白と赤色の物語
- 銀 魂 -



08.簪と団子と白猫
アニメ第11話「べちゃべちゃした団子なんてなぁ団子じゃねぇバカヤロー」より





 -- side 夢主1 --





銀時と万事屋にいた眼鏡君が交通事故にあったらしく、眼鏡君だけが入院した。
たまたま仕事があいていた――というか、知り合いの見舞いを口実に近藤さんに頼み込んでもぎとった休憩を使って見舞いに行くことにした。
廊下でたまたま夜勤明けで休みだったらしい総悟がフラフラ〜っと歩いているところを見つけたので、そのまま総悟をつれて大江戸病院に向かった。

「あの眼鏡が交通事故、ねぇ。見舞い品はやっぱり現金で?」
『えー銀じゃないから、まぁいいや』
「あんた本当に最低っすね」
『いや、オレもそれほど高給取りじゃないし』

そんなわけでこの身一つ。
てぶらで見舞いに向かった。

オレは髪を赤に戻して制服を黒い着流しに変化させて、ゲタ鳴らして歩く。このゲタのカラコロいう音が結構好きなんだよなぁ。
オレが音を楽しみながら歩いていると、横でなぜか総悟が飽きれたように溜息をついている。

もしかして、オレ、こどもっぽかった?だから総悟にため息つかれてる?

でも前世に人間だった時もこれが好きで、カラコロさせながら、今の恰好に近い着物を当時も着てたんだけどなぁ。
そのときには何も言われなかったような気がするど。
いまは――《土方十四朗》の姿では、似合ってないのかな?
色はもとが真選組の制服をもとにしてるから黒色の服にしか変化できない。
着物は・・・デザインを変えるか。
前世の服を模倣したものでは、最近の流行とあわないのかもしれない。
今度ファッション雑誌でも買ってみようかなぁ。
変化のバリエーションを少し増やそう。



そんなことをもんもんと考えていたら、花柄緑の着物を着た和服な茶髪が声をかけてきた。

えーっと。だれだっけ?
人間の顔なんか、ほとんど同じだから、親しいやつ以外の顔なんて覚えてられないんだよなぁ。
ああ、だめだ。こういう発言すると、人間のお友達のみなさんに怒れる。
やばいなぁ、オレ。すっかり猫が板についてるよ。

「あらシロウさぁん。今日も素敵ねェ」

あ。この香水、あれだ。
一昨日会ったな。
四丁目のハナモさんっていう灰色の綺麗な猫の、飼い主さんだ。
たしかハナモさんは、タチバナって言ってたかな?

「あらぁ。また名前を忘れてしまわれたの?」
『あー、わりぃな。タチバナ…だよな?』
「ええ。橘――ですわ。それにしても相変わらず綺麗な肌ですわ」
『――さんも綺麗だよ。一昨日のオレンジの簪は?――にはあの花の簪が似合うゼェ』
「まぁ。やだシロウさんったら!私、いますぐ家に帰ってとってくるわ!」
『はっはっは。そのころには、もうオレはここにはいないぜぇ?』

「シロちゃん!シロちゃん!!シロウってばぁ!!またバーにきてよ!!あんたがこなくなってから売上げ下がってんのよぅ!」
『しるかよ。オカマバーじゃんあんたんところ。
西郷さん。オレになにしてほしいわけ?戦争?護衛?まさかまたバイトとか?
オレがバイトに駆り出されなくとも、男は他にごまんといるだろうが』
以前はたまたま休暇中に通りかかった時で、さらにたまたま困ってたから手助けしてやっただけだし。
そもそも休暇なんてそう何日も取れるわけねェし。
『オレは忙しいんだよ。そこら辺の男捕まえて、女装させれば十分だろ』
「あんたがいいのよ!気も利くし!料理美味いし」
『いやだネェ。他をあたってくんな』
「んもう!いけずねぇ」

「あらぁんシロウ様ではございませんか。
そのようにお召し物を着崩してはいけませんよ。どこかの浪人のようではありませんか」
『あんたは・・・そうかお玉さんとこの。
お玉さん子供生まれたんだって?ミケに聞いたよ。こんど祝いでももっていくからな』
「まぁまぁ、相変わらずお耳が早い。
玉ともに、お待ち申しておりますゆえ」
『ああ、またな』

