10.永遠にこの物語は忘れない |
すべてを本当の意味で終らせるために。 すべてを清算するために。 新しい未来を救うため。 銀「やってやろうじゃねぇのさ!」 -- side 坂田銀時 -- ---- 十五年前。 ときはさかのぼり、攘夷戦争時代。 未来を取り戻すために、すべてに決着をつけるべく、こうしてわざわざこの十五年前の世界に戻ってきてやった。 ここで“おれ”を殺す。 この手で。 それが未来を救うただ一つの方法。 時間ドロボウが申し訳なさそうに(といっても顔はカメラだ。表情などありはしない。ただそんな雰囲気だったとだけいっておこう)――謝られた。 時「銀時様、お許しください。私は未来のあなたの願いにより、未来を変えるためにつくられた存在。ゆえにどんな犠牲を払っても未来を取り戻さなければいけなかった。たとえそれがあなたという存在が消えた未来でも。それでもわたしは・・・」 銀「なかったことにはならねぇよ。たとえみんなが忘れちまっても」 あいつの主はあくまで“未来の坂田銀時”。 過去の坂田銀時――今のおれではない。 いいさ。そんなわかりきったこと言うんじゃねぇよ。 “それこそ”野暮ってもんだろう? “そんなこと”でいちいちショックを受けてやれるほど、おれはこの状況を受け入れてはいない。 それでも覚悟は・・・できちまったんだよ。あの夕日のターミナルのなかで“未来の坂田銀時”と出会ったときから。 消える覚悟。それができていなかったから、はじめからこんなところまで「ハイ、ソーデスカ」とノコノコついてきたりはしない。 銀「おれは、忘れねぇから」 おかしなもので。これはどうみても卑猥なものであるはずなのに、あいつらとのつながりの証となってしまった――アダルト映画の来場者へのオマケの三位一体のフィルム。 それをもう一度見て。 それをおれの想いとともに・・・。 銀「だから伝えてもらえるか? お前らと万事屋やれて楽しかったって、よ」 時間ドロボウにたくした。 おれの思い出はテメェにたくした。 フィルム(思い出)を時間ドロボウにたくしたせいで、空いた手。 この手は未来なんてどでかいものをつかむために空けた。 空っぽの手。 この手が次に持つ物は、思い出なんて生易しい物じゃない。その思い出さえ断ち切るもの。 もう決まってんだ。 腰の木刀に、を、かける。 銀「万事屋、坂田銀時――」 むしろここまできたら、誰がどーのというより。 やるしかないだろ!! 崖の上からだと戦場がよくみえる。 異形の天人たちの間を、地球人らしい同じような背格好の侍たちが、刀を振るっているのがちらほらみえる。 なかでもひときわ強いのが、一直線に敵の母艦を目指している。 あいつは髪もまとう羽織も白く、この土埃舞う戦場のただなかにあってもおかしなぐらい目立っていた。 すぐにわかった。 あいつが“オレ”だ。 鼓動がドクンと早まるものの、服の上から胸をつかうようにおさえつけて、無理やりやりすごすと、大きく深呼吸し、冷や汗で滑りかけた木刀に力を込める。 さぁ。準備はできた。 銀「――まいるっ!!!」 覚悟を決めて崖から駆け下り、おれもあのときのおれと同じように、一直線に突き進む。 人間だから。だから天人からしたら侍とは装いが違うおれも敵なのだろう。そう判断したらしい天人が迫りくる。それらすらも目的のために切り捨てる。 崖から降りた勢いも相まって、すぐに“白い奴”に追いついた。 おれの前を走る白色の野郎の胴体をつきさすように、木刀を背後からさした。 ぐさり。鈍い音がして、おれの木刀は〈白夜叉〉と呼ばれていた十五年前のおれをつらぬいた。 ********** 「っほれいそげ!やれいそげ」 「旗は用意できたか?戦に行くならやはり旗は重要だからな」 「旗って・・・ちゃんと注文したんだろうね!え!?まだとどいてないんだって?ふざけんのもいいかげんにおしよ!ちゃんと【万事屋】って書いとくれと言ったじゃないのさ!!だれだい注文間違ったのは!!!」 「いたぁ!ちょっ!やめてエリザベス!こんなとこですぶりやめろよ!アタタタ!!角があたってるちゅーの!いたいわぼけが!!」 「まって!エリザベスさん看板こっち!それ卓球のラケットだから!」 「うぉー!!!エリザベスゥー!!!!!おまえはマッチョの姿より、こっちのまるっとしたフォームの方が最高だ!それでこそエリザベス!!」 『こらコタロウ!遊んでないでキリキリはたらけ!』 「あ〜ん!シロウお義父様ぁ!!私も参加させてくださいな!なんたって愛しの銀さんのためだもの!」 「うるさいだまれ」 「なによもう!ツッキーだってうかれてるじゃないの!」 『おいこら、さっちゃん邪魔。ついてきたいならきてもいいから、オレの腰に巻きつくな。動けねぇだろうが。・・・あと、その手の動き、やめてくれません?』 「あ、シロウさーん!ヅラわすれてやすぜ!!白い毛がみえてます」 「ヅラじゃない!桂だ!」 「おめぇーじゃねよ!!!」 『おーい神楽ぁ。弾の予備はしっかりもったか?』 「持ったアルね!