白と赤色の物語
- 銀 魂 -



29.言いたいことがあるなら背後に回るな!
第39話メニューの多いラーメン屋はたいてい流行ってない より





真選組にいるシロウさんは、俺のことをなんだかんだいって見逃してくれる。
たぶんあの人の子供と俺が幼馴染みだからだ。
シロウさんは、身内には異常に甘い。

いつだったかは、真選組に追いかけられた時、シロウさんに完全に先回りされて捕獲された。しかしそこでお役所に突き出されることはなく、屋台の焼きイカを買って渡したらお礼を言って去っていった。「あんた何しに来たんだ」とこっちが思ったほどだ。

そんなシロウさんがいないときの真選組は、俺に容赦などしてはくれはしまい。

まぁ、爆弾でも投げて逃げてやるがな!





 -- side 桂小太郎 --





その日の夜は、自転車でかけていたら、ちょうちんをつけ忘れて見回り中の真選組のやつらにひきとめられてしまった。

下着泥棒が脱獄したとかで、あやしまれ、身分を証明する物の提出を求められた。
証明しなかっら怪しまれ、証明したらしたらで結局俺は捕まるなそれ。

隊「・・・・・でおおいからねぇ」
桂「あの、もういっていいですか?急いでるんで」

思わずごまかそうとした俺は悪くない。
むしろ正しい。

隊「いやいや。最近この辺下着ドロボウが多くてねぇ。知ってる怪盗フンドシ仮面って?あれまた脱獄したらしくてさ」
桂「ぼくはトランクス派なんで。じゃ!」

こういうときは、とにかく逃げるに限る。

っが、途中でかぶっていた笠が吹っ飛んでしまって、髪の長さのせいで“攘夷志士の桂小太郎”とばれてしまった。

そのあとシロウさんにいつもくっついている茶髪の小さい方の隊員が、俺にむけてバズーカを撃ってきた。

撃つなよ!!!
躊躇しろよ!
夜だぞ!
街中だぞぉぉ!
ぅおぉぉぉい!!!

ふっ。心の中の雄たけびなどだれにも聞こえるはずもなく・・・



命からがらバズーカから逃げることに成功し、なんとかすぐそばの脇道に逃げ込んだが、さっきの爆発が原因で足を痛めたのが痛手だ。
俺を幼馴染みたちと共に面倒見て育ててくれたシロウさんが“真選組の副長、土方十四朗”であるなら、あんな殺傷能力のある武器を警察に持たせはしないだろう。あのひとはだれかが傷つくことを嫌う。だから、トリモチとか網とかのバズーカでないと許可しなそうだ。
なのにいかにも捕縛ではなく、殺傷力しかありませんとばかりのあのバズーカは、きっとあのちっこい茶髪クンが勝手に支給品を魔改造して持ち歩いてるに違いない。

銀時は、シロウさんと歩いているとよくあのちっこい茶髪に狙い撃ちされるらしい。
よく無事だなあいつ。

それからすぐにあのちっこい茶髪が、他の隊員らに連絡を飛ばしたらしく、俺のいた周囲が真選組によって包囲されてしまった。
軽く止血をして痛めた足をひきずりながらも屋根伝いに逃げていると、支えにしていた壁が突然途切れ、かわりにふにっとしたものをつかんでしまい足を止める。
そのまま手を引き戻してみれば、手にはなぜかブラジャー・・・。

横を見れば、物干し場に洗濯物を取りに来たのか女がいた。

思わず

桂「こんばんはサンタクロースだよ」

なぁ〜んて。裏声でごまかしてしまった。

っが

桂「ぐはぁっ!!」

ドカッ!とみごとな拳でもって殴られた。
やっぱり、ごまかすには無理があったか。








**********








「まったく紛らわしいひとだね。ただでさえ最近は下着ドロがはやってるっていうのにさ。あんなところにいたあんたも悪いんだから。その一杯で勘弁しとくれよ。うちはラーメン屋だからね、そんなもんしかだせないけど」