「シロウさん!」
「しろー!!」
「そこの赤毛!!俺の女をよくも!」
『しらねぇよ!』
「まぁ、シロウ様よ」
「シローさん!」
「シロウちゃん」

カラカラ音を鳴らして歩くと、それに気付いたように町の人から声をかけられる。
みんなもやっぱこの音好きなんかね?
いいよね。カラコロリン。
人としてのコミュニケーションってとても大事だと思うから、声をかけてきたやつには手を振ってあいさつしたり、なにげない会話を返したりした。
途中知らないおっさんに絡まれたけど、総悟が間に入って吹っ飛ばしていた。
周りから女性の歓声が上がったことから、やはり戦える男ってカッコよく見えるんだなと納得して、総悟ってばモテルぅ〜とか思って口笛を吹いてみて、手をたたいて拍手を送った。
そうしたら総悟の顔が・・・もうなんとも言えない渋い顔になっていた。
どうした?とオレの視線より下にあるその薄い色の頭をなぜてやると、それはもう視線だけで殺されそうな目で睨まれた。

「この天然タラシが」
『は?』

猫情報をもとに、猫の知り合いのことを挨拶してただけだろ。
お玉さんは綺麗な茶虎の猫だ。
ミケはその横に住む、字のごときミケ猫だ。
なにを勘違いしてるんだが。

「それより土方さん。猫は色盲なんじゃないんですかー?こないだそう言ってたじゃないですか。なんで簪の色が分かんでさぁ」
『さぁ?』

そもそも最初からオレは前世の影響で《色彩》というものを知っていた。
猫として生まれた時には、それがなくてビックリしたけどなぁ。
思えば、二百年そのままでいたせいか違和感もすっかりなくなってきたんだよ。
いつだっけ?《色彩》が戻ってきたのは――。

ああ。そうだ。

『オレが《土方十四朗》になったときには、もう世界は色づいて見えてたがな』
「生まれた時って、それって当然なんじゃ」
『まだまだオレのことわかってないなぁ総悟』
「あーはいはい。土方さんクオリティーっすね。了解しやしたー」

なんだかよくわからないが、総悟はガックリと肩を落としていた。
もしかして銀時のところの眼鏡より、総悟の方が入院した方がいいんじゃないかってぐらい疲労を浮かべた顔でドンヨリとした空気を漂わせていた。

え?どうしたわけ?

『オレのマタタビ酒飲む?元気出るゼェ?あ、もちろん駐屯に戻ったあとだけどな』
「遠慮しやす。っていうか、その酒、俺があげたやつじゃ」
『違うナァ。総悟のじゃなくて、この前、山崎が《シロウ》にってくれた』
「あのやろ・・・。
土方さぁん、あんた酒癖悪いから、あんま仕事前には飲まんでくだせぇよ」
『あー・・・そうだなぁ。こないだ録画しといたTV放送みてびっくりした。
オレ、酔っぱらってたから記憶ないんだけど。・・・・・・斬ってたな』
「斬ってやしたねカラオケ機。それもカメラ目線だったし」
『それ以上はやめてくれ!!うわー!はずかしー!!』





うん。あのときのオレ、凄かった。
あの後、録画しといた番組をあのとき参加してなかったやつらとみたんだよ。

明るい黄緑の目が、興奮しているせいか金色っぽくなってて。
目の瞳孔ガッ!ってひらいたまま、攘夷志士らの集いに乱入して、目の前にあるものをひたすらたったき斬ってた。
みてるこっちが「こわっ!!」てなったね。
あれ?オレの理性はどこいったの?って思わず、放送された番組を客観的にみて頭を抱えたくなったほど。
たしかにオレは短気だし、芋侍相手にしてたから最近口が異常に悪いっていうか、けっこう乱暴な口調だけどさ。
殺すのも傷つけるのも本当は好きじゃないからね。
だから、オレ、あんまり刀を鞘から抜いたりしないんだけど。
ましてや目に見えたものを斬りまくるなんて、そうとうのことがなきゃしネェって!
なのに、なにしてんのオレぇ!!ってぐらい斬って斬って斬りまくってた。あれでよく、だれも人を殺さず、ひとっこひとり斬らずにすんだもんだと思うよ。斬ったのは静止物ばかりでした。
オレが自制せずに刀を抜くとは!なんてこったい。
自分で見て、あの暴れっぷりに驚きすぎてあごがはずれた。
番組をみていた広間の空気が、静寂であふれかえった。
あまりに居心地悪くなってそのまま周囲を振り返ってみれば、一緒に番組をみていた野郎どもが、オレを何とも言えない目でみてきた。

