2014.04.22 加筆修正


白と赤色の物語
- 銀 魂 -



21.怒らせてはいけない
第27話「刀じゃ斬れないものがある」より







沖田君に地下闘技場に案内されて数日後。


『まぁまぁ。遠慮せず食べなさいよ』
「・・・・・・」

おれはいまファミレスのボックス席で、真選組のおふたりと机を挟んでにらめっこ状態だ。
そんでもって目の前には、キラキラと輝くイチゴのソースに、白く・・・御託はいいか。ズバリ、イチゴパフェがある。

ものっそいうまそうだけど。
うまそうなんだけどさぁ!

だされたパフェなんか手を伸ばすことなんてできもしない。
いや、ここで指一本動かそうもののなら何がおこるか・・・。


だって目の前に修羅がいる。



これでどうやって食えと?








 -- side 坂田銀時 --








沖田君にファミレスに呼び出されてみれば、待っていたのは、黒塗りの阿修羅だった。



かけてくだせぇと、すすめられたが、とても居心地悪い状況になっている。

きまずい。とんでもなくきまずい。

なにがって。
目の前に相変わらず表情筋が固まってんじゃないかと思うかわりようのない沖田君が、へいぜんとストローくわえてズルズルと何かを飲んでいる。――っと、ここまではいい。
問題なのは、その横だ。
沖田の横で腕を組んで座っているまっくろけのおそろしいこと。なにこの威圧感ムンムン。超怖いんだけどぉお!?
いつものほわわんってかんじの笑い方じゃなくて、背後から負のオーラ的なにかドロドロとした黒いものをはきだしているうちの親父様は、目の前でそれはもうニコニコとしている。

もう一度言う。
ニコニコしてらっしゃる。

はっきり言おう。
こわい。こわすぎる。

目以外の全身黒い“土方使用”なあのひとの背後には、当人が生み出している修羅的な何かなエキストラサンがいるのに、当の本人は笑っているとか。そこが一番怖い。

そんでもって――

誰か何か話せよ!?





「え、えーっと。な、なんでおれはここにいるのかなぁ?ねぇ、沖田君」

まじで、コレ。ドイウコトだよチクショォ!?

呼び出した本人である沖田君に助けを求めるように視線を向ければ、笑うでも怒るでもなくやつはコクリとまじめくさった顔でうなずいた。
いや、そのまじめな頷きいらないよ。意味わかんないよ!?


「すいやせんバレマシタ」


NOOOOOOOOOOOO-------------!!!!!


つまりあの【地下格闘技場をぶっ潰そうぜ☆でも計画は特にないけど、土方さんや真選組は巻き込まないように、個人依頼だ。手伝え万事屋、テヘペロ(笑)】が見事にばれてたってことですかぁぁぁ!?
そんなことききたくなかったよ!?
いやいやいやいや!むしろバレる確率の方が高いと、おれらに声をかけるまえに気付けこの野郎!!
まぁ、土方君がここにいる時点でだいたい想像はついてたけどさぁ!
むしろ猫が入る隙間があれば間違いなく《シロウサン》がでしゃばるんじゃないかとはおもってたけどぉ!!!

ってか、なんでそんなに土方君が怒っているのか説明をしてくれ!怖いんですけどぉ!!!こわいんですけどぉー!!!!

『銀』
「ハィィッ!」

向かいに座ってとんでもない威圧感を放ってくる相手が、本当にキレル数秒前だとわかるから、静かに響いたいつもより低めの声に、思わず全身が電撃でも食らったように硬直して、思わず敬礼までしてしまった。

『敬礼は右手だ。あと掌は見せない。親指は相手から見えないようにするのが正しい』
「す、すんませんっ!!」

普段の土方君なら、緑の目を驚いたようにまるくさせて『なぁにしてんだよ』とか笑うんだろうけど、今日の彼はニコニコ笑顔のまま微動だにしない。
もう銀さん、冷や汗ダラダラよ。
ってかね。銀さんイイ年してまで父親と面と向かって向き合ってお話って・・・なんだこれ!?なにこの三者面談みたいなの!?沖田君、あんたが先生か!?

