死んで死後の世界にたどりつき
- B LEACH -



08.死神の倒し方を伝授する仕事マン





リョカがでたということで、瀞霊廷はドタバタ大騒ぎ。
結果・・・

「なんで誰かれすぐいなくなるんだよ」

11番隊の執務室はすっからかん。ものけのからである。
そのわりには、皆の机と折れの机の上に置いてある書類の量だけが変わらない。いな、むしろ自動転送されてくるのでまた一枚と増えた。

オレはひとりでせっせと、せめて自分の分の書類だけでも終わらそうと文机に座ってカキカキカキ。
そうこうしていると、ドーン!ドーンと遠いどこかの壁の向こう側から音がする。
門が大きな死神によって下から開かれ、それを市丸ギンが押し戻す。
それからしばらく静かだった。
だがオレの書類の量は変わらない。
かきかきかき・・・

日付が変わっても11番隊の隊員は誰も帰ってこない。
そういえば、オレ何徹目だっけ。まぁ、死神なんて空腹は感じても食べなくてもしにゃぁーしないし。まぁいいか。
途中夜を幾度か日付をまたいだあたりで、何度か下っ端隊員が勢いよく扉を開けて用件だけ伝えて去っていくということを繰り返したが、オレをみるとヒィー!と悲鳴を上げてから用件を伝えるのやめてほしい。
オレは幽霊ではありません。斬魄刀を向けるな馬鹿者。

11番隊の留守番隊長ですがなにか?
いやいや、そんな役職ないからね。信じるんじゃない。すなおかよ!

あと貴方が探している隊長はあちらの棟の・・・なに?書類?またか。
ああ、その書類は、隊長のサインが必要だねぇ。受け取っておくから君は帰っていいよ。
はー、いそがしい・・・かきかきかき・・・
おっと、いけね。この書類は・・・

かきかきかき・・・
ぺらり

筆を動かし紙に文字を書いては、次の書類をひろげという作業をしていれば、今日も今日とて障子戸の外は騒がしい。
ガタガタガタ!!わー!わー!バタバタバタ!くるぞ!りょかだ!○○班は東へ!

かきかき・・

しまいにはドーン!打ち上げ花火のような大きな音と共に、ふすまの外がまぶしくなりーー

バキッ

オレは思わず手元の筆を折ってしまった。
壊れた筆は墨となって砕けたが、宙にまだ浮いているので自己修復可能だ。元が液体の墨だから当然だな。
それにしても外が騒がしい。
あまりに腹が立って、斬魄刀を使用したオレはきっと悪くない。

「うっせぇんだよ!!!こちとら仕事中だと言ってんだろうが!!!!!!」

墨で一瞬で丸い球を描く。そこには“狙った獲物に直撃して爆風を起こす”というものだ。
"一人しかいない十一番隊の部署"で、きれたオレが障子窓をバン!と勢いよく開け、その黒い球を空にちょうどよく打ち上げられた光る物体に重いっきし投げつけた。こんな忙しい時にマジで花火が上がっていた。意味わからん。
本来なら俺の投石力なんて全然ないのだが、玉はそのまま物凄いスピードで飛んでいき、流魂街付近から打ち上げられた花火のような光に直撃した。
そして光は四つに分かれて飛んでいった。

「・・・もしかしていまの旅禍(りょか)か!?やべっ。なんかひとりだけまっすぐじゃなくてヘロヘロヘロって光になってとんで・・・」

とんでいく。どころかとんで“きている”。こっちに。

瀞霊廷のどこかに飛ぶはずだった光が、きっとオレが投げた玉のせいで軌道を変えた。
そして光の流星のひとつがオレの方に。
そう。光は一直線にオレの方へと飛んできた。

男の悲鳴と一緒に、オレンジと黒い色が視界に入った。

た〜まや〜からのオレンジ死神到来とか、なんだそれ?どんな花火だよ、おい。





 ::: side オレ :::





お勉強の時間です。講師はオレこと黒筆 (クロフデ )。


まずこの世界について。
しってのとおり、この世界は尸魂界(ソウル・ソサエティ)という。
いわゆる悪いことをしてない魂が来る場所である。

尸魂界は、瀞霊廷を中心に円状に流魂街がひろがるかたちになっている。

流魂街とは、瀞霊廷をぐるりと取り囲む下町のこと。風景は江戸時代の街並みを保っている。
東西南北の4つの区域からなり、さらに各区域は80の地区に分けられており、それぞれの地区には名称が存在する。80地区の更木はとてもやばいところなので近づかないように。

