白と赤色の物語
- 銀 魂 万事 屋 よ 永 遠 なれ -



09.シリアスとシリアルに境界線があると誰が決めた





土方が消えたらしい。
あいつのせいで、探し物がまた一つ増えちまったじゃねぇの。
しかも今度は平賀の爺さんのところから、時間ドロボウが盗まれたときている。

次から次へとなんなんだ!?







 -- side 坂田銀時 --







徐々に徐々に、ことの真相が明らかになっていく。

答えはあとひとつ。
それさえそろえばきっとこの複雑なパズルも完成する。

――そんな気がする。


けれどその最後のピースがなかなかみつからなくて、どの現象がなにつながっているかいまいちはっきりしない。
そのせいで頭の整理がつかない。

たぶんその最後のピースを持っているのは、この時代のおれか、〈魘魅〉だろう。
あるいは・・・



そのときふと、傷だらけの真っ黒な、奴の顔が一瞬脳裏をよぎった。



ああ、そうだろうな。
きっとあいつも・・・土方十四郎も、またパズルのピースを持っているに違いない。





銀「土方、ねぇ」

この時代にきてから、ずっとあいつの、知らない一面ばかりみせられて、きがつけばそれがいつしか違和感となってつきまとっていた。


たぶんあいつは、おれたちが思う以上にこの白詛について詳しく・・・・・・いや、もしかすると始まりから、なにもかも。それこそ“全て”を知っているのかもしれない。


土方十四朗はたぶん――おれが、過去からきた坂田銀時であることもきっとわかってる。

わかっていたからこそ、おれが坂田銀時の義兄弟だという胡散臭いほら話もフォローしてくれたんじゃないか。だから、洋服で隠していただろうあの傷のことを、ストレートヘアなチンさんという別人に見えるはずの、赤の他人のおれなんかに語ったんじゃないか。


――そう思えてならない。



思い返せばかえすほど、土方十四郎の言動に疑問が浮かぶ。

あいつはおれたちにむけたくさんのヒントを散りばめては、誘導するように常に動いてはいなかったか?
お登勢の婆と、平賀の爺さんの言葉を思い返してもそうだ。
彼らの話しの中で、〈魘魅〉やこっちのおれの近くにはいつも土方がいたじゃないか。

それは真実に一番近い存在ということ。

とはいえ、いまとなっては行方不明なわけで、真選組の奴らから事情を聴くしかできないのだが。
あいつらの話しでは、土方は誰にも何も告げずに失踪したのではなく、きちんと沖田に伝言を残していたのだとか。あとで土方の部屋からは、過去だか未来で会おうとかどうとか。そんな内容の書置きがあったらしい。

こうなれば土方も平賀の爺さんたち同様に、この時代のおれとグルなのは明白だろう。
《過去》だとか《未来》だとか、今、その話題をするということこそ、平賀の爺さんの関係者という証でしかない。

土方もグルである。
その決定打は、こんな時期だというのに姿を消したこと。


それと、もうひとつ。

真選組に事情を聴きに行ったとき、何人かは、青い顔をしてあいつの名を呼びながら探しに出たようだったけど。
沖田や近藤たち、古株のやつらは「こうなるだろうとはうすうす思っていた」と、困ったように、けれど今にも泣きそうな顔で・・・苦笑いしていた。

近「いっちまったか」
山「まいっちゃいますよねぇ。本当に“ふたりとも”そっくりなんですから。土方さんなんかは、これでもよくもった方じゃないですか。五年ですよ五年」
隊「これから・・ぐす・・どうじ、まずが局長?」
隊「おまっ。笑えてねぇって!泣いてるし!!」
隊「じがだないだろ!うう・・・うぉ〜副長ぉ・・・」

沖「・・・だから嫌いなんだ」

近「総悟」
沖「おりゃぁ、“あいつ”も・・・土方さんも大嫌いでさぁ」

彼らの話を聞いて。
あいつは慕われているのだと思った。

この時代の土方十四朗は、こいつらに、かぶき町のやつらに。たくさんの奴らから慕われているのだとしる。





ああ、でも。
何かが違う。
自分が知っている何かと。

おれが知っている土方十四朗は、こいつらを見捨てていくような男だったろうか?
真選組の奴らは、ここまであいつのことを好いていただろうか。



それが決定だとなって、欠けたピースがまた一つパチンとはまる音がした。



そこでようやくおれは理解したんだ。

土方は、“関係者”だと。
今となっては本物の〈魘魅〉と対峙した唯一の生き証人。今回の騒動について、なにか知っていてもおかしくなかったんだ。

――最後のピースを持っているのは、誰でもない。
あいつだ。

なにせこちらのおれは死んでいるらしいから、そんなもの持っているはずがないだろうしな。



銀「なんだかわけわかんねぇが。待ってろよ!土方十四朗!!」







* * * * *







意気込んでみたものはいいものの、夕方になっても探し物は何一つ見つからない。
おれは神楽と新八と河原に来ていて、お互いにこれから先のことをどうしようかと話していた。
おれの感覚ではいつもと同じようにあいつらとじゃれていただけだけど、五年後の未来を生きる神楽たちにはとっても真剣な話。

