白と赤色の物語
- 銀 魂 -



27.揺れる枝にはマヨネーズを
第32話 [人生はベルトコンベアのように流れる] より





『まいったねぇ。本当にまいるねぇ』

この世界に生まれてから二百年と数十年ばかり。
仲間とよべる存在も友人たちもどんどんオレをおいて死んでいく。

それがわかっていて・・・

それでも誰かといたかったのかもしれない。





 -- side 夢主1 --





自分と同じ色をした人間の赤ん坊を拾ったのは、二十年ほど前のことだ。
なんだかんだいって、しっかりした芯のあるやつに育ってくれて親としては満足していた。
いつか寿命という別れが来るのだと知っていても。
その子を我が子と呼び、大切に育てた。
大切に。大切に。

その子とオレは、家族だった。



その我が子に、どうやらオレという存在は忘れ去られてしまったらしい。



なんだか覚えのある光景だよな。
いうなればあれだ。

「オレだよオレ!?」
「あんただれ?」

なぁ〜んてさ。
オレオレ詐欺かってんだよなぁ。

いや、いや。
そうじゃなくてさ。

これはいつもの“アレ”だよ。
世界から追い出される寸前の――

オレの存在を消すために、周囲からどんどんオレといた記憶が奪われていくあの感覚によく似ている。
ひとから忘れられていく恐怖は、二百年たとうと何度生まれ変わろうと忘れられるもんじゃないわけで。



『大切なもんはいつも手から滑り落ちてくんだよなぁ』



――空の局長の部屋を見ながら、入り口によりかかりつつ、思わず口端が持ち上がる。
自嘲的な笑みに、しまいにはクックッと喉から音が漏れる。

『本当に参るねぇ、こんなときにさ』

寿命であれ、世界から追い出されるのであれ。
いっつも、そう。


おいてかれるんだオレは。


我が子が記憶喪失になった。
その日を同じくして、この世界で尊敬していた男が消えた。

戦争が終わるとき、オレは子供たちより近藤さんと行く道を選んだ。
いうなれば依存にすこし近いんだけど。
オレにとって“それほどの男”までいなくなるなんて。

本当にね。やめてくれよ。
なんでそうタイミングよく二人ともオレの目の前から消えるんだろう。

なんで世界はオレから大切なものを奪ってくんだよ。


『二週間、かぁ。まじ、きついんだけど』

腕を組んで入り口に寄りかかって突っ立ってる怪しいオレにだれも声をかけてはこない。

ガランとした部屋にはだれもいない。
そんな誰もいない部屋に向けて文句を言っても返ってくる返答なんかあるわけないのになぁ。

隊員たちが最近オレの顔色をみては、心配そうに「大丈夫ですか?」と聞いてくることが増えた。
そろそろ『大丈夫』と返答するのもだるい。

もうこのまま、耳をふさいで目を閉じてしまおうか。
そうしたら少しはましなるだろうか。





「だめでさぁ土方さん。“ソレ”はだめでさぁ」

ふいにクイっと服を引っ張られた。
いつからいたのか、総悟がいた。

『総悟?』
「・・・顔色悪いですよ。また、寝てねぇんですか?ぃ
ちょっと空気ででも吸いにいきやしょうぜ」
『そだな』

ここにはいさせないとばかりに、総悟に引っ張られる。
通り過ぎにすれ違う隊員たちが、オレの顔を見ては心配そうに眉をしかめる。
そんな顔をさせたいわけではないが、いまは特に返す言葉も面白い言葉も浮かばない。

部屋を去る時。もう一度だけ、誰もいない部屋を振り返り、立ち止まったことで総悟に引っ張られた。
今度こそオレはそれに背を向けた。






*************






生き抜きついでに、パトカーでの町の巡回につきあっていたら、爆発音が聞こえた。
職業柄、あわてて総悟と急行したら、なんとビックリ。
そこはヤマザキの潜入先だった。

なんか工場が爆発してます。
ヤマザキからひそかにわたされた工場で作ってるおもちゃはすでに解体済みで、あれが爆弾だということはオレと解析班だけが知っている。
だが、げんに爆発してるっていうことは、つくってたもんが暴発でもしたか?