え?もっと細かく説明しろ。だと。めんどくせーな。

1から80まである地区は、数字が多いほど治安が悪い。少ないほど良い。これらは送られてきた魂たちの質で決められているようで、質が悪い者ほどケタの多い地区に送られる…らしい。一番治安が悪い最下層の79地区『草鹿』や80地区『更木』は、地獄行きになっていてもおかしくなかったような者たちが送られており、流血沙汰が絶えない。
あと、誰かがとった統計を小耳にはさんだんだが、50地区を境に生活レベルが急激に下がる。過去550年間の統計では草履を履いている住民は59地区以降発見されない。

ーーと、されるが、どうも振り分けがランダムっぽい部分もあるので、上記を鵜呑みにするのはどうかと思う。
だって79地区に『当時赤子だった』やちるがいるのはおかしいだろうが。赤子がどんな罪を犯したら79地区に割り振られるんだ?な?おかしいだろう。
たぶん80地区あたりの人たちは、飢えと物のなさに心が先に壊れてしまったんだろうな。そうして心がすさみ、まっとうに考えることもできなくなって、暴れて奪うしか生きる道がなくなったに違いない。もともと悪いやつばかりであったなら、魂が80地区に割り振られた段階から暴れているはずだ。そんな理性も何もない欲望と本能のみで生きているなら、他人に手を差し伸べることができるような奴が一人だっているはずもない。『当時名無しだった更木剣八は、赤ん坊だったやちるに手を差し伸べている』し、オレが知る80地区の人間たちには理性はあった。獣のような奴らではなく、理性があり、それでもひとを襲わねば生きていけなかったひとたちばかりだった。
桁の多い地区に割り振られた者たちは、始めからの悪ではなく、そこに割り振られたから魂が変質し、悪行に走らざらざるをえなかった。…そうであればいいなと思う。


だから、この世界で生きていくうえで、一番重要なのは・・・生前の記憶はわすれることだ。
そうでないとこの世界で生きていけない。

「心が先に死んでいくぞ」


ここは死者には優しくない。
死んだ者は、生前の記憶を持ったまま、ランダムで知らない家族のもとに“家族”として割り振られる。
長い時間を経て、生前の記憶は消されていき、ようやく“本当の家族”となる。
だが、その矢先にそいつはきっと転生にはいる。直ぐお別れだ。

あるやつが言っていたが、霊体がこちらの世界で更に死んだ場合、その人物は(着ている服ごと)無数の霊子となって四散し、尸魂界を循環する霊子の一部となり、やがてそれは現世に放たれて新たに生まれた生命が持つ魂となるのだという。

なら、一番死亡率の高い更木地区の住民ばかりが、転生にはいるのか?答えは、否だ。
オレも死ねばいいのかとおもい、更木地区でもがいてみたが、怪我をしようが死にかけようが、死にかけるだけで死にもしない。記憶も消えやしない。死者の魂には転生のために何かしらの法則があるのは間違いない。

その法則が、ここでの生を保証させる。

空腹があっても死にはしない、それだけで人間たちが満足すると思っているのか。
数字の低い地区のやつらも同じ。ひたすら生前の記憶と今の暮らしとの差に耐えながら、何百年と同じ場所で、架空の家族を演じながらひたすら生きるしかない。

まさに生き地獄というやつだ。

もし死後も共にいたいのであれば、一緒の場所で全く同じタイミングで死ねばいいと思うだろう。だがそんなことをしても無駄だ。会いたいのであれば、記憶をもとに、この世界を彷徨うことだ。
同じ場所で死のうが、同じ地区に割り振られるわけではない。一秒の差で別の地区にふりわけられるのだから。

ここは死者の国。
生者には想像できない暗黙のルールが世界によって定められ、それで世界が循環している。
そのルールには手を出すな。
生者がむやみにそれをみだせば、死者の苦行がまし、生活が悪化するだけだ。


