白と赤色の物語
- 銀 魂 -



17.いつか夜が明けたら
アニメ第18話「ああ やっぱり我が家が一番だわ」より





―――・・の


ほら、親父殿!
こいつようやくあなたの料理の腕に一歩近づいたってもんです!

『いや、近づいてないから!まずいよ!もっとみりんを・・・って』

おい、まて!それは酢だ!!


はは!みてください!親父さん!!
わらいましたよこいつ

『よかったなぁ 本当にめでたいや』
『うん。いい子にめぐまれたなぁ』


ねぇ、 親父さん

みましたか?
みてくれましたか?



おやじどの

 おやじさん



ねぇ、親父殿。
戦争が終わったら――――に

『なれるさ、おまえなら』

親父さま!きいてくださいよ!


――――親父さん・・・。





『ああ、きいてるよ。ちゃんと。ちゃんと聞こえてる。

だからどうか――』








* side 夢主1








あの珍事が起きる前。

オレは夢を見ていた。

それはきっと今日の陽だまりが温かったせい。
きっと、きっと。そう。
あんな夢を見た原因なんかわかりきってるけど、でも縁側があまりにもここちよかった。
そのせいにしてしまいたい。

なにかのせいにしてしまい。

―――そうせずにはいられない、優しい夢を見た。





**********





『だからどうか・・・』

「土方さん?どうしたんでさぁ?」
『へ?』

なんだか、懐かしい夢を見ていたようだ。
名を呼ばれ、笑いかけてくるたくさんのだれかに手を伸ばそうとしたら、目の前には相変わらずやる気のなさそうな顔をした総悟がいた。
ん?ちょっと違う?なにかを心配してるようにも見えなくもないか。
どうやら縁側で休憩を取っていたらそのまま寝入っていたらしい。
きっとやるきのない顔でかくしてはいるものの、こんなところで寝ていたのを心配してくれたのだろう。

ほら。総悟のその手が、オレの手を握っている。

『は?』

にぎって、いる?
なんだそれ?

オレ自身の腕を持ち上げれば、なんだかしっかり握られててそのまま総悟の腕がついてくる。
否。オレがあいつの手を握って離さないでいるようだ。

ん?なんだこれ?
どういう状態だ?

「仕事休みに外に出たっきり帰ってこないかと思えば、居眠りですかい?今日は陽気がいいですからしょうもねぇですが。寝るなら布団で寝た方がいいですぜ」

総悟が己の腕をひけばくいっとオレの手もつられて動く。

「そろそろ離してくれやせんかね?」
『は?』
「これ」

オレが握っている手を示した総悟に、どうやら寝ぼけてオレが総悟の腕をつかんでいたのだと知る。
気付いて、『わるい』とあわてて手を離す。

寝てしまったのか。
夢まで見るなんて――。

・・・そういえば、どんな夢を見ていたんだろう。
なにかに呼ばれていたような?

いや、まてよ。呼ばれていたならなぜおれが手を伸ばすんだ。
あれ?オレから手を伸ばしたの?
意味不明だ。

まぁ、いっか。
しょせん夢は夢。
たいしたことがないから忘れてしまったんだろうし。















「・・・はたして全部の夢がそうとは限らねーんじゃないでかねぇ」













仕事があるから早く起きてくれと言われて離れていった――手。

なんだかひっかかる。
それはたぶん温もりが離れてしまったから?

うーん。肌恋しいなんて、やっぱ、夢にひきずられてんのかねェ。
とはいえ、もうどんな夢かも覚えてないんだけど。

しかたねぇ。総悟の言うとおり布団で寝よう。
少し仮眠した後に、今度はちゃんと仕事をしよう。

どうやら書類仕事は相変わらず山のようにたまっているようだし、総悟にまたどやされるのは面倒だ。



そう思ってたのに。
ふと気付けば、せかしていたはずの総悟がいない。

足を止めて周囲を見渡せば、総悟はオレよりずっと後ろの方で立ち止まっていて、睨むようにどこか遠くを見つめている。
それに首をかしげるも、仕事がたまってると言ったのはお前だと、今度はオレが総悟をせかす。

