不思議お兄さんは何役者?
- ポケット モン スター -



00.ポケモンじゃなくて悪かったな





 大切なことは、もう忘れたくはないね。
 オレは前世のことを忘れたことがある。
魂が壊れた日。
それ以前の記憶はほとんどなくて。
そうして生まれなおした。
だからオレが覚えているのは、魂が再生されたそのあとのことばかり。

 ―――その世界は 地面はコンクリなんかで舗装されていなくて。 時代背景は日本の江戸ぐらいだろうか。 人々は着物を着て 下駄をはいているような世界だった。
空にはエイリアンの宇宙船が飛んでいて(なんでだよ!?ってはじめはオレも笑った)。
へたをすればすぐに攘夷志士がどこかで爆発を起こしたり、 侍と宇宙人が事件を引き起こしては 真選組というあらくれ警官どもが武装して襲いかかってきたり。 侍たちが斬りあいを始めたり、忍やカラクリ職人が笑えない事件を引き起こしてくれた。
喧嘩が上等!下剋上なんかありふれた日常のように存在してはあまたの男どもが女やオカマによってふみつぶされることもざらにあった――そんなはちゃめちゃな町。

でもひとびとは、みんなキラキラしていた。


 だけど、どうやらオレは、彼らを置いて、死んだようだ。

 刀で斬られた。
ちょっとばかし大切なもんを守ろうとしたんだけど。さすがに腕を斬られたら反撃もできネェ。ってんで。結局、相手の技量を読み間違えたオレの負け。 無茶をしすぎたようだ。
こりゃぁ、もうダメだわ。
そう自分の状況を理解したのと同時に、視界が真っ暗になった。





 

side 夢主1
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 オレは死んだハズ…。
そう思っても、結局毎度のごとく意識が暗転するでもなく、逆に浮上する気配にため息がこぼれる。
どうやらまた転生してしまったようだ。

 死んでもすぐに意識が戻るのは、もう何度目の経験か。
数度の転生に耐え切れずオレの魂は一度壊れてしまったから、魔女によって再生される以前の前世ことはあまり覚えていない。
鮮明な記憶は、せいぜい【ONE-PIECE】とよばれる世界のことだけ。
あとはひとつ前の・・・ついさっきまでオレが生きていたあの銀色が息づく侍の世界のことだけ。

 オレが死ねば、生まれ変わる。
たぶん魂が壊れる前も幾度か別の世界を回っているはずだ。
くわしくはしらない。
ただ、感覚として理解しているだけ。記憶にはない。
 魔女と出会う前の転生は、たぶんだれの意図もなにもなかったはずだ。当時は偶然で繰り返していただろう転生も、いまとなってはこの転生人生を繰り返さねばならない。
これは魔女との契約の一環だ。
その証として左の薬指には、いつも青い指輪がはまっている。
この指輪がオレを生かす。


 そのまま意識の覚醒とともに目を開けば、始まる新しい人生。

 さぁ。今度はどこだ?
どこへオレをうまれさせる気だ?

指輪に問うも

―――答えは返ってこない。





 

**********





 

   ちちち・・・と鳥の声が聞こえた。
息をすれば、鼻につくのはむせ返るような緑の匂い。
目にまぶしいものがささり、その日差しの暖かさに誘われるように意識が新しい世界で産声を上げようと刺激され、暗闇が浮上していく。


 そして、今、目の前には――


ピンクのまんまる巨大な目玉


コワイわボケッー!!

 ゴホッ。しつれい。
つい目の前に巨大なピンクの目玉の親父・・・否、超ドアップで、なにかの生き物がいたものでつい。

 目を覚ましたとたん、目玉のドアップってどうなの。これにはさすがのオレもびびったよ。
ギョロギョロ動くしさぁ!!あまりの恐ろしさに、身体に心が引きずられるがままに泣いた。
オレがウン百歳だって関係ないね!
だってさ。だってだよ。 もしも突然目の前に巨大な――ドアップ&でかい目玉がこっちみてたらどうよ。
っ!!ムリ!怖いから!
本気で怖いから!!


