白と赤色の物語
- 銀 魂 -



15.お祭り騒動・下
アニメ第17話「親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ」より





 -- side 夢主1 --





はいはい。ただいま制服カッチリ着込んで、警備に熱をいれてる真選組の副長さんですよ。
広場の舞台では、美人な和服女性たちが綺麗な踊りを見せてくれてる。
いや、とくに興味ないけど。
そういえば総悟が厠に行ったきり帰ってこないのを近藤さんが気にしてる。
・・・あいつ、どうせサボリだろ。
そう思ってたら、仲間を疑うなと近藤さんに諭された。
近藤さん。あんた…あいつをしらなすぎる。
あのダル〜ンを生きがいとするドS星の王子は、まじめにお仕事しない人です。

むしろオレてきには、山崎が気になる。
おかみがさ「たこ焼き食べたい」というので山崎に買いに行かせたんだ。
あとオレたちのぶんの夜食も。
だから総悟の便所がどうのとかよりも、はるかに山崎の帰宅が遅いことの方が気になるわけだ。当然だろ。

オレ、顔には出さないけど。
真面目なふりして、オレが考えてることは夜飯のこと。
だって腹減ったし。

どうせ櫓だか何だか高みにいる将軍様だって座ってノンビりなんか食ってんだろ。
オレも腹減ったよぉ。
せめて握り飯でも作ってくればよかったかと思うけど。
いやね、もちろん普通に人数分作ってはきたさ。
だけどな。ちょっと警備の方の準備してたら、普通に忘れたし。
今頃屯所の食堂にドンと置いてあるにちがいない。
夏だから腐らないといいんだけど。

うー・・・山崎まだかなぁ。
腹へったなぁ。腹へったぞー。
お腹もぐうって音立ててないけど。
そろそろなんかくいたくてしょうがねぇ。
だって祭りだよ!?いい匂いが漂ってんだぞ!!
腹減った〜。


山崎まだかな〜。
あと少しでお使いに出てる山崎が帰ってくる・・・ハズだ。
だから待ってるのだ。
期待して待っていたりするんだけどオレ。

さすがにずっと警備してるのも小腹がすいてくる。
だからお使いついでに、オレのお願い事も兼ねてくれとばかりに、頼んだ。


「副長―!買ってきましたー!!」

おお!!待ってました!


・・・・

って。あれ?
箱を開けたらたこ焼きは三つしか入ってなかった。

ナンダコレ?


山崎を見れば、報告とばかりにピンとした背筋を伸ばして。その姿勢はたしかに尊敬に値するほどまっすぐでいいが・・・

「実は急いでたんで途中でぶちまけちまって。すいません。山崎退一生の不覚。
あ、でも副長の晩飯は半分は無事です!」

そうして渡された紙の容器には、お好み焼きのようなものが半分・・・。
山崎の口の周りには青のりのとソース。

ついでにいうと、イカはどこだ?

オレの。
イカは?

『なにが。一生の不覚だって?
てめっ、なんだその口の青のりは?ええ?言ってみろよ?』
「!?」


快く買ってきてくれるという山崎に《イカ焼き》を頼んだら、山崎の奴、粉の方の《イカ焼き》を買ってきやがった。

しかもあきらかに食べた痕跡がある。
食いやがったーーー!!!


横で近藤さんが、あきれたようにオレに「またイカか。イカはよせと言っただろうに」とか、顔をしかめてくる。
何を言っている近藤さん。
焼いたイカほどうまいもんはないだろ!?
ただの猫の時には食べられなかったそれは、《土方十四朗》になってからは具合も悪くならず食べれるようになった。
そのときの感動を忘れられるものか。
あのときの醤油がキラキラ落ちる芳しいにおいの食べ物を。
ああ、あのときの一口目のなんと美味かったことか。

お祭りぐらいでしかイカの焼いたの売ってないんだぞ!じゃなきゃ、つくらないとない。
それをこの場で食べずしてどうするんだ!?


だが、期待を裏切るように、このパックに入った《イカ焼き》の残骸には、どこにもイカがいない。
当然だ。これは《イカ焼き》という名の粉ものなのだから。
具はイカではない。

オレの楽しみがぁ〜!!!!そう嘆いて叫んで暴れたもいいはずだ。
だが。これはない。
食べかけだし!!


むしろおかみへの献上品(たこ焼き)も量がへっているときた。
どうすんだよこれ!?

山崎の口周りにソースついてるしヨォ!!!