ゴンと頭に破片が吹っ飛んできた。
ああ、痛いな。めっちゃ痛い。
右目に何か入って開かないんですが。

オレが落ち込んでるのも何も銀時だけのせいじゃない。
近藤さんが行方不明だからだ。
しかも近藤さんのせいで落ち込んで、それを総悟が何とかしようとオレを外に連れ出したわけで――

『・・・・・・これもあれも。すべて近藤さんのせいな気がする』

ぬるっと額を何かが伝う感じに、血でも出たかと思うが、この頭の痛みが怪我によるものなのか、心労からくる頭痛なのかわからなくて眉をしかめる。

「はーい、あぶないからさがりなさい。さがらないとこのひとのようになるよ。ポーカーフェイスをきどってるが、物凄い痛いんだよ。恥ずかしいんだよ」

恥ずかしくはないが、痛くはあるな。

ってか、総悟。おまえ、なんて誘導の仕方してやがる。
まぁ、それである程度、やじ馬を下らせることができたので、よしとしよう。

そのまま処置もせずとりあえず爆発していく建物を見ていれば

『えらいことになってるな』
「土方さんもえらいことになってますよ」
『これ、ヤマザキのやろう死んでんじゃねぇのか』
「土方さんも死ぬんじゃないんですか?」

なんだよ総悟。そんなにオレの怪我ヒドイの?
よくわかんないんだけど。

「副長」
『あ゛?』
「いま、情報が入りまして。ヤマザキと一緒にこの中に局長もいます。どうやら記憶喪失らしくて」

へぇ。新しい報告が入ってきたよ。
ちなみに左から隊員に声をかけられたので左を向いたら、ケガに気付かれなかった。

っていうか、ヤマザキと一緒に局長もいるらしいよ。
しかも・・・

お前も記憶喪失かよっ!!!

記憶喪失だろうがなかろうが、どっちにしろ、あの爆発炎上中の工場の中にいるのは変わらない。
色んな意味で無事とは思えねぇわな。
むしろ敵か味方、どらちが無傷でそうでないのか気になるところだ。

「土方さん。いい加減、その血、ぬぐってくだせぇ」
「血?」
「ひぃ!?ふ、副長!!なんちゅうスプラッタな顔で歩いてるんですか!!」
『血?・・・でてたのか』

総悟と話していればしだいに真選組の奴らも集まってきた。
そいつらがオレの顔を見てギョットしてあわてだす。

「副長!せめて治療を!」
「なにがあったんです副長!!」

『・・・頭に登った血をさましてた?』

「「「「もっとましなやりかたしろ!!!」」」

いや、でも破片が吹っ飛んできたのは本当は偶然なんだけど。
そもそも頭に血が上ってたのは確かだけど、血を抜いて頭を冷静にさせようとは思ってないぜ。
・・・って、いう弁解は、あんまり聞いてもらえなかった。
真実だと思われたようだ。
解せぬ。

「土方さん、そうとうまいってません?うまく頭回ってないんじゃないですか?」
『そうか?』
「とりあえず向こうで治療うけてくだせぇ」

そのあと、かけつけてきた奴らに簡易的に止血処理を施され、頭にぐるっと包帯をまかれた。
晋助みたいなかんじではないので、額だけですんでよかった。
顔中まかれたら、ミイラにしかならねぇし。



