劇場版 『結晶塔の帝王エンテイ』 1話 |
そこに映るのは思い出 三世代分の幼馴染みたち そして―― そこにいつも ひとつだけ たりないの -- side ハナコ -- ジョート地方。 グリーンフィールド。 そこにあるスノードン邸より、突如花畑が結晶にのまれていく。 シュリーとミィという名前がTVで流れたとたん、私は手にしていたものを放り出し、台所へとかけた。 テレビで見知ったその建物から周囲が結晶に飲まれる様を目にして、一番最初に思い出したのは――写真だった。 そうして冷蔵庫にはってある何枚もの写真から、一枚を掘り出す。 そこにはられた写真に映るのは、全員が笑顔に満ち溢れた集合写真。 思い出が詰まったそれは、サトシがまだ旅に出てもいなかった頃。 若干古ぼけた写真に写っているのは、今テレビで名のあがったシュリー博士。 そしてその娘のミィ。このときの彼女はまだまだ小さかった。 ミィを中心に、その横にワンパクざかりなサトシとシゲルがならぶ。 そんな子供たちを背後から全員を抱きしめるように、シゲルの姉が抱き着いている。 四人の子供たちの側には、シゲルによく似た青年が森のような翠の瞳を柔らかく細めて、傍らのピジョットをなでている。 そんな青年に寄り添うように、青い瞳の女性が笑みをたたえている。 その様子を自分を含めた大人たちが、笑いながら見守っている。 大人組は、左からオーキド博士。そしてシゲルたちとナナミさんのご両親たるオーキド博士のお子さん夫妻。 シュリー博士。その横には彼の奥さんが。そして自分だ。 ひとり、足りない。 いつものことだ。 オーキド博士も、グリーンもブルーさんもいながら、【赤色】はここにいない。 当然だ。 だって彼は――・・・。 そして、サトシが生まれてから十年。 一度でも“あのひと”とサトシが共に映った写真はない。 ひとり足らない写真なんていつものことだ。 「もう、十年になるのね」 片親だけでサトシを育ててきてそれだけの月日がたった。 サトシは誰に似たのか、旅に出て戻ってきてはすぐに別の場所へ旅に出てしまう。 だから寂しいなんて言ってられない。 サトシは男の子だから――。 それに彼やあのひとの血を継いでいるのだから。 やがては旅に出るのもわかっていたこと。 そうして男のは大人になるみたい。 ひとりでどんどん先に進んでしまうの。 ふふ。もう母親なんて必要なくなってしまいそうね。 ――でもね。 「ミィちゃんはちがうのよ。シュリー博士」 そう。まだミィは幼い。 なによりサトシとはちがって、彼女は両親とずっと三人で過ごしていたのだ。 ミィはまだ一人よりも共にいたいと思う年齢だ。 けれどシュリー博士と彼の奥さんは別れて暮らすようになってしまい、博士は仕事の都合で家を空けることが多い。 そうなればミィはひとりぼっちだ。 その心に呼応して、なにがきっかけはわからないが、エンテイは現れた。 だからシュリー博士の館は、結晶に飲み込まれた。 テレビの中でも結晶化現象はひろがっていくのがわかる。 きらきらきら。 どんどん飲み込まれていく世界。 色とりどりの花畑でさえ、結晶は飲み込んでいく。 「キラキラしていて綺麗・・・でも」 まるで寂しいと泣く、幼い彼女の心が流した涙が、そのまま世界を飲み込んだようにも見える。 「どこにいってしまったのシュリー博士」 はやく。ミィちゃんを安心させてあげてほしい。 シュリー博士行方不明の報道が耳に響く。 皆が笑顔であった頃の思い出が詰まった写真を握りしめ、私も決意を決める。 どうしたらいい? わたしは―― ふいにテレビの中、その空を一瞬、金色の光が空を走ったのを見た。 流れ星のような一瞬の光。 「あれは・・・」 カメラのレンズに何かが反射しただけと思う人もいるだろう。 だけど、私はすぐにわかってしまった。 何度も何度も見てきた輝き。 其れ同時に誰かの言葉を思い出す。 “どうしたら”なんてしるか。お前が“どうしたい”かだ。 あの光はもう何十回も見た。 サトシの旅立ちの日にも見た。 十年前に、最後に泣いたあのときも・・・。 それをみたら、じっとなんてしてられなくなった。 そうよ。このまま待ってるだけなんて嫌。 わたしだって。昔はおてんばだったのよ。 サトシにまけないぐらいおてんばだったの。 いかなきゃ。 うん。そうね。 いってくるわ。 ねぇ《 》。 わたしに勇気を頂戴? 写真には映っていない《だれか》の姿を思い浮かべ、私は写真をそっと抱きしめる。 ミィちゃんをひとりにはしないわ。 “まっていて――” 「バリちゃん!ちょっといってくるわね!」 ソノ 写真ヲ 撮ッタノ ハ ダァ レ? |