白と赤色の物語
- 銀 魂 -



12.男の生き様
アニメ第16話「考えたら人生ってオッさんになってからの方が長いんじゃねーか!恐っ」より





 -- side 長谷川泰三 --





「おじちゃぁ〜ん」
「なんだい万事屋のお嬢ちゃん」

晴れた昼下がりの、のんびりとした公園。
そのベンチでなけなしの金で買った煙草をふかしていたら、犬の散歩に来ていたチャイナ服姿の娘がス昆布を食べながら声をかけてきた。

「おじちゃんはなんで昼間っから。ここにいるの?」
「ん〜。それはね。おじちゃん、仕事を首になっちゃったからだよ」
「ふーん。おじちゃんはどうして仕事、首になっちゃったの?」
「う〜ん。それはねぇ。一時のテンションに身を任せたからだよ。お嬢ちゃんも若いからって、後先考えずに行動しちゃぁいけないよ。人生ってのはながいんだから」

俺、いいこと言ったかも。
そう思った瞬間。

「おまえに言われたくねぇよ。負け組が」


辛辣な言葉が、チャイナからグサッと投げられる。

「じゃぁな。るでめなっさん。略して【マダオ】」


去っていくチャイナ娘を見て思う。

まえらが原因だろうがよぉぉぉぉ!!!!!





**********





そうだ。
俺は “あの日” から、災難続きだった。

ちょっと前までは出世街道を爆進していたのに、もののはずみで護衛対象の王子を殴るなんてなぁ。
そもそもあのとき万事屋たちが、あのバカ王子のペットのタコをぼろくそにあつかうから。


あれ?なんか泣きたくなってきた。



そのあとも悲惨だった。
次の日には御上に呼び出され「腹斬れ」と切腹を言い渡され、怖いから夜逃げしようとしたら・・・・・・女房に先に逃げられていた。
しかも彼女の置手紙にも【マダオ】とかかれていた。
ふ。 “だめな夫” か。その通りだなハツ。

そこからはグラサンぐらいしか、俺にはのこされてなくて・・・。





**********





職を失い、有り余る時間を持てあましていた俺がきたのは、パチンコ屋。

「よぉ。またきてたのか。いいのでてるか?」
「なんだ万事屋か」

そのパチンコ屋に通い詰めていれば、妙なことに銀色の天然パーマやろうと親しくなった。
二重ベルトにつけている白猫のキーホルダーが実はいつも気になるが、それを聞くのはヤボというものだろう。

「しかしあれだな。あんたもいい年して、毎日。こんなところで時間つぶすとは、カップ焼きそばの蓋についた野菜並みに切ねぇな」
「おまえさんこそその年で真昼間から、こんなところでいりびたってていいのかよ」
「人間思うように糖分をとれねぇと、どうしていいのかわかんなくなんのよ。
そういうときはこうしてタマっころがはじけるのみてると落ち着くんだよなぁ」

死んだ魚のような銀髪をみていると、なんだか俺に似た何かがある感じがする。
生活に保障なさげなところとか。

「あーあ、父ちゃんいると、あの人がおちるかわりに俺達にアタリが来る確率がたいけどな。あのひと不幸体質だから。
今度沖田クンだまくらかして多串クンつれてくっかなぁ」
「……え?は?父ちゃん?だれさんだって?」
「ああ、なんでもない。今のは忘れてくれ・・・・お!今日は必勝の予感♪」

え?なにこいつ。父親健在なの?
しかも扱い酷い。親父さん、可哀そうに。
いったいどうやって育てればこんな子に育つのか、ちょっとだけこいつの父親だという奴の顔が見たくなった。
万事屋の野郎に今日はアタリがでたらしい。なんか不穏なことを聞いた気がするけど、そのまま話を聞ける雰囲気じゃなくなったし、俺にはアタリはこなそうだからさっさと店を出ることにする。

それにこれから新しい仕事の面接があるんだ。


あー。こういうとき聞き上手な土方君がいれば、少しは気がまぎれたんだろうな。
土方君とは、勤務あけに、よく飲みにいった酒屋で何度か会うようになってからは、気付けば酒飲み友達になっていた。
おかげで、管轄が違うのに親しくなった腐れ縁の友人といってもいい間柄だ。
夜に酒でも飲みに行こうか。
もしかするといつもの居酒屋にいるかもしれない。

土方君は真選組の副長だとか言っていたか。
あんなに若ぇのに、しっかりしていて。大人びた風に笑うんだ。
今ここに土方君がいたら、面接の仕方でも聞くんだがなぁ。
面接に行く前に彼にひとめでも会えば、面接ぐらい通りそうな気がするのに―――残念だ。

そういえば、最近会ってないなぁ。
元気かな?





