23.今日の乙女座はアンラッキーボーイ |
第28話「いい事は連続して起こらないくせに悪い事は連続して起こるもんだ」より -- side 夢主1 -- 松平のとっつぁんが、ドタドタのかけていくのを見送りつつ、灰色の猫に別れを告げて、真選組の屯所に戻る。 猫にもどって塀を超えて庭先から直接いくので、玄関からはいる松平よりもはやくに近藤さんのいる部屋についた。 近藤さんは歯磨きをしつつ、今日の天気予報を見ている。 その背後には、総悟がいる。 オレが縁側からはいったとき、結野アナのブラック星座占いがちょうど始まったところだったので、おとなしく座りつつしっぽをゆらゆらさせて占いをみる。 だって結野アナの占いってあたるんだもんよ。 シャコシャコと歯を磨きながら見ていた近藤さん。それをテレビごしにみているかのように、結野アナは言った。 ―――今日一番ついていないのは乙女座の貴方です。何をやってもついてないでしょう。 ―――特に乙女座で、あごひげをたくわえ、今歯を磨いている方。今日死にまーす。 「ええええ!?」 悲鳴を上げるってことは、近藤さん、乙女座か? さすが結野アナ。 近藤さん、すごい局部集中ピンポイントヒットだよ。 ―――幸運を切り開くラッキーカラーは赤。 ―――なにか赤いもので血にまみれた体を隠しましょう。 「どんなラッキー!?なんにもきりひらけてねぇよ!!」 TVにむかって叫ぶ近藤さんに、結野アナが笑顔で手を振ってニュースがおわる。 やれやれ。 さっきの松平といい、今日はなにかありそうだねぇ。 ラッキカラーが赤い、もの。ねぇ。 オレとかどうよ? 赤い猫よ。 とりあえず毛づくろいをして、見事な赤色につやを出してみる。 今日も艶やか!いいねぇ。 これならどんな飼い猫にも負けないよな。 そうそう猫ってきれい好きなんだぜしってた?。 あ、顔もあらっておこう。 毛玉、ぺっ! 「なんちゅう不愉快な番組だばからしい。だいたいこんなものあたるわけがない」 そう言って近藤さんはTVを消したけど、あたると思うよオレ。 オレは猫だし正確な誕生日わからないから、占い当たらないけど、“土方十四朗”でいるときは大当たり結構あったぜ。 すこしは気にした方がいいよと忠告しようとしたところ、オレより先に総悟が動いた。 「だいたい世の中の乙女座が消えてみろ。殺伐としたおっさんだらけの世界になるぞ。なぁ、総悟」 振り返った近藤さんの先には、赤いふんどし。 総悟が占いを聞いてさっそく持ってきたものだ。 「はいこれ。おれがガキの頃使っていた赤フン。大丈夫。洗いやしたから」 仕事が早いなぁ。 その行動力を普段の仕事でも生かしてくれればいいのに。 総悟から赤フンを手渡され、かたまっている近藤さんに、オレはそっといま吐き出したばかりの毛玉を横に置いておく。 「大丈夫・・・ってなにが大丈夫なんだよ。い、意外と心配性な奴だなぁ。 なぁ、トシ」 と、顔をひきつらせながら誰もいない縁側を見やる近藤さん。 なんだ。オレのこと気付いてたんじゃないのか。 焦ってんな。 しかたないと、「ニャァ」と一鳴きして反対側にいることをしめすと、近藤さんはあわてたようにこっちをみる。 「そっちか。なぁ、シロウ。そう思うよな・・・って、ソレ、なに?」 「にゃぁ〜《なにって。オレの毛玉》」 スッと猫の手で、赤い毛玉を近藤さんに近づける。 なぜか近藤さんの顔がさらにひきつった。 あ。これじゃぁ、血にまみれた身体とやらを隠せないか。 マフラーとかあったかなぁ。 《ごめん近藤さん。これじゃぁ体隠せないだろうから、マフラーとかさがしてくる!》 「え!ちょ!待ってトシ、じゃなくてシローーウ!!」 どこにあったかなぁ。あんな冬物、そんな急に言われてもみつかるわけないっての。 「総悟にしてもトシにしても。え?ちょ・・・やめてよ。なにかあったの?つーか。なにがおこるの?」 そんなおびえたような近藤さんをいつものごとくスルーし、毛玉を置いて、オレはあわてて近藤さんがいた部屋をでた。 