なにかが違う気がする。
その何かはいまだわからずとも。

ちょっとずつ、魂のどこかでささやくのだ。
それを心のどこで理解しようとしている自分がいる。
にわかには信じがたいが、五年後の世界に来ることができたんだから、 微妙に何かが違う世界を今こうして垣間見えているとしてもおかしくない。



――本当にこの先どうなるんだろうな。





そうしているうちに懐で何かが動き、平賀の爺さんから携帯のようディスプレイつきの端末を手渡されていたのを思い出し取り出す。

そこで知らされたのは、新たな新事実。
なんと今度は時間ドロボウが盗まれてしまったらしい。

神楽たちには意味が分からなかったようだけど、爺さんが時間ドロボウの視覚情報をこちらの画面に映してくれたことで、重要な話であると分かったらしい。
ジジジとノイズが走った後に現れたものに、一緒に覗き込んでいた新八や神楽もまた息をのむ。
そこにあらわれた〈魘魅〉の姿に、神楽も新八も真剣みを増す。

GPSでもつけていたのか、画像とその他もろもろの情報から爺さんが時間ドロボウの位置を特定した。
場所はターミナル跡地。


おれはてっきり土方が盗んだ・・・というか持って行ったもんだとばかり思っていたが、どうやら〈魘魅〉(やっこさん)もおれが時間を行き来してきたことに気付いたようだな。

そうでなかったら、時間ドロボウを盗む意味がない。
それとも〈魘魅〉もまた時間を超えて何かしたいことがるのだろうか。

まぁ、いい。
目的地がきまった。

探す手間をわざわざむこうさんがはぶいてくれたと思うことにしよう。



新「珍さん!いこう!」
銀「ああ!」

新八と神楽が意気込んで走り出す。
その後を追いながら、おれはもう一度映像の途切れた端末を取り出して眺めた。

時間ドロボウとの接続が途切れる寸前――
画面のなかに一瞬赤い何かがよぎった気がした。

銀「いまのは・・・」





土方が消えた。
さらに今度は時間ドロボウが盗まれた。

ぱちり
パチリ

ピースが一つずつ埋まっていく。
一連の事件が結びついていく用だった。
徐々にであるが、もうパズルは歓声にほとんど近づいているんじゃないかって気がした。
すべてが、何かひとつの意志に従うように動いているかのようだ。






平《おい!急げ銀の字!!》
銀「わかってるっての!」

いつのまに復帰していたのだろう。
端末の画面に平賀の爺さんが映り、ノイズの向こうから叱咤される。

おれも一歩を踏み出した。

目指すはターミナル跡地。
すべての答えはあそこにある



・・・はずだ。

いやね、実際自信なんかないんだけどね。
でもいくしかないじゃない。
ほんとうにさ、あそこには、いったい何があるんだろうな〜。

あ〜・・おれ、無事元の時代に帰れっかなぁ。







* * * * *







ターミナル跡地になどりついたものの、ターミナルは広い。
時間ドロボウをつかわれてしまうのも、壊されてしまう可能性だってある。
時間がない。
そのことをふまえ、神楽たちと手分けしてターミナルのなかを〈魘魅〉のやろうをさがしていく。

バカとなんとやらは高いところが好きというだろう?
だからおれは上へ上へと目的を絞って探していく。





4階をすぎたところで、猫が多いのに気付いた。
けれど猫たちは、声一つ立てることなく、まるですべてを記録するだけの傍観者の様に物静かなまなざしで、彼らの脇を駆け抜けるおれをみつめるだけ。
とおる邪魔もせず、通路の脇や横の部屋からこちらをのぞいているだけだ。
それにちょっとばかり異常性をみる。

銀「なんなんだ?」

猫「んにゃぁ〜ん」
銀「・・・そっちにいけと、そういうことか?」
猫「ニャ〜」

〈魘魅〉はどこにいるかもわかっていない。だからこそひとつずつ部屋を探ろうとすると、いままで動こうとしなかった猫がのそりとうごいて、道をふさぐようにたたずむ。
そうして今度は道を示すように鳴き声をあげ、「お前の探しているものはもっと上だ」とばかりに視線をさらに上へとむける。