**********





そうだ。今の俺はとにかく新しいものを見つけなきゃならねぇ。
チャイナや元嫁に【マダオ】と呼ばれようとも。
【マダオ】は【マダオ】でも、《まぁ、なんとかだらしなくない男》程度にはならないとな。

さぁ、いくぞと意気込んで面接に向かえば――。



俺の前に並んでいたチンピラのような奴が、あせりのあまり自分の頭を燃やしたりと騒ぎがあった。
あいつは近いうちに子供が生まれるとかで、就職先を探していたようだがうまくいかなかったようで暗い雰囲気で帰って行った。

俺の番だと挑めば、中に入国管理局をやめた大西がいて。

「長谷川先輩。
こんなところであえるとは。今日はどうしたんですか?」

そう気安く声をかけてくるから、融通を聞かしてもらえないだろうかと思った。
ついいままでと同じように返答して

「そうかそうか。お前がいる会社なら安心だ。昔のよしみで上に口をきいてくんないか」

ガッ!と勢いよく眼鏡のパッツン頭の大西に足蹴にされた。

「ふざけんじゃねぇよ!」
「あれぇぇ大西くぅぅんん?」
「てめぇ、長谷川ぁ!!入国管理局の時は随分お世話になったぁ!!」

殴ったこととか蹴ったこととか、根に持っちゃってる!?
そのままさっきのいいひとぶりはどこへやら。大西はまさにチンピラのようだった。

「あ、あれは!上からの命令で仕方なく!!」
「うるせぇんだよ!!ここで仕事したかったらまずは俺にひざまずいて、そのヒゲとれやぁ!このハゲェ!!」
「いたたた!やめて大西君!ひ、ひげっすか!?」

脚でもって机に顔を抑えつけられてる。俺、いたい。
そしてまだハゲてねぇ!
だけど髭は確かにあるな。

「文句あんのかぁ?このさいグラサンもとれ!!ごらぁ!!」
「いや。グラサンだけは!」

グラサンだけはだめだ。
だめったらだめなんだ!俺にはこれだけしかなくて。

「職がねぇくせにこだわりだけはあるってか!
あんた、アレだ。
“まじでダサイ親父” 略して【マダオ】だな」

見下したように言われたことよりも、今日までの間にすでに二度も耳にした略語に、つい堪忍袋の緒が切れてしまった。
そのあとは逆転。俺がつい大西をやってしまって、また俺は職にありつけることはなかった。





――それからは最悪だった。


髪型やグラサンにいちゃもんをつけられては、面接は不合格に。
“まじでださいおっさん” と言われ、そこでも【マダオ】と略称をもらい。
お口が臭いのとグラサンがちょっとと、面接で不合格。
このときは “まったく堕落したおっさん” で【マダオ】。

これは大西の呪いじゃないかと思わず思ってしまほど。
どこへいってもマダオ。マダオ。





【マダオ】・・・。

あげくのはてには。
行った蕎麦屋では、横の客が「ずいシとあげ」と叫び、それも略して【マダオ】といちゃもんをつけ始めた。
思わず殴ってしまった。

「マダオだからどうだっていうんでぇい!!」



うさばらしにと夜に酒を飲みに行けば、

「あんたちょっと店しめるよ」
「もうちょっとくらい飲ませてくれてもいいじゃんかぁよぉ。胸につっかえたつらい現実を酒でとっちまいたんだよぉ」
「っていうかぁ。胸につっかえているさっき食ったもんをカウンターにぶちまけないでくれよ。ほら。サングラスとって目をさましな」
「うるせぇな。吐いてねぇよまだ。俺は大丈夫だよ」
「何言ってんだい。あんたは “まったく大丈夫じゃないお客” だよ」
そこの妖怪じみた婆にまで【マダオ】と呼ばれる始末。

そのあとは、スナックすまいるという店で、時計や指輪やサングラスに値段をつけられ其れを売れと仕掛けられる。あげく金を払う気がないなんて “まともに抱かれたくない男” と【マダオ】と言われ、ゴリラと戦うお妙と言うお姉さんがいて、怖い笑顔で押されるがままに、高い酒を飲まされ・・・金はスッカランとサイフから消えた。