「さて。私情を挟みすぎたな。次だ次」


瀞霊廷のことは、はなしていなかったな。

瀞霊廷は白一色の無機質な建物が立ち並んでいる。住まうのは死神や霊界貴族のみ。
瀞霊廷は円形をしており、東西南北に四つの門が存在する。その門の間は歩いて10日もかかるほど広いため、尸魂界全体は恐らく日本列島その物よりも広いとされる。

ーーだが、オレてきには狭く感じるので、日本列島ほど広くなんかないと思う。あくまで個人的感想だが。
たぶん。「広いのだ」と、そう世界が"錯覚"させているのだと思う。
そうでなければ、箱に入れらた人間が生きていられるか?気が銘ッてしまうだろう。壁に囲まれた町での暮らしなど。
きっとそう"おまわせなければ"、息が詰まって気が狂う人間ばかりになってしまうから。

あと、各地区ごとの移動は普通に可能だ。だからこそこうして「死神」になろうとするものが、流魂街から瀞霊廷にはいれるのだから。
ただ、どれほど広かろうが、流魂街の民が隣の区へ移動することはない。
旅行などもせず、ひとところにとどまっているだけ。
とくに世界の科学技術をよくして、娯楽を増やそうという思考も浮かばないままだ。
だからこその世界はみな貧しい暮らしをしていて江戸時代のような街並みのままなのだ。

これらのことからわかるように、この世界の死神以外の人間は、"この世界での法則"にしばられている。
死神になれる力のある者は、この力に対抗することができ、明確な思考力を持つから、世界の中心である瀞霊廷にむかうのだ。
そう、思う。
それ以外の者たちは、"なにかをしよう"という気持ちさえ持たず、ただただ"与えられたシナリオ"どうりの暮らしを割り振られた区の範囲で行うのみ。
だから彼らは「暮らしをよくしよう」「飽きる」という思考を持たない。
もたないから、この世界に不満を感じず、決められた暮らしのなかで生活し、やがては霊子となって消えていく定めを受け入れられる。

思考する者は一般的な転生にはむかない強い魂の持ち主。
彼らは魂の中から選別された者たち。
瀞霊廷はそういう者たちをむかえいれる場所だ。

ーーーっと、ここまでが、「瀞霊廷」に関しての、あくまで一個人による推理である。
正解をしるのは、世界の創造主のみ。


オマケで教えると、瀞霊廷のはるか上空には霊王宮と呼ばれる尸魂界の全てを管轄する「霊王」の住まう場所が存在する。
これは一番どうでもいいことなので、今すぐ忘れてくれていい。
そもそもやつらが、こちらに関わってこようとすることはないからな。


最後に、死神たちがどうこの場で暮らしているかについて。
だいたいは誰かからきいてわかっていると思うが、彼らは尸魂界の護衛及び現世における魂魄の保護、虚の退治などの任務をこなす実動部隊だ。
かつ、死神は部隊ごとにわかれて生活しているので、部隊の編成についてもわかりやすく語ろうと思う。
死神が済むのは瀞霊廷。ここでは死神とか貴族とかいうのが住んでいる。
そのなかで、山本元柳斎重國という年齢不詳のとんでもない老人が創設した護廷十三隊という部隊がある。これは名の通り十三の部隊で構成されている。一隊200人強、総勢3,000人程度が任に就く。
役職は隊長、副隊長、席。
席は3から20まで用意されており、上位席官ほど強い。特に副隊長および隊長はその中でも飛び抜けて強い者が選ばれる。
つまり1番目は隊長。2番目は副隊長。それ以下が席官である。

ぶっちゃけなんで3席とかややこしいところから席がつくんだよ。上からきっちり数えさせてくれよ。めんどくせぇ。といつも思うが、「副隊長の次は3番目」と覚えておけばいいと思う。



「ここまではいいか?」
「あんたは?その隊長とか席というお偉いさんなのか?」
「ん。まぁ、オレも一応席はあるが、11番隊の11席。とてもわかりやすいのだけが売りだ」

さてさて、今更なぜこのような説明をしているかというとーー。

「え。じゃぁさん。席があるってことはやっぱりえらいんじゃ?」

聞いてわかるだろう。このぽやっとした死神くん、正規の死神じゃない。噂の旅禍こいと黒崎一護である。
死後の世界と死神というものをてんで理解せず、情と熱意と勢いで突入してきた一護君のための改めての解説である。