『先に礼を言っておく。総悟がひとりさきばしったあげく巻き込んじまったようで悪いな銀』
「あーいや。ぼ、ぼくはなにもしてません!」
「ぼく?旦那、そうとうてんぱってまさー」
「ちょ!?沖田君こわくないの!?土方君瞳孔開いちゃってるよ!!怖いでしょふつうはさ!!!いやぁ!!“鬼の副長”がここにいるよ!!!沖田君なんでいつもと同じみたいにそんな平然としてるの!?お前も一緒に怒られろよ!!!!」

『安心しろ銀』

ニッコリと土方が目を細めて笑いかけてくる。
それに「何を安心するんだ!!!」と叫びたくなった。
できなかったけどなっ!

「そうでさぁ。銀の字からみえないだけで、ほら。ステキナタンコブが二つもありまさぁ」

そう言ってむけられた頭には、たしかに。
っていうか―――

「・・・・・・いやいや沖田君よ。おれの目には三つにみえるよぉ」
「まぁ、そういうことなんでい」

なにがそういうことだ!?
本当に銀さんには意味が分からないよ!!

『そういうことだ。すでに総悟のほうは説教済みだ。心配したということでその後、近藤さんからもなぐられてこのざまだ。 そんなわけでお前もおとなしく――――



手をひけ銀



表情から笑みが消え、かわりにスッと緑の瞳が細められる。
それとともにさっきにも似た威圧感が増す。
息が詰まりそうなほど濃い威圧に、背にいやな汗が走る。

『てめぇが命を無駄にする必要はねぇ。そんな価値もない。
ガキは寝て待ってろ。
あれはオレらが潰す』

次に聞こえた気遣いのようなそれに、ようやく土方君が怒っていた原因が分かった。

あー。やっぱり変わらないなぁこのひと。
どうやら無鉄砲に挑みに行こうとしたことで怒ってるらしい。
長く生きてるからか、失うことを毛嫌いするようなひとだもんな。
そりゃぁ、おれたちが無謀なことをしてれば、気が気じゃないに違いない。

うん。
わかった。おりるよ。

この件からはおりるから。頼むから睨むんじゃないっての。
そもそもね、父ちゃんには逆らえないんですよ銀さんってば。
もともと気が乗らなかったしさ。
いかないよ。
あんたは、安心して待ってろって。
オレはただばかのように命を落としに行ったりはしねぇよ。

だからさ、おれは――



「え。やだ」



人に指図されて折れるなんてしたくねぇのよ。

・・・ん?
あ。
やべ。

思わず本音の方がもれちゃった。
なにしてんのぉぉぉーーーーーおれぇ!!!!!ああああ・・・おれのばかぁ!!!!


『ほう。そうか』

鋭い目で睨まれるは、眉がピクリって動いたんですけど。
これは間違いなく「心配かけるようなまねすんじゃねぇよ!」っていう怒りとは違って、本気で腹立って怒ってる。
まずい。まずいぞ。
前者ならまだ口を巧みに動かせば、その怒りを収められたのに・・・!!!
こっちの怒りの方が、まじ怖いのに。
なにしてくれちゃってんのおれよぉぉ!!!


『・・・あれの裏にはなぁ。ちょいと頭でっかちっがいるわけよ』

みてるうちに、また笑顔になるし。
にこにこにこ・・・。
その笑顔のままこっちみてくるし。

コワッ!!