知らない店なんか入るんじゃなかった。
勢いのまま高そうな店に足を踏み入れるんじゃなかった。
こういうときは、いつもの川べり付近の安い居酒屋で、土方君に愚痴を聞いてもらいながら夜を明かす方が何百倍もましだっただろう。
同じ朝日を見るなら、気持ちよく朝焼けを見たかった。



「はぁー…。あーあ。もう夜明けだよ」


「お主、ちょっと待て」

すっからかんにされたサイフに肩を落として歩いていれば、すれちがった有髪僧に声をかけられた。
なんだ。気が立ってるんだよ俺は。

「なんだぁ。坊さんが何の用だよ」
「坊さんじゃない。 “桂” だ」

ヅラ?ああ。カツラダさんね。
ん?どこかで聞いたことあるような?
でも僧侶に知り合いはいなかったはずだ。
まぁ、どうでもいいか。

「突然だがお主。この俺と剣を取り、日本の夜明けにかけてみないか?」
「あんた朝っぱらから何言っやがる?」

突然謎の勧誘をされた。
なにそれ?どこの宗教なの?

そう言葉を続けようとしたら。
ひゅぅ〜〜〜〜っと、どこからともなく爆弾が飛んできて、怪しい坊さんがさっきまでいた場所を直撃して爆発した。
俺は突然の爆風にふっとばされて尻から地面に着地して痛い目を見たのだが、坊さんは危険を察知していたらしくそれを軽々とよけた。

『こたぁーーーー!!!!!』
「む!しまった追いつかれたか」

土煙がまだ立つ中ひびいたのは、どこかで聞いたことのある声。
それと同時に傘を吹き飛ばされて現れたイケメンが舌打ちをして、「ここは一度引くぞ」と先程の声とは真逆の方へ駆けだす。
その際になぜか俺までひっぱられて一緒に走る羽目となった。

「ちょ!ちょっと!どういうことだよお兄さん!!」
「お兄さんじゃない! “桂” だー!!」

なぜか後ろからバズーカ?の砲撃を受けながら、 “カツラダ” と名乗る男と共には知ることになった。
っが、なんで俺まで一緒に走ってるの?と尋ねようとしたが、その前に足元にあった石に躓いて俺はこけてしまった。
いででと思っている間に、俺の横をタッタッタという軽い音を立てて黒いものが、俺を追い越してかけていく。

なんだ?と思っていれば、黒が振り返ったのか。
黒色の中に一瞬鮮やかな緑が見えた気がして、次の時にはそれは驚いたように大きく開き『はせがわくん?』という不思議そうな声が俺の名を呼んだ。
それで相手が黒い髪に黒い制服の人間だと気付く。
しかし彼は、そのまま風のように逃走したカツラダさんとやらを追って走り去ってしまう。


いっでぇ。
なんだったんだ今のは?

正面からズベーっとこけ、いたむ身体に呻きながら、体を起こす。

逃げた男を追って、黒い奴が勢いよく駆けていくのを――そのまま呆然と見送っていたら、犯人も黒い人もがみえなくなったありで、制服集団が血相を変えて走ってきた。


「土方さんどこいったんですかぁー!?」
「副長ぉ!?」
「沖田隊長、どうしましょう土方さんと桂を見失いました」
「チッ。あのひと、またさきばしりやがりやしたね」

俺のすぐ横で足を止めた黒服集団の言葉に、以前の仕事柄おおよその事情を理解する。
どうやらあの謎の宗教をおしつけようとしいていた坊さんは、こいつらに追われていたようだ。

「ふく、ちょう?黒い制服…ああ、そうか真選組か」

ってぇ、ことは、さっきのは、土方君か。
そういえば土方君は、黒い髪に緑の目をしていた。
真っ黒な影だと思ったのは、彼の髪と制服だろう。
天人ではなく生まれつきだという日本人には珍しいその鮮やかな緑の色彩は、いつも穏やかな光をたたえていて、今、もっとも会いたかった酒飲み仲間のもの。
彼の雰囲気に甘えてつい俺は愚痴を吐いてばかりで、あいつはいつも聞き手だった。
そういえば俺が語ってばっかで、俺はあいつのことなんもしらねぇな。

