03.生きるということ |
-- side オレ -- 地球では () という女は一度死んで、ハンター世界に生まれ変わった。 生前は24歳、性別女。職業ただのプログラマーで事務員な「私」だった。 それが事故で死に、【HANTER×HANTER】の世界に生まれて“黒筆 ”となり、『オレ』となった。 そのオレが望むのは、普通の暮らし。 といっても、この世界でそれは難しい。 なにせここは戦闘や“未知”にあふれた世界だ。 だからオレは一つだけ願ってやまないことがある。 せめて、原作キャラや原作軸にはかかわらずのんびりと暮らせますようにと――。 それさえかなえてくれれば、オレは幸せにこの二度目の生を生きられる。 転生したのが、漫画の世界なのだから、原作に関わるのが普通だ。と人は言うかもしれない。 もちろんオレだって転生先が漫画の世界とかは嬉しかった。 なにせ面白現象である念能力を使えるようになれるのだから当然だ。 だけどオレは、このハンター世界を自分のペースで好きに生きたい。 なにより原作には関わりたくないし、原作キャラとも会いたくない。 だって面倒事ばかりおきるのが、【原作】というものだろう? 事件もなにもなく、面白みが一切ない話は、売れない。それがわかっていれば本にさえならない。つまり原作として世に出されることはないのだ。 当然と言えば当然だ。 そんな“原作にそった決められたシナリオ”どうりになるように動くとか、原作破壊をするぞー!なんて甲斐性はオレにはない。というか面倒じゃないか。 オレは自分のペースを崩されたくないし、わざわざ決まった未来どおりにさせるためにウンヌンとか、そういう意味で頑張るのは好きじゃない。 もっというと、厄介ごとに関わるのもごめんこうむる。 ゆえにオレは、原作軸より約五十年前に生を受けたのを喜んだ。 *********** オレがこの世界で生まれてから3年がたった。 転生後は“黒筆 ”という名前で男として生まれた。 だから一人称も「私」から「オレ」へと変え、最近では自然とそう言うのもようやく違和感なく慣れてきたところ。 こちらでは漢字なんかないと思っていたが、ジャポンは地球でいう江戸時代のような生活水準であった。 といってもサムライや忍者が普通にいるが、きちんと電気は通っているというミラクル。 テレビやキッチンもあれば、ネットまでつながっている。 本当によくできた世界である。 この世界に生まれてからは、体は軽く感じる。 もともとオレは恋愛より、ファンタジーなどの冒険やミステリーなどの夢物語が好きだった。 空気にドーピング剤が入っているような人外指定できそうな人々しかいないようなこの世界だ。 オレのような元普通を地でいくインドア系職業の運動音痴でも、新しく生まれたこの世界でなら、どこぞの漫画のように体術でかっこよく敵を倒したり、刃物を振り回したりとかできるかもしれない。 まぁ、刃物を持つのは…本当は少し怖いが。やらねばやられるというのは、いままでの赤ん坊時代をへて、すっかり身に沁みるほどに理解しているので、妥協はできない。 ヒーローや主人公になりたいわけじゃない。 ただ生き残るための強さが必要だと本当にわかってしまっただけ。 とにかく生き延びたい。 はじめは護身術から学ばねば。 道には着物姿の侍がいて、実家の屋根の上を余裕で忍たちが黒装束で駆けていくご時世だ。身を守る術などいくらでもあるだろう。 そう思ったオレは、さっそく両親に相談することにした。 その日は、父(どうやら侍であるらしい)をターゲットとし、その技術を学べないだろうかと、でかけていく父の後を追いかけた。 少し距離を置きつつヒヨコのように父にくっついてしばらくして、危ないから近寄るなと言われていた村の端の大きな建物に父が入っていた。 気配を消すなんて芸当を数年前まで普通の日本女子であるオレができるはずもなかったが、今日はたまたま門番がいなかったからか、誰にとがめられることもなくそこへはいることができた。 微かにあいたままの扉の隙間を通って――驚いた。 やたらとここの周辺は空気がびりびりしているとは思っていたけど・・・。 目の前に広がったのは、真剣を手に稽古する人たちの姿。 ただオレでもわかるのが、それが決して「生かす剣」ではないということで。 そこで思い出す。 ここは【HANTER×HANTER】の世界。 このジャポンには侍がいて、忍がいる。 ―――そんな場所。 生きるためには、力がどうしても必要な世界。 それをたかが道場で見せつけられた。 怖いと思った。 本物の殺気というものを肌で感じ、オレの身体は無意識に後退し、すぐそばにあった壁にぶつかる。 