『ヤ〜マ〜ザ〜キィ〜〜〜!!!!!!』

「ひぃ〜!!!こ、これは自分がかったお好み焼きの青のりで!!」
『そんな言い訳通るかぁ!!』

「なぁ、トシ。くわんのならくれ」

ぐぅ〜っとなる腹を押さえながら視線を向けられ、このまま山崎に投げつけてやろうと思ったものを投球するのはやめて、かわりにボールでも投げるような勢いで近藤さんに押し付ける。
嬉しそうにパーっと花を咲かせたゴリラが目の前にいました。


それには一瞥もむけず、すぐそばにあった―― 近藤さんのベルトをひっこぬき、それをハンマー投げの要領で、今にも逃亡しようとこちらに背を向けていた山崎に向かって投げつける。
怪我はさせネェ。
そういう性分だからなオレは。
狙うは足ぃ!!
ボウリングするようによこなぎするよになげつければ、ロープのようにベルトはみごとに奴の足にからまり、山崎は急なことに対処できずそのまま顔面から転倒した。
ベルトが脚にからまってもがいている奴のもとへかけより、逃げられる前に捕獲する。
オレをみた山崎がとんでもない形相をして地面を張って逃げようとするその姿は、まさにゴキブリのようで、なんだかさらに怒りがわいてきたので、嘘を謝罪し金を払ってもらうことで妥協する。

ハーッスキリした。



「トシ・・・」

なんだ。説教なら御免だぜと振り返れば・・・

『すんませんでした!!』

手に《イカ焼き》をもって泣きそうな顔をした近藤さんが、ずりおちたズボンをあげることもできず見事な赤い褌を風になびかせて直立不動でこちらを見ていた。





**********





それからちょっと近藤さんに「まじやめてよね」とかそんな感じで軽い説教をくらった。
あとは―――晋助がこの大きな祭りに来てるから警戒はとけねぇと。とか、話しているうちに、今回の祭りの目駄目である打上花火がヒュ〜っと上がって、夜空に綺麗な光の花を咲かせた。

『ひらが…さん。無茶だけはやめてくれよ』

ステージからは花火が次々と三郎という青いロボットによって打ち上げられ、発明家平賀の名が観客たちから歓声と共に上がる。
そして心配は的中し、ロボットの腕が上空から広場へと向けられる。
平賀の爺さんの合図とともに、ロボットの腕から花火ではなく砲弾が飛んできた。
それは広場に落下してたちまち周囲を煙で包み込む。

「煙幕!?」

観客の悲鳴が上がり、近藤さんが「ひるむなつづけ!」と煙の中に挑んでいく。

遠くで。
爺さんの

「観客は全員居なくなったな」

そんな声が、オレの動物的な聴覚に届いた。
その言葉に一度目の砲撃は、客を逃がすためにわざと違う場所を狙っていたのだと知れる。
そんな手間を取るぐらいなら、どうして無茶をしたんだよ爺さん。
だってそうだろう?
オレら真選組をひきとめるロボット軍団を、直接おかみに向けることだってできたはずだ。
それをやらなかったのは―――

なぜ?


気配を探るに、人間はたしかに真選組の奴だけ。
刀を持って突進していく近藤さんの前には、たぶん平賀の爺さんのつくったロボット軍団がいるんだろう。
全身機械な人形と、生身に刀と信念だけ持った真選組が圧勝できるか保証は薄い。



しかたねぇなぁ。

近藤さんには悪いが、あの人の掛け声でも動かなかったオレは、前条となった広場の状況を一瞥してから、ゆっくりと腰の鞘から刀を抜き放つ。

『わるいな。お前に無理させちまう』

どんなに鋭く鋭利な剣と呼ばれる刀とて、金属なんてきれるわけがネェ。
きっと真選組のうちの何人かは刀を失うかもしれない。そうでなくとも刃こぼれがひどそうだ。
オレは大切な相棒にわびてから、唾をしっかり持ち直して愛刀を正面に構える。

『機械人形ごときがオレに牙をむいたこと。後悔させてやる』

ネコの爪をなめんなよ。
そんななまくらオレがかっさばいてやる。

とはいえ。
いやな、もちろんオレが爪で戦うんじゃないからな!
もちろん爪って刀のことだよ。“たとえ”だからな!
わざわざこんな戦場でだれが小さな猫なんかになるかよ。
そんなん危なすぎだろ。
オレの爪がれるどころか死ぬわ!





**********






パキン!!

それは景気よく。
もう見事なまでに。
ロボットの装甲の固さに負けた刀の刃は、真っ二つに折れたのだった。


「うそー!!俺の虎徹ちゃんが!名刀虎徹が!!虎徹ちゃんがー!!」


――近藤さんの刀がバキリと。


「うそー!?うそー!?うっそーん!?」


あー・・・。
うん。
なんというか、オレたちのなかで一番最初に刀が折れたの、近藤さんだった。
けっしてオレの爪でも刀でもない。

しかもあれ名刀虎徹だし。
それよりこいつらの方が固いんだな。名刀も形無しだな。

っていうか、もしかして人のいい近藤さんのことだ。
名刀と言われてつい買っちゃったとか?実は通販とかインターネットとかテレビショッピングとか押し売りとか?それで高い金払って買った刀だったりして・・・。
いや。もうその優しすぎるっていうネタいらねぇよ。
とりあえずご愁傷様。


「コテツちゃん!!」

いや、コテツちゃんよりお前があぶねぇ!


