08.一等大好きな君と未来で |
たくさんの子供たちが呼んでいる。 彼らが笑ってくれる世界が好きだった。 懸命に生きて。 それでもふざけたような日々。 いつもいつも全力で生きていた。 そんな子供たちが愛しくて仕方なかった。 「“またな”ってのはなんだったんだよ!」 「あんたまで、あんたまでいかないでくだせぇよ!」 「「「土方さん!!」」」 声が聞こえる。 泣きそうな声たち。 ああ、子供たちが泣いてしまわないといい。 オレはあの子たちが笑ってるのを見るのが好きなんだ。 けれども。 その中でも一等大事な子供の側にいてやりたいという親心を少しだけ許してはもらえないだろうか。 またな ――その約束は・・・必ず 守るから だからさ―― 『明るい未来で――“また”会おうぜ』 おまえらの愚痴はそのときにでも聞いてやるからさ。 だから、ごめんな。 いまはいかせてくれ。 たのむから、さ。 -- side 夢主1 -- ここ数年で履きなれた西洋風の履物、靴。 それを脱ぎ捨てて、昔の様にゲタと着物を着こんでいざ、出陣。 カランと鳴るゲタの音に混ざって、足元ではジャリリと石のはじける音がする。 ああ。この建物は、今も昔もこの国の象徴であるのは変わらないようだ。 まるで今の世界そのもの。 昔はあれほどの栄華の省庁のごとくまっすぐと天まで伸びてきらめいていたターミナル。 今はどうだ。 荒れ果てて、さびれて、穴だらけで。 白詛によって絶望しながらもそれでもまっすぐに生きるこの世界の人そのもの。 ここは、本当にまんま人の心を映した鏡のようだ。 なら・・・ 建物の真ん中にドドンと空いたこの穴は、オレの心を映したものだろうか。 「ご老公。案内はすませたぜ」 がれきに腰かけながら、夕日をぼんやりとながめていれば、んにゃ〜んと一匹の猫がすり寄ってくる。 猫たちは大概オレの正体を知っている。 本能で感じ取るのだという。 ゆえに彼らはオレを年寄り扱いして、そう呼ぶのだ。 夢『ありがとう』 そっとその猫の喉をなでながら、建物中に響いてい剣のやりとりの音に耳を澄ます。 キン!と高い金属音がぶつかり合う音が、夕暮れ時で見えずらい景色の中にこだまする。 どうやら坂田銀時が、時間ドロボウを盗んだ〈魘魅〉をおいかけてきたらしい。 猫「にゃぁ〜」 夢『ああ、ミケヨさんに虎次郎さんも。騒がしくしてすまないな』 猫「ンにゃ〜ん」 猫「ナァーゥン」 夢『いやいやオレはいいんだよ。なんたってオレはたまたまこの場所にお前らと宴会をしに来ていただけ・・・っていう設定だしな』 猫「みゃー。みゃ〜ん」 猫「今はつらくとも。ご老公、あっしらは忘れやしません。猫とはそういうもんですぜ」 夢『そう、か』 猫「ぅみょ〜」 猫「なう」 夢『そこまで心配せずともオレは大丈夫さ』 猫「どうだか。主は人に寄り添いすぎだ。あそこにはご老公の・・・。大事なもん、なくすときはそんな生き物だってイテェと思うもんさ」 猫「にゃぁ〜」 猫「みゃぁ〜」 夢『はは。みんなにそこまで言われちゃぁ、はずかしいねぇ』 もともとこの廃墟となったターミナルをすみかとしていた猫たちがやってきて、声をかけてきた。 すりよってきた彼らに促されるがままに足をとめて、その場にしゃがみ込む。 その場に座ってミケヨさんと虎次郎さんと話しながらその背をなぜていれば、どこから集まってきたか猫たちにかこまれてしまった。 猫「にゃ〜ん」 暗闇に浮かび上がるようにたまに弾ける剣線の交わったすえの火花を眺めながら、同じように闇にまぎれてしまいそうな一匹の黒い猫を撫でる。 夢『そろそろいくかな』 いくのか?と、問うてくる猫たちの頭を一匹ずつなぜてから別れを告げる。 もう。剣と拳がぶつかり合う音は聞こえない。 夢『夕焼けが、しずむなぁ』 立ってのびをすれば、くずれた壁の向こうから、見事な赤色の光が差し込んでくる。 