14.お祭り騒動・中 |
アニメ第17話「親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ」より -- side 坂田銀時 -- 騒音がひどいとカブキ町なんとか連合が立ち上がり、お登勢が平賀という爺さんを何とかしろと、万屋に依頼してきた。 騒音には騒音をと、カラオケ大会をはじめたら、うるさいと平賀の爺さんがカラクリ人形と共に出てきた。 そのあと町中にあるからいけないんだと。爺さんの工場にあったカラクリ人形や材料や工具を川辺まで運んだ。 ―――それが三日前のこと。 ********** 「みてみて!銀ちゃん!シロウが作ってくれたネ!」 「うわー神楽ちゃんかわいい。よく似合ってるよその甚平。 っていうかシロウさんって、本当に万能ですね。猫なのに」 「まぁ、シロウだからな。とりえあえず祭りの前に爺さんのとこ寄ってくぞー」 「「はーい」」 お登勢経由でもらった甚平を着つけてもらった神楽は、無邪気にはしゃいでいる。 やっぱり女の子だから嬉しいのかもしれない。 うちには金もネェしなぁ。 いや、神楽が喜んでるならいいんだけどな。 それから神楽と新八をつれて平賀のじいさんのところへいけば、ガラクタの山となっていたカラクリたちが、すべてそれらしい形に仕上がっていた。 「何とか間に合いましたね。まぁ、ところどころ問題はあるけど」 「ッケ。もともとテメェラがこなければこんなテマはかかんなかったんだよ」 「公害爺が偉そうなこと言ってんじゃネェ。おれたちはババアに言われて仕方なくきたんだよ」 本音なんかいってやる気はねぇ。こんな爺に。 そう思って頭をかいていたら、金の入った袋を投げられた。 「最後のメンテナンスがあるんだよ。邪魔だから祭りでもどこでも行って来い」 「やった!銀ちゃんはやくはやく!」 「あ、おい」 「ありがとう平賀さん!」 甚平姿の神楽が嬉しそうにおれの腕を取って走り始める。 新八も嬉しそうについてくる。 何気なく振り返れば、爺さんが他のカロクリ人形を整備している小さな背が見えた。 それと―― おれたちの背後からノシノシとカラクリ人形の三郎がついてきていた。 あっれぇ?こいつまで来ちゃって。 いいのかこれ? 「騒がしい奴らだ。なぁ、さぶろ・・・おいぃ三郎!?」 爺さんも一緒にかけてくるのがわかって、おかしくなった。 本当によく言葉がわかっているカラクリで。 「ちょ!?三郎!?お前はダメだ!さぶろー!」 ほら。爺さんの声が聞こえる。 ああ、やっぱついてきちゃダメだったんじゃん。 お前さんは帰らないとだめだよ。 でも結局神楽が喜んで三郎になついてしまったので、爺さんの調整が済んだ後に全員で祭りに行くことになった。 ********** 祭り会場では、いつものまつりより屋台が多くにぎわっていた。 神楽は三郎に肩車してもらって楽しそうに笑いながら支持をだしている。新八も楽しんでるようで何よりだ。 子供組はまぁほおっておいても平気だろう。 おれと平賀の爺さんは、焼き鳥屋でのんびり酒をつまんでいた。 「妙なもんだなぁ。なんだか三郎も楽しそうに見えるわ」 「それはいっつも険しい顔した爺といるよりは楽しいだろうさ」 「っへ。息子と同じことを言い寄る」 「息子?あんたそんなのいたの?」 焼き鳥にかじりつきながら爺さんの言葉に、もしかして息子ってのはあの機械人形たちのことだろうかと思うが。 ちがって生身の人間のことかもしれない。 なんとなく興味を持って聞けば、その通りだと答えがかえってきた。 「もう死んじまったがな。勝手に戦に出て死んじまったよ」 戦――か。 うちは親が過保護だったしなぁ。 