『近藤さんしっかりしてくれ!』

頭抱えて折れた刀に叫ぶ近藤さんに思わず舌打ちする。
戦えないなら、逃げてくれ。
なにをターッゲトにしてるかわからないが、あいつらは武器を手にしていない近藤さんさえ狙ってくる。
必死こいて、呆然としている近藤さんを守りながら戦ってるけど。

うっとうしいほど数が多い。

『チィ!!』

いっそ妖術でも何でも使えればいいのだが、なにぶんオレの前世パワーとやらは、生身の生き物相手じゃないと効果がない。
ゆえに、今のオレは剣術しか使えないのだ。
オレの愛刀ちゃんに《気》をまとわせることで硬度を強化して刃こぼれは防いでるけど、気を抜けば虎徹の二の舞になりかねない。

まぁ、とっくに将軍様も逃げているから、平賀の爺さんが復讐を果たすことはできないんだろうけど。

さぁて、こういうときバズーカを常に仕込んでいる総悟がいてくれたら楽なんだけどなぁ。


なぁんて思ってたら、来た。
チャイナと共に登場した総悟は、ロボットを破壊して登場してきた。

「まつりをじゃまする、わるいこはぁ〜〜」
「だぁ〜れだぁ」


妖気のごとき殺気をまとわりつかせて、チャイナと総悟がやってきた。
口からなんか正気のようなものが吐き出されているのですが・・・。
恐っ!?


「あれは妖怪祭囃子!」

純粋な心ゆえに妖怪を信じているらしい近藤さんが、総悟とチャイナを見て、また変な発言をしている。

『いや、ちげーと思う』

うん。絶対にあれ、チャイナと総悟だから。

むしろ妖怪?それはオレの損賠特許だろう。
オレ以外の奴は、天人っていう姿が人ならざる者達のことだと思うぜ。
オレの天人嫌いはともかく。
たしかにオレは妖怪だけど、あいつらただの戦闘狂のお子様だろ?

そういえば、あいいつらさっき「邪魔された」って言ってなかったか?

ってぇ、ことは、あれか。
こいつら二人そろって祭りを楽しんでいたわけだな。

了解。理解したよ。
ってなわけで総悟。
お前後で減給な。


きれたお子様たちは最強で、そのまま圧倒的な力でもって、ロボット兵団を撃墜していく。
それに真選組の士気も上がっていく。
笑えるぐらい一気に勝機が逆転する。


『はは。面白れぇ奴らだなぁ』

あ。チャイナ。オレが作ってあげた甚平着てる。
うん。淡いピンクもあうじゃないの。





時間を稼いでいるあいだに、刀が折れて困っている近藤さんにオレの刀を渡すと、近藤さんが驚きに声を上げる。そのままオレが『あとはまかせたぜ』と笑って、突き返された刀を押しとどめ、そのまま近藤さんが止めるのも聞かず、仲間とロボットたちの間をかけた。
守るでも倒すでもなければ、こんな戦場一息で抜けられる。
ロボットや屋台を踏み台に飛び上がり、そのまま煙幕の外に出れば、視界は晴れる。
そのまま地面に軽々と着地をしてまたまだステージにいる元凶のもとへむけて駆け出す。





**********





おりょ?

向かったステージには、平賀の爺さんと三郎ロボと――。
眼鏡がいるよ。

「おーお。随分と物騒な見世物やってんじゃないか。
ヒーローショーかなんかか?」

あ、銀時がきた。

「おれにヒーロー役、やらせてくれよ」

ヒーローって言うけど、銀時みたいなやる気がなさげなヒーローってどうなんだろう?

・・・む。あの子隠してるけど、血のにおいがする。
銀時の奴、晋助にでも刺されたのかね?
どうせ晋助が一枚からんでるんだろうしなぁ今回の件。
総悟が言うように、オレの育てかたって、やっぱまずかったのかね。

やれやれだよ。


「てめぇじゃ役者不足だ。どけ」
『なら、銀より遅れてきたオレの方がヒーローかな?ヒーローは遅れてくるもんだからなぁ』

怖いぐらい低い声で呟いた爺さんが、実弾の入った三郎の腕の砲を銀時に向ける。
それにオレは苦笑して、いつだかの海賊船のとき同様に、銀時と敵(今回のラスボスは爺さん)との間に割って入る。

