死んで死後の世界にたどりつき
- B LEACH -



04.心配性の羊と世界を哂う





 -- side オレ --





 さっそくですが。
そんなこんなで、あるとき限界に達したオレは、羊を力技でひねり潰し勝利を得ました。
そしてオレはというと。

あの悪夢の羊事件後、今度こそ平穏を求めて休暇の申請を出しました。


 いや〜あの羊事件では眠気のあまり死ぬかと思ったよ。
周囲の人には目の下の隈のことで心配されたり、「こわっ!」とか怯えられたり――わけわかりませんね。
上の人に休暇申請を出したときは、寝不足やらストレスやら…鬱憤が色々たまっていたので、物凄い顔をしていたらしく、ビビった顔の上司たちがあっけなく許可をだした。
こえぇよ。と剣八さんにまで言われました。





 そして―――本日。
待ちに待った日がやってきた。

「やっとだ・・・」

やっとこの日が来たのだと思わず笑みがこぼれそうになる。

 下っ端はみんな書類仕事からというのは、よくわかる。それに他の隊の新人もみんな同じことをしているのは理解している。
だけど十一番隊では、その書類作業が半端ない。
なぜって、だれもやらないからだよ。
とくに席もつ上司らが。
驚くことに、あの更木隊長と副隊長は、やるときはやる人たちだった。
隊長と副隊長二人は毎日書類に手をつけるというわけでもないが、やらないわけでもない。「席」をもらっているやつらよりは、やることはしっかりやっていたのだ。特にやちるさん。
さすがにこれには驚いた。
原作をチラっと読んだことはあったが、彼らがこうやって書類仕事をするようにはそのときでさえ見えず、書類をしっかりやっているとは思いもよらなかった。
 まぁ、本人達いわく、やらなきゃ、今頃隊長や副隊長を下ろされているからとのことだ。
それじゃぁ、つまらんと――それだけのために書類をしているらしい。
いやね。でもさでもさ、それでもやるだけ素晴らしいです。
隊長たちがテキトーと言いつも書類をかたしていく。
 っが、しかし。
そこはしょせん十一番隊。
つまるところ新人のほとんどが、ムキムキマッチョか、戦闘バカなのだ。
よって必然的にマッチョでもなければ戦闘狂でもないオレに、事務処理のような雑用が回ってくる。
 うん。オレ、記憶力は悪いけど、やればできる子みたいだ。
たしか生前のオレは、体を動かす感覚で物を覚えるようなそんなやつだけど、そういえばプログラミングとかは結構好きだったし、事務仕事もしたことがあったはずだ。
そのせいかこの世界に来てからの書類整理もなんとかなった。

ただし。
何度キレそうになったかは・・・・・・ぶっちゃけ40回を超える段階でもう数えるのもやめた。


 そして今オレは、相変わらず誰もいないこの隊舎で、ようやく慣れてきた筆を使って文章の作成中である。
普段なら机に(他の人たちの分もあって)山積みになっている書類を前に、ぶちぎれているところなんだけど、オレだってそうそう筆を折りまくって余分な経費をかけるような趣味はない。

「クックック。ついにきた。待ちに待った今日この日がっ!!」

 オレは自分の分の書類だけをきっちり終わらすと、なぜかオレの机の周囲に置かれている一週間分以上はたまっていそうなほかの隊員たちの書類をひとりひとり名前ごとに分ける。
そして訓練という名の破壊活動をしにでかけた奴らの机の上に、書類と共に白紙の始末書をそれぞれのでおいておく。
それを終えると、オレは自分の机の上に、朱で大きく一文を書いた紙を貼り付け部屋を出た。

 部屋を出るさいに、和室の畳はこころが和む☆とか、障子やふすまって和心をくすぐるよな〜とか、普段ではありえないことを考えていたことに、余裕を感じて思わず笑ってしまった。
そのままウキウキ気分で、周囲に花でもさけばいいのにぐらいの気持ちで、自分の分だけの書類を各隊長やら部署へと提出した。