途中、「タッタッタッタ」と誰かが口でつぶやきながら廊下を走る音が、オレの背後の方から聞こえてきたから、たぶん松平が到着したんだと思う。 「こぉのー!!くされごりらぁぁ!!!」 「ふが!!!」 トウ!っという華麗な松平の声と共に、罵声が響き、ついで派手になにかを蹴り飛ばす音が聞こえた。 あれ?もしかして近藤さん、蹴られた? まぁ、いいや。赤いの赤いのっと。 ********** ―――オレの去った後の近藤さんはというと。 「うう・・な、なんだって・・・松平のとっつぁん!?」 「ゴリラたてこのやろう。三秒以内に立たないとドタマぶち抜くぞ。イチ!」 バン! 「2と3はぁ!?」 襖をけ破ってその襖ごと近藤さんをふきとばして入ってきた松平は、はいるなり銃をとりだし、発砲した。 それに畳の上を転がって逃げる近藤さん。 「しらねぇなそんな数字。男は1だけ覚えておけば生きていけるんだよ」 追い詰められた近藤さんが叫ぶも松平のゴーイングマイウェーはくずれない。 「さっき自分で3秒って言ったじゃねぇかよ!なんなんだよ!いくら警察のトップだからって、やっていいことと悪いことがあるぞ!」 「なぁに言ってやがんでぇい。お前のせいでなぁ。おじさんはぁ。おじさんはなぁ、首がとぶかもしれねぇんだよ」 「はぁ?!なんの話?」 話が通じていないと、近藤さんに向けていた銃をおろすと、松平は大きなため息をついて、たそがれるように天井を仰ぎ見る。 「はぁ」 「とっつぁん?」 「路頭に迷ってるテメェらを拾ってやったのは…あれ?何年前だっけぇ。あーあ。あのひとの顔たてたりしたのが間違いだった。いや、でも断れなかったしぃ。あーあ。テメェらみてぇなのを支配下に置いたのが間違いだった。あーあ。やりなおしてぇ。ゼロからやりなおしてぇ。もっとできればオメェらが親父の金玉袋に、いる、あたりから」 「どういうこと!?」 「言ったはずだ。“無茶はするな”と」 そうして再び松平の銃口が近藤さんに向けられる。 それに息をのむ近藤さん。 「前からバカな連中だとは思っていたが、まさか〈煉獄関〉に手をだすとはよ」 「え?看護婦さん?看護婦さんは好きだが、手はだした覚えはないぞ」 「看護婦さんじゃネェよ。看護婦さんならおじさんだって大好きさ」 しかしまじめな話をしているのに、うまい感じで聞き間違えた近藤さんに、さらに松平からため息があふれ出る。 ジャキンと鈍く光る銃口が再度近藤さんをとらえた。 ********** ――そのころのオレ。 《あ。あったあった!赤いマフラー発見》 銃声やら松平のとっつぁんや近藤さんの悲鳴は、動物ならではのひとよりよい耳に十分届いていたのだが、必死に箪笥をあさっていた。 咥えてひきづりだしたのは、赤いマフラー。 これ、実は銀時がちっちゃいときにクリスマス祝いにと、おそろいでつくったマフラーなんだよなぁ。 あのときはクリスマスって概念がなかったけど、それでも気分的にね。 ん? だれだよタバコつけたの。なんか虫くいとはちがう溶けたような穴が開いているし。 まぁ、いいか。 オレはその猫の姿のまま、それを棚から引きづり出すと、ようやくみつかったそれを加えてウキウキと近藤さんの部屋へと向かった。 近藤さんがいた部屋にもどり、思わず足が止まる。 咥えていた赤マフラーを落とさなかったのが奇跡のよう。 なぜか。 松平のとっつぁんが、近藤さんに銃を向けていた。 そしてなにかが限界だったのか 「ああ!もう!!マイホームのローンだって残ってるのにぃよぉ!!娘の留学も妻のエステも全部パァーじゃねぇか!どうしてくれるんだい!!!」 とっつぁんは、叫ぶなり、引き金を引いて連射した。 オレはそれを呆然としてみていることしかできなかった。 いくどめかの連射音がした段階で。 とちゅうで我に返ったオレは、そっと・・・。 そっと赤いマフラーを入り口において、そのまま気配も決して、音もたてないように、その場を後にしたのだった。 いや。