それに爺さんが一瞬表情を変える。
背中から苦笑じみた銀時の声がのんびりと響く。

「あーやっぱり大串君。いたのね」
『ああ。おかみの護衛でな』
「その制服…あの真選組とかいうやつらのひとりか」
『はは。そう睨むない爺さん。オレは武器は持ってないぜ。警戒してドカンとかはやめてくれよ』
「誰だ!?っていうか、あんたヒーローじゃなかったのかよ!?武器なしでどうする気だよ!」
『うっせぇ眼鏡。いいんだよ。役者はステージに立てばなんにでもなれるのさ。例え丸腰だろうとな』

現に、刀はない。
刀はいらない。

そもそもあのロボット軍団のほかに、なにかぶったぎらないといけないものはあったかね?


では。自己紹介と行こうかね。

『正義のヒーロー真選組土方十四朗参上!な〜んちゃってな』
「ふ。ちょっといいかいヒーロー?」

オレは一歩横にずれて、銀時に場所を譲る。

「ほら。あんたがしょうもねぇ脚本書くから。本物のヒーローがやってきちっまったぞ。どうすんだよ。こいつ真選組の副長様だぞ。
あんた、あれか?役者にケチつけられた系かテメェ。今時かたき討ちなんざ流行らねぇんだよ。
―――三郎が、泣くぜ?」

「どっちの三郎だ?」

きくまでもないだろ爺さん。

「『どっちもさ』」

思わずオレと銀時の声が重なる。
考えてることは同じらしい。さすが親子!
チラリと視線を向けられ、笑っておく。

「こんなこと誰も望んじゃいねぇ。あんたが一番わかってんじゃねぇのか?」
「わかってるさ。だがもう苦しくてしかたねぇんだよ。息子をあんな目に会わせて、おいぼれひとりノウノウと生き残ってるのが。くだらねぇ、もん眺めて生きてるのは、もう疲れたんだ」
『首を斬られたとはいえ、かわりのように将軍の首をもらっても息子さんは嬉しくないと思うぜ』
「ひ、土方クン。ごめん。それ笑えネェよ」
『別に笑ってほしくて言っているわけではないんだが…。ただ事実を―』
「将軍の首なんか本当はどうでもいいんだ。
死んだ奴にしてやれるのはなにもねぇのは百も承知。おれはてめぇの筋ってもんを通して死にたいんだ」

爺さんはどうやら死に場所を求めていたらしい。
生かされたから自ら死ぬことはできない。けれど息子を犠牲にして生きているようで、生きるのも辛いと言う。

「――だからどけ」

「どかねぇ。おれには通さなきゃいけない筋ってもんがある」

『ああ、どかなくていい銀。どくのはテメェだもうろく爺。
脚本家は舞台からすみやかにおりてもらおうか。舞台は役者が演じる場所だ』

銀時と爺さんが話してるのを静かに聞いていたけど、なんだかどっかで聞いたことのある台詞に、ため息をが口から出た。

『お前もまた。コタ同様に、“死んだ奴のため”って、ふざけてんのか?
なに死んだ奴に罪をなすりつけてやがる。
自分の想いに言い訳してんじゃねぇよ。
出来の悪い曲本家だ。時は戻せねぇ。けど、楽しかったそのときを覚えていることはできる。爺さんの中の思い出の息子さんは笑ってねぇのかよ。“その時”に戻りたいのであれば、テメェがまず笑う努力しやがれ。
おかみの首を取る気もなくて、ただ騒動起こして何が楽しい?それで?誰が楽しいんだよ。お祭りを侮辱したとうちの隊員や万事屋のガキが暴徒になってんぞコラ。
御上の首を取れば死者にむくいたことにると思ってるバカじゃないだろあんた。寂しいだけだ。なら、さびいいと言ぇやいい。わびにも楽しくもない騒動起こして、罪作って誰かに殺してもらおうなんて笑える冗談なんかくだらねぇ。
失ったものばかりを見て自分で笑う努力もせず、疲れただぁ?テメェの記憶の中で笑ってる奴にわびろ。土下座して鏡で笑顔の練習でもしてやがれ』

これもまた。戦争が産んだ負の連鎖の一つなのだろう。
どうして戦争後っていつもこうなんだろうなぁ。
必ず争いがうまれると、血が流れる。
そして負の連鎖が広がって、あげく「死んだやつ」のためにって、そうやって《死》に近づこうとするやつが増える。

なんで死者を前提に語るのかね皆さ。
むしろ後ろ向きすぎんだよ。
晋助みたいに変な方にはっちゃけろとは言わないが、死んでいった者が心配して幽霊にならないように、笑って今生の世を生き抜けと言いたい。

