白と赤色の物語
- 銀 魂 -



11.夕暮れシンドローム
アニメ第14-B話「脇だけ洗っときゃいいんだよ脇だけ」より





 -- side 沖田総悟 --





家出したというお姫様(人間のだ)を探して、なぜか俺たち真選組に出動要請が来た。
真選組ってのは、武装警察というやつで、攘夷志士どもやヤバメな奴らを相手に、武器もってどんちゃんやるようなのが役目だと思っていたんですがねェ。
いつから人探しまでやるようになったんだか。

しかも暑い。
さらに制服の布がクソ厚い。
いっそのことバズーカで太陽を爆破できないだろうかと思ってしまうほどには、色んな意味で“あつい”んでさぁ。
そろそろ夏なのかねェ。

とりあえず近藤さんの制服の袖をたったきって、《のーすりーぶ》にしたところ、むさくるしい真選組で好評となり、土方さんと俺以外がその改造制服を着ている。

土方さんが起きていたら、「チンピラにしかみえねぇからやめろ!」と騒いだごとだろう。

たぶんあの人のことだから、グチグチ文句を言いながらみんなの制服を縫い直すに決まってる。
無理やり破いたから、きっと修復をも大変だろう。


あのひと料理得意だし、着物とか自分で作っちゃうし。
見事なおかんだと思う。


そのわりに、かっこいいことをサラっと言うんだ。
はずかしげもなく。



―――《土方十四朗》ってぇのは、変なおひとだ。
むしろひとなのかそうでないのかもよくわらかない、変形する生物である。

彼はきっと先頭を歩く近藤さんの横に居ながらも、俺たちの前を歩いているつもりはない。
俺達に近藤さんの横を歩かせて、自分はしんがりを務める――そんな感じの場所に、あの人は、いつも笑って立ってる。

だから俺たちは

 いつも好き勝手出来る。


あのひとが、オレたちの《後ろ》にいるのがわかるから。
つい頼ってしまうんだ。
任してしまう。
寄りかかってしまう。
それでいいとあの笑顔が言っているようで・・・

そっかぁ、アレだ。
土方さんちゅー生き物は、いうなれば、困っているときに背を押してくれるような人?だろうか。

まぁ、本当に気付いたら背後にいるってわけでも。歩かせられてるわけでもないんですがねぇ。
ただ心の置き場所が、俺たちとは違うってこと。
身内と認めたものを本当に大事にしすぎてさ。家族とか身内って存在を心から喜んで、大切にするから。
俺達と同じ場所を共に歩いてるのに、あのひとは俺たちを《見守る側》にいる。


こないだ俺は近藤さんに「考えすぎだ」って言われやしたがね。世の中には土方さんみたいに、もっと酷いのがいる。とんでもなく考えすぎていて、あげくここにいる問題児さんは、抱えこみたがり屋ときている。
しまつにおえやしやせんぜ。
土方さんはさ。絶対に頭のネジ数本抜いたほうがいい。
あーんなキマジメは、何も考えず生きてればいいのに。
あのひとは、腕の中にある大切なもんみて、いつもみたいに幸せそうにわらってればいいんでさぁ。
勝手にこっちの様子うかがって一喜一憂して、バカみたいにつっこみをいれて、ずれたこと言って、笑わせたり、笑ってればいいんでさぁ。


本当に――。

懐が広すぎなんすよ、あのひと。

悔しいけど。
きっとそこがいいところなんでしょうがねぇ。



ん?

おっと、いけねぇ。
なにほめてんだい、俺は。

俺が土方さんをほめたなんて、本人には絶対に死んでも言いやしませんがね。

――土方さんのことは、ともかく。





話を戻して――。

ぶったぎった袖なし黒制服のムサイ男軍団について。
そんな奴らが迫ってくるところを、ちょっと想像して御覧なせぇ。

「・・・・・・ないな」

あんな怪しい集団に探されたら、さすがにお姫さんもビビって逃げるだろう。
妄想でもダメだったんだから、実物はもっとNGに違いない。
しかも相手は世間を知らない箱入りのお姫様。

われら真選組が、家出中のお姫様と遭遇できる確率はきっとめちゃくちゃい低いと、実のところ俺は思ってる。

真選組の良心的立場にいる土方さんがいないから、本当にうちの組は暴走しまくっているし。
真選組のヤロウどもはみんな強面で、警察っていうより悪い人の集まりに見えるのは、否定できないんで。
他者から見たありえないこわい集団である。