『どうした総悟―。いくぞ』
「いま、いきまさー」

はてはて。総悟は何を見ていたのだろう。



パタパタとおいついてきた総悟のオレからは顔一個分くらい(?)下にある茶色の頭にポンと手を置きくしゃりとなでる。
おりょ?今日は抵抗しないなぁ。


っと、思ってたら。


「土方さん」
『ん?』

総悟が真剣な表情で顔を上げた。
そして―――


「あそこにこんなものが落ちてたんですが」


どうやらその“なにか”が彼の視線に留まったようでそれを取ってきていたらしい。
そうして渡されたものに――。

オレは固まった。



そのとき。
総悟がニヤリと笑っていたのは、気付けなかった。





**********





最近のオレは白い鬘をかぶっている。
とはいえ、色は赤く染めてしまったので、《白い》ではなく《白かった鬘》というべきだろう。
昔を知る真選組の奴らは喜んでいたけど、実際はその鬘のしたが大変なことになっているので、しかたなく鬘をしているにすぎない。
断じてs誰かを喜ばせようとしているわけではない。

「ああ、ゆれるポニテ!なつかしい!!」
「ぽにてー!!!萌えだ!!」
「白い頃が良かったぁぁぁぁぁ!!近藤さん後で写真の焼き増しをぉぉぉーー!!」
「いや、いみわかんねぇッス」
「え。副長ぉ!?なんで長いの!?」
「てめぇらはしらなくていいんだよ!あれは武州からくっついてた俺らの特権だ!!」
「赤く染めるなんてついに副長も垢抜けましたねー。いや、十分似合いますけど」
「あれ。おめぇ、しらねぇのか。あのひと、髪染めてたんだぜ。黒に!地毛が赤なんだぜ!」
「え!?じゃぁ土方さんって天人!?」
「んなわけねぇだろ!バカ!」
「っていうか染めるのをやめたら、髪っていっきにのびるのか?」

アホですね。アホの会話が聞こえる真選組です。
白いオレをしっている彼らは、オレの今の地毛が赤いこともその理由も承知している。
だから髪が黒だろうか赤だろうが白だろうが何も言って来ない。
かわりに真選組の隊の仲間からは、髪の長さの方を気にされた。
もちろんこれは鬘ですがね。
本当に髪が一気に伸びたならよかったんだがな。
残念ながら伸びなかったから、それをかくすために偽毛を装着してるわけで。
ってか、急激に伸びたら怖いわ!

そもそもなぜカツラがひつようかというと、しばらく前にチャイナに髪の毛を斑にむしられてしまってまだ生えてこないんですよ。チクショー!
顔だって定春にかまれたような歯形があるから左半分を包帯で覆ったままだし。
山崎の変装道具はよいのがなく、しかたなく以前使ったパーティー用の鬘で代用してるわけだ。

ちなみに今の地毛が赤いので、鬘の隙間から赤色が見えた時の言い訳が面倒で、鬘は赤くそめられているわけだが。
白い鬘が傷んだらイヤだからと、総悟に「これをつかって染めてくだせぇ」とわたされた染粉を使っている。今度のは水をぬらしても落ちなくなったんだけど――この江戸時代もどきに、いったい何が入っているのやら。超気になる。
どうでもいいけど。

とりあえずオレは、赤くて長い髪を頭部でくくっている―――鬘だけどさ。
顔は包帯。
ちょっとこの包帯の巻き方だと高杉晋助と間違われかねないかね。まぁ、髪が長いし、色が赤いからそれはないか。


そんな感じでここ最近は、騒がしい日常を過ごしている。
ポニテー!と叫ぶ隊士共はなんだかちょっと鬼気迫る何かを感じたので、全員殴り倒した。
そのあとでいつもの倍の仕事を与えて、身動きが取れないように黙らせた。





っで。そのオレがなにをしているかというと。

転寝後に総悟によって渡された“物体X”の処理に困っていた。
さぞや世間の女性の皆さんは怒り心頭だろう。
犯人はわかってる。
最近話題の也痛の仕業である確率が高い。

もちろん落し物として保管しておくべきかとか、“それ”を置いていたやつをさがすべきかとか。まぁいろいろ考えた。

なんとなく最近の真選組の奴らの様子を見るに、“ほどこし”を受けた人間はたくさんいるのだろうと、いただいた“ほどこし”らしきものの処理をどうしているのか聞きに行こうとして。
予想以上に“ほどこし”を受けた奴らが、真選組内にあまり多くて、呆れが上回った。やっぱり真選組って、第三者から見てもむさくるしいのだと知った。


『山崎、お前か』
うっそぉ!?まさか副長までぇ!?