そのあとは、誤解がとけ、殴った謝罪の代わりにと、幾松(イクマツ)殿にラーメンをおごってもらった。
錦幾松殿は、「北斗心軒」というラーメン屋の女店主で、亡き旦那の跡を継いでがんばっているらしい。

とりあえず

桂「好物は蕎麦だ」
幾「なんで好物言った?蕎麦だせってか!?蕎麦だせってか!?」

ここはラーメン屋だと!怒鳴られ、溜息をつかれた。
げせぬ。
好物を言っただけなのに。


幾「それにしてもあんた、あんなところでなにしてたわけ?」
桂「ん?あれだ道を間違えてな」
幾「へー。道を間違て屋根の上歩いてたんだ。天国にでも行くつもりだったのかい?」
桂「違う違うそういうんじゃなくて、人の道的なものをだな」
幾「お前やっぱ下着泥棒だろ!」
桂「人には言いたくないことが一つや二つあるものだ。
だが、これだけはいっておくぞ。俺は怪しい物じゃない」
幾「鏡見てきなあやしい長髪が映ってるから」

ラーメンを食べながらイクマツ殿と会話をしていれば、ふいに店の外をパトカーがサイレンを鳴らして通り過ぎた。
反射的に玄関の扉の陰に隠れるようにたちあがり、その隙間から外の様子をうかがってしまった。
外はすっかり真選組が跋扈していて出れそうもない。
どうやら味方になってくれるシロウさんの影もないようだし・・・あの人は、今頃猫の宴会だろうか?そういわれてみると今日の月は綺麗だ。

けれどこのまま外に出るわけにいかなくて、イクマツ殿には雨が降っているとごまかし、しばらくかくまってもらうこととにした。

雨が降ってないとイクマツ殿がいぶかしんだので、しかたなく別の言葉を探す。

桂「ひどい天気だ。すまんがイクマツ殿、もうしばし雨宿りをさせてもらえないだろうか」
幾「雨そんなもの降ってたかい?」
桂「正直に言おう。実は・・・俺は全国のラーメン屋を回るターメン求道者でな。君の腕にほれた。ぜひ勉強させてほしい」
幾「さっき蕎麦好きって言ってなかったっけ?」
桂「ラーメンも蕎麦も似たようなものだ。なんか長いじゃん」
幾「お前にラーメンを語る資格はねぇ!!」

だいたいこんなところで働いたって得られるものなんかありゃぁしないよ。
来る客といえば――

ガラリ

「イクマっちゃーん元気―?」

幾松殿がそう告げると同時にタイミングよく、店の入り口が開き、いかにもたちの悪そうな男が顔をのぞかせる。

入ってきたのはガラの悪そうな男が三人。
俺なんかよりこいつらこそを、シロウさんに突き出したほうが、真選組も喜ぶんじゃないだろうか。そんな雰囲気の奴らだった。
幾松殿の弟を名乗るそいつと、その取り巻きが、金かねとうるさいものだから。
おもわず無理やりチャーハンを三つ注文してやった。
バイトのふりをして、そいつらの話をきくことにした。

よかったよかった。ウェイター用の変装衣装を持ってきていて。

イクツマツ殿いわく、そいつらは攘夷を盾に、アケザトヤの金蔵を襲撃したらしい。

弟「国を救うという大事の前では強盗なんざ小事よ!俺たち攘夷志士には金が必要なんだ」
幾「なにが攘夷志士だ!金が欲しいだけのごろつきがかっこつけてんじゃないよ!外でたむろしてる真選組もんたらなんか相手にもしないだろうよ!小物が!」

