白と赤色の物語
- 銀 魂 -



10.猫の嗅覚なめたカエルは燻製に
アニメ第14話「男にはカエルに触れて一人前みたいな訳のわからないルールがある」より





 -- side 夢主1 --





はい。土方十四朗です。
ただいまなじみの真選組の恒例会議の最中です。

「えー。みんなもう知ってると思うが、先日宇宙海賊《春雨》の一派と思われる船が沈没した。しかも聞いて驚けこのやろう。やつらを壊滅したのはたった三人の“侍”らしい」

やばいですね。
昨日の《春雨》事件が噂になっている。しかもあれを爆破した犯人のことまで知られてる。
オレ、怒られる?
なにもししません。らず存ぜぬ。――って顔で、オレは大人しく近藤さんの横に座っていたんだけど、意外と目撃情報ってバカにならないね。
ばれてるじゃん。やったの“侍”だって。
ん?まてよ。あ、じゃぁ、平気か。
だってこないだ《春雨》に乗りこんだときのオレたちの恰好って、どうみても“サムライ”には見えなかったはずだ。
侍じゃなくて、海賊の船長ぽかっただろみんな。
うん。きっと大丈夫。
そうじゃないなら、情報集めて目撃者をうまく丸め込みに行こう。

「ってぇ、驚くどころか。だれもきいてねぇし」

オレが無表情の下でいろいろ考えてる間にも話はすすんでいたのだが、どうも芋侍である真選組には落ち着きというものがなく、全員が好き勝手だべったり適当に座っている。
近藤さんがせっかく真面目な顔をして話しているというのに、なんつー行儀悪さだ。
まだお隣のミィー子さん(猫)の子供たちの方が行儀よく座って話を聞くぞ。

どうしてくれようかこいつら。
そう思っていたら、横から「トシ」と鋭い声が投げかけられる。
近藤さんの方を見れば目が若干まじだった。
なので了解とばかりに頷き

『今日の晩飯当番はオレなんだが』

そうボソリとつぶやけば

ピタリと喧騒が止まる。
それにニッコリと満面の笑みを見せて

『みんなでコレステロールを増やそうか?』

ドタドタドタドタ!!!

「「「「「お話をどうぞ局長!副長!」」」」」

っと、騒々しく隊列を整えると、綺麗に整列してあげく正座までして背筋を伸ばすと、見事にはもった声で彼らは言った。
顔を青ざめさせて、こっちをたまにおびえたように見てくるので、ニヤリと口端を持ち上げてやる。

『冗談だ』

そう何度も食料をむだにするわけにはいかねぇ。

いやぁ〜。
こないだお腹すいたときに、ついでにみなにもうまいもんをご馳走してやろうと土方スペシャルをつくって振る舞ったら、みんな苦痛におののいてたんだよね。
おいしいのに。
残す人も多かったしねェ。無理やり食べさせたのは悪いと思ってるんだよ。
だからもうお米を無駄にしませんって誓ったのさ。
だから今日はやらないって。
そんなに怯えないでほしいなぁ。

でも気持ち悪くなるの、しかたないとは思ってるよ。
だって人間だれしも同じものを食べすぎると気持ち悪くなるんだろ?たとえば吸血鬼が血を吸うが、人間は血を口から摂取なんてできない。
あれは体が受け付けないからなんだ。
つまりマヨネーズだけでは、具合が悪くなるのも仕方ないんだよ。

知っててやったのか!?と言われるとちがうけどな。
こないだ真選組のみんなが倒れて医者を呼びに行ったとき初めて知ったんだ。

オレは平気なのにって医者に言ったら、味覚の問題じゃろと言われた。
好きだと思っていれば、受付ない物も時間をおけば食べれるようになるそうな。
現にパンダなんかは熊だ。ほんらい草は食べない。だけど笹が好きだという理由だけで、もう一本指を増やして食べれるよう進化をとげたのだとか。
へぇーって感心して聞いてたけど。よくよく考えるとあの医者詳しすぎね?



そんなこんなで、ちょっとやる気をなくしてげんなりした近藤さんが、まったく同じ会話を始めた。

「えーー。
みんなもう知ってると思うがぁ。
先日宇宙海賊《春雨》の一派と思われる船が沈没した」

いまのNG?
ってことは、これはテイク2だな。
テイク10までいかないことを祈る。
テイク3もいらないって?そんなん知ったこっちゃねェ。


「しかも聞いて驚けこのやろー。やつらを壊滅したのはたった三人の侍らしい」

「「「「えー!まじっすかぁ!!」」」」

『うわ。しらじらしい』
「トシ、いい」

話がすすまんと視線を向けられ、演技過剰な真選組のやつらに思わず突っ込んでしまったオレは慌てて口を閉じる。

「その三人のうち一人は攘夷党の桂だということがわかっている。
まぁ、こんな芸当ができるのは奴しかいまい」

今の世。あの子だけが、爆弾魔ですからねー。
他の攘夷志士はいまだに銃か刀で戦ってきますし。


それよりさ。
なんかさっきから、ずーっと総悟が、オレのこと白い目で見てくるんだけど。
なんでかな?