跡地というだけあってターミナルの屋根はくずれ、そこにはぽっかりと大きな穴が開いている。
そこから見える夕日の影にひとつおかしな影があるのに気付く。
本能的の奥底がザワリとする。

〈魘魅〉だ。


あそこに奴がいる。
あまりに遠すぎで本来なら見えるはずもないのにそう思えて、おれは猫たちの指示に従うように駆け出していた。


「ご老公、あとは主の倅に任せましたぞい」

ふいに小さなしわがれた老人のような声が聞こえた気がして一瞬ふりかえるも、廊下には相変わらず猫たちしかみあたらない。
人の気配も感じない。

それでも某、足のないユウレイと違って恐怖を感じなかったため、いまのは気にしないことにしておれは先を急いだ。





扉を蹴破って入った先は、夕日がまぶしいぐらいにあたりを赤く染め上げていた。
まず視界に入ったのは、デジタルビデオカメラを頭部にもつスーツ姿の時間ドロボウ。動けないようにしっかりしばられて、床に座らされている。

そしておれのことを待ち構えていたように、“奴”はそこにいた。
〈魘魅〉がそこにいた。


銀「ようやく、会えたな。
お互いずいぶん回り道しちまったぁ。たかが1五年前の忘れ物一つ取り戻すために。
だが。こいつでしめぇだ」

赤くひかる目が、壊れたビルの穴から差し込む夕暮れの赤い光と相まって陰を濃くさせて、より不気味にはえる。


銀「一度は見失っちまったが今度こそ返してもらうぜ」


振り返る〈魘魅〉に挑発するように笑ってやる。


返してもらうぜ。
おれの。
おれたちの――


銀「未来をさ」



ビルの端の方にいる〈魘魅〉とはまだ距離がある。
助走をつけて、その勢いで切りかかる。



銀「たとえてめぇらの未来を踏みにじってもな!!!」



だけど一度目の攻撃は、あっさり錫杖ではじかれてしまう。
移動の際に下の階へ落とされてしまった。





ダン!
シャーン

重そうな音を立てて錫杖が床をたたき、金環が重厚な音を立てる。

窓の向こう側に見える赤い夕焼け空。
それだけが光源である暗闇の中、待っていたとばかりの〈魘魅〉の登場に思わず苦い笑みが浮かぶ。
あいつが待っていたのは、初めからおれなのだろう。
きっとやつにとって、時間ドロボウを使った時間移動などどうでもいいことなのかもしれない。
時間ドロボウを盗んだのは、おれを誘うための餌でしかなかったのだ。


ふいに空気が動く気配がした。
あわててわきによければ、勢いをつけて駆けてきた〈魘魅〉がすぐ間近まで来ていて、おれがさっきまでいた場所に、錫杖が突き刺さる。
その太さと音、その地面のえぐれ具合からして、錫杖は相当の重さがあるのだろう。

錫杖の力加減からして、奴は本気でおれを殺すつもりなのだろう。

銀「ちっ!」

キィン!ガキィン!と何度も振り上げられた錫杖を木刀でさばき、ときにうけ。
そのたびに鈍い金属音がこだまする。

さらにはおいかけっこのように、ヒラリヒラリとあちこちを移動する〈魘魅〉を追っていたせいで、 いつのまにかターミナルのテッペンではなく、別の階層へ、何階か分下へと落ちている。

フェイントをかけて、柱を盾にして、そこから木刀を振りあげるようにして、かわりに蹴りをみまわってやるも・・・。

銀(こいつ!?おれの動きをよんでやがる!?)

おれのはまっとうな剣術なんかじゃねぇ。
なのに目の前の相手は、それをすべてよんでくる。
ときには同じ動きをし、ときにはおれ以上の怪力を見せつけ、盾にいたはずの建物の残骸さえあの錫杖で砕く。

やっかいすぎる。
ああ、こうなったらもう・・・

ドン!!

どれだけ打ち合っただろう。
ふいにそんな鈍い音がして、身体にとんでもない衝撃が走る。
痛みに口から出るのはうめき声だけで、次の動きに対処する前に、もう一撃食らい、階段から転げ落ちる。
一瞬意識が飛んだのをいいことに、死んだふりをしていれば、あいつが・・・まるで何かに減滅するように、死んだはずのおれに向けて今までにないほど大きく錫杖を持ち上げた。


ドスっと重い音を立てて地面を砕いて、錫杖が床をつく。


たらり


赤く、黒い液体が、木刀から滴り落ち、地面に汚れた水の跡を残す。

カラーン。ガララと奴の手から錫杖が転がり落ちた。








銀「ふぃーあぶねぇあぶねぇ」

錫杖が突き刺さったそこは、さっきまでおれが寝転がっていた場所で。
かわりに、おれの木刀は、やっこさんの心臓を一突きしていた。
流れた血は、やつの身体を貫いたおれの木刀を伝い落ちたものだ。