イクマツ殿はそのあと義弟を殴り飛ばし・・・。
泣いていた。
彼女の旦那さんが、攘夷志士と関係があったようだ。

それからイクマツ殿に食って掛かるバカ義弟がうるさくて。
つい、うっかり。
AセットとBセットとデーザート用、前菜用、メインディッシュ用をはこび、そのチャーハンすべてに、たまたまもっていた強力下剤を落っことしてしまった。そのせいでこれまたたまたま挿入することとなってしまったが・・・。
まぁ、その時はたまたま俺が厠をつかっていたので、義弟君と手下は尻を抱えて、さっていった。
たまたま が重なるとは、なんと不運な。

慌ててかけだしていく三人をみおくり、ようやく静かになったと、店舗内を見やれば――


『攘夷なぁー。うん。攘夷をかかげられちゃぁ、どんなせこい奴でも捕まえないといけないか。真選組のやつらは大変だなぁ。
戦争かぁ、いやはや懐かしい。オレらの世代にゃぁ、“白ふんの”とか“カミ狩り”とかいたんだがなぁ。あの時代は戦争もはじまったばかりで。そういえばもうあれから何十年もたったんだよなぁ。あの小さかった子がもう二十も超えて。いや、感慨深いネェ』

振り返った店内には、いつからそこにいたのか、黒い着流し姿の赤い髪の男が席にいて、残りの手つかずのチャーハンをくっていた。

幾「えーっと・・・だれだいあんた?」
夢『ん?オレかい?オレはシロウ。いやぁ、夜勤明けに空いてる店がなくてなぁ悪いねおねぇさん。えーっと。猫にラーメンっていいんだろうか?ま、この姿の時なら問題ねぇよな。おねぇさん、味噌ラーメンで』
幾「ハーイ味噌ですね・・・って。いつからいた!?」
夢『いつからって、あの義弟君とやらと一緒にはいらせてもらった。気づいてくれなかったから、ずっと奥の席に座って声かけられるの待ってた。
それにしても変わったスパイスだなこのチャーハン』

――なぜかそこにシロウさんがいた。

オレに毒とウィルスはきかねぇぜ。
シロウさんは、悪役も真っ青な顔でレンゲをビシっとつきつけてニィっと不敵に笑い、あの下剤入りチャーハンを完食していた。

桂「し、し、シ!シロウさぁんっ!!!?な、なんでここに!?」

思わず声が裏返った。
タケェなとうるさそうにシロウさんが耳をふさいでいた。

髪の色を赤に戻しているところからして、真選組の土方十四朗としてではなく、一般人のシロウさんとしているのだろうが。
思わず逃げ腰になってしまう。

本当にいつからいた。

夢『なんでって、お前が負傷したと聞いて。
そもそもオレに知らない情報はないが?』
桂「っ!?」

なんでもないことをきかれて、逆にどうしてそんなことをきかれるのかわからないばかりに、コテンと首を傾げられ、不思議そうなその深い緑の瞳と視線が合う。

そうだった。
このひとはこういうひとだった。
いいや。このひと、そもそもひとでさえなかった!

そうかそうだよな。かぶき町って、猫が多いんだった。
これは間違いなく猫から情報を聞き出したに違いない。
さすがの俺も、猫にまでは警戒していなかった。
きっとそんな俺をシロウさんの指示に順々な猫たちは監視していたのだろう。

さすがは猫と語り合う生き物・・・シロウさんだ。

夢『怪我の具合は?』
桂「お、おおぅ、だ、だいじょびで・・・シ、シロウさん、その、俺は、あなたの探してるやつなんかじゃなくて、ぜ、全国の、ラーメン屋を回るターメン求道者で」
夢『ふっ。ばかだなぁ小太郎。オレは真選組じゃぁない。ただのシロウだし。
ああ、気にすんなって。お前があの場からどうやって消えたとか、そのあとここに来る前での順路と経緯とか・・・知ってるけど。別に真選組にばらす気はねぇし。え?なに?ばらしてほしいの?」
桂「い、いえ。め、めっそうもない、です!!」

