02.歪んだ原作の修正結果 |
-- side 夢主1 -- 前世は女だったような男だったような人間だったような鹿だったような神様だったような――そんな、転生人生を繰り返す 《()》 という者です。 まぁ、これは前世での名前なので、特に覚えてもらわなくてもよし。 っで、その転生者なオレですが、今生の世ではズバリ、猫です。 猫目(食肉目)- 猫亜目- 猫科- 猫亜科- 猫属に分類される小型哺乳類。あの四足歩行で歩くまさにアレです。 性別?さぁ?どっちだろう。 とりあえず、真っ白な猫としてこの世界に生まれました。 毛が白かったので養い子からは《白》と呼ばれていました。 あ、そうそう。 実は、今のオレは猫でもあるんですが、なぜか人間になれるんです。 人の姿のときの名前が《土方 十四朗》。 なので最近では、今の名前である《トウシロウ》と《白》をひっかけて《シロウ》って間延びした感じで呼ばれています。 ただの哺乳類な猫がなにをどうやって、人間になったか。 子供が将来の夢は何?と聞かれて、「大人になったらポケット○ンスターのピ○チュウになるの!」と言っているような感じで、大人になって猫から人になったんです。 ――って、いうのはもちろん冗談。 本当のところは……。 猫のくせに長生きしすぎて、ついに化け猫になっちまっただけです。 とはいえ、これって間違いなく、前世の影響がある気がする。 あるいは転生を繰り返しすぎた反動か。 そうじゃなきゃぁ、たかが猫が二百年も生きないよ。 二百年だよ!?お月様が何回登ったと思ってんの! とある徳●家の治政は250年だっけ? だけど彼等の場合は一人でそこまで生きたわけじゃなくて、子へと引き継がれた250年だろ。 オレの場合は一人だ。もとい一匹。オレだけで二百年って、どう考えても生きすぎだよねぇ? そんだけ生きるって生物としてどうなの!? おかけで、物覚えが良くないオレは、もういくつか前の前世の記憶なんか、かなりあやふやだ。 ただそんなオレでも覚えている世界もある。 オレの魂を繋ぎとめてくれる青い指輪に宿る《ロジャー》と出会った世界だけが、オレの中でいつまでも鮮明だ。 人の姿で太陽に手をかざせば、左の薬指にはまった青い指輪。 海を閉じ込めそのまま指輪の形にしたようなそれは、猫の姿だとオレの首にはまっている。 これがオレの魂を壊さないように守ってくれているのを、言葉ではなくこの魂が覚えている。 ただし化け猫なせいか、猫又じゃないので、こうやってウン十年以上生きていていまだにシッポが先割れしてこないんです。 猫なオレとしてはショック極まりないね。 しっぽが二つに割れたら、手ぬぐいをかぶって二足歩行で歩いてさ、銭を持って、猫又仙人がいるという場所を探して仲間に入れてもらおうとずっと思っていたんだけどな。 本当に残念だ。 200年――オレがただの猫としてこの世に生を受けてから、長い長い時間がたった。 世界はいつのまにか将軍なんてものではなく、宇宙人が天下人となっている。 ここまでくるまでにいろいろあった。 印象深かったのは、地球に宇宙人(天人)がやってきたことだろう。 そうして人と天人による戦争が起こった。 攘夷戦争と呼ばれるそれは、二十年近くにも及んだ。 オレの記憶の中でもこの戦いがもっともはげしい戦だった。大地なんか人かそうでないかもわからないぐらいの死体で埋まってしまったほど。 二百年のなかで、この世界でもっともはげしい戦争は、同時に最もたくさんの死を招いた。 その戦争では、たくさんの血が流れたんだよ。 慕っていた寺子屋の先生の死をきっかけに、攘夷戦争に養いっ子が戦争にいってしまった。 オレも人に化けれるようになっていたのでついていった。 ――ら。あら不思議、オレの毛が赤くなった。 戦争についていけばオレも血まみれになるのは当然。だから自慢だった真っ白の毛がいつのまにか赤に染まってしまっていてもしかたない。 けれどその赤色が落ちなかったのだ。 そうやら転生前の赤髪、緑目という容姿の印象が強く残りすぎていたようで、血を浴びたのをきっかけに色だけが戻ってしまったようだ。 その瞬間に感じたのは―― 『やべ。“堕ちた”な』 ってこと。 