いくよ新八!!」 「神楽ちゃん待って!!それオマルだから!!なに持ってく気だ!!」 「アンタたち、店の酒も好きなだけ持っていっていいよ!今日は無礼講さね」 「ワッタシモ飲みたいネェ!」 「手ぇだすんじゃによキャサリン!それは十五年前の奴らに飲ませんだよ!」 「土方さーん!地雷とかいります?」 「どうせなら地雷よりいいもん持ってきやしょうぜ」 「戦車とかはさすがに無理ですよね〜」 「――さぁて、いくかね」 「おい、タマ」 「はい源外様。 それではみなさん、準備はいいですね?」 「あ、まった!マダオだけ先送っといてくれねぇですかい」 「え!?おれぇ!?」 「いやぁーエネルギーいくらでもある世界っていいよなぁ」 「え?ちょ!?ちょっとなんで俺だけぇ!!!!!」 「マダオ!酒しっかりとどけろよコノヤロー!」 「なんのためのみかんだと思ってんだ?そこらの鎧よりも頑丈なんだからなダンボール重ね合わせは!!!」 「ひー!暴力反対!!」 「「「「よし、いってこいマダオ!」」」」 「いやぁぁぁぁぁぁ〜!!!!!!!!!!!」 ********** ―――串刺しにするように。おれの木刀の先端が、やつのむなもとからとびでている。 これで・・・ これで、ようやく。 よ う や く 銀「これでしめぇだ」 過去のおれを背後から突き刺したことで、ようやく肩の荷が下りる。 そう、おれが安堵の息をついた。 まさにその瞬間。 「ああ、しめぇだ」 ・・・・っと。 マダオの声がした。 マ「しめぇだ。テメェの取り戻したろくでもない未来はな」 銀「・・・・・」 つらぬいたはずのおれは―― “過去のおれ”なんかじゃなくて、マダオだった。 長「ったく。あぶねぇな。あやうく本当に死ぬとこだったぜ」 銀「え?えぇ!!!!!ちょ!?まて!なんで“おれ”が!?なんで銀さんがマダオになってんだぁっ!?」 長「そりゃぁそうだろう。銀さんは“マダオ”だろ」 銀「いや!そりゃまた先のはなしだろ!このころの銀さんは違うからね!」 振り返ったのは、過去の〈白夜叉〉のコスプレをした長谷川で、頭の白い髪はカツラだった。 しかも鎧の代わりに、羽織の下は、何重にも重ねたららしいダンボールで武装していた。 鬘とか鎧とか、準備がいいな、おい。 そしてどうやらはめられたらしい。 長谷川ことマダオいわく、ひとりでさびしいだろうと酒を持ってきたとか。なんなの!?もってきたってどこから!? っていうかマダオ。お前いつの時代から、何しに来たんだよ! 長「いまも昔もお前らは変わらねぇな。いい酒持っていったら、見知らぬ俺とドンチャン騒ぎだ。今頃二日酔いでつぶれてる頃だろ。 それで、さすがにわるいなぁと思って、俺が代わりに戦おうと」 しかも一緒に飲もうとか思った酒を、結局すべてこっちの世界のおれにふるまったとか。 つまりなにか!? こっちのせかいのおれは、酒を飲んで寝てるのか!? 銀「・・・・・・え。ちょっと待って」 長「ん?」 銀「酔いつぶれてる?ちょっと待って。じゃぁ・・・」 今日、ここに“おれ”こないの? ひょっとして。 ひょっとして―― 魘魅まだピンピンしてるのぉー!!!!!!!! 愕然として、魘魅のいる母艦をみれば――案の定、いまだに無傷でピンピンしている魘魅と、その手下の唐笠軍団〈星崩し〉がヅラリと甲板の上できれいに整列して待ち構えているのが遠くからでもよく見えた。 銀「なにしてくれてんのぉ!!せっかく未来変えるためにここまできたのに!!!」 思わずマダオ(長谷川)につかみかかる。 だけどここは戦場だ。 おれの大声にか、それとも恰好のせいでか、天人たちが〈白夜叉〉の存在に気付いた。 戦場で白いかっこうは目立つ。 おかげで天人たちが言っている〈白夜叉〉がおれのことなのか、それともコスプレ中なマダオをさしているのはかはわからないが、〈白夜叉〉めがけて天人たちが攻めてきた。 銀「って!?どうしてくれんだ!変わんねぇどころか未来はもうおしまいだー!!!!!」 あんな大群、ただのマダオが二人でどうすんだよ!? しかも魘魅ピンピンしてるしよぉ!!! 長「未来なら、もう変わったさ」 せまりくる大群に心のままに大声をあげたら、横にいた長谷川からなんだかイイ感じの台詞が聞こえた。 長「だから俺はここにいる」 どういうことだ? 長「お前の救ってくれた未来から、こうしてまた懐かしいアホ面を拝みにきたんだ」 銀「おれの救った、みらい?」 その言葉と同時に爆弾らしき物が飛んできて、爆発した影響で視界を一瞬土埃が覆う。 新「そう。だから僕らはここにいる」 なんでここに? いるはずのない声が聞こえた。 土埃のむこうから、新八の声が聞こえた。 新「あんたがとりもどしてくれた平和な未来を」 晴れた煙の向こう。 声の聞こえた方には―― 新楽「「ぶっこわすために」」 新八だけでなく、神楽も、定春もいた。 新「銀さんは自分の命をとして僕らに未来をつないでくれた。だったら僕らは」 楽「その未来で銀ちゃんを取り戻すネ」 定「アン!」 なんで・・・ 銀「テメェラ・・・。 