カランとゲタが音立てて歩き出す。 一番夕焼けがきれいにみえる屋上まできたところで、時間ドロボウがしばられてるのをみつけたので、気配を消して側に歩み寄る。 縄ははじめから、みせかけに縛ってあるように見せかけていただけらしい。 まだ、〈魘魅〉にも自我が残っていたようだと表情緩める。 けれどそれもきっとわずかだ。 ひときわ大きな音が響いたかと思えば、いつのまにか打ち合いの音がやんでいる。 耳を傾けていれば、銀時の声が聞こえてきた。 やがて“銀時”がオレを呼ぶ声が聞こえたので、影に紛れるようにしてその声に答えて姿を見せてやった。 “五年前の銀時”の背後、階段に腰かけるように“この世界の銀時”がいる。 オレは五年前の銀時と少し会話をした後、「もう行け」と夕焼けを背景に彼を待っている時間ドロボウを示す。 それから間もなく―― カンカンカン!と硬い靴底が鳴らす音があわただしく二つ響いて、扉が開き、万事屋の二人が駆け込んでくる。 神楽も新八も時間ドロボウの横に立つ“五年前の銀時”の姿しか目に入っていないようだった。 楽「銀ちゃん!」 新「銀さん!」 オレが“その場”を振り向いた着いた時には、夕焼けを正面にこちらに背を向ける銀時と時間ドロボウの姿。 別れを告げる銀時へとかけていく神楽と新八の姿があった。 * * * 夢『・・・二人には気付かせないでよかったのか?』 階段の陰に隠れる世にぐったりとした人影にオレは歩み寄る。 力なくうつむき闇に溶け込むようにそこにいた〈魘魅〉が、オレの声にうっすらと瞳を開く。 そっと顔を上げた相手に笑いかける。 瞳の色から〈魘魅〉特有の赤い輝きはない。 もう、時間はそれほど残されていないのだろう。 それゆえに、ウイルスの支配から一時抜けだし、この身体の本来の持ち主の自我が表だって出れている。 夢『もう、いいよな』 魘「ああ」 オレがウイルスに感染しないからといって、五年前あれだけウイルスの攻撃を食らったのだ。そんなオレから誰かに移ることがないとも限らない。 逆に本体である銀時がいることで、オレの中に眠っているウイルスが目覚めないとも限らない。 ウイルスの核であると自覚のあった銀時は、たった一人で責任を背負い込んだ。 そうしてこの時代の銀時は、みずから表に出ることをやめた。 ようやくだ。 久しぶりに会った自分の一等大切な子供。 困ったように力なく微笑まれ、そのまま頭を抱きしめるように抱きついた。 魘「・・・とう・・・ん」 夢『ん。お前はよくやった』 魘「お・・で・・」 夢『もう、いい。よくやった。よぉく、頑張った。がんばったな――“銀”、おつかれさん』 小さな子供の様に顔をくしゃりと歪めた銀が目を閉じるまで、オレはその頭を撫でてやった。 銀「ああ・・・あった・・かい、な」 夢『うん。そうだな。 疲れただろう?少し眠るといい』 そうして時間ドロボウにより、銀時は光の向こうへと導かれていった。 時間ドロボウからほとばしる光のあまりのまぶしさに、たぶん世界中の人間が一度目をとじたことだろう。 オレは腕の中でどんどん冷たくなっていく愛しいものを今度は手放してやるものかとギュッとだきしめて、その光を見送った。 夢『また会おう銀時。この先の、十五年前の世界で・・・』 世界が一度かき消えた。 【オマケ】 どこか別の世界。 別の時間軸。 その五年後の世界で―― 銀「あんた誰だ!?」 土「いや、お前が誰だよ。なんだ万事屋のコスプレなんかしてよぉ」 銀「オレはいいんだよ!それよりあんた誰だ!?」 土「はぁ?何言ってんだよ土方十四朗に決まってんだろ」 銀「オレの知ってる土方はお前のような瞳孔開いた黒目のキレッキレのやーさんキャラじゃねぇ!!!この世界はなんなんだーー!!」 銀「助けてとうちゃーーーーーーん!!!」 銀色の雄たけびがとどろいていた。 |