使えていたミラクル妖怪パワーとでもよべる力が、髪の色が赤になってからは使えなくなっていたのだ。 残念だけど。しかたない。 それでも養い子や、仲間はオレを《シロウ》と呼んでくれたのだけれど。 ********** すこし、過去の話をしようか。 ――もともとオレは、転生者とはいえ、生まれた時は普通の猫だったんだ。 オレだとて、人間の言葉ひとつも話せない普通の猫でしかなかった時があった。 それがちょっとばかり猫にあるまじきことに、長生きをしてしまった。 特殊な能力も…うん、とりあえず(説明が面倒なので)ないってことで。 そのときは本当にただの猫だったんだよ。 ただ人間より長く生きても街で暮らせたのは、きっと猫だから。 同じ猫ではなく血縁関係のある猫に違いないとでも思ったのか、人間たちはただの猫でしかないオレに奇異な視線を向けることはなかった。 これが人間の姿であったなら、成長しないことにも気付いただろう。きっと異物を見るような目で見られていたかもしれない。 猫万歳である。 それゆえ人目など全く気にすることもなく、のんびりと長い日々を生きていられたんだ。 その長生き人生(猫生)のなかで、色々技を習得したりした。 一つ目が、いつしか口を動かさなくとも脳に直接話しかけることができるようになったこと。ぞくにいうテレパシーである。 ちなみにオレの声が一方的に届いてるだけなので、相手の心は読めません。 それともう一つ。 これは長生きしたご褒美か、はたまた前世のナンタラか。オレは《癒しの力》をゲットした。 ゲットっていってもどこでっていわれても困るけどな。 何十年か前、森の祠で寝て起きたら使えるようになってたんだ。 まぁ、簡単にばらすと、もともとひとつ前の前世世界で、神様の一端だったんだよオレって。 森をおさめる獅子神ってのが死んでしまってね。そのときたまたま側にいたただの鹿でしかなかったオレが、姿が似ているというそれだけの理由で、やっこさんの跡を引き継ぐ羽目になったんだ。 結局それから数年後には、鹿としての寿命で死んだけどな。 っと、いうわけで、前世が、神の森たる場所で神様もやってた鹿だったもんで、祠で目覚めた時に、そのときの力がよみがえってしまったというわけだ。 ちなみにその力――生と死を司ったりする。 命を与えるもうばうにも体力はいるし、条件が付いてしまうので、めったに使うことなかったけどな。 そんな特殊能力を得てから、幾年月か。 攘夷戦争が始まったあたりの年に、オレはひとつの出会いをした。 フラフラとこのちょっと昔の日本のような世界を旅して、あるときさびれた小さな村で、髪の色のせいで迫害され捨てられた赤ん坊と遭遇した。 その子供の髪は、黒を中心としたこのアジアモドキの小さな島国では異色。 銀色のそいつは、自我があるのかないのかもあやしい赤子。 親もなく、名も与えられず、その銀色は《鬼子》と呼ばれ、村の疫病として捨てられたようだった。 その村は、猫なオレにお魚やご飯をくれていたのに、同族である人間の子供にはあげないってどうなの!? 人間の常識を疑ったね。 猫よりも食べ物もほとんど与えられていないのを目のあたりにし、思わずオレがあつめてきた中から人間でも食べれそうなものを子供にわけあたえてやった。 とはいえ、相手は赤子。歯があるわけもなく、このままではヤバイと思ったオレは、赤ん坊の首根っこ加えてその村から逃走。 村ではあの子供がどこかでのたれ死んでくれた方がいいとでも思っていたようで、オレを追って村から出てしまった子供にだれも興味を向けることもしなければ追手さえなかった。 そんなわけで、だったらあんな村にいるよりはいい!と。猫ではあるが、人間の幼子を育ててやろうという気になった。 俄然燃えたね。 やるなら徹底的にがオレのモットーさ。 まぁ、そんな未来予想図を描きながら、まずは森の動物さんに頼んで乳を飲ませさせたもんだ。 そうしてなんとか猫ながらも赤ん坊を育てた。 とはいえ、猫生活が長いので、オレの食料といえば、人が出すゴミやそこらにある野草やらキノコやら木の実やらといったものだ。 人間に食べさせて大丈夫かなぁ?とはじめは不安になったが、子供は病気にかかることも腹を下すこともなくピンピンしていた。 Gはさすがになかったよ。オレだって嫌いなものはある。