2015.02.07 加筆修正


白と赤色の物語
- 銀 魂 万事 屋 よ 永 遠 なれ -



02.いつか君と出会うとき





あいつが、“オレの知る坂田銀時”じゃないかもしれないって――そう、思ったのはいつだっただろう。

再会したその日に雨が流し去った涙は、再会への歓喜か。
それともあいつに似すぎているのにあいつじゃないという悲しさからか。

今となっては何が正解だかわからない。

けれど



夢『ようやく、この江戸の空も晴れそうだな。なぁ、銀時』








 -- side 夢主1 --








処刑されるはずだった平賀の爺さんは――なんとカラクリ人形のダミーだった。
首が取れたときの周囲の皆さんのビビリ具合はすさまじかった。
もともと首をはねるつもりの死刑執行人まで動きを止めるほど。
しかもそのとれた首を持って、万事屋が大騒ぎ。
っが。そうこうしているうちに、時限爆弾が設置されていたらしい爺さんの首は、万事屋三人を巻き込んで爆発し塵となった。

その隙に!っと、エリザベスらもオレら真選組も互いに目的の人物をかっさらってきた。

――それが数刻前の出来事。





現在、オレたち元真選組こと《誠組》と、桂一派は、自分達のトップとの五年ぶりの再会を喜んで宴会を行っていた。


エ「おれたちの大将にカンパーイ!」

上座に小太郎と近藤さんがビールジョッキを持って立っている。
音頭を取ったのは、エリザベスだ。

それにしても・・・ああ、エリザベス。お前、なんでそんな濃い声してんだよ。
むしろいつのまにオレの身長を抜かしやがった。

にしてもなんでビールだよ。
ビールが安いからって。
っち。ビールより日本酒がよかったなぁ。
ビール、苦い。


っで。そのなかで小太郎と近藤さんのツートップが、滝のような涙を流して嬉しそうに友情を築いていた。

近藤さん、ゴリラ具合が増してんぜ。
あつくるしいな。おい。

二人は「新しい時代を切り開くために〜」とか言っているが、それを彼らならできる!っというくだらない単語で締めくくるには、今の世界は厳しすぎるだろう。
ムショにはいっていた彼らは、残念ながらこの五年間の外を知らない。
今のこの地球の現状をまのあたりにしたら・・・。
それでも彼らは同じセリフを吐けるのだろうか。

ひとりチビチビと酒に口をつけながら、オレはトップコンビをみやる。

その“想い”は口には出さない。
あとで嫌でも、彼らは知るだろう。
この世界が今どうなっているかを。

戯言では済まされないのだ。



山「局長、桂さん。大事な連中を忘れてる」

ふいに男同士の友情を交し合っていたツートップズに、山崎が声をかける。

近「ああ」
桂「そうであったな」

山崎が今日のメインは、べつにいるとか言いだして、彼らの背後のふすまに手をかける。

なんだぁ?
誠組と桂一派のほかに、だれか、いたっけ?

山「みんな。紹介するよ。今日の作戦のMVP。過激攘夷党万事屋のみなさんだ!拍手〜!」

そうしてだれが呼んだのか、山崎と隊士の一人がニコニコとふすまをあければ、そこには万事屋とあの“銀色の男”が立っていた。

ドカッ。

銀「誰がMVPだ!どうしてくれんだよ!テメェラのおかげで、おれたちまで犯罪者の仲間入りじゃねぇか!」

ふすまがひらいたとたん、“銀色の男”が山崎に蹴りを食らわした。
転がる山崎。

それに構わず近藤さんが、眼鏡たちのところにかけていく。

近「いやぁ〜ありがとう新八君、チャイナさん!君たちまでが同盟に参加してくれるとは」
新「さわるなゴリラ」

肩をつかむ近藤さんを、いつもの冷めた調子で払い落とす眼鏡くん、こと志村新八。



ああ、この光景を何度夢見たことか。

今、オレの前には“懐かしい三人組”がいる。
神楽、志村新八、そして―――



夢『なんで・・・』



どうして、ここに“彼ら”がいるんだ。
これはさすがに予想外で、呆然としてその場から動くことができないオレに、そばにいたやつらが不思議そうな顔でオレを見てくる。

聞いてねぇよオレ。
呼んでたのか。
なんで、“ここ”にきたんだ。
ここは攘夷党の集いだ。お前ら場違いすぎだろう。

それに、オレは“あいつら”に会いたくなかったのに。
動揺しすぎて、いろいろばれちまったらどうしてくれんだ。


あー、だめだ。だめだ。

だって――
オレには、“彼”がどうしても“珍さん”なんて、珍妙な男には見えないのだから。

初めの一瞬以外は、なぜかオレには“彼”が、“坂田銀時”にしか見えない。


懐かしいままのダルげなあいつの顔をみてしまえば、幼いあの子をみてしまえば。
もう我慢しなくていいんだってわかってしまったから――



銀新楽「「「・・・」」」

エ「土方殿!?」
隊「「「副長ぉー!?」」」
隊「「「ひ、ひじかたさん!?」」」

夢『あ゛ぁ?なんだよ』

隊「ちょ!ちょっと!どうしたんですか!?」

夢『だからなんだよ』

隊「まさか・・・気付いてないんですか」


銀時が、つづいて万事屋の眼鏡とチャイナが、オレをみて言葉をなくして固まった。
なんだよと睨みつければ、焦ったように横に腰を下ろしていたエリザベスがこちらをみてくる。

だからなんだよ?

