03.ペパーミントグリーンは今日もつれない |
山「自分のせいですかねぇ」 やっちまったと思ったときにはすでに遅かった。 雨でくすぶる外へと姿を消した“黒い後姿”を見て、思わず自分の配慮のなさにため息が漏れた。 -- side 山崎退 -- 局長と桂さんが帰ってきたのがうれしすぎて、あの乱戦のなかにたまたまいた万事屋たちを連れてきてしまった。 まぁ、それはみんなも同じで、嫌がる万事屋たちをノリノリでひっぱってきたのだが。 それが原因で、“あのひと”の五年の苦労を水の泡にしてしまったようだ。 “あのひと”――自分たちが知る土方十四朗というひとは、家族バカだ。そして身内に甘い。 世間的には、クールで鬼の副長といわれているけど、実はひとなつっこい性格をしているし、意外と涙もろい。 そんなあのひとが、この五年、みんなの前で涙ひとつ流さなかったのに、襖の向こうにいた万事屋たちをみて―――泣いていた。 その目は、万事屋が再結成されたように見える光景に――ではなく、なぜか“ただひとり”をみていた。 土方さんの視線の先には、《珍》と名乗るおかしな客人。 さらっさらのストレートヘアー。だけど銀髪で。それだけでも土方さんの琴線に触れるものがあっただろうに、あいつはなぜかしらないが、五年前最後に見た坂田銀時と同じ着物を着ていたのだ。 そう、あれはまさに万事屋の旦那のコスプレだった。 似ても似つかないチョビヒゲの男。 だというのに、土方さんはあの男を目にした途端、表情を変えたのだ。 遠くからでもよくわかる鮮やかな土方さんの黄緑の瞳が大きく開かれるのを、正面にいた自分は、たまたまみてしまった。 本人は泣いてることにさえ気付いてなかったけど、それがよけいに痛々しくて。 事情を知るこの場の全員が、思わず視線をそらして黙り込む。 土方さんと坂田銀時の組み合わせを知らないらしい珍さんだけが、とまだったようにその場でワタワタしていたっけ。 ********** 山「あ、いた。土方さぁーん!」 雨の中に人影が見えた。 ただでさえ黒い服を着ているし、今の髪の色も黒く染められているせいで、土方さんはまっくろけだ。 雨のせいで視界が悪い今では探すのも一苦労だった。 近づくと、大きな影が小さな影のそばに立っているのがわかる。 土方さんは何も持たずに出たから笠をかぶっている大きな方の人影ではなく、小さいほうが土方さんだろうとあたりをつける。 大きい人影は自分が近づくとすぐにさっていってしまった。 笠をかぶった下から一瞬赤い光が見えた気がしたが、自分がそこに到着するころには、土方さんだけがいた。 雨が降っているというのに外にでていった土方さんは、やっぱり傘なんかさしていなくて、頭から全身ずぶぬれになって、瓦礫に背を預けて小さな子供のように丸まっていた。 それに苦笑して、予備に持ってきた藍色の傘を傾ける。 山「大丈夫ですか、土方さん?」 土『これをみてよくそう言えるな山崎』 山「あ、やっぱりだめでしたか。大丈夫じゃないのはわかりますが、せめて屋根の下にいてくださいよ。 門の入り口では神楽ちゃんが同じカッコでうずくまってましたよ。彼女はちゃんと傘をさしてましたがね」 珍さんという人物は、坂田銀時のコスプレをしていただけじゃなくて、まとう雰囲気や口調までそっくりだった。 さすがに予想外で驚いた。 だけどそこまでそっくりだなんて思いもしなかったから、あの場につい勢いで珍さんをつれてきてしまったけど、それ自体が失敗だった。 おかげで土方さんが雨の中飛び出してしまったのだから。 坂田銀時にそんなそっくりなあの御仁をみて、この人が平気なはずがなかったんだ。 まぁ、こうなるんあて誰も想像していなかったのだから仕方ない。 それをわかっていて声をかけたのが相手にもわかったらしく、土方さんが仏頂面で振り返る。 うっそりと持ち上げられたその鮮やかな緑の瞳がだるそうに、けれど若干の敵意を含んで睨でくる。 目元を真っ赤に腫らしてはいるが、その目がまだ曇っていないことを見て、安堵する。 山「真っ赤ですよ」 土『・・・知ってる』 山「ところで副長。いま、誰かといましたか?」 土『んなわけあるかよ。