13.お祭り騒動・上 |
アニメ第17話「親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ」より -- side 夢主1 -- 数か月後にはお祭りがあるんだ。 友達とか息子とか、その他もろもろな色んな奴に、一緒にいかないかと誘われたけど、残念。その日は仕事だ。 たかが下町のお祭りに、将軍様が見物にくるらしい。 国のトップがそんなホイホイ出歩かないでもらいたいものだ。 守る身にもなれよ。来るんじゃネェよと思ったり。 そんなわけでお祭り当日は、警備仕事に俺たち真選組は全員駆り出されることが決まっている。 『布かあ…。お祭りだから浴衣を作るべきか?それとも巾着袋?』 来月の祭りに備えて呉服屋で、いくつかの布を買った。 “あの子”に似合いそうな色合いと柄の布があって、嬉々として買った。 そのおまけにともらった生地は、小さな子供に似合いそうなほんわかした花柄模様のものだ。 オマケのくせにケッコウ量があるし、銀時のところのチャイナにでも浴衣とか作ってやろうか、それとも巾着をいくつくかつくろうか悩んだ。 いや。チャイナには浴衣よりも、甚平の方が似合いそうだな。あの子よく動くし。 どちらにせよ。よい物をタダでもらえたのは喜ばしいことだ。 なによりメインの生地がいい。 良いものが手に入ったことが嬉しくて、スキップしそうなほどホクホクとした気分で帰る途中に、見覚えのある女性にあった。 『おや。大家さんじゃないか』 銀時のところの大家さん、お登勢さんだ。 おひさしぶりでーす。 ニコニコして告げれば、物凄くピキンと音がしそうな感じでお登勢さんが固まった。 「だれだいおめぇ」 そんな雰囲気を向けられて、おろ?っと疑問に思う。 ふと自分の姿を考え直す。 いまのオレってもしかして《シロウ》のものではなかったのただろうか。 チラリと視線を横に向けて自分の髪を引っ張って色を確認すると・・・黒かった。 しかも服は隊服のままで。 これはうっかりしてた。とアハハと笑ってごまかしてみる。 このまま鬼の副長とか言われてる《土方十四朗》がニコニコしてたら怖いなと、指パッチンひとつ。 黒かった髪は一瞬で赤色に。 黒い制服は、風が揺らしたと思った瞬間には、黒い着流しに。 靴はカランと音を奏でるゲタに。 「ぶ!?」 オレが術を使って姿を変えた途端。お登勢さんがすんごい形相して噴出した。 しかもそのままむせてしまった。 慌てて背をさする。 なにがあった!?まさか毒!?奇襲か!? 『大丈夫ですかお登勢さん!?』 「んなわけあるかい!!」 罵声ともに軽く頭をはたかれたオレは、意味が理解できず、彼女の行動を見てるしかできなかったのだけど。 それにお登勢さんは周囲をキョロキョロ見回して、視線が向けられていないことにホッと肩の荷を下ろして、一気に疲れたような顔でこちらをみてきた。 「化け猫ね。ようやくその意味がわかったよ」 それは髪の色を元に戻して、服のデザインを変えた《変化》をみたせいだろうか。 なぜかいまさらお登勢さんに納得された。 『元の素材や色は変えられないけど、服とかならデザイン変えられるからな。便利だぜ。あんたもやってみる?』 「できるかー!!」 『そうか?あんたならできるんじゃないかと思ったけどなぁ』 「それ、褒めてないからね。むしろあんた遠回しにあたしを化け物って言ってないかい?」 『いや。普通の人間でもこのぐらいできるんじゃないのか?』 前世の世界では、体がゴムのように伸びたり。体が火になっても服が燃えなかったり。刀から炎やら雪やら破壊光線だしたりしてたぜ? 