幾「はいよ。おまちどー味噌いっちょー」

夢『お。うめぇーな。ジャスタウェイが入ってたからてっきり麻薬でも入ってんのかと思ったが・・・』
幾「なんで、ダシの中身まで知っている?」
桂「じゃすた・・・?」

シロウさんは相変わらず神出鬼没で。
シロウさんはどこまでも自由だった。

美味い美味いとラーメンをすすり終えると、きれいな仕草で箸と代金をパシンと机の上において、何事もなかったかのように「ごちそーさん」と笑顔で店を出ていこうとする。

ガラっと途中まで扉をあけたところで、ピタリと足を止めるとシロウさんは振り返った。

夢『あ、そうそう。ひとつだけ、な。
亭主よぉ、“誰もがみんな同じじゃない”んだぜ』

幾「は?」
桂「シロウさん?」

夢『すまないが幾松殿。オレの養い子、もうすこしかくまっといてくれや。総悟の方は何とかしとくからよ』

そうして陽気に去っていたシロウさんは、店を出た瞬間に――。


「「「いたー!!!」」」
「局長!沖田隊長!いました!土方副長です!!」
「なんでこのクソ忙しいときにラーメンなんか食ってんですが!!」
「よーし!やっちまえぇやろうども〜。土方この野郎!てめぇなにさぼってやがんでぇ」
『はぁ!?オレは今日はもうあがりだっ! 息子はすでに独立してるし、独り身も同じオレがどこで飯を食おうとオレの自由だろうが』
「はいはーい。ネギはくってねぇですかぃ?イカはでめですぜ。お腹イタタ〜になってやしませんか?いいからいきやすぜぇ〜。さくさく動いてくだせぇ土方さん。やつが動きました。情報が欲しいんですよ。あんたの出番ですぜ」
『いや、ちょ待った総悟!オレ、夜番じゃねぇーし!ってきけよぉ!おいぃ!!!!』

シロウさんは、真選組の皆さんに一斉包囲されたあげく、そのまま連行されていった。
言葉を挟む隙もなかった。


とりあえず幾松殿が、もう遅いからと、店ののれんをさげていた。


幾「さっきのが、あの鬼の副長ね。土方十四朗だから“シロウ”・・・か。やられたわ。
それにしても、あんた、あんなのとどんな知り合いなんだい?」
桂「シロウさんに・・・一応、育ててもらった恩がある。っが、俺もあまりあのひとのことはよくわからないんだ」
幾「え!?育てて・・・って。あのひいといくつなんだい!?」
桂「さぁ?俺はたまたまあの人の子供と幼馴染だった縁で少しの間世話をしてもらっただけだから正確な年齢までは」
幾「こどもがいんのかい!?あれでっ!?あのみてくれで!?」
桂「シロウサン、若いなぁ・・・」
幾「ちょっとあんた!しっかりおしよ!!目が死んでるわよ!」

そうしてシロウさんが去った後の店舗は、あまりに静かで、嵐が去った後のようだった。
本当に飯を食いに来ただけなのだろうか?
言いたいことだけ言って、好きなもんを食べて、シロウさんは本当に俺のことを新鮮組に暴露する気はないらしい。

幾「・・・まぁ、いいわ。雨がやむまでだろうが、ラーメン道を究めるまでだろうが。その怪我が治るまでだろうが。おいてあげるよ、ここに。
親御さんにも頼まれちゃったしねぇ」
桂「幾松殿」
幾「ただし、こき使うからね」

真選組の包囲網が予想外に厳しく、俺は店を出ることができなかった。
結局、そのままシロウさんの予言じみた言葉通り、俺はその日からしばらくイクマツ殿に世話になることとなった。

言い分としては、弟子という扱いだ。








**********








何日か幾松殿にかくまってもらっていた。
晩酌に付き合わされた時に、彼女の旦那が攘夷志士に殺されたのだと聞いた。

それをきいて、これ以上は、世話になるわけにはいかないのだと知る。
もういられないと思った。

俺は攘夷志士だ。

翌日、出前を頼まれたが真選組がみまわっていることで、あえて避けさせていただいた。
こどもか!?とつっこまれたが、店の外に出れないものはあどうしようもない。
かわりにイクマツ殿が出前にでてくれたのだが・・・。