そんなまねできると思ってるのか。おれたちだけで」 無理に、きま 「できるさ」 おれのことばを遮るようにまた懐かしい声が響く。 そして、視界の端にあがる《万事屋》の青と白の旗―― 桂「お前はもう、ひとりじゃないのだからな」 妙「呪われた未来だろうと過去だろうと、ここには万事屋がいるんだから」 おれの目の前には、どんだけあつめたんだとつっこみたくなる人数がいた。 どの顔ぶれも若干ふけたりしてはいるものの、どれも馴染みのありまくる顔ぶればかり。 そこには、“五年後の”桂が、妙が・・・・ そして援軍は他にもいた。 新八、神楽、定春。あいつらの背後には、かぶき町の仲間たちがいた。 真選組、吉原、柳生一派、そして――おたえ。 志村妙――彼女が手に持っている薙刀が、元気であることの証の様に、キラリと鈍い光を反射して輝いている。 これが・・・ “ほんらいの五年後の”彼女。 五年たってもあいつは、本来はああやってあいかわらず武器を振り回して男どもを一掃するような女だったのだろう。 それをみて五年後の未来は一度救われたのだろうと、あいつらが言っていた「おれが救った未来」という意味をようやく理解した。 その未来におれはいなくとも。 平和だったであろうに。 それを捨ててでも過去まで加勢に来て、過酷になるかもしれない未来を選ぶなんて・・・ ばかなやつらだ。 でも、そんなあいつらが嫌いじゃない。 おれのいた時代で、おれはあいつらとバカやって、さわいで、貧乏でもそれなりにたのしかったんだ。 だからこそ。 今度こそあきらめた未来さえも取り戻そうと、新しい願望を心に刻み込む。 タ「約束しましたよね。あなたの想い、その魂は、私がきっと届けるって」 銀「タマ!?おまえっ」 タマがやってきて、そこでようやく時間ドロボウが彼女であったと知った。 時間ドロボウの頭部であるカメラ、否、タイムマシーンをタマが持っていたのだ。 そのタマが持っていた端末と通信がつながり、お登勢のばあさんと平賀のじいさんたちが元気な姿を画面越しに見せる。 平「おい、銀の字!俺の贈り物は届いたか!お前たちは呪われた過去も未来も全部乗り越えたんだ」 登「銀時。あんたが立っているそこはもうレールの続いた明日でも昨日でもありゃしないんだよ! ただの、かぶき町さ。 さっさとケリつけて家賃返しにきな」 ああ。なんてこったい。 銀「やってくれたな。 てめぇらバカどものせいで、明日も昨日も前も後ろも。もうみえなくなっちまったよ。 だがてめぇらのおかげで、一つだけ見えたよ。おれの。このバカな帰るべき場所が」 木刀を持つ手にもうためらいはない。 あるのはただ、どこにもつながっていない未来だけ。 新楽「「さぁいこう銀さん/銀ちゃん」」 銀「ああ、どこへだっていってやるさ」 天人側は、突然現れたおれらにびびったように声を上げ、それが不安となりざわめきを呼ぶ。または“人間”であることで、敵としてしか見ず、殺せと声を上げる者もいる。 「なんだあの軍勢は!」 「全員まとめて打ち取れ!」 無謀なのか、それとも欲深いのか。 だがな。 おれたちがそう簡単にてめぇら人外に負けるわけネェだろうが。 銀「上等だ!!!俺たち万事屋の首、とれるもんならとってみやがれ!!!」 ――その場は激しい乱戦となった。 かぶき町の、万事屋の全員で、そこをかけぬける。 途中で行く手を阻まれれば、お妙が薙刀を振るって、おれの背をかばった。 柳生一派やさっちゃんや、吉原のやつらが、お妙とともに、敵をひきつけてくれて。 桂一派は、お得意の爆弾を派手に打ちまくって。 真選組も山崎が筆頭に、銃火器を使いまくる。 みんなが魘魅までの道を切り開いてくれた。 いわく―― 「未来を取り戻すために」 それが合言葉のように、あいつらはやりたい放題だ。 そうして敵を引き付け、的確に道を開いてくれている。 はは。本当にこいつらは、いつも想像を超えたアクションをしてくれる。 加勢してくれるだけでもありがたいのに。 なんて戦力だ。 頼りになりやがる。 過去まで追いかけてくるわ、加勢してくれるわ、敵をバッタバッタとなぎ飛ばすわ・・・ああ、本当になんてやつらだ。 頼りになりすぎだろ。 どれだけおれの心臓をびっくりさせれば気が済むんだ。 母艦まで近づけば、いつのまにかおれ、神楽、新八、近藤、土方、沖田。 この六人で先陣を切っていた。 隣を同じ速さで走る土方は、交わす言葉なんてないのに、絶妙なタイミングでおれをフォローしてくる。 これはあれか?五年前までは会うたびにいがみ合っていたわけだけど、そのつど剣を交えていたせいか。あいつの呼吸が、剣筋が、いまならわかる。 なんとなく以前からおれたちは似ている。そう思うことが何度もあったけ。 だからか。 剣の間やタイミングが、お互い考えるよりも先に体が反応し、支えあえる。 やりやすい。 背を預けてもこいつらなら大丈夫と思えてしまう。 うかがうようにチラリと奴をみれば、五年後の世界であの“魘魅となったおれ”にやられたという傷跡はどこにもなく、わけもわからずほっとした。 