さっき一瞬黒色の中に見えた色は、あいつの目の色だといまなら納得できる。


そうこうしているうちに、バズーカを肩に担いだ薄い髪色の随分若いやろうに、 “攘夷志士” と間違われて捕まった。

ついてねぇ。本当についてねぇ。
そのまま真選組駐屯につれてかるし。
尋問させられるし。

「攘夷党なわけないだろうがぁ!土方君呼んでよ!!本当に俺、以前まで入国管理局にいたんだよ!その長谷川泰三だって!!」

な〜んていっても信じてもらえず。
そもそも信じる証拠も何も持ってない。
外国人じゃあるまいし、いつも身分証明できるパスポートとか持ってるわけじゃない。
職に就いてないから、住所不定だし。
カツラダさん…じゃなくてカツラっていうらしい。そのひとの仲間の容疑かけられるし。
土方さんの知り合いを語るサギ扱い受けるし。
証拠を探せとスッパにされるし。サングラスとられるし、また略して【マダオ】って言われるし。
結局イカを買って帰ってきた土方君がくるまで、俺、釈放されなかったし。
ってか、なんでイカなんか買ってきて、美味しそうに食べてるの土方君!?職務中であのカツラって坊さん追ってたんじゃなかったのかあんた!



そこからもまた災難は続き、真選組の駐屯の門を追い出されて嘆いていれば、巨大な犬におしっこをかけられた。
飼い主誰だとみやれば、あのパチンコ仲間。万事屋の銀髪の旦那がいた。



その後万事屋には、河の横、橋の下にひっそりと運営しているおでんやでおごってもらった。
そのときに「グラサンは顔の一部だとれるわけがねぇ」と告げれば、横から万事屋に熱い拳をもらった。
俺と同じく目に光がないくせに

「ばかやろぉ。なんでもグラサンのせいにしてんじゃねぇよ!躓き転んで石のせいにしたところで何か変わるかぁ!?」

なんでもグラサンのせいにしすぎだと殴ってきた奴は、キラキラ輝いているようにも見えた。もちろん目は死んでたが。
屋台の親父からは「いや、グラサンとればいい話だろ」と言われた。
それができるなら、遠の昔にやっているし。
なにかそれで変わるっていうんだろうか。

「グラサンではなく、俺に “変われ” と?この年で今更俺が変われると思ってんのかよ」
「もういい。座れよ長谷川さん」


「長谷川さんよぉ。信念もってまっすぐ生きるのは結構だけどよぉ、そいつのせいで身動き取れなくなるくらいなら。いっぺん “曲がって” みるってのもてなんじゃねぇの。ぐにゃぐにゃ曲がりくねっててもいいじゃねぇか。そうしているうちに絶対譲らねぇ芯みたいなもんもみえてくるんじゃないか?」

促されて奴の横に座っても、すすめられた酒に手が伸びない。

「――これはおれの親父の言葉だけどさ。
『目を閉じていたら見えるもんも見えなくなっちまう』『世界は目を開けてたもん勝ち。視点ひとつで変わる。世界は無限に広がるんだよ』って、いつも言ってたぜ。
あんたはいつまでそのグラサンごしに物を見てるんだ。むしろそれ本当に見えてんのかよ?」
「・・・・・・」

「なぁ。一度、そのグラサンとってみろよ」

こいつ、本当に父親いたんだな。
それにしてもなんだろうなぁ。
こうしてこんな死んだような目をしてるくせに、いつも笑顔のあの土方さんと話しているような気がしてきちまう。
土方君が言う言葉はいつも突拍子もない言葉でたまに意味不明な猫論議とかばかりだけど、こちらをまっすぐみる緑の目はいつもこちらを気遣うように柔らかくて、勇気をくれたものだ。

明日もがんばろうと――。
そう思わせる言葉が、いまの万事屋の言葉にはあった。

「グラサンにこだわるのは、それからでも遅くネェよ」


胸に来た。 ――ってやつかな。


「ちなみに、うちの父ちゃん。あの年で、昔のあの人からは想像もつかないことを今の仕事にしちゃってるけど。 そうやって昔とは違うことをして、視点を変えてみた世界が気にいっちまったようでねぇ。 こちとら止めてもききゃぁしない。それはもうあるべき本来の姿とか全て曲げてるなアレは。いや。むしろ世界の法則とかも曲げてそうだな。
さすがにアレをまねしろとはだれにも言えネェが。
あんたもうちの親父ほどじゃなくとも、少し曲がってみろって。
親父は、争い事とか嫌いなんだぜあれでもな。だれかが笑ってくれる方が好きだとかぬかしながら・・・似合わない荒事仕事やってんだよ。でも笑って。生きてる」