君、現世だと頭いいとかじゃないの?ちがうの?でも死神にかかわりすぎて、気付いたら脳筋になってた?頭がイイかは知らんが、意外と猪突猛進なところがあるよね。

そもそもなぜ一護がこの十一番隊のお部屋にいるかというと、先程流星のごとくぶっ飛んできたからである。

「偉くない偉くない。本当に偉くない。もうひたすらに隊員たちのやらかした分の始末書という名の書類整理を押し付けられてるうちに、書類さばきが旨くなっててね(苦笑)それできづいたら席をもらっていただけだから。
あ、一護くんお茶いる?外騒がしいからねぇ。はぁ〜物騒な人たちばかりで本当にやだ」

花火んおような侵入をしてきた旅禍は、オレが能力で吹っ飛ばしてしまい四方に散り散りになってしまった。
そのまま流星のごとき勢いでオレのもとに吹っ飛んできたのは、オレンジ神の死神黒崎一護だった。

こっちにきたので思わず墨を大量に生み出すことで、空中キャッチした。

いや、なに。オレがうっかり彼らを四方にぶっとばしてしまったとか。うん。責任は感じてないよ。ホントウダヨ。
え?もし自分の責任じゃなかったら、吹っ飛んで来た一護くんを放置するのかって?うん。そりゃぁ当然だろ。オレ、関係ないし。勝手に相手が死のうが、壁に突き刺さろうがしったこっちゃない。知らん。
あ、旅禍が別々の場所に吹っ飛んだのは、けしてオレの責任じゃないよ!ってことにしておこう。

まぁ、そんなわけで、世界の主人公たる一護くんを“保護”したわけである。

というか。せっかく建物への衝突をカバーしてやったのに、初っ端から「ルキアはどこだ?」「ルキアを助けるんだ!」と胸ぐら掴んで騒がれたので、首に手刀をぶったたいて落ち着かせて(気絶させたともいう)、室内にひきづり込んだのだ。
騒ぎになるのも面倒だった。建物の破損も防いだ。オレは悪くない。

そのまま十一番隊の部署にかくまったうえ、四角い絵を描き“結界と幻術”を付与して、部屋全体に結界をはった。
誰かが来てもこの部屋には誰もいないという錯覚をして通りすぎてくれることだろう。
ただし、野生の勘で更木隊長には気づかれそうだけど。
そこはそれ。


そんなわけで、目覚めた一護君にこれ以上騒がれないように、協力という名のこの世界の常識講座を開いていたところである。
お題は尸魂界(ソウル・ソサエティ)とはなんぞや。死神とはどうやって部隊を組んでいるか。などなどである。それを詳しく(オレの私情&推測がメチャクソ混じりつつ)説明していた。

部署の棚にあるとある先輩の名前が書かれた茶葉の袋からザラザラっと葉を急須へ流し込みお湯を注ぐ。
イイ感じになったところで、別の先輩用の戸棚を開け彼が隠し持っていた洋館をひときれ切ってをお茶ごと一護にだしてやる。
え。問題はないよ。
だって、もうここオレの私室でいいと思うんだ。そこへ置いとく方が悪いよね。
それにあいつら仕事しないんだもん。
オレへの報酬だと思って、オレも羊羹を一切れ斬ってお茶と一緒に流し込む。