 丸いピンクは、オレの泣き声に驚いたのか、ぷりぷり〜と声を上げて去っていった。
よくよく見てみると周囲は森だった。
まったく人気などない。人気はないが森に息づく生き物たちの気配は強く伝わってくる。
 今の目玉でかいピンクおばけのせいか、オレが泣いたことでか、わらわらと草陰からいっせいに“なにか”が飛び出していく。
さっきのピンク色なまん丸の存在もしかり、逃げ惑うその異形の姿をみて、なぜか親近感を抱く。
涙は止まらないし、自分の泣き声が予想以上に耳についてうるさく感じるが、その親近感の正体を探るべく思考だけがフルに回転していく。

 草むらの影からみえる姿に、しばらく記憶を探っていれば、ふいにおかしな記憶がよみがえってくる。
これはオレの魂が壊れる前の記憶だろうか。
ゲームやアニメをみながら、友達とそのモンスターについて語り合っている光景が浮かぶ。
なるほど。
今の記憶でだいたいを把握できた。
どうやらあの記憶を参考にするのなら、いまオレを覗き込んでいたピンクの丸い生き物が何かも納得できる。
そして森に身を潜む生き物たちを再度確認して、納得する。

前世の記憶が間違ってなければ、さっきの丸いピンクは【プリン】だ。




―――うん。ここ、ポケモンの世界だね。





 そしてオレはどうやら縮んでいるらしい。
視界の高さと、見える範囲の身体を見下ろしてみれば、ようやくハイハイできるぐらいまで縮んでいた。
どうりで感情に反して、涙は出るは、声を上げて泣いているわけだ。声がやたら甲高いのもそのせいか。

ぷにっとしたちいちゃな自分の手に――さらに泣きたくなった。


 だれだよ。こんな小さな子供を森に放置したの!!
ポケモン世界でもトキワの森とかだったら危ないじゃないか。
たしかトキワの森の設定は、漫画でもゲームでもアニメでも結構危険度が高かった気がするし。


『…ぐす…ぐすぐす…』

 心は身体にひかれるとはよく言ったものだ。どこの世界の誰の名言だったかな?
なぜか今は身体に心がひきずられているらしく、先程の恐怖を引きずっているせいで涙が止まらない。
 しかもお子様の姿で森の中に置き去り状態。
周りは知らない動物の影。息づく気配はきっとポケモンのものだろうが、人間のそれはない。
 泣きじゃくるオレをポケモンたちが遠巻きに見つめている。
視線が痛い。
けれどここのポケモンたちは穏やかで、オレに大声にビクビクしてはいるものの、襲ってくる気配はないのでほっとする。

 だけどね。
このままでは、オレはこの優しき周囲のポケモンたちによって、某狼少女のように森の中で育てられてしまいそうだ。

まったくもって、この身体の親でてこいやコンチクショウめがっ!!





―――みゅ?



『・・ぐす・・・ぐす・・ふぇ〜ん、ぐすぐす・・・ぐす』

おい、まて。
いま、なにかいなかったなか?


視界に淡い桃色の光がよぎったような気がした。





 

**********





 

 思い出した記憶。
いつの前世だかは忘れてしまった。
生まれ変わる以前のどこかの世界でのこと。


「もしもポケモンの世界に行ったら、)はトレーナーじゃなくてまちがいなくポケモンだよね」といわれていた。



 オレはオレのことをよく理解している。
だから自分でもそうだろうなとは思っていた。


友人達いわく、「なら、そのままトレーナーなしで最強伝説作りながらR団も倒しそうだよ」と笑いをもらったことしばしば。


 なら―――

サトシのピカチュウになりかわって、サトシを叱咤しながら過ごしていそう。
ピカチュウか水系のポケモンになっていそうだ。
強さとか普通なのに、なぜか色違いで、みんなに狙われるポケモン。
伝説のポケモンになって暴れていそう。
などなど。

 なら――その言葉から始まるオレに対する周囲のイメージはいろいろあったけど、彼らの見解はみな一致している。
”という存在はポケモンに生まれ変わる・・・と。
とにかく“”に関しての友人たちの意見は【のポケモン世界転生後は人外設定間違いなし】と、ひどく偏っていて、 お前がトレーナー(=人間)になるとはとうてい思えないし想像もできない。と聞いたひとびと全員に即答された。


 そんなオレがやってきたのは、これまたみんなが口うるさく言っていたポケモン世界。

 友人たちの期待を裏切って申し訳ないが、今回のオレは人間だった。
面白いこと大好きで長生き(転生)しすぎて若干ひねくれた性格のオレは、本当に好き勝手生きることにした。



 まずは、衣食住の確保だな。
そうでなくては、人間でありながらポケモンの仲間入りをしてしまうという――友人達の言そのままといってもいいことになりそうなので、これは譲れない。

だってせっかくの人間なのだから――
好きに生きなくてどうする。




















ところでさ。



やたらと、視界をよぎる白っぽい桃色の―――  あれ、なに?








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