13.年齢差と理不尽な現実 |
-- side オレ -- 一次試験が開始した。 初っ端は、なぜか笑顔のヒソカに担がれていたが、ひとの腹を殴って気絶させようとしてきた。 たしかにしばらく意識が吹っ飛んでたがな。 慣れというのは恐ろしいもので、数時間後には目が覚めた。 階段を駆け上ってるところからして、けっこう進んだのだろうか。 とりあえず俵抱きされたあげく腹に一撃食らったのがきつくてねぇ。ヒソカに脳天にチョップをかけて、腕の力が緩んだすきに脱出してきた。 うごめく群れと共にテトテトとどこまで続くかわからない地下道を走っていたら、なんか騒がしいのが背後から来た。 「ねぇねぇ、君いくつ?オレらと同じぐらいだよね?」 声をかけられた。 振り返って後悔した。 ミニチュアのジンがそこにいた。 その横には銀髪の子供、キルアだ。 ジンに対する怒りよりも先に、オレはこんなガキんちょと同じ年に見えていることに絶望した。 正確には君の親父と大体同い年なんだけど…いや、むしろもうちょい上か。 ちょっと傷ついたので、無視させてもらった。 けど、純粋無垢な子はしつこい。 「ねーってば」 「何も聞こえません。何も知りません」 「あ、そうか。知らない人と話しちゃダメって君も言われてるんだね。オレもミトさんにいわれてるんだぁ。 オレはゴン!こっちはキルア」 「おいゴン。勝手に人の名前まで教えんなよ!こんなあぶなそーなやつ」 「ねぇねぇ!君は?名前を名乗ったからもう知らない人じゃないでしょ?ねぇ、なんていうの?」 いいこなんだけどね。いいこなんだけどさぁ!! 今、オレはひとりになりたいのよ。たそがれたいの。 なんでついてくるかなぁ。 だけど本当になんでこの子、ジンに変なところだけに似てるんだろう。 顔とか、強引なところとか、オレを巻き込もうとするところとか…。 「あぁ、そうかい。よろしくゴン=フリークス。自分はクロとでも呼んで。 職業は刺青をほる彫師。特技、逃げること。と、いうわけだから、自己紹介も終わったし、どうかオレのことは見ぬフリをしてくださいお願いします」 原作キャラの側ほど、側にいてあぶないものはないじゃないか。 オレは原作にかかわるより、自由自適に人生を謳歌まくると決めてるんだよ。 ついでに過去に戻ってこの世界から三年前までは生きていたいので、できればやっかいごとの中心者である主人公君は関わらないでくれるとありがたい。 「あれ?おれ、名前」 「たしかにお前は全部は名乗ってないな。でも話してるのを聞いてたから知ってる」 「・・・あんた、本当に何者だよ?なんかコッチ側の匂いがする。ちょーあやしーし。名前が偽名っぽいし」 「ひどいよキルア!あやしくなんかないよ!まぁ、いいや。そっかぁ。えへへ、よろしくクロ」 「断る」 「え」 「うわ。たちわる。ゴン、やっぱりこいつにはなしかけんのやめとけよ。こいつ絶対性格悪いって」 って、なに、普通に会話してんのオレ!? しかもキルアがいちゃもんつけるたびに、ゴンがオレをかばうっていう悪循環。 もうやだ。 なにこれ。 本当に無事にオレって過去に戻れるの? 「オレはひとりがいいんだー!!」 トラブルに巻き込まれるのはごめんだ。 原作キャラなんか嫌いだよ。 なのになんで巻き込まれるのかな? オレはまた逃げるように、スピードをあげた。 結局途中でそのあとスタミナが切れてしまい、すぐにゴンたちに追いつかれてしまったのは…このさいどうでもいい。 だからまとわりつくなよ原作っ子。 いっそのこと、お前の親父最低伝説を語り明かしてやろうか。 そうしたら少しはオレを嫌ってくれるだろうか。 オレがヒーヒー言っている間に、いつのまにかキルアまで一緒に走っていた。 なぜか先頭にきちゃって。 すぐ目の前にはサトツさんがいらっしゃる。 「おやおや。今年の新人たちは粋がいいですね」 満足そうにオレをふくめたゴン&キルアをみる。 その目があきらかに「こんな小さな子たちが」と語っていた。 それが聞こえていたのか、少し離れた場所にいるだろうヒソカがわらったのがわかった。 オレが睨もうとしたときには、ヒソカは隠れるように速度を下げて姿が見えなくなってしまったが。 「そういえばクロっていくつなの?」 え?その話にまたもどりますか? しかもいつのまにか、オレ、君たちのお友達ってことになってる? キルア(興味深げに)やサトツさん(生暖かいまなざし)からの視線が熱いです。 まじかよ。 こ、これは答えなければやばい系ですか。 でも未来でのオレは3年前には死んでいるわけで…。 たしか原作前には死んでるんだよなぁ。 なら普通にいまの年齢を答えるべき? え?それって肉体年齢?生きた時間?この原作軸までオレが生きていたとして…って、オレはどの年齢をいえばいいんだ? あっれぇ? やべ、なんかわからなくなってきた。 しょうがないので、相手にオレの年齢を勝手に想像させるように誘導することと、オレの脳内会議で決定が下った。 年齢ではなく事実を述べてみることにした。 