っで。
オレが一歩下った場所で、治療を受けている間に話が進み、工場の屋根を突き破って巨大な砲筒が姿を見せた。

その上にはパンチパーマのおっさんがいて、どうやらあいつがこの工場の主らしい。

マムシは息子の日記を読み上げ、そこでヒキコモリだった息子にリストラされたことを知られ幻滅させてしまったらしい。
なお、マムシの前職業は、道臣だったらしい。

マ「おまえらにわかるか!!このマムシの気持ちが!!息子の日記にこんなこと書かれた父親の気持ちが!!」

瞬間、総悟を含む数人の隊員が、なぜかオレをみてきた。

『オレの息子もプー太郎だったけど、オレ、まだリストラしてねぇし!!!』

そんな目で見るなよお前ら。

マ「あとちょっとで息子も更生できたのに!リストラはねぇだろ!!おかげでおまえ!息子はヒキコモリからヤーさんに転職だよ!北極から南極だよおまえっ!」

なんかいろいろマムシが叫んでいるが。
そう、叫ばれてもなぁ。

30年間お仕事してきたのか。
それはえらいなぁ。
オレ、二十年前では、人間でもないただの猫だったしなぁ。

マ「間違ってる!こんな世の中間違ってる!だから俺が変える!!十年かけてつくったこのマムシセットで!腐ったこの国ぶっ壊して革命をおこしてやるんだよ!」

マムシはそのリストラ事件から十年かけてあの大砲――マムシセットというらしい――を作り上げたらしい。
地味にすごいな。

だが。
この国のどこかには、オレの息子が頑張って生きてるんだよ。
新しくやり直そうと必死で生きてんだよ。
それを邪魔するのは許せネェよ。

『腐った国だろうと、そこに暮らしてる連中がいるのを忘れてもらっちゃ困る。革命なら国に興す前に、まず自分におこしたらどうだ』

ったく。あのマムシのおっさん、人の話、きかねぇな。
話し合いで何とかしようと思ったのによぉ。

沖「土方さん。なにあおってんですかぃ」
『いや、話合おうって言ってるつもりなんだが・・・。
それに銀がいままさにこの国のどこかで頑張ってるのにそれはないだろうって思って』


マ「うるせぇ!!!てめぇに俺の気持ちがわかってたまるか!!」


しかたない。こちらも大砲でむかいうってやろうか。
それで真選組の奴らにそれを合図しようようと振り返ったら、「あれをみろ」と隊員に示され、マムシセットの方に視線を戻せば―――。

局長とヤマザキと・・・銀時が、重しをつけられしばられて、そこにとらわれていた。

目がグワってひらいたよ。

『なんであいつがあそこにいんだよ』

銀時は今頃新しい人生やり直すために、この空の下のどっかにいるだろうとおもってたのに。

“ここ”ではたらいてたのかよ!?

しかもマムシの言葉から、近藤さんがきっとなにかしでかして、さっきの爆発事件になったのだろう。そこからヤマザキの潜入がばれ、それに銀時はまきこまれたって感じだろうか。

マ「こいつらがテメェらの仲間だってのはわかってる!俺たちを止めたくば撃つがいい!こいつらも木端微塵だがな!」

ドカン!

敵に言われた瞬間、総悟の奴撃ちやがった。

『総悟ぉ!!!!!』

沖「むかし、近藤さんがね。もし俺が捕まることがあったら迷わず俺を撃てって・・・言っていたような言わなかったような?」

『いい加減にしろよアホが!!』

うちの銀時までいたのに!
いや、あの子、ゴキブリ並みの生命力だから意外と大丈夫かもしれないけど。
おもいっきし総悟の頭を殴りとばしておいた。
ああ、土煙で見えない。

山「撃ったー!!!本当に打ちやがったよあいつら!!!」
銀「なんなんですかあのひとたち!本当にあなたたちの仲間なんですか!」
山「仲間じゃネェよあんなやつら!局長!もう俺真選組なんてやめますから!」

近「おう。みんな怪我はないか!?おまえらは無事か」

なんて、ヤマザキ、銀時、ヤマザキ、近藤さんと声が聞こえたので、無事なのだろう。

それにほっとする。
どうやらいまの衝撃で近藤さんも記憶が戻ったようだし。

そうこうしている間に、うまく局長たちが逃げ出した。
ただヤマザキと銀時の枷だけがまだとれてなくて、それを追うように、マムシセットが撃たれた。

『銀!局長!!』

赤い光線が、マムシの輪リア越えと共に放たれる。
とっさに手足の自由がきいている近藤さんが、ヤマザキと銀時を体当たりでふっとばし光線の射程範囲からそらした。

直撃はしなかったものの倒れたままの近藤さんに、ヤマザキが駆け寄って声をかけている。
重しのせいで動けいないのか呆然としている銀時。

それをあざ笑うようにマムシが第二派を撃つぞとおどしてくる。

マ「みいたかマムシセットの威力を!これがあれば江戸なんかあっという間に焦土と化す!とめられるもんならとめてみろ!!時代に迎合している軟弱な侍にとめられるもんならよぉ!!」

