06.かがやくもの |
ここにきてから誰かにずっと呼ばれているような気がしたんだ 泣きそうな声で ずっと・・ ずっと・・・ だけど気付いたんだ ああ、あんただったんだな キラキラと羨望のまなざしに濡れる緑色を見て―― -- side 坂田銀時 -- お妙のいる病院をみまってから、この世界ではいくあてもなく、そのままなんとはなしにスナックお登勢にいった。 銀「!?」 そこに捜していた平賀源外が酒を飲んでいた。 なんでここにいるんだよ! あんなに探してたのに!! 探してたのに!!! なんでいるんだよぉ! カウンターに座れば、爺さんは未来のおれの写真を飾って酒を飲み交わしている。 だけど話を聞くに、どうもお登勢ばあさんといい源外の爺さんといい、“知っていた”のだと知る。 共犯者かよ。 源「どうだったこの世界は?」 爺さんが〈坂田銀時〉の遺影の前に置いた酒を横から奪って飲み干してやる。 そうしたらこと元凶から、感想を求められた。 銀「未来なんて、くるもんじゃねぇな」 飲み干した酒は、苦い味がした。 変わり果てた町。 五年という歳月が生んだ仲間たちとの亀裂。 そして、あんな姿のお妙に・・・。 しかも 銀「どうやら爺は狸、婆は狐になっちまうらしい」 目の前の爺婆どもの見事な名演技に感服だよ。 銀「爺さん、この世界の状況をしらせるためにこんなまどろっこしいまねしたのかよ」 趣味悪すぎだろ。 そう思っていたら、爺さんが何かを吐き出すように大きなため息をついた。 そこになにか意味が込められているような気がして、視線だけで爺さんの行動を追う。 しかし爺さんは、俺の質問には答えず、店のソファーによりかからせた、壊れた“時間ドロボウ”をみているだけ。 源「・・・五年かけて作った世紀の発明をおしゃかにされたのは計算外だったがな」 おれが聞いていたのに・・・明確な答えは戻らず、か。 なにかあるなと思っていれば、また爺さんから声をかけられる。 源「で?未来を変える算段はついたか?」 銀「さぁな。未来どころか・・・“過去の亡霊”まででてくるしまつだ」 やはり、おれをこの世界に連れてきたのは、爺さんだったようだ。 見てきたからといって、そう簡単に未来をどうこうできる算段なんかつくはずもないだろうが。 爺さんもたいがいむちゃくちゃだな。 そもそもおれはこの世界では異質だ。 五年という時になにがあったのか知らないのだから。 それでどうやって世界を救えと? 爺さんはあえて自分の口からその五年のことを語ろうとはしなかった。 自分の目でみてこいとだけ言っただけ。 登「・・・その調子じゃぁ、未来どころか。テメェの死の原因をつきとめるのもおぼつかないねぇ」 カタンとカウンターの中で作業するお登勢ばあさんから声が漏れる。 苦笑のようなそれ。彼女の顔をみても表情の変化はない。 ただ、どこかさびしそうな目をしているような気がした。 ふいに爺さんはよっこらせと席をたつと、背後のソファーにもたれかけさせていた“時間ドロボウ”を担ぎ上げる。 源「さいわい、時間ドロボウのメインシステムは無傷だ。修理が終わるまでにかたをつけろ」 は?なんですと? また無茶苦茶な。 っていうか、話ってこれで終わり!? なんか情報ないのかよ!! 思わず去りゆくじいさんをひきとめたのだが 銀「おい、てめぇが呼び出しておいて、なにもしらないのか」 源「しらねぇ。それにてめぇをこの未来に呼んだのは、俺じゃねぇ。おめぇ、自信だ」 銀「!?」 有り得ない。有り得な過ぎだろ!!なんでそんなやっかいなもんに関係ないおれを巻き込んだおれよ!!! 巻き込むならせめてもっとヒントよこせや!ゴラァァぁ!!!!いっそ解答でもいい!!むしろ答えをくれ!!カンペだっていい!!! 内心あらぶるおれに、爺さんはおかしそうに顔をゆがめた。 源「おめぇは姿を消す前に、“時間ドロボウ”の制作を頼んでいったのさ。 〔もし自分が戻らなければ、これをつかって、テメェをここへ呼べ〕ってな。 てめぇが救えなかった世界をてめぇで救わせるために」 なんらかの手がかりを得ていただろう未来のおれが救えなかったのに、なんの情報もないおれができるわけもないじゃないか。 本当にどうしろっていうんだ。 未来とはいえ自分の考えることに頭が痛くなる。 バカなの!?意味わかんないんだけどおれ!?あ、いやおれはバカだったわ。 それにしても意味わからな過ぎだおれのばかー!!! 源「おい」 銀「ちょっとまって、いま、頭混乱中。