 今日のオレはふだんの欝を背負ったオレじゃない。
なぜなら、今日は事前にとってあった休日。
しかもれんちゃんだ。
更木隊長や草鹿やちるさんには、今日から三日間休むと告げてあるし、許可だってもらっている。
 文句はいわせねー!!
それに、更木隊長は完全な戦闘狂だが、意外と話のわかる人だったのがイイ。
自分の分の仕事はキッチリやるから休みください!とつげたところ、更木隊長とやちるさんの分の書類を一部手伝ってくれたらかまわないとあっさり許可がおりた。
なので二人が暇しているときに、どこをやるのか聞き―――書類すべてではなく本当に一部だったのには驚いた―――それを受け取って、今日の分も済ました。
なので本当にオレは休暇だ!!

やったぜこのやろう!

そんなわけでオレは、今日から三日間護艇を離れます。








黒筆 は本日より休暇につき

書類は自分(てめぇ)でしやがれ!!







「うわぁ〜。ねぇ、けんちゃんけんちゃん。っちゃんの机の上にすごいメッセージがあるよぉ」
「ぉ、おー。たしかにスゲぇぜ」
「でもしっかりあたしたちの分はやってくれるから優しいよね」
「たしかにな」

※書類はためてはいけません。しっかりやりましょう。





**********





 ただいま休憩を満喫中なオレ、十一番隊平隊員 黒筆 (クロフデ ) です。
私服です。
 オレの私服は、生前着ていた服を思い出して、新しく作ったもの。
オレはこの世界に来る前までは好んで黒い服を着ていた。
しかも服といってもどれも和服や着物の改造したものばかりだ。
ズボンはひざくらいのたけ。そでも八部。しょせん、甚平というあれである。
死神だからというわけではなく、相変わらず趣味走って全体的に黒がメインだった。
だけど店に頼んだら¥ものを受け取りに行き、なぜか濃い藍色の布に、アホっぽい子供むきな青いヒヨコモドキの絵がプリントされた甚平となったのをみて、びっくりした。
ただ深い紺のなかに浮かぶヒヨコは、綺麗な青色だったのはすくいだろう。
ちょっと年齢をはるかに無視してくれた子供っぽすぎるデザインにはさすがに涙したが、この世界に来たことで10歳ほどまでに縮んでしまった今の外見には問題ないだろう。
無理やりそう思うことにして、それ以降私服としてその甚平を着ている。
買いなおすのも面倒だ。

に、しても。
オレの髪は赤いんですけどね。
なんで青の服?
オレというイメージからは程遠い気がしたけど、反対色だったせいかオレの目立つ赤髪と色同士が反発しあうことなく、周囲の皆様には意外と好評だった。

 ちなみに連休で一番初めにしたことは、その目立つ髪を切ることだった。
ここのところ忙しくて切る暇もなくのばしっぱだった父親似の赤い髪は、腰近くまでのびていた。
だが、いかんせん邪魔だ。戦闘のときといい、洗うときといい。
それにこの世界で黒以外の髪は目立つのだ。
 ただでさえその赤色は人目をひくのに、その赤色の範囲が広くては、隠れようもない。
普段から霊力を抑えて抑えて…気配まで消して、存在を薄くしてはいるが、その鮮烈な色は存在感がなくとも嫌でも視界に入ってしまうのですぐに気付かれる。
極力目立ちたくないオレとしては、赤い範囲を減らすべく髪を切った。
もちろん本音としては、邪魔だったからだ。
 首元付近までバッサリ切ったら、髪がなくなっただけで随分頭は軽くなり、手ぬぐい一枚で赤色を隠すことができるようになった。
軽くなったせいか、それとも普段感じる視線がなくなったせいか、どちらにせよオレの気分はさらに向上した。

