01.銀色の死。銀色の男 |
オレが真選組で。 桂小太郎と高杉晋助が、攘夷志士で。 坂田銀時が、神楽と志村新八と万事屋をやっていた。 笑って、泣いて、怒って。 そんな騒がしくも楽しい日々は、あの日にすべてが終わってしまった。 時代は流れた。 ――――あれから五年の歳月が流れた。 ここは死を待つだけの地球。 その“かぶき町”。 -- side 夢主1 -- 銀時が死んで五年。 世界はまた地球人がメインの世界に戻っていた。 それは対処法も何もわからないウィルスが地球に蔓延したのが原因で。 そのせいで、金持ちから先に違う星へと逃げていった。 残ったのは金のない者、この星に愛着がある頑固者だけ。そのほとんどが地球人だ。 蔓延したのは《白詛(びゃくそ)》というウィルス。 感染者は全身の毛髪から色素が抜け落ち、半月以内に確実に死に至る。 その症状から「白い呪い」と恐れられ、《白詛》という名前が付けられたのだ。 対処法はなく、発生源・感染経路も不明――ということになっているソレは、江戸を中心に世界中に猛威を振るい、たった五年で地球は荒廃した。 五年前とんでもない奇跡を起こして桂小太郎、近藤勲、平賀源外の3バカズが捕まった。 そのときからすでに白詛の感染の話が出回っていたからこそ、すぐには助けることはしなかった。 なぜなら一度監獄内で感染者が出ればただではすまないだろうが、“でていない”のであれば、まだ閉鎖された檻の中のほうが、 オレたちの大事なあいつらは、殺人ウィルスの被害にあわないだろうという考えのもとだった。 そこからは―― 長かった。 長い五年だった。 当時のオレには、もう、すがるもんがなかった。 銀時は死に、近藤さんや小太郎は側にはいない。 だからオレは真選組をひきいて幕府を裏切り、攘夷派となった。 そのときから真選組は、過激攘夷党《誠組(まことぐみ)》だ。 幕府の役人が幕府にたてつくなんてな。 とはいえ、そもそも今となっては、この荒れ果てた地球で、幕府など機能しているのかさえ怪しいが。 そうしてあの三バカの処刑の話が決定した時点で、オレはトップを失ってもなお力を蓄え続けていた《桂一派》と手を組んで、機会をずっと待っていた。 夢『ようやくこのときがきたなエリザベス殿』 エ「ああ」 横にいるエリザベスは、この五年でどれだけ力をつけてきたかわかる―――なんかすさまじい筋肉質な全身白タイツのおっさん声がエリザベス風の顔マスクをしているような・・・まぁ、なんだ。エリザベスのあのかわいらしい外見は今どこにもないとだけ言っておこう。 き、きっと・・・えっと、その。そ、それぐらい努力したに違いない。 うん。そういうことにしておこう。 ちなみにオレは、転生の影響がここでも出ていて相変わらず成長はしていない。 せいぜい髪の毛が伸びたぐらいだろうか。それもすぐに切るから、ポニテをしてる総悟にはかなわないけどさ。 つまりオレは、外見的にはなにも変わってないんだな。悲しすぎる事実である。 そんなわけで、ただいまオレは、エリザベスだった全身白タイツマッチョと、仲間を連れて、互いの組織のトップを助けにきたところだ。 なお、寒そうだからやめとけっていうオレの優しい助言を無視して、総悟は川に泳ぎにいってしまった。 夢『ん?』 ふと、なにかを感じたとでもいうのだろうか。 そちらのほうをなんとはなしにみやれば、視界の隅に “なじみの色” を見つけた。 それに、驚きに息が一瞬止まる。 もう一度じっくりと橋の上をみやる。そこにはやじ馬に紛れて、赤と黒と銀色の組み合わせを見つけた。 すっかり擦れて大人びたチャイナと眼鏡の間に・・・“銀髪の男”がいた。 だがしかし、すぐに表情を改める。 ああ、銀時じゃないのかと。 ストレートな銀髪おかっぱ。ちょび髭。首と顎の境目がない。形容するなら《ピー―!》っていうエラー音が響きそうな何とも言い難い姿の男だ。 そんな知らない変な男に、“一瞬みえた”から。 だけどそれは本当に一瞬。 ――それだけで、時が来たんだって知った。 だから、思わず泣きそうになってしまって、かわりに馬鹿みたいに笑ってやった。 夢『いくぜエリザベス殿。 とりもどそうオレたちのトップを!』 エ「むろんだ土方殿。そのための我らが同盟だ!」 夢『オレの大事なもん、まるっと全部返してもらうぜ』 すべてをごまかすように、“銀髪の男”から視線をそらし、横にいるマッチョエリザベスに話しかける。 オレたちのうしろで期を窺っている仲間たちが、いまかいまかと時が来るのを待っている。 彼らは十分やる気だ。 きっかけは総悟が切り開くと言っていたが、先程の“銀髪の男”が、橋から降りてきて、ふざけたことをしている死刑囚たちに喧嘩を売っている。 久しぶりに見る小太郎も近藤さんも元気そうで何よりだ。 