プロローグ.First contact |
1 5 y e a r s a g o ... あいつの指示通りあるいていけば、さびれた屋敷に彼らはいた。 こんなご時世のこんな場所では、酒など飲むことさえままならないのだろう。 あなたたちのおかげでもう戦争はあとひいき。彼らを尊敬している。自分にはこれぐらいしかできないから――そう言って、彼らに酒をふるまう。 それに嬉しそうな歓声をあげる奴らを見渡せば、まだまだ自分なんかよりも若けぇやつらがたくさんいた。 中にはとしはもいかない幼い子供もいる。 ここにいる奴ら全員、未来ある者たちだ。 こいつらを死なせたくないと思っちまう。 彼らからしてみれば、年寄りや子供だろうと関係がなかったんだろう。 一つの願いのもとに、彼らはここに集い、いまだこの戦場を離れることがない。 ―――攘夷戦争まっただなか 飲めや歌えやの大宴会が始まった。 今この場には、ひときわ目を引いてやまない四人の若者がいる。 その中に白に近い銀色を見つけて、絶対に“やり遂げないと”いけないと、新たに心に誓う。 自分の中でいくつにもダブった記憶が一瞬混乱を呼ぶが、それでもひとつだけ変わらない思いがある。 無意識にこぶしに力が入った。 ここにいるのは攘夷志士たち。 酒をふるまって喜ぶ姿を見れば、ただの子供だ。 でも・・・。 「…っ。ぁ、じゃ、じゃぁ、自分はこれで」 長居は無用だ。 自分は無害で、敵意もないのだとアピールするべくヘコリと頭を下げて、仲間たちのもとに戻ろうとした。 ここに長くいると涙が出ちまいそうだ。 『そうか。もう、帰るのか』 「――――!!」 ヒヤリ。 その声とともに、冷たいものが首元をなでた。 『だが帰ってもらうわけにはいかねぇな』 「あ…」 どこかで・・・。 その声は、聞いたことがある気がした。 けれど思い出せない。 それはきっといまにも驚きすぎて爆発しそうな心臓がいつもより早い脈を刻んでいるからか。 いやいやいや。冗談じゃなくて。マジ、現状ヤバイ。 たま嬢ちゃんのおかげで思い出した騒がしいころの過去に一瞬とはいえとらわれすぎたかなぁ。 いつのまにか、背中がおろそかになっていたらしい。 ああ、もう。自分の背後から首の横を通ってスラリとしたものが、ギラリと輝き、いっそ視界の暴力だ。 自分は今刃物を向けられているのだと知った。 首元をなでるそれにチラリと視線を向ければ、すぐに自分の顔がきれいに映る抜身の刀が目に留まる。 それにゴクリと生唾を飲み込む。 鏡の役割を果たす刀身ごしに、自分の背後にいるであろう人物と視線が合う。 刀に映るのは、長くてサラリとした白い髪。そしてみたこともない――緑。 鮮やかな色のついたその鋭い目が、こちらをにらんでくる。 目があった。そうおもったときには、殺気めいた何かが増した気がした。 こ、こえぇ。 『誰のさしがねだお前?どうやっておれたちの居場所を知った? ・・・まぁ、聞きてぇことはいろいろあるが――― まずは、吐いてもらおうか。 いろいろとな』 緑の目なんて、“この時代からしたら未来にあたる”あのチャイナみたいだ。天人なのだろうか。 だけどこの場にいる攘夷志士たちは、そのひとがいるのが当然とばかりに、信頼したような目を向けている。 こいつはいったい―― 白髪緑目の威圧感というか、殺気が半端ない。 すごい威圧感だ。 このままじゃぁ、こいつの殺気だけで頭がおかしくなりそうだ。 こんなのがいたのに気付かなかったなんて。 こいつはいつからいた? いや。いつの間に現れたのか。 こんな奴の話は、桂さんは何も言ってなかった。 こいつは誰だ? 「あはははー。おー親父殿!みんなの治療は終わったのか?そのおっさんが景気よくこんなに大量にいい酒持ってきてくれたぜよ!一緒に飲み明かそうではないか!」 「…飲むんじゃねぇよ坂本。テメェらも、わかってるな?」 