たとえこどもにしかより見えなくなった原因の――青いヒヨコの甚平姿であろうとも・・・。


「もっと早く切りに行けばよかったなぁ〜。ま、仕事があったからしょうがないよな」

 本当に気分がいい。
髪を切るだけでここまで変わるとは。
それに仕事がないのもいい。

 黒い羊による安眠妨げもなくなった。
やってもやっても終わらない書類との戦いの日々。
仕事もない。イヤな視線もない。
戦闘狂どもの訓練という雄叫びも破壊音も聞こえない。
それらすべてがない。
あるのはいまのまったりとしただけの静かな時間。

 あぁ、なんて最高なんだろうか。
至福の時というのは、こういうことをいうのかもしれない。

鼻歌でも歌いたくもなりそうだった。



 オレは意気揚々と、おいしいと評判の甘味屋ののれんをくぐり、アンコの串団子を注文する。
店先の長いすに座って、緑茶を飲みながらまったり好物を食べる。
なんて幸せ。
団子がいつも以上においしく感じてしまい、つい顔がほころぶ。
 っと、そこへ、違う意味で眩しいひとが、街中を闊歩しているのを発見した。
格好は死神のもの。
鋭い目もあの見事なつるっぱげにも覚えがある。

「おや〜まっ☆おもしろいものみ〜っけ」

 オレの平穏をことごとく壊してくれる内のひとりであるそのひとは、十一番隊第三席 斑目一角だった。
普通ならこの幸せを満喫するために声をかけるべきではない。
だけどオレはなんとなく彼に声をかけていた。

 興味がわいたのだ。

 彼に“あのこと”を告げたらどうなるかと――
それを想像して、思わずニヤリと口端が持ち上がる。
 彼とは原作がせまっている今、もう少し仲良くなっておくべきだ。
これさいわいと、タイミングのよい彼の登場に、原作の近さを感じ取り笑いがこぼれそうだった。
 藍染さんをとめるというなら、いくらでも協力しよう。
実のところ、藍染さんの書道教室に入れてもらおうと思っていたのに、結局通えなかったんだ。
なんかことわられてさ。
だから原作破壊をするなら喜んで手を貸そう。
藍染惣右介がオレを書道教室に入れてくれなかったから、オレは学院ではのけものにされ、願ってもいない十一番隊で書類整理をするしかなくなったのだから。と、オレは死んでいて疑わない。
それゆえにオレが。藍染惣右介に対する私怨でもって、技を鍛えるのもおかしくない原理だろ。
 ちょうど一角は卍解を覚えているはずなのだ。オレは相方である斬魄刀たる黒い羊をたおしたことで新たな力を得た。なら一角は、練習相手にはもってこいだろう。
口かたそうだし。

ニ〜ンマリ


「奇遇ですねぇ、一角先輩◇ 先輩もオフですか?」
「ん?だれだ?」

 甘味どころに腰を落ち着けたまま声をかけたら、一角は不思議そうにキョロキョロと周囲をみやる。
あっれぇ?オレってスルー?
今日はオフですからね。そこまで気配を消しているつもりはないんだけど…。
そこまで考えて首を傾げつつ、こっちだと手を振ったところで、ようやく一角と視線が合う。

「こっちですよぉ。こっち」
「・・・・・・お前、か?」
「他のだれだっていうんです?」
「あ、いや。わるい。あまりに雰囲気が違うんでわからなかった」
「あー・・・そりゃぁ、アレっす。髪の毛をきったからでしょ」