土方モードでニコニコされるのが一番怖い。
普段わらわないキマジメ顔な土方モードだから、よけい笑顔が怖くみえるという事実。
背後に黒鬼がみえますよ副長さん。

『天導衆ってやつら知ってるか?
将軍を思いのまま操り、江戸をテメェ勝手に作り替えてる。この国の実験を事実上握っている連中だ。
あの趣味の悪い闘技場は、その天導衆の遊び場なんだ』

将軍を操る天人・・・あ。やばい。これは話がデカすぎる。
さっきヤダなんて言わなければよかったかなぁ。

でもさ――
あいつらの話を聞いちゃぁ・・・。

おれはここでとまるわけにはいかない。
ここでやめたら、おれはきっと腐っちまう。

『機動力の仲間(ニャンコたち)に潜入してもらって調べたがそうとうやべぇ』
「土方さんの・・・機動力。あー・・・もしかしてなくても猫たちですかねぇ。あのすさまじいほどの情報収集能力って。ああ、猫に俺は負けたのか。
あ、もしかしてこないだ猫集会に持っていたつまみって」
『それの代金に使わせてもらっぜ』
「やっぱり」

『オレ自信、何度かもぐりこんでみたがなぁ。かなりの頻度やっこさんたちが訪れてる。
なまじ上とつながっている分、手が出せネェ。
そんでもってオレたちの組織も役所仕事なもんでな』

そう言うと、土方は線のように弧を描いていた瞳をうっすらとひらき、こちらを楽しげにみつめてくる。
その表情は笑っているようで笑っていない。

『っと、いうわけで。手を引けと言ったんだが。
さて。お前はひとの善意での忠告を聞かず、否と答えた。
なら、もし潰すにしてもどうやって真選組がかかわっているかばれないようにするかっていう問題があるわけだ。
そうそう私怨で仲間を路頭に迷わせるわけにはいかねぇんだ。
お前、オレたちが路頭に迷った場合、どう責任とってくれる?
どうする気だお前は?』

土方の背後にいる阿修羅が、仁王像がコチラをギロっ!と睨んでくるような気がした。
いや、阿修羅像とか仁王像とかの違いわかんないけどさぁ。
間違いなく背後に鬼系統のなにかがみえるって感じなわけで。
語るなら空気で語らず、口で語ってくれよぉ!たのむから!!――っと、思わないでもない。
まぁ、現在進行形で、言える空気じゃないんだが。

その恐ろしげな鬼を背後に想像できる空気をまとわせていたのだが、ブワリと効果音が付きそうなほどのマイナスオーラがさらに溢れ出す。
それに飲み込まれないようにしながら、渇いたのどをなんとかするためゴクリとつばを飲み込み、背筋を伸ばして姿勢を正す。


「おれは――――」





 


**********





 


沖田君に声をかけられたあの日、以降。ずっと神楽や新八に道信の様子を探っていてもらっていた。
だけど。


「あー・・嫌な雨だ。
なにもこんな日に、そんなしめっぽい話持ち込んでこなくてもいいじゃねぇか」

神楽たちが、馬車で子供たちと逃げる道信を逃がし、煉獄関の連中をたたきのめした。
その翌日。
空からは、雨が降っていた。
そんなときに【万事屋銀ちゃん】を訪れたのは、いつもの無表情にちょっと影をたたえた沖田君。




道信が死んだと――悲報を携えて。




「そいつはすまねぇ。一応知らせておかねぇとと思いましてね」

「ごめん、銀ちゃん」
「僕らが最後まで見届けていれば」

神楽と新八がソファの上でうなだれている。
それに舌打ちしたくなるのを抑えて、いつもと同じをよそおう。

「おめぇらのせいじゃねぇ」


なんでだ?なんで道信は死んだ?
“あのひと”が物凄いあくどい顔して「あいつは絶対助ける」って、笑っていたのに。
なんで道信は死んだ?
あの土方君でも助けられなかった?
あのひとなら、有無を言わさず叩き潰すのだろうと思っていたのに。
相手が相手だから、その「助ける」って言葉に心のどこかで無意識に安心して、おれの気が少し緩んでいたのもある。
それら全部があだになった。
“あのひと”が考えているよりもはやくに、道信の暗殺が結構されたのだろう。

