不思議お兄さんは何役者?
- ポケット モン スター -



01.旅するウェイター





 オレの名は 黒筆 (クロフデ ) という。
この世界では“マサラタウンの”というのが打倒だろう。


『いらっしゃいませ。当店のおすすめメニューは、お日様ニコニコ定食になります』


 きっちり45度でおじぎをし、ニコニコ笑顔で、客をまねく。
 お客様を店内へと招いたその直後。なんとなく背後に“馴染みまくった”気配を感じたので、 奴が姿を見せる前に、裏拳をかますように手にしていた丸いおぼんごと片腕を持ち上げる。
それと同時に、ガン!と派手な音がして「みゅぅ〜」と小さな声が聞こえる。おぼんの表面は“ナニカ”の形に変形していたが、見ぬふりをする。
みごとにお盆に何かが直撃し、“姿の見えないソレ”がそのまま逃げ帰ったらしいのに満足する。
音にギョッとして振り返った客には、『どうかいたしましたか』と先手で言葉を投げかけ有無を言わさぬ笑顔で、そのまま席へ案内しメニューを渡した。

このおぼんは―――廃棄だな。



 オレは今、とある町のレストランでウェイターをしている。
もう何年もこういったバイトをしているせいで、そろそろ営業スマイルのオンオフが自在にできるようになってきた。
前世では一回営業スマイルをして顔の筋肉痛になったのに。
人間って、かわるもんだなぁ。


 まぁ、こうなるまでになった経緯はといえば、アレだ。あれ。
オレにとってこの世の始まりは、やはりアレ。

プリンのドアップ攻撃から始まったのは間違いない。





 

side 夢主1
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 もう何度目か。随分慣れてしまった死と転生の末、気がついたら森に居た。
しかもなぜかオレは、ハイハイがやっとの子供の姿になっていたというオマケつき。
なまじ前世は二百年生きた猫であり、猫生活が長かった――そう。まっとうな人間ではなかったため、初めのころは二足歩行ではうまく歩けず、とういのはたてまえで。 赤ん坊の身体はとてもふにゃふにゃ。
しかも未成熟であるため、立ってあることもできない。
本当にハイハイを少しするのがやっとだった。
しかも周囲に人はいない。
赤ん坊だから話すこともできなかった。
なんとか転がるようにゴロゴロしながら移動をするのがやっとで、一日に数十メートル動くのがやっと。
そんなこなでなんとか森をでて、ようやく人間に保護されたときは、 この世界で目覚めてからゆうに六週間以上はたっていた。
もちろん森にカレンダーがあるわけではないので、太陽と月の数を数えていた。
 運がいいことに、オレは生前は人ではなく動物であったためか、ポケモンの言葉は理解できた。
そのため食べ物はポケモンたちが木の実とか持ってきてくれて頑張れた。
おかげで森の中でも襲われることはなかったしな。
 そうしてなんだかんだで、ポケモンの力も借りつつ森を抜けることに成功したのだ。
やはりポケモンの言葉が理解できるとはいえ、人の姿であるのだから人間らしく暮らしたいじゃないか。
 目を覚ました時点でほぼ赤ん坊という年齢からのはじまりは、とても大変だった。
こんないたいけな赤子を森に放置とか、なにをなさる!?まさか育児放棄!?
可能性の一つとして、もしかすると捨て子に憑依系の転生かとも思えた。
しかし森を出て、すぐに保護された町だか村だかで確認を取ったところ、 捜索願などいっさい出されておらず、あげく調べても戸籍らしきものがヒットしなかったらしい。
つまるところこの身体は親に望まれていない。か、誘拐されてそのまま放置されたかのどちらかだろう。
とりあえず、どこのだれかもわからないということだけはわかった。
考えたくはないが・・・もしかするとこの世界で新しく肉体が構築しなおされたため、両親を必要としないで自然発生したか。
いや、一番最後だけはやめてほしい全力で嫌だ。

まぁ、その辺はぶっちゃけ、どちらでもいい。

 オレが“今”生きている。
それだけがオレを動かす。


 ちなみに森の名前は、やはりトキワの森だった。
オレ、無事でよかったよ!
 そして保護された先は、定番のマサラタウン。
どうやらあのトキワの森から道に迷って、とにかく人の気配の方へと進んだら方角を間違ったようだ。
マサラタウンなんて、某主人公たちの故郷じゃないか。 やっかいごとが多そうな人物と遭遇しそうでたまらなく嫌だなぁ。そう思っていたり。
だけど子供というかむしろ赤子な自分が一人で暮らすことができるはずもなく、新しい戸籍血のつながっていないだろう新しい両親。そして住む場所を、あまんじて受け入れることとなった。
 とはいえ、おかしなことに、時間がたつにつれ、両親と自分にいくつかの共通点がみえてくる。
髪や目の色顔立ちなど意外と似ている。
しかもいつのまにか、自分は彼らの実子という扱いになっていた。
驚いたことに養母はオレを生んだときの腹の痛みは〜などと、いろいろ有り得ないことを語りだす始末。
成長した後役場にいったが、書類はみごとに実子に書き換えられていた。なお修正の形跡はどこにもなかった。
つまりオレを彼らがひきとり、オレの親となったじてんで、一度世界の修正がかかっていることになる。
もしかするとひきとるよりも前、オレが森で自然発生した時点で、両親は世界によって用意されていた可能性もある。
まぁ、詳しくは、オレには判断する術もない。
ただ、世界がまるでオレを受け入れるように、オレの周囲の環境が整っていくので、ありがたく受け入れることにする。