一番初めの世界では《念能力》なんていうナンデモアリな不思議技とか、余裕で十代ぐらいの人間が使いまくってたが。 二次元クオリティーによる魔法のような技を使いまくってたやつら山のように見てきたから、こっちでもやろうと思えば年齢とか関係なくなんでもできるんじゃないかと思うんだけど。 そこんとこどうなんだろう。 本当に出来ないのかな? 首をかしげて疑問符を浮かべれば、お登勢さんからはあきれたような溜息をいただいた。 「・・・はー。もういい。 それより。あんた人前でそうひょいひょい変なことをするもんじゃないよ。みられたらどうすんだい」 気付く人は気付くけど、オレが本気で気配を消していれば、だれもこっちを気にする者っていなくなるんだよ。 だから気にしなくてもよかったのに。 ああ、でも 『心配してくれたのか。ありがとなお登勢さん』 「フン。そんなんじゃないよ。あんたら親子はそのゆるんだネジや周りの常識を考えもしないところは本当にそっくりだよ。ほんと、嫌になるね。 いいかいシロウ。あんたそのぶっとんだネジきっちりさがしてはめときな!次会うときは人間なら人間らしくするんだね」 『はは。善処するさ。まずは常識っていうねじを探すところか。 お登勢さん。いいネジを売ってる店に心当たりはないか?』 「勝手に行くんだね。あたしゃ、しらないよ」 『当然だな』 優しいひとだ。 銀時の周りには優しい人が多くてうれしいなぁ。 思わずオレがニコニコしていたら、きもちわるいわとつっこまれた。 なんだいそれ。 オレの笑顔は張り付けた能面のようだってぇのかい。 「それよりそんな綺麗な布もってどうしたんだい?女からの貢物かい色男?」 『ああ、これね。 お祭りだろ。だからチャイナがよろこぶかとおもって。浴衣でも作ってやろうって思ってたんだよ。 あと……祭りだって、知り合いがきっと江戸に来るから。それでだ。 せっかくだから“あの子”にも新しい着物作ってやろうと思ってさ』 「…思うんだが。お前さんのそれ。無意識か?」 お登勢さんの顔が嫌そうにひきつった。 そうして指差されたのは、オレが抱いている布の塊。 それを指差して、赤ん坊でも抱いているのかと思ったよ。と言われる。 たかが布をみながら、どうしてそこまで優しそうな顔ができるんだか。 ここに若い女がいたら、いちころだろアレは。 そう言われてもわけがわからない。 これは赤ん坊ではなく、ただの布なんだが。 『は?』 「いや。わからないならいいさ。それにしても毎度思うけど、子供に甘いよなあんた」 『ああ。かわいいだろあいつら。 まぁ、たぶん・・・オレなんか作っても、“あの子”はどうせ着てはくれないだろうけど』 祭りに将軍が来ると聞いてから、きっと会えるだろうと思ったんだ。 銀時や小太郎とは違うもう一人の養い児に。 ついでに女の子だからチャイナの分の甚平を作ってやろうって思ったんだ。 オレ、料理のほかに、裁縫とかもけっこう好きだからさ。 そういえば最近どちらにも会ってないけど、服のサイズとかどうしよう。 チャイナはこれからいって寸法はからせてもらえばいいとして。 もうひとつは うん ・・・・・・近藤さんと同じでいいか。 あのサイズなら、全国共通どんな大人でも着れるに違いないし。 少しぐらい大きくたって着物だしな。 大丈夫だろ。 ********** お登勢さんと会ってから時間は流れ、お祭りまであと数日とカウントダウンを刻む状態となった。 『あと、三日か』 髪を赤にして、フラリと持ちを歩いていた。 結局チャイナへの衣装は、浴衣ではなく甚平になった。 