だって巻き込まれたくないし。 建物の修繕費用は、経費で出るだろうか? なぁ〜んて、壊れているだろう範囲を計算しながら、オレは廊下を歩いていた。 計算と共にしっぽがゆれるようで、聞こえてくる音と弾の数から想像で、被害額を計算していて、値段がつりあがることにしっぽがぴんとはりつめた。 それをみた隊員たちが不思議そうな顔をするものの、特になにか思い当たるようではないようで、そのまま普通に猫なオレに「おはよう」と声をかけていく。 後で、とっつぁんに請求しようかな。 ********** 「ええええーーー!!!! 〈天導衆〉 !?」 はい。車の中です。 あのあと、着替えが終わった近藤さんをつれて、松平のとっつぁんは車で去って行ってしまったのです。 行く場所があるとかで。 とはいえ、ちゃっかりオレはその車に忍び込んでいます。 猫の姿ですがね。 気配を消して、こっそり助席の下にもぐりこんでます。 だって、まだ近藤さんに赤いものわたしてないし。 なんの話かなぁって思ってたら、こないだの 〈煉獄間〉 で、オレが総悟や銀時たちを囮に、猫たちをしかけたアレのことだったようで。 秘密裏に済ませられないのはわかっていたが、近藤さんにだまってやったのはよくなかったようだな。 オレ筆頭に 〈煉獄間〉 真選組が奇襲をかけたことをしらなかった近藤さんは、絶叫を上げていた。 「 〈天導衆〉 ってアレでしょ!?将軍を取り込むっぽいことして裏から幕府の実権握ってるみたいなぁ!?って噂の!?」 「でっけぇ声だすなぁ!!そうだよ!その将軍をとりこんで裏から幕府の実権握ってるやつらだい!!」 「声でかっ!?っつか断言しちゃってるし」 はは。漫才になってやがる。 でも本当にそんな大声はどうかね。おふたりさん。 運転手をしている警官さんなんか、青い顔して冷や汗ダクダクして、二人の様子を気にしてるし。かわいそうに。 「その 〈天導衆〉が仕切っている島に、てめぇらがちょっかい出したって言ってるんだよ」 あ。やば。猫の集団とか、すぐにイコールでオレってばれそう。 朝あった時に「あれはだめだ」と言ったのは、あのネコ軍団のこととか。 ちぃ。せっかく「たまたま」偶然が重なったように見えるように、大量のねずみどもを闘技場にいくように誘導したのによぉ。 真選組には道信が死んだとウソの情報まで流したのに。 ちなみにあの日は、〈煉獄間〉に潜入していた猫たちより情報を聞いていたので、道信暗殺予定日とかすべて事前に知ってました。 なのでチャイナたちの見張りをだしぬいて、道信やこどもたちをさっさと引っ越しさせて、逃がして、かくまってた。 闘技場乱闘騒ぎ、前日の道信が殺害されたという日には、なにげなく偽物の空っぽの馬車用意してました。 御者?いねぇよ。オレが運転してたんだもん。 ちなみに人型なのは、すべて人形でした。案山子だよ。 猫のままで運転してたのオレ。猫が運転するとはだれも思うまい。その心理を狙って、道信モドキ案山子の膝の上に載って、“言葉”でもって馬に指示出してました。 猫万歳。 しかも戦闘バカって本当に脳みそまで筋肉でできてるのやつ多いよね。 鬼は上からきて、死体をちゃんと確認しないし。ほかにも荷馬車の中とか御者をちゃんと確認した奴だれもいないんだぜ。 いなくなったヤツラをみて爆笑したよ。 ちなみに中身を確認されたときは、戦闘経験豊富な猫集団がこどもサイズの人型人形の間から飛び出る予定で、かまえていたけど、彼らの出番はなかった。 うっぷん晴らしにと、猫集団は翌日闘技場で大暴れしたんだけどな。 って。こんな裏事情、さすがのパパ友な松平のとっつぁんでも話せない。 野生の猫を自在にあやつるやつが地球にいるなんて発想は、オレの友人だけがすればいいことだ。 天人どもにしらせてやる義理はねぇし、一般的常識からは考えつくはずがない。 だからとっつぁんも猫集団については語らない。 ただ。その猫集団に紛れて、真選組がいたということだけが、上のやつらは気にしているのだ。 