「《春雨》の連中は大量の違法薬物を江戸に持ち込み売りさばいていた。攘夷党じゃなくても連中を許せんのはわかる。
だが問題はここからだ。
違法薬物の密売に幕府の官僚が一枚噛んでいたとの噂がある。
違法薬物の売買を円滑におこなえるよう協力するかわりに、利益の一部を海賊から受け取っていたというものだ。
真偽のほどは定かではないが。江戸に散らばる攘夷派浪士が噂をききつけ、奸賊討つべしと、暗殺すべしと画策している」

あ、嫌な予感。


「そこで俺達の出番だ!」


近藤さんがその後口にした言葉に、全員の顔が渋くなったのは―――いうまでもない。
オレは近藤さんの横でひそかにため息をついた。





**********





あのあとオレたちは、その“密売に一枚かんでいた疑いのある官僚”の護衛を任された。
言うと思ったけど。
本当にお人よしだよなぁ近藤さんって。

そんなわけで、ただいま真選組一同で、やっこさんのお屋敷を警備中だ。





『・・・寝てぇのはわかるんだけどなぁ』

縁側で独特なアイマスクをして寝ている総悟に、思わず苦笑が浮かぶ。
しょうがねぇなとその頭をワシワシ撫でながら、オレも縁側に腰を下ろす。
総悟の髪は銀時よりサラサラだ。
銀時はサラサラではなくフワフワだ。
に、してもなぁ、このアイマスク。なんで目がついてるんだろう?
マツゲも書いてあるし。これ、下まつ毛はかかないのかな。

にしても。気持ちよさそうに寝てくれちゃってよぉ。
オレも寝たいよ。

でもこの屋敷では寝たくないかな。

「なんででさぁ?」
『あ?だってよぉ。この屋敷くさいだろ。あの《春雨》の船でかいだのと同じ匂いがするし。あと生臭いカエルのにおい』

小太郎が爆破してたから途中で火薬のにおいにあふれてしまったけど、あの船はネットリと“麻薬”のにおいが染みついていた。
それと同じ匂いがする――って、これまちがいなく黒じゃん。
噛ん出る可能性とか噂とかの、領域超えて真っ黒けだよね?
あとで山崎にこっそり証拠物件押さえてもらおう。
そのまま社会的地位は落としてやろう。

「やっぱり。“三人”ってのは、万事屋の旦那とあんたでしたか」
『おはよーさん総悟』
「土方さん。俺が起きてんのわかってるなら話しかけねぇでください」
『まぁまぁ。総悟もオレのこと知ってたし?お互い様だ』
「俺のは勘でさぁ」

だって会議の時、“三人の侍”の話になったら、ジト目でこっち見てきてたしな。
だるそうにアイマスクをはずして起き上がった総悟の色の薄い頭をわしわしとなでていたら、背後からどんよりとした空気が漂ってきた。

「おまえらぁ〜」

「あ、近藤さん」
『近藤さんも頭なでてほしいのか?』

「そうそううらやまし…じゃなくて!いやいやいや!そうじゃなくてな!仕事しろよぉおい!!こうしてる間に攘夷浪士どもがきたらどうするんだ!
仕事中になに遊んでんだ!お前らなにか!?修学旅行気分か!まくら投げかこのやろ」

ドカッ★

今にも泣きそうな顔してたのが、パッと怒りに変わる。
そのまま近藤さんに殴られ、怒られていたら、近藤さんがさらに背後から殴られた。

たおれた近藤さんの背後には、カエルの天人。

「お前が一番煩いじゃろう!ただでさえ気が立っていると言うのに!」

「すんません」

「ったく!役立たずな猿ケロ!!」

頭をさすりながら謝る近藤さん。
去っていくカエル。

「なんだよあいつ。こっちは命がけで警護してやってるっていうのに」
『おまえは寝てただけだろ総悟』

「そういうトシも一緒に休んでただけだな」

いやだって。あれに近づくと、鼻が曲がりそうだし。

はぁー。
なんで黒だとわかってる奴を守らねばならんのかねェ。人間てのは面倒だなぁ。

『なぁ、ちょっといいかい近藤さん』
「なんだ?」
『おりゃぁ、ただサボってたわけじゃないぜ。オレ、ここにいると鼻が曲がりそうなんだが』
「む。お前には悪いと思っているが。でも仕事だからなぁ。
って、なにがにおうって?」
「『麻薬』」
「ブフォッ!?」