なぜか外に出前用のバイクがあった。





カラン

夢『幾松殿は荷を持たずどうやって出前に出たんだい?』
桂「またいるしっ!?」

ゲタの音がしたと思って振り向けば、すぐ背後に私服姿のシロウさんがいた。
相変わらずの黒い着流しが様になっている。
髪の色が黒いから、今日は仕事の合間によったのかもしれない。

夢『幾松殿が言っていた小物が、カゴを運んで向こうに行ったのを見たが。・・・いいのかコタ?』

ああ、今日もこのひとの緑はわけしり顔でニィっと弓上に弧を描く。




お願いですから、いちいち背後に回らないでください。
あなたの気配はさがしずらい。
おかげで、そろそろビックリしすぎて心臓がどうかなってしまいそうだ。








**********








幾松殿の義弟とその手下によってさらわれた幾松殿を探して、出前用のバイクをはしらせた。
チャーハンもまた用意して、エンジンをふかす。

ニヤリと緑の瞳を猫のように細めたシロウさんから、やつらの向かった情報を聞き出し、後を追いかけた。
途中でパトカーや真選組を追い越した気がするが、そんなの問題じゃない。

背後から茶髪の隊員にバズーカをうたれたが、それででた土ぼこりを隠れ蓑に、チャーハンをなげつけて義弟殿たちをたたきのめす。

意識は・・・たぶんあるだろう。

そいつらに、桂小太郎の名でもって、攘夷志士を名乗らぬこと。二度と「北斗心軒」ののれんをくぐらぬように告げる。守れなければ俺みずから天誅をくだす。
そう告げれば小物は、顔色を変えてしりもちをついたまま動けなくなる。

俺の覇気など、シロウさんに比べれば大したことないだろうに。
本当に小物だ。

遠くで真選組の沖田の声と、パトカーのサイレンが響いている。
あまり時間はなさそうだ。

駕籠を開ければ、幾松殿がいた。
無事でよかった。
彼女をしばる布と縄をほどく。

桂「話している暇はなさそうだ。幾松殿、いろいろ世話になったな。そして・・・」

心から――

桂「すまなかった」

攘夷志士であることを黙っていて。だましていて。
そう続くはずだった言葉は、あっさり切り捨てられる。

幾「しってたわよ」
桂「!?」

幾「わたしも・・・あんたと一緒。目の前で倒れているひとをほっとけるほど器用じゃないのよ・・・バカなの」

駕籠の中、上体を起こし顔を上げた幾松殿と視線が合う。

幾「だから謝ったりしないでよ」
桂「・・・」

ならばここまで。

桂「そうか・・・」

潮時だ。
俺は幾松殿の入れられた駕籠から離れる。
これ以上そばにいるのは、彼女の迷惑にしかならない。

桂「だが、これだけは言っておく」





―――あ り が と う

























【後日談】

攘夷志士、狂乱の貴公子 桂小太郎。
あいつと出会って、あの事件からしばらくして――。

ガラガラっと店の引き戸がひき、ずいぶん久しぶりの顔ぶれが店を訪れた。

やる気のなさそうな目、あちこちはねた銀色の髪幾。
白い着流しは相変わらずで――

幾「あら。銀さん久しぶり」
銀「よぉ。久しぶりに金がはいってなぁ」
夢『邪魔するぜ』
幾「あら。二人とも知り合いなのかい?なんだかおかしなメンツだねぇ」

坂田銀時のあとにつづいてのれんをくぐったのは、いつだかの黒い着流しの男だった。
ただし以前の染めたらしい赤い髪ではなく、今日はTVなどでみたとおりの真選組の制服に濡れ羽色のような黒い髪をしていた。
真選組副隊長、土方十四朗。
一度相手が誰か認識してしまえば、目の前の男が、どれほど髪型や服装を変えようとも、すぐにだれかわかってしまう。
姿かたちが変わろうとも、あの印象的な鮮やかな目の色だけは変わらない。あんな綺麗な緑色をもつのは、この辺では彼だけだ。あの年月を重ね色を増した森をそのまま切り取ってはめ込んだような緑は忘れようったて、そう簡単には忘れられる色ではない。