襲いくる敵の数が尋常ではないため、一瞬しか見れなかったが、どうやらおれの目はまだ正常じゃないらしい。 土方の目は五年後の世界で最後の答え合わせをした時同様に、刃物のような鈍い光ではなく鮮やかな色彩を放っていた。 銀「あんたは・・・」 土『前だけ向いてろ“万事屋”』 “いつものように”おれを呼ぶ口調。 クイっと口端だけを持ち上げるニヒルな笑みは、“おれの知る土方十四朗”そのものだった。 だからちょっとした違和感には気づかなかったふりをして、言われた通り前だけに集中する。 今は魘魅を倒すことがなによりも優先だ。 母艦までたどりついたとき、おれや神楽、新八をすべての元凶のもとへいかせるべく、真選組の奴らが踏み代替わりとなって、おれたち三人を上へと飛ぶように距離を稼いでくれた。 助走をつけておれが土方の差し出した手に足をかけたとき「いってらっしゃい銀」と、五年後の世界で聞いたの同じ柔らかい声が聞こえた。 緑がフッとおかしそうに弧を描く。 だーーーーーーーーー かーーーーーーーーーーーーーーーーー らーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!! 五年後のあんたとおれってどういう関係なの!! 前もそれ聞いたよね、おれ!? ねぇ、だれか教えてよ! なんか嫌な考えが脳裏によぎって、思わず「うぉえ」とか吐き気がしちゃったよ! その妄想とかいろいろを頭から振り払うように、重力なんか糞くらえと手と足を動かして、母艦の側面を足って登ってやる。 「「「うぉぉぉぉぉぉーー!!!!!」」」 っと、何も考えないように勢いをつけて垂直の壁を気合で駆け上がるのに、新八と神楽も同じような雄たけびをあげてついてくる。 沖「シロウさん!先に行っててくだせぇ!あんたはこの終わり、しっかり見届けなきゃいけネェ!」 ふいに下の方から真選組の奴らの微かなやりとりが聞こえた。 土『近藤さん、たのむ』 近「うぉい!まかせろ!!」 一瞬だけ視線を下に向ければ、近藤は制服をまくって太い腕をさらけだし、「のれ」とばかりにその大きな手を差し出した。 そこにヒョイっと軽やかに小さな“白いなにか”が飛び乗り、からだを小さくまるめる。 それは“真っ白な”雪のような猫だった。 え?白いけど、定春くんのこどもですか?あ、猫ですか。それは失礼しました。 猫ねぇ。 そういえば・・・。 あのとき、五年後の崩壊した世界で、ターミナルにもやたらと猫がいた気がする。 猫とおれって、おれの知らない五年の間になにか縁でもできたのだろうか。 その猫をどうするのかと思いきや、近藤はキャッチボールをするかのように、その猫を思いっきり甲板に向けて――――― なげた。 銀「生き物なげちゃだめぇー!!!!!」 ビュン!!!とすごい剛速球となって、白い光が俺達を追い越して空の星となった。 猫弾は一匹先陣を切って甲板に落とされたのだった。 銀「なにしちゃってんのぉ!!!動物虐待らめぇー!!!」 楽「なに言ってるアルか!あれはシロウネ。大丈夫にきまってるアルヨ!」 新「銀さん!僕たちもシロウさんにつづきますよ!」 え・・・なに?その反応。 え? あ。もしかして五年後の世界では猫も万事屋なの? 猫ちゃんも即戦力になっちゃう系なの? そもそも「シロウ」ってまさか、白いからシロウとか? おいおい。なに、その安直なの。だれだよそのネーミングセンス。フツーすぎだろう。 あ。おれだった。 なぜかそのネーミングセンスの持ち主はおれな気がして、いまの考えはなかったことにしてよい名前だと頷いてみた。 銀「・・・・・・」 って!ちょっとまってぇ! 銀さん、目の前で怒ってることが信じられないんだけど。 猫って、爪ふるっただけで人間の肉体を真っ二つにできるのがふつうなの!? 【急募】常識、モトム。 下から近藤の腕力によって高々と投げ飛ばされた白い猫は、空中でクルリと体制を整えると、シャー!とはげしく威嚇してその爪を大きくふるった。 それと同時に甲板に着地したおれたちは、みた。 ひっかくというレベルをはるかに超え、猫の爪に切り裂かれ死に絶える魘魅の部下数名。 さらに白猫の猛攻は続き、あのキョンシーっぽい包帯人間の首にかみついて肉ごと引きちぎっては、その顎の力だけで敵にその体を投げつけるという芸当まで見せている。 あははは・・・。 はー。 うん。 その、あれだ。 ネコチャンコワイナァ〜。 未来に帰ったら、猫には優しくしようと心に誓った。 どこにいるかわからないおっかさんとおっとさんに誓おう。ボク、ネコニギャクタイハシナイヨ。 そんなこんなで真っ赤な血しぶきをたてまくって猫が魘魅(やっこさん)の部下を引き付けてくれてるので、おれたちは大元を狙う。 しかし魘魅の札とおれの攻撃が相殺したことで、爆発が起き、それによりひびが入り甲板の底が抜けた。 起きた爆発のせいで底が抜け、崩落に巻き込まれておれと魘魅は船の中へ。 「そうか。おまえが白夜叉か。