こんな顔、誰かに見られてたまるか』 山「自分はいいんですか?今見てますけど?」 土『なら見るな』 山「そんな無茶苦茶な」 土『それも知ってる。隠すものがないし。あんな場所で泣いたんじゃもう全員にばれてるから。だから・・・もう、いい』 山「恥らうプライドあるんだか、あっさりしてるんだか。そういうところは本当に変わらないですねぇ土方さんは。 みんな心配してますよ。 ほら、風邪、ひいちゃいます。傘ぐらいさしてください」 土『オレも病にかかれば。 あいつを、ひとりになんかさせなかったんだけどなぁ』 山「土方さん」 ふいっと、土方視線が、灰色の曇り空へと向けられる。 遠くを見るように。 遠くになる何かを懇願する世に。 緑の瞳が太陽が昇っていない空を見上げる。 土『なんで…オレっばかりピンピンしてんだろ』 山「・・・」 その悲しみといら立ちのまざったマイナスの感情が、痛いほど伝わってくる。 そうして吐き出された言葉に、なんと声をかけていいかわからなくなる。 あまりの深い悲しみに、自分まで息が詰まってしまった。 坂田銀時が死んでから、土方さんはたまに空を見上げる。 そんな癖五年前まではなかった。 けれどそれは今となっては、もう見慣れてしまったこのひとの癖の一つ。 この人がこうして遠くを見るような仕草をみせるとき、ふと、ほんとうにふと思うのだ。 その瞳が絶望で陰ってしまうのではないかと。 そのまま壊れてはしまいかと、いつも心配になる。 自分たちが知っている土方十四朗というひとは、家族や仲間が大好きで、それで世界が回ってるような人だった。 いつだかは真選組の仲間が殉職したときも、しばらく落ち込んでいたほど。 そんなひとの“家族”と認識されてる坂田銀時が、死んでしまったのだ。 しかも彼にとってもう一つの支えである近藤さんも五年間側にはいなかった。 いつ目の前のこの人が限界を迎えてもおかしくないと、ずっと思っていた。 たぶんそれは俺だけじゃなく、土方さんを見てきた全員がそう思っているだろう。 ――五年前。 坂田銀時の最期をみとったのは、土方さんだった。 理由も何も彼の口から紡がれることはなかったが、“傷一つない坂田銀時の死体”をかぶき町まで運んできて、そのまま意識を失って倒れた。 そのときの土方さんの刀は粉々にくだけていて、ほぼ柄だけしか残っていなかった。しかも大怪我をしていて全身血だらけで、人ひとり担いで歩いてこれるような状態ではなかった。 倒れた彼は、すぐに病院に搬送され、連絡を受けて真選組がかけつけたときには、ちょうど彼が搬送されてきたところだった。 お気に入りだと言っていた私服の黒い着物は、彼の血でさらにどす黒く染まって――担架から力なくたれる腕からは、その止まることなく生々しい血が着物をさらに染め上げて流れ出ていた。 青を通り越した白い顔に血の気はなく、いつもならキラキラと光をたたえる印象的な瞳は固くと閉じられたまま。 医者たちがあわてて運ぶ担架が通ったあとの廊下には、赤黒い筋ができていて、そのおびただしい量の出血量に、傷のひどさを見せつけられた気分だった。 血まみれの土方さんの姿を見たその場にいた全員が、そのとき血の気が引いた青い顔をしていたのは間違いない。 犯人は誰だと大騒ぎになったが、犯人の目撃情報は何一つみあたらず。 土方さんが血まみれで万事屋の旦那を運んでいるところからしか、情報は得られなかった。 のちに目覚めた土方さんと、万事屋の旦那が残したメモからわかった手がかりは、ただの人斬りなんてものではなく、とんでもないものだったけれど。 まさか攘夷戦争の遺物たるものがかかわってるなんて、それがこうして五年を経て世界を滅ぼさんと猛威を振るうなんて――誰も思いもしなかっただろう。 かぶき町で、坂田銀時いう男の存在感は半端なかった。 そのせいで当時、万事屋の旦那を殺したのは土方さんで、彼の傷は自作自演ではないのかという声まで上がったほどだった。 まぁ、それも土方さんが目を覚ますまでの短い期間流れただけだったけれども。 噂が消えたのは、土方さんが目覚めた当初の錯乱ぶりが・・・尋常じゃなかったからだ。 