大丈夫だ。そういわれた言葉につい甘えすぎていたのかもしれない。


ああ、なら。その責任はやっぱりおれにもある。


けれど今は、まず落ち込んでる神楽や新八、沖田君をなんとかしないと、な。


「やろうも人切りだ。自分でもろくな死に方ができねぇのくらい覚悟してたさ」


「旦那ぁ。妙なもんに巻き込んですみませんでした。これ以上かかわっても碌なことなさそうですし、この話はこれっきり・・・」

立ち上がった沖田君の言葉が最後を告げるよりも先に、がららっ。と音が響いた。
入り口にはたくさんの子供たちの姿が。


彼らは・・・

そうか。道信の育てていた子供たちか。


「てめぇら。ここにはくるなって言っただろ」

悲痛な顔をしてたたずむ子供たちに沖田君が声をかける。

道信が死んだことで、真選組が調査にでもたちあって、そのさいに子供たちを一時かくまったりなんかしたのだろう。
あの子供好きなウチの父ちゃんがいるんだ。悪いようにはされていないだろうと思ったが。
彼らは涙を流しながら、あることを告げた。


それは予想外の依頼。


「にいちゃん、にいちゃんに頼めばなんでもしてくれるんだよね?なんでもしてくれる万事屋なんだよね!?」
「おねがい」
「せんせいのかたきをとってよぉ」

小さなガキどもが泣きながら依頼をしてきた。
あいつらにとっては大切であろう宝物の数々をもって――。


「これ、ぼくのたからものだけど・・・あげる」

渡されたのは『ヤカン大王』のシール。
続いて机の上に広げられ、あらわれたのはオモチャたち。

「お金はないけど。みんなの宝物あげるから。
だからお願い、にいちゃん!」

必死な訴えなのはわかる。


「・・・いい加減にしろおまえら。
もう、帰りな」

沖田君がこどもたちをとめる。
静かな静止。


「ぼく、しってるよ!」

とめる沖田君を振り払う子供たちの、その真剣な目と視線が合った。

「先生、ぼくたちの知らないところで悪いことやってたんだろ…だから死んじゃったんだよね。でもね。ぼくたちにとっては大好きな父ちゃんなんだ。血がつながってなくても。立派な父ちゃんだったんだよ!」


―――"先生”に、 父ちゃん ね。

ああ、もう!!
どうしてこうしておれのツボばかりついてくるようなセリフをポンポン言うかねぇ。
これだから純粋な子供ってのは。

しょうがないか。
ここで答えないやつがどこにいる。


「おい、ガキ。これ、今はやりの“ドッキリマンシール”じゃねぇか」

オレは広げられた彼らの宝物から、一番最初に机に乗せられたそれを手に取る。

「そうだよ。にいちゃん、しってるの?」

「知ってるも何も。おめぇ、おれも集めてんだよ“ドッキリマンシール”。こいつのためならなんでもやるぜ。あとで返せって言われてもおせぇからな」

彼らの言う宝物は、どこからどうみてもガラクタだ。
“ドッキリマンシール”だって、神楽が話していたなぁ〜ぐらいにしかおれは知らない。
だけどそこにこめられた想いの重さはきっとだれにもまけないだろう。

そうさ。これはどうしようもねぇ、“イイモノ”なんだ。

シールを代価に席を立つ。

「旦那!?」

「銀ちゃん」
「本気ですか銀さん!?」


おれが彼らの依頼を受け、外に出ようとしたら、いつからそこにいたのか部屋の扉によりかかるように土方が立っていた。

怒っているのか、呆れているのか、悲しんでいるのか。
感情を押し殺したような表情からは、ウチの親父様の感情は読めない。

『酔狂なこったで。まぁ、ここまでくると…本当にバカとしか言いようがない。
小物ひとりはむかったところで、どうにかなる相手じゃねぇんだよ。
・・・死ぬぜ』

「“土方君”たちには、迷惑かけねぇよ。だからどいてくれ」

『はぁー。なぁ、おい総悟。オレ、どこをどう育て方を間違った?こいつ自殺志願者らしいんだが』
「土方さん、あんたの育て方はもとから間違ってまさぁ。だから銀の字のやつぁ、いつまでたっても恋の一つさえしらねぇドウテ」
「あああああああ!!!!ボクガ、ナニカナオキタクン!!」

ったく。
隙もあったもんじゃネェ。
無垢な子供たちのいる前で、この鉄仮面、何言おうとしてくれちゃってんだか。
最後まで言わせなかったけどな!
おかげでこっちから視線を外して沖田君が、「チッ」とか舌打ちうってたけど。
なんなの!?本当に君、なにがしたいのさ!?