桂と高杉と一緒に先生の敵を取るのだと戦場に向かったら、長くてきれいな白い髪をぼさぼさにさせて父ちゃん(シロウ)が、追いかけてきたんだったなぁ。 目に見えないところで勝手して勝手に死なれてたまるかと、泣きそうな顔して殴られたものだ。 まぁ、あのひとは“失うこと”を恐れているから、ついてくるぐらいしょうがなかったんだろうけど。 爺さんは・・・息子とやらには、ついてはいかなかったのだろうなぁ。 「どういう息子さんだったんだい?」 「俺におとらずカラクリ好きでよ。一緒になって機械いじりまわすクソガキだった。 今にして思えばあのころが一番楽しかったかもしれんぇな。昔はただ好きだからカラクリいじりまわしてたが。 江戸一番の発明家だぁーとか言われ出してからは、カラクリは俺にとってなにかを得る手段になりさがっちまったい」 爺さんは酒の入った湯呑(なぜにおちょこじゃネェ!?)をテーブルにおくと、ゴーグルからのぞく口元をゆがませた。 「息子の野郎は、そんな俺に反発して、でていっちまったよ。それっきりだ」 喧嘩別れか。 それはきついよな。 おれなんかは、親子喧嘩といえば、もっぱら猫パンチだ。 あれはいたくはない。 爪を立てられたことはないなぁ。 猫のくせに尋常じゃない跳び蹴りをもらったときは、ふっとんで、壁にめり込んだことはあったが…。 松陽先生のところにいたときも何度もシロウとは喧嘩をした。 戦争に行くときなんか、怒られるのがわかってたから、何も言わずに家を飛び出した。 それでもシロウは、どこにいても俺たちの元まで追いついてきた。 そんで怒鳴るんだ。 「そういえばお登勢から聞いたが」 ふいになにげなくだが。 平賀の爺さんは、息子とやらとはそれっきりだと言ったが、その行方を知っている気がした。 けれど聞かれたくないことなのだろう。 話を別の方へと変えた。 だが、爺さんがすべてを言い切る前に、おれはなぜかくちをひらいていた。 もしかすると“言わせたくなかった”のかもしれない。 おれなんかにゃ、知る由もない言葉だろうけど。 言わせたくなかった。 爺さんにそれ以上の、その先に続く言葉を――。 「なぁ、爺さん」 「なんだ?」 「おれも父親とはよく喧嘩したぜ。いまではもうそんなに殴りあうとかはないけどよ」 「・・・ほう。おめぇさんみたいなのの親たぁ。みてみたいもんだね」 「意外とどこかで会ってるかも知れねぇぜ」 「ないだろ。おまめぇさんみたいな死んだ魚の目した奴は見たことねぇよ。 いったいどんな吹抜けた顔をしてるんだか」 あのひとがふぬけた顔をするのは、“こどもたち”の前でだけだ。 どうせ人間としての成長速度はおれたちと同じなのだから、子供の姿を利用して、シロウもそのまま子供らしく生きてればよかったのになぁ。 為五郎兄さんとか、シロウを受け入れ、可愛がってくれる人はたくさんいたのに。 それでもシロウは、身長とか低いし外見もどう見てもおれたちとかわらないくせに、いつもみんなの親ぶって、掌に抱え込んだ子供たちに分け隔てなく愛情を注いでいた。 「はは。残念だな爺さん。おれが似てるのは髪の色だけだ。 あのひとはきまじめだからなぁ。 しなくていい仕事しちゃってさ。喧嘩事とか好きじゃネェくせに荒事仕事しててさ。もっと楽な生き方すればいいのにって。よく思うぜ。 それでもやりたいから。好きなことしてるからいいんだって。笑って仕事してるのみてると、息子としちゃぁ、この笑顔が消えないなら、いっかって思えんだよ。 なぁ、あんたは・・・笑えてるか?」 「!?」 当然、笑えてネェーよな。 こないだの長谷川君も道に行き詰った迷子みたいでさ。 平賀の爺さんもまた、胸に詰まるような何かを抱えてんだろう。 それはきっと今までの言葉の端々に浮かぶ感情の片鱗。 