人外生命体は四本足で疾駆す
- も ののけ姫 -



04.ギャンブラーと天然タラシ





はろはろ、オレです。ヤックルんですよぉ〜。
足を撃たれて、イタイなぁチクショウ!と内心文句を言っているみんなのアイドルです。
ただいまむさい男たちと、森から戻ってきたエボシ嬢たちとたたら場にむかっている最中です。

ご存知ですか?
いえいえ、しらなくていいのですけどね。
オレ、前世では太陽の神様だったのですよ!
アマテラスです!
って、これ前もどっかで言ったか。

だからどうしたってかんじで、ぶっちゃけどうでもいいけど。

そのせいか。というよりもむしろ身体の形が似ていたせいで、シシ神に困ったもん押し付けられちゃったんですよ。

さぁ、どうしよう。
そんでもって、ただいま番組は佳境中だ!!





 -- side オレ --





そろそろかな。
そろそろ映画の時間も終わる頃だろう。
この世界の物語も佳境ってことこかな。

けれどここはテレビの中の世界ではないから、その後もきっと続くのだろう。

テレビ越しに見るのと、こうやって実際に体験するとわかるけど、時間も感覚も臨場感もなにもかも違う。

うちのご主人ことアシタカとわかれてからしばらくして、たたら場の人間と湖をいかだでわたっていた時だ。
朝日も近づいてきた間際。
突如、空気が変わった。


――――・・・よ・・・た。


シシ神の声が聞こえた気がした。


ああ。そろそろか。
この物語一つの終わりを迎えようとしている。

怪我をしたオレは、たたら場の人間たちに連れられて、森を抜けたたら場に戻ってきていた。
そこで突然、森のざわめきが聞こえた。
悲鳴のようなそれ。
すべての命が消えゆく音。
それはきっと森に生きるものにしか聞こえないだろう。

人間には届くことのない声。



やれやれ。

『よぉ、シシ神よ“手伝って”やろうか?』

山のむこうから、命を吸いすぎてでかくなった首なしのシシ神に、声をかける。
声といっても音の声ではなく、思念のようなものだ。

それに返答は――


《変ナノ。首、しらない、か?》


『・・・・・』

あのやろうオレのこと“変なの”と呼びやがった。
助けるのやめようかなぁ。

《たい、ぃよ、う・・・ノ・・変なの・・・》

『オレ、前世で司ってんの太陽だけどいいのかい?いまのお前には毒だぜ?』

《・・・変・・・く・・び・・・》

『うん、お前、勝手に消えてろ』

結局、無視することを決めた。
原作通りなら、きっとそれほど問題ないだろうしな。
シシ神がいなくなるだけで。


思念だけではなく、姿が見えた。
山は黒く変色していき、山の向こうから中途半端に昼の姿になったまま破壊の神となったシシ神の姿が現れた。

シシ神のくずれる身体は、ドロドロとしていて、まっくろで、それに触れたものの命を食らっていく。


そうこうしているいうちに、ウチのご主人と犬の姫さんは森を飛び出し、たたら場の人間たちに指示を出したようだ。
ドロドロから逃げるために、水の中へ避難しろと叫んでいる。その声が聞こえる。
動物の聴力をなめるんじゃないぜ。
対岸にいても十分聞こえるんだぜぇ。だぜぇい。


山の峰も軽く走りぬけるモロの子たち。
彼らは何を追っているのかなと思えば、いつだかであったあの赤帽子のゲタのおっさんがいる。
もっている桶が、カタカタとたまにゆれていてたまにホラーだ。

それをシシ神だった化け物があとを追っていく。

どうやら、あの中にシシ神の首が入っているようだ。
早くしないと太陽が出て、その体、たもてなくちゃうよと、忠告してやるのだが、シシ神いわく頭がないとバランスがたもてないから、それどころじゃないそうだ。

シシ神は、あのドロドロした身体で必死に首を追いかけるんだけど、そのたびにギリギリで逃げ切るゲタやろう。
すごい運がいいとしか言えない。

「その首をシシ神に返せ!」

お。アシタカさん、犬の姫さんと一緒にババン!と登場したよ!

「朝日よいでよ!」

「桶を開けろ!」
「わからんやつだなぁ、もう手遅れだ」
「アシタカ、人間に何を言っても無駄だ」
「人の手で、シシ神に返したい」
「ええい!もうどうなってもしらんぞ!!」

なんてやりとりを経て、ゲタから桶をうけとったアシタカはサンとオケをあけ、そこから首をだして

「シシ神よ!首をお返しする!しずまりたまえ!」

と叫ぶ。

バランスがたもてなかったシシ神は首から頭につっこみ、その中にとりこまれたサンとアシタカの身体に一瞬呪いの痣が浮かぶ。


しかし。
タイムアウトー!

そこで朝日がのぼりきってしまい。シシ神は――


《変なの》
『ん?なにさ?あんま変変言わないでくれる?泣きたくなるから』
《姿が・・似た、もの・・・ゆえ。汝、シシ神よ》
『は?え?ちょ!?まってなにそれ!?ギャグか!?たしかにみんなには赤シシって呼ばれたけど。だから次のシシ神になれてなんなのそれ!?姿が似てるからってオーボーだ!!』
《たのんだ》
『たのむなよ!』