亡くしたものをうれいて、思い出したり嘆いたりするのは別に悪いことじゃない。
池田屋で会ったときの小太郎しかり。
この爺さんしかり。
でも結局それってさ、自分の感情をセーブできないから、行き場のない想いをどうにしかしたくて、死者を言い訳に行動をしてるに過ぎない。自分のふがいなさを死者のせいにしてるようなもんだ。

だから前を向いてほしいと思う。
生きてほしいと願うのは、なにもオレだけじゃないはず。
きっと死んだ爺さんの息子さんだってそうだ。

『知ってるか?二百年前も、いまも。敵が変わっただけで、人間ってのは何も変わってないんだぜ』

これは天人が来る前から変わらぬ人の歴史の一部。

そもそも復讐して気が晴れたり喜べるやつは、死者じゃない。
生きてるやつだけだ。

地球上の生命の中では、人間だけなんだぜ。
感情なんて厄介なものを持っているのは。
ああ、最近はエイリアンもはいるか。

感情を持つってそういうことだ。
それを背負わなくちゃいけネェ。
それが生きることだ。

オレは銀時たちにそう教えてきた。
復讐に走り、戦争に自ら赴き、血で足を真っ赤にした子供たちに。
生きろと願い続けた。


うん、はっきりいって――

『バカだろてめぇ』

「!?」

「ちょ!?土方クン!?」
「直球キター!」

『死んだ奴は、お前さん次第でこれからも幸せになれるんだゼ。
死んだ奴を覚えてるひとがいる。くせぇかもしれねぇが、そうやって肉体を失ったやつらは誰かの心の中、その記憶の中で生き続ける。
あんたの記憶のなかで辛いことばかり思い出された三郎はあわれだな。
あんたの中にいる三郎は、そのせいでつらいことばかり繰り返すはめになってるんだ――と言ったら信じるか?
死者には何もしてやれねぇ?違うだろ。
死者には笑顔を与えてやれるのは、生きてる者の特権だ』

ふいに爺さんが動いた。
三郎と横にいたロボットに声をかけ、それだけで意を組んだように三郎ロボはオレと銀時に標準を定めて砲となっている腕を持ち上げる。
それに銀時が腰にさした木刀に手をかける。

ときに人間というものは真実を真正面から告げられると、どうしようもないいらだちにおそわれる。
言われたくないことであったり、相手が正論である場合は、焦りが先走り、衝動的にやってしまうのだ。

ったく。ほんとうに気が早い。

『銀。ソレはしまっとけ。
なぁ、三郎。ちょいと撃つのは待ってくれ』
「こんなやつの言うこと聞くんじゃないぞさぶ…『あと爺さんは少し黙れ』っ!!?」
『それ以上おかしな真似はしないでくれるか平賀さん。
ちょっとでいいんだ』
「土方クン?」
『まぁ、きけって』

話し合いに、武器はいらないだろう?

『そうだなぁ。ここいらで、ちょいとオレの昔話も聞いちゃくれねぇか?』

オレは銀時の武器に手を置きぬかせないようにし、爺さんを見る。
まっすぐにみつめればたじろぐように爺さんが、口ごもる。

ちょっと威圧感を放ってやれば、かなわないと理解した脳が恐怖という指令をだし爺さんの動きを止めさせる。
爺さんはどっと冷や汗を流し生唾を飲み込んで、その場に張り付けられたように固まっている。
一般人にはやはりオレの気はそうとうきついようだ。
でも恐怖を感じるということは、心のどこかで生を望んでいるということだって。だれかしてった?

そこから視線を外せば、威圧感から解放された爺さんがドサっとその場にしゃがみこむ。

耳を傾ければ怒りくるった祭り好きの子供たちのおかげで士気を取り戻した真選組が奮闘しているようだ。
時期にあちらもかたがつくだろう。
ここは少しいそぐべきかな。


『あんたの息子、三郎だっけ?…平賀三郎か。懐かしいねェ』
「なんだって?なぜあんたがおれの息子を知っている?」
『オレ、武州やら長州やら、それはもういろいろ飛び回ってたからな。っというか日本中フラフラしてた』

戦争中は、晋助たちの鬼兵隊にもよく顔を出しに行ったもんだ。
そのとき、戦場には似合わない彼に、たしかに会ったんだ。
トッテンカとトンカチをふるう面白い人間を。

『あいつは、あの戦場で、天人じゃなくてあんたと喧嘩をしてるんだって言ってたぜ?』

戦場には似合わない笑顔を見せて、言ったのだ。
晋助もそれを聞いている。
ガタイはいいのに剣は全然だめで。
それでも晋助たちと共に戦場をかけ、己のカラクリで晋助たちを陰ながらささえていた技師。

