24時間のキセキ
- HU NTER× H UNTER 原作軸 -



06.ちょっとそこまで





 時は流れた。
気がつけば、生まれてから三十年以上が過ぎている。

 七つ違いの兄弟子は早々に托鉢、もといハゲにみがきをかけ、主と慕う者についていった。
そして侍の道を踏み外し、なぜか忍者の首領になった。意味が分からない就職の仕方である。

 オレはというと、転生の影響か成長が遅いらしく(とまったわけではない)、いまだに十代後半とまちがわれている。
それでも職に就けた。
 水分があれば無尽蔵に墨が作り出せること、オーラを通わした墨をあやつれることで、刺青師になったのだ。
もともと絵を描くのは意外と好きだったので、それはオレにはピッタリの転職だった。
念能力で墨をじかに肌にしみこませるので、痛みもない。
なのでそこそこオレは知名度をえて、彫師として名を上げていた。

 そんなある日、オレはこども育てることとなる。

 オレの子は、赤い髪に緑の瞳。
本当に偶然だが、オレと同じ色を持つ子供は、オレと両親にもよく似ていて、血の濃さを見せ付けられているようだと――保長を含めた知人たちには言われた。
何度も言うが、血は繋がっていない。のにだ。
そんなこんなでオレの両親のしごきに、遊び半分でついていけちゃう凄い我が子が誕生したわけである。


 ――あの衝撃の出会いから、数年後。
ここは後にとあるゲームの舞台となるはずの島。

 横にオレによく似た赤毛の子供が、ツンツンした黒髪の小さな子供をあやしている。
たかいたかいと赤ん坊を持ち上げるオレの子、かわいい。
オレの子ももう12歳だ。今が一番かわいい盛りである。

 どうでもいいことだが、最近になってようやく、オレは外見的に二十代後半にみられるようになった。
これでようやく兄弟ぐらいいにはみられるようになったわけで、オレもはやく童顔を卒業して大人と思われたい今日このごろ。







 -- side オレ --







その日は、いつもと同じようにジンが家まで押しかけてきて、そのままG.Iというゲームの実験に巻き込まれた。


ジンに拉致られ、やってきましたグリードアイランドの拠点地。
なお、人質として息子も連れ出された。
隙を付いてヒーちゃんをつれて逃げようとしたが、エレナとイータに島を封鎖され、空間を飛びこえて逃げようとしたらレイザーに殴られ気絶させられた。
気が付けば椅子に縛られ、G.I製作者がずらりとオレを囲んでいたという状況だ。

そんなオレの横では、主人公たるゴンらしきジンによく似た赤ん坊をあやすオレの養い子ヒーちゃん。

ヒーちゃんを人質にとられているので、しかたなくこの現状を甘んじて受け入れているというわけだ。
ああ、いっそのことヒーちゃんが抱いてる赤ん坊を人質に・・・だめだな。だって敵は最強の念能力者7人だ。
死ぬわ。


そんなわけで、しぶしぶ実験に協力することになった。



なんの実験をするのかと思えば、今日は『β・リサイクルルーム』の検証だそうだ。

『β・リサイクルルーム』は、先日完成したばかりのカードだ。
効用はこの部屋に壊れた物を入れておくと、24時間後には修理され新品同様になっているというもの。

そもそもオレは先程、念の防御もせずレイザーの攻撃を食らったことにより、瀕死の重傷を負ったらしい。
ジンとは腐れ縁でかなりの確立で一緒にいるとはいえ、このG.I製作者ズの中にくわえてもらえるほどオレは能力があるわけじゃない。
おかげで一撃で死に掛けた。
慌てた彼らによって止血等の応急処置をしたもののこれ以上は無理だと、細かいことが苦手なG.I製作面子は思ったらしく、できたてホヤホヤのカードを使用した。
それが『β・リサイクルルーム』。
原作ではバリバリ使用可能状態となっていたG.Iだが、それもまだ作成中の今世。
仮に能力を添付して形となったものには『β』とつけられている。
『リサイクルルーム』もまだ量産できる段階ではない。それにオレを放り込んでくれたらしい。

うちの子がそのおおざっぱすぎる彼らを必死で止めようとしたがだめだったようだ。


っで、完全に復帰すると思われる24時間以内にオレが我に返ったことにより、外に出された。
それによりオレは――



縮んでいた。



ケガはすっかりなくなったが、代わりにオレは10歳ほどの年齢まで若返っていた。
若返りの薬はこのゲームの中にはあるが、それとは別にオレは縮んでいた。



「ありえねー!!ふざけんじゃねーよ!!」

人種ウンヌンを抜かしてもさえ、オレは同年代の人間達より小さかった。
どうも成長が遅いらしい。
それなのに10歳。
ありえなすぎる。
あまりの悔しさに腐れ縁であるすべての原因をにらみつけたが、悪い悪いと笑って流された。

流石に哀れんだ他の仲間が、オレの念とかけられた念を調べてくれることになった。
結論。エレナとイータの綿密な念との調査により、『β・リサイクルルーム』の中に入っていた時間分経過すれば、その念の効果が消えるだろうとの事だ。
さらにと告げられた彼女達の言葉にオレは本気で血の気が引いた。
あのまま24時間完全に入っていたら赤ん坊になっていたか、戻りすぎて死んでいた確率があったようだ。

「細胞ね」「そうね」

「それ、戻りすぎだから!!」

「まぁ。さすがはだな。運がいい」
「運だけでオレを実験台に選ぶなや!!」
「いいじゃない。どうせいつも助かるんだから」
「よくない!!本気でよくないからイータ!!かならずいつか寿命より先にお前等にオレが殺される!」
「殺すわけないじゃない」
「いや。死ぬ!原作でオレの名前さえ出ないのもそのせいだ!!」
「ゲンサク?またそいつのこと言ってるけど。いい加減誰か教えろよ」
「ゲンサクって人の名前じゃないから!!ってか、そんなのどうでもいいけど、もうオレを実験台にすんなよ!!」