その正面で、騒がしい“万屋たち”の姿に―――泣きそうになる。 “三人”がいっしょにいるなんて。 ああ、なんてなつかしいんだろう。 死刑執行人から刀を奪って囚人を殺そうとする“銀髪の男”をひっしでおさえるチャイナ娘。 二度ほどそのやりとりをするも彼らは柵の外へ追いやられてしまう。 そうして今度こそ、近藤さんの首が斬られる!?――そう思ったとき、まさにそのとき、“串”が執行人の腕貫いた。 沖「礼を言うぜ万事屋ぁ。てめぇらが注意を引き付けてくれたおかげで容易に潜り込めた」 川の中から現れたのは、総悟だ。 総悟が来たということは、彼ら万事屋が騒いで引き伸ばしてくれたおかげで時間が稼げたともいえよう。 総悟は周囲が唖然とするのも構わず、逆刃刀で幕府の手下侍ともをたたきふせていく。 それに顔を青くしたやじ馬の一人が、 客「あ、あれは元真選組一番隊隊長にして、今や幕府にあだなす最凶最悪の凶手、人斬り沖田!沖田総悟ぉ!!」 川からあがってきた総悟の素性を観客の誰かが叫び、それをきいた“銀色の男”が総悟の今の異名を聞いて、口をあんぐりとあけて絶叫を上げた。 「はぁぁっぁあぁ!?人斬りぃ!?なにそれ!ドウイウコト!?」 山「あれ?あの変な銀時さんのコスプレした男は、沖田さんのこと知らないんですねぇ」 夢『っに、しても見事な説明口調だったなあそこのあいつ。オレらの広報担当にほしいネェ。あ、もうオレら真選組じゃぁなかったか』 山「土方さん、これからのりこむのになにのんきなことを」 夢『いいじゃねぇか山崎。祭りはたのしまねぇとな。こんなご時世ならなおさらだ』 よく咬まずに一息で言えたなぁと思わずヤジ馬の方に感心していれば、背後から山崎に苦笑される。 いや、でもなぁ。 オレと山崎がのんきに会話している間にも総悟だけで盛り上がっている。 客「まて!土手の上にも!」 そうしてまた誰かが声を上げ、指差されたのは、オレたち。 ありゃぁ。見てたのばれちゃったよ。 ってか、むしろ今更だ。ようやく気付いたのか。 まぁ、いい。 そんじゃま、そろそろいくとしますかね。 オレの背後の奴らもすでに飛び出したくて、暴れたくてしょうがないようだしな。 きっと彼らにしてみれば、総悟だけにおいしいところを全部持ってかれるのも嫌だろう。 そろそろいくかと、横にばけも・・・エリザベスに視線を向ければ頷かれる。 ならば。と、エリザベスをともなって、野郎どもの一番前に進み出て、いまだに幕府の狗なんてものをやっている役人たちに挑戦状をたたきつけるように、そのまま刀を抜き放ち声を張り上げる。 夢『テメー等。決起の時は来ぞ。オレ達から近藤勲を奪った此の国に』 エ「俺達から桂小太郎を奪った此の国に」 夢エ『「天誅をくだせっ!!!」』 「「「「おおおー!!!!」」」 日々『やつらに天誅を』と口癖のように呪いの言葉をはいていたおかげで、打ち合わせしたわけでもなく、エリザベスといいたいことがそろった。 ああ、さすがは同胞よ。 夢『指揮はこの土方十四朗と』 エ「エリザベスがとる!」 夢エ『「つづけぇ!!」』 そのあとは怒涛の展開だった。 役人相手に久しぶりの激しい乱戦。 総悟のもってる逆刃刀いいなぁ。オレの刀は、切れすぎる。 まぁ、殺さないように、軽く足や手に攻撃するだけであしどめにしたけどな。オレは。 そういう性分なんだよ。 ほかの奴らにもあまり殺すなとは言ってあるが、それは簡単なことじゃないだろうから、流れた血をオレは見て見ぬふりをする。 ちなみにエリザベスの白かった身体は、戦争の時のオレのごとく、返り血で赤く染まっていた――― やっこさん、いつかオレと同じように妖怪化すんじゃねぇの? いや。いまでも十分に妖怪じみた外見してるけどさ。 ここは過去の攘夷戦争とは比べようもないほど小さな戦場だ。 それでもこの戦場の中で――一度だけ、あの“銀色の男”と視線が合う。 もうオレには、チョビ髭があるようには見えない。 あれは幻か何かの一瞬の出来事だったのか。 いまとなっては、どこが違うのか。どこがおかしいのかわからない。 そうだな。おかしい部分はどこだろうか。 無理やりおかしな部分を上げるとするならば――オレにはくるくる“天パの青年”が、額にほくろをつけてるところぐらいしか、おかしい点が思いつかない。 ほかには、おかしなところはないように思える。 だって“お前”はさ、額にほくろなんかなかっただろ? 夢『―――ぎ・・・』 “彼”の名をそのあとに呼ぼうとして、けれどそれはちょっと違う気がして、大切な名を胸の中だけにとどめておく。 かわりに嬉しくなって、笑ってその横をかけぬけ様に、ちょっとだけ声をかけた。 夢『おかえり』 “銀色のあいつ”に笑いかけて、近藤さんを救いに行く。 すれ違いざまみた“銀色のあいつ”は、驚いたような顔をしていた。 |