まじで未来のおれなにしてくれちゃってんの!!!!どうしよう!?どうしたらいいんだよ!?」 源「はぁ。こうなるだろうなとは思っていたが、本当に面倒事を背負うのが好きだよなお前ら。 言うなと釘をさされちゃぁいたが――ひとつだけヒントをくれてやる。 実はテメェの死体に傷がなかったのもすべてテメェが仕組んだことだ。土方が持ち帰った〈坂田銀時〉の死体は、俺がつくった偽物よぉ。 おかげで“あいつ”がおかしくなりかけたが。まぁ、あれは自業自得ってやつだろうな」 銀「え。ちょ、ちょっとまて。それって土方も共犯ってことか?ってか、いま“あいつ”って・・・なぁ“あいつ”ってだれだよ、おい!」 まてまてまて!まてぇ!おいじいさん。いま、なんつった? え?おれの死体って偽物なの? それって実はおれって生きてるって―― 源「死体は偽物でも・・・・。この世界の〈坂田銀時〉は死んじまったんだよそれは土方のバカが証明しちまった。どうしようもないほど、それだけはまちがいねぇことなんだよ」 やっぱりおれ、死んでるしぃ!? っていうかいまの話の流れだと、あと二人、共犯者いるよねソレ!? どんだけ周囲巻き込んでんだよおれぇ!!! 源「まったく、勝手な野郎だろう坂田銀時ってやつはさ。 俺がこれをつくるのにどれだけ苦労したことか。 ああ、偽物の死体と“タイムマシン”のお代はきっちりつけとくぜ――未来にな」 銀「あ、おい!爺さん!!」 爺さんは“時間ドロボウ”を背負っていってしまった。 とめるまもなかった。 最後のニヒルな笑顔が印象に残った。 登「・・・やれやれ。あんたは“別の”子だね。これも“あいつ”が言ってた通りになっちまって」 爺さんがくぐっていった入り口の扉を呆然とみつめていたら、ふいにため息のようなつぶやきが聞こえた。 カウンターの向こう側で婆さんが、爺さんの使ったグラスを洗っていた。 婆さんと爺さんは、ポツリポツリとこちらにヒントになりそうなことをはくことがある。 いまのはまさにそれじゃないのか? 銀「さっきも爺さんが言ってたな。“あいつ”ってだれだ?」 婆さんが言う“あいつ”と爺さんがさっき言っていたのが同じ人物だとすると、そいつに大きな手掛かりがあるような気がする。 だけど 登「泣かない泣き虫。ごうじょっぱりの・・・ただの親バカな男だよ。今回のことで子を失っちまった、バカな爺だ。あれの子供も父親によく似たとんでもないバカでね。結局死んじまったよ」 婆さんはらしくもなくちょっとだけ泣きそうな顔をして、首を横にふたった。 ああ、これはこれ以上聞いても答えはでないパターンだ。 死んだってことは。 白詛の被害者か? 登「本当にみんなバカなんだからまいっちまうねぇ」 銀「・・・そうか。 なら、ばあさん。あんたはほかになにか聞いてないか?」 登「いいや。こればっかりはね。わたしだって、いくつか頼まれごとはしたが、あのバカがなにを考えていたのかはさっぱりわかりゃぁしないよ。 そうさね。あいつのバカさかげんがわかるのは、あんたぐらいじゃないのかね」 それだけ語るとお登勢のばあさんは、煙草を取り出し、それに火をともして煙を吸った。 登「ふぅ〜。 やれやれ。つくづく難儀な男だよあんた。今も、昔もね。 うらむんならテメェの性分を恨むこった」 おれがここにいること。 そのすべての発端は、未来のおれにあるらしい。 ********** 埃だらけのからっぽの《万事屋銀ちゃん》。 それでもまだ誰にも貸さずに残しておくなんてな。 銀「恨んじゃいねぇよ」 源外の爺さんがおいていったおれの遺影を机において、コップを二つ。 ほこりくせぇなかで写真の中のあほづらした男と晩酌をし、決意を改める。 神楽と新八は病院から帰って着替えたのか、ふたりはおれがよくしる五年前の衣装で現れた。 ああ、またこいつらと万事屋をやれるんだなって。 けれど彼らは、五年後の神楽と新八。 “おれ”の仲間たちじゃない。彼らは〈未来の坂田銀時〉のものだ。 おれは、おれの世界に帰って、違う未来を見よう。 同じで違うこいつらと共に。 朝日が昇る。 戻ってきた二人とともに《万事屋銀ちゃん》をでれば、二階のそこから見渡せる限りに、たくさんの仲間たちがいた。 真選組に、柳生家、百華、桂一派・・・ほかにも言えばきりがない。 坂田銀時を中心としたかぶき町の仲間たちだ。 お妙を救うために。 けれどそれは“世界を救う”ことと同義。 ――あんたがいなくなってから五年たってもこれだけの人間がテメェの想いを引き継いで動いてくれる。 