『やれやれ。屯所全員かよ』

ことの犯人については、たぶん今から調べるよりも報道陣による特集が組まれたTVや新聞が効率的でいいだろう。
情報を集めるために最近の新聞を読みながら、一番に“ほどこし”をうけそうな近藤さんを探していたら、“ほどこし”を手にしていた山崎と他数名の仲間と出会った。
これで全員ですね。

みんなが手にしているカラフルでレースなものをみて、なんだか不安になった。


『嫌な予感がする。近藤さんを探すぞ』


近藤さん、お妙さんのストーカーだからなぁ。へたすると今回の犯人の同類と勘違いされかねない。

情報収集代わりに買った新聞をもう一度見て、ため息をつく。



―――またも出没!怪盗フンドシ仮面!!


赤い褌を頭にかぶって、ブリーフ一丁で待ち駆け抜け、綺麗な娘さんの下着を盗んでは、それをもてない男にふりまく。

なにこの変態。

そんでもって、なぜに真選組のやつらの多くに女性の下着をほどこしやがった。
おかげで今うちの屯所は「おれはもてないんだ」とマジ泣きしてて、とことん仕事がすすまない。違う意味で暴走する奴もいるんで、いろんな意味でフンドシ仮面には男のロマン追うのやめてもらえませんかね。

かかわりたくないけど・・・。
こっちに被害が来る前に変態を捕まえるか。

いやね。本当にかかわりたくないけどさ。
うちの署が崩壊する前に何とかせねばなるまい。





*********





オレ、別に自分がもてない男だって認定されても気にもならないんだけどさ。
人間やら動物やらいろんなもんに転生しまくっては長生きを続けた結果、もう性別とかあんまりこだわりもないし、自分が人なのかそうでないかもいまいちわからなくなってきている。
むしろ自分が女性と男性どちらに恋をすればいい生き物なのかわからないから、もてるもてないとかはっきり言って興味ない。

綺麗なお姉さんや美人が好きなのは、見苦しい男どもといるより空気が華やかだし清潔感あるし、一緒にいて話が弾んで楽しいからに過ぎない。

オレにとって現代の鼠小僧なる変態に“ほどこし”を受けたということは、オレという存在は第三者からは“そう見えた”のだろうと、その程度を認識するぐらい。
もらったときは、その“もの”に激しくビックリしたけどな。
だってパンツだぞ。ふりまかれるのは、誰かの下着とかねぇ。オレじゃなくてもびっくりだろうよ。



そんなわけでその変態と間違われて近藤さんが捕まらないようにと。
近藤さんをさがしていたら、その彼にストーキングされているお妙さんが、チャイナとファミレスからでてくるのがみえた。
お妙さんがいるなら、まだ近藤さんはファミレスの中だろうかと、中に入っていけば。