馴染み客と同じように挨拶をすれば、土方さんもまた相手も特に何も言うことはなく口恥を持ち上げるだけでおとなしく席に着く。

銀「あれ?しりあいだった?」
夢『オレがどこで飯を食おうと勝手だろ』
幾「そういうこったね。さぁ、お二人さん、注文は?なんにする?」

前回はチャハーンと味噌ラーメンだったね副長さん。
あのときを思い出して、くすぐったくなって、思わず笑いがこぼれる。

銀さんはメニューを空腹を訴える腹を抱えながら見つめ、その横で真っ黒な土方さんが真剣な顔つきでメニューとにらめっこしている。
どういう組み合わせかは知らないが、ずいぶん面白い二人だ。
かたや武装警察真選組の副長さん。かたやしがない町の万事屋。
銀さんは、髪の毛から着物まで全体的に白い。土方さんは目の色以外は黒色。
白か黒なんて極端ね。
色といい、品を選ぶ顔つきといい、なにもかも真逆だ。
それがでこぼこっとして、おかしい。
なのにどこか似たような雰囲気を感じずにはいられない。

本当におかしな組み合わせだよ。

夢『決めた。オレはネギ味噌ラ』
銀「ちょいタンマ!いいか。大串君はあれだかんな!ネギ禁止!! 沖田君にも言われてるだろ、あんた。幾松、ネギ抜いてネギ!ゼッテェ大串君の分にネギとイカ入れんなよ」
夢『おい、こら、銀。なんでぬく?ネギあってこそのラーメンだろ!』
銀「だめったらだめ!!いいか大串君、あんたにネギはよくないの!くうなよ!塩ラーメンと海鮮系はだめだからな!!」
夢『亭主!海鮮塩ラーメン!』
銀「イカもだめだっつってんだろ!!!」

銀さんがいるといつもそこだけポッと明かりがともるように、明るくなる。
昼食時からずれた店内は彼ら以外に客はいないが、二人のにぎやかな声だけで店が賑やかに感じる。

それにしても・・・。
なんでイカとネギはだめなのかしら?
なんだかまるで猫に餌をやるときの注意事項みたい。

夢『ふざけんなよ銀!ネギもイカも大丈夫だって昔から言ってんだろ!! オレの幸せをうばうきか! もうどんだけネギを食ってると思ってるんだよ。 そもそも今日はお前のおごりだっていうからきてやったのに。好きなもん食わせろ』
銀「おれが奢るってわかってんだったら、よけいにちゃんとおれが頼むもん食えよ! ねぎはだめだからな!!だーかーら!イカもだめだっつってんだろうが!!」
夢『甘党予備軍には言われたくないわ!!イカはうまいだろうが! いっつもいつも甘いもんばっかたくいやがって。 おまえはオレにどうこう言う前にその甘党をなおせ。 将来糖尿病になったらどうするんだよ!! 治療代かかるだろうが。これ以上貧乏になったらどうすんだよお前! お前が糖尿病なんかになって早死にしたらオレの老後は誰が面倒みんだよ!』
銀「俺にたのむの!?貯金もないっての! しかもこちとらただ飯食いを二人も抱えてんだよ!俺にどうしろっての!?」
夢『だったら貯金しろよ』
銀「ああ!もう!いいからおとなしく奢られろ!! ネギと以下のないものっと・・・メニューメニュー。ん?あれ?そばなんてメニューにあったか?」
幾「たべてみる?」