 髪は切ったし、服は可愛いヒヨコ柄の甚平。
うん。
オレ、死神に見えないね。
っと、いうか、そこらに普通にいそうな子供にしかみえないね。

ハハハ・・・ふざけんなよ。
なんだよこの童顔。
もういや。
うん。オレが童顔であることは忘れよう。


「ところで」

「なんだ?お。この団子本当に美味いな」

 一角を横に座らせともに団子を食べつつ、数日前まであったオレの隈の原因を作ってくれた“あの夢”のことを持ち出す。

「最近、夢見が物凄く悪かったんですがどう思います?」

 うん。いい先輩を持ったなオレ。
 団子を食べつつもしっかり横に座って聞く体制の彼は、どうやらこのまま話を聞いてくれるらしい。
以外とそういうところは律儀というかまめなんだよなぁ〜と思いつつ、“これから”のために彼にだけは告げておかなければない。
あの夢がなんなのか。
で、なければ、オレの体がなまる。

「どんな夢だ?」

「ああ、ハイ。それがとんでもなく強烈で」

 うん。あれは強烈だった。
あまりの強烈さに、現実で目が覚めるほど。しかも痛みつきで。

 オレが一瞬視線を遠くへと向けたことで、それほどなのかと、一角が「想像もつかねぇ」と若干顔をひきつらせた。
それにオレは頷く。
本当に強烈だったのだ。
寝るたびに攻撃を食らわされて現実で痛みとともに目覚める――そんな日々が続き、寝不足になるわ・・・。
何度死にかけたことか。

「強烈?詳しく聞いてもいいか?
ほら、俺ら死神の見る夢ってのは、もしかすると斬魄刀関連かも知れねぇしな」

 オレは彼の言葉にうれしくなった。
さすがは十一番隊の理性(と、オレは思っている)。
 一角はオレの言葉をそのままとることはせず、きちんと考え、数少ないヒントから答えへと自ら導く。
その機転ときちんと自分というものを持っているところが好ましい。

 だからオレは彼に話すことを決めたのだ。
 そう。あの夢はオレの斬魄刀が“対話”を求めていたそれだった。
結局のところ“タイワ”ではなく、“タイマン”一本勝負でオレが勝ったのだけれど。

「ええ。たしかに夢は斬魄刀が影響していました」
「強烈ってショッピングピンクのオカマでも出てきたのか?」
「どこからその発想が出たのかとか凄く気になるけど。
まぁ、それもまた強烈ですが、出てきたのは黒い羊です。 黒い羊に毎日のように死ねと言われ、あげく心を抉られるような辛らつな罵詈雑言の数々をあびせられ、 最後には必ず蹴り飛ばされる・・・そんな痛み付きの強烈な夢です」

どう思います?

言った言葉に、なぜか一角の顔がひきつった。
それはたしかに強烈だなと同情的な視線をもらった。
オレとしてはそんな言葉じゃなく、あの羊の性格の悪さを共感してほしかったのだが。

まぁ、きれたあげくオレが逆転して羊さんたおしたけどね。完膚なきまでに。


「っで、昨日。ついにオレはやつの寝首をかくことに成功したんです」
「寝首って・・・おまえ、それ、夢だろ?」
「たしかに。でも夢とはいえ、オレは毎日の書類整理で鬱憤がたまってて、さらには夜には羊にののしられ。限界だったんですよ。
っで。ぶちぎれたあげく、羊ごときに毎日いびられているのが疲れたんで、やつが現れる前にあらわれそうな場所に攻撃を仕掛けました。
いやぁ、伊達に日々ののしられてませんよ。気配で先読みさせてもらいましたから」

 そこでいったん言葉を区切って――ニヤリと笑う。
ここからが本場ですよ一角。

「それで起きたらオレも一角先輩みたいなことができるようになったんですがこの場合どうしたらいいですか?」
「なんのことだ?」

 意味がわからないとばかりに、けれどそこに含まれる何かに本能的に気付いたように鋭い視線をこちらに向ける相手に、オレはニッコリと後輩らしい可愛い笑みを浮かべて。
言ってやった。

「今朝起きたら卍解ができるようになってたり?」

ブー!!!