「ふむ。先輩が買ってきた菓子にしては上等なものだな」
「あ、えっと。いただきます?ってか食って平気なのかこれ?」
「どんな意味で心配してるのかは知らんが。賞味期限はこの世界にはないぞ。あと君が高級品に対して怖気づいているのか、誰かの物を食べてしまうことに申し訳なさがあるのか。はたまた黄泉戸喫(よもつへぐい)になって帰れなくなることを心配しているのか。君の懸念がどれかはしらないし興味はないが。
この世界では『現世で語り継がれているあの世の法則』は当てはまらないからなぁ。そもそもここがあの世だ。 ここが本当に現世の人間がいう天国であるなら、ひとが想像するようなゴクラクチョウが飛んでいるような穏やかな桃畑も天女もどこだ?なにもいやしねぇし、幻想的できれいな空間もありゃぁしない。いるのは地獄蝶と呼ばれる死神の伝令を担う黒揚羽ぐらい。あるのは、前世よりも苦痛な暮らしのみ。
ここが天国なら、地獄にはきっと人間が考えるような数がいっぱいあるナントカジゴクとか、きっとありゃぁしねぇよ。
つまり、ここはお前が思う黄泉の国とは別のあの世だ。ここで君が食べ物を食べようが、問題はないだろうさ。君だって今は霊子だしなぁ。いわば我らと肉体的には仲間だ。
黄泉戸喫は、生きた体を持ったものが死者をごまかして黄泉の国へ侵入する。肉体を持っている状態であの世の物を食ったーーこの世界で当てはめるなら、それにより霊子をとりこんでしまい、本来肉体に収まる量の霊力以上の霊力が体内を巡ったことで肉体から魂が出てしまって、素性がばれつかまって帰れなくなったと思われる。
今の君のように、現状魂だけのやつらにとっては、霊子はただのエネルギーだ。問題はないさ」
「えっと、じゃぁ、さん信頼してるし」
「はぁ〜。あんまり人を軽々信頼するなよ。いつか壺を売りつけられても知らねぇぞ」
「はは!それはないって!でもさんは、信頼できる!さっきだって俺を助けてくれたしな」

本当に大丈夫かこいつ。
うっかり現世に戻ったら人を信用しすぎたあげく、ヤバイ壺とか、謎のブレスレットとかうりつけられそう。
オレがじとめでみている間にも、一護はきにすることをやめたのか、パクリと出したものに食らいついた。
わぁー、安全保障したオレが言うのもあれだけど。
よく知らない世界で飲み食いを躊躇なくできるよなぁ。

まぁ、たぶん平気だろう。・・・・さっきのもあくまで自論だがな。
ほら、そういう設定はすごくこの世界曖昧だった気がするから、きっと大丈夫だと思ってる。


「黒崎一護、"茶の味"はどうだ?」
「ああ、うまいぜ。死後の世界でも茶は茶の味がするんだな」
「そう。死後の世界でも味覚はある。同じように怪我すれば血は流れるし、痛みもある。それを忘れずいろよ」
「ん?なんでだ?五感なんて、あって当たり前のもんだろ。もしかして!?この世界に長くいるとなくなっちまうとかか!?」
「ちがう。生者も死神も同じだって話しだ。つまり、やばくなったら死神に対しても人間と同じ急所を狙え。それだけでも十分効果はあるから、君にも勝機はあるわけだ」
「・・・あのよー。さんは、旅禍(りょか)である俺にそこまで親切なんだ?そもそも俺が旅禍だってわかってんだよな?」
「ぶっ飛んできたときからそんなものは知っている」
「はは。あんた優しいな」
「優しくはないな。君に手を貸すつもりはないからな。だが知識と情報はおしえてやる。情報こそ戦の要だからな」
「いや、それだけでも優しいと思うぜ」
「勝手に言ってろ。一対数千という状況が理不尽だから教えてやってるだけだしな」
「うんん?いま数千って?」
「言ったな。さっきも説明したが、君が相手にするのはここ死神の総本山《瀞霊廷》そのものだ。死神は一部隊約200。隊は全部で13。つまりこの中に死神は少なく見積もっても2,600人。隊にくわわってないだけで他にも死神はいる。それを含めれば約3000人だ。
君ら四人ごときの旅禍では体力を消耗させられたあげく、旅禍組の負けが目に見えている」
「げぇ!。そんなにいたのかよ!」
「だからこちらの常識をたたき込んでやってんだろうが。知識はいくらあっても無駄にはならないからな」

出したお茶を褒めてくれるのはいいが、「ほー。なるほど」とかなり軽く頷くオレンジ頭の額をぶすぶすさしてやる。
おい。この軽そうな脳みそにはちゃんと今の知識が入ってんだろうな。思わず抉り出して確認したくなったわ。