それってすげぇことだろう。なぁ、坂田銀時。 未来のおれもけっこうやるじゃねぇの。 思わず口端が持ち上がる。 本当はおれ(過去のおれ)なんか呼ぶ必要なかったんじゃないのか? それをなぜ・・・。 まぁ、いい。 自分のけじめは自分できっちりつけてやるさ。 まずは〈魘魅〉をみつけることだ。 カチカチとお登勢の婆さんが、火打ち石でみんなの無事を祈ってくれた。 誰の号令がきっかけだったか。 みんなが“やつ”を探しに散らばった。 新八も神楽もかけだしていく。 真選組の奴らも。吉原の奴もみんなみんな・・・・。 みんなで未来(光)をつかむために。 銀「なぁ」 〈魘魅〉の似顔絵の書かれたビラを手の上でもてあそびながらおれは、建物の陰に身をひそめていた奴に声をかけた。 まるでおれを待っているように、あるいはおれの動きを観察するように。隠れるようにひとり、静かにそこにい男はいた。 人影を目にするまで気配さえまったくわからなかったから、隠れているものとばかり思っていたのだが。 実はそうではないのかもしれない。 おれが声をかけても驚いた様子さえないことから、気付かれること前提だったのだろうか。 銀「あんたさぁ・・・なんなわけ?」 みんなが〈魘魅〉をさがして散っていくなか、最後までこの場を動かなかった真選組の副長、土方十四朗が振り返る。 銀「それでかくれてるつもりか?」 土『いや。隠れてるつもりはないな。ただ立っていただけだ』 かまをかければ、キョトンとした顔にマイペースな返事が返ってくる。 建物の陰から、カランとゲタを鳴らしてでてきたのは、いつのまに着替えたのか黒い着流しに身を包んだ黒い髪の男。 よくよくみると、着物からのぞく首元や腕にはひどい切り傷の跡がいくつもある。 すでに傷口は閉じて新しい肉も皮膚で覆われているが、それは一生残るのだろう。激しい死闘の末についたのだとわかる。 服の下に隠されていたそれを目のあたりにし、あまりの生々しい名残りに一瞬意識が奪われる。 これはあのとき沖田君たちが言っていた、死を彷徨ったという大怪我の・・・ カラコロカラコロ。カラン。 土『傷、気になるか?』 銀「あ、いや、わるかったなジロジロみて」 土『いままで誰にも言わなかったんだが、お前にならいいかと思ってな。 これは、五年前〈魘魅〉とやりあって無様に敗北した者の証』 銀「!? そ、それじゃぁ、あんた・・・」 土『銀時とオレは、奴と相打ちになる覚悟で挑んだ。 ものの見事に負けたよ。銀時は死に。オレは死にぞこなった。 さすがのオレもナノマシーンにかなうはずもないと、だれにも感染させたくなくて意識が戻った当初は人をオレの側に近づけさせなかった。 だけど、それも無駄だった。オレは感染しなかった。オレにはこうなる未来を止められなかったから』 銀「あんたは・・・」 ――あんたは何を知っている? そう、問うはずだった。 けれど伸びてきた手に、思わず言葉を飲み込んでしまい、そのままその言葉はおれの口からでることはなかった。 土『ようやく未来をみれる。お前のおかげでようやく希望が見えた』 みたこともないほど綺麗に笑うその瞳に、やさしいあたたかい色がのっているのをみて、息が止まりそうになった。 目の前にいるのはだれだ? 本当におれの知る土方十四朗だろうか。 ――ち が う これはおれの世界のあいつじゃない。 ちがうんだ。 頭の中で警鐘のような言葉が鳴り響く。 けれどそれにあせるより先に、刀を握り続けたであろう武骨なその手が、ふわりふわりとおれの頭を撫でてきた。 その瞳が刃物のような鈍色じゃなくて、柔らかい草葉のような色をしていた気がして・・・。 すべてがとまる。 土『これが終わったら、“お前の”未来を取り戻そうな』 銀「え」 土『邪魔をしたようだな。またな』 いろんなことが一瞬で重なり合って、驚きに時間が止まった気がした。 そのせいで止める間もなく、おれの頭を撫でていた手が離れ、気が付けば黒い後姿はどこにもなくなっていた。 【オマケ】 ――時間ドウロボウを、こちらへ―― 「・・・ああ、ようやくかい」 「おせぇぞバロォー!こっちはいつでも準備万端だ!!」 「時がきたんだねぇ」 『オレは先に言ってる』 「時間ドロボウをこちらへ」 「もう、いいのかい?」 「別れはすんだかい?」 「あいつには、言ったのかい?」 つたえて 呼んで―― 「ターミナルで待つ、と」 「タマ・・・あとは頼んだぜ」 「行きましょう――様」 |