その衝撃で立てかけてあった木刀がカランと音を立ててたおれ、激しいけいこをしていた者達の動きが止まる。 「?」 「と…さま…」 危機迫るというのか、男たちの殺気だった迫力に押され、一般人のオレはびっくりしてそのまま動けなくなっていた。 扉の前で固まっていたオレに気付いた父は、珍しく驚きの感情がそのまんま表情に出ていた。 「なぜ、きた?」 「父さま、ーちゃんは、ーちゃん…あの、ご、ごめんちゃい」 なんでだろうね?この身体になってからはなかなかうまくしゃべれなくてね。 最近ようやくまっとうに人間語を話せるようにはなったんだけど、身体にひきずられるように、感情の波が激しく、あげくまだ自分の名前をうまく言えないのだ。 だから今のオレの一人称は「ーちゃん」。 とりあえず内心はこんなでもびびってる。 しかも外見はお子様なわけで、あの一言を言ったきり動きを止めた父には申し訳ないが、周囲の皆様が怖すぎて、勝手に目から涙は出るわ、涙が出たから今度は感情が引きずられてなんかどうしようもなくつらい気分になって…無限ループ。 大泣きしましたよ。 そのまま父は強そうなお弟子さんらしき誰かに後を任し、オレを抱き上げその場を後にした。 ********** 「まぁ〜。そんなことが」 「…ぐすぐす…かあしゃ、まぁ・・・」 「怖かったわねぇ。でもあれほど言ったでしょう?道場に入っちゃダメって」 「でもぉ〜」 「・・・・・・・・風花」 「そうよねぇ。あなたが訓練も何も積んでいないの尾行に気付かないなんて。よほど気配を消すのがうまかったのねぇ。無意識の《絶》といったところかしらぁ」 「ぐす・・ぜちゅ?」 「《絶》・・・念能力の一つ、だったか」 「ええ。は素質があるのかもしれないわね〜」 家に帰えっても父は怒ることはなかった。 ただ母を呼んで家族会議が行われた。 オレは涙が止まらなくて、母の膝の上で彼女の首にしがみついて、その首元に顔を埋めるようにしてグズグズと泣いていた。 だって怖かったんだもん。 ああいうのが本物の殺気っていうのかな?いや。たぶん覇気とか闘気ってよばれるものだろう。 だって道場にいた彼等には、血のにおいのような、寒気はしなかったから、あれは殺気ではないと思う。 前世からの縁でいまだにオーラや幽霊と言ったものが見える。だけど“血の匂いをまとう影”が、彼らが振るう剣にはまとわりついてなかった。 つまり、殺気だと思ってビビったが、あれは覇気だったということで。 あの尋常じゃない覇気は、殺すための剣だと理解してなお、それを背負ってでも強くあろうとする彼らの『覚悟』の現れだったに違いない。 生前からオレは幽霊とかみえていたせいか、血生臭いものには敏感だった。 今回その第六感的なセンサーがはたらかなかったし、道場と聞いていたから、大丈夫だと安心してもぐりこんだ矢先、向こうの世界では遭遇することがなかった迫力あふれる覇気に気圧されてしまったのだろう。 ああ、やっぱり。ここは「わたし」がいた世界ではないのだと実感する。 もっともっと強くなりたいと思った。 生きたいから。 ガス爆発高テロだか知らないが、「わたし」がいた場所は爆発炎上して、自分は友人と共に死んだ。あんな終わりを迎えたがゆえに、、病でも自分の不注意でも何でもない、人様の都合で死ぬなんてまっぴらだと思うようになった。 だから生きるための方法を知りたいと心の底から思った。 こんなことでもう泣きたくない。 だってオレは――― 二次元世界の夢見る乙女なんかじゃないんだっ!! 夢なんか見続けて、変な妄想を働かせるわけないだろう。 たしかに少女コミックよりジャンプ系派だ。 だからといって、好きなキャラとウハウハハーレムとか、最強とか、原作破壊☆とかありえん。 むしろ二次創作とかのごとく主人公と夢見る夢子のように、恋愛展開になってみろ。オレは砂になって消えれる自身がある。 そんなオレが【HUNTER×HUNTER】世界に来て、ヒャッホーイ!原作介入すんぜよ☆とかなるわけないだろうが。 そうさ。オレはただ平和に自由に生きたいだけなんだ。 前世よりも長生きしたい。 そして願わくば、ここが漫画の世界だろうが関係なく――自分の好きに、あるがままに。 そのためには原作に巻き込まれないことがモットー。 つ ま り。 オレのこの先の平穏のためには、何が何でも逃げ切るためのスキルが必要なのだ。 こんなところで泣いてられない! 24歳以上生きるんだ!死んでたまるかよちくしょうが!! だってしょうがないだろう この世界に生まれる前から 向こうの世界で生きているときから オレは・・・ オレは ラブラブピンクな展開が嫌いなんだから!! |