「はぁ〜。まぁ、聞け。さっき君が気づいたように、この世界は霊子でできているが、基本的には生者とかわらない。血も流がれ、痛みも五感もある。
だから死神も生き物と同じ急所をねらえば、効果は絶大だ。労力をできるだけ使いたくないのであればこれが一番オススメな死神の倒し方だ。奴らは刀に頼りすぎてるから、近づいて首を絞めればあっけなく死ぬしな。つまり急所は死神も一緒ってこった。
あと現世で化学式を覚えているのなら、それも利用しろ。たとえば火は酸素で燃える。急激な熱を冷やすと物は割れる。この世界にも酸素がある。空気中には水分がある。つまり君たち生者の常識がこの世界でも通じるんだ。それを応用して戦いに活かせ。化学反応。物理の法則。現世の知識。自分が持つ知識はすべて使え。
それぐらいの卑怯な小技を使わないと、数には勝てない。死神初心者が刀だけを振り回していて、何百年と死神業を行ってきた者たちに勝てるはずもない。
あと、取り返したいものがあるのなら、けっして敵に情けはかけるな。敵が人の姿をしていようが斬れ。
オレなら「敵」は殺す。躊躇なく殺す。オレなら、相手が追いかけてこないようにまっさきに足の腱をまっさきにねらう。
思うに君はきっと無理だ。オレと同じ戦い方はできない。旅禍・・・すなわち現世から来た者。現世に争いはあるか?ないだろう?そんな君が、敵を「敵」だからと殺せるはずもない。せいぜい痛めつけるのが限界だろう。
だが、そんな平和な世の中を生きてきた現世の人間が、死神という生き物を傷つけてでも助けたいと望む。そこまでして誰かを追いかけるぐらいだ。君は生きている者を殺せはしない。だから気絶させ、人体を弱める方法を教えてやっている。
うまく逃げきってみせろ旅禍。大切だと思う者をとりかえしてみせろ」

あーしゃべりすぎた。おかげで喉がカラカラだ。
のんびり湯飲みに新たな茶を注ぎ、ゆっくりすする。
うん。美味い。

いろんなことをいっぺんに詰めすぎてこいつの脳内は飽和してないだろうか?

知識より、護符でも与えればいいのだろうか。
残念ながらオレの暗記力は皆無に近いので死神が使う術『鬼道』は一切使えないし、それについて教えてやることもできない。

ああ、"言葉"なら与えられるか。

「死ぬ気ではなく、生きたいと思い続けろ。死んでたまるかと常に思え。それがこの世界の節理から最も遠い願い。ゆえに強い力にもなる」

尸魂界(ソウル・ソサエティ)の住民は死ねない。食べなくてもひもじくても死にはしないのだ。そうしてこの世界の長い長い時にとらわれているオレたちは、生きることにつらくなりやがて死をのぞむ。終わりを望む。それが流魂街の住民であればよけいに。
だからこそ「生きたい」という願いは強力な力となるはずだ。
生きる力こそ。生者しか持ち合わせないもの。この世界には存在しない強い力そのもの。それこそが強い意思(こころ)となる。

この言葉だけでも覚えていてくれれば、これが主人公がこの戦いから生き残るために必要なおまじないとなるだろう。
さぁ、あとひとつ。オレからのプレゼントだ。

「君にひとつ力を授けよう」

斬魄刀よこいと念じれば、パッと宙にペンと同じぐらい大きさの筆が現れる。
それを手に取り、紙に蝶の絵を描く。ただの絵だった蝶は紙から浮き上がりると実体を得て、この世界の地獄蝶とよばれる蝶にそっくりな黒アゲハ蝶となって、ふわりと一護の肩にとまる。

人間の価値観で言うならここは天国のはずなのに、なんで蝶は地獄蝶なんだろう。
やはり、ここは天国ではなく、地獄なのかもしれない。
じゃぁ、よけいに、主人公の身を守るためにもこの"力"は必要だね。

「その蝶は加護」
「は?」



「一度だけメガネを砕く力を持つ」



本当に、メガネのメガネをパッリーン!って砕く力しかないから(笑)。

まぁ、"あいつ"が、メガネを捨てる前なら隙を作れるよ。っていうだけだけど、ないよりましかなと。
能力が発動時に眼鏡を付けた人が傍にいると、そのひとのメガネもわれるから二次被害がすごいことになると思う。
ちなみにそれはガラスだけではなく、"宝玉みたいなつやや〜んとしたものを割る能力"を与えたから、大事にあつかってね。きっと素敵にイイモノを割ってくれるから。