Gってなんか怖いよね。 これなら大丈夫かな。 こどもの面倒を見ているうちにこどもが固い物も食べれるようになった。 育った小さな子供がガツガツと食べ物を腹に入れる様を見て満足する。 こどもが最初に覚えた言葉は、ママでもハッパでもなく「にゃー」だった。 そのときの、はじめて言葉を交わした子の成長をみた感動と言ったらとんでもないものだったが、それ以上に、ここで急に気付いたのだ。 この赤ん坊は“人間”じゃないかと。 いつか人間の中に返さなきゃいけない子供だ。 それに気付いてからは、テレパシーも駆使して一生懸命人間の言葉を覚えさせようとした。 前世で人間だったころに子供を育てたことがあるし、テレパシーもあるし。まぁ、なんとかなるだろうと思っていた。 でも世の中そうは上手くいかないらしい。 まずテレパシーを使って語学をつけさせようとしたのだが、やはりそれは普通とは違う力であるため極力使わないように心がける。 そうでないと《猫がしゃべる》と子供が言って、出会った人間たちに奇異な目で、この子が見られてはたまらないからだ。 それがまず失敗だったのかもしれない。 なによりこの世界は日本語が主流だったので、元日本人であったオレとしては、 人間語を話せなくとも、いざとなれば字を書いて教えればいいと、教えることに関してはかなり軽く思っていた。 実際そう簡単なことではなかったんだけどね。 まぁ、なにせ、当時のオレは長生きしただけのただの猫だったので、言葉は声帯の違いからニャァとしか言えなかったのだ。 子供はあいかわらず「にゃー」しか言わなかった。 結局のところ、言葉も通じないまま、幼子に文字や金の使い方、人間の常識などを教えるのは不可能だった。 どれだけ頑張って地面に字を書いても子供は首をかしげるばかり。 文字自体理解してくれなかった。 これではこの人間の子供は、このままではオレをみならって野生動物と同じ生活しかできなくなってしまう。 某狼少女のごとく。 この子を人間に戻してやらなければ。 前世で山犬に育てられた少女のようになったら・・・ 人間嫌いになって反抗的になっちゃったりして? や、やだぁ!うちの子が狂暴化するぅ!? それはダメー!! とりあえずテレパシーによる人間語教育を強化した。 それをしばらく繰り返していたら、色について学び始めたこどもは、オレがその子の髪と同じ色――白色――というのを喜び、オレを《白》と呼ぶようになった。 さらに月日気を置き、二足歩行を覚えさせ、いつか人間の世界に返せるようにと、こどもを人間の里につれていったら、髪の色が全員黒い奴らしかおらず子供はびっくりしていた。 しかも子供の銀髪をみて、村人が「鬼だ」なんだとと石を投げてくる始末。 泣く子供をひっぱって、あわてて森に戻った。 だけどいつかはこの子を人間の里に戻さなくてはいけない。 どうしたものかと考えて、とりあえずオレから離してみようかと思った。 ためしにいつものようにオレのシッポを子供がつかんでいるのにむけて、爪をみせびらかして脅してみた。 泣かれた。 けれどガンとして離さない。 どうやら石を投げてきたあの人間たちのせいで、オレまで離れてしまうと思ったようで、「白」「白」と泣きながら首をイヤイヤと横に振ってくる。 「いくな」ということのようだ。 これはまずい。 この子供は人間なのに、人間に恐怖を抱いてしまっている。 ならば共にくるかと?態度で問いかけてやれば、はじめはキョトンと首をかしげていた子供も意味を理解すると嬉しそうに顔を輝かせてついてきた。 しかたなく、成り行きからオレはそのままこどもに引っ付いてそいつの面倒を見ることになった。 ほらよくあるだろう。狼が子供育てる話。気持ちはあんな感じ。 だけどずっとこうしているわけにもいかない。 『よし!』 育てると決めたからにはきちんとしなければと、オレは子供をとある寺子屋にあずけることを決めた。 運がいいことに、あてはある。 猫であるオレにも優しいあの人間が教鞭をとるところなら、きっと大丈夫に違いない。 シッポをつかんだまま後をついてくる銀色の子供を連れ、オレは吉田松陽という人間がやっている塾の門戸をたたいた。 寺子屋の門をくぐる前に、銀色の子供には、苗字と名前っていうプレゼントを贈った。 