出来上がったその甚平もって、せっかくだからできたてほやほやの感動と共にとチャイナのもとに届けようとしたら、 万事屋にはひとがいなくて、近所の人に聞いたらお登勢さんと、騒音駆除に《ヒラガ》というじい残の家に向かったという。 「これでよしっと。ここならいくら騒いでも大丈夫だろう。好きなだけやりな」 銀時たちを探して、橋を渡っていたら、すぐそばから銀時の声が聞こえて、橄欖から下を覗き込めば、カラクリの山と銀時たち万事屋トリオとお登勢さんがいた。 ゴーグルの老人は誰だろう? 「好きなだけって・・・みんなバラバラなんですけど。 なんてことしてくれんだテメェら!!」 「大丈夫ダヨ。サブは無事ある」 《御意》 「御意じゃねぇーよ!なんか形違うぞ!?腕ねぇーじゃんか!腕ぇ!!」 ロボットかぁ。んな、はいからなもん前世ぶり以来じゃないだろうか。 どうやらその製作者が老人らしく、腕をもがれた三郎というロボットをみて、しまいにはガクリと地面に膝をついてしまう。 どうもうしろのガラクタの山も元はロボットだったようだ。 銀時たちが壊したのだろうか。 「ああ、どうすんだよ。これじゃぁ、祭りに間に合わねェよ」 「「祭り?」」 「三日後鎖国解禁二十周年の祭典がおこなわれるんだよぉ。それに将軍様も出てくるらしくてよ。そこでおれのカラクリ芸を披露するように幕府から命がくだってんだ。 どうすんだよ!間に合わなかったら切腹もんだぞ!」 「あ、やべ。カレーに混んでたの忘れてたよ」 「あ、こら!三郎の腕かえせー!!」 万事屋のあの三人組は相変わらず何かをしでかしたらしく、ロボットの腕をのようなものを(チャイナが)持って走り去っていった。 捨て台詞というか逃げ台詞がカレーってどうなんだろう。 追わなくても彼らが行く場所はわかっている。 オレは急ぐ必要はないかと、山のように積まれたカラクリの部品を橋から眺めていた。 「なんてやつらだ。もう無茶苦茶だ」 「あんた、大丈夫なのかい?」 溜息をつく爺さんに、お登勢さんが声をかけた。 いや、これはどう考えても大丈夫じゃなさそうだなぁ。 っと、ガレキの山と化したロボットたちを見つめる。なんだろう?親近感があるなぁ。ああいうロボって。 どこでみたんだっけ? 「はー。やるしかねぇだろ。徹夜で仕込めばなんとか」 「そうじゃない。 息子さんのことだよ」 「!?」 「あんたの息子。たしか幕府に…」 「お登勢よ。年寄が長生きするコツは、嫌なことはさっさと忘れることだよ。 それに言ったろう?今はこいつが俺の息子だってよ」 盗み聞きのように橋の上から話を聞いていたが、二人の話に息をのむ。 ガラクタの親近感の正体に思い当たった。 『ひらが…さぶ、ろう?』 そうだよ。三郎なんてよくある名前だから、あの腕無しロボットの名前であろうと気にもしなかったけど。 オレは一度なりと“三郎”という青年に会っていた。 攘夷戦争中、晋助の鬼兵隊にカラクリ師がいたはずだ。 戦争後にはすぐに別れてしまったため別れ際に、鬼兵隊のやつらや晋助とも会うことはなかったが、オレが江戸に着た後に聞いた話では、彼はたしか、さらし首になったときかされた。 目の前の老人はカラクリ師。 つまり、彼は、その、父親か。 『シン・・・』 彼等の会話に乱入できるほど、オレはできちゃいねぇ。 どうしようもない感情が湧き上がり、怒ればいいのか、泣けばいいのか、後悔すればいいのかもわからなくて、オレはその場にしゃがみ込んだ。 そのまま目元を覆うように手で顔を覆い、聞こえてきそうな過去の幻影の声に耳を傾けた。 ―――祭りまであと三日のこと。 ********** あれから落ち込んでもいられなくて。 お登勢さんも去ってからしばらくその場にしゃがみ込んでいた。 