 ひきとられる、発生する――いや、生まれたともう表現してもいいだろう。
この世界に生まれたときからオレは、ただのこどもではなく、すでにいくつもの前世の記憶があった。
だから親なんていなくても、本当は一人で大丈夫だ!と・・・言いたかったのだが。
ポケモンと2か月近く暮らしていたせいか、最初は言葉に不慣れで、人間として生活を始めてからしばらく言葉に不自由してしまったという事実があったりする。
おかげで一人暮らしを始めたのはずいぶん後のこと。

そんなこんなで、マサラタウンで育ちました。





 

**********





 

 ――この世界に自然発生してから、あっという間に年月は流れた。

 オレは幼い赤子の姿から、立派な二十歳の成人男性ぐらいにまで成長した。


 そしてオレは、周囲でやたら目撃する白くて桃色な物体の正体を知ってしまった。
なぜ、お前がいる?
そう思ってやまないほどに、オレの周囲で白桃色のポケモンが出現する頻度が半端ないのだ。 むしろ人前にいることよりも、お前という存在そのものに唖然としたが。
もう、あれストーカーって言ってもいい気がするよ。

 ちなみにそのポケモンの正体はなんと【ミュウ】だった。
もちろん本物の、かのポケモンの始祖にして、幻のあの【ミュウ】である。

 最初の出会いはなんだったか。森でだったかなぁ?そこらへんは、覚えていたくなくてもう忘れたが・・・奴との出会いは、ミュウの一方的ない解釈によるものである。
転生したオレをひとめみて、《自分に近い存在…な、気がする》とミュウはほざいた。 そしてそのまままとわりつかれるようになったのだ。


・・・・・・。

うん。この際、ストーカーのことは忘れよう。


 ミュウは、この世界で暮らし始めて、しばらくしたらもうオレの周囲にいたんだ。

 あの白桃色のポケモンは空気だ。
そう思うことにしよう。
そうでなくては、説明が面倒すぎる。
 だって、最近ではついに人間の習性を理解し始めたらしく、写真を撮るとき、オレの背後で《ピース》とかしてやがった。
しっかり姿を見せた写真じゃないので、ぼやけたなにかがオレの背後に背後霊のごとく映っている程度なのだが、そのぼやけた白い物体が間違いなく《笑顔》で《ピース》していたのだけはわかった。
それをみたときは、もうだめだ。と思ったね。魂が抜けかけたよ。
むしろ伝説のポケモンが何してんだよと思った。
もちろんその写真は捨てた。

 そもそもオレのパートナーって、ホウオウよ。
なんでって、相性がいいから。それだけだしー。
 それ以外にもやたら伝説ポケモンとの遭遇率も高く、そのまま「おれをつれていけぇ〜!」となぜか必要以上になついてくるやつらをしかたなくゲットしていたこともあり、 ぶっちゃけ手持ちが伝説とよばれるやつらばっかり。
おかげで、伝説とか幻とかもうどうでもいいとか思い始めてるしな。
結論。オレのなかでは、伝説だろうが神だろうが幻だろうが、ポケモンはポケモンでしかないということ。
つまり、空気も空気だということだ。

 うん。空気(ミュウ)なんかしらないよ。
空気だから目にしても気にならないんだ。
そういうことにしておこう。
あれのことはひとまず忘れよう。


 さて。話がそれたな。
戻すぞー。

 オレだって、この世界に来てから、いっきに二十歳ぐらいの若者になったわけではない。もちろん十代の子供時代はきちんとある。
今回はずっと子供のままでもなければ、何百年も生きたねこではない。
普通の人間らしく――とはいいがたい旅をいろいろしてきたが、いちおう今世ではいたって普通の人間なのだ。
十代の頃には、世界のルールにのっとってポケモントレーナーになろうと旅もした。
と、いってもそれは昔のこと。
今は、もう夢見る子供時代は卒業したんだ。

 今まさにトレーナーである十歳の子供たちからしたら、オレはいい年したおっさんであろう。
ただし成長が相変わらず遅いので、本当の年齢通りにみてもらったことはない。
生前もずっとそうだった。ここまできたら、その成長が遅いのは転生の影響じゃないかと思って諦めもつく。
 そんなわけで、もういい年したおっさんにさしかかりぎみの、でもまだお兄さんでいたいお年頃のオレ。
ただいまバイトしながら生活してます。