そこに宿る想いが何か、わからないでもない。 息子さんが、戦争にいって死んだと聞かされたからわかる。 爺さんの胸の奥には、きっと国に対するいいようのない激情がうずまいてるにちがいない。 池田屋で会った桂もまた、亡き仲間たちのことを口にしたから。 つれぇな。なぁ、爺さん。 きっと、あんたの戦争はまだ終わってないんだろうな。 「・・・てめぇも、戦に出てたんだってな」 そのまま話をそらすのかと思ったら、爺さんは戦争について聞いてきた。 爺さんは戦のことを聞きたいのだろうか。 それとも息子さんのこと? はたまたおれもまた“亡くした者”として、認識して語りかけてきているのだろうか。 戦に、いい思い出なんかない。 けれど戦場で出会った仲間たちのことは覚えてる。 あのころは、まだ“みんな”笑えてたな。 明日だけを目指して、がむしゃらに刀振り回して。 「戦争、なぁ。そんなたいそうなもんじゃねぇよ。 …まぁ。それでもたくさん仲間は死んじまったがな」 「敵をとろうとは、おもわんのか」 「!」 ふいに言われた静かな言葉に驚いてそちらを見やる。 おれたちが戦争に参加しようと決めたはじめの理由を知っているのかと思ってしまったのだが、そういえば爺さんの息子は戦争で死んだんだったと思い出す。 「仲間のために幕府や天人を討とうと思ったことはねぇのか」 「爺さん。あんた・・・」 「おーいかん。わしは最後のメンテナンスがあるんじゃ」 突然席をたった爺さんは、少し離れた場所で神楽たちと屋台を見ている三郎に声をかけて去ろうとする。 その背を呼びとめる。 「爺さん」 爺さんの足が止まる保証はなかったが、声は届くだろう。 「うちの親父のことだから。へたすっと今日の祭りに警備にまぎれているんじゃないかとは思うぜ。あのひと、としのわりに俺よりピチピチしってからねぇ。 あんた、馬鹿なことは考えない方がいいぜ。 しょっぴかれても助けてやれねぇよ。オレ、父ちゃんに頭、あがんないんだから」 ま。“しでかさない”はずがないか。 あんな“ばかでかいもん(憎しみ)”もってるんじゃぁなぁ。 それはあの細くて小さな身体に抑えきれるほどのものなのか。 おさえきれなかったら、“しでかす”んだろう。 この祭りで。 でも。 その激情を持ちづけることこそ、つらかったんじゃネェのか? 時がたち、消えそうになる怒りに、あんたは自分を何度ののしったんだろうな。 変わらぬ想いを持ち続けることは、ハンパないことだ。 あんたはスゲェ奴さ。 ただな。 そろそろ休もうじゃないの。 なぁ、じいさん。時間は流れてんだ。 あんたの記憶の中の大切なやつは、あせかけた想いの中で笑ってるか? 今のあんたが思い出せるのは、きっと息子さんの笑顔じゃないのかもしれェなぁ。 『もうね、疲れたんだ』 ―――憎しみ続けるのもね 哀しむのも 悲しむのも もう・・・ 疲れたんだよ 小さくなっていく爺さんの背を見送りながら、むかしシロウが言っていた言葉が脳裏をよぎる。 戦争が終わった時。近藤さんについていって、幕府の役人になることを選んだシロウは・・・。 あのとき笑っていただろうか? 泣いていた? ・・・どちらでもないな。 ただ、静かに暮れる夕陽を見つめていた。 おれたちは言葉を投げかけることも返すこともできなかった。 もういくのだというシロウを止めることはできなかったんだ。 「本当に戦争ってのは何も残さなくていけねェなぁ」 さてさて。 どうしたもんかねぇ。 とりあえず。 おごってもらったこの焼き鳥だけは食っておこう。 アニメ第17話「親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ」より |