の幸せがここではなく“外”にあるというなら》

幸せを願う父親として生まれたエンテイ。
エンテイはミィの夢の中に帰るのだろう。


――と思ったが。
突如結晶が暴走を始めた。

そのせいでツララのように鋭くとがった結晶が地面から飛び出してくる。
みんながそれに慌てる中、誰かの声が聞こえた。

「・・・・さん!!」

あれは誰かの声だっただろう。
声に誘われるようにみんなが上をみて、鳥籠のような檻を今にも貫こうとしていた巨大な結晶に、さらに悲鳴が上がった。
それにみんながさんのことを思い出す。

シャランと金属がこすれるような音がした気がした。
それは結晶の割れる音。

『〔はかいこうせん〕!〔まもる〕!』

凛ととした声が周囲に響いたかと思いきや、ゴォー!!と天井付近の鳥籠からとんでもない光があふれ、パキンと檻の格子が砕け、その勢いのままに檻を貫こうとしていた結晶が砕かられる。
その光のなかから、金色に輝くものが飛び出してくる。
身体を特殊な技で守ったホウオウが、背にさんをのせておりてくる。


『なぎはらえ“ホウサクさん”!〔ゴッドバード〕!!』

おれたちの側でホウオウの背から飛び降りてきたさんが、いまとなっては唯一の出口となった階段へ向かえと指示を出してきて、それに慌ててみんなが階段のところまでかける。
エンテイが次々とはえてくる結晶から階段の入口を守っている間に、さんの指示で翼を技で光らせた“ホウサクさん”がおれたちのために階段までの道を開いてくれる。

さすがの結晶もホウオウの技にはかなわなかったようで、いっとき結晶の進行速度がにぶる。


『もどれ!いくぞホウサクさん!』

「ありがとうエンテイ!“ホウサクさん”!」
「あいかわらずとんでもない赤ジャリにゃ〜」
「いやいやとんでもないのはホウオウのほうでしょうに」
「いいからはやく!」

「リザードン、ミィをたのむ!」
「ぐわ!」


階段を駆け下りながら、博士に連絡を取ったところ、結晶塔を包み込む花弁が開いたかと思ったら、いままでにない速度で結晶化がはじまったという。
どうやらアンノーンの力が暴走しているらしい。

ミィを背に乗せたリザードン、さんとママをのせた“ホウサクさん”を先頭に、階段を駆け下り、おれたちは広間でようやくアンノーンをみつけた。


クルクルと踊るように宙に円を描いて回っているアンノーンたち。
あれを突破しないといけない。
暴走を止めるんだ。


「ピカチュウ。リザードンたのむ!さんもたのむ!」
『だめだよサトシ。ホウサクさんは力が強すぎる。
オレたちは、攻撃じゃなくてお前たちを守る方に回らせてもらう』
「あ、ありがとうさん!」

「いっけぇ!ピカチュウ十万ボルト!」

ピカチュウとリザードンに円を描いている大量のアンノーンたちに攻撃を仕掛けるように頼むが、逆に暴走が悪化し、結晶がつきでてきておれたちが入ってきた出入口をふさいでしまう。
さんとホウオウはその結晶からおれたちをまもってくれてる。
けれど扉までふさがれては前にも後ろにも行けない。


「グォォォォォォ−!!!」

逃げ場はなくなり、ポケモンたちの攻撃はなにかしらのネンリキのような効果ではじかれてしまう。
そんなピンチのなかで、エンテイが現れた。
けれどエンテイもはじめはアンノーンたちの防御に押されてしまって、それでもエンテイはミィのためにと諦めることをしなかった。

「ミィ!エンテイを信じろ!」

あのエンテイを生み出したはずのミィに告げる。
お前の願いがエンテイを作った。なら彼女の願いはエンテイの強さにも関係するはず。

「パパ!!」

その強い願いに、ようやくアンノーンにエンテイたちの攻撃が届く。
そうして強さを増したエンテイは、ピカチュウたちとともにアンノーンの暴走を止め――。



エンテイは再びミィの夢に。
アンノーンは空間を超えてどこかへ消えていく。





**********





「これが本来のグリーンフィールド」
「きれい」

『ちょ!?なんでユッキーのやつ警官まで連れてくんだよ!?』

結晶が消え、外にでたおれ達を迎えてくれたのは、ホウサクさんの翼のように七色に色づく、雄大な花畑。
それに魅入っていたおれたちだったが、向こうの方から博士たちがやってくるのを見て、さんが、突如顔をひきつらせた。