お前はそのまがましき手で、いずれその腕にいだいた尊き者たちまで粉々に握りつぶすだろう。それが鬼の背負いし業よ。愛する者、憎む者、すべて喰らいつくし、この世界でただひとり、泣き続けるがいい」 魘魅が“以前”は甲板の上で死の間際につげた台詞を、この船の中で告げてくる。 呪符のようなコドクの攻撃をしてくるが、今のおれの身体にきくわけもない。 コドクがきかないとわかれば、魘魅は物理的に攻撃をしてきたが、それをこの身でうけとめ―― 神楽と新八の特攻により、魘魅を叩きのめす。 タイミングよく表れた二人の攻撃により、魘魅の特徴的な目の光が消え失せる。 っが、しかし。 次の瞬間、再び魘魅の目がひらき、グワリとばかりに口が裂け、その身体のあちこちからコドクが符の形となってあふれでる。 魘魅のすぐそばにいた神楽と新八が、その符つかまりそうになったとき、白いものがおれの脇をかけぬけた。 猫『シャー!!!!』 楽「シロウ!」 新「シロウさん!?」 猫だった。 甲板で一騎当千の力を見せつけていたあの白い猫だ。 そいつが神楽と新八にまきつく符を噛み千切る。 しかし符はすぐに再生し、際限なく増殖する。新八と神楽は一瞬自由になったがすぐにとらわれてしまい、猫は符への攻撃をやめ本体へ狙いを変更した。 『グルゥッ!!!』 威嚇すするように低い声でのどをならし、怯える様子もなく猫は、あいつらだけでなく猫自身さえもとらえようとする符を冷静なまなざしで見極めよけていく。 はは。猫まじすげー。 こころづよいこったで。 いやぁ〜五年後の猫って強いんだ。銀さんビックリだよ。 ま。共同戦線といきますか猫さんや。 銀「気をつけろよ!いくぞ猫!」 猫『フミャァ!』 どうやら人間の言葉を理解しているらしい。 猫の手でも借りたい状況ではあったが、本当に猫の手を借りることになるとは。 しかもこの猫なんちゃってで強いのなんの。 猫なぶん、すばやく、符につかまらない。むしろ遠慮なく襲いくる符を速さで翻弄したり、攻撃まで仕掛けてる。つえー。 あの猫パンチと同時に発生する衝撃派みたいなのなんなの!? まぁ、おかげでおれは目的にまっすぐ近づけたんだけどさ。 その魘魅は、本体というだけあって、複数のコアを持っていた。 それが黒い霧と化したウィルスとともに四方へ飛んで行ったが、それは外にいたどっかのおせっかいな誰かが切り捨ててくれたらしい。 おれもまた白い髪に天パーなどっかのおせっかいな幻が手助けしてくれたようで、鈍い光を放つ刀とおれの木刀が最後の魘魅のコアを破壊することに成功した。 神楽たちの身をとらえていた符がほどける。 猫も終わったことがわかったのか、満足そうにあの白いモフっとした手を舐め、顔をあらっている。 外は、晴れていた。 世界を覆い尽くさんばかりのあの黒い霧は見えない。 〈星崩し〉たちによる攻撃もとまっている。 この時代に残る争いは、あとは天人と人のものだけ。 この後の戦争は、この時代の奴らの仕事だ。 おれたちが手出しすることではない。 おれたちの目的は、攘夷戦争をどうこうすることではないのだから。 魘魅をたおしたことで、終わったのだ。 “おれたち”の戦争は。 一息つき、壁に空いた大穴から見渡せば、一段下の甲板にかぶき町の奴らが集まってきていた。 楽「終わったアルな」 銀「ああ」 新「これで未来がどう変わるかは見当もつきませんけど」 楽「とりあえず銀ちゃんが白詛に感染するのは防げたし、あとはなんとかなんデショ」 銀「何が起こるかわからねぇ。当たり前の話だ。本来未来ってのは、そういうもんだろうよ」 タ「たとえどんな未来が待ち受けていようと、みなさんがいるなら何があっても大丈夫。それも私がみつけた大切なデータです。だから私たちには」 それからみんなが同じ甲板にそろったところで、タマは―― タ「タイムマシーンなんて・・・・いりませんねっ!!」 感動の話のままに、勢いよくタイムマシーンを頬り投げた。 母艦から投げられたそれは遠く離れた地上にあたってぐしゃりとつぶれた。 どうやって帰るんだよ!とみんなが騒ぐ中、一番バッターで山崎が半透明になっていく。 どうやら歴史が修正され、「なかったことになる」ために、強制的にこの時代の異物である俺達は排除されてしまうらしい。 省エネといいはって、タマは消えて行った。 半透明になったら徐々に徐々に余韻を残して感動をたっぷり残して消えるのがふつうだろうに、ブツリと途切れるように、まるでセルの画像をタマの部分だけひっこぬいたように。あっさりタマと山崎は消えていった。 余韻も何もあったもんじゃない。感動なんかありはしない急展開である。 タマが消え、つづいて山崎が、マダオが・・・そして周囲の奴らがどんどん下半身から半透明になっていく。 が、そこで桂が消えそうになったのだが、なぜか進行が止まる。 “なかったことになる”のなら。 それを思い出した奴らが暴走を始め、近藤さんと柳生のところあれがお妙と九兵衛に襲い掛かった。 お妙と九兵衛は素敵な笑顔で消えて行った。 それに土方が苦笑している。 