やつらも猫はたまたまか、真選組の奴らがねずみをまいたとでも思うだろう。 案の定、話に耳を傾けていれば 「え。ええ!? 〈天導衆〉が仕切っている島にウチがちょっかいだしたっていうんですか!!」 近藤さんの絶叫再び。 「ああ、もう。しらじらしいやい。とぼけちゃってさ。撃っちゃおうかな。おじさん撃っちゃおうかなぁ〜」 「あ、あいつら。俺のいない間に・・・」 ちらりと椅子の下から顔を出して覗けば、後部席で顔を盛大にひきつらせている近藤さんが目に入った。 すまない近藤さん。 おもにオレの独断と気分とノリと勢いで結構しました。 思わず耳がペタンってなった。 でも、失敗するはずがないんだよ。 念密に情報は猫仲間たちが集めてくれたし。総悟に煮干しもらったし。 彼らに報酬として魚あげたし。なによりひとの心理をついた、動物による奇襲作戦だ。 間違いなく成功するはずだったんだ。 現に道信は救ったし、地下闘技場には一泡吹かせたし、成功しただろ。 それに近藤さんたちが処分されるはずがない。 真選組は評判は悪くても世間に公表された正規の役人だ。 地下闘技場に彼らが足を踏み入れたことで、すでに表だってあの地下闘技場の存在は、暴かれた状態だ。 なのに悪を捕まえた側の警察側を上層部が処分したとなれば、〈煉獄間〉とウエがかかわりあると自ら宣言しているようなもの。 〈天導衆〉のやつらは、ばかじゃない。市民に不審に思われるようなことはしない。 ならばやつらの選択肢はひとつ。〈煉獄間〉を切り捨てるだけだ。 だから近藤さんや真選組が、処分されるはずがない。 ・・・っと、オレは考えてるんだが。 まぁ、あとの処分は・・・とっつぁんが、オレの存在を上にばらさなければすむんだけど。 さて。どうなるんだろうな。 「でぇ。とっつぁん。俺たちにお呼びがかかったってことは処分されるのか?」 「まっ、むこうにしてみれば俺たちが目障りなのは間違いねぇだろうが。そりゃぁネェだろうな。公にそんなまねをすりゃぁ、〈煉獄間〉とのかかわっていたことを自ら語るようなもんだ」 あ、とっつぁんもオレと同じことを考えていたようだ。 「――むしろ危険なのは今」 ん? なんか話が急展開したぞ。 とっつぁんは咥えていたたばこに手をやって、さっきより真剣な口調で表情まで改めた。 「城に来いとはただの名目で、俺たちが二人そろったところを隠れて・・・ズドンパ!」 「うおっ!?」 「なんてこともありうる」 あちゃー。またとっつぁんの妄想が始まったな。 たぶんそれはない。 怪しい事故死をねらって、ここで近藤さんたちを消して、ウエのいうことを聞く上司を派遣するとか――そこまでのことあいつらはしない。 真選組なんか、あいつらにとっては、ただのしたっぱだ。 だからあいつらは手を出さない。 もし裏にオレという猫がいることを知ったのなら、オレを狙っては来るだろうけど。 なんたって、攘夷戦争の初期は猫姿でやんちゃしましたからねぇ。二つ名ももらったよ。天人からは裏切者扱い。ひどいねぇ、そもそもがオレはただの猫であって、天人じゃないっちゅうのにさ。そのときに手を組んだのが西郷さんな。それはさておき、これ銀時には秘密で。 あっはっは。いまもきっと天人の間では、白い化け猫要注意と手配書でも貼られてるかもしれないな。ズバリ、もう毛色が赤いのでつかまらない自信しかけど! 「ま、攘夷志士の犯行とでもしておくのが都合がいいだろう」 たしかにあの場に、攘夷志士にふんした派手な軍団いたけどね。 って、オレが物陰から頷いていたら、顔色を悪くさせた近藤さんが「おうちかえるー!!」って叫んで後部座席の扉を開けやがった。 あぶねぇなおい!! 車、運転中だよ。 それを必死に抑え込んでひきもどした松平のとっつさんえらい! 思わずとっつぁんよくやった!と、隙間から這い出て、後部座席に移動する。そのままとっつぁんの膝の上に歩いて行って、ちょこんと座る。 「ニャァ〜」 「猫?まぎれこんでやがったか。・・・ん?