空を見上げればもう日はすっかり暮れていて、重い身体を動かして、カブキ町へいった。 銀時と顔を合わせる気にならず、一階に住むお登勢さんにチャイナにできた甚平を渡すようことづけを頼んですぐに真選組駐屯所まで帰ってきた。 お登勢さんにも真選組の仲間にも、ひどい顔をしていると言われて心配されたが、「大丈夫」としか言葉は浮かばなくて、笑ってごまかした。 それから間もなく。 近藤さんから警護に関する連絡が入った。 それは予想していたが、それでも思わず眉をしかめずにはいられないようの事柄。 それに瞠目する。 しかしずっとかんがえぶけっているわけにはいかない。 オレは近藤さんから託された事柄を話すため、真選組の隊員を集めた。 ********** 『いいか。祭りのときは真選組総出で将軍の護衛につくことになる。 将軍にかすり傷ひとつつこうものなら、オレたち全員の首がとことになる。 その辺、心してかかれ』 あつまるみんなの前で、そうは言うものの。 一番心してないのは、オレだ。 幕府。か。 皆の前だというのに、ため息が出てしまうのは致し方ない。 それに周囲がそわそわとおちつかない。 ああ、心配かけてる。 なにより不安そうな色が部下共から浮かんでいる。 その顔をみたとたん“思い出す”。 こいつらの命を背負ってるんだと。 上に立つってそういうことだ。 一度目を閉じる。 自分の中から冷静さを探す。 大切な者の顔がつぎつぎと浮かんで――。 最後にあのゴーグルの爺さんの顔が浮かんだ。 真選組は幕府ではなく、守るためにある。 過去は過去だ。 どうしても消せなくてくいだけが残ろうと、変えることはできないものだ。 なら、その過去を糧に、その想いを繰り返さないように今を生きるだけだ。 余分な感情を消したり忘れる必要はない。 そんなことをせずとも、オレがやることはひとつ。 なら、それのしたがって、オレたちはやるべきことをやるだけだ。 心の整頓をし、大切なものをもう一度思い返し、気合を入れなおす。 目を開ければ、どこかほっとしたような隊員たちがいて。 わるかったなと謝罪をしてから 『戦争の遺恨はいまだ強い。祭りに乗じて攘夷党の奴らも来るだろう。 迷わずやつらの機動力をたったきれ。 そんでもって将軍と市民をすべからく守れ。それと、殺すなよ。 お前らがわざわざ恨まれるこたぁないんだからな。 乱闘にもなっても俺が責任とる。かまわずやれ!』 「まじですかい!? じゃぁ、怪しい侍見たらかたっぱしからたたっきります。後のことは頼みますぜ土方さん」 チャキンと刀の鞘をずらす総悟に、オレは思わず頭が痛くなる。 そこまでやれとは言ってネェよ! 『さっき言った“たったきれ”ってのはなしで』 真選組にはいってきた情報は他にもある。 むしろこっちの方が最悪の情報だ。 『・・・それから』 「土方さん?」 『これは未確認の情報なんだが。江戸にとんでもねぇやろうがきてるって情報がある』 「とんでもねぇやつ?いったいだれだい?」 ちょっとやるせなくなって、目を閉じて、その名を違和感なく話せるように心の準備に一拍使ってから、目の前でかたくなに正座をしてこちらを見つめてくる隊員たちを見やる。 『…以前料亭で会談をしていた幕吏十数名が皆殺しにされた事件があった。 あれは…“やつ”の仕業だ』 あのこの悪口なんか言いたくないんだよ本当は。 ああ、そうだ。これは悪口ではなく事実。 もう彼は許されないことを犯してしまった後。 それゆえに、幕府が最も警戒している男であることは変わらない。 『攘夷浪士の中でも最も過激で、最も危険な男。そいつの名は―』 ―――高杉晋助。 アニメ第17話「親子ってのは嫌なとこばかり似るもんだ」より |