「え?めが?えぇ?えっと・・・どういうことだ?」
「オレはこの後も書類仕事が山のように残ってるから手伝えない。あれをみろ。あの量を全部さばかないといけない。
しかも旅禍をかくまったとか面倒な処罰を食らいたくないので、君は一人でいってくれ。
で、あわよくば、このどさくさに乗じて、気に食わないメガネのメガネを壊してきてほしいなぁ〜。と思ったりした。ああ、まぁ私怨だから気にしないでいいよ」
「なんだそれ?」
「ただの私怨だから。そういうのは横において置いていいんだよ」

うむ。地獄蝶を模倣しただけあり、見た目はほぼ同じだな。
あと蝶を肩に乗せてる一護少年とかおもろ、じゃなくて威圧感がへる。

よし。とりあえず蝶々はこのまま一護についっていって、"役目"を果たしておいで。後々凄い面倒くさいことにならないようにさ。

さ、オレの言いたいことはここまで。
じゃぁ、あとはーーー

頭上にハテナを浮かべたまま自分の肩に乗る黒揚羽をみて首をかしげる一護。
の、肩をおもいきっりガシリと掴む。
ビクッ!としたあと、何か怯えたような目で見られたんだけど、外見こんなにプリティーな少年なのに、なんて酷い。

「いや、だってあんた!れ、霊圧が!!さっきと違いすぎる!」

ほう。そのくらいは気づくか。
ドンカンさんかと思いきや、そうではなかったようだ。
うんうん。そうこなくちゃ。これなら"しごきがい"もあるっていうもんだよね。

「さぁ一護くん。ここからは人体の急所と、化学式のすばらしさについて、オレとちょこぉっと勉強しようか!」

イヤイヤとばかりに首をブンブン降られるが、こちとら数百年死神をやってるんだ。握力とかも舐めてもらっては困る。
そのまま逃げようと暴れる一護の肩から腕を動かさず・・・にぃ〜っこり。

「え゛。俺、ルキアを早く救いに『行か』ないと」
「うんうん。その「行く」が「逝く」にならないように、お兄さんがいまから死神の倒し方を伝授してあげるからね」

なにぶん、今の君はとても弱い。そのまま朽木ルキアのもとへいったら、「即死」まちがいなしだ。

そもそも本来君と最初にぶち当たったであろう「ツイている男」一角は、オレのオトモダチなもので。
ちょこぉーっとやりすぎちゃって。あの子、凄いつよくなちゃったんだよねぇ(笑)。
一角先輩と会ったら、いまの一護じゃぁ瞬殺されちゃうし。

うんうん。たべて、鍛えて、ポイしちゃおうと思ってね。

「卍解!世界よ哂え、夜の舞台で踊り狂え、『夜宴御伽語』!」

砕けた筆が墨となり、パシャリとおとをたてて空気中の水分に紛れ込む。
そのまま床へビシャビシャと染みをつくり、黒い水たまりとなる。
ちょうど一護を抑え込むオレごと一護をも囲むように。

「喰われちまいな黒崎一護っ!!!」
「な、なにを・・・だぁ!!!?」

突如、床一面に広がった墨が盛り上がり巨大な鯉の絵となり、口を大きくあけ、オレごと一護を飲み込んだ。
バクリ。
そんな音をたてたあと、鯉は一度とびはねると、そのままザブーンと床の墨の中に潜り込んでいく。
ただし床一面に広まった墨は、畳に染み込むこともなくスッと消える。

これはね、畳の下の影の中に待機してるんだよ。
いいこだよね、オレの斬魄刀!

とはいえ。はい、オレも一護も食べられちゃったよ〜。

あっはっは。すでに種はわかっているだろうが、言っておくと、これはずっと畳の下に潜んでいたオレの絵だ。
常に卍解(小)でただひたすらに書類仕事だけをしていたわけじゃない。
いつだって逃げ道や奥の手は用意してあるのさ。

なお、このパックンチョ。ぶっちゃけ前世でもバリバリやった。墨を影として移動する能力「黒姫」。どれだけ黒姫にたくさん人を食わせては別の場所に吐き出したことか。なつかしい。
ちなみに現在は、この鯉に影を移動する力はない。ただし鯉の絵には"体内は霊圧ももらさない結界空間"という能力をあたえている。
一角との卍解訓練にはよくつかわせてもらっている慣れた場所だ。

まぁ、そんなことしりもしない一護は、愉快な悲鳴をあげながらおちていくけどね。

死神なら空中を走れるだろうに、そもそもここは異次元空間。空気も重力もないはずなのに。"飲み込まれた"という意識が強かったせいか、重力の法則に従ってみごとに下へ下へとどこかにむかっておちていく一護。騒がしい悲鳴付きで。
流れもないのに、下へおちていくとか。逆に一護の想像力って器用だね。と思ったりした。



そんなわけで、ちょこっと斬魄刀の使い方をしばらく叩き込んだあげく、ちょこっと人体の急所をたたき込んでこようと思う。

一角に瞬殺されないためにも!