魘「見事だ。白夜叉・・・」
銀「てめぇには、死んだふりぐれしねーとな」

そのまま〈魘魅〉は力なく、背後へと後ずさりするも会談につまずくようにして、段差に座り込む。

魘「長かった」

今でもはっきり思い出せるあの空洞に響くようなのと同じ低い声が歓喜するように、言う。
その機械のランプのような赤い光を放つ目が、点滅し、一度光が消える。

魘「ようやくこれで終れる。礼を言うぜ」

その不可解な言葉に眉をひそめる。
“終れる”だと?

こいつは何を言っているんだ。そう思って近づけば、〈魘魅〉は力の入らない震える腕を無理やり持ち上げ顔へと近づける。

魘「おれはお前が来るのをずっとまっていたのさ。
世界が崩れていく音を聞きながら」

ズルリ。
呪いの文字が刻まれた包帯が解かれていく。

魘「ずっと・・・」

包帯の下。
現れたのは・・・

銀「!?」

嘘・・・だろ。
そこにいたのは、少し痩せてはいたが、間違えるはずもない。
白い髪。
赤い目。

そいつはまさしくおれ――坂田銀時そのものだった。


銀5「おれを殺れんのはおれしかいないだろ」


そこにいた“未来のおれ”は、穏やかな顔をして、その口からこぼれる血をぬぐうことなく、けれどおれをまっすぐ見つめてくる。

目が離せなかった。
たしかに目の前の奴は、〈魘魅〉だ。
なのにその包帯の中身は、忘れもしない“おれそのもの”で。

一瞬、息がとまった。

銀「ぉ、お、まえ・・・」
銀5「見たとおりだ。おれは五年後の、お前だよ」

そんな馬鹿なと叫びたかった。
けれどまぎれもない“現実”が目の前にあった。

銀5「この世界で起こったことは、おれが・・いや、いずれお前自身がひきおこす事態なんだ。お前の体の中には、“あのとき”から奴らの呪いが息づいている。
世界を滅ぼすウィルスの苗がな」

その言葉で思い出す。
十五年前、死ぬ間際の〈魘魅〉の言葉を。


――だがお前はそのまがましき手で、いずれその腕にいだいた尊き者たちまで粉々に握りつぶすだろう。それが鬼の背負いし業よ。愛する者、憎む者、すべて喰らいつくし、この世界でただひとり、泣き続けるがいい。


なんてこった。
つまりは“そういう”ことか。

銀5「“あのとき”斬った野郎は、ただの入れ物。〈魘魅〉の本体は、奴が操るナノマシーンそのものだったんだ。奴はその入れ物が壊れゆくとき、おれたちの体に寄生し、コアを形成したのち、十年にわたり人間にわたり遺伝子情報を食らい進化していた。そして人間には対抗できないウィルスを精製し、この体から世界中にばらまいたのさ」

気付いたときにはなにもかも遅かったと、五年後のおれは言う。


銀5「浸食されつつ自我をかろうじてたもち、奴を道連れに腹を掻っ捌いた。
だが、おれの体はもうおれのもんじゃなくなっていたのさ」

呪印が体中に広がり、死のうとしても自分の意のままに手を動かすこともできない。


銀5「そのせいで・・・
あいつを。土方十四朗を、おれはこの手で殺しかけた」

銀「!」
銀5「殺してくれと、頼んだんだ。そんなことさせたくなかったけど、もうほかに手が思いつかなくて、すがる思いだった。
だけど、あいつが刀を振り上げた瞬間。おれの中のナノマシーンが一斉に・・・」

土方十四朗の刀が砕けていたというのはそのせいか。


未来のおれは、他人の手を使ってでも死のうとした。
それでも・・・おれは、死ぬことができなかったのか。


銀5「血まみれの土方に何度も何度もわびた。わびてもわびても。逆にそのたびにナノマシーンが活性化して。攻撃して。おれにはなにもできなくて・・・なのに。それでもあいつ、笑ってんだよ。
それで、おれは逃げたんだ」

何もできず、ただ生きる屍となったおれは、その手によって世界が滅んでいくのを眺めることしかできなかった。


〈魘魅〉となった五年後のおれの言葉が、今のおれの感情を揺さぶり、その荒れ狂った激情がこの身の内を焼きそうになる。
それが声に出ないように歯を食いしばる。
今しかないのだ。
今しかこいつの言葉は聞けないのが分かっていたから。