「副長…」
『あ?』
「あれ、だれっすか?」
『さ、さぁな』

いや。オレも聞きたいよ。
その後、オレの飲酒が発覚し、近藤さんにくぎを刺された。



――あれは忘れられない日だった。

翌日が休日の日以外は飲むまいと決めたもんさ。
そのときに総悟からもらったマタタビ酒を、近藤さんに没収されたんだ。






なにせ体を構成する大元が、猫だからねェと、あのときを思い返して苦笑を浮かべれば、総悟が憂鬱そうな表情を見せた。
酒は控えるよ。

「あんたやっぱり自分が猫だって自覚した方がいい」

『ママタタビには・・・だれもかなうめぇ』
「格好よく言ってもダメでさぁ」

総悟からの視線はいたかった。





**********





――そんなこんなで、総悟といざ大江戸病院へ。


「この簪の持ち主をさがしてほしいんじゃ」
「それってどういう」

眼鏡の病室はどこかなぁと思っていたら、病院の広場脇にあるベンチに老人と腰かけている銀時たちを見つけた。
さっそく声をかけようとしたら、「だめでさぁ」と首元を引っ張られ、共に草陰に隠れるはめに。
なんでだよ?と視線を向ければ、人差し指を立てて「しー」と合図され、みてればわかると促された。

「意味深じゃぁありませんか。少し様子を見てみやしょうぜ」
『うわー。いい予感がしない』

老人は、膝の上に大事そうに簪を抱えていて、あれがキーなのだと知る。
老人の横にいる病院服姿の眼鏡が、その簪の意味を聞けば――

「は・つ・こ・い。の、ひとじゃ」

そうつぶやいて頬を染めた爺さんへの、万事屋一味の対応がひどかった。

「むしゃむしゃむしゃ」
「ちょっと神楽ちゃんなにそのス昆布?」
「聞くに堪えない話を聞くときはス昆布が心の平衡を保ってくれるね」

平穏じゃなくて?ヘイコウ?
チャイナはス昆布を加えてしゃがみこんでいる。目が死んでる。
銀時なんかは視線があらぬ方を向いている。

「あのチャイナ娘、ス昆布たべてまさぁ」
『だな』
「土方さん」
『あ?』
「あんたの育て方やっぱ間違ってるんじゃないですかい。
ほら、万事屋んところのガキどもなんか、誰に似たのか性格がヤバイし。
しかもあの銀パツ天パ。恋愛ごとには無縁な生き物とかしてまさぁ。見てごらんなせぇ、あの初恋という言葉を聞いたときのあいつの目を!」
『………すんませんごめんなさい』

依頼人(?)の言葉を聞く気ゼロな万事屋ってどうなんだろう。

「この年まで所帯も持たず女のケツばかり追いかけてきおったが、なぜかな。いまになって思い出すのはあのひとの笑顔ばかりでなぁ」
「おれにもス昆布くれぇ」
「銀さんまでもかい!容赦ないなぁ」
「笑ってくれてかまわんぞ。こんな爺が死に際に色気づきおってとな」
「むしゃむしゃ。そんなことないですよ」

うわぁ、最悪。
銀時に続いて、ついに眼鏡までついにス昆布食べ始めた。

「あれは本当にきれいなひとじゃった。
いつも簪さしてチャキチャキ働く、ちまたでも評判の娘での。
男どもはあのひと目当てに、団子やに通いつめみなんあブクブクに肥え太っておった。
わしもそうしたかったが、金もないし、なにより初心じゃった。
せいぜい物陰からあの人の働く姿を見るのでせいいっぱいじゃった」

『ん?あやの?』
「あれ?知ってるでさぁ?」
『あー。なんかオレの髪がまだ白かったころの話だから・・・数十年前か?
団子屋の娘が、団子をくれたことがあったな。
猫に団子って大丈夫なのかよと思ったのが印象深かったな。
そいつの名前が・・・そんな感じだったような?
あれ?アヤメ?アメ子?どっちだっけ?
まぁ、いい。
そこの店、いつも相撲のようにふとった人間どもであふれててなぁ。
たぶんあの爺さんが言ってるの、その相撲たちの通っていた店だろ?
見苦しい人間の店だなぁとは思ってはいたが、餌に在りつけるので、仲間とよくいったわ』
「そういや《シロウ》は猫でしたね」
『ああ。猫だ』
「それより話を――」