万事屋の旦那の葬儀が終わってからずいぶん経ったあとに目を覚ました土方さんは、見舞いに来たやつらがかぶき町の人間であろうと真選組の隊士であろうと、 実のお兄さんであろうと『近寄るな!』と声を荒げ、だれも側に近寄らせなかった。 それは医療関係者でも同じで。 時には、自分の髪から染料が落とされ元の赤色がでているのをみて、その赤さを嫌がるように、髪をぐしゃぐしゃにして叫ぶように声をあげていた。 いま思い返すと、あれは赤から連想される血の色に恐怖していたのではなく、白くならなかったことにショックを受けていたのだろう。 土方さんの怪我は《白詛》の根源に近づいたことが原因らしい。 髪の色から色素が抜けることを期待していたのに、感染した様子が一向に見られないことへの恐慌状態だったというのは、後から聞いた。 本人としては近藤さん以外に言うつもりもなかったのだろう。いつだか土方さんが近藤さんに愚痴の様にこぼしていたのを自分はたまたま聞いしまったので知り得たことだ。 もちろん誰にも言ってはいない。 とにもかくにも、あの錯乱しているとしか言いようがないあの状況を知る者たちからするならば、よくあの状況で土方さんは自殺を図らなかったとほめたいぐらいだった。 あのときでさえ、こうして五年たつ今でさえ、土方さんは死を選ぶ選択肢だけはしなかった。 今、この世界は死病《白詛》がひろまって、人々はゆっくりとだが確実に死へと向かっている。 万事屋の旦那は、どうやらこの《白詛》が広がる前からその存在を知っていたらしい。 それゆえになんらかのトラブルに巻き込まれて、彼は死んでしまった。 土方さんも死の淵をさまよった。 あの日を境に、土方さん自らが大切な家族と公言してやまない坂田銀時を失って―――なにかを一人で背負いこんだのには、みんな気付いていた。 それでもどんなに「自分たちは味方ですから」と、「言いたいことがあるなら話してください」と言っても、俺達が知る土方さんというひとは『そんなもんはなにもない』と平然とした顔でそ知らぬふりをする。 自分の感情さえもごまかしてるような気がしてしまう。 そんな土方さんだから、こうして視線がそらされると、次に見たときにその緑が曇っているのではないかと不安になるのだ。 土方さんは意外と強情なおひとだ。 どっかの誰かさんに似て、いや、どっかの誰かさんが土方さんに似ているのか。 結局、万事屋の旦那も土方さんも。二人とも、いつも無茶ばかりして。 大事なことだけは言わないんだから。 そうして一人で背負いこもうとする。 山「少しは話してくださいよぉ。自分たちでは、そんなに役に立ちませんか?」 思わず口についていた言葉。 それにハッとして口をふさぐも、すでにおそい。 空を見上げていた緑色が、ギラギラとした獰猛な光をたたえてこっちをみつめてくるのに思わず息を飲み込む。 その瞳に宿る昏いものに、“こわい”と思ってしまった。 ―――役に立つとか関係ないだろ。そのためにオレたちは徒党を組んでるわけでもそばにいるわけでもない。 一緒に笑ってくれるやつ。それがオレの力になるんだからよ。そのために、てめぇらはオレの側にいればいいんだよ。 ニカッと子供のように笑って、以前土方さんが言っていた言葉が脳裏によぎる。 だけど、今の土方さんから、同じ言葉を告げられてもきっと同じようには受け取れないだろう。 この五年で、土方さんの中にも、以前にはないものが芽生えてしまったように思う。 強い光に射すくめられて、思わず言葉を失ったとき、彼の心の中にいまだくすぶることなくひそむ牙むく獣の存在に今更気付いた。 しかしそれも俺の態度にか、そっと瞼がふせられぎらつく光を宿した緑の瞳が閉ざされる。 土『役に立ってる。・・・だからお前たちは絶対死ぬんじゃねぇぞ』 次にひらかれたときにはあの光はなりを潜めていて、いつもの凪いだような穏やかな若葉色が俺をむかえてくれた。 それだけで一気に肩から一気に力が抜ける。 ついでに冷や汗が全身から噴出していたのは、たぶん雨が流してくれる。 土『おら、いくぞ山崎』 山「あ!待ってくださいよー!」 いつのまにか藍色の方の傘を奪われていて、俺の前をずんずん進んでいく黒い姿に、俺も傘をさしなおして駆け出す。 