眼鏡君と銀時がいた。


「どうすんですか銀さん!最強コンビがユニットくんじゃったよ!」
「ほっとけよ新八ぃ。星の目星はもうついてるだろ」
「え。いったいだれ」

「あ、ばれちゃった?」

「!?」

大きな声が聞こえたのですぐに彼らの姿を発見できたのはいいのだが、声をかけようとして思わず止める。
脚もぴたりと動かなくなる。

「あれ。いたのばれちゃった?」

銀時の座っているボックス席の下。
ゴリラがまるまっていた。

「でたゴリラ!まさかあんたが姉上の下着を?」

「なんだー!!!まさかおれをうたがってるのか貴様らー!」

眼鏡君のつっこみに、近藤さんが叫び返してるけど威厳はない。
むしろその体制も変なこと叫ぶのもやめてほしい。

お妙、きっとあそこに座ってたんだろうな。
っで、近藤さんが相変わらずのストーキングをしていたと。
そういうことだろう。

眼鏡がひいた。
それに机の下にいた近藤さんが勢いよく飛び出ようとして、「ぐわっ!」っとそのままテーブルに頭を打ってうめいていた。


・・・やだ、なにこのカオス。


あれが自分らの尊敬する人物と同じだと思いたくない。
よかったー。オレ、いま、近藤さんと同じ制服じゃなくて、黒い着流しだ。
うん。他人のふりができそうだよ。

っと、いうか動くに動けないんだけど。
物凄く恥ずかしい会話を大声でしちゃってくれてるせいで、ウェイトレスさんは笑顔で彼らの席から遠ざかっている。あの営業スマイルすごすぎる。
他の席のひとたちも興味深げに銀時たちの席を見ていて、それに駆け寄ろうとしたまま固まるオレにも視線が凄い。
も、もうだめだ。状況的に関係者拒否できネェ!?

「侍が下着泥棒なんて卑劣な真似するわけネェだろがよ!!」

テーブルの下から這い出てきた近藤さんが叫ぶ。
それにもうなんか物凄い白い目で銀時が続く。

「侍がストーカーなんてするわけねぇだろうが」

「ストーカーはしても下着泥棒なんかするか!訴えるぞ貴様!」

ストーカーはするのかよ!?
・・・近藤さん。あんた真選組だ。まがりなりにも警察組織の一員であると自覚してくれ。伊豆から犯罪者発言をしないでくれよ。
これが上に報告言ったらどうすんだよ。

「うったえられるのはテメェだ」

ストーカー被害者たるお妙の実弟である眼鏡君の冷すぎる声音が、被害のおおきさを物語るようだ。明るいいつもの彼とは異なるドスがきいいた口調は、まさにあのストーカーにほとほとうんざりしてるのだと言っているようなものだ。

「これで真選組解体か?いや〜めでてぇな」

ゴツッ!!

『だまれ銀』

たしかに近藤さんは一度ホレタら盲目なまでにそれしかみえなくなるようなストーカー癖あるけど、【真選組解体】って言葉は聞き捨てならねぇ。
ストーカーをいたぶるつもりでニヤニヤと笑みをたたえていたのだろうが、銀時といえど、真選組を馬鹿にするのはちょっとばかり許せなかったので、その銀色の頭をはたいて黙らせる。

「トシぃ!?」
「あ、シロウさん」
「いつっー!とうちゃ、じゃなくてシロウ!?なんでこんなところに」

オレが乱入したことで、ようやく近藤さんたちがオレの存在に気付く。

近藤さんはオレをみたとたんワタフタとして、言い訳を探すように周囲をきょろきょろし出して挙動不審になったことから、オレがちょっと怒ってるのは理解してもらえたようだ。
うん。よぉく、わかってるようだなこのやろう。

とりあえず。殴った勢いのまま頭をさすって涙目になっていた銀時の頭をガシっと押さえこんで、無理やり近藤さんにむけて頭を下げさせ謝罪させる。

『うちの息子が暴言吐いたようでもうしわけねぇ』
「え。あ、そっち?うん、いやそれは別に。か、解体なんてさせないし!」
『ああ、うん。解体は“オレが”絶対ぇにさせねぇよ』

ごめんなさい。とふてぶてしくいやそうに棒読みで告げた銀時に、すぐに頭から手を離す。
謝罪はしたな。
では、次にいこう。次が本題だ。

『――っで?局長。あんた、そこで何してやがる?
あぁん?ハッキリさくっとわかるように簡素に40文字以内で言ってくれないかなぁ?包帯なんかしてるせいか、どうも最近耳が聞こえずらくていけネェや』
「と、トシ!待ってくれ!これには事情が!!」
『問答無用!お妙からすでに被害届が出てんだよ!』