『ファミレスでも言ってたなぁ。“死ににいくんじゃない”って。
オレにはこれから自殺しに行こうとしているバカにしか見えねぇが?』
「あんたがそうなれと育てたんだよ親父。
知ってるだろ?おれはさ、いかなくてもこのままだと死ぬんだよ」

周囲の子供たちが、おれの「親父」発言に驚いた顔をして土方君をみつめる。
神楽や新八にばれてかれは、親子だよ〜っていう関係を特に隠すことをしなくなった土方君は、周囲から視線が集まることも、おれが睨むのもかまわず、おれのまえに立ち続ける。

なぁ。
己の魂曲げるな。そういつも言ってたのは、あんただろ。
“これ”は、あんたが教えてくれた生き方ってやつだ。

「おれにはなぁ。心臓よりも大事な器官があるんだよ。
そいつは目に見えネェが、たしかにおれのドタマから股間をまっすぐにぶちぬいておれのなかに存在する。そいつがあるからおれはまっすぐに立ってられる。フラフラしてもまっすぐに歩いて行ける。ここで立ち止まったらそいつが折れちまうのさ。

魂が、おれちまうんだよ」


あんたはいまは真選組で、おかみにさからえない立場にあるのは十分理解してる。
あんたが動けないのも理解している。
だから、迷惑はかけネェ。
あんたのその怒りの分まで、おれが・・・

「心臓がとまるなんてことより、おれにしたらそっちのほうが一大事でネェ。これは老いぼれてもまっすぐなきゃいけねぇのよ」

いってくる。その言葉の代わりに告げ、横を通り抜けようとしたら――


ガシッ!!!


なぜか土方君におもいっきり腕をつかまれた。

振り払おうとしても土方君の腕から全然力が抜けない。
うしろ「ふがー!!」ってひっぱてもびくともしないんですが。腕が!!

『ハイ。ストーーップ』

ひくくて渋い声がかかると同時に、つかまれた腕がミシミシと音を立てそうな感じで力がこもる。
あ、あの、ちょ!?ぎゃー!!!いたいんですけど!!!

「え?あれ?えーっと・・・父ちゃんや。おれ、いま、いいこと言ったよね?こういうときはそのまま『おのれの美学のために生きるのか。とんだロマンチストだな』ぐらい言って、クールに見送る場面じゃないの!?」

『“先走るんじゃネェ”。って、何度も言わせんじゃネェよガキども』

はぁー。と今日二度目の馬鹿でかいため息が響く。
父ちゃんからしたら近藤さんだってガキの部類に入るのだろうに。
その言葉がこの部屋にいる全員をさしているのだなとなんとなく視線で理解し、緑の視線のさきをおえば。
神楽も新八も子供たちの宝物をあさろうとしている最中だった。

もちろん土方君の言葉のせいで、あいつらの動きも家探しをしているような状態のままピタリととまっている。

ああ、やっぱ。お前たちもか。
あいつらも闘技場潰すことを決めたようだ。

あいつらがあさっているのは、おもちゃのうようなそれら。
普通はゴミと間違ってもおかしくないもの。
おれだって、本当はシールなんか集めてない。

けれどガキどもにとっては輝いてみえていただろう。
大切に違いない物たち。
きっとすべてに道信との思い出がつまっているはず。

その想い。
たしかに受け取ったぜ。

それを受け取ったからには、おれたちはうごかなきゃぁいけない。
なにせおれたちは《万事屋》だからな。


「だからどいてくれよ」


もう一度つかまれた腕を振り払えば、今度は力を入れずともあっけないほど彼の腕は離れた。
どうやらみんなの視線が集められるのを待っていたらしい。
浮かぶ表情には怒りのいろはなく、少しだけほっとする。