オレと一緒に声をだした総悟。
そこででてきた単語に、近藤さんがなにもないのにふいた。

犬より鼻がきかないとはいえ猫ですから。
ひとにはわからない匂いもよくわかる。

総悟の顔を見るに、表情はひとつも動いてない。
お互い真面目な意見だもんなぁ。
そりゃぁ、笑い顔なんか浮かぶわけがネェ。

「そ。それ大声で言うなよ!?」
「大声なのは近藤さんの方でさぁ」
『まぁ、おちつけって。近藤さん。
あんたがそんなんじゃ下にしめしがつかねぇ。あんたはまだまだ若いなぁ』
「・・・いや。近藤さんが若いんじゃなくて、土方さんの年齢が異常なんでさ」

二百歳だけど?それがなに?
このぐらい動揺されても。
オレが困る。

とりあえず周囲でだれか耳をそばだてていないか挙動不審になった近藤さんをなだめ、縁側に三人で座りなおす。

っが、

『うぇ』

あれま?なんかー・・・頭クラクラしてきてた。
その勢いで一度縁側から落っこちる。

なんだぁ?と思って、ふと鼻をくすぐるなんとも言えない“におい”に納得する。
これはあれだ。
船酔いと同じような〜。ってちょっと違うか。意識がもうろうとするような一歩手前。

そういえば銀時のところのチャイナと眼鏡も薬をつかわれたせいか、救出後に、頭が痛いとか言っていたのを見たな。
症状似てるよな?
これってあれか?麻薬のにおいのせいかね。
猫にも効くのか。ビックリだ。
猫を酔わすならマタタビでいちころなのになぁ。

あー。ダメだこりゃぁ。ぼぉっとする。


――匂いが、つよい。


あぁ、でも。まだ、ましか。
銀たちとかけたあの戦場は、鼻が狂うような血の匂いに満ちていたから。

「土方さん?」
「トシ?」

『やべぇ。ここ、意外と量、おおい、かも?』
「ぅげ。もしかして土方さん、“あてられ”ちゃてます?」
「・・・トシは鼻がいいからなぁ」

頭を押さえて、ずるずると縁側によじ登れば、二人から心配そうな顔を向けられる。
それに大丈夫と手を振って、とりあえず鼻をつまんで、他のことに意識を向けることにする。

こんな頭痛を招くクサイ匂いより、イイ匂いを思い出すんだ。
そう。たとえばイカの炭火焼きとか!
イカ・・・いいなぁ。

そういえばここの天人ってカエルだったか。
カエルは両生類で。

『たしかカエルは唐揚げにすると鶏肉の味がするんだったか。焼き鳥よりイカだな。
あー。イカ喰いてぇ。イカのフライもいいかも』
「こりゃぁ。重症っすね」
「すまんトシ。もうすこし耐えてくれ」

うん。頑張りまーす。
かわりに後で匂いのいいものおごってください。
できればイカで。
フライより焼いたイカがいい。けど《イカ焼き》という名のお好み焼きみたいのはいらん。
イカ。うん。イカがいい。イカ。焼いたイカ・・・

「イカ…じゃなくて。うつちまったじゃねぇですかイカが。
って、そうじゃなくて!近藤さん、幕府の高官だかなんだかしらねぇが、なんであんなガマ守らねばならんのです?このまま土方さんに調理してもらった方が、世間様のためになりまさぁ。あと土方さんの空腹を満たすのにちょうどいいかと」
「総悟。あんな奴でも幕府の高官だ。
それにな俺たちは幕府に拾われた身だぞ。幕府がなければ今のオレ達はない。
恩に報い忠義を尽くすのは武士の本懐。真選組の剣は幕府を守るためにある!」
「だって海賊とつるんでたかもしれない奴ですぜ。
っていうか、『かも』どころか、土方さんのおかげで、灰色が完全に黒が証明されたときた」
「あ、あぁ・・・。たしかに…黒、だったな。だが」
「あいつを守るなんて、どうものれねぇよ。ねぇ、土方さん」