物凄いあっさりした思念が届いた。

そうしてその思念と同時に、奴の力をおしつけてきた。
力がすべてオレにいきわたるときれいな朝日が昇りデイダラボチを照らす。
それと同時にその身体がかしぐ。

正確には光が浴びたことで、毒素がすべて分解されて、破壊の性質が消えたのだ。
というか、ぶっちゃけ今“シシ神”を継承してしまったらしいので、そりゃぁ力も何も残らない抜け殻は空気に溶けるように消えたわけだけど。
殻に残されたエネルギーはそれだけでも威力があり、なにせあんなにでかくなるぐらい命を吸ったのだから当然だ。そのおかげで、空気中にとんでもないエネルギーが放出されて、一瞬で荒野となった森に緑が芽吹きだす。


オレはとりあえず鹿らしく生きようと決め、普通を装って、たおれてるご主人と犬の姫さんところに向かった。
そばにいたモロの子たちがちょっと違和感を覚えたみたいだけど、オレの今の全力でシシ神の力を抑えているので、気のせいかと警戒を解いて、いつもどおり「よぉ」とあいさつしてくれた。
ちなみにサンも動物の言葉がわかるんだけど、さすがに今は室町とかそのくらいの時代らしいからカタカナ言語は通じないだろうって思って、とち狂った思考のまま話したりはしなかったんだぜ。
えらいだろ。
ちゃんと理性のある話し方をこころがけ、いいこちゃんぶって応対したとも。
オレのハイテンションの中身を知っているのは、たぶん消え去ったシシ神だけだろう。
サンやモロたちの前ではイイコぶりっこしてたもんオレ。
なのできっと理知的な鹿に見えたに違いない。
しかし、いまもオレの心の中の暴走には気づかず、モロの子に「お前も無事でよかったなぁ」とのんびり話しかけられた。


でいだらぼっちのおかげで緑が生い茂ったそこでだきあって倒れるアシタカとサンを発見。
おきなせぇ旦那!きれいでっせと冗談めかして、鼻でつっつけばオレんとこのご主人が起きる。
つづいてサンも起きる。

二人がよみがえった緑の山を見つめてる。
けど山犬の姫さんの表情は険しい。

「蘇ってもここはもうシシ神の森じゃない。シシ神様は死んでしまった」

『・・・・ごめん。生きてる。今、貴女の横に。ぶっちゃけ次のシシ神でぇす。なぁんて言えませんねぇ』

静観。
オレはただの鹿ですとばかりに、アシタカにいさんの横に立っています。
こんなオレが実はシシ神だー!!
イヤッホー!!!だれもしらないだろうけど。
っていうか真剣な会話をしてる横で、ひとりヒーバーしちゃってますが、声には出してないので、だれも聞き取れはしないでしょう。

シシ神はオレだ!
オレはここだーー!!

「シシ神は死にはしないよ。命そのものだから。生と死をふたつとも持っている。
わたしに生きろと言ってくれた」

ザッツライト!そのとおり、生きてますよ!
だれも気づかないけど!

ああ、アシタカの呪いの痣がずいぶん薄れてますな。
そのあとは、肉が一度腐った部分だから再生しても残っちまったんだねぇ

ど〜んまい☆





そして。
さぁ、みなさんおまたせさん!
みんなの待ちかねていた告白ターイーム!!

モロの子にまたがったサンちゃんが、アシタカと別れの会話をしています。

「・・・アシタカは好きだ。でも人間を許すことはできない」
「それでもいい。
サンは森で。わたしはたたら場で暮らそう。共に生きよう。
会いに行くよ、ヤックルにのって」


『じゃぁな』
『またな赤いの』

『またね。モロの子』

しっぽをひとふりしてさっそうと去っていく、モロの子供たち。
あの姿を見ていると懐かしいね。
前世のオレにそっくりじゃね?



っていうかさ。
ーー思うんだけど。
人の手で返したいからって、よくあのドロドロの中に飛び込んでいけるよなぁウチのご主人。
オレだって嫌だよ。
なのに死ぬかもしれないのに。
本当によく飛び込むよ。

サンちゃんって、どれだけうちのご主人に口説かれまくってるんだろう。

それでもなびかないところが、サンちゃんの精神力の強さだね。
尊敬しちゃう。







**********







あのの後の話をしようか。
たたら場は笑顔があふれる村となった。
木を伐りはしても伐りすぎないように。
伐った場所には、新たに苗を植えた。

オレはアシタカの兄さんをつれて山に遊びにいったり。
肉食のはずのモロの子とは、なんだかんだですっかり仲良しになりました。

オレはそれから十数年後、鹿としての寿命を終えてポックリ死にました。
そういえば、オレが新しいシシ神だって、最後の最後までだれも気づかなかったよ。
まぁ、それだけ力を抑えに抑えまくっていたせいで、鹿の寿命で死ねたわけなんだけどね。


なんだけどね。


『なんで十数年たってもお前らに子供ができないんだよ!!!楽しみにしてたのに』


アシタカとサンの子供ができてハッピーエンド☆
そうなるに違いないと思っていたのに。
こいつらプラトニックすぎて、こどもとかできなかった。
ちょっと期待していたオレ、悲しい。

死に際の叫びがぶっちゃけ“ソレ”でした。

死ぬ間際、モロの子たちやサン、アシタカが側にいてくれた。
だけど今わの際の台詞が変だったせいで、動物の言葉がわかるサンやモロの子たちが、物凄い仰天した顔をしていた。










っと、いうわけで。オレも平和に死にました。
そういえば、あの世界に“シシ神の力”を置いてくるのを忘れました。
あれ?あれれ?どうすんのかなこれ?
このままではオレは、前世のアマテラスとしての力もシシ神の力も付属してまた転生っておちですかね。
なにそのチートな添付ファイルは?
フォルダーはどこですか?
え?パソコンじたいない?

ええ。しってましたよ。そんなこと。
冗談だし。

ところでさ。
さっきから聞こえるパキンパキと何かが割れる音ってなんでしょうか?








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