そして『β・リサイクルルーム』は、“絶対に時間が来るまで扉を開けてはならない”というルールが追加された。
それもこれもオレが実験台となって証明した結果である。
なぜ“開けろ”ではなく“開けてはならい”のかというと、途中で開けてしまうと元の原型が壊れるためだ。

『β・リサイクルルーム』を完成させるには、“戻る”の定理に、“どこまで”という時間軸を指定する必要性が発覚し、カードの改修が求められた。
『β』版における現在の“戻り”具合は―――『生き物』ならオレのように若返ってしまうか、ただの肉片になるか…。
それも指定時間である24時間きっちり入っていた場合、念の効果が切れる代わりに、もどされたその状態で固定化されてしまうらしい。
つまり失敗していたらオレは、子供か細胞から人生をやり直さなくてはいけなかったところだ。
今は24時間きっちり入っていたわけではないので、『β・リサイクルルーム』に入っていた時間分たてば自然と元の姿に戻るという。
ここで24時間できっちりとはいっていれば、壊れた“物”限定なら、元に戻っていたという。
ちなみに『β』版では、カード一枚に付与された念の量がすさまじく、24時間以内にだしてしまうと“物”でも鉛筆だったら木と黒檀にまでもどってしまった。


それから『β・リサイクルルーム』は改良に改良を重ねられた。
再生というよりは逆行機能だろう。
この『物』の“形”を戻すまでにとどめることに成功するのはまた後の話。

うん、その辺は身をもって体験したよ。



そんなわけで、オレ 黒筆 はただいま、10歳です。外見だけな!
養い子のひーちゃんより小さいです。
服がぶかぶかです。
なんか情けない格好ではずいんですけど!!





「じゃぁ、これね。いつ姿が戻ってもいいように服よ」
「あと予備はいまのところはそれで我慢して」

渡されたのはエレナとイータの服。
あとはオレがこの島に予備にと置いていた服(こっちはいまはサイズが合わなくてデカい。泣ける)。
双子達の服は、今の姿のオレに合うのが彼女たちのサイズしかなかったからだが…スカートじゃないのでよしとしよう。
せめてひーちゃんのにしてくれと思ったが、サイズがちょっとね。

それを入れたカバンを手渡されたところで、ハテ?と首を傾げる。

なぜ、鞄?
必要なときに取りに行けばすむのではないか?

そう思っていたら、双子とジンがニヤリと言いたげに笑った。

「鞄の中には必要最低限の食料と道具もはいってるからね」
「さぁ、次行くわよ!」
「次は一日で帰ってこれねーかも知れねーからな。あ、そうだ。カード使用後にそのまま逃げんなよ。ちゃんと島に戻ってこいよ」

ジンの言葉に背筋に冷たいものが走る。
いかにも何日も島の“外”に出なきゃいけない気がする言葉の言い回しですね。
ついでに“そういったカード”はオレの記憶の中では、いまのところ一つしかない。

「ま、まさか…」

一歩後ずさりする。

「ハハ。てめーら、本気で容赦ねーな」

ひーちゃんをみれば赤ん坊のゴンを抱きしめたままオロオロとオレとジンたちをみている。
うう。しばらくひーちゃんに会えないらしい。
もう、まじかんべんしてくれよ。
そもそも今この子を置いてオレがいなくなったら、ひーちゃんは原作の時にまんまヒソカになちゃったらどうするんだ。
うちのこ、本当はひーちゃんじゃなくて、ヒソカっていうんだぞ!あの狂喜のピエロだぞ!

ああ、もう!本当にどうしろっていうんだよ!!


「頑張れ…」
「「これもみんなわたし達のためよ」」
「そうそう」
「帰ってきたら感想教えてくれな」
「無事を祈る!」

「これみよがしにそういうときばっか意気投合してんなっ!!」

「やめろよおっさんたち!師匠にげて!?」
「ぅあぁ?ぅぁ」
「え!?いま泣くの!?え、えっとごめんごめんよ。ぼくがさわいだからだよね。ほ〜ら泣かないなかない」

うちの子がなんとか加勢しようとしてくれたが、その腕の中にいた赤ん坊がぐずりはじめてそっちの対応で忙しくなる。
おいゴン。おまえ、それをわかってて泣いたんじゃないだろうな。

うちのお子様が加勢できないのをいいことに、G.I製作者達、計6人全員が笑って手を振ってくる。

それに確信した。
爽やかな笑顔でにじり寄ってくるジンが何を隠し持っているか。


ジンがポケットから一枚のカードをとりだした瞬間――オレは念を発動させた。


「やられてたまるか!!【黒姫】!」

オレは特質系能力者である。
呼び出した【黒姫】は、墨でできたような真っ黒な鯉。彼女が泳いだ後には墨の池が出来上がる。
それは影と影をつなげる。俗に言う空間を捻じ曲げる移動術だ。

敵前逃亡で悪いが、オレの影と知っている建物の影をリンクさせた。

「あまいぜぁ!!」

「くそ!!まにあわねー!!」


しかしオレの行動は少し遅かった。
【黒姫】によって空間が繋がるより早く、ジンの発動した『離脱(リーブ)』が効力を発揮した。


『離脱(リーブ)』――対象プレイヤー1名をG.Iの行われている島の外へ飛ばす機能を持つカードだ。



そうしてオレの視界は白く染まった。








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