『オレはいつもノリノリだぜ』

ボォーっと総悟と近藤さんの話を聞きながら空を見上げていたら、総悟に話を振られた。

あ、あの雲。ステキ。イカに見える。
あー・・・なんか口寂しいな。
たばこは体に悪いって保健の授業で習ったから吸う気にはならないけど。
やっぱし、イカがたべたいなぁ。
猫の時は、イカはダメっていわれたんだ。体によくないって。
その衝動か、人になってからはよくイカを食べたくなる。
イカ。イカ。イカ。イカ・・・。
炭火で焼いて、ゲソだけでも醤油に付けてジュっと焼いて・・・。

『生姜もほしいな』
「トシ、よだれでてるぞ」
「…ほらみなせぇ。土方さんもやる気ない。っていうかそうとう参ってまさぁ。
みなせぇ。みんなやる気をなくしちまって。
山崎なんかミントンしてますぜ」

総悟に近藤さん共に見ろと言われた方を見れば、黒い制服の奴らがいっぱい。
黒い制服、好き勝手にだべっている生徒たち。うん。どこの修学旅行ですかって感じだ。

ひとり変なのがいるけど。
名を山崎。なぜにミントン?
おー。スゲーなあいつ、山崎。妄想でミントンしてるし。
むしろあれ、剣に持ち変えたら、すごい打撃系戦士になりそうだなぁ。

っていうか、真選組の奴ら、会議の時以上にみんな自由すぎる。
いや、これはもうだらけているという領域だろうか。


『ヤマザキー!!!』

とりあえず指揮がこれ以上下がるのはまずい。
目に見えて一番ダメそうな山崎だけでもおさえようと、オレはイカの食べれないうっぷんとともに駆け出した。


それに山崎にはこっそり頼みたいことがあるんだ。
例えば“証拠”さがしとかな。

とっとと。この匂いを何とかしたいからな。
じゃないと、そのうち護衛対象を焼いて、焼き鳥屋にもっていきたくなる。


オレにふんじばられて悲鳴をあげている山崎に、こっそり耳打ちして“アレ”を探すように命じる。
もちろんそうはみえないように、“フリ”で山崎を踏んじまっている。もちろん“ふり”だ。

そのオレの突然の指示に驚きの表情を見せたが、すぐに真剣な顔で頷いた。
なに?オレが本当にお前をいたぶりに来たとでも思ったわけ?ハッ!そんな無駄するわけないだろ。時間が惜しいんだよ。
山崎が小さな声で「場所の見当はついてますか?」と尋ねてきたので、それに口端が持ち上がる。


さぁ、いけ!ヤマザキ!

お前の影の薄さを見せる時だ!!





**********





「土方さん、よっぽどイカがたべたかったんすね。笑顔で山崎しばいてますぜ」

オレが山崎をフルボッコにしてるフリの最中に、近藤さんと総悟が、そんな会話をしてるんなんて思いもよらず――


「総悟よぉ。あんまりごちゃごちゃ考えるのはやめとけ」
「近藤さん?」
「目の前で命狙われてる奴がいたら、いい奴だろうが悪い奴だろうか、手ぇさしのべてやる。それが人間のあるべき姿ってやつだろ」

いいこと言ったハズの近藤さんに、総悟は顔をしかめる。

「人間?・・・土方さんって人間ですか?」
「ん?ぅん?まぁ、トシは論外だな」
「猫は自由な生き物でさぁ。うらやましいこったで」



猫は猫でもな。
人間としての《土方十四朗》は、“人”というくくりに縛られてるんだ。
オレは、自由ってわけじゃぁネェよ。

そんでもって、オレたちは《真選組》というものに束縛されて、ここにいるわけじゃねぇだろう?
自分の意思で、オレたちはココにいるんだ。

好きな道をおのれで選ぶ――それこそまさに“自由”ってやつじゃねぇのかい?


なにか忘れちゃいけねぇこと忘れてないか。なぁ、おまえたち?
真選組は“なんのため”に集まった?





**********





「土方さん。局長が」
『ちっ。あの両生類が。外に出やがって』

頭痛いから早くしろと。山崎に愚痴りながら、どこの場所が怪しいか指示を出したていたら、廊下を歩くカエルとその後を追う近藤さんの姿が目に入った。
目くばせで山崎にあとをまかせ、近藤さんのもとへ駆け寄る。
再度しっかりと頷いた山崎が死角に入らない位置へといき、何人かの隊員を動かしたのを見て、あとはカエル様をなんとかするだけだなと思ったのだが。

「ちょっとぉ禽夜様。だめだっつぅの!」
「うるさい!もうヒキコモリ生活はうんざりだっての!」
「命狙われてるんですよ!わかってるんですか」
「貴様らのような猿に守ってもらっても何も変わらんケロ」