土方も半透明になりかけていて、けれどなぜか桂の透明進行速度は止まったままで。 土『またな』 土方が、おかしな発言をしている桂の頭を殴ったところで、次に土方が消えるのだろうと思っていたら―― ズル ふいに土方の頭の上の鉄壁のV字がずれた。 それにおれは目を見開く。 沖田が真顔のまま吹き出した。わらってるのはわかるけど沖田君や、表情筋働いてないよ! っていうか、いまなにがずれ落ちた!? 沖「ぶっふぉっ!土方さん、カツラがずれてますぜ」 楽「ぶふっ!!プリンみたいアルよ」 新「ものくろなプリンだなぁ」 土『おっと、いけねいけね』 ずれたのは、土方の頭だった。 正確には髪の毛だ。 黒い髪の毛がずるりとおち、中から違う色が見えているのだ。剥げてはいなかった。 しかも土方はそのズレをなおすのではなく、そのまま黒い髪の毛を取り去り、鬘を楽しそうに桂の頭に装着していた。 それを特に何をするでもなく甘受している桂。頭が二重になっていておかしい。 そんな土方くんの黒い髪(だと思っていたけど本当は鬘だった)の下から出てきたのは、なんと真っ白い髪。 銀「はぁ!?」 え。若白髪?いや、ちがう。もしかして白詛か!?土方君、おれが感染しない代わりにかかっちゃったの!? いつ魘魅と戦っちゃったのよ!? え。どれも違う? な、なんだとぉー!!!!! どうやら土方君のアレは、地毛らしい。え。うそ。・・・・地毛、だとぉ!? どういうこと!? ねぇ、コレってどういうことなの!? ドッキリはもう結構よ!!! 土『だー!!!むれるわっ!暴れたから余計だな』 沖「ま、いいんじゃないんですかぃ。どうせなかったことになるんですし」 新「その色合いの土方さんはレアですね」 桂「シロウさんの地毛をみるのはずいぶん久しぶりです!!それこそ我らがシロウさんの色!」 土『あーもういちいち泣くな!オレの髪色なんかころころ変わるだろうが。コタはおおげさなんだよ』 沖「土方さん、赤色じゃないのはあれですかい?銀の時のいない世界だと、攘夷戦争に参加しなかったせいとかですかい」 土『そうそう。よくわかったな総悟。ああいうルートの未来だとさ。松陽先生の復讐をしようとする子供たちもいなくて、そんなわけで銀時を追いかけて攘夷戦争に参加することもなっかったんだよ。もちろん前半戦は西郷さんとあばれまくったけど、鬼兵隊とかがあらわれる後半の時代の攘夷戦争には参加しなかったからさー。返り血を浴びた量がすくなかったせいか毛が赤く染まらなかったんだよな』 桂「白いシロウさんの方が好きだ!うん。ずいぶんひさしぶりだなぁその色は」 新「いや、もうそれはいいって」 沖「やっぱ桂、てめぇ今すぐここから飛び降りて逝ってこい。 十五年後思い出いだしたら墓のかわりにガリガ○くんアイス棒を立ててやりますぜ」 猿「あ〜ん!銀さんとお揃い!す・て・きぃ〜!!お義父さまぁ〜!!」 土『だからさ、さっちゃんや。銀時がいないとき俺に抱きつきくのやめろや。オレはあいつの身代わり人形じゃないんだから。ついでとばかりにその腰なでくり回すのやめてくれる?そんでもって納豆くさいよお前』 月「すまないシロウ。ほらいくぞ」 猿「いやぁ〜!!!やめてツッキー!まだ離れただぐな゛い゛の゛ぉよ゛ぉ!!」 土『いや。オレは離れたい。まじで離れてくれ』 新「はっ!?そうだった!あんだけ暴れてヅラがずれなかったことにつっこみましょうよ!なんだよそのっミラクル!ミラクルヅラとかなんなんですか!!」 桂「ヅラじゃない桂だ!」 新「いや土方さんのはヅラであってんだよ!!」 土『ヅラがずれる・・・ぶっ!十分お前がいいツッコミをしてるよ新八』 新「ツッコミなんかねらってねぇよ!!」 なにこれ。 テンションとノリと絶叫とツッコミのキレ具合からして、おれの知るかぶき町の連中と同じなんだが、いかんせん、その中心となっている白髪頭の緑目の土方十四朗が意味不明だ。 白い土方ってなに? 猿飛の言っていたおとうさまってなに? なのに、みんな平然としてる。 むしろそれが普通みたいな反応なんだけど。 銀さん、本当に意味わかんないんだけど。 みんな省エネ強制送還状態だからぶっちゃけ足がない幽霊状態なのに。 消えるならお前らさっさと消えろよ!桂なんていつまで進行が止まってんだよ!! なんかいろんな意味で、魘魅がピンピンしていたときよりビックリなんだけど。 土『地毛だからな』 銀「え?本当にどういうことデスカ?なんでみんなそんなにふつうなの!?だって土方君が若白髪でヅラだってすっごい衝撃じゃない!?すっごいありえなくない!?」 ついに我慢が出来なくなって、心の声、もとい絶叫がおれの口からもあふれ出ましたよ。 だけどそんなおれの発言に、逆に、周りにいた皆さんが不思議なものを見る目を向けてくる。 沖「は?なぁに言ってんでさ銀の字。土方さんが若白髪とか、なにそれ。どんな冗談。まじうけるんですけどー(棒読み)。土方さんといったら地毛からして白じゃぁないですか。攘夷戦争後には赤く染まってたのが惜しいぐらいでさぁ」 銀「え?