05.カウントダウン |
どうか・・・ もうすこしだけ・・・・ あのこたちの側に いさせてください -- side 志村妙 -- もう光がかすかに見えるだけのこの目には、望むものを見ることはできない。 けれどそれで今日はよかったのかもしれない。 「雨が降っていたものね」 カラリと窓が開いて、フワリと風が室内に入ってくる。 『よぉ』 いたずらが成功した子供のような声に、ようやく時が来たのかと彼を招き入れる。 しかし身動きできない今となっては、窓に視線を向けるのが限界だ。 それも彼が困ったような苦笑をもらし、すぐに『寝てろ』と声をかけられ、優しい手が髪を撫でる。 ああ。この手はずっと変わらないのね。 けれどちょっと細くなっただろうか。 『またせたな』 「ふふ。あなたがここに来たということは、そろそろなのね」 やさしい、やさしい手。 あのキラキラまぶしい人を育て上げた手。 大丈夫よ。 苦しくなんかないもの。 もっともっと苦しんでる人たちがいるから。 「辛くないわ」 『わるい。間に合わなくて・・・あと少し辛抱してくれ』 「あなたはまだ辛抱しているのに?私ががんばれないわけないでしょう。相変わらずね。 でもね。大丈夫なの。本当に大丈夫なのよ。 だって、さっき銀さんがきてくれもの。 三人がまた万事屋をやるって。これでもう大丈夫ね」 『ああ。きっと。きっとだ』 「でも。大切な友人たちを泣かしてしまったわ。だめね、わたし」 『いいんだよ。泣けるときに泣かせられただけ上出来だ。それができない不器用な奴の方が世の中多いんだぜ』 「ふふ。それはあなたのことからしら」 『さぁな』 ふわりふわり。その手は本来別のひとをなでるためにあったのに。 今はわたしがここにいることを実感させてくれるためにある。 「あなたもね。あなたはよく頑張っているわ」 『がんばってんのはテメェだろお妙。いまだって命かけて戦ってるじゃねぇか』 「そうかしら。わたしは待ってるだけ。 ――いろんなことを」 このひとはなんのために頑張ってるのかしら。 私のためじゃないことはわかる。 きっと近藤さんたちのためでもないわね。 世界のためでもないの。 「わたし、これから貴方に信じられないくらいひどいことを言うわ」 『ああ』 「もうちょっとだけ・・・頑張って」 『そのつもりだ。だから安心してろ』 「ごめんなさい。あなたの愛しいものはもうこの世界にないというのに」 『お妙。それはいいっこなしだぜ。オレにはお前も、神楽も、新八も、お登勢さんだって、近藤さんだって、総悟だって・・・みんなみんな大事なんだぜ』 「わたしたちを大切だと言ってくれるのに。でも、ごめんなさい。まだ死ねないあなたを置いて逝くわきっと。 でもこれだけは覚えていて、わたしも貴方たちがとても大切よ」 『・・・お妙、あんたがあの世にいったら、“彼女”があの世から追い返してくれるさ。だからまだあいつらんところには逝ってやるなよ』 「ええ。ごめんなさい弱気になって。 でも、あと少しなのね」 『ああ。これで、終わりだ』 あなたはいつもたったひとりのために無茶をしてるの。 しってるわそんなこと。 でもそんなあなたを見ていた子がいたでしょう? 本当に あのひとは、あなたに似ているわ。 そんな “あなたたち” だから――― |