「うわー。話を振ったのに話聞いてないよシロウさん!?むしろその拳はなにぃー!!もう殴る気満々?!」


だが。

眼鏡君のと言うとおり、これはここまでだ。
銀時から手を離すとオレは、拳をバキバキ鳴らす。
準備運動だ。

「お、おちつけトシぃ!?」
『あ゛ぁ?オレはおちつてるぜぇ近藤さん。
そういうあんたは真選組の仲間を路頭に迷わせたいのか?あんたこそ落ち着いて日頃の行動を振り返ってくれや。オレはな、このフンドシ仮面同様におたくも捕まると思ってはらはらしたぜぇ?おいおい逃げないでくださいよ局長。っで?ナニしてやがったこの糞忙しいときによぉ?』
「ひぃー!!!!」

「こわっ!?こわすぎる!さすが《鬼の副長》だ。むしろ背後に阿修羅がみえるんですけど!」
「父ちゃん。そんなゴリラやってしまえー」


オレはいま激しい憤りを感じているので、拳をバキバキ鳴らしながら、勝手に持ち上がるっていくがままに口端を持ち上げ、近藤さんに一歩。一歩と近寄る。
オレ、笑ってるつもりんなんだけど。たぶん眼鏡が言うような怒り心頭と言った顔してるのだろう。
そんなオレに近藤さんは顔を青くさせて、新聞をふってこれが原因なんだと訴えてくるが、その新聞ならさっき読破したばかりだ。
近藤さんから新聞紙をひったくると、オレはそのままそれを破りすて、近藤さんのもとまで一気に距離を詰めるとその詰襟制服の胸ぐらをつかんで、足を一かけ、クルリと身体の向きを変えて――

あんたのその行動が真選組を脅かしてんだぁ!!

そのまま背負い投げでもって地面にたたきつけた。
ドスっーン!!という地響きにも近い音がして近藤さんがあおむけで倒れ伏す。
ピヨピヨと彼の頭の上でヒヨコが回っていて、あまりの衝撃に目を増している近藤さんに、腕を組んで仁王立ちのままにオレはフンと鼻を鳴らす。
ああ、見下したように聞こえたら大変。でもどうしようもないだろう。このひとのお妙さんへのアプローチの異常性は。

「うわーあのゴリラを一撃で」
「あー、まぁ、土方君だからな」

『おら、行くぞ銀。眼鏡小僧。飯代は払ってやるからついてこい』

怒りゲージが完全に下がりきらぬままにオレは気絶している近藤さんの首根っこをつかんで引きずると、呆然としている眼鏡と、それが当然とばかりにヒョウヒョウとしている銀時を連れだって店を後にした。

いや、だって。あそこまで大声で変な会話をして、あげく騒動を起こしたんだ。
いずらいだろうに。

はぁ。やっぱり面倒なことになってしまった。
これもあれもすべて、フンドシ仮面のせいだ。
あんな変態が世に出なければ、近藤さんのストーカー行為もまだめだたなかっただろうに。
現にオレが来る前に、お妙のパンツをとった疑いが近藤さんにかけられていたし。


とりあえずさ――



『近藤さん、銀。その懐からはみ出している“ほどこし”はしまうかどうにかしろ。
テメェら二人そろってもてないアピールしてんじゃねぇよ。
そのまま歩き続けたら・・・』

ニヤリ。

『オレがテメェらを下着泥棒としてしょっぴいてやる

それも顔の原型がのこらないようにぶっ潰して、身元が証明できないように小細工してから、捕獲してやるがな。

身元は絶対証明させない。
真選組をつぶさせねェためにな。


変態とフンドシ仮面は、オレが捕まえる。ってか潰す。
完膚なきまでに。
その心、根っこからすべてぶち折ってくれるわ。
毛根一本残さずなぁ。

『くっくっく』
「「「!!!!?」」」





**********





なんやかんやで眼鏡君の道場で、モテナイやろうどもがあつまり、お妙のパンツを餌にフンドシ仮面を捕まえることになった・・・・・・らしい。
そんなわけで複数の隊員をともない、万屋一同と、お妙と、近藤さんと、オレは、志村兄弟の道場にきている。
もてるもてないに興味のないオレがなぜ参加してるかって?
いや、モテナイ認定されたことをうらんでとかじゃないぞ。
そうじゃなくて

『つぶす。つぶすつぶすつぶすつぶすつぶすつぶす……ぶったぎる!!