みんながこっちをみて、ぎょっとしてオレを振り返るやいなや、オレの名を、戸惑うように、心配そうに呼ぶ。
意味が分からなくて首をかしげていれば、ふいに視界が何かで隠される。
なんだろうと視線をさまよわせるもふさがれた視界では、暗闇しか見えない。

沖「気付いてないのなら、そのまま外にでなせぇ」

声で、視界を覆った手の主が誰かわかる。
ささやくような小さな声。
それとともに彼の手が微かにどけられる。
色素の薄い総悟の赤色の目と視線が合う。
声はどこか切なくなりそうなほど悲しげだったのに、暗闇がはれて見えた総悟は、怒っているように眉間にしわを寄せて、オレを睨むように目の前に立っていた。

夢『総悟?』
沖「五年分の・・・決壊してやすよ。土方さん」

夢『へ?』

“泣いてますぜ”と、小さな聞こえるか聞こえないかのギリギリの音量でつむがれた言葉。
言葉とともにしめされたのは、自分の目。

その言葉に自分のほうがびっくりした。
まったく気づきかなかった。
けれどたしかにオレの顔から離れた総悟の手はかすかに濡れていて。


一度気が付いてしまえば、もうだめだった。

涙は次から次へと溢れて、関が決壊したようにとまらなくなる。
総悟の言葉通りこの五年張りつめていたものがぶちぎれてしまったようで、痛くもかゆくもないのに、涙があふれでていた。


夢『わるい、でてくる』

それを止める方法がわからず、オレは呆然とする仲間や万事屋たちを置いて、宴会場を後にした。
走る気にもならなくて、目元だけ手で覆って、いつもと同じ歩調のままに。否、ちょっとばかり速足だったかもしれない。


外は雨だった。





**********





銀時だった。
銀時がそこにはいた。

襖の向こう側から現れたのは、“今”よりも幼さが残っている気がしなくもない坂田銀時だった。
少しばかり若く見えるのは、彼が“五年前の世界”から来た銀時だからだろう。
“過去の銀時”が来たことで、オレは歓喜した。
これで“オレの銀時”がようやく解放されると。もう彼が苦しまなくてすむのだと。もうあの子が我慢しなくてすむのだと――心の中で喜んでしまったオレはきっとダメなやつだろう。
否、喜んだ。喜んだはずだった。嬉しいはずなのに。

なのに――


夢『どうしてこんなに辛いんだよ』


“嬉しいはず”なのになぁ。
なんでか笑えなくて。
かわりに涙があふれてくる。


降り注ぐ雨に身体が冷えていく。
それとともに心まで冷めてしまいそうになる。


それはきっとこれからおこる物語を一部とはいえ知っているから。

幼いあの子に自分殺しの罪を背負わせることに申し訳なくなって、あわす顔がない。
過去から銀時がきたということは、すなわち、“あの子”がようやく苦しみから解放されるということ。そう考えれば喜んでしかるべきだ。
だけどそれは同時に、“あの子”の死を意味していて。


夢『“十四朗”・・・はやく。もっとはやく、オレたちを救ってくれよ!なんで、“まだ”なんだ!もう“銀時”がこっちにきちまったじゃねぇか』



万事屋たちと一緒にいた銀時は、きっと《オレ》のことをしらない。

はじめに“違う”のだと思ったのは、彼が、オレをみて、“驚いた”こと。
あのときの言葉は失敗だったと思ってる。かけるべき言葉は『おかえり』ではなく『はじまめまして』か『久しぶり』と言うべきだったのだろう。

それから顔を合わせるたびに違和感だけがつのり――。
彼がオレの知る銀時とは別の存在なのだと知ったのだ。

十五年前のある男の言葉が、真実だったのだと思い知らされた。

ならば、この世界の結末は決まっているのだろう。
“彼ら”が、救うのだ。
オレたちではない。“過去に現れた未来の彼ら”が。



夢『ちっ。とまらねぇなぁ』

上を見上げれば、真っ黒な曇天。
冷たい雨が顔にあたるのに、頬を撫でるのは生温い雫。

そのまま濡れるのも構わず歩いていれば、暗闇と雨のせいで滲んだ視界に、赤い光が視界の隅を過る。
月は見えないんだなぁと、足をとめ真っ暗な空を見上げていれば、ふいに声をかけられた。