そして俺は―――

とうとうグラサンを失った。



グラサンひとつとっただけで、こうも人生が変わるとは。

前髪や服装を変えただけで、俺は面接を通ることができ、タクシーの運転手になった。
若造の言いなりになるのは癪だったが、人間ってのは、年齢ウンヌンじゃねぇ。
俺より短い人生で、ずっと多くのことを感じて生きている若造もいるってことだ。
あの万事屋しかり、土方君しかりってな。





**********





「お客さん。どちらまで?」


「お客さんじゃない!隊長とおよびしろ」
「やめろ、おめーら。運転手さんすまない、文化センターまでたのむわ」

この仕事についてから俺はいろんな客と出会った。

『お通』の文字が印刷された青いハッピを着た奴らは、たぶん話題の寺門お通のファンなんだろう。
道中、音痴具合を発揮して歌っていた。

あつい。いろんな意味であつすぎてひいたが、客には違いない。



人を運ぶ仕事をしていると、つくづく思う。
目的地があるってのは、いいもんだ。


「エステ。よみがえりまで」

「病院まで」

「カブキ町までお願いね」

「カブキ町まで」

「日本の夜明けまで…うわ!エリザベス!?」

「すいやせん動物病院まで!!しっかりしてください《シロウ》!あれほどカレーだけはやめろって言ったじゃねぇですか!あ、運転手さん。そこにいるやつはねていいんで! 玉ねぎにあたるなんざぁ。シロぉぉぉー!!」



色んな客を乗せたが、どいつもこいつも目に濁りはねぇ。
濁ってはいないが、一匹白眼向いている猫がいたが。

「・・・・・・」



たしかに人生は変わったが、おっさんは目的地を見失っちまった。

おっさんはこれからどうなるのだろう。
おっさんはこれからどこへいくのだろう。
まるでおっさんは一人だけ目的地が見えない迷子だ。
わるいな万事屋。どうやらおっさんはお前の親父さんのようには、笑えてないみたいだ。

おっさんは。

おっさんは。
おっさんは―――



「どこでもいいからのせてってくれよ」

・・・いた。俺と同じ迷い子が。

新たに乗ってきたのは、銀髪に死んだ魚のような目。
万事屋だ。

「暇なんだよ。ただでつれまわしてくれよ」
「ふざけんな。こっちは仕事でやってんんだよ」
「いいだろおめぇ地平線の向こうに行ってみたいんだ」
「テメェは彼女か」

とりあえず乗ってきたからには客だ。
目的地はわからないままに車を発進させれば、後部座席から万事屋が顔を乗り出してきて、仕事の調子を聞いてくる。

「てめぇが来るまでは順調だったよ」
「こないだは死人みてぇな面してやがったが。ちょっとはましになったじゃねぇか」
「ほざけよ。何も変わっちゃいネェよ。仕事変わったってだけでもくてきもなにもねぇ。先なんか何も見えちゃいないんだ」
「そんなもんだろみんな。 俺の父ちゃんなんかこないだ突然倒れて病院に担ぎ込まれたぜ。まぁ、結局ただの食いすぎだったらしいけど。だれも予測できたやつはいねぇな。
未来なんかだれにもわからねぇ。けどな地べた這いずりまわりながら探してればそのうち見つかるさ」

いいこと言うんだけどなこいつもさ。
だけど

「いや、違うような気がする。だってこの話の中で目が濁ってんの俺とお前だけだもん」





それからはとんでもなく最悪だった。
俺が入国管理局をやめる羽目になった元凶のバカ王子がなぜか客としてきて。
パンダがみたいとほざいた。
なんで王子なのに専用の車屋護衛がいないんだよ。なんでひとりでこんな下町で歩いてるの!?
正体ばれるんじゃないかと恐れた俺は、とっさに逃げようとした万事屋を捕まえて助っ席に乗せたのだった。
そうして走っていけば今度は今にも生まれそうな妊婦を連れた男に呼び止められ、病院に乗せてくれと言われ、 彼女を優先させようとバカ王子に降りるように言ったら、人間をばかにしくさってくれて。
地球人の子供一人や二人どうでもいいとかぬかしやがった。