ここまでくる道さながらあった坂――ふたりでその坂から見渡したあの広大な田園が、銀色にキラキラしていてとてもきれいだったので、《坂田》と苗字をつけた。 綺麗な銀色の髪とあの輝きをかけて、その色から、《銀時》と。 オレの中でずっと《銀時》と命名していたので、塾にあずけるとき、地面にその名《坂田銀時》とその名をを書いて「子供をたのむ」と付け加えておいた。 まさかその文字を猫が書いたとはだれも思わなかったのだろう。 オレもテレパシーは使わないようにしてたしな。 ついでに《銀時》という文字の横には、しっかり「白い猫は《白》です」とオレのこともアピールしておいた。 銀色の子供は捨て子として彼の塾に居候することとなった。 結局、銀色の子供と共に、オレも松陽先生にひきとられました。 オレはそこで、寺子屋に通うこどもらと共に日々をまったり過ごした。 数年して、銀時もようやくひとりにしても大丈夫になってくると、オレは吉田松陽先生に銀時をまかして、猫らしくまた旅に出た。 以前旅先でとある女と出会ったのが忘れらなくて、ちょっと遠出になるけど会いに行った。 恋愛じゃないよ。 逆逆。恋した女の顔をしていたのは彼女の方。大きく膨れたお腹を抱えて幸せそうに笑っていた。 ひとりだけど産むのだと言った彼女は、猫になんか話しかけてくるから――そう。印象深かっただけさ。 久しぶりに訪れた場所。だけどそこにはもう女も、彼女の子もいなかった。 まぁ、結局それだけの縁だったのだろうと思ったけど、ある日、たまたま彼女と再会する機会が訪れた。 でもそれはひとつの死と隣り合わせで・・・。 ――お願い・・神さま― オレは血塗られたその言葉に囚われた。 母親を救うためだったのか。 それとも母親がそうしたのか。 いまとなっては真相なんてわからない。 その日は、動物ゆえに鼻が利くオレは、なんとはなく錆びた鉄のような嫌な匂いがしてそちらへ向かったんだ。 このご時世、死体なんかちょっと人里を離れればいくらでも転がっていた。 普通なら近寄るべきではないのだろうが、そこがまがりなりにも人の住む街中でのことで気になったのだ。 たぶんそれは、同時に聞こえた悲鳴が、聞き覚えのある声だったせいもあるんだろう。 人々の顔が見えなくなる夕暮れ時、街の片隅にある緑豊かな小さな神社。 草むらをかきわけて顔を出したオレがみたものは、深い傷を負ったこどもと傷だらけで倒れる女の姿だった。 一見してこどもは、うちの銀時と同じくらいの年齢だ。 こどもは何かから女性を助けようとするかのように、その傷だらけの身体でもって腕を広げて懸命に立っていた。 二人の傷をみるに刀傷だ。 そんな二人にむけ人間が何かを口づさみ、親子の正面に立っていた男が刀を振り上げた。 あまりに咄嗟のことで、オレは対処のしようがなく呆然とその一部始終を見ているしかできなかった。 目の前で鮮血が散った。 その子が斬られたのだとようやく脳の理解が追い付いたときには、何も考えもせず無我夢中で刀を持っていた奴めがけて体当たりを食らわし、牙をむきだし首元にかみついて、なおかつ爪をうならせあいつの顔をめっためったにひっかいてやった。 そのまま首の肉でも食いちぎってやろうかと思ったけど、その前に男はオレを強引に引きはがすと、地面にたたきつけようと投げ飛ばす。 まぁ、猫なんもんで、宙で一回転してからうまく着地してやったけどな。 親子の前に華麗に着地を決めると、そのまま毛を思いっきり逆立ててシャーと威嚇したやった。 オレの背後でドサリとなにかが倒れる音がしたが、いまはこの状況を早く終わらせることが先決だった。 目の前の男を生かしておいたらまたこの親子が狙われるかもしれない。 殺すつもりで威嚇したのだが、そんなオレを忌々しげにみて舌打ちし、けれど男は追撃をすることはなく、オレの背後を一瞥すると「用は済んだ」とつぶやき、血の流れる首元を押さえながら去って行った。 野盗かなにかだったのだろうか? 詳しくはわからない。 もう刀を振るった人間の姿はそこにはなく、倒れた人間たちしかなかった。 とにかく男の気配が完全になくなったのを確認してから振り返れば、こどもが母親らしき女性の脇で倒れていた。 やはり先程の音は子供の倒れる音だったようだ。 