面白いからつっこむきなんざないんですがね。
むしろあの無理やり感あふれた袖なし制服が流行るとは思ってなかったし。
人の目?しったこちゃねぇです。
もう、むさ…じゃなくて、すずしければいいんじゃねぇですかね。

俺は人を探すより、ドカンと一発バズーカをぶっ放す方が性にあってるんですがねェ。



それより早く帰りたい。
あついし。
土方さん、ちょっと心配だし。

・・・布団からまた逃げ出してないかとか。


せめてこういうのをすぐに解決してくれそうなお助けマン的な何かは・・・・





お。噂をすれば何とやら。
いいところに、顔が広い奴が・・・。


「万事屋の旦那じゃねえですかい」


前方をだるそうにある坂田銀時を発見。

あいつは顔が広いし、土方さんに並ぶトラブルメーカー。
なら、もうちゃっかり家出娘と遭遇している可能性もある。
これでもう探さずに楽ができると、声をかけたら、死んだ魚のような胡乱とした目が振り向いた。

なんてだるげ。
こっちまで生気を吸われそうだ。
坂田銀時――本当に土方さんとは髪色以外はまったく似てないだけじゃなく、纏う雰囲気は真逆の生き物である。


それみしても。すっかりあつくなってきて、カッチリした制服が熱くなってきてるこの時期には旦那の恰好はうらやましい。
着流し姿の目の前の万事屋は冬も夏も関係なく、いつもどおりの涼しそうな半袖を中に着ている。
俺はともかく、駐屯所ではいま袖をぶった切ることで袖なしにした制服をみんなが着ている。

寝込んでる土方さんは、相変わらずの着流し姿で布団の中だが。

みぐるしいのの仲間になりたくなくて、とりあえず俺はいつもの制服のままだ。
あついのはかわらない。
やはりクールビズの企画を提出しよう。
土方さんならきっとやってくれる。
変なところできまじめだから。
だから書類押し付けられんだよ。
うん。そうしよう。土方さんに頼もう。


銀時の旦那の涼しそうな姿をみていたら、よけい今着ている制服が熱く感じて、さっさと要件を済ませようと、お姫さんの写真を奴にみせる。

「こんな女の子見てませんかね?」

なに?あんたのイイナヅケ?とかわけのわからないことを言いながら、それはもうだるそうな態度で旦那は写真を覗き込んでくる。

「どれどれ。い〜んや?
それよりうちの神楽みなかったか?帰ってこないんだよあいつ」
「さぁ。みてやしませんぜ」

どうやら向こうもチャイナ娘を探していたようで、もう旦那の興味が写真から移っている。

「そっかぁそっかぁ。悪かったな沖田クン」
「こっちが先に引き留めんでさぁ。じゃぁ俺はコレで」
「あっれぇ?・・・あ。ちょい、待ってくれるか?」
「なんでい」

姫さん、さっさと探さねぇと。
夕方のドラマの再放送間に合わねぇじゃねーですか。
あーいま駐屯のビデオ壊れてるから、帰りたい。
間に合うかなぁ?みれるといいんだけどなぁ。

「ねぇねぇ多串クンは?沖田クンいつも一緒にいるよね?
なにしてんの多串クンてば。
無理させて書類押し付けてたりとかしてない?あんたら迷惑かけてない?仕事しすぎてて寝込んでたりしない?」
「チィッ!このファザコンが」

ふいにキョロキョロと周囲を見渡して、さらにはごみ箱の中や自動販売機の中に頭を突っ込んだりしはじめた。
なにをやっているのだろうと思ったら、銀時の旦那はどうやら土方さんをさがしていたらしい。
こいつ、バカか?確認するまでもなかったか。ああ、バカでやしたね。

普通に考えてそんなところにいるわけないだろ。
むしろいつも一緒にいるわけじゃない。

しかも最近のあのひとは動けない。
じっとしてられないたちなのか、すぐに逃亡するので、医者が張り付いて布団にしばりつけてる始末。

銀時には知らせるなとは言われていたが、本当に知らせなかったのか。
こいつファザコンだろ?いいんすか土方さぁん。

連絡取れなくて心配してんのはわかんだけどなぁ。
なんで俺が、あんなバカのバカ行動をみなきゃいけないんだ。

めんどくせぇです土方さん。

「ねぇねぇ沖田クン。最近シロウと連絡取れねぇんだけどしらない?」

「あー・・・あのひとは」

あのひとはいまごろ医者と言い争いながら、お昼寝中だろう。

「土方さんはですねぇ」

おかしくなってますと、正直に言っていいのだろうか。

あの人はしばらく前のガマの麻薬騒動で、腕はうたれるわ。大量に麻薬を嗅いで、あげく麻薬を大量にかぶったりで、それがまだ尾を引いていて、いまだ再起不能中だ。
それをあの人の子供であるこの目の前の天然銀髪パーマに言うのは気が引ける。