「まるで誰かさんの涙を隠すために、空まで泣いてるみてぇだな」


夢『なんだよその台詞。くせぇんだよ』
笠「そうかい」

今日もあいつは笠をかぶっているのだろう。
けれどその下から赤い光が漏れている。それを見ないように、振り返ることはしない。きっとあいつも見られたくないだろうから。

声の主が誰かなんてわかりきってたから、そいつを探そうなんてことはせず、オレは口端を持ち上げる。
けれどそんなオレをみたあいつから「笑えてない」と指摘されてしまう。
『しかたないだろ』と悪態を返して、下がりそうになる眉を懸命に押さえこむ。
それでもあふれ出そうになる感情をどうすることもできなくて、それを抑え込むように瓦礫のようになりかけた壁に背をもたせかけて、顔を見られないように手で覆う。

笠「いつまで泣いてんだよ。“こうなる”ってわかってたじゃん」
夢『確定じゃない。“なるかもしれない”っていう未確定要素だった。
一番つらいのはオレじゃないのになぁ。・・・・・・すまねぇ』
笠「・・・後悔はしてないさ。あのときも、今も」
夢『嘘もほどほどにしろよ』
笠「これくらいの嘘。さらっと聞いてないふりして信じるのが優しさってもんだろ」
夢『たまにはいいじゃねぇか。全部、吐いちまってもさ』


笠「――まださ」


笠「まだ、だめだろ?お互いに」

夢『・・・“まだ”だめなのか?』
笠「ああ、だめだな」
夢『そうか』

赤い光をまとう男が、困ったように笑っている気がした。
それにごめんと謝った。


あと少しで“あの子”を開放してやれる。

だけど、オレはもっともっと、みんなで笑っていたかった。
そうでないのなら、もっと早く、すべてを終わらしてほしかった。


包帯だらけのやせた手がのびてくる。
いままでとは逆の立場となった手。オレの頭をなでるそれに、もっとたくさんの思い出をみんなと作っておけばよかったなぁって思った。


夢『むかしのように・・・みんなで騒ぎてぇなぁ』
笠「そうだな」

もう立ってるのもだるくなって、その場に体育座りのように座って丸くなる。

触れられる温もりが遠ざかるのに、別れを惜しむように目を閉じる。
昔はずっといつも側にあったはずの温もりだ。


――いつから距離が開いてしまったのだったか。


きっとオレが五年前に、銀時に手を伸ばしたあの時からだろう。
あの日、オレが目を覚ました時には、そこはどこともしれぬ病院で。
もうかぶき町で銀時は死んだこととなってしまっていた。

あのとき、オレが怪我を負ったのは不可抗力。
いろんな奴に迷惑をかけてしまった。
でも“オレたち”の策略に、かぶき町のやつらはまんまとはまってくれた。
銀時が死んだと周囲に思わせるよう仕向けたのも。そうなるよう“偽物の死体”を用意していたのは、“オレたち”。


だけど。
どうしようもなく。

・・・辛かった。


五年。過去の世界から“銀時”が来るのをずっと待っていた。

辛くてつらくて。
なんでこんな未来になってしまったのだろうって。
この町に坂田銀時という存在がないのが、つらくてしょうがなかった。

でもそれはきっと罰だ。

こうなる“未来を知っていたオレたち”が、仕組んだこと。
町の中心であった“坂田銀時という存在を消したオレたち”には、きっと悲しむことさえ許されない。
だからこの五年は頑張って泣かないようにした。
泣きはしなくても、ばれないように“いつもどおり”をよそおって笑うことはできてたはず。

あれ?まてよ。ちゃんと笑えてたかなぁ。

まぁ、いいや。
それももう、終わり。



遠くで誰かがオレを呼ぶ声が聞こえた。
それを合図に、手が――側にあった気配がひとつ、遠ざかる。

懐かしむように。
離れてしまった温もりと気配を、同じものを探すように“記憶の中から”懸命に思い出そうとしてみる。


夢『大丈夫。大丈夫。大丈夫・・・』


温もりと共にあったそのときの楽しかった記憶をも取り戻そうと呪いをかける。
心が折れないように――
願いを込めて、同じ言葉を繰り返す。


絶対に“十四郎たち”が助けに来てくれるから。
だから大丈夫。
絶対に。



時がきたら。
今度はオレたちが“十四郎”、お前との約束守るよ。

だから。いまだけは――








雨よ。

どうかこの涙を隠してください。




















【オマケ】


夢『あ・・・そういえば“土方十四朗”って、目の色黒くなっかったっけ?』


どうやって“珍さん”をごまかそう。

だってさ。
だって。


きっと――

 オレはさ。





君が知る“土方十四朗”ではないのです。








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