母親の方は傷もそれほどひどくないし、気絶をしているだけのようで息もしっかりしていたのでほっとする。 顔を見てすぐに、あのときの女性だと気付く。 案の定、あの悲鳴の主がオレが探していた女性のものだったのが証明された。 なんて再会だ。 こんな再会の仕方は望んでいなかったのに。 《こどもは・・・》 彼女の容体を確認して、すぐにこどもの方も確認したが、子の方の傷はひどいものだった。 息はもう虫のようで、うっすらと開かれた瞳は焦点も合わさらず意識があるかも怪しい。 生と死を司る力がオレにはあったから、とっさにこどもの命を救おうとしたのだが、気配に気付いたらしいこどもがうっすらと目を開けて首を横に振った。 そのままぎこちない仕草で手が伸ばされる。 意識がないとばかり思っていたこどもの動作に驚くも、伸ばされた手がオレに向けられている気がして、力が入らなくてそれ以上動かないのならと自らその手に頬を擦り付ける。 まだ微かに息があり、こどもは血まみれの手でオレをそっとなでる。 「・・・み・・ぁま・・かあさ・・・お、ねがい・・・」 ああ。死ぬ間際だから気付いてしまったか。 オレがただの猫でないと知ったのだな。 子供に伸ばされた手を。 その言葉をしっかり受け止める。 了承の意をつたえるべくもう何も映していないだろう瞳から零れ落ちる涙をなめて拭ってやる。 こどもがのばしたその手の血をぬぐうようにそっとなめてやる。 こどもはそれに微かに反応をみせ――― それ以上動かなくなった。 虫のようだった息は完全にとまっていた。 銀時は知らないが、その日以降オレは人間に化けれるようになっていた。 元々転生する前から記憶力は悪かったオレだ。あげくひとつ前の前世や今世が人間でなかったため、当の昔に人であったときの自分の姿など忘れてしまっていた。 覚えているのは髪や目の色だけ。それゆえか。はたまたあの子供の血をあびたからか。人の姿になったオレは、あの子供に瓜二つの容姿だった。 ただし髪の色は毛と同じ白色だったのだが。 成長しなくてもひとところに長い間いようと今までは問題はなかった。それはひとえに、猫の成長や個体を人間が見分けするのは難しいためだ。 けれど人間はそうもいかない。 成長しない化け猫なオレが、はたして人間の姿を得てもよかったのだろうか。 不安にはなったが、“こどもの願い”ゆえか、きちんと人の速度で成長するようだったので、気にする必要はなかったようだ。 神様ってのは、“願い”に弱いんだ。 人は強い想いを持つ。 信仰心より力を得たり顕現した神などは特にそう。“想い”に神様の力は感化されやすい。 オレはこどもの願いを聞いてしまった。 だからこどもの代わりに母親たる彼女を支えることを誓った。 この事件のせいで目覚めた母親は、視力が落ちた。 これのせいで髪の色が白くなったと言えば、泣きそうな顔をしながらも、彼女は生きていてくれてありがとうと小さな子供の姿をしたオレを抱きしめた。 オレに人間の姿を与えたこどもの身体は、オレがあの子の最期を看取り、気付けば人の姿になっていたそのときに、光となって消えてしまっていたから墓はない。 こどもから記憶も引き継いでいたので、誰もオレを疑うことはなかった。 銀時は戦場で、オレが血を浴びすぎたせいで人間になれるようになったと思っているようだが、実のところそれは違う。 たしかに人間の血は、他の動物と違って、“強い想い”がふんだんにこもっていて、それを浴びたオレは人間に変身できるようになったことは間違いない。 けれど違うのだ。 オレはたまたま居合わせてしまったがゆえに、あのこどもの願いを引き受けた。 こどもの最期をみとった者の役目として、こどもの生きるべき今後の時間とその記憶事受け取った。 これにより人の姿を得たのだ。 それから母親と数年間人として暮らし、彼女の子のふりをして過ごした。 それはあのこどもの願いだったから。 “力”で、あの子の記憶をも継承してしまったオレは、銀時のことが気にはなったものの約束どおり母親を守るために、人として、あの子供《十四郎》に成り代わって生きていた。 しかしそれもどうしようもない段階まで進んでしまう。 なんと父親登場。とはいえその当主亡き後に、土方家というのにひきとられたのだが。 