老人の話を聞くに、初めて声をかけられ、はじめて団子をおごってもらったらしい。
そのときに喉に団子を詰まらせて死にかけ、恥ずかしくなってあわてて逃げて、気付いたらどっかの路地裏で倒れていたらしい。
そのときにアヤノさんとやらの簪を持って。
その彼女に簪を返したいと言った。

そこで銀時が、たぶん面倒くさがった。
うちはたけぇぜ。と言った銀時に、金ならあると老人は言った。
そっからはつねに金欠な銀時が目を輝かせて、チャイナと飛び出していった。





どうやら話はこれでおしまいのようだ。
オレたちはどうしようか。

「どうしやす?見舞いって雰囲気じゃなくなってきましたね」
『…あの眼鏡。おとなしく入院してそうにもないからなぁ。
移動している奴さがすのは、手間だな。帰るぞ総悟。帰って酒飲もうぜ』
「てっきりあんたのことだから万事屋を手伝うのかと」
『え。やだ。めんどい』
「で、しょうね」

あぁーっ!
「なっ!?なんかあったんでぇ!?」

『団子の話なんかするから腹へってきた』
「なんだそんなことか。そろそろ帰りやすか?」
『総悟は腹へらねぇ?』
「言われると・・・そういえば俺夜勤明けでつかまったから、まだ何も食ってませんでねぇ」
『そりゃぁわるかったなぁ。お礼代わりにオレが飯つくってやるよ』
「わー楽しみでさぁ」
『うん。なんだか帰って土方スペシャルがむしょうにくいたいしな!よし、さぁ帰るぞ。帰ってマヨだー!!』

「っ!!! あんたが入院しろ!」

コレステロール過多で、入院するはめになるぞと言われた。
銀時は糖尿病予備軍。
はは。親子そろって病院通い決定だとさ。
いや、でもさ。オレって人間の病院より、動物病院行った方がいいんでね?




















【後日談】

夢『え。大家さんがあの「あやのさん」!?』
新「むしろなぜ貴方がそのネタを知ってるんです!!」
夢『おーおー。相変わらず眼鏡君は、いいツッコミのキレをお持ちでぇ』
新「それほめられてもうれしくないから!」
銀「ところでシロウは、またなんで簪の話しってたんだ?」
夢『見舞いに行ったから。そこの眼鏡の』
新「え。そうなんですか。ありがとうございます・・・って、僕、会ってないですよ?」
夢『そりゃぁそうだろ。「あやのさん」探してドタバタしてからな。話を聞いて帰った』

銀「・・・なぁ」

夢『どうしたー銀?』
銀「どうして、そっちの沖田クンは、死にそうな顔してるのさ?」
神「あ、ホントアル。死にかけだー」
沖「それはですね旦那・・・うぇ・・」
神「どうした?ツワリあるか?」
沖「ばか、言ってんじゃネェですよ。う゛・・ぎ、気持ちわる」
新「本当に具合悪そうですね。大丈夫ですか?」
沖「ちょっとヤバイ。・・・お前さんたちが簪の女を探しにいなくなっちまったから・・・土方さんがあの魔の想像物をつくってくれやがりましてね・・・・・・ぅおぇ・・・おかげで、うちの、真選組はいま、壊滅状態で、さぁ・・・う゛・・・」
銀「!!!」
新・神「「マノソウゾーブツ?」」
銀「いつもより静かだと思ったら。…なんて哀れな」
神「銀ちゃん、マノソウゾーブツってなにあるか?」
夢『お!興味ある!?あるならつくるぜ!名付けて《土方スペシャル》!これがめちゃくちゃ』
銀「だめ!だめったらだめー!!!うちのこたちを病院行きにだけはしないで!!」
夢『なんでだよ銀?攘夷戦争の時に兵糧のかわりになったろ?お前だって小さいときはあれを食べ』
銀「いやーーーーーーーーーーー!!!!オレはマヨラーじゃない!」


沖「《土方スペシャル》・・・おそるべし・・・・・グハッ」

ドサリ

銀「!?沖田クゥーン!!?しっかりぃ!!!」









アニメ 第11話「べちゃべちゃした団子なんてなぁ団子じゃねぇバカヤロー」より








<< Back  TOP  Next >>