 今のオレの仕事は、レストランで働くバイトのおにいさんだ。
まぁ、簡単にいえばバイトで、ウェイターをしている。
 少し前は、育て屋のじいさんのところで、ポケモンの世話のバイトをしていた。
コーヒーの美味しい喫茶店で働いて、味を学んできたこともある。
その前にはジョウトあたりで発掘の手伝いをしたこともあれば、釣り人さんに伝統の釣りの仕方を伝授してもらったこともある。
 なぜに今回は、ウェイターなのだ?と思うだろう。
せっかくのポケモン世界なのにトレーナーにならなかったのかといえば、【すでにそれほど若くない】の一言に尽きる。
 オレだって旅をしたさ。
ただしそんな冒険あふれる物語は、オレが十代の頃の話だ。
今は喫茶店で働く方が楽しいので、すっかりトレーナーを引退してしまった。



 なお、この世界は複雑だ。
なにせゲームの主人公たる《レッド》と、アニメ主人公である《サトシ》がいるのだ。
この世界はどこかの二次創作のように、同じ時代に二人がいるような混合世界ではなく、今より数十年以上前の過去がゲーム軸。レッドが活躍した時代である。
そして今が、アニメ軸らしく、オレの故郷マサラタウンには《サトシ》がいる。


 アニメ主人公くんが十歳になり、マサラを旅立っていったのはほんの少しばかり前だ。
原作という意味では《サトシ》以外にもまぁ色々あるんだが、 ミュウのことよりさらに面倒な説明が増えるだけなのでそこは今ははぶいておく。


 とにもかくにも、レストランでウェイターとしておぼん片手に接客しているバイトマンなおにいさんなオレは、マサラタウン出身なわけで。 ちゃっかりサトシくんと知り合いであることを理解してもらいたい。
だからといって、夢物語のごとく、主人公の幼馴染や恋人、兄弟的な立場でもないし、主人公組みと旅をしたい。とか、彼にライバル認定されたい。 とかは、別に思っていないし、そのような立場でもない。
まず生まれた年代が違うので、価値観も話題も違うから無理すぎる。 そもそもオレ自信、とくに主人公とかに興味がない。
むしろこちらから断固拒否したいネタばかりだ。
主人公たちに関わりたい!なんてこれっぽちも思っていないが、故郷が同じでなのだから顔を会わせないはずがない。 だから知り合いという関係で終わり。 本気でそれ以上のことは、オレは求めていない。
さすがに細かいアニメシーンを前世の記憶から思い出すことはなかったし、だいいちオレの中身はウン百歳の年寄りでしてね。 あまり無茶なことはしたくもないし、トラブルに巻き込まれるなんて言語道断だ。 むしろ精神的にはかなりの高齢者なので、そろそろいたわってほしいとか思う。
 旅を続ける主人公一行にとって、オレのポジションはしょせん行く先々でバイトにいそしむ働き者のお兄さんでしかない。・・・・・ハズだ。むしろそうであってほしい。
まぁ、サトシにとってみれば、その程度の認識だろう。 そうでなくては、御年中身だけふけきっているオレは、疲労困憊(ストレス)でそのうちはげること必須。
たまに目の前で考えなしの無鉄砲な行動をされるとちょっといらっときたり、 思わず口出しをしたくなったり、 ついおちょくって遊びたくはなるが、それは年上の子供が通り過ぎ際に近所の子供に挨拶をして頭をなでて去って行く程度のチャチャや戯れ程度にすぎない。
 原作にはかかわりたくないです!
今回のオレの立場は、そんな感じだ。

 オレがそういう態度をとっていて、サトシにあまり接触をしなかったからか、原作をどうこうしようという気もさらさら無かったこともあり、 今回は本当にオレの周囲は平和だった。
オレが“主人公たちが集うマサラ”に生まれたこと以外は。
 まぁ、前回の世界はすごく騒がしかったからねぇ。そろそろマイペースに、まったり生きたいものだ。
そう考えると、この世界に転生してからは随分穏やかな毎日だと思う。
・・・たぶん。
 だって転生するたびに、死が近い世界で。
あげく、いつもなにかしら原作に巻き込まれていた。
 いまのオレは、なにごともないこの幸せな時間が長く続くことを祈りつつ、日々を堪能して過ごしている。
好きに生きれるっていい。
 それにこの世界の過去史にはゲームの主人公がいるんだ。原作なんかないも同じ世界なのだから、なにしたって自由だろう。
原作破壊?しったことか。だいいち原作そのものの中身をしらねぇよ。





 だからオレは

トレーナーをやめたあとも こうして―――







世界を 旅している。








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