あんれぇ?おまえさん、もしかして“親父様”の仔かい?その首輪はあいつのだろぃ?毛色は違うが、目の色がよく似てやがる」 「ンにゃぁ〜ん」 おー、総悟には及ばないもののとっつぁんもいい感じでナデナデしてくれますなぁ。 あ、できれば顎の下も〜。 ごろごろごろ。 「と、とっつぁん!そ、そいつは!?」 松平のとっつぁんは、オレが今は赤毛の猫であることを知らない。 なにせ戦時中とっつぁんとあったときのオレは、白い猫だった。 人の姿になれるようになっていても彼の前でなったことはなかった。 最後に分かれてから再会したのは、オレが真選組の副長として。だから髪が黒い人間のオレか白い猫姿のオレしかとっつぁんはしらないのだ。 だけど近藤さんは、オレの赤毛をみてすぐに気づいたみたいだ。 さっきよりも顔を青くして、「なにしちゃってんのぉトシぃ〜!!!」と心の声がまんま顔に出てる。たぶんとっつぁんにおそれをなしたがために、声に出なかったのだろうとは思う。 「なんだぁ、おめぇこの猫しってんのか?」 「あ、いや・・・その、真選組にいついてる猫でして」 「真選組の?んーまぁ、あそこには“あいつ”がいるからなぁ。猫がよりつくのもしかたねぇだろ」 “あいつ”って、間違いなくオレのことですね。わかります。 おーよしよし。ひとなつっこいなぁとか、言って孫にデレデレするみたいな顔でこっちをなでるとっつぁんって、新鮮だね。 横で近藤さんが、ひいてるよ。 オレは気持ちよいので、そのままおとなしく喉をならしながら撫でられてました。 「っで。すこしはおちついたか?」 「はっ!?ギャー!!こんなオッサンと死にたくない!!死ぬならおたえさんのひざまくらしぬぅぅぅ!!」 「おちつきたまえ!人は皆いずれ死ぬ。大事なのはどう生きるかだ」 「やだ!楽しくエッチに生きたい!!」 「にゃぁ〜(あんた“公衆の面前”でもそういうこというのかよ。がっかりだ)」 「ほれみろ。ネコちゃんもお前をさげずんでいる」 「それでもいやだぁ〜死にたくない!!!」 「んなもん運だ、運。自分の運を信じろ」 上を見上げれば、オレの頭をなでる手は止めず、とっつぁんはしごく真面目な顔をしてクールに近藤さんを見ている。 扉に背を張り付けてだだをこねていた近藤さんの動きがそれで一時停止する。 「運?」 その小さなつぶやきにつづいて、近藤さんの顔がさらに青くなる。 「とっつぁん。とっつぁんって・・・何座?」 「ああ?乙女座だけどぉ」 「たすけてー!!!!百パーセント死に向かってるぅ!!!デッドアライブゥー!!」 聞いた瞬間、再び移動中の車の扉をあけ放って飛び降りようとする近藤さん。 あわてて立ち上がってひきとめるとっつぁんの膝から、スルリと降りて、助席に戻ってその騒がしい様子を傍観する。 そこでふと視界に赤い色がとまり、唐突に思い出す。 あ。そういえば、オレ、ここまでついてきたのって、近藤さんに赤いマフラーとどけるためだっけ。 「にゃ(近藤さんコレ)」 椅子の下におきっぱだったそれを加えて、後部座席でギャーギャーと騒いでいる二人に声をかけようとして――― ドン!!! 「すこしおちつかれては」と運転していた人が鏡を中止しすぎたせいで、正面に留まっているトラックに気付かずそのまま激突した。 オレは衝突の勢いでそのままポテっと後部座席までふっとぶも、とっさに近藤さんが空中キャッチしてくれたので無事だった。 車が止まった瞬間、忍者のごとくすばやさでとっつぁんが飛び出ていき、トラックのあんちゃんにむけ銃をむけていた。 ちょ!?やだ、あれ、運転してんの長谷川君じゃん。あわれだ。 「無事かトシ」 《なんとかな》 猫のオレを心配して抱え上げてくれた近藤さんに、テレパシーでもって感謝を述べる。 身体から水分を払うようにプルプルと体を震わせ、一度のびをして、近藤さんに無事の意図をこめて見上げれば、近藤さんは安心したようにほっと息をつく。 うん。やっぱり近藤さん、優しいひとだよな。