ふふ。騒がしいいねぇ。
ま、こういう日もありかな。





**********





土『そういえば、攘夷志士で“カミ狩り”って知ってるか?』

結局銀さんによってソバを注文させられていた土方さんが、ふいに思い出したように語りだす。

幾「は?なんだいそいつ?」

ん?でもどっかで聞いたような気がするねぇ。
どこでだったか。

土『天人連中に聞くとおびえるんだよなぁ。あの頃は楽しかった』

ニヤニヤとその猫のような目が愉快そうに笑う。

そんな土方さんに、彼の横にいた銀色から鋭いツッコミがはいる。
ペシリといい音がしたわね。

銀「いやいや待って。それ天人だけじゃない。ぜったい父ちゃんたち世代の侍全員逃げるって」
幾「わたしらの親の世代?で?結局なんなんだいそいつは?攘夷志士かい?」
土『そう。奴の正体は人間嫌いの化け猫さ。
戦争初期のころにいた奴で、戦争の最中、天人を殺しまくったから、 神を狩る者という意味で“神狩り”とよばれていた。 ほら、天人って、地球人ひれ伏せと、神のように君臨しやがったからさ。だから“天人殺し=神狩り”ってついたんだな。
けれどそいつは戦争が始まって現れたわけじゃねぇ。もっと前からいたんだよ。 あいつの本当の名はは“髪刈り”。 自分がいけ好かないと思った侍の“髪の毛”をバッサバッサ刈まくる通り魔だ。 当時の侍たちは、まげを大切にしていたからなぁ。 髷をなくした侍は男でもない、落ち武者あつかい。笑いものにされてしまう。
そんな時代にいた毛だけを狩る奴だよ。いやぁ、あのとうじはすっきりしたもんだがなあ』
幾「ちょっとまって、攘夷志士の話じゃなかったの?話がずれてない?そもそもはじめの化け猫って何?」
土『さぁ、しらないな。奴は人間じゃない。そう、言われていただけだ。“髪狩り”の姿を見た奴はいねぇ。風の仕業かもしれない』
銀「だな。いずれにしても・・・“カミ狩り”ってのは、戦争初期頃にいたやつで、 今となっては攘夷志士で知らないやつはいない名前の一つだ。だけど本当は髪の毛を狙った辻斬りだって話さ」
幾「まじかいその話?」

カミガリ――そういうえば聞いたことある気がする。
白夜叉や狂乱の貴公子とかがでるよりも前にいたっていう噂の・・・。

チラリと視線を向けるとどこの酔っ払いかと言いたくなる鬱々とした雰囲気で、いつのまにか完食していた土方さんが机に突っ伏してグチグチとなにかつぶやいている。

土『そう。真剣と書いてマジだ。坊主でもないのに禿はつらいよな。禿は』
幾「・・・このひと、どうしたの?」
銀「大串君はなぁ。禿にされた奴をザマァとせせら笑っていたら、犬に髪の毛むしられてはげたことがあんだよ」
幾「いや、だからそれもう攘夷志士関係ないじゃないの」
銀「まぁ、あれだ」
土『ただちょっと思い出しただけだよ。攘夷志士っていう単語からそいつのことをさ』

そこまできいて、ふと前回訪れたときと目の前のお人の髪色が違うことを思い出す。
どっちかを染めたか、あるいは鬘とか。

ん?かつら?
鬘、カツラ・・・桂、小太郎?攘夷志士。
え?まさかコレってそういう連想から繋がってるのかい!?
いやだよう、こんなダジャレ。面白くもなんともないんだけど。

それよりも、土方さんのこの真っ黒ツヤツヤな髪の下って。
もしかして――

幾「・・・あんた、禿たことあるのかい?」

土『むしられたのさ。ガキと犬にな』
幾「ナルト一個だけオマケしてやるよ」

それが言いたいがために、攘夷志士を話題に持ち出したのだろうか?
土方さんとやらは、相変わらず真意をつかませない人だよ。

土『いいや、だから心の底から髪がなくなるのはいたいという・・・』

人の心を勝手に読むんじゃないよ。









第39話メニューの多いラーメン屋はたいてい流行ってない より








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