「猿は猿でも俺たちは武士道っていう鋼の魂持った猿だ!
なめてもらっちゃこまる!」

いや。オレは猫だけれどな。

「なにをぉ!!なりあがりの芋侍の分際で!」

カエルと近藤さんが言い合っている声が聞こえて、このカエル、闇討ちしてやろうかと思わず思ってしまった。猫の姿でいけばきっと目撃証人はとれまい。
どうしようかなって思っているときに、殺気を感じた。
視線を向けるとこの屋敷の正面にある時計台に、光るものが見えた。
瞬間、オレはかけだしていた。
同時に近藤さんもそれに気付いたようで、視線を時計台に向け、カエル天人の前にとびだそうとする。

「「局ちょぉ・・・って!? !えぇぇ!副長ぉー!!?」」」

オレは近藤さんを横から蹴り飛ばし、オレがカエルの前に立った。
真選組の仲間たちの声が響く。

バン!と狙撃音がする。

「「「副長ぉ!!!」」」

チュイン!と弾丸が跳ねる音がする。
肩に鈍い衝撃が走り、ようやく硝煙の匂いが鼻についた。
やれやれ。
この屋敷に漂う変なにおいのせいで、随分と鼻がきかなくなっていたようだ。

最も門の近くにいた奴に「追え」と命じ、服を裂いて血を止めるように軽く止血をする。

『いってぇなこのやろうが』

近藤さんに当たったらどうしてくれる。
オレだったからいいもの。
そう簡単に化け猫を殺せると思うなよ。オレは図太いんだ。
死んだら死んだで末代まで祟ってやるぜ。

「局長!副長!!」
「副長大丈夫ですか!」

のぶとい男どもの声が傷と、ゆらぐ脳みそに響くわ。
振動派による攻撃ですかコノヤロー。

集まってきたやつらが、壁にあたまぶつけて倒れてる近藤さん(オレが蹴り飛ばしたせい)と、撃たれたオレを心配して駆け寄ってくる。
それに舌打ちしたくなる。
護衛対象はオレではなく、目の前の緑の生き物だ。こんのクソガエルがぁ。まじでフライにして揚げてやろうか?
まだ暗殺者はいるかもしれないってのに。
オレらの周りを囲んでんじゃねぇ。あいつを守れ。
と言おうとしたら――

カエルが地雷を踏んだ。

「ふん。猿でも盾かわりにはなったケロ」

それに激怒した総悟が、瞳孔カッ!とひらいて剣に手をかけた。
撃たれた位置的に手で止めるのは無理だったので、オレも腰から剣を抜いて、その刀を正面からとめる。
キィーン!と金属のぶつかる音がして、オレに気付いた総悟が赤茶色の瞳をさらに驚きに目を見開き、困惑気味に視線を彷徨わせる。

『やめとけ総悟』

その目がオレを認識したのをみて、ニカっと笑ってやる。

「土方さん・・・」
『瞳孔ひらいてんぞ』

瞳孔ひらくまで激怒するたぁ。
うん。みんな本当に近藤さん好きだねェ。

ハハ。近藤さん蹴ったのオレだけどな!

ついでにいうと縦に瞳孔がガッ!とひらくのは、飲酒したオレの専売特許で十分だよ。
なにせオレ、猫だからなぁ。
そりゃぁ、ひらくっしょ。瞳孔。



ところで。
近藤さんが起きないんだが。


やべぇ。近藤さんにとどめ刺したの・・・・・・オレか?!





**********





えーっと、肩に銃弾うけましたが、運よく弾が貫通したおかげで意外とピンピンしてるオレです。
左腕を包帯で固定されてるけどな。

っで。

頭にでかいコブをつけて“意識がもどらないまま”の近藤さんを部屋の中心に寝かしたまま、オレたち真選組は集まっている。
もちろんここは、かのカエル天人キンヤサマのおうちである。

やっだぁ。早く近藤さん起きてよ。
やったのオレだから、すっげー居心地悪いんですけど。



「ホシは《廻天党》と呼ばれる攘夷派浪士集団。桂たちとは別の組織ですが、負けず劣らず過激な連中です」

布団の中の近藤さんを囲んで、さっそく報告会。

一番手に、調査をさせていた山崎が口を開く。
ありがとう山崎。オレ、気が気じゃなかったよ。誰も口きかずに通夜みたいな顔して黙り込んでるからさぁ。
とりあえず近藤さんの件は、オレのせいだってわかるので先に謝ってしまおう。

『そうか。今回のことはオレの責任だ。みんなすまなかったな。
指揮系統から、配置まで。すべての面でオレが甘かった』

っと、いうか。ついてしょっぱなから頭がボヤボヤしてたから、指示とか出してねェんだよ。
まじ、ごめん。
そのころ、オレ、イカを追ってたわ。
そもそもこの世界まだ江戸時代っぽいので、刀以外の方法っていうと、穴を掘るか殴るぐらいしか浮かばなくて――狙撃なんて世の中にあったことさえ忘れてたよ。