よぉし、斬ろう。
そう、思った。

マ「さぁ、こいよ!早くしないと次撃っちゃうよ!みんなの江戸がやけどだらけだ!」

マムシうぜぇ。

オレはすでに銀時が赤い光線の前を走っていた段階で、ブチリときていたわけで。

『てっめぇ!!!オレの子になしてくれる!?止めてやるから覚悟しやがれこのくされパーマがっ!!』

怒り心頭。
うつぶせのまま動けないでいる銀時をかばうようにとびだし、おもいっきし怒鳴り散らしてやる。次、きたらあの光線ごと斬る。

そんなオレの横にザッ!とかっこよく、神楽と新八が現れる。

新「そうそう。どうぞ撃ちたきゃ撃ってください」
楽「江戸が焼かれようが煮られようがしったこっちゃナイネ!」
新「でもこのひとだけは撃っちゃこまりますよ!」

マ「なんだてめぇら!?ここはガキのくるところじゃねぇ帰れ!灰にされてぇのか!」

『バカか?こどもだから見逃す?アホか?今、さっきテメェがいまその手で焦土にするって言っただろうが。こいつらも殺すってことだろ。そのテメェがこいつらの家も消すのに、どこに帰るんだよ?わざわざ消されるためにおとなしく変える馬鹿がどこにいんダヨ』

オレは銀時の前からさらに一歩前にでて、あいつをたたききるべく刀に手をかける。
その開いたぶんをうめるように、銀時を守るように神楽と新八が動く。
その様子に銀時が泣きそうな声で訴える。

銀「な、なんで。なんでこんたところに!?なんでこんなところまで!!ぼくのことはもういいって!もう好きに生きていこうって言ったじゃないか!」

なんてほざく銀時に、ガスっ!と二人の片足が上がり、頭を踏まれた銀時の顔が地面にめりこむ。

ばかだなぁ。心配って言葉を知らないのかな?

楽「言われナクテもなぁ。こちとら好きに生きてんだよ」
新「好きでここにきてんだよ」

楽・新「「好きであんたと一緒にいるんだよ!!」」

『悪いなぁ、お前には自由に生きろと言ったが。オレもなぁ、さすがにこう大切なもんうばれるのすきじゃないんでな。好きで喧嘩、買わせてもらうぜ』

はは。銀時の奴おかしいな顔だ。
なんで自分のためにここまでするのかわからないと言った顔だ。



ザワリ ざわ・・り・・


ああ、風がざわつく音が聞こえるようだ。
大きく枝を伸ばしたこずえが揺れる。

銀時の赤い目にもどる光を見て、オレは笑った。

ああ、もういいね。
もう、大丈夫だな。

坂田銀時は、ここにいる。


『不本意ながら一般人はまもらなきゃいけねぇんだよ!』
「っというわけで真選組もいまさぁ」

一列にならんだやつらをみて笑う。
本当にこいつらバカ。
ああ、楽しいな。
みんなが駆け出す。
一般人のためとか言ってるけど・・・。

銀時を助けてくれてありがとう。


嬉しくなって、先頭つきって駆け出した。
すぐに神楽においつかれたけど、まぁいいだろう。

マムシセットは次を撃つのにチャージに時間がかかるようで、ジャスタウェイをなげてきたが、あれくらいこちとらたいした障害じゃネェ!