「もちろんです晋助さん」 「坂本さん、もう少し空気を読みましょうよ」 「おまんたちなぜじゃぁ!?酒じゃぞ?どういうこと?」 「まだわからんのかお前は」 もじゃもじゃ頭がいまにも酒の封を開けようとしたところを、晋助と呼ばれた青年が奪い取って呆れたようにため息をついている。 晋助が周囲を見やれば、いままで宴会だと騒いでいたやつらが、だれひとり酒に手を付けていないことに気付く。 「良い酒にまちがいはないじゃろ?あー、わしのぶんがぁ。ヅラのくせになにするんじゃ」 「ヅラじゃない。桂だ。 重患を看て帰ってきたばかりのシロウさんに、お前というさらなる重者を押し付ける気かお前は」 「わしが重病患者になると?なんじゃぁ?だからこれはただの酒だろ?」 「“そうじゃない”可能性のほうが高いって言ってんだろうが!」 桂と坂本が言い合い、最後に銀色天パの青年が見事なツッコミを坂本に炸裂させる。 漫才をやっている四人の若者はともかく、空気は張りつめたように険しい。 「酒ねぇ。おれたちを油断させるつもりだったのかオッサン? お。なになに?このラベルなんてみたことない文字だぜ」 「銀時。お前はこの国の文字もろくに知らぬだろうが」 「うっせぇよヅラ」 「ふん。少しは考えたようだが、このご時世にこんな高級な酒ばかり山ほどなんて有り得ないだろう。どっかの店ひとつ襲ってきたか?それで酔わせて奇襲をかけようってのか?それとも・・・・・毒でももるつもりだったか?」 しまった。 どうやら自分は疑われていたらしい。 どうせ“ないことになる”のならと、店の酒を全部持って行けと言ったのはお登勢のばあさんだ。 それがあだとなったようだ。 真選組なんかは、在庫を気にする必要がないということで武器という武器をかきあつめてたが、あっちは戦場で使うから問題ないだけだな。 こっちは――異国の文字が混ざってるのもあったか。場所とものを間違えたな。 やれやれ。 はぁー。 ヤニ、吸いてぇなぁ。 結局さ。 やーっぱり自分は、ダメなオッサンで。 それがどこの時代であれ、あの銀色にかかわると、ろくなことはないってことが今ハッキリした。 就職全滅だし。リストラが板についちまってるしよぉ。 『話してもらおうか?』 キィンと金属がこすれるような小さな音がして、緑目の自分の背後にいたひとがなぜか刀をしまった。 そのまま殺されると思っていたから。まぁ、肩の力は抜けたけど。 なんでいま解放されたんだろうとおもっていれば、背中をトンとおされ、帰ろうとしていたのに、逆に中にもどされる。 『にがさねぇよ』 背後を見て緑の目が楽しそうに細められたのを見て顔が引きつる。 白いひとの刀からは解放されたが、そのかわりのように攘夷志士たちのこちらを疑うような警戒交じりの視線が突き刺さる。 にげられそうにはない。 逃げる気もないけど。 逆に、彼らには逃げてもらうけど。 「ふっ」 思わず口恥が盛り上がり、その場には不釣り合いな笑い声がもれてしまう。 それに空気がさらに張りつめ――― 「ごめんなさい!!すみませんでしたぁ!!!!」 究極奥義、土下座をした。 いやいや。こんな怖い奴ら相手に、ただのリストラマンがどうこうできるわけもねぇっての。 緑目のあいつ、めちゃ!怖かった!! めちゃくちゃだよもう。 きいてないよ!?あんなのいるなんてさぁ! っていうか、銀さん、攘夷志士だったんだな。 真選組の奴ら、それをしったらどうすんだろう。これから銀さんを助けて未来を救おうっていうのに・・・。 仲たがいしたりしないよな? 『オレがいないうちに入り込むとはいい度胸じゃねぇか。その土下座のキレもけっこう好きだぜ』 白い奴がニヤリと笑った。 こ、こわい。 この兄ちゃんなんか見覚えがある気がするんだけどだれかわからない。 むしろおっさん、もうここから帰りたい。 うう…こんな役回りヤダ。 オッサンは即お手上げ降参したさ。 |