はい。時間が流れるのは早いですね。
うん?そりゃぁ、異次元空間が、現実と同じ時を刻むわけないだろう。

向こうの時間は圧縮されているのさ。

墨だけの能力のはずなのに、よくぞここまでできたなって、自分でも思ってる。
けっこうガチでオレ天下とれそう!とかおもってるし、やろうと思えばできる気がする。

だが、残念。

「オレには仕事があるからね〜。まぁ、そこまで頑張ったんだから大量の死神を倒してくるといいよ一護」
「おう!サンキューな!」

世話になったと、ちょと顔つきが立派になった一護が窓に足をかけて颯爽と出ていく。

「・・・・窓かぁ」

なぜ身体能力が高いやつらはみな窓からでていくのだろうか。
あとであそこのふち、ふこう。ぜったい草履のあとがついてる。

「不衛生極まりないな死神どもは」

面倒でも草履は脱いでいけ。



っで、いい笑顔で見送ったのはいいんだけど。


ねぇ、そろそろ笑ってもいいかな?

ずっと気になってたんだけどさ。
一護の横にずっとサングラスかけたおっさんがうっすら見えてたんですけど!!!
きもっ!なにあれ?幽霊か何かかよ!?
笑えばいいの?
あ、斬魄刀の化身。なるほど。
え、うちの子プリティー黒い羊さんだし、他の卍解できてるひとたちの斬魄刀の化身って結構美形美人が多いのに。
一護のはおっさんなのか。まじかwwww

サングラスとかwwwwwwwすげーwww








一護が飛び出して行ってからすぐに、ドーン!と大きな音が聞こえたけど。もう我関せずでござる。
しらん。

展開していた幻術をとき、隊の部屋を一望する。
並んだ文机。山のように重なる書類。
書類書類。
書類。

チラリと上座から数えて11個目の自分の机を見て、はぁーと深いため息が出た。
やだぁ〜、白い山がみえる〜。
これね、実は席をもってない子たちの出してくれた報告書なんだわ。全部。

うん。きっちりというには中味はちょっとどこの中学生の反省文ですかってレベルのアレなんだけど、席あるやつらよりまじめに毎日に報告書を出してくれるんで、むげにもできないんだよね。
でも、何度も言うけど。

「一部隊につき約200人の隊員・・・」

さっきまで一護というおもちゃでいい運動をしてリフレッシュできたから少しは気分がいいが、なにもしてないのにもう頭が痛くなってきたよ。
本当にマジで旅禍とかにかまってる暇がない。









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<オマケ>

「11番隊の黒筆ってどんなやつ?」

檜佐木「ああ、11番隊11席の黒筆か…知っているとも!」
檜佐木「なぜって。彼がいなければ11番隊は書類は放置されてるだろうし、俺らの広報活動で11番隊のアンケートも返してくれるから有能な人材だ。影の功労者…縁の下の力持ちってやつだな」
檜佐木「今度、俺たち広報部から粗品で人気の入浴剤セットを黒筆に贈る算段だ」

瀞霊廷通信を発行してる9番隊はみんなをしっている。
ただし、他の隊からすると表に出てきたことほとんどない席官なんかしらない。

それでも今日も今日とて、このあとルキア救出までの数日間、ずーーーっとの姿は障子の内側。
きっちり窓も障子もふすまもしめ、音も遮断し、は今日もカリカリとペンの先端を削る勢いで仕事をおこなっては、幽霊と勘違いされ怯えられている。

「なぁ、。いい加減、寝ろ?」
「期日が明日なんで無理です」
「さすがに死神が頑丈だからって、お前の目の下のクマがやばいんだが・・・」

は本日も死んだような目で、作業中である。








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