銀5「こいつでわかったろ。
おれは、世界を滅ぼした元凶をたるおれを消すために、おれをこの世界に招待したのさ。この世界のおれはこれで消える。だが呪われた因果からおれたちの、世界を開放するためには、なにをすべきか」

準備は整えておいた。

その声に反応するように、座り込んでいた時間ドロボウが動き出す。
側には、夕焼けに負けない色をした赤い猫が、おもちゃに戯れるように縄をかじっている。
猫のおかげか、それともはじめから縄が緩かったのか、時間ドロボウがわけしり顔でそこで立ち上がる。

そんな動きを視界にとらえ、五年後のおれがフッと笑みを作る。

銀5「後のことは、頼んだぜ・・・坂田・・ぎん、とき・・・おれを殺れんのは、おれしか、い・・ねぇ・・・」




銀「・・・逝ったか」

くらいターミナルの跡地で、その階段に寄りかかるようにして、〈魘魅〉になり果ててしまった肉体を必死におさえていた五年後の坂田銀時がいる。
その“おれ”に別れを告げるように背を向ける。

気配を探っても猫たちと時間ドロボウぐらいの気配しか感じない。
けれど、確かにここにはもう一人いるのだろう。

ガランとした建物にむけ声をかける。

銀「・・・いるんだろう?」

反応はない。
それでもいると確信してホールに声をかける。

銀「あんたがすべて裏で糸を引いていたんだろ。
なぁ――」


土方十四朗


銀「いるのはわかってんだよ」

カランとあのゲタの音が響く。
それと共に、黒い髪と着物をゆらして、あの男が現れる。

土方だ。

土『・・・すまないな。胸糞の悪いことをさせてしまって』
銀「やっぱり、いたな」
土『ふっ、想定の範囲内だろう?』

土方は悲しげな苦笑を浮かべて、カランコロンと涼しげな音を響かせて、おれの脇を通り抜け、そのまま階段に倒れている“あいつ”の側へと歩み寄る。

土『お疲れさん』

そっと、まるで子供にするように優しくあいつの銀色の髪をなでたあと、土方がおれを見た。

土『聞くまでもないが、一応聞いておく。どうして、オレだとわかった?』
銀「本当に聞くようなことじゃないだろう。これもあれもすべてお前の手の内のことのはずだろ?
・・・まぁ、答えるとしたら、状況的にな。だけど確信はなかった。 おかげさまで、今、ようやくすべてがつながったわけだ。
ま、これでなんでおれがこの時代によばれたかも。あんたが待ち望んでいたのが何かも。だいたいわかったがな」

〈魘魅〉の正体は未来のおれだった。
そしてそんなおれの側にいたから、この目の前の土方十四朗は、今のこのタイミングでみんなの前から消えたのだろう。
ピンと来たのは、あの〈魘魅〉と戦ったという怪我だ。
つまり土方十四朗は、最初から〈魘魅〉の正体もこうなることもすべて知っていたのだ。

それにたどり着いた時、最期のピースがはまった瞬間だった。

銀「あんたがその怪我を負ったもうそのときには、今日までこの計画を遂行するために裏で動いていた。違うか?」
土『簡単な問題だっただろ。
自殺さえできない銀時に、“自分のかわりに自分を殺してくれ”と言われたから、従ったまでだ。まぁ、その願いをかなえてやることはできなかったがな。逆にこっちがやられちまった。あの大量の札は盲点だった。
結局、おれも銀時を殺せなかったから銀時の死体を入れ替える計画が実行されちまったみたいだがな』


時間ドロボウが「銀時様」と、おれに声をかけてくる。
そろそろ時間なのだろう。

土方も訳知り顔で、『すまねぇ。未来を頼む』そう言って、おれの道を示すようにその背を押してくる。
物理ではなく、態度で示された道。

土『行け。もう時間もない』


だけどおれは、足を止めて振り返る。
まっくろけな土方君は、気配を消して陰の中に立っているせいで、一瞬どこにいるのかわからなかった。
ただ、暗闇の中でもわかる明るい鮮やかな黄緑の色が目印になって、おれに土方の居場所を教えてくれた。


これだけは教えてほしいと、土方の名を呼ぶ。
返事は特に期待してはいなかったけれど。

これを聞いたら、ちゃんと未来を救いに行くからよ。
少しだけおれに時間をくれ。

最期に、ひとつだけ聞きたいことがあったから。

銀「あんたは、はじめから知っていたのか?」

そうでなくては、こいつの動きは明らかにおかしいのだ。
土方はおれの問いに、少し考えるように間を置いた後、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。



