白と赤色の物語
- 銀 魂 -



04.白色フワフワは微睡の中で夢を見る





 -- side 坂田銀時 --





これは《白色》だって村の子供たちが言っていたんだ。
年寄どもと同じ色。
白髪頭ってよくいわれたなぁ。
だからこの髪の毛は、白いんだと思っていた。

名前はなかった。

名前の代わりに「鬼の子」や「若白髪」とか「きもちわるい」とか言われてた。
それが自分をさすのだと思って疑わなかった。

髪の色が違うから。
親がいないから。
気持ち悪いと、鬼の子だと言われ、みんな遠ざかっていた。

そういうものだって思ってた。

たまに口にできるものをもらえた。
それでも腹の空腹は満たされず、そんなときはいつも山に入ってなにか食べれそうなものを探して片っ端から口にした。
動物が口にできるものは食べれるんだって後で知った。

そんななかで、あいつとであった。
おれと同じ色の猫。

ご飯をくれた。
それだけじゃなく、側にずっといてくれたんだ。

だから自分が唯一知るもので、自分と同じものをその猫に贈った。

《白》――おれをさす言葉。

白い猫は嬉しそうに。
おれがその名を呼ぶとニャァと鳴いた。

白。
おれとお前のこと。





―――だと、ずっと思ってたんだけどなぁ。


『《白》って名前ありがとう銀時。凄くうれしかったよ。
君の名前は銀時。綺麗な銀色だから』


そう言って、真っ白な髪をあちこちはねさせて、オレと同じぐらいの年齢の男は笑ったんだ。

いやぇね、たしかに松陽先生ンとこに預けられたときから、なぜか《銀時》って呼ばれるよういなったけど。
はじめて名前をもらって嬉しかったけど。
初めの頃は、いまいちそれが自分をさすものなんて理解できなかったけどさ。

「その名前はあなたの親が、あなたに残した贈り物なのですよ」

と松陽先生は言っていた。
どういうことだと思ったけど。

迎えに来たんだと手を差し伸べてきた男の明るい黄緑の瞳を見て納得した。
こいつが親だと。
おれに名を与えた存在。

そして言われた言葉におれは――
愕然としたものさ。

なにがって。

「おれの髪って、白じゃなかったのか!?」
『銀色だよ。綺麗でいいじゃネェの』

あんたと同じ色だと思ってたのに。
同じ名前にはなれなくて、同じ色でもなくて。しかも、あんた

「猫じゃなかったか!?」
『あっはは。ねこでもなぁ、長生きしちまうと化けれるのさ』


元は白かった猫は、戦場の血を浴びて赤く染まったらしい。
しかも人型になれるとかどうなの!?

そのときはじめて名前の由来を聞いたおれの衝撃は生半可じゃなかった。
たぶんあいつが人型になるよりもびっくりした。

あの緑の目をみたら、あいつがあのときの《白》だってすぐにわかったから、ぶっちゃけあの白かった猫が、おれに名前を与えたっていう親であろうと、人間の姿に化けようが問題は薄い。

問題はおれは銀時で、銀髪天然パーマであったことだ。








―――パチリと音がする感じで目が覚めた。


「あー。ああ。うん。なんだぁー。まぁ、そういうこともあったなぁ」

『どうした銀?』
「いや。天パと銀髪について考えてた」
『ふーん』

屋根の上で、のんびりと日向ぼっこをしているあいだに寝てしまったらしい。
いつのまにいたのか。
気付けば、横で黒い着流し姿の赤髪の男が腰を落ち着かせ、のんびりと本を読んでいた。

向けられた明るい黄緑の瞳は、猫の時と何一つ変わらず、光の加減によって金色にもみえる。
ゆるりと瞳を細めたその金色に輝く瞳に浮かぶのは、おれや高杉、桂にしか向けられない優しい微笑み。
大人が子供を見るようなそれ。
けれど長い睫のしたからのぞく瞳は、縦に瞳孔が開いてる。そういうところが猫っぽいよなぁ。
まぁ、嫌になるくらい様になってるけど。

こちらをみて穏やかに笑った後、《シロウ》は、何気ない仕草でおれの頭を、さわさわと撫でる。

『ふわふわだなぁ』
「あんたに似たんだろ」
『いいねぇ。似たもの親子っていいよな。本物の親子みたいだろぉ』
「でもあんた髪赤いけどな」
『化け猫だからなぁ。髪も妖怪化して血でも吸ったんじゃネェの』
「こわっ」
『そうそう。チャイナと眼鏡の野郎がお前をさがしてたぜぇ』

ああ、そっかぁ。
今日はあいつらにゃぁ、なにも言ってなかったな。

『さすがに屋根の上で昼寝してるとは思わなかったんだろうなぁ』
「灯台元暮らしだな」
『そんなに今日の仕事は嫌だったのかぁ?』
「ちょっと気が向かなかったんだよシロウ」

さわさわさわ。
《シロウ》のやさしい温もりに、昔の夢を見ていたせいか、つい甘えたくなる。
腕を組んで枕にして空を見上げるようにゴロンとあおむけになる。
もう一度目を閉じれば、またふわりと優しい温もりが頭をなでてくれて、懐かしい日向のにおいがいした。

その暖かさと、優しいにおいに。

松陽先生や桂、高杉、《白》といたころの――あの騒がしくも楽しかったころを思い出して、またうとうとと眠気がきた。
今度はいい夢が見れるだろうか。
戦時中であっても、温かかったあの場所。
なつかしいひだまりの夢を…。

『寝てしまえ』
「そうさせてもらうよ」
『ああ。そうだな』

ふわぁ〜っとあくびが漏れる。
それに《シロウ》がクスリと笑った声が聞こえた。

それは蒼海のごとく青く、爽快でとてもいい天気だ。
いいや。今日はこのまま寝ちまおう。

神楽や新八のことは、きっと《シロウ》がなんとかしてくれるだろう。









原作とは関係のない閑話。
頭なでなでがやりたかっただけ。








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