10.貴方を見つけた日 |
-- side ヒソカ -- ジリジリジリという大きな音がしていっせいに全員が走り出す中、視界の端に赤いものが目に留まって――驚いた。 うずくまっていたのは406番のような小さな子供。 むかしと変わらない目につくほどに鮮やかな赤い髪。“死ぬ前”まであの人が使っていた家紋の椿が刺繍された小さな黒いポーチが一つだけ。 側にはその子供のものらしいバスケット。 『凝』でみるとバスケットとポーチにうっすらと念がかかっている。 試験にくるような荷物量ではないが、きっとあのバスケットの中にはきっと予想以上にものがはいっているのだろう。 目の前の赤毛が、子供ながらに念能力者であることは間違いない。 もし自分が知っている相手だったなら、さぞや変わった能力を見せてくれるだろう。 普段なら気にもしないか、殺してどかすだけなのだが、その子供が余りに知り合いに似すぎていて、自分らしくなく子供のもとに歩みよっていた。 具合が悪そうだったから、起こそうとそっと手を伸ばそうとして相手の特徴がとことん“あの人”に似ていることに気付く。 少し癖がありあちこちピンピンとはねた赤い髪は腰近くまで長くて、どこか小さな島国独特の民族衣装をきている。 黒い墨染めの着物の背には白抜きで『燃え尽きた俺の愛』とかふざけた言葉がジャパン特有の言語で書かれている。 「燃え尽きちゃったのかい◇」 青い顔をして具合が悪そうにうずくまるのは、自分が知るよりもさらに幼い容姿の少年。 「ねぇ、ししょー?」 肩をゆすっても起きなくて、少しだけ心配になって、しゃがみこんで赤毛の少年の口元に手を寄せる。 息はある。 脈もしっかりしている。具合が悪そうなだけだ。 「なんで…ここにいるの?ねぇ、パパ?」 「……んのくそったれ。ジンのくそったれジンのくそったれジンのくそったれジンのくそったれジンのくそっ…」 「…ジン?ってまたか。やっぱり師匠か」 父と慕い、自分に生きる全てを教えてくれた師匠。その死んだ筈の人が小さくなって目の間にいる。 なんて現象だろう。 でもそれはすべて、師匠の口から出る“ジン”という名の怪物(フリークス)なら、なんでもしてしまいそうでうなずける。 きっとこのひとが今ここにいる理由は、ジンのせいだ。 長年の経験からそれはわかる。 ではなぜ師匠はここにいるのか。 これもやっぱしジンのせいなのかな。 師匠はいつもあのおっさんに連れまわされていた。 とばっちりくらったのか。 ここにいるということは試験を受けに来たのだろう。 ちらりとバスケットをみると、1と書かれた丸いプレートをみつけた。 とりあえず受験者で間違いがないようなので、そのまま赤毛少年とバスケットごとかついで持って行くことになした。 軽い。子供のからだ。 自分が最後に見たときの半分も身長がないんじゃないだろうか。 もしかすると師匠ではないかもしれない。 でも、きっと師匠だ。 目を開けたらきっとわかる。 深い翠の目をしていたら、それが証。 ボクが壊れた日。 母親が死んだ日。 精孔がひらいて死にかけた日。 念を覚えた日。 ボクは変な赤髪の男に拾われた。 『どわっ!?死体!?なんで?まさかゼノさんと仲良くお茶としてたのばれた!?ゾル家からついに暗殺依頼がきちゃったの!?』 『だれ?』 『おまえこそ誰だよ!!』 『さぁ?たぶん、名前ヒソカ?』 『ヒソカだって!?いやそんなことどうでもいい!生ごみの日は昨日だ!どうすんだよこの後始末ぅ〜!とりあえずこっちこい!そんな格好でいつまでいる気だ?』 ひっぱられた腕。 そのあと風呂に叩き込まれて、転寝していたのかな。 気付いたら目の前のあの赤い髪の人がいてあわててた。 なんか体がだるいなと思ったいたら、赤毛の人のふれた個所から温かいなにかがボクの中に流れ込んできた。 『まだ寝るなよ!お前、精孔ひらいてるんだ。このまま寝たら死ぬぞ。いいか。お前、この暖かいのわかるか?あと体から流れ出る奴!?』 『あったかいのなら』 『とにかく死にたくないと願え!!体から出てるもんは自分の服だと思ってまとえ。流れ出ないように押さえつけろ』 『死ぬ?それでいいんじゃないの?強ければ生きる弱ければ死ぬだけ』 『だめだって!そもそもお前、あいつらか今生き延びたばっかだろ!ほれ!眠るなっ!気合で起きろ!起きろ起きろ!自分から流れ出てくものを押さえつけろ!!』 ふふ。 昔のことを思い出した。 たくさんの温かいものをくれた――もういない育ての親との出会い。 姿は随分変わってしまったけど。 腕に伝わってくる温もりは相変わらずあたたかくてくすぐったくなった。 第287期ハンター試験 一次試験開始 |