でも。 なんかそう考えると、ため息が出た。 いつもそう。 いーっつも。みんなオレの年齢を間違える。 当ててくれた人なんか一人もいない。 やっぱり絶望した。 「オレ、ゴンの父親とだいたい同じ年齢なんだけど」 いや、むしろもっと、その君の父親のさらに父親ぐらい上ですけどね。 しいていうならキルアの父親と同じくらい。 嘘じゃないよと、ゴンの目を見て告げる。 そうしたら―― 「「えーーーー!!!!!」」 その場にいたお子様ズから、このトンネルを揺るがしそうな絶叫をいただいた。 あの表情をほとんど変えないサトツさんまで驚いたような顔をしている。 なんだよ。 その疑わしそうな目は。 だってオレ、ジンのハンター試験の試験管任されたんだぜ。そのときにはもうそこそこいい年になってたし。 「あ、そっかぁ冗談か」 「あ、あせったー。そうだよな、冗談にも程があるぜお前」 「冗談じゃないんだけど」 「「・・・・・・」」 二人が無言になる。 なんだ? そんなにオレは嘘つきにみえるのか? まぁ、しかたないな。この姿じゃぁ。 死亡届け受理されてなければ、今頃戸籍には大人なオレの写真があっただろうに… オレのステキな大人姿。 「ふぇ〜。泣きそう…」 自分が子供に戻ってしまったことがビミョーに悲しい。 泣きそうだ。そう考えていたら、本当に目から涙が出てきた。 これもすべてジンのせい。 「オレ嘘ついてないもん!!悪くないもん!被害者だもん!! これでもちゃんと大人だったときもあるんだからな!あのくそバカズのせいで子供に戻っちゃっただけなんだよ!!」 G.Iメンツによる能力実験。 たぶんあれやこれや、思い出してもきりがない数々のオレでされたカード実験のおかげで、今のG.Iはあるはずだ。 それがこんなお子様の姿に戻されて、未来に飛ばされるなんて―― 呪いだ。マッドサイエンティストどもの呪いだ!! 「オレは絶対ハンター試験に合格して呪いをときに行くんだ!!!」 いや、復讐だ!!奴に今度こそ! オレが今まで受けてきた数々の絶望を返すんだ!! 今の時代でオレは死んだことになっている。だからこのまま死んだはずの『黒筆』のままでは、表立って動けない。 だけどハンター試験に合格したら、戸籍の代わりに資格がもらえる。 『クロ』として、動ける。 そうなれば…動きやすくなる。 ハンター資格さえあれば、ジンに復讐するためにあちこちをタダで旅できるし、G.Iにも入れるはず。 そういえばジン自身をターゲット指定させてもらってるから、一瞬で飛べるか。 まぁ、資格はないよりましだな。だってオレ、今、戸籍ないし。 そう一人で思考の渦に嵌っていたら、原作キャラさんたちから哀れみの視線をいただいた。 え?なにその視線。 オレがひとりで自己完結して心の底にでもヒキコモリタイと現実逃避しようとしていると、子供たちが互いに顔を見あわせて苦笑を浮かべていた。 「ねぇ、キルア」 「たぶん考えてること同じじゃね?」 「だよね」 「「レオリオと逆だね(だな)」」 「うん。おれもそう思って」 「偶然だなゴン。おれもいまそうおもってたとこ」 「?」 「冗談だとか思ってないから。わるかった」 「クロ!絶対一緒にうかろう!おれ、応援するから!」 この態度の差はなんだろう。 不思議に思って首をかしげていれば、オレより少しだけ背が高いキルアに、よしよしとばかりに頭をなでられた。 そのあと、ゴンからはやたらとかまわれ、オレがハンター試験を受けた理由が「のろいを解くため」と誤解された。 呪い解除アイテムを探すためにハンターになるんだと思われた。 解除って……たぶんもとの時間軸に戻らないと大きくなれないんだけど。 それより『呪い』って例えのつもりだったんだけど、信じちゃってるよ。 さすがハンター世界。本当に『呪い』って実在してるのかもしれない。 とにもかくにも、どうやら同情されているようだ。 「そういう事情でしたら、わたしもぜひ、応援させていただきたいものです」 サトツさんが子供たちの会話に加わった。 試験にひいきはしませんがと続いた。 物凄く泣ける話だぜと側にいるモブが泣いていた。 いや、あんたまできかなくていいよ! モブっぽいし。 そんなこんなで、ゴンに笑顔で一緒に頑張ろうねと言われ、キルアはそのアイテムさ兄貴なら知ってるかもと真剣に何か悩んでいる。 彼らからは哀れみと、相手を勇気づけようとするようなもの、“一緒に頑張ろう”という気迫、さらには我が子をいつくしむものににた生暖かい視線を感じる。 えー!?年齢ばらしたのに子供あつかい!? なぜに!? むしろ「一緒」がイヤぁぁあっぁー!!! もう、本当に勘弁してください。 そう思ったとき、前方にみえていた光が強くなった。 ゴールが見えた。 どうやらオレはかなり長い間、ヒソカに世話になっていたようだ。 だって、オレが走っている時間、けっこう短い。 「ま、いいか」 楽できたのでよしとしよう。 次はたしか沼地を走るんだよなぁ。 さて、どうしよう。 ゴール直前 |