追いついて、横に黒いひとが並んでいるのに嬉しくなる。 山「へへ。役得ですね!いまだけは自分が土方さんの背中を守りますから」 土『いや、すごくいらないし。ここは戦場じゃぁないしなぁ、守ってもらわなくても平気だろ。 もしストーカー被害にあってるなら、守ってもらうというか助けを呼ぶけど、そういうこともないしな。 そもそもオレなんかにストーカーはいないから大丈夫だろ』 山「やだなぁ、もう。ボケですか?そういう意味じゃなくてですね。俺が土方さんと一緒にあるきたいって話で・・・」 土『いや、もう歩いてるし』 本当に意味が分かってないのか、首をかしげてくるひとに思わず頭を抱えたくなる。 いや、きっと、普段は聡い人だから、今日は山「珍さん」とかいたから、いろいろ混乱してるだけだ。そうだ。きっとそうに違いない。 そもそもこのひと、どんだけ自分にファンがいるかって知らないんだよなぁ。 自覚してください!!って何人の奴が何度、その言葉を繰り返したか。 真選組の隊士たちや、万事屋たちが、あんたにとりいろうとする悪い虫を何度、陰で抹殺し追い払っていたかも知らないのか。 いやいや、そうじゃなくてですね。 さっきのは、一歩後ろにいてみんなを守ろうとするようなあんただから、真選組のなかではあなたと対等に歩きたいとその横を歩きたいと願うやつは多い。 できれば一人でなんか背負わずにその背を守らせてほしいと思うのだ。ともに背負わせてほしいと思うのだ。 ――って、そういう意味の話なんだけど。 通じないんだよなぁ。 ・・・いや。どうだろう? ストーカーとかファンのことは、いないと思ってるかもしれないけど。 意外と、自分たちの隣を歩きたいって気持ちは、もうずっと前から理解しているのかもしれない。 同じぐらいの高さのその切れ長な緑をみつめてみれば、まだちょっと目元が腫れている。 これだけみてもすぐにわかる。このひとが、いまけっこう弱ってることに。 うん。この状況が続くとヤバイかもしれない。 ストーカーとか、熱狂的なファンがここぞときかねないぞ。 変なところでうちの土方さんはズレてるからなぁ。 そもそもストーカーはいないって本人は言い張るけど、ちょっとばかし心が弱ってる状況の土方さんを見て、あの熱烈なファンやストーカー連中が、この期を逃すはずがない。 色仕掛けとかしかけてこないとも限らない。 いまの土方さんなら、押し倒されたら逃げられないんじゃ・・・ 襲われたらどうするんです!? あー・・・なんだか、そっちの意味で心配になってきた。 女の人は怖いからねぇ。最近の男もやばいです。 ここはこの自分の出番ですね! 山「山崎退!土方さんを死んでも守ります!!あいつらに襲わせたりしませんから!!」 土『襲うって・・・そりゃぁ、少し前までは幕府の味方をしてたんだから攘夷党のやつらにもいい顔はされないだろうがな。 まぁ、オレはまだ死ぬわけにはいかねぇし。襲われたら薙ぎ払うだけだ』 山「いえ、そっちは心配してません!ちがってストーカーですよ。むしろ自分たち以外の知らないやつをみたら警戒してくださいね。 自分たちは絶対ストーカーから貴方を死ぬ気で守りますから!だから心配しないでください!」 胸を張って告げた途端、ピタリと土方さんの足が止まる。 キョトンとばかりに目をしばたたいた後、次には土方さんの顔が物凄く引きつった。 土『え・・・なにそれ。オレ、ストーカーに狙われてるのか?』 山「それはもう五年以上前から!」 土『ご、ごねん? じゃぁ、もしかして、オレ宛の呪いの手紙の数々とか、謎の怪文おくりつけてきたりって、愛の告白文的な何かだったのか?ただの間違いだと思って捨ててだけど? たまにチョコにみたてたカレーのルーが郵便受けを埋め尽くしていたのも?たしかにオレ、あんまり甘いの好きじゃねぇけど。 あれは攘夷派のやつらからの地味な攻撃じゃなかったのか!? 洗濯物なくなったりとかもか!?まさか一昨日風に飛ばされてなくなったと思ったのは、風じゃないとか!? 近藤さんのマネとばかりに、行く先々で会うようなのとか・・・全部・・・全部オレのストーカー?』 山「すでに被害にあってたー!!!!??」 