『たったきる!!』



そっからはあっという間の出来事だった。
記憶を取り戻した銀時が、木刀でマムシセットを破壊してこの珍事は終わった。

爆発で舞い上がった土埃のせいでよく見えないが、向こうからツナギのポケットに手を突っ込んで死んだ魚のような目でのんびりとやってくる姿にほっとして――

「ちょ!?父ちゃじゃなくて大串くんやめろよ!ってかあんたの方が物凄い重症っぽいんだけどぉ!!なんなのその血だらけの包帯!?血みどろで迫られてもこわいって!まじでこわいんですけどぉ!!!」

そのまま抱きついて、頭とかからだとかさわって怪我がないかたしかめた。

『よかった!よかった!銀が怪我してない!!父ちゃん、もう心臓が縮むかと思ったよ!!あとでちゃんと連絡しろよ!オレのこともう忘れんなよ!次は泣くぞ!!』
銀「あー、はいはいすみませんでしたねぇ。おーい新八、神楽!帰るぞ!」

ちょっと暴れすぎたらしい。
さっきの怪我がパックリひらいて、また血が視界を覆っていた。
それをみた銀時が恐怖に顔をひきつらせて、オレ真選組まで押し付けると、連絡するからと言い残して去っていく。
その際に、万事屋の仲間をちゃんと拾っていった。

『記憶戻ってよかった』

「いやでも土方さん」
『なんだよ?』
「局長の頭に破片が刺さってます。しかも以前より症状のわるい記憶喪失です。ロボットみたいになってやすぜ」

『・・・・・・もっかいたたいとけ』






*************






「銀ちゃん、シロウ、泣きそうだったアルね」
「あのひとも本当はいじをはっていただけなんじゃないかな」

ツナギを着たままの銀時の横に、神楽と新八が並ぶ。
夕焼けに染まる町。
そこに万事屋がなくとも。
三人が帰るのは、万事屋という居場所。

道を歩けば、三人そろった姿に、道くものは顔をほころばせ、銀時の記憶が戻ったことを歓迎し声をかけてくる。


「そういえば銀ちゃん、どうやって思い出したね?」
「いや・・・なんかマヨネーズの味を思い出したら吐き気がして」
「は?」
「土方君が俺の前に立った時、昔の記憶が脳裏をよぎり、ビリビリビリッ!!!!と・・・吐き気がこみ上げてなぁ。 あまりの衝撃にのたうちまわっていたら、お前らのこともぶわっと思い出した・・・みたいな」
「チチオヤは偉大アルね」
「そ、そうだね(なんか意味がちょっと間違ってる気がするけど)」

銀時はマヨネーズのなんらかを思い出したのか眉間にしわを寄せたが、「父親」という単語に「そうだな」とうなずいた。



枝が揺れる。
風を起こしたのは、ふたりの子供たちの想い。

その木々を支える根が張る大地には、一匹の猫がずっと見守っているに違いない。
その木が倒れないように――

マヨネーズをかけて。






*************






「局長の調子どうでぇ?」
「ん〜。151回たたいたところでようやく元に戻りましたよ」
「・・・それ、もうネジなさそうだな」

ところ変わって、工場跡地。
真選組は己の局長をどうにかしようと、奮闘中であった。
多くの隊員が後処理に走る中、 オレは傷が開いたことでまたスプラッタ顔で歩くな!と怒られたあげく捕獲され、治療と称してその場から離されている。

『こんなんなめとけばなおるだろホーイチなんか耳がないぞ』
「猫と比べないでください!そんもってどうやって額の上をなめる気ですかあんた!」
『ああ、それもそうか』

オレが医療班のやつらとのんびり会話をしていると、ひとりの隊員がおずおずとやってきた。
一度オレの容体を聞いたあと、気まずそうに顔を上げる。

「あのー副長。ちょっといいですか?」
『ん?』
「・・・さっきの。その、“息子”とか“父ちゃん”って、どういうことです?」

予想外の言葉に一瞬それが質問かよと驚くも、たいした話じゃないので、普通に答えておく。

『どうもこうも“まんま”だが?』

オレの言葉に意味が分からないとばかりに質問を投げかけてきた隊員が首をかしげる。
それにオレも首をかしげかえす。
そんな難しいことをオレは言っただろうか?