「いくぞ。神楽、新八」

『どぉーこに、いく、の、かなぁ、ねぇ、銀時君や。ったく。まてっちゅに』
「土方さんいかせてくださいよ!」
「そうね!男でも女でもロマンをおうものヨ!」

『いやいや。だれもとめてねぇって。
待てとは言ったがな。ひとの話を聞いてから行けと言う意味だから。
かたき討ち?闘技場破壊?結構結構。やりたければ存分に暴れてくればいい。と、オレは思っている。ただし』

おまえら、その服脱げ

「「「「はぁ!?」」」

その瞬間。
その場にいる全員の声が見事には持ったのは言うまでもない。

『なに変な顔してやがる。
お前らが “お前ら” であるとバレるな。
服装を変えろ。面をかぶれ。あ、この服に着替えてくれるとさらにうれしいんだが。
そうしたら許してやるよ』

そういって渡されたのは、どこの集団ですかといわんばかりに派手な花柄の着物(しかもサイズがちゃんと小中大て用意されてる)に、 ヅラ カツラに、付け髭に、化粧道具に、マスクに、口元を覆うようにかマフラーとか。

なんだこれと目を見張る。

「ふつうこういう時は目立たない用に黒じゃ・・・」

誰が言ったかわからないが。
よく言った!
おれもね、スゲー疑問だったのよそこんとこ。

『目立たせるんだよ。
それを陽動にする。敵さんには、そのカラフル集団を探させるんだ。
素性さえばらさなければ、あとの偽造、隠ぺい、口裏合わせははどうとでもなるからな。
あとは真選組として、闘技場に乗り込むための口実にも一役買ってもらう。
“カラフル集団をはじめから追っていた真選組” が、逃げ込んだ先で暴れているそいつらを探しに闘技場に乗り込む。
筋書きはこう。
追っていた犯罪者たちが逃げ込んださきがたまたま地下闘技場で、たまたまそこに大量の真選組が来てしまい。これは違法じゃないのかと疑って・・・あらまぁ会場は大混乱!そこで真選組に追い詰められたカラフル集団は、うっかり闘技場の兵士や観客や鬼獅子とかを倒してしまった。―――と、そういう設定だ』

クックックとあやしげに口恥を持ち上げてそれは愉快そうに笑う土方君が、いつにもまして、なんかいろんな意味で怖いと思った瞬間だった。
結局おれたちに断るすべはなく、渡された超ドカラフルな花柄模様の服に、顔を隠して、真選組を誘導するように町をかけながら、地下闘技場に乗り込むこととなった。





闘技場についていざ決闘だ!

と、意気込んだものの。


「にゃぁー!!!!」
「フシャー!」
「うみょ〜ん」
「にゃー!」にゃー!!」
「ニャー!」


カラフルなおれたちがついたときには、会場中を猫が走り回っていた。

どうも大量のネズミが発生したらしく、それが地下であるここにたまたま流れ込んできたせいで、ノラ猫たちが津波のように続いてやってきたらしい。
猫もネズミも客席にはいりこんで、座っている客の足をかんだりひっかいたり、あげく飢えているノラネコな彼らやノラネズミたちは客までおそいかかってくらおうというのか、ガリガリとかじりついているし。
ただでさえネズミや猫が足をもとを走っただけでも騒ぎになるのに、それにくわえてかじりつかれちゃぁたまらない。
あ、ネズミを食うだけじゃなく、犬にも襲いかかってる。数匹がかりでってひどいな。あの犬、絶対トラウマになってそうだ。
しかも兵士たちや侍やらの刀を猫たちはみごとに掻い潜るときてる。

どんな猫たちだよ!?とつっこむなら、戦闘民族のスーパーな野菜星人のごとく、見事な危険察知能力と戦闘力を秘めているとしか言えない。
なんとなくだけど。
あのネコズ・・・間違いなく《シロウ》から戦闘訓練受けてそー。