局長の行動をトレースしている時点で、そいつは完全なストーカーです!! すでに被害にあってたとか。なんで気付いてないんだ。 しかも攘夷志士からの嫌味でカレーのルーって・・・。 そういえば、土方さんズレてるからバレンタインとか、本気で忘れる人だった! ハッ!?もしかしてさっきの人影もあいつらかも!? 山「土方さん大丈夫ですか!?なにもされてませんか!?さっきくるとき人影みたいのなのがみえましたよ」 土『え・・・』 同じ色の番傘をさして、横に並びながら歩く。あいていた距離を埋める。 絶対守る! そう思って横の土方さんを見れば、肩を震わしてうつむいている。 どうしたんだろうとおもっていたら、小さなつぶやきが聞こえた。 土『・・・・・・お』 山「お?」 土『オトメさんたすけてぇーーーーー!!!!!!!』 山「えぇぇぇぇっぇぇ!?」 土方さんはなりふり構わず叫びながら走って行ってしまった。 ストーカーときいて、さっきの言葉通り、本当に誰かに助けを求めてるぅ!? 山「ってかオトメさんってだれですかぁ!!!!」 ストーカー怖い!!そう叫んで今までにないような青い顔をしていずこかへと元気よく走り去っていく後ろ姿に、あわてて後を追う。 山崎退、一生の不覚!! 今、まもるってきめたばかりなのにぃ!! なんでひとりにさせるようなまねを。 土『オトメさぁぁぁん!!!』 山「ちょ!まってくださいよ!土方さ・・・」 ドォン!! 珍「うわっ!?え?あれ?おおぐし、じゃなくて土方君?」 土方さんを止める間もなく駆け出してしまったので、ちょうど店から勢いよく飛び出してきた珍さんと土方さんがみごとな正面衝突をして、互いに弾き飛ばされる形でしりもちをついた。 土『ぎゃぁぁぁあ!!でたぁぁぁあ!』 珍「え?えっと土方君、どうしたの?」 土『オレの名を知っているということは貴様か!!テメェがいままでの呪いの手紙の差出人でストーカーだな!!!!』 珍「へ?え?ちょっ!ちょっと待って大串くん!!勘違い!!勘違いだからぁ!!!人違いですぅ!!! ぎゃぁぁぁーーーー!!!本当にまってぇ!!!刀しまってぇ!!いやぁ!俺様死んじゃうからーーー!!」 土『問答無用!!!』 山「あ」 いろんな意味でパニックになっているらしい土方さんは、すぐに立ち上がるものの、なんだかぐるぐるとしていて目の焦点が明らかにあっていなかった。 しまいには、相手をが誰かを確認する前に刀を抜き放ってしまった。 しかも目を閉じたまま。 そのまま珍さんに、斬りかかろうとしていた。 門の横にいた神楽ちゃんが、その様子にびっくりしてあわてて土方さんの刀をおさえこんでいたけど、しばらく土方さんから絶叫がやむことはなかった。 『ストーカーは切り捨てる』とか『天誅だ!』と『オレの下着返せ!』とか・・・・そんな罵声と、『オトメさん』と誰かの名を呼んで助けを求めている土方さんは、 かなりやばくて、あとから土方さんの叫び声を聞いてとんできた沖田隊長が気絶させるまで、抜身の刀を振り回していた。 目をつぶったままだったのは、恐怖ゆえにものをみたくなかったせいか。 いつだかの酔っぱらったときの目の前のモノをひたすら斬りまくるあのときを彷彿とさせるような事件だった。 どんだけストーカー被害をうけていたんですか!? 【オマケ】 山「ところでオトメさんって?」 楽「知らないの?灰色のきれいな猫よ。シロウの心の友とかいて愚痴相手ね」 沖「いままでの“アレ”がストーカーによるものだと、今頃気づいたんですかあの人。 むしろおれは、土方さんはストーカーなんて鼻で笑って無視しているのかとばかり思ってやした・・・気づいてないだけとは。 こりゃぁ、後藤さんから姐御を守るより先に、土方さんに常識をたたきこむか、守るべきでやしたね」 新「あの様子だとまだ続いてたんじゃ・・・」 山「一昨日もなんか盗まれたとか騒いでましたよ」 「「「・・・・・・」」」 沖「よし。罠をはりめぐらせやしょう」 山「あ、俺。さっき怪しい人影みました!笠をかぶった奴ですよ」 沖楽新「「「それだ!」」」 ゾクリ 笠「え?いまの悪寒、なに?「人違いですから!!!」と叫びたいのはなぜ?」 |