土『・・・十五年前の、“あのとき”から』



その言葉に目を見張る。
予想外の数字に、怒りが沈下していくのを感じた。
この理不尽などうしようもない茶番劇に。
それを仕組んだであろう土方に。

15――その数字を聞いて思わずゾッとした。
階段のところでこと切れている未来のおれの血のにじむような想いさえ理解してしまった後だったから、五年と言う歳月だけでもきついはずなのに。
わかってしまったあとだったから、すべてを仕組んだであろう土方におれは八つ当たりも、ガキのようにわめき散らすことさえ、もう怒ることさえもできそうになかった。


銀「まじかよ」
土『まじだ。だから止めようとした。だがウィルスにはかからない。あげく銀時を殺してやることもできなかった。・・・どうにも。どうにもならなかったんだ』

それが本当なら、どれだけ、こいつは苦しんだだろうか。
未来のおれは五年だった。
それの3倍。
こいつはいったいどんな気持ちでいたのだろう。



慰め、同情・・・ああ、なんて言ったらいいかわからない。
言葉が浮かばない。












って、いうかさ。

ごめん。本当にごめん。今言う言葉じゃないんだろうけどさ。
同情とかそういうの浮かばないんだけど、言いたいことならあるからな!
さっきから気になってたことがあってさ。


きいてくれるか?
いや、NOと言われても銀さん話しちゃうからね。つうか、聞け。
銀さん、話しちゃうから。話しちゃうよ!だから良い子のみんなはそのままそこで座って、耳の穴闊歩十手よぉく聞いておけ。



銀「ずぅーーーーーーーーーーとっ!!気になってたんだけど!」

土『?』
銀「こっちの世界のあんたなんなの!?銀さんびっくりよ!こっちの世界のおれとあんたってどういう関係なんなんだよぉ!! あんたがこっちの世界のオレにむける目つきが違う!違いすぎる!!きもいわ!銀さん鳥肌立っちゃったよ!!! 目といえば、なんで大串君ってば、目が緑なの!? オタク道をきわめすぎて、ついにカラコンいれちゃうようなコスプレイヤーにまでなっちゃったのぉーーー!? 呪いのオタク刀はどうした! それともドッキリなの!?っていうかなんでそこまで親密そうなの?!死ぬの?なにしたいの!?え?そっちいっちゃうの!?どこまでいくの!!」
土『どこまでいくんだ。は、そのまま返す。何が言いたいんだお前?』
銀「だぁかーら!未来でおれと土方君はどこまで突き進んじゃったのって話だよ!」
土『突き進むって《白詛ひろめちゃったよ。とめらなくてごめんね。エヘ☆》ってぐらいつきすすんだから、オレたちが世界を壊した大魔王になっただろうが。これ以上どこに進むんだ?』
銀「ノーーーーーーーーーーー!そうじゃない!そうじゃないんだ!そんなことじゃなくて、おれが知りたいのは、ふたりの関係!!!」

土『ん。なんだそんなことか』

銀「そんなこと!?そんなことって。いやだって。親しそうだし。浸しそうだしぃ!!」
土『・・・途中の文字変換おかしくないか?関係って共犯者だろ?なにをいまさら』
銀「ちがーう!!そんなことはもう知ってんだよ!!!そうじゃなくて!そうじゃなくてさっ! 必要以上に糖分たっぷりな甘さがゲロそうだよ君たちぃ!! 親しいってラブてきな、そんなのイヤァァァー!!!!!!!!!!って雄たけびあげたくなるなるレベルなのヨシテヨ!って話で!ま、まさかのこいび」
土『お前、よくそこまで口回るなぁ』
銀「かぶせんな!!!やそれよりどうなの!?どうなのよ!!あんたなんなのー!!! ホーモォーはかんべんしてくれよ!!この漫画に規制指定はいっちゃうなんていやー!!!ってかもうマンガじゃないけど漫画でもアニメでも映画でさえないけどぉ!!!! え?メタ発言!?んなことたぁ!こちとら百も承知だってんだよ!!それが銀魂だろうが!安心しろ!原作の映画版の方はジブ○にはちゃんと許可とって放送してんだぞコレ!!! いやいやもう十分著作権とかいろんなもんひっかかってんのはしってんだけどさぁ!!!!」
土『メタボ?』
銀「それもちがうからっ!メタ!メタだからね!枠の外の聞こえちゃいけない声が聞こえちゃう的な!そもそもオタクなトッシーな土方君ならこれぐらいの単語しってるでしょうに!!!!」
土『・・・オタク?オレ、なにも収集してないぜ。
なにを言ってるかいまいちわからないんだが、オレ、牛じゃないからな。モーってなかないからな』
銀「やだ!?なにこのひと天然!?悪霊に憑りつかれてオタクになっただけじゃなくて天然なの!!!」
土『はは。そっちの銀時はテンションたかいなぁ』
銀「いやいやわらいごとじゃないからね!だからこれってどういうことなの!」