むしろ甘いというか・・・。 それにしても―――ブラック星座占いマジすげぇな。 乙女座ダブルな威力すさまじい。 「にゃぁ〜《とりあえず赤いマフラー》」 「・・・あ、ありがとう。っていうか、わざわざこれだけのために忍び込んでたのか?」 「《もちろん》」 「そ、そうか」 そうこうしているうちに発砲音が聞こえ、近藤さんが窓からのぞけばちょうどいいタイミングで、前のトラックが爆発する。 思い込みの激しいとっつぁんが、長谷川君を自分を狙う暗殺者か何かと勘違いして、その移動手段たるトラックを撃ったようだ。 まったくむちゃくちゃだな。 呆然としている周囲をよそにさっそうと戻ってきたとっつぁんは、オレたちがのっていた車の運転手に今度は銃を向けた。 「おい運転かわれ。ここからは戦場だ。お前は帰れ」 「は、はい」 「とっつぁん!なにやってんの!あれどうみても一般人だろ!」 「ばかやろぉ。あいつはグラサンかけてただろ」 強制的に運転手を追い出したとっつぁんは、そのままビビル近藤さんを連れてくるまで去って行った。 扉が閉まる間際に聞こえたあのグラサンがどうのってなんだったんだろう。 ついでにさっちゃんが、なんか乗り込んでたけど・・・。 まぁ、いいか。 とっつぁんと近藤さん、さっちゃんをのせた車が去っていくのを呆然と見送る運転手さん。その横にならびながら、警察が車くるまでの交通整備でもしとくかと考える。 「なんだったんだ」 『本当にな』 「え?」 「土方さん!?いつのまに!?」 車にさっちゃんが乗り込む前には、とっくに猫の姿でスルリと車から降りてたよ。 この惨状を見て、おじさんたちの妄想に付き合ってられるわけないだろ。道路閉鎖しなくちゃとか、車迂回させなきゃとか、けが人の状況確認しなきゃとか、警察としてはやることいっぱいあるのよ。 それに近藤さんなら大丈夫。しっかり赤いマフラーをポケットにつっこんできたから。 ちなみにいまは“土方十四朗”の姿で、運転手さんの横に立っていますが。なにか? 『ほれ、ぐちぐち言ってないであんたも手伝え。ここが役人仕事の見せ所だろ。税金泥棒なんて言われないようチャキチャキ動く! まずお前は、向こうの交通整理な。オレは救急車通れるよう誘導するわ』 「あ、はい!」 結局。松平のとっつぁんがトラック炎上させたのだが、実際はテロと勘違いされて真選組が呼ばれた。 そのため、場の収集をつけるため、オレはその日をそこですごした。 帰ってきたら、なんだか書類がやっぱり増えていて泣いた。 目を通した書類の一部は、一般警察からの報告もあった。 どうやら今日は他の場所でも事件が多発していて、どこぞやの道路で交通事故が起き、白い物体が車にひかれて病院に運ばれたとか、とある三人組が自転車を盗まれたとか、車を奪われたとか、ホームレスからはリヤカーを盗まれたと報告が上がった。しまいにはどこぞやの坂道でなにかが炎上していると報告があった。 ・・・そんな通報が入っては、一般警察のみなさんが出動したらしい。 武装警察は鳳ものメインだけど、一般警察の方が細かい騒動が多くて大変そうだ。 その後、松平のとっつぁんがどうなったかはしらない。 とりあえずボロボロになった近藤さんが「なにもなかった」とぐったりながら帰ってきたときには、なんか肩すかしくらった気分だった。 赤い布はやくだったのかよくわからん。 【後日談】 銀「と、とうちゃぁーん!!大変だ!おれの鼻くそが!鼻くそが爆発した!」 夢『鼻くそは爆発しねぇよ』 桂「シロウさん!エリザベスがぁ!!!!エリザベスがひかれて!!人間の病院にも動物病院にもみてもらえなかったんだ!!俺はど、どうしたらぁぁぁぁ!!!」 夢『おまえらいっそ二人そろって源外の爺さんに魔改造されてこい』 まったく。こっちは今日のトラック爆発事件や一般の方の事件が押していて、いそがしいってのに。 おい、総悟。おまえ寝るなよ。 仕事しろよ。 第28話 いい事は連続して起こらないくせに悪い事は連続して起こるもんだ |