母親は愛人だったらしい。 そのため《十四朗》は、妾との子として扱われた。 髪の毛は気持ち悪いと無理やり染められた。 母親が死んだとき、これを機に松陽先生のもとに戻ろうと思ったのだが、《十四朗》の義兄がひきとってくれ、それこそ本当の血のつながりのある家族のように扱ってくれたので、猫に戻るにも戻れなかったんだ。 まぁ、何事にも転機はおとずれるわけで。 とはいえ、オレのせいで兄、為五郎が、目を怪我して視えなくなってしまったんだ。 目が見えない人ってのは恐ろしい。なにがって。オレの正体ばれちゃったのよ!? 本人曰く、視えないものがみえるようになり、勘が働くようになったらしい。 こわっ!?こわすぎる。 そんなこんなで、いろいろとドタバタ劇がありまして―― オレは一度土方家をでることになったんだ。 もちろん家出ではない。 為五郎には引き留められるわ、正体バレルは、連絡するように言いくるめられましたとも。 いやね。むしろ正体がばれたので、あらかた全部話したところで、オレは盲目になった彼を守るために残ると言ったんだけど「本当の家族がいるならちゃんと自分の家族に会いに行きなさい!」と怒られてしまい家を追い出されたのだ。 為五郎兄の嫁までそれに参加して、弁当まで持たせてくれて、ちゃんと連れて帰ってきなさいと念を押された。 君達、オレに甘いよね? 「神様が弟なんて素敵ね」 どこがですかと思ったもんさ。 ってか、兄嫁ぇ!!あんた最初の頃と性格違いません? まぁ、いいけどさ。 っで。 ようやく銀時のもとに帰れると、猫姿に妖力全開で一気に駆け抜けたんだけど。 戻ってみれば――、松陽先生の寺子屋がない。 焼け跡やら争ったような跡が生々しく地面に残っている。 そこにはいつも笑顔で魚を分けてくれた松陽先生も、銀時も晋助も小太郎も、いつも響いていたこどもたちの笑い声ひとつもなくて。 だれもいなくなっていた。 みんながよく遊んでいた場所には、小さな墓碑があって・・・。 ――《白の墓》ってかいてありました。 『なんだよこれ!?』 オレ、死んでないんですけどぉ!! どうやらオレが去った後にたまたま住み着いた白猫が、この火災に巻き込まれて、オレと間違われたらしい。 そこからオレは、銀時たちを探してかけずり回った。 猫たちから情報を集めるに、どうやら松陽先生は連れ去られたらしい。 火を放った奴らを探していけば、すぐに銀時や晋助、小太郎を発見できた。 子供たちは松陽先生を連れてったのがだれかはわからず侍という侍にかたっぱしから挑戦していて、そんな無謀なことをしては命がいくつあっても足らないと、人の姿になって子供たちを三人ひっつかんで刀を抜いた侍から逃亡した。 松陽先生は思想犯と思われていたようで、銀時たちにも追手が向けられてもおかしくなかった。 だから追手から隠れながら、オレは子供たちを懸命に生かすために翻弄した。 しばらくたって彼の死を知った。 銀時たちはオレに強くなりたいと、松陽先生が教えていた剣とは違う剣術を学ぶことを選んだ。 オレは前世の経験から、教えれるのは殺すためだけの剣だ。 それでもいいのかと言えば、子供たちは躊躇なくうなずいた。 時がたち、最初に姿をくらましたのは、晋助だった。 そして続いて小太郎が。 オレの前から子供たちが姿を消してしまい、松陽先生の敵を討とうとしているのではないかと思った。 はたまた今よりも強くなろうとして、どこかの道場とかにいるかもしれないと、いろんな道場をのぞいてみたが子供たちはいなかった。 そうしてついには武州にまできてしまい、そこであるときオレは近藤さんと出会った。 道場破りと間違われた時は本気で泣いた。 オレが荒れていたわけではなくて、行方不明の養い子たちを探していて、荒れている可能性があるのは養い子の方なんです!とか、訴えに訴えたよ。 「そんな若い身空で子供なんぞいるかい」と突っ込まれもした。 なのでそうそうに化け猫であると素性をばらしたら――――近藤さんってば、あっけなく信じた。 彼いわく、白い生き物は神様の化身というからなぁとのことで、がっはははとそれはもうゴリラのように豪快に笑った。 髪が白い=白い猫だったことも大いに彼を納得させる役に立ったようだ。 