ノリとツッコミはいいのに、会話がちょっとずれてる土方君に、思わず頭を抱えたおれはきっと悪くない。
土方君は、階段の脇にたたずんだまま。
どことなく懐かしそうにおれをみて、その不思議な色合いの瞳を柔らかく歪めて笑っている。

土『ああ、懐かしいな。そういえばこんなに騒がしいお前を見るのは、随分久しぶりだ。 昔はこういうテンポで四六時中受け答えをしていたのにな』

むかしとはいえ・・・それでもたかだか五年前のことだというのに、ひどく懐かしいと思うのはなんでだろうな。

その言葉に込められた想いと、憂い、過去の日々の思い出がないまぜになったような表情の土方に、やっぱり“何かが違う”と思えた。
五年たったから?
たぶん。そういうんじゃない。
だから、土方が五年後の俺へする態度も違っていたのだろうと思えるなにかがそこにはあって――


銀「っで?あんたはだれなんだいったい」

返ってきたのは、おれの知っている土方なら絶対にしないであろう、柔らかな表情。


土『オレは土方十四朗』


銀「いや!?それはわかんだけど」
土『それ以外でもなにものでもないからなぁ。今はこれ以外の答えは持ち合わせていないんだ』


そんなのは知ってんだよ!
その言葉と共に手を伸ばそうとしたが、おれの手は背後から伸ばされた手につかまれてしまう。

時「銀時様、もう時間がありません」

時間ドロボウのことばに、ハッと我に返る。
そういえばそうだったと時間ドロボウに一度詫びを入れるために視線をそらす。 次にもう一度土方を振り返った時には、もう、そこには誰もいなくなっていた。

銀「あれ?」

まさか土方だとおもっていたあれは・・・幽霊!?
いやぁ〜!!!っと叫びそうになったところで、足元にトコトコと赤毛のネコがやってきて、「にゃー」と喉を鳴らして、おれの足にすり寄ってきた。
その暖かなぬくもりに、一瞬の恐怖が薄れていく。
その毛は崩壊したこの世界の最期を彩っているこの夕焼け空を切り取って身にまとったように赤い。


・・・ふと。
あの猫の目を別の場所でみたような?


ネコはそんなおれの気持ちの変化に満足したようにしっぽをゆらゆらと揺らすと、 振り返ることなくどこかへといってしまう。

「ンニャァ〜ン」

まるで旅立ちのあいさつをするかのような、明るく強い意志を感じるその猫の声。
なぜかいつまでもその声が耳について離れなかった。



時「土方様は土方様ですよ」

恋人ではないのでご安心を。
表情がないはずの時間ドロボウが、おかしそうに笑った気がした。





銀「でだ。行く・・・つってもなぁ。
十五年前のあの時から、おれはこの世界に存在しちゃぁならねぇもんだったらしいし?」

お前はその答えを知ってるんだろう?
あらかた覚悟は決まってんだがなぁ。とりあえず時間ドロボウにお伺いを立ててみる。
なすべきことはまだあるはずだ。
なら――

銀「おれは、どこにいけばいい?」

時「すべてのはじまり、攘夷戦争の時代。
ただ、わたしに残されたエネルギーでは片道切符となり・・・」

なにをいまさら。
時間ドロボウは、本来おれをこの時代に呼ぶためではなく“そのため”に作られたもんだろうに。

銀「どうせもう戻る必要なんてねえんだろう」
時「銀時様が魘魅を倒した直後。ナノマシーンが神経に根を張る前をたたくしか。 この世界を救う方法はありません」

そうなるだろうと思っていたよ。

銀「おれの体で奴をとらえ、オレごと消すしかねぇ・・・ってことか」
時「ただしそれ以降、すべての時代から坂田銀時という存在は消えてなくなることに」

あのとき。土方の奴に、「すまない」と言われたときから、なんとなくそうなる気はしていたさ。

ああ、いいだろう。
未来のおれの言うとおり、おれを殺すのはおれの役目。
今度こそ、ケリとやらつけてやろうじゃねぇか。



ああ、夕日が赤いな。



銀「すまねぇな。もうお前たちのところに帰れそうにない」


土方と違って背後から近寄ってっくる気配はしっかり存在感がある。
その二つの気配が足音と共にかけよってきて、河原で落としたあのいかがわしい三位一体のフィルムの話を持ち出す。
ここにきてようやくウチの子たちは、“珍”なる男の正体に気付いたようだ。

おれは額のほくろを捨て、時間ドロボウの前に立つ。



神楽と新八の呼ぶ声が聞こえたが、かまわず「やれ」と・・・



ピ!