「きたなっ!」

 言った瞬間、持っていた茶はともかく、一角は飲んでいた茶を盛大に噴出し、前を通っていたひとが可愛そうなことになっていた。
しかし一角は通りすがりのあわれなひとは無視して、鬼気迫るような迫力のままにオレにつめよってきた。

か、かおがちかい!!
なんだよもぉ〜。

「お、お前がバンか…ど、どういうことだよそれ!!ってかなんでお前が“俺のこと”を知ってる!?」

 アッハ〜☆いつも書類仕事ばかりしてるから、オレが卍解なんかできるのにビビったか。
そのつもりで遠回しにもったいぶって言ったからな。予想以上にいい顔が見れましたありがとさん。
一角はオレを事務処理担当のひ弱キャラだとでもおもっているのだろうか。
あまいな。これでも元殺人鬼の親にして、海賊の子どもだったオレだぞ。
ひ弱きゃらなインドア派なわけないだろう。
 それより今の言葉からするに、やはり一角が卍解を習得していることは秘密だったらしい。
そういえば原作でも「秘密」みたいなことを言っていた気が…しないでもない。
たしか更木隊長を慕って。だったか?

 だけど、オレは知っている。彼が卍解を習得したことを。
それに卍解をなぜかオレまでできるようになってしまったので、隊長格以外で相手をしてくれそうな人を捜してたんだ。
いいところに一角がきたから・・・

逃がしゃぁ、しないぜ?


「あなたが“できる”ってことですか?そりゃぁ、まぁ」
「『オレですから』とかいう発言はやめろよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・いや。なんかわりぃ」
「ばれちゃぁ、しょうがない・・・っと、言いたいところですが。
ぶっちゃけ“見たんで知っていた”からとしか答えようがありません」

 実際の彼が、修行をしていたところを見たわけじゃない。
練習の現場に偶然居合わせたわけでもない。
オレが見たのは二次元の紙の中の斑目一角という存在――。

ただ知っていた。

それが真実。
オレは原作で彼が、卍解をできるようになった理由程度なら知っている。
だけど一角はそのことを知るはずもないから、オレが告げた言葉に勝手に想像して勝手に納得してくれる。
その証拠に、「まいったなぁ〜いつ見られたんだ?」と困ったように頭をかいてこっちをみてくる。
それを笑顔で交わし――最終宣告を

「ま、そんなわけでオレの修行相手になってくださいね先輩☆」

告げた。


すぐあとに「はぁ!?」という大声が街中に響いたが知ったことか。





**********





 あのとき―――暗闇が広がる(たぶんオレのだろう)精神世界で、黒い羊はオレに言ったのだ。

『呼べ。死ね、メェ〜』

 強烈だった。
発言からして強烈だし、あいつの蹴りの威力も強烈だが、これらの言葉を翻訳した後のショックのほうがたぶん凄まじいだろうからはじめに補足しておく。
半身ともいえるオレの相棒たる黒羊は毒舌だが、それはあいつがまだオレの能力としてしか存在していなかった生前から健在であり、そして相変わらず奴はツンデレだった。
つまりその「呼べ」とは・・・斬魄刀としての責務を果たさせろということで。
「死ね」とは、「自分(斬魄刀)を使わずしてどうやって勝つ気だ?早死にするぞ」とそんな意味となるらしい。

そう、あの相方は本当にオレをよく知っている。
なのでオレが前世から、原作には関係なさそうな場所に居ながらなぜか原作の渦中に巻き込まれるのをよく理解しているので、 これからどんどん危険度が増すことを危惧してくれたらしい。