「「「「こわっ!!!」」」」
「土方さん、瞳孔開いてまさぁ」

フンドシ仮面なんてくだらないもののせいで、オレが守ろうとするもんが奪われかねない。
有り得ないよ。
ああ、有り得ないとも。
フンドシやろうごときに、真選組をつぶさせはしねぇ。
どんだけオレたちが幕府から信頼を得るために苦労してきたと思ってやがるあのクズが。

「なんでそんなに怒ってんのトシぃ!?」
「きっと連想ゲームじゃないすか?」
「は?」
「たとえばでさぁ《フンドシ仮面》をもとに土方さんの脳裏で、《変態》とつながったとしやす」

フンドシ仮面
 ↓
変態
 ↓
世間の迷惑
 ↓
ストーカー
 ↓
近藤さん
 ↓
真選組のドン
 ↓
上に近藤さんの醜態がばれる
 ↓
真選組の連帯責任!?

「たぶん今、ココら辺なんじゃないですかね。
土方さんの脳みそんなかは、《近藤さんイコール真選組》って方程式が常にありやすから、そのまま連想は続いて、近藤さん=真選組=近藤さんの醜態=上からのおとがめ=真選組解体―――――とか。あのひと頭固いくせに、変なところで柔らかくて、妄想たくましいですから」

オレが言うのも何だけど、まさにソレである。
なので、さっきからお妙を見ては鼻の下を伸ばしたり鼻血出してるゴリラを激しく睨んでるわけで。
変態を捕まえるまで気が済まない。っと、いいきれるまでにオレの憤りはマックスなのでした。

加勢するぜお妙!
そうして眼鏡の家の道場が、決戦の地となった。





戦争だ!と薙刀の稽古をしているお妙。風を切るような速さで捌くそれは、たやすく藁を寸断する。・・・物凄く斬れていた。
まじで、物理的に斬れていた。

そんな彼女の怒りに賛同して、真選組の野郎どもがはりきって鍛錬を始める。

どこから持ってきたのか、地雷を持ち出し爽やかな笑みを浮かべる総悟。
それを計画性もなく埋めていくチャイナ。
穴を掘る銀時、真選組の隊員。
なぜか甲冑を身にまといバトミントンラケットを手にしてガショコンガショコンと歩く山崎。


『・・・・・・』

なんか・・・。
あいつらみてたら、頭が冷めてきた。

チャイナは戦闘民族夜兎だし、お妙はガシャガシャしてる山崎より機敏だしたぶん強い。
銀時や総悟も言わずがな。
なんか、オレ、いらなくね?

無差別に攻撃する気なのか、そこらじゅうに埋められていく地雷の位置を確認するために、塀の上に腰を下ろしていたオレは、思わずため息をつく。
マジで地雷の位置把握してんのオレだけじゃねコレ?


地雷設置もあらかた終わり、その他の仕込みも終えた頃。
オレはいざっていうときのことを想定して屋根に近い塀の上にいた。
上から変態野郎がきたら奴を地雷原にたたき落とすつもりだった。

一仕事終えたお妙たちは、隠れてるつもりなのか、そのわりには声の音量は抑えてないしギャーギャーと喧嘩みたいに騒いでいる奴らは、庭の隅の方の木陰に潜んでいるのだが、上から見ると丸見えだ。
あれに参加するほど若くはねぇなぁ。

あ、飲み物を買いに行こうとした近藤さんが地雷を踏んで爆発した。
はじまるまえからボロボロって。あんた、ソレでいいのか!?

そういえばあからさまに罠ですとばかりにつるされているお妙の下着がゆれる――その廊下。あそこの床にも地雷が設置されてたけど、オレがいるような屋根の上とかにはしないんだな。
まぁ、山崎達隊員が屋根の上に潜んでいるみたいだけど。
・・・あの鎧で機敏に動く怪盗に勝てるのか?


っで。案の定、やつは屋根から来た。
マッチョな爺さんだった。
オレより身長が高かった。本当に日本人かよ?