今は総悟が包帯と一緒に買ってきてくれたスルメイカくわえて、クラクラするの耐えてんだけどさぁ。
なんで猫なオレに効果抜群なの?麻薬ってんだから、もっと人間に効果みせやがれよ。
ってか、間違いなくこの屋敷、中継地点としての扱いじゃなく、この屋敷内で誰か麻薬を使用してる常習犯がいそう。
だから普通より匂いが強いんだろう。
みつけたら、そいつ斬る。
どうせ官僚じゃぁないだろ。部下だろ?ならいいよな。

あー…腕痛い。頭痛い。

イタミなんかどこかとんでってくれないかなぁ。戌威族のところとかさぁ。
妖怪に堕ちる前ならすぐに治ったのにぃー。


『…しきりなおしだ』
「副長。あんなことを言われて、まだあのガマを守るってのかよ!やろうは俺達のことゴミみたいにしか思っちゃいねぇ。自分を庇った副長や近藤さんのこともなにもかんじちゃぁいねぇんだ」
「副長。言われた通り、この屋敷をこっそり調べてみましたが。
倉庫からこんなものがドッサリでてきました。」

白い粉の入った袋を一つかかげながら山崎が続く。

「もう間違いなく奴は黒です」

はい、ビンゴー・・・・でたな。麻薬。
あれ?でもこの袋から漂ってくる匂いと、屋敷に蔓延していた匂いちょっと違くね?
なんというか匂いは同じなんだけど、性質というか水分濃度というか・・・。
ふむ。やっぱりこのビニール袋の中身は、オレがかいだのとは少し匂いの質が微妙に違うか。
袋に入っている方が密閉されているせいか、匂いが薄い。
これくらいのにおいが漏れてる程度では、いくらあってもよいはしないだろう。
だけどこの屋敷に漂っている匂いはまさに使用中ですとばかりにネットリとしていて濃い。
同じ匂いだけどなんか違う。――ってことはやっぱり、いるな。この屋敷の中に常習犯が。

まぁいい。

どうせ黒なのは、オレがこの屋敷に一歩はいった時からわかりきっていた。

「こんな奴を守れなんざ、俺たちのいる幕府ってのは一体どうなって」
『ふん。なにをいまさら。
今の幕府は人間のためになんか機能してねェ。んなことはとっくにわかってたことじゃねぇか』

この子達は何を勘違いしてるのかな。

『テメェらの剣はなんのためにある?』

なんのために、ここまで近藤さんについてきた?

『幕府守るためか?将軍守るためか?
オレは違う』

攘夷志士だったオレがなんで、こんなところにいると思ってる?
それもこれもすべて近藤さんがいたからだ。
このひとが変なもんに引っかからないようについてきた。

『覚えてるか?あのころ、学もねぇ、居場所もねぇ。剣しか能のないごろつきのオレたちを、きったねぇ芋道場に迎え入れてくれたのは誰か。
ま。飯を作って食わせたのはオレだがなぁ。
でも廃刀令で剣を失い、道場さえも失いながら、それでもオレたちを見捨てなかったのは誰か。なくした刀をもう一度取り戻してくれたのはだれか?』

忘れたわけじゃぁあるメェ。
否、忘れてはいけないこと。

オレたちがここで一番守りたいものは何か。

『幕府でも将軍でもない。オレの大将はあのころから近藤さんだけだ。
その大将が、守るって言ったなら、しかたねぇ、オレはそいつがどんなやつでも守るだけだ。
きにくわねぇっていうなら帰れ。オレはとめねぇよ』

帰りたい奴はかえればいい。
オレは気に食わねェ奴をぶったくまではここをどく気はねぇ。
いわばオレがやりかえしたいだけなんだけどさ。
オレは気が済んだら帰るから、置いていってもいいよってことね。

でもみんなは腹立たない?
オレたちの信念。オレたいの“想い”を馬鹿にされてるようでさ。

『そもそも近藤さん守ってナンボな真選組だ。
この組は今までオレたちを受け入れてくれた近藤さんに感謝を返す場所。近藤さんの我儘を許すためにあるようなもんだろ。
オレはなぁ、近藤さんを守るために江戸までついてきたんだ。
オレにとって真選組ってのは、それ以外のなにもんでもないんだよ』