ぎ、ぎんのじ?え?オレって沖田君とそんなに仲よかったっけ?」 沖「はぁ?頭でもうちやしたか?」 聞き返せばかえすほど、どんどん頭が混乱しそうな返答しか返ってこない。 それに頭をかきむしってどうしたらいいんだとおさえていれば、突然土方が思い出したとばかりポンと手を打った。 土『あ、言うの忘れてた』 なにをだ。 言いたいことあるなら簡素にわかりやすくお願いします。もう銀さんの容量はMAXオーバーだチクショウ。 土『っていうか気付いてなかったのか銀時。ごめんなー銀。オレたちの世界とお前たちの世界、別物だわ』 ベツモノダワ。ベツモノダワ。ベツモノダワベツモノダワベツモノダワ・・・・ 響いた言葉が頭の中でこだまする。 あれ?理解が追い付かないよ。なんて言ったんだろうなぁ。 土『“別物”な』 銀「え?」 楽「え?っていうことはもしかして銀ちゃんって私たちの銀ちゃんじゃないってことアルか!?」 土『だな』 新「まじか!?」 土『なんだ。二人とも気づいてはいなかったのか』 新「え?それじゃぁ、僕らの銀さんは?」 土『おいてきた』 新「ってどこに?」 土『疲労困憊だったから、お登勢さんのところに。あっちで爺さんと飲んでるんじゃネェの今頃』 銀「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――!!!!!?」 楽「ああ、だからアルね」 新「どうりで。なんで銀さん、シロウさんのこと“ネコ”なんて無粋な予備方してるのかと思えば」 今日で何度目の驚きかはわからないけど、ひたすら驚いているおれをよそに、新八と神楽はその言葉に納得したように頷きあっていた。 銀「ちょ、ちょっと待った!なんで二人ともすぐ納得しちゃうの!?さっきまで気付いてなかったわけだよね!?それがなんであっさり納得しちゃうの!?」 新「違和感はありましたし」 楽「むしろありまくりネ」 新「平行世界だって言われた方が納得できました」 銀「え。その根拠って何か聞いても?」 新楽「「だってこっちの銀ちゃん(さん)はファザコンだし」」 銀「え?ふぁざ」 新「そもそも五年後だからとはいえ、銀さんが大好きなシロウさんに声をかけることもなく、名前も呼ばないとか、それ自体天変地異の前触れかと疑っちゃいましたよ」 楽「うん。有り得ないアル。槍が降ってくるんじゃないかって一瞬空確認しちゃったあるよ」 銀「ち、ちちおや?」 土『はい。噂の銀時の父親でーす(笑)』 銀「な、なに言ちゃってるのかなぁ?だって平行世界とはいえ土方君、おれと同じ年ぐらいじゃ」 土『ああ、残念。こうみて結構な年齢でなぁ。ぶっちゃけ近藤よりも年上。 たぶんもくそもなく、お前の知ってる土方十四朗とは世界も存在も違うだろうな』 銀「そういえばなんか目の色がずいぶん明るいきれいな緑だなぁ〜とは思ってたけど。え?それ、おれの錯覚じゃなかったの?まさか本当に緑なの!?」 土『ああ。ようやく修正力っていうか思い込みから抜け出たのか。そっちの土方は黒だろ?オレ、生まれたときから緑だな。髪も白。ちなみに昔攘夷志士だったぜ』 桂「シロウさんは、オレたちと一緒に戦場をかけて、そのときついた二つ名は“神狩り”。あの閃光のような爪捌き、忘れはしまい!」 銀「え!?ちょ」 沖「俺なんかは、ちぃせー頃、一時ですが銀の字と一緒にすごしてましたぜ。たぶん真選組の一部はそんな感じで」 銀「え!?なにそれ?どういう状況!?土方君が攘夷志士でおれが真選組と一緒って!?」 土『ん〜。なんかちょっと勘違いしてるけど、まぁ説明が面倒だしどうせなかったことになることだからそこらへんは省くな。 ついでにいうと、ここはオレたちの世界じゃなくて、お前の世界の過去だ。 だってこの戦場に“オレの存在”がないし。 それに十五年前にオレたちのせかいにきた長谷川君からきいたはなしだと、援軍としてオレたちと戦ってくれたのは、黒い髪に黒い目の土方十四朗たちだったしな。ちなみにうちの世界の銀時が向こうの世界に参戦したらしくて、黒い目の土方をみて驚いてたらしいぜ』 銀「まじで意味がわかんない。ちょっとまって。ちょっと混乱してる。ついていけない。えっと・・・つまりどういうこと!?」 土『だから枝別れしたその先の未来だろ?』 猿「ずばり平行世界ってやつでしょう?」 月「なにをいまさら」 新「過去に行けるぐらいなんだから気にするまでもないでしょうに」 銀「な。な・・・」 へ、へいこうせかい。だとぉ!? 銀「なんじゃそりゃーーー!!!!!」 ――つまりはこういうことらしい。 おれのいた(土方の目の色は鈍色)世界を[A]とする。 緑目の土方がいる世界を[B]。 ・Aの銀時(おれ)→Bの5年後世界へ→B+5世界の仲間とともに→Aの15年前の世界へ ・A-15にいったのは、AのおれとB+5の仲間 っということは。 いま、ここは間違いなくおれのA世界なのは間違いない。ッと。 ただし時間軸は、おれがいた時代から十五年前の世界。 けれど、ここにいる仲間はB世界のやつら。 ![]() ――なにそれ。すっげー複雑。 土『あ、そろそろみた』 「そろそろみたいだな」きっとそうつづいたであろうはずの土方の台詞は、やはり感慨も何もなくブツリとぎれた。 もっと話したかったがそろそろ半透明の進行を抑えるのも限界のようだ。 どうやら会話をしていたせいで、消えるタイミングをのがしていたらしい奴らも同じタイミングで、いっせいに消えていく。 彼らは先に未来へ帰ったようだ。 土方がブツリと消えたと同時に、沖田や桂、猿飛、月詠の姿も忽然と消えている。 気付けば、残っているのは神楽と新八、定春、おれ。だけとなっていた。 銀「なんだかなぁ〜。すっかりだまされたぜ」 新「ふふ。土方さんは“わかっていて”遠回しな言い方を決行することが多いですからね。こっちの銀さんもよく振り回されてましたよ」 騒がしい一団が去った途端甲板には静寂があふれる。 ああ、帰る間際まで騒がし奴らだったと、思わず苦笑がもれる。 ふいに神楽が一歩ふみだし、クルリとこちらに振り返る。 楽「そんなことより。銀ちゃん、新八、定春。顔、よくみせてよ」 新「神楽ちゃん?」 銀「神楽?」 楽「帰った未来で私たちがまた万事屋として出会えるとは限らないアル。 だから。これで最後かもしれないから。みんなの顔よーくミセテヨ」 弱気な発言に・・・。 有り得ないわけではないけれど。 そうはならないと確信をもって、笑ってやる。 銀「ふん。いいのか?どうやらおれはお前の知ってるファザコンな銀さんじゃないみたいだぞ」 楽「関係ないネ。銀ちゃんは別の世界でも銀ちゃんだったアル。それに私たちとここまで来たのは、誰でもないお前アルよ。私たちの未来もそっちの銀ちゃんの未来どちらもきっと救われたどっちも忘れたくない」 おまえらの泣きそうな顔なんか、もうみたくねぇんだよ。 違う坂田銀時でもいいって言うのなら。 おれもおれの神楽と新八でなくてもかまわない。 新八と神楽、定春もまきこんで、両腕でひきよせ、顔を突き合わせる。 銀「なら、よぉーく見とけ!もう一度おれたちが出会うために。どんなに離れ離れになっても探し出せるように。このツラよぉーくみとけ」 楽「銀ちゃん」 新「銀さん」 銀「きっとまた会えるさ。 おれはいつでも。いつまでも。かぶき町で万事屋の看板ぶら下げて待ってからよ。 お前らの銀時の代わりに、おれが約束する。きっとだ! ま、そのときはちゃんと自分の世界のおれを探せよ」 楽「約束アル」 新「きっと、きっとですよ」 定「アン!」 ――約束だ。 指切りを交わす。 定春にはちょっと難しそうで、ポフっとおれたちの手の上に白い手がのる。 そして、時間(とき)が来た。 神楽が 定春が 新八が おれが。 体が薄くなってく。 そうして――――― おれらの壮絶な物語は完結した。 新「え。ちょっと待って」 新「眼鏡だけいっちゃったんですけどぉー!!!!!」 * * * * * * * * * * * * * ・ ・ . . . 1 5 y e a r s l a t e r ... かぶき町。スナックお登勢2階――万事屋 銀ちゃん。 銀「いつもの。おれの、万事屋だよなぁ?」 ずっとここにいたはずなのに。 なぜだろう。 なぜか “帰ってきた” という感慨深さがあるのだが。 それはともかく。 まだ “ひとり帰ってきてない” 気がする。 そう、たとえば・・・このおれの前でソファーを占領しているアレの本体とか。 だらぁとソファーに腰かけていておれは疑問に思う。 おれはなぜ、眼鏡を対面するソファーにおいているのだろう。 ああ。そっか。 コレ、“新八”だったわ。 うっかりうっかり。 一瞬、目の前の新八君(眼鏡)が、ただの眼鏡に見えたもんだから。 しゃべれないし自力じゃ動けない、ただの眼鏡をなんで万事屋のバイトに雇ったんだろうって不思議に思っちゃったわ。 銀「いや〜ごめんごめん。新八、あいかわらずお前、眼鏡だなー」 ペシ。 ふいに頭をたたかれた。 いてぇなと振り返れば、青い袴を着た青年がハリセンをもって立っていた。 そのシルエットをみたら、パチンと頭の中で何かが弾けるような感じがして、ようやく新八も帰ってきたかと納得する。 そこで「あ、やべ。こっちが本当の新八だったわ」とよやく思い出す。 新八って眼鏡のことじゃなかったわ。 いまさっきまで、なぜかわかんないけど、本気で新八はあのソファーの上に置いてある眼鏡のことだと思ってた。 とりあえずここはごまかしておこうか。 銀「きみは・・・」 新「だれだっけ?とかほざかないでくださいよ?」 銀「・・・・・あ!そうそう!メガネかけ機かぁ。うちの新八がいつもおせわに」 新「だれが眼鏡かけ機だー!!!!いつも言ってますけどそれ本体じゃないですから!志村新八は僕だー!!!!」 【オマケ】 銀「なぁ、どうしようもなく今すぐに言いたいことあるんだけど言ってもいいか?」 新「好きにすればいいじゃないですか」 楽「今更アル」 銀「そっか。じゃぁ――」 銀「おれと万事屋をやってくれて」 あ り が と な。 |