『“あの場”には、あいつも含め、漁師になりたかった男とかもいたなぁ。本当にどうして、ああも戦争には不釣り合いなやつらがたくさんいたんだか。“あそこ”は地獄だったなぁ』

戦争には不似合いなやつら。その大半がもうこの世にはいないのだが。
素性がばれかねない昔話をするオレに、銀時が眉をしかめてオレに尋ねてくる。

「…いいのか?」
『かまわねぇよ。別に隠していたことは一度もネェし』

ただ、だれも気付かかったというか、詳しく聞いてこなかっただけ。
今の話で眼鏡もなんとなく察したようだ。
続いて話を聞いていた爺さんがハッとした表情を浮かべ、ゴーグルごしの目をを飛び出んばかりに見開いた。

「あんた、まさか…」

『ああ、いた。
あの戦場にな』

よやく気付いたのか、地べたに座ったままの爺さんが呆然とオレをみてくる。
それにご明察と笑みを返して、今度は爺さんと視線を合わせるようにしゃがみこむ。

『戦場についていくってぇのは、そいつらの死んでくのを見てることしかできねぇってのも辛いんだぜ爺さんよ。
その辛さから息子さんがあんたを守ってくれた。
オレたちが見たもんよりキラキラしたもん、見ていればいいんだよ。それで空にいる息子さんに見えるように笑っててやんな。
だからあんたは生きようぜ。辛いのは仕方ない。それが生きてるってことだからな』
「・・・たしかにおめぇさんの行った戦場はつらかったかもしれん。だがおめぇにはおれの気持ちはわからねぇんだろう。子をなくした親の気持ちなんか!」
『さて。どうだろうか。
まぁ、わかるとはいいがたいかもしれないが、似たような悔しい想いは何度もしてるつもりだがな。
オレたちはあの戦場で多くの仲間を失った。目をかけた仲間は、オレにしてみりゃぁまだ年端もいかねェ子供たちだ。いわば家族で身内だ。
そういうやつらが、たくさん死んじまったよ。
けどな。そいつら全員の復讐をしてやるには、オレは気が長くなくてねェ。途中でそっちのほうにつかれちまってよ。いまにいたる―――銀時』
「んあ?」

それから銀時を手招いて、そのままガシっと肩を抱いて引き寄せる。

「あ?」
『たしかに疑似家族なんかじゃ、あんたのその気持ちはわからないかもしれない。なにせなぁ。こうしてうちの息子は無事だかんなぁ。子を失った本当の気持ちはちょいとわからねぇだろうな』

「あーあー言ちゃったよ」

「は?」
「へ?」

「おうおういいのかい土方クン?フツウーにばらしちゃって、まぁ。おれ、しらないぜ?」
『いいっていいって』

爺さんと眼鏡にみせつけるように、銀時のあたまをぐしゃぐしゃなでて、いたずらっこのようにわらってやれば―――
そのままツートンメガネコンビな爺さんと眼鏡は、カチンと音を立てたようにフリーズした。

「あ〜ら〜ら〜」と銀時が腕の中からまのびしたこえがあがる。
あ、目がいつものタレ目に戻ってる。
うん。こっちの通常運転モード結構好きかな。

『オレの銀かわいくね?
このやる気なさげな目がダメだったか?ダメだってよ銀』
「いや、そういう意味で固まってんじゃないと思うけど」

口を開けたままぽっかりしている爺さんと眼鏡に首をかしげる。
いつまでかたまってる気だろうか。

『銀時の父親で名を土方十四朗。愛称はシロウ。
いまの職業は真選組の副長やってたりするんで。おいたはそろそろやめにしねぇか?』
「あ、いや…もうやる気もネェっていうか・・・まじか?いや、冗談だろ?」
「だから言っただろ爺さん。うちの父ちゃんは粋がいいからきっとこの会場にいるってさ」
「どどどど、どういうことですか銀さん!!しかも《シロウ》ってぇ!?なんなんですかぁそのひと!!赤毛じゃないし!!」

『どうもこうも』
「シロウだし」

「嘘だ―!!!」
『現実を受け入れろ眼鏡。そもそもオレがいまここで嘘なんて言って何の意味があんだよ』
「シリアス崩しには貢献してるなー」
『いや、ねらってたわけじゃなく。あれもまたシリアスのままで。ただ昔話を』

「こっちはあんたの父親発言にびっくりだよおい!」
「三郎に会ったとかよりもびびるわい」

「あーそりゃぁびっくりするよなぁ。
物心つく頃にはこんなもんだったし、おれてきにはこれが通常運転だけど。みんな言ってんぜ。うちの父ちゃん若作りだってな」
「「わかづくりしすぎだー!!!」」
『おー。さすがメガネコンビ。いいかんじではもってんなぁ』
「わしのはゴーグルだ!」