思わず。
バカやろうを殴り飛ばしてしまった。





**********





そして俺は――――


「おじちゃん。しばらくみかけなかったのに、なんで戻ってきたの?」


またこうして昼間の公園にいる。

「んー?それはね。また仕事クビになっちゃったからだよ」
「なんでクビになっちゃったの?
うん?それはねぇ。自分の芯を貫き通したからだよ」
でもおじちゃんは少しも落ち込んでないよ。不器用なりに俺は俺らしくまっすぐ生きようと決めたからね」

「不器用って言葉使えばカッコつくと思ってんじゃねーぞ。無職が

あはは。最近の若い子は言葉づかいかがなってないようだな。
ああー。胸が痛い。
本当にもうなんか視界が歪んでるよ辛辣娘。どうしてくれんのこれ。

「いくよ定春―。 じゃぁーなー。 “っすぐ生きてもいなしな人生のっさん” 。略して【マダオ】」

結局、俺はどこまでいってもどこにいっても【マダオ】らしい。


「ふっ。なんかもう・・・やんなっちゃったなぁ」




















【後日談】

夢『ばかじゃね長谷川君』
長「うう…あんただけだ!いつまでたっても俺を【マダオ】ってよばないの」
夢『でも俺、あんたのこと《バカ》って言ってるけど。いいのかよそれで』
長「【マダオ】じゃなければ何でもいい!!」
夢『せっぱつまってんなぁ』

夢『マダオねぇ。呼び名なんて、大した問題じゃねぇよ。
それは他者の価値観だろ。
自分が自分をわかっていればいいんだ』

長「なぁ、土方君。君、本当におっさんより年下?」
夢『さぁ?そんなものこの場では特に必要性を感じないが』

夢『それにしてもお前さん、どうしていつもその場のノリで暴力に出ちゃうかなぁ?
そういうときはなぁ、拳じゃなくて言葉で語るもんだろ。
バカにもわかるように懇切丁寧にな』
長「言葉で言ってもわからねぇ相手だったんだよ」
夢『例をいくつかあげようか。
いい風に言うなら――《パンダはいつでもみれるし。動物園は逃げない。動物は逃げるかもしれないがな。 でも “その” 命が生まれる瞬間ってのは、一生に一度だ。あんたの願いは後ででも叶えてやるから、少し待ってろ》―――ぐらい言えばよかったのに。
あとはそのバカを褒めてみるとか。
話をきくに、そいつ、ほめると調子のりそうだし。
たとえば――《今ここであの夫婦を病院に連れて行けば、あいつらや病院の人たちや俺たちももあんたの熱烈なファンになっちまいそうだよ。この色男》 とか言ってみればよかったんじゃね?』
長「そんなことサラっと言えるのおたくだけだからね!おじさんになに難易度の高いものを要求してくれちゃってるのかな」

夢『言葉は時に目に見えぬ凶器となりひとの内を襲い、ときに救いの手となりうる。――ようはものは使いようってことなんだが』
長「・・・いや本当に、マジで、君、いくつよ?」

夢『まぁ・・・。そういう生き方ってのもありかもしれねぇな』

長「土方君…?」
夢『オレの武器はこのよく回る口でね。
俺は争い事が好きじゃねぇ。 誰にも傷ついてほしくなくて近藤さんと真選組をやってる。 だがそれはあくまで血をみたくないってことに近いんじゃないかと最近思ってる。 現に性分でねェ、オレ、刀を振り回す代わりに、言葉で相手を持ち上げて落すのが好きなんだよ』
長「!?」
夢『・・・というのは、マジで冗談だ。
口だけで言い返しても。物理的に相手を傷つけないかわりに、違うところから傷つけてることだってある。
そういう意味じゃぁ、力技で己の信念を貫き通すっていうあんたの方がやさしいんだろうさ』
長「ほめてもなにもでないからな」

夢『長谷川君は、イイ人だな』
長「?」
夢『あんたはどんなに嫌なことをされても。 たとえ誰かが原因で仕事をやめることとなっても。 決して、相手をせめぇね。 それはあんたの美徳だ』
長「はは、どうだか。心の中ではめいいっぱい叫んでるがな」
夢『“心の中”で、だろ。実際に口には出してねェ。
オレはそういうあんた、いいと思うぜ?』



長「ちょっといいかな?」
夢『んあ?』
長「君、本当にいくつよ?」

夢『くっくっく。さぁな』









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