ホウオウを連れているさんしかり、ロケット団しかり。
結晶が消えたことで館にやってきたパトカーをみて、さんはホウサクさんを呼び出すと、そのまま博士たちを待たず飛び立ってしまう。
途中で塔の上の方にあった窓まで近寄ると、なにかのポケモンにつるのむちをださせて、塔の上の方にいたらしいロケット団三人(二人と一匹)を簀巻き上にして、そのままひきづりだすと、マッハスピードでとんでいってしまった。

空の彼方に消える金色の光がキランと光って、「やなかんじぃ〜」というなさけない響きが空の向こうから聞こえたのに思わず笑ってしまう。


「あのお兄ちゃんたちはどうしたの?」
さんとロケット団は警察におわれてるんだよ」
「え。わるいひとたちなの」
「赤毛のお兄ちゃんは悪くないんだけどねぇ。仕事をさぼりすぎて捜索願出されてるんだよ」
「そっか。またあえるかな」
さんなら、呼べばすぐにあえるよ。警察がいなければね」



後日。

アンノーンの暴走が収まったことで、現実空間に戻ってくることができたシュリー博士が、奥さんとよりを少し戻したらしい。
ママたちの提案もあり、ある程度大きくなるまでミィはマサラタウンで暮らすようだ。

あの事件以降ミィは、さんとメールやらでやりとりしているらしく、もらったプレゼントに目を丸くしていた。

『ミィに友達になってほしい奴がいるんだ』

そうしてミィに贈られたのは、ひとつのモンスターボール。

でてきたのは“ワンコ”と名付けられた色違いのエンテイだったそうだ。
ミィのパパたるエンテイとは、性格も色も・・・格もなにもかも違う――本物のエンテイ。
シュリー博士の助手さんは、それをみて腰を抜かしていたらしい。
博士自体はさんだからと、苦笑していた。

『その子は、君の“パパ”と同じ種族というだけで、別のエンテイだ。でも消えたりはしない。
それと“パパ”とくらべないでやってくれるかい?その子は“パパ”とはちがって、とっても弱虫なんだ。でもミィの“友達”になりたいんだって』

同じ種族だからと、あのエンテイのかわりにしないでくれ。
そうさんは言った。
まだ小さいミィには難しい言葉だ。
でもさんはできるだけ言葉をくだして―――

っというか、どれだけその色違いのエンテイがダメダメの弱虫のヘタレであるかを語った。

ミィは“パパ”と同じなのにちがうんだねと。本当に子犬のようにふるえてどうしようもないエンテイに笑った。

ミィは頷いて、その気弱でどうしようもないエンテイをひきとった。
はじめはおびえてヒメグマにも近づけなかったらしいエンテイ“ワンコ”だが、いまはミィたち仲良くやっているらしい。










原作と違ってミィを身内に引き入れることに成功した
それにより一年のうちほとんどをマサラのサトシ邸か、オーキド研究所で過ごすことなったミィはといえば――


『よし。ミィちゃんゲット!』
オーキド「ようこそマサラタウンへ!」
ハナコ「これからよろしくね」

ミィ「よろしくね博士、ママ、お兄ちゃんたち!」



***



ミィ「やったー!」
ハナコ「どうしたの」
ミィ「みてみてハナコママ!“ワンコ”がついにコラッタに勝てたの!ようやくキャタピーより強いのと戦えるようになったのよ」
ハナコ「まぁ。よかったわねぇミィちゃん」

ケンジ「さんにあずけられてすぐにグリーンフィールド事件がおきたから、 ボク、あのエンテイのことあんまりしらなかったけど。
キャタピーにも勝てないエンテイて・・・」
オーキド「ふぉっふぉっふぉ。のポケモンは個性豊かじゃのう」
ケンジ「むしろトレーナーになってない子の手持ちにエンテイ(伝説)がいていいんだろうか」
オーキド「穏やかな性格のようじゃし問題ないじゃろ?」
ケンジ「いや、性格とかじゃなくて。伝説・・・」



***



サトシ「あ、もしもしシゲル?久しぶりだな。元気だったか?実はさおれ妹ができた」
シゲル「はぁ?」








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