当の本人からは、『面倒だから言うな』と言われてる。
そこで面倒と言い切るところが、この天パのふぬけた子の、その親らしいともいえる。

土方さんは、最近ようやく幻覚から解放されたのだが、まだ頭が痛いとうめいて日々寝ている。
たまに這いつくばって廊下をうごめいている姿は、夜の駐屯所などでは悲鳴があがる恐ろしさがある。
最近真選組駐屯で悲鳴が聞こえるのはそのためだ。

ああ、うん。土方さんの言うとおり、説明が面倒い。
『心配されるのもその対応も面倒』と言ったあなたは正しかったようですぜぇ。

「・・・自ら率先して仕事しすぎてたおれてまさぁ」
「あー多串クンならありえるか。
えーっと沖田クンは人探しだっけ?ま、がんばって〜」
「へいへい。あんたも」

いまので騙されるって・・・。
土方さん、普段から働きすぎだというイメージが根付いてますよ。
仕事ばかりして嫌われちゃった父親のような。放置された子供はそうしてひとり大人になって・・・。
いや、銀時の旦那は懐いてるからそうでもないのか。

ヒョロ〜っと、どうでもいいわ〜とばかりに手を振って去っていく銀髪天パーに、こちらも軽く言葉を返して別れた。





結局、姫さんは、万事屋のチャイナ娘と一緒に半日を過ごしていたらしい。
姫さんは自ら俺達真選組のところに来てくれて、なんとか夕暮れ沈む寸前には帰路に付けた。
ただしみたいドラマの再放送は始まっていたが。

それ以降、TVで姫さんがス昆布を食べる姿がみられ、城下の子供たちにス昆布が流行ったのは・・・なんの因果やら。




















【後日談】

夢『総悟。“うちの”に会ったのか?』
沖「あんたが寝込んだのは、仕事させまくってる俺らが悪いってぇー。
あんたのところの銀色に悪人あつかいされたんすけどぉー」
夢『よかったなぁ成敗されなくて。ヨシヨシ』
沖「・・・土方さん。それ山崎」
近「まだなおってないしー!?トシィー!!!」
夢『あつくるしいわっ!!このけむくじゃらがー!!』
山「キョクチョォー!!!????」

沖「・・・流行りのス昆布でもくわせてみたらなおりますかねぇ?」

夢『くっくっ』
沖「ん?」

医「ほら!副長さんは寝ろい!!
隊長さんもでていきなされ!!こやつはまだまだ安静が必要じゃ!病人がいるんじゃから静かにせい!!」

























医「やれやれ。ようやく出て行ったか」


夢『くくく。騒がしいが可愛い奴らだろ?』

医「あんた、ずいぶんここの奴らに好かれてるようじゃなぁ。毎日見舞いに来るなんてのぉ」
夢『可愛がってるからなぁ』
医「いいのかい?もうずいぶん前に禁断症状も幻覚も落ち着いたじゃろうに」
夢『かまわねぇよ。副長ってぇのは、仕事が多くていけネェ。たまには心からの休暇もいいもんだ』
医「ふぅー。今回はたまたま腕をかすめただけじゃがなぁ」

医「のぉ・・・ 《》 さま」

夢『ん?』
医「昔のような無茶はいけませんぜ。あんたもわしももう若くはないゆえ」
夢『はは。そうだなぁ〜。すっかりお互いに老いた』
医「ええ、そうですとも。新しい時代のうねりはすぐ側まで来ていましょうぞ。そのときに貴方の横を共に歩きたいと願っても、もうわしらは共にはいけますまい。それほど時は流れたのでございますよ 《》 さま」
夢『すまないなぁ。
だが、できるならば・・・。
そうだな。あと、三日でいい。このままもう少しだけ夢を見ていたい』
医「……やれやれ。ではあと三日だけ目をつぶりましょうぞ。
このわしは何も見ておりません。それでよいのじゃな“副長さん”?」

夢『そうしてくれ』









アニメ第14-B話「脇だけ洗っときゃいいんだよ脇だけ」より








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