あいつは庭に仕掛けがあることを知っていたらしく、屋根からさっそうと登場した。
だがそこは、屋根の上で待ち構えていた真選組の隊員がねばった。
戦闘が始まったらその隙をついて、奴の背後に回って一撃食らわそうと思っていたんだけど――

なんと山崎のミスで真選組は全滅。しかも自滅だった。
おかえげでオレは刀を持ったまま動けず、呆然と仲間を見送っている間に、フンドシヤロウは「とう!」とかかっこつけて赤フン風になびかせ屋根から降りてしまった。

しかし彼が着地したのは、地雷のある廊下だ。
もちろん

ドッカーン!

廊下は爆発炎上した。
それによってボロボロになった変態だったが、爆風でふきとばされたお妙のパンツを瓦礫からはいでてキャッチするしまつ。なんていう変態根性だ。最低だな。

そこへ我らが局長近藤さんが現れ、地雷にやられつつもフンドシやろうを押さえるなんてかっこいいところをみせてくれた。
その間に、銀時が木陰から飛び出し――

あいつも地雷を踏んだ。

さらに第2陣とばかりに、お妙がとびだし、くろこげになった銀時を踏みつけて、フンドシやろうに斬りかかった。

オレはというと

『本当に出番はなさそうだなぁ』

とは呟いてみるものの、ニッコリと笑顔で、手にしていた抜身の刀から手を離した。
なお投げつける要領でやったので、加速は加わって、刀は見事な垂直落下を決めてくれる。

塀の上から屋根の上に移動し観戦していたが、お妙が飛び出したところで、手にしていた刀の柄から手を離すことで、刀はそのまま垂直にその刃は獲物を確実にしとめる。
動きを封じるようにしがみついていた近藤さんを蹴り飛ばしたまちょな糞爺は、瓦礫の中から立ち上がろうとして――

ザクリ

『あ、わるいわるい。下に変態がいるなんて気付いてなくてなぁ』

手がすべちゃった☆

ニコニコと笑顔で手を振れば、全員の視線がオレに向けられる。
刀はフンドシ仮面の顔数mmズレてザクリと地面に突き刺さっていた。
うん。はずれなし。
殺すつもりはないからおどしだけど、ねらいをずれていない。オレからの大量の怨念は込められてるけど。

顔をかすったフンドシ仮面の頬に赤い線が走る。

「「「「土方さぁんん!?」」」」」

その場にいた皆さんが顔を青ざめ指して、屋根の上のオレにヒィヒィ言ってる。
頭は冷えたが、怒りは収まってないんだ。
殺さないでいたやっただけありがたいと思ってほしい物である。
むしろ仲間なのに、きみたちオレをみて怯えないでくれないかな。はてしなく困るじゃないか。

「あら。足止めありがとう土方さん」
『いえいえどういたしまして?あとの恨みは、まぁ適当に?』

刀が降ってきたことで思わず動きを止めたフンドシ仮面――たぶんオレに殺されるとでも思たのだろう。顔が恐怖に引きつっている――に、お妙は容赦なく斬りかかり、そのまま奴は「下着が手にない」とかわけわからないことを決めポーズつきで叫んで倒れた。
御用である。

もちろん変態なんか触りたくないから、下着を盗まれた女性代表お妙が恨みをこめて簀巻きにしていたのにまかせることにする。
キラキラと目をかがやかせてお妙をたたえる子供たちが駆けてきたが、やはり地雷を踏んだ。
本当にあいつら自分が埋めた地雷位置を把握してなかったようだ。

あのあと道場でやたらと爆発が繰り返された。
うん。やっぱりオレの出番はなかったようだね。



『あーあ。月がきれいなだねぇ』

この場に集まった者達の悲鳴と爆音が聞こえる中、空には無駄に綺麗ででかい月が出ていた。
明日は・・・っというより、しばらくすれば、月が太陽になっていた。
もう夜が明けちまったじゃネェか。
お妙が心配していた通り、朝早くにやってきた新聞屋さんが爆発にまきこまれていた。
余談であるが、我が家に新聞屋さんが届けに来るのはきっかり3時である。





『なぁ、ひとついいか?なんで真選組だったんだ?』

触りたくないから隊員にヤロウを連行させた。
連れてかれるとき、真選組壊滅の危機まで追いやるほど士気を徹底的に下げてくれたその理由を何気なく問えば、おや?っと思う回答が戻ってきた。

