白と赤色の物語
- 銀 魂 -



19.その陽だまりの思い出に誘われて
第27話「刀じゃ斬れないものがある」より





「白さん!!あなたまた子供たちに変なことを吹き込みましたね!」

こどもたちの楽しそうな笑い声が響く中で、しっぽをパタパタ揺らして縁側でドンと丸まっている白い猫なんかに、“彼”は普段は優しい表情を険しくさせて詰め寄ってきた。


《はは。なんのことやら》
「とある亀は戦って負けると弟子になるとか。わけわからない話のせいで、すっかり信じ込んだこどもたちが戦う亀を探してるんですよ。そんなものはいませんと何度言っても信じないし。いったいどんな話し方をしたらああまで信じるですか。
そもそもあなた猫なんですから、話してるのがばれたら、天人と間違って殺されかねないですよ。少しは自重してください白さん」
《そうさね。ちょいとばかし海が広がる世界には、きっとみたこともない大きな生き物がいるだろうって話をしたぐらいかな》

ちなみにそのとある亀というのは、オレの吹っ飛んだ前世の記憶たちのなかで唯一鮮明に覚えていた――オレの根本ともよべる世界―― 某海賊世界でいたクンフージュゴンのことである。
やつらはたしかに強かった。
そしてあの世界の生き物はとにかく変だった。海王類とかみんなばかでかいし。
本当に変なやつらが多かったなぁ。
それでも悪くない最高の人生を過ごせていたのは、オレの記憶に誓って、間違いないが。

そんなことを思い出しながら先生をからかうようにしっぽで先生をつっついて、猫らしくない自覚のままに口端を持ち上げる。

《そもそも松陽先生。猫がしゃべるわけないだろ》

「いえ、現在進行形であなた、しゃべってます。
現時点で口も開かず思念でもって話しかけてくるあなたが言えた義理ですか。それをしゃべってると言わずしてなんというのです」
《にゃははは。まぁ猫だから口から出るのは「ニャー」がせいぜいだしな。こうでもしないと人との会話は無理だろ》
「無理が普通なんですよ。あなたはしゃべりすぎです」

猫だったオレは、口を開いて出るのは声帯の違いから「ニャー」というなき声だけ。
けれど普通の猫じゃなく長生きして神様的な存在になっていたオレは、テレパシーが使えたのでそれでいつも会話を楽しんでいた。
はじめは松陽先生もこどもたちも驚いていたが、すぐに慣れてしまった。
おかげでこどもたちの認識が、猫はしゃべるものだと間違って覚えてしまたっため、先生があわてて常識をたたきこみなおしてたっけ。

「はー。白さん。面白い物語もいいですけど。ほどほどにしてくださいね。また子供たちが変な認識を持ってしまったら困ります」
《すまないな先生。しゃべることしか楽しみがなくてなぁ》
「猫なんだから、のんびりしていればいいんですよあなたは」
《そうだなぁ。なら先生や》
「はい?なんですか」
《しばしこの白猫と茶をつきあってはもらえないか?》

クスクスと笑いながら猫らしくゴロゴロとのどをならして先生を見れば、彼はそうですねと穏やかに表情を緩めて今へと戻っていく。

縁側に湯呑をもってきて縁側に腰を下ろした先生の横に、オレも腰をおろし気分のままにしっぽをゆらした。
今日はいい天気だと、日向ぼっこをしながら、庭先をかけまわるこどもたちを眺めるのがオレたちの日課だった。








* side 夢主1








『にゃぁ〜』
「わー!猫ちゃんまたきたの?」
「おいかっけこしよう!」
「ニャンコ!触ってもいい?」
『んにゃん』
「きゃー!かわいいいね」
「ふさふさだぁ」

ただいま子供たちに群がられて、なでくりまわされ、半おもちゃ状態になっているオレです。
ここはさびれた寺。
いつからだったか、猫姿の散歩コース上にあったこのさびれた寺に子供たちの笑い声が響くようになったのは。

久しぶりにその道を歩いていれば、いつもは静かな場所から子供の声が聞こえたから、ちょっと覗いてみれば、ひとりの坊さんとたくさんのこどもたちがいた。
その光景が、もう取り戻せない優しい時間を思い出させて、オレは仕事がないときはその寺を覗きに行くようになった。
庭の隅にチョコンと座って、遠くから子供たちとその僧をみていた。
どうやらここの僧は、親なし子をひきとって育てているらしい。
それを何度か繰り返しているうちに、子供たちにみつかり、襲われてなるものかとそのまま逃げた。
でも寺子屋時代を思い出す懐かしい光景に心がホカホカして、ついまた顔を見せれば、こどもたちがすぐに気づき、こちらにせまってきた。
そうなってしまえば、何度か逃げることを繰り返しているうちに面倒になってきて、いまでは猫姿でたまに子供たちと遊んでいる。むしろ子供たちにかまわれている。
撫でるのがうまい子はうまいんだよ。
それにオレなんかを撫でるぐらいで満足するなら。それで少しでも親をなくした子らの気持ちが晴れるなら、それで構わなかった。
けれどここには金はないらしく、僧がせめてなにかあげられればいいのだけどとご飯をくれようとしようとしたり、子供たちがオレを飼いたいと、そういう雰囲気になるときは、逃げることにしてる。ただでさえ子供たちの面倒で大変な彼にオレごときの飯のことに頭を悩ませないでほしかったからだ。
オレは人として仕事もしてるし、職についてるから金はある。猫であれば、どこかさまよえばきちんともらえる場所ではもらえる。
だからここの人間たちには、飯はいらんとアピールをしていたら、その意図を読み取ってくれたように僧が苦笑をして賢い猫だなと、それ以降、オレに何かを与えようとはしなくなった。





―――そこにいたのは、本当に、ただただこの光景が懐かしかっただけだったんだ。









第27話 刀じゃ斬れないものがある








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