こいつ!オレが「やれ」と指示する前にスイッチ押しやがったぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
ぎゃぁぁぁぁーーーー!!!!!!!
いやぁぁぁぁぁぁ!!
かっこよく別れを決めようと、最後の台詞をしっかり用意しておいたのにぃぃぃぃ!!!!

おのれぇ!時間ドロボウのやろう!!!


そうして、おれの台詞はつげられることなく、視界は光に包まれたのであった。




















【オマケ】


タ「あなたはすべてを知って行ったんですね」

タマが語りかけてくる。
それに土方は、頷くことも言葉を返すこともしなかった。
まだ温かい、愛しい者の身体を抱きしめて、ただ静かに笑った。
それが答えだと――。
そんなあいつにタマは眉をしかめた。

いつだか誰かに言われたように、「笑えてませんよ」とタマは言ってくる。

土『笑えるわけないだろバカ』
タ「それもそうですね」

では笑える未来を取り戻しに行きますか?
土方は冷たくなった銀時の身体から手を離すと、ニッコリと満面の笑顔で微笑むタマの手を取り、ニヤリと不敵なまでの笑顔を返した。

土『当然だ!』





* * *





時間ドロボウにより、光が視界を焼いた後。
神楽と新八が目覚めたのは、廃墟ではない、活気にあふれたターミナルの中だった。

変革後の、かわった世界。
しかしそれは彼らの望んだものではなく――

楽「うそ・・・」
新「そんな」

神楽と新八がたどり着いた場所には、“スナックお登勢”の二階――《万事屋銀ちゃん》はなくなり【大江戸キャッシング】になっていた。
その世界には坂田銀時がいない世界。

絶望に涙を流し、地面に膝をつく二人。
その正面に二人を気づかうように、店から出てきたお登勢が覗き込むようにして立っている。

そして――

「おまたせしまた。それではこれより“坂田銀時十五年の歴史”の上映会を開きたいと思います」

脇に抱えた人の頭部ほどはあろうかと思えるビデオカメラ。
ギシギシと痛み、ボロボロになった機械の体をひきずって、 彼らの前に現れたのは“元時間ドロボウ”な“彼女”。タマだった。

彼女が来たところで、“スナックお登勢”からヒョッコリと土方が顔を覗かせ、「おつかれさん」と彼女を笑って迎え入れる。

楽「え?」
新「は?」

目玉が飛び出るんじゃないかと思ってしまうほどの形相で、新八と神楽が着流し姿の土方をガンミしている。
店の奥では、お登勢のばあさんがキセルをくわえて笑みを浮かべ、 猫耳おばんなキャサリンが、彼女の登場に歓声を上げている。

改革後の世界があまりに望まぬもので、ショックをうけて涙を流して地べたに力なく座り込んでいた新八と神楽は、 現れたタマやニマニマとしている土方たちを見て、先程とは違う意味で呆然としている。

「「え?」」

土『おいおい。おまえらなにぼぉーっとしてんだよ。忙しいのはこれからだぞ』
平「そうだとも。うちのタマが十五年かけて銀時がいたデータを撮っていてよぉ。 それを見ることで無理やり歴史の中に消えた記憶を引き出そうという強硬手段にいたったわけだ。感謝しろよ」
沖「土方さーん。とりあえずかぶき町の奴らで戦闘に役立ちそうな奴ら呼んできやしたぜ」
土『お。待ってましたー。じゃぁ、上映会終って記憶を取り戻した奴らからどんどん武器を持たせろよ。ほらおまえもしゃんとしろって!』
沖「あー長谷川だっけ?。あ、まちがった。マダオ。みかんのダンボールあるからそれで白夜叉のよろいのかわりにしてくだせぇ」
長「それなんで言い直しちゃったの!!!最初の方があってんだよ!!」
登「ちょいと!早くそいつらの記憶もどしてやんな。このままほおっておくと、そいつらのなかの銀時の記憶が消えちまうよ」
タ「わたしとしたことが。少々おまちくださいねみんさん」
キャ「お登勢サン。どうせだから酒盛りネ!過去の攘夷志士のヤツラにたらふくのませて、あわよくばゲロってればいいネ。ソシタラわたしが、ヒロインよ!」
土『じゃぁ、酒運ぶのは長谷川君の仕事な』
長「え!?俺ぇ!?」
キャ「無視カヨ!」



「「え?・・・・」」



呆然としている神楽や新八をよそに、町の有名人たちを集めての、上映会は開かれ――





二度目の改革の光が世界を照らし出した。








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