「もっともむさくて色気がない場所だったからな。あんたとそこの茶色いの以外には魅惑のパン」

ふぅん――“以外”ね。

あれ?オレでもほどこしもらったよなと、それに疑問に思って首をかしげる。
さらに質問をしようとしたら、薙刀が一閃。

ドゴ

うせろ変態が
『ネェさんよ。尋問中だったんだが』

疾風のごとき速さで閃光が走ったかと思えば、目の前にいたフンドシヤロウをお妙が薙刀でふっとばしていた。

「ぐふ・・・なんて一閃。だが、パンツを盗んだことに後悔はしまい!!」
「っちぃ!まだいしきがあったかこの蛆虫野郎が!!」
「ああ!お妙さんに舌打ちされるなんてなんてうらやましい!そんな勇ましいお妙さんも素敵だ!」

『・・・あんたもあれをくらってこい』


その後、案の定と言うかなんというか。お妙さんに飛びつこうとした近藤さんが、ブチギレモードの鬼となったお妙に成敗されていた。

ああ、変態2名の意識はなさそうですね。

んー。ま、いっか。
どうせ近藤さんだってすぐに目を覚ますだろうし。
これにて犯人逮捕で、下着やら男の浪漫がどうのという事件はなくなるのだから、 しばらくしたら真選組の士気も戻るかもしれないし。


『・・・とりあえず連れてけ』

なまじ体格がいい爺さんだったから、真選組の野郎どもより身長が高い。逃げられないようにと二人ほどでやっこさんを抑えるようにして、ひきずってどこかへつれていく。


御用になった奴とした奴らが去っていくのを見送りつつ、お妙の方をみると、「あースッキリしたわぁ」とニコニコと綺麗な笑みを浮かべていた。
昨日のヤクザも怯えるような性格と口調はどこへいったのだろう。
美人に素敵な笑顔はとてもよく似合うが、その手に握られている刃物に一部赤色が付着してるのは


――――――――見なかったことにしておこう。



そうして夜も完全にあけた頃に、フンドシ仮面による事件は幕を閉じたのだった。




















【後日談】

夢『それにしてもなんであそこに“アレ”があったんだ?』
沖「すみません。実はあのパンツ置いたのオレでした☆」
夢『・・・あー。そう。テメェか総悟。っで?』
沖「はい?」
夢『おまえ女装趣味でもあんのか?どうやって買ったんだよあんなもん』
沖「買ったって断言するんすね」
夢『いや、最初は盗まれたのが置かれていたのかー。とか。それとも風で洗濯物が飛んできたのか。まさかのまさかで、露出狂の誰かが忘れていったか。
とか。いろいろ考えたがな。
いや。でも、下着なんか名前もなければ、落とし主に返しにいけるような落とし物じゃなかったから、渡された後の対処に困った』
沖「おこらねぇえんで?
っていうか、なにパンツごときでそこまで真面目に考えてるんですかい!?そういうところが頭が固いって言われるんですぜ。
むしろ最後のはなんなんすか最後のは。・・・露出狂って。あんたの脳みそんなかが一番ヤベェっていい加減気付け」




沖「ところで土方さん」

夢『ん?』
沖「こないだ、何の夢見てたんですか?」
夢『ああ。あれ。今更言われてもなぁ、あんなインパクトある事件のあとじゃぁ夢見たことさえ忘れてたな。なんだっけか』

沖「・・・本当に?」

夢『さっきからなんだよ総悟』
沖「あんた、本当に今の夢を忘れちまったんですかい?」
夢『もしかして寝言で何か言ってたとか?そもそも夢なんか見てたのかオレ?』


沖「・・・・・・せめて“こわれる”前には思い出してくだせぇよ」


夢『だからなにがだ』
沖「さぁ?俺がしるわけないじゃないですか。あんたの夢なんか。

あんたの夢は、あんただけのものでさぁ」





壊れる。乞われる。請われる。恋われる。

――“こわれる”――









アニメ第18話「ああ やっぱり我が家が一番だわ」より








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