その後、カラフル集団に誘導された新選組まで乱入して――。


そんなこんなで大混乱でおわったとか。





天人の鬼さえもおちょくる戦闘猫集団。
しかもここには短気なあらくれどもしかいないのに、この場を走る回る猫たちはほぼ無傷だとか・・・どうなんだろう。



「ん?猫?・・・って。あっれぇ。これって。おれら土方君の掌の上で踊ってネェ?」




















【後日談】


――ところかわって。
ここは経営者と従業員の去った後の《万事屋銀ちゃん》。


「いった?」
「いったみたい」


「「「「・・・・・・」」」」

「ぷ」
「あは」
「あははは!」

『く・・・っくっくっく。
くはっ!総悟までいっちまったよ。
やっぱ、子供の涙ってグッってくるよなぁ。
あ〜笑った笑った。今頃、あの花柄着物集団が怖い場所について呆然としてんだろうな。人の話を聞かず、自ら死に急いで無駄死にしようとした罰だ。ざまぁ!
いやぁ〜それにしても、名演技!お疲れさんおまえら。スゲェーなお前ら。主演男優賞、主演女優賞とれるんじゃね?オレは脚本賞だな』

「わーい!ほんとう黒いおにいちゃん!」
「おれ、実はすっげーどきどきしてた!」
「わたしも・・・」
『ありがとなー。これで心置きなく、暴れられるわぁ』
「ねぇねぇ、これでよかったの?」
「万事屋のおにいちゃんたち、捕まったりしない?」
「おにいちゃんたちがいったところって。先生がわるいことしてた怖いばしょなんでしょ?」
「先生みたいに刺されそうになったりしたり、狙われたりにしないかなぁ」
「本当におにいちゃんたち、大丈夫?」
『なぁに心配いらねぇよ。なにせオレが鍛えてんだぜ?頭までは鍛えてやれなかったがな』

《万事屋》では、さきほどまで泣いていたはずのこどもたちと、黒い男がわきあいあいと、笑い転げていた。


『さっ、いくか。
あ、ガキども。全員居るな〜』
「大丈夫だよ黒いにいちゃん」

『じゃ、これから引っ越しだ。きばれよガキども。 しばらくは山越えになるかもしれないから、ちゃんと大きい奴は小さい奴の面倒見ること。
護衛なら、オレの昔の知り合いがつくから安心しろよ。あいつらは強ぇからな。もう道信が刺されそうになったりはしネェ。お前らの身の安全も保証する。
まぁ、引っ越しって言っても別の寺に移動するだけだから、道信の職業も今と変わらず和尚なのはかわりねぇけどな! 朝はちゃんと道信を助けてお堂の掃除は欠かすなよ。かかすと天狗がおまえらをさらいに行くぞ』
「あははは。黒いおにいちゃんいやぁ〜」
「きゃははこわぁーい」
「掃除・・・やだなぁ」
「あなのあいてないしょーじがあるんだって」
『バァーカあけちゃだめだって。次のオウチは仮宅だからな。さっきも言ったようにイタズラはひかえろよ』

『んじゃ、お登勢さんのところにいる道信を迎えに行ってから引っ越しだ』
「「「「はーい!」」」」





***





新「なんじゃこりゃぁ!?」
銀「・・・猫。あっちも猫。こっちも・・・。ねずみもいるけど」
神「どこをどうみまわたしても猫の山アルね」
沖「猫というと土方さんでさぁ。
こりゃぁ、土方さんに一杯食わされましたかね?
この調子だと、ひょっとしてひょっとしてで、もしかしてどっかで鬼童丸とか生きてたりして・・・」

銀新神「「「・・・・・・」」」

新「なんか・・・あり得そうで怖いんですけど」
沖「残念ながら否定できねぇや。俺も同感でしてね」

神「あ。鬼獅子の首を爪でかっきった。あの耳のない猫。そうとうやるアルね。強そうな猫アルね〜」
新「ついに神楽ちゃんが現実逃避始めちゃったよ」

沖「あのひと・・・本当に “全部” 知ってたんだ」



銀「・・・なぁ、なんでみんなそんな目で銀さんを見るのかなぁ?ぎ、銀さん。今回はホントになにもしらなかったんだけどぉ!!!

理不尽だー!!!」









第27話「刀じゃ斬れないものがある」より








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