注釈なきゃわかんないよね普通。
あいつも遠まわしじゃなく普通に話してくれればいいのにね。
誰に似たんだか。
あ、オレか。
なら嫌味っポイのも仕方ないな。



 っと、まぁ。こんな夢が実は連日続いていたのだが、どうもそれ以上先に内容がすすむことがなかった。
なぜなら教わっていた“名前”を呼んでも正解ではないらしく、蹴られる。目が覚める。を繰り返していたためだ。
 始解するさいに教わった斬魄刀の“名”は――《夜宴(ヤエン)》。
前世でオレが使用していた能力の名前だった。
 名前を呼べと言われるたびにそのとおり《夜宴》と呼んでみるのだが、そのたびに微妙な顔をされる。
いやさ。だってお前が、オレが死神になるときに「名前を呼べ」「《夜宴(ヤエン)》でいいの?」「これでマスタァは死神メェ」って会話をして、それでオレは始解に到達したじゃないか。
なのに最近はその名前を呼ぶたびに飛び蹴りをくらい、そうして目が覚めるを繰り返す羽目となるのだ。

当初は本当に意味がわからなかった。



 そして“それ”は唐突に起きた。
ある日。ふと気付いたのだ。
最近よく頭の中に浮かぶ『言葉』。

前世の時もそう。
そのときは、オレの能力を一夜限りの仮面舞踏会のようだと例え、それにともなった名を能力につけた。
でももうひとつ思っていたことがある。
巻物に墨と筆で描かれた鳥獣戯画のように、オレの能力はまるでお伽噺を語るよう。
眠れない子供のために、夜に聞かせる百の物語。

「ああ、そっか」

いまさらながら気付いた。
それが斬魄刀になったあいつの本当の名前だと、その『言葉』を口にして初めて知った。


 これなら、愛染のかわりにオレが天下を取れそうな――そんな解号に思わず笑ってしまった。

 さすがはオレの半身。
オレの好みをよくわかっている。
面白いことが大好きなオレにはぴいたりじゃないか。

それゆえの――解号。


あまりの楽しさに、そのことを告げにいこうと、思い立ってすぐに精神世界に向かった。





 ――目を閉じる。
次に開いたときは夢の中。

 目の前には相変わらずの暗闇と、そこから浮き出て見える黒い羊のぬいぐるみのような存在。

「なぁ、夜宴。おまえってさぁ。斬魄刀になったんだな」
『今更なんだメェ』
「じゃぁさ、オレのもうひとりの相方だった“黒姫”はどこ?」
『・・・いない。
本当は“夜宴”も“黒姫”もここにはいない。それはマスタァの以前の能力の名前』
「あぁ、やっぱりね」
『もう“夜宴”じゃないメェ。ジブンは《夜の宴》そのものでアリ、“夜宴”と“黒姫”らの能力全てをもっている。別の存在。 本来あるべきマスタァの、能力が、刀という形で、一つになったものだメェ』

 今度は蹴られなかった。殴られなかった。
それにどこかしょんぼりしたような黒い羊に、すべての符合が一致してとけなかったパズルが完成する。

答えは―――だされた。

 どうやらオレの生前の複数あった能力――墨をもとにしたいくつかの能力は一つに統合されたらしい。
ならオレが思いつく“呼び名”がひとつしかないのも頷けた。

その真実の名をよんでやれなかったことですねていたらしい羊が可愛くて、思わず黒い羊の頭をわしゃわしゃとなでようと手を伸ばしたところで

『もうマスタァの斬魄刀ヤメル!』
「へ!?そんなこと可能なのか?」

 ガバリと顔を上げた羊により、いつものやりとりになった。
呼べ。だから夜宴だろ?チガウ死ねメェ。
羊の姿をとるオレの斬魄刀が全体重をかけた頭突きをくりだそうとしてきたところを慌てて回避したら、今度はふてくされたように叫ばれた。
というか、今まさに呼ぼうとしたのに、お前がひとの話を聞かなかったんだろう。
そうつっこみたかったが、いかんせん本気でどこかにいこうとしていた羊にオレは慌てる。

「って、ちょぉ、まていっ!!なに言って・・・って、ああぁぁ〜!いやいや待てって! まじでどこかにいこうとすんな!!ってかおいてくなよ!」
『なら、名前を――でないとマスタァ、危険メェ』
「うん。それはよく理解できるわ。っで、最近気付いたんだけど、おまえ【     】だろ?」
『!!』





 慌てて羊の腕を掴んで逃亡を防止し、ぬいぐるみをだくようにギュゥって抱きしめる。
その耳元で、大切なものを呟くように、羊の新しい名をささやいた。
羊は驚くほどビクリと肩を揺らして動きを止めた。

なぜ?という顔がこちをらをみあげてくる。
それに苦笑を浮かべる。

オレが自分の半身の名ぐらいわからなくてどうする?