いや、事実だから信じてくれるのはありがたいんだけどね。 でもまさかそれだけで信じるとは思わなかったんだよねぇ。 あのときばかりは、オレの方がビックリしたよ。 あんなお人よしの人間みたことがなかった。 近藤さんは、あまりに純粋だ。 いつ騙されてオレオレ詐欺にあうかもわからないほど、人を疑わない。 オレが人間でないのも気にしないとか。 近藤勲というのは、とにかく“いい奴”だった。 あの人はオレが何であろうとかまわないと認めてくれた。 オレがあの人の傍にいることを許してくれた。 なんだか似てないはずなのに、近藤勲という人間は、オレの転生人生史上最も大切でオレの拠り所だった《ロジャー》に似ている気がして――ならばこそ、オレはあの人をどんな災難からも何があっても守り通そうと決めた。 銀時と再会したのは、それから少ししてから。 約束だったから、為五郎兄に銀時をみせて、近藤さんにも会わせて。 また一緒にしばらく暮らして・・・。 そうしているうちにまたひとりふたりと再会を果たした。 そのころにはもう攘夷戦争はまっただなかだった。 銀時、小太郎、晋助たちと合流した後は、近藤さんから暇をもらって、子供らに剣を教え鍛えた。 こういうとき前世の記憶があると便利だよね。 前世で習った剣術を子供らに叩き込んだら、あっというまに強くなっちゃって。 彼等は攘夷戦争に参加するために強さを求めていた。 理由は…いわずもがな。 やがて戦争は拡大し、子供たちもひとりひとりと戦場を駆け抜けるようになっていった。 オレは猫の姿で後を追った。 銀時だけじゃない。誰にも死んでほしくなかったから。 エゴだとは分かっていて、それでも子供たちに「死ぬな」と教え続けた。 殺すためではなく、その手で守れるように。そのために剣を教えたのだと、何度も言い聞かせた。 そうやって彼らと戦場をかけていくうちに、オレの見事な白い毛は、人と天人の血でぬれそぼり、気付けば赤色に染まっていた。 このとき、オレは自分の身から、前世の神としての力がなくなったのを感じた。 命を与え奪う。それはもうオレには不可能。 ―――堕ちた。 『オレもついにただの化け猫か』 まぁ、いままでにこの力のお蔭で、救いたいものを救えたからいいけどさ。 死んだ魂を誘うとかもやったぞ。 ここは力を失ったことを嘆くより、あの力があったから救える命もあったことを感謝すべきだろう。 為五郎兄とか、ミツバさんとかさ。ほかにもちょいちょい。 でも。 これからは守りたいものは、自分で守らなければいけない。 命を……やり直せると思ってはいけない。 与えることはできないのだと、思い出さねばいけない。 できることは、奪うこと。 けどその力で守ることもできるはず。 前世の記憶をちょいとばかり持った長生きで人の姿になれるただの化け猫。 神様はもういない。 ああ、でもさ。化け猫程度でよかったよ。 へたしたら祟り神になっていたかもしれないんだから。 白かった毛は赤く。 血がこびりついたようだ。否、血を吸ったように赤い。 それは洗っても落ちず、かわりに鮮やかな色彩を放つばかり。 普通に考えて毛が染まって落ちなくなるとかありえないけどね。 そこは元神様な鹿だったり、現妖怪変化した化け猫なオレだからということで納得してもらうしかない。 そういえば前世で人間であったときの髪色は、見事な赤色だったな。 とか、思いだしたら、人間になった時も髪の毛が赤くなっていた――――ホント、どんな仕組みだろうねこれ。 ********** 「・・・・・・」 『どうした銀?お前がパフェに手を付けないなんて。 あ、このあとの清算のこと気にしてる?なら問題ないって。ここはオレのおごりだから』 「あ〜、まぁ、遠慮なくチョコパはいただくけど。 シロウ…なにかけてんの?そこにあった白いお米はどこいったんだよ!!」 『え。どこってマヨネーズの下だけど?お店のオーナーがいつもオレように“土方スペシャル”作ってくれて。あ、もしかして銀も食べたいのか?』 「断固断る!! ってか、あんたマヨラーだったのかよ!!どんだけマヨ好きなんだよ!! いまので一気に読者の皆様の夢がガラガラと崩壊していく音が聞こえたよ! あーあ、こんなに米を無駄にして!!