真選組をまとめ上げたのは誰だ?真選組をここまで導いて、ちゃんと組織と強いて認められたのは誰のお蔭だ。
それってさ。
つまり真選組は、近藤さん心意気そのもの。
真選組を守ること、すなわち近藤さんの想いを守ることになるんじゃねぇのか。

恥ずかしながら、オレはそう思ってる。
思っちまってるからには、この考えを曲げる気はないわけで…。


だから真選組を守るためなら、どんなおとがめだろうがオレが受けてやる。
下っ端の奴らのこの先にも続く未来をつぶすぐらいなら、そのしりぬぐいぐらいオレがまるっとすべて引き受ける。
罰だろうがなんだろうが、オレがなんとかする。

だから近藤さんは我儘を言っていればいい。
みんなはその近藤さんの我儘を聞いていればいい。


近藤さんが守るというなら――。
くそだろうが、そのカエルの命。オレが命を懸けて守ってやる。

もとから幕府のために、剣を振るうつもりなんて誰もないだろうが。
オレたちがやりたかったのは、近藤さんを守ること。

その覚悟は、道場がなくなったときについている。


・・・あぁ、でも。
その対象が今寝込んでる。
しかもオレのせいで。
そんなオレが、近藤さんが寝ている場所にいるのはなんとも居心地が悪すぎる。

だからさっさと立ち上がって、その場を後にすることにする。

だって居心地悪いんだもん。
だってだってだって!みんな一言も喋んないんだもんよぉ!
空気重っ!!
近藤さん早く起きてよ!オレ、いたたまれないんだけどぉ!!!

うん。外に逃げよう。
さよなら〜お通夜空気!
むさいおとこどもしかおらず、しかもギュウギュウ状態で、二酸化炭素に満ちていてきついのよ!なのでオレは酸素を吸いに行ってくるぜ!―――っという心の中の言い訳をして、オレはさっさと部屋を出た。

もちろん。その後お通夜空気を外に漏らさないように、ピシャリとしっかりふすまをしめることを忘れずに。





**********





スーハースーハー。ああ、外の方が空気がいいなぁ。
とはいえ、深呼吸をすればするほど頭がクラッっとくるんだけど。
この匂いもういやぁ〜。


とりあえず、どこにいこうか。
あ、そうだ警護だ警護。
そうそうカエルを守るんだった。

だがな。

『命は守るが。
二度と表に出れねぇよう、その地位だけは奪わせてもらうがな』

オレの腕に穴開けた原因。たったき斬らせてもらうゼェ。


見ていて《爺様》!オレの《セカイ》!
オレの愛する近藤さんを傷つけようとしたその魂潰してくるからね!

“おう。やっちまえ。ってか、お前がまず薬を抜けよ”

『了解です!オレのセカイ。
薬は風呂入ればきっと抜けます!』

幻覚でも見えてんのかねオレ?
指輪になったはずの《セカイ》の声が聞こえた気がした。

あ、でも。麻薬のにおいが薄れてきた。
クラってするような匂いより、なんか香ばしい鳥のやけるようなにおいが、周囲に満ちて――――


みちて・・・


『なにやってんのお前ェ!!!!』

庭先で、総悟くんが、護衛対象のカエルを十字に磔に敷いて焼いてました。

「大丈夫。大丈夫。死んでませんぜ。
ようは守ればいいんでしょう。
これで敵をおびきだしてパッパと一掃。攻めの守りでさぁ」

カエルよりイカを焼いてくれよ総悟君!
ガマ油ってでたら売れんのか?

攻めの守りとか、そういう作戦はオレがたてるのに。それがオレの仕事なのに。
警護対象を焼くなんて!

ま、そもそもいまからその警護対象に精神的ダメージを与えていじめぬこうとしていたオレが言えた義理じゃないけどな。
もちろんあとでキンヤサマ(幕府の高官)が麻薬売買にかかわって件は世間様にバラス。
そんでもって社会的地位を徹底的に落としてやる。

総悟に先をこされちまったよ。
まぁ、いいけど。

「貴様、こんなことをしていいと」

ゴス!
あ。総悟がカエルの口に薪を突っ込んでる。

「土方さん、俺もあんたと同じでさぁ。ここにいるのは、近藤さんが好きだからでしてね。
でもなにぶん、あのひとは人が良すぎらぁ。他人のいいところ見つけるのは得意だが悪いところを見ようとしねぇ」

近藤さんはそういう人だからなぁ。
だから心配になって、こんな江戸までついてきちまったんだがな。

「俺や土方さんみたいな性悪がいて。それでちょうどいいんですよ。真選組は」

そうかもなぁ。
とりあえず

『薪もっとたけ総悟』
「あいよ」

わぁー凄い勢いでまきくべてんなぁ。
生枝でもはいってたのかね。煙が凄いことになってて、カエルの焼いたのじゃぁなくて、カエルの燻製ができそうだ。

喰いたくねぇ。

っと、大量の人の気配。
視線だけで門を見張っている真選組のやらによけとけと合図を送れば、
それと同時に門が開かれ、銃弾がカエルをかすむ。

あらわれたのはお前らの方が「猥褻罪」で捕まるんじゃないかとおもうような恰好をした浪士ども。

っで、たき火をしていたオレらにむかって、彼らは言った。


「天誅!」
「奸賊め成敗に参った」
「どけ幕府のども。
貴様らごとき俄か侍が、真の侍にかなうと」

ドコッ!!!