 それに今日は、羊の名を呼ぶためにこの精神世界まで来たのだ。

だから
呼ばれないことの辛さに・・・

君から、逃げないで――



『めぇ〜…。マスタァ〜、やっと呼んでくれたメェ〜』

「ああ。やっぱしあってたか。さすがオレ様。
死んで磨かれたオレの勘は百発は百中だ」

 ただ名を呼んだだけなのに、そうしたら泣きそうなのに驚いたような顔をされた。
はは。こいつおかしいー。
名前を呼べって言ったのはおまえじゃんね。


「一緒にこの世界をギャフンと言わせてやろうぜ!」


 “夜宴”、もとい【夜宴御伽語(ヤエンオトギガタリ)】に手を伸ばす。
もっと強く。強く、やわらかいぬいぐるみのような身体を抱きしめる。
そしたら今度は羊の方からオレに手を延ばしてきた。
そのプニプニの手がオレの身体を抱きしめ返してくれた瞬間。
オレの手の中には、真黒な刀があった。

――この手ごたえは久しぶりだ。
生前、死ぬまでオレが愛用していた黒刀にそっくり。

 武器は使い慣れているものの方がいい。
生前の能力がこの世界に来たことで随分変質してしまったが、それらがオレの半身であり、 オレの武器であり力であることはかわらない。
使い方はオレの心が知っている。


あぁ、これがオレの斬魄刀――【夜宴御伽語(ヤエンオトギガタリ)】。



 これが黒い羊が、オレに望んでいたこと。
これで悪夢も終わる。
 さぁ、宴のはじまりだ。
夜宴御伽語よ。もう一度オレと踊ろうじゃないか。
そうして世界という舞台でわらうんだ。

 どうやらプリティーな黒羊のやつは、オレを卍解の手順へと進めさせたらしいと知った日。
羊、いな、斬魄刀は、原作が近いことを危惧し、それに巻き込まれる前にと、オレに卍解への道を歩ませたらしい。

それにしても――

卍解はちょっと早くね?


だって、オレ、まだ平隊員・・・いいのかな?





**********





 刀を抜く。
君の目覚めを呼びかける。

世界よ哂え、夜の舞台で踊り狂え―――夜宴御伽語


 持っていた刀の刀身が一瞬で黒く染まっていく。
同じ黒刀でも、一護のように輝くわけでもない。
ただじわりと墨でも染み込むように柄から刃まで、なにもかもが黒一色に“染まる”のだ。
 これは刀だけど刀じゃない。
墨でもない。
ただ刀の姿をしただけのものにすぎない。
本当は物理的な“もの”じゃない。

「ん、絶好調!原作破壊でもすっかね。なぁ夜宴?」
『メェ〜・・・・・・マスタァを守るために卍解させたのに。逆に首つっこむとしてるメェ〜』
「はは。冗談だって」



 オレたちはイレギュラー。
この世界には本当はいないもの。
ならオレたちはしょせん幻影。
それでも“ここに”いる。


なら、天さえもオレが笑わしてやるさ。
この舞台という名の世界でさ。



さぁ、楽しい愉しいパーティーのはじまりだ。










君が思うほど世界はオレにひどくはないよ。
原作も怖くない。関わりたくはないけど、むかつくから関わろうかな。
まさに繋風捕影と君はわらう。

繋風捕影・・・風をつなぎ、影を捕らえること。いずれも不可能なことから当てにならない空想のたとえ








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