俺のところには金がなくて日々飢えた子どもが二人もいるんだぞ!万事屋は閑古鳥鳴いてるし!白い飯のありがたみをしらないのか。めったに食べれない真っ白なご飯を!七人のお米の神様に謝れ!土下座してわびろ!!」 『なに言ってるんだ銀。これはこういう食べ物なんだ。オレが全部食うから無駄になってない。 そもそもお前、小さいときこれ食べてただろ?むしろお前マヨのおかげでそこまで大きくなったんだぞ』 「え?なにそれ俺しらないんだけどぉ!きいてないよ!!聞きたくもないけどさ!!」 『マヨは生きるための必須アイテムだ』 「嫌すぎるそんなアイテム!!」 猫時代。ゴミの中からでてきたマヨネーズ。 あれのおかげでオレは飢えをしのいだんだ。 すごいよなぁ。水とマヨで一ヵ月は生きれた。あ、なんか昔こういう事件がどこかであったような?いや、事件じゃなくて、実際にオレのことなんだけどさ。猫だった時のな。 それをおもいだして、幼い銀時を一時マヨだけで育てたもんだ。 松陽先生にあずけるまで、幼い銀時を生き延びさせることで必死だったもんなぁ。 そういえば、オレって妖怪変化しちゃったから、食べなくても死ななかったかも? まぁ、それはいつでもためせるとして。 ホント、猫の手で火とかつけるの大変だったんだぞ。 銀時が来る前までは、料理とかしなかったから生で食べることが多かったんだよな。 うん。なつかしい。 「そんな!?オレにもまさかのマヨラーの血が!?」 『血縁関係ないけどなぁ。にしても、そんなにいやかマヨ?』 「銀さん猫にだけはなりたくない!」 『ゴミあさり嫌か?戦場で死体あさるよりはいいと思うけど』 「やめろよ!まじでごめんなさい!なんて話してくれちゃってんのシロウ!!土下座するからいろいろやめてー!!」 ゴミあさりぐらいしますよ。 だって。 もとが猫ですから。 ノラ猫でしたからね! ノラなめんなよ! とはいえ、さすがに戦場で死体をあさったりしなかったけど。 こどもらがしようとしたので必死にとめたし。 われながら三人もそだてるなんて、猫としては、よくやったなぁって。 教育とかちょっと徹底はできなかったけど、イイ子育てしたなぁって思ってんだけど、その辺どう思う? 「ヅラは爆弾作ってテロしまくってるし。もうひとりはもっと凄い過激派テロリスト兼危険人物認定されちゃってるけど?」 なにも聞こえな〜い。 オレ、猫だもん。 人間の子供を生かすだけで精いっぱいだったんだよ。 うん。あの事件以降ねじまがってしまった性格の矯正まではできませんでした。 そんなわけで、マヨネーズ大好きです。 「どんなわけだよ!?」 『銀うるさい』 生きる糧だと最近は思うようになったんだよね。 たまにマヨネーズ丼とかやるけど、あれけっこういけるよね。 癖になっちゃたよ。 ついでにあとひとつポリシーがある。 前髪だ。 戦争後、真選組が組織として認められたときに、自分の決意を形に表そうとして、髪を切ってみたら、元が猫のせいでうまくいかず“V”の字な前髪になってしまった。 けれどそれはそれで個性が出ると近藤さんが笑顔でほめるものだから、あれ以降V型前髪がトトレードマークになった。 そうだなこれは勝利のVマークだ。 きっとそのうちいいことがあるに違いない。 銀時に髪が長い方が良かったと泣かれたが、気に入ったんだからいいじゃねぇかとVをつらぬいている。 そんなわけで。 元、転生者の《》です。 今世は、白い猫で名を《白》といいました。もとい現、赤い猫で、人間な 《土方 十四朗》 です。 ただいま江戸の治安を守る特殊警察【真選組】副長にしてマヨラーやってます。 名前がたくさんあって面倒なので、ひっくるめて《シロウ》って呼んでくれると嬉しいかな。 よろしく。 あとマヨネーズ好き、大歓迎だ! Come here? 成り代わったせいで原作通りでなくなった世界。 そこでどうやって夢主を真選組までもってくるか――ということを考えに考えた。 結果としては、第三者から見ると原作通りに【おおまかな流れ】はすすんでいくけど、そこまでたどり着く経緯と中身が違いすぎるという展開に。 今更ですが、この物語では、土方と銀時の強引すぎる捏造があります。 キャラも人生観も違いますご注意を! それが嫌な方はユータンしてください。 |