ゴーグルな爺さんと眼鏡くんは、共通の眼鏡と言うアイテムを装備しているからか。
とても素晴らしいタイミングでさっきから鋭いツッコミをしてくる。

若作りっていうと、髪を黒に染めたらさらに幼くみられるようになったんだよな。

『若作り若作りって言うが。だが、なぁ。そもそもさ、若作りの方がましじゃないか?ほら、銀。お前、若すぎってつっこみもらう父親と、中年太りでデブデブになった父親どっちがいい?さすがにみため若い方がよくないか?むさいよりはましだろ?』 
「そうだなーおれは」

オレが結局その答えを聞くことはなかった。

銀時が何かを応えようと口を開いたとき、それと同時に銀時の背後――真選組とロボット軍団の乱闘している土煙の方から、ヒュゥ〜とハナビに似た音を立てて爆弾が飛んできたのだ。

それはとめるまもなく、そのまま―――



平賀の爺さんを襲う。



かと思ったが、その寸前にロボットの三郎が前に飛び出し、砲弾はその胸を貫いてドゴンと爆発した。

「三郎ぉ!?」

ドドンと重い音を立ててたおれるロボットは、直すのが不可能そうなほど破壊されている。
あわてて爺さんが駆け寄れば、三郎が

「オヤジ・・・カラクリ・・・好きだった・・・・
まるで。がきだとうたがって・・・はしゃいでいるようだった・・・すき・・だった」

壊れた機械音声のままに、まるで彼自身が《三郎》であったかのように語り。
そうして三郎は二度としゃべらなくなった。
その横に腰を落とし、最後の言葉を聞いていた老人は、掌を握りしめ、喉が裂けそうなほどに叫ぶように吼えた。

「なんだってんだよ。どいつもこいつも。どうしろってんだよぉ!!!
いったいおれに生きていけって言うんだよ!!!」

だからさ。
オレは言ってるじゃないの。
ねぇ。銀時。お前も同じ意見だろ?
爺さんはオレが言った台詞なんかもう忘れてしまったみたいなので、言ってやってよ。
笑えって。
その方法はさ――


「さぁな。長生きすればいいんじゃネェのか。
なぁ、土方クン。新八。おれらなにもみてないよなぁ」
「え?あ!そうですよ!!僕らが来た時にはステージにはもう犯人はいなかったんです!ね!《シロウ》さん!」
『そうだなぁ。ま、せいぜい。ここには真選組副長なんていなかっただろうぜ?副長様は今頃あっちの煙幕と土埃漂う中で戦ってるだろうさ』

「おまえたち…」

『ちょっとでもいいさ。もう少し長く生きてみろよ爺さん。なぁにオレのように超名が息しろと言ってるじゃねぇ。残りの人生を綺麗なもんだけみるのもありだぜ?
ま。そのうち笑えるようになったら、もう一度世界を見てみるんだな。ちったぁー、色が変わって見えるだろうよ』

「・・・・・・感謝する」




















【後日談】

祭の暴徒。カラクリ軍団を率い、おかみを殺そうと企んだその犯人平賀源外は、 指名手配となったが、その姿を誰も見つけることはできず――。

【この顔にピン!ときたら110番】

そういった立札がたてられたが、目を向けるひとがいなくなっても、その後の爺さんの行方は知れずのままだった。



「おい、あんまさわんじゃねぇよ」
「えーいじゃん」
「って、うりもんだぞそれ」
「わーこれすごい!」
「あれほしいな」
「あーあ。こわすんじゃねぇぞ」
「カラクリ人形?すごーい!」
「てめぇ、それ買えってんだよ面白いからさ」


道端で御座ひいて手のひらに乗るような小さな手作り人形を楽しそうに売っている老人をみて、僧姿に変装していた桂小太郎が口端に笑みをたたえる。

「なかなかいい顔をしてるじゃないか」

小太郎の去ったあとの路地に脇道から、一匹の猫がとびでてくる。
猫は一度、橋の方へと歩いていく僧をみつめたあと、子供相手に笑っている老人のもとへ歩み寄る。

「んニャァ〜ン」
「ん。なんだいネコか。おまえさんにやるようなもんはここにはないぜ?これはたべもんじゃねぇ。どっかにいっちまいな」

商品を壊されてはたまらないとばかりに猫にしっしと手を伸ばす。
しかし猫は畏れる様子もなく、自分に向け手を伸ばしてきた老人のその手に自ら頬をすりつけると、すぐに老人の邪魔をしないように離れて背を向けて歩いていく。
そのまま去っていくかと思われたが、猫は優雅にしっぽをゆらすと一度振り返って再び「ニャァ」とあいさつのように声を上げる。