『あ゛ぁ!?もういっぺん言ってみやがれクソが!誰が“犬”だってぇ!?』
「あ、土方さんの地雷踏んだ」

やつらがセリフを言いきる前に、ブチギレたオレがおもいっきり側にあった薪をなげつけていた。
誰だぁ?オレを犬なんてほざいたやろうは。
犬?ふざけんなよ。オレがいつどこで誰にシッポを振ったって?
オレは《オレのセカイ》以外にシッポをふったことはねぇ!!
猫の姿の時に勝手にゆれるのは論外だ!

そこで目が覚めたらしい近藤さんが背後から来て、なにか言っていたが、オレはかまわず《敵》たる浪士どもをボコなぐりにしてやった。


『オレの前で武器を手にしたこと。後悔させてやる!!』




















【後日談】

真選組が攘夷志士を一斉検挙したことはすぐに新聞でも話題になった。
一斉検挙万歳!!
ハッ!!犬扱いした奴全員ぶっつぶしてやったぜ!!
クソあつかいしてくれたガマは、命奪わずに、麻薬を扱っていたとしょうこをつきつけて社会的地位を抹消してやったぜ。

って――

夢『いてぇー!!いたい!いたいからぁ!!このくらい舐めとけば治るから!!』
医「言い男がうるさいですよ副長さん。銃で撃たれたなんて、少しでも場所がずれてたら死んでましたよあんた。
そもそもどうしてその怪我で暴れられるんですか。
ぶちぎれてたにしても、ああいう場にいたからって。暴れちゃだめだってぇのぉ。
傷が開いても仕方ないじゃろう。あんた馬鹿なのかい?
あーあ。まだあっちのゴリラ局長の方が大人しく寝ててくれてますよぉ」
夢『ゴリラっていうな!うちの局長はスッゲー心意気の懐広い凄い奴なんだからな!っていうかオレはイカに乗って、はやく大航海にでないといけないんだぁ!!爺様ぁ!!待っていて下さい!オレも!オレもぉ!あなたのように世界を一周し海賊王と呼ばれてみせます!!刀六本もってこい!パーリィーいくぜぇ!!!眼帯はどこだぁ!幸村ぁぁ!!!』
医「だから寝ろっちゅうてるじゃろうが!!!ってか幸村って誰ですかね。いいから早く頭から薬ぬきなっ!!いつまでも夢見てんじゃねぇよ!」
夢『だれか医者呼んで!爺様が不治の病に!!クロッカスぅ!!自首なんて!?オレも一緒にぃ!!』
医「医者はわたしだ!」



沖「・・・・・・近藤さん。アレ、どうしやす?」
近「なにがあったんだトシの奴」
沖「あー。実はですね。どうもシャブってるやつがあの屋敷内にいたとかで、あの乱戦のあとに屋敷内の匂いをたどって常習犯を突き止めたところ。
まさに“やっちゃってる”最中だったみたいで、現行犯で逮捕できたんですがねぇ。
その現場に居合わせた土方さんが思いっきり――」

近「・・・・・・トシぃー!!しっかりしろぉー!!」

夢『よるなっ!暑苦しい!!』
近「うぉぉぉぉーーー!!トシィー!!!」
夢『やめろ!離せボケがぁ!!セカイがぁーーー!!!』
近「としぃー!!!???」

沖「あ、近藤さんが殴られた」
隊員「「副長が局長を殴るなんてェ!」」
隊員「なにしたんですが局長!?

近「あれ?俺がわるいのぉ!?」

夢『頭いてぇんだよ!騒ぐんじゃねェ!!』

ドカッ!!

近「あ〜れぇ〜…」
隊員「「「局長ぉぉぉぉぉーー!!!!」」」


沖「うわー。どこまでぶっ飛ぶ気ですか局長ー。
・・・よく飛んでまさぁ。お、飛距離のびてる」









アニメ 第14話「男にはカエルに触れて一人前みたいな訳のわからないルールがある」より








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