「あ、もう隠すのやめたんすか土方さん」
『聞かれなかったら言ってないだけで、隠してたつもりないし』

治療をしてくれていた道場時代のわけしり仲間がニコニコと言う。
いや、でもまじで隠してないし。
猫で人に化けるっていうのは隠してるけど。
親子なの隠してないし。
それを言ったら、「そうでしたか?」と治療班の奴が首をかしげた。
いつのまにか猫が人間に化けるのもすっかりなじんじまって。
オレと訳知り連中がそんな感じでゆるく会話を弾ませていれば

「え?」

さっきの隊員が唖然としたように言葉を発する。
まだわかんないのかねこの子は。
なんだか視線を感じて周囲を見やればいろんなところで色んな奴らがこちらに耳を傾けている。

ああ、そういえば、“オレの事情を知らない奴”の方が多いんだっけ。

『さくっというなら、オレたち親子』
「え?それって」
『だから、土方十四朗は坂田銀時の父親だってはなし』

「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇーーーーー!?」」」」」」」


『そんなに驚くことないだろ』
「みんな土方さんの若作りにびっくりしてんでさぁ」
「そうそう。あんなでけぇ子供がいるくせにこの童顔具合。ずるいよなぁ」
「イケメンだし」
「おまえらも髭そってみれば少しは若返るんじゃね?」

なんでそんなに驚くんだろう?ってぐらい事情を知らないやつらが絶叫を上げていた。
なんだなんだと遠くにいたやじ馬までこちらを見てくる始末。

『最初のころの道場仲間はみんな知ってたことだぜ。それにあいつらにちびっこい銀をみせつけにいったときだってここまで驚かなかったがなぁ』
「いや、そもそもあんたには、もっととんでもない(猫が人になるなんて)ことをしてどぎもぬかされたし。 そのあとにこどもがいるぐらいじゃぁ、誰もびびらねっての」
「驚きへの体制がもうついてた時に子供紹介されればなぁ」
「ようは慣れだな」
「はじめから知ってるのとそうでないと。こう、聞くのに心の準備がいるんでさぁ。 あと、今のあんた、銀の字に似ている部分がありゃぁしませんからねぇ。たやすくは信じられねぇんでしょうよ」
『むかしは髪の色ですぐにみんなわかってくれたんだがなぁ、そこはしかたねぇな』

「あ、なら俺があとで昔のトシの写真持ってこようか?白いやつ」

ふいに会話に紛れ込んできたのは、頭に木の破片が刺さったままの近藤さん。
ミラクルな光景だ。
額に包帯巻いているオレなんか目じゃねぇ。
これ、大オレなんかより大怪我の部類だと思うんだけど、なんで誰も突っ込まないんだろう。

『へぇ、まだあったんだ。そんな写真』

「土方さん。なにをのんきな」
「近藤さん、あんたいつの間に復活したんでさぁ」
「でも局長のもってる写真ってアレでしょ。以前みせてもらったけどさぁ、集合写真以外はどれも視線が合ってネェの」
「え、それって盗撮って言わないか?」
『あ、持ってんならみしてくれよ近藤さん。オレもみてみたいわそれ』
「その前に盗撮っていうところに副長気付いて!!」





「なにこのカオス」
「そんでもってふくちょぉ・・・」
「副長が子持ち・・・俺らより年上・・・なぁ。俺ってそんなに老けて見える?」
「安心しろ。副長が童顔すぎるだけだ」

























【後日談】

銀「そういえばおれさ、記憶喪失の間、よく見る夢があったんだけどよぉ」
新「夢、ですか?」
楽「それがどうしたネ銀ちゃん?」

銀「いや、なんというか・・・」


――“シロウ”にマヨネーズをもらう夢だった。


楽新「「・・・・・・」」

楽「おまえもマヨラーだったアルカ」
新「どんぶりの上に、具が埋まるぐらいのあのマヨ量をかけたら縁きりますね僕」
銀「はは・・・おれってやっぱりマヨネーズで育てられたんだなぁ・・・」









第32話 [人生はベルトコンベアのように流れる] より








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