《生きるのも悪くネェだろ?》

「!?おまえさん、もしかして…」

ふいに脳裏に響くように声が聞こえた気がして、老人はゴーグルの下の目を見開く。
カラクリに興味を惹かれてやってきていたこどもたちには聞こえなかったのか、驚きに動きを止めた老人にいぶかしげな視線を向ける。

老人の問いに猫は答えることはなく、振り返った猫の、その明るい黄緑の瞳がキュッと嬉しそうに細められる。

ただの猫というには違和感があるどこか人間味じみたその穏やかな笑みに、老人は深く深く頭を下げ、猫の姿が見えなくなるまで見送っていた。

「なぁおっちゃんなにしてんの?」
「ねぇこれいくら?ほしいなー」

「ああ。すまねーなガキども。知り合いがいたんだよ。
っで。それ買うのか?ああ、いいの選んだなおまえ。それはなおもしれぇんだぜ。そこのヒモをひっぱるとカエルの足が動くんだ」



にぎわう路地には、たまに風変りなカラクリ技師が訪れる。








**********








「ねこ?」
「にゃ」
「・・・・・・『シロウ』か?」

「ニャン♪」

いつものようにフラリと町を歩いていれば、ふいに足にフワリと温もりを感じて高杉晋助は足を止めれば、一匹の猫が甘えるようにすりついていた。
自分はそういった生き物にすかれるタイプではないと理解していた晋助は一瞬動きを止めるが、猫の首につけられている青い首輪を見て納得したように問えば、答えるように猫が頷く。
猫はそばらにおいてあった包みを加えてもどってくると、それを晋助に手渡す。

「うにゃん」
「なんだこれは」

《おまえにだよ。ああいうデカイ祭りにはくるだろうとおもって作った。持ってけ》

晋助はその小さな生き物の頭をそっと撫でると、猫は嬉しそうに目を細めてゴロゴロと喉を鳴らした。

《できれば頭より喉を・・・あーそこそこ。んにゃ〜ん。きもちー》
「あんたは・・・銀時やヅラみたいにとめるとは言わないんだな」

《道を決めるのはいつもどこでも“自分”だけだろ》

光の加減で金にも見える黄緑の猫の瞳と視線が合い、晋助はなでていたてをよめるとおかしそうに笑った。
それからしばらく晋助にかまってもらった猫は、晋助が布包みを受け取ったのを確認すると、もう一度彼に頬釣りをしてから去って行った。





猫が去った後開いた包みには深い藍色の着物と、『高杉晋助』と名の入ったカードと通帳と印鑑だ。

「あのおせっかい猫め」





後日、着物を広げた晋助は―――、

かくれていない片方の目を険しくさせ、顔をしかめた。

「なんだこれは?」

ゴリラでも着るのかとばかりデカイ着物からは、『ごめんサイズわかんなかった』とヒラリと一枚の紙がおちてくる。
いや、それにしてもでかすぎだろ。
その後晋助がでかすぎる着物ををどうしてたかは―――不明である。








**********








真選組屯所――。


近「なぁ、トシ。俺の着物は?」
夢『は?オレはてめぇのお袋か?今朝ちゃんと枕元置いておいただろうが。っていうか、着てるだろうが今。大丈夫か近藤さん?』
山「どこからどうみてもあんたのその発言はお袋じゃ」
沖「着てるのにどこって・・・頭わきやしたか?」
近「いや、そうでなくて、ずいぶん前、着物作るからって、俺の採寸してたやつ。できたって言ってただろ」
沖「あー。そうえば。土方さん、ここしばらく隙あれば糸と針もって何か縫ってやしたね」
山「隊員が刀振り回すような現場まで持ってきて隅っこで縫ってましたねー。あれ局長の着物でしたか。まさに良妻ですね〜」

夢『は?何言ってんだテメェら?』

沖「ん?」
山「は?」
近「あれ?」

夢『あれはサイズわかんねぇから、だれでも入るだろうサイズをはかったにすぎねぇ。もう渡してきたから屯所内にはないし』

近「えええええ!?俺のじゃなかったのか!?た、たのしみにしてたのに」
夢『給料あるんだから新しいの仕立てさせればいいだろ。
そもそもオレはチャイナの分の甚平とふたつつくるので精いっぱいだったんだよ。あんんたはずうたいのでかい子供か?』
沖「近藤さんのずうたいがデカイとわかってて、人にあげるためにそのサイズで作るって・・・どんだけ相手は巨体なんでさ?」
山「本当に。めだちそうですねーそのひと」
夢『ちげぇよ。たぶん銀時かそこらぐらいの身長だろう?二人が並んでるの見たの十年ぐらい前だからあんまり覚えてないけど』

山沖「「それ、絶対相手サイズ合ってないんじゃ・・・」」



沖「今頃そいつ困ってそうでさー」









アニメ第17話「親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ」より








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