01.選び取った路は |
-- side わたし -- ――どんなことでもいい その瞬間のわたしは 生きたいと 願ったの・・・ 「ほらみてあなた。が目を覚ましたわよ」 高熱と衝撃が身体を貫いた次の瞬間。 わたしは身を焦がすような光の中ではなく、暗闇に差し込む暖かな光と優しい声を聞いた。 導かれるままにそれに手を伸ばしたら、目の前には優しい笑顔たち。 泣いているわけでもないのに、なぜか視界がかすかにぼやけているのが気になったが、それよりそっと伸ばされた手の大きさに驚いた。 それから間もなく、自分が生まれ変わったこと、赤ん坊になったことを知った。 そしてこの世界には『ハンター』という職業が普通にあること。 父がかなり無表情無口なくせに感情豊かであること。 母が穏やかな口調と雰囲気を纏わせるくせに、縛り気のある、道場崩しの武者だということを知った。 「おはよう、・・・愛しい子」 優しい微笑み。 淡い栗色の髪に、明るい黄緑の瞳。母親になりたてのその人がみせる笑みに、くすぐったくて嬉しくなる。 あぁ、こうして、自分たち命というのは愛されてうまれてきたのを知った。 それだけで、転生したのも悪くないと思えた。 前世のことは気になることは山のようにあったけど、わたしに時空を超える力も元の世界に戻れる保証もないので、いまは極力考えないことにした。 それに生まれ変わっちまったものはしょうがない。 生まれ変わったってことは、死んだってことだし。 ま、わたしが、わたしである限りは、生きるだけ。 「。。ほら、お母さんとお父さんよぉ」 母に抱き上げられる。 横にいるのは新しい父だろうか? 「あぅ?」 「まぁ!さすがはあなたの息子ね。もうわたしのことがわかるみたい。 こんなに賢い子なんですもの、わたしよりも立派なハンターになれるわね」 「……」 「あら。お父さんも喜んじゃって」 二人ともわたしが何かアクションをおこすたびに喜んでくれているらしい。 だけど―― 今の会話のどこに、父が嬉しいとわかるのだろう!? 父は無言だったぞ!?しかも無表情だぞ! 母よ、いまのどこをどうみて、父の表情を読み取った!? 初っ端から、なんかいろいろくじけそうだった。 まずは父の言葉を理解することから始めなければいけなさそうだ。 ・・・わたしの、以降の幸先がいいコトを願おう。 ********** ――二度目の人生。 自分は『』とかいて、と読ます名前をいただいた。 ぶっちゃけ名前は前世と同じだったけど、今の“黒筆”という苗字のほうがこの名前にはあっていると思う。 黒筆 ――。 それが新しいわたしの始まりの名前だった。 わたしが死んで生まれ変わったここは、漫画の元になったのではないかと思う程に酷似した世界。 原作そのものと言い切れないのは、自分と言う存在がいるから。 【HUNTER×HUNTER】――『念』と呼ばれる生命エネルギー、オーラを体外に放出することで、不可思議な力とするハンターが要となる世界。 ここでは魔法や冒険など存在しなかった地球ではありえないような生物が跋扈し、平穏とは程遠い出来事が日常茶飯事におこる。 自分はそんな世界に新しく生を得た。 待ち受けるのは、漫画にあるような冒険ばかりじゃないだろう。 それはしょうがない。 だって、それが生きるということだから。 前回、二十四歳という若さで死んでしまったため。こうして生まれ変わったからには、前世の二十四という年齢を超えてヨボヨボの老人になってから死にたいと思ってしまう。 今のところそれが野望だ。 たとえ二度目の人生だとしても、今度こそ寿命をまっとうしてやろうと思う。 前世でさえやりたいことはまだまだあった。 だから二十四年以上は生きたい。 たとえ危険極まりない世界だとしても、生きてやろうじゃないかと――この先何度でもわたしは『生きる』道を選ぶだろう。 わたしは生きていたい。 生きて、生き抜ければ・・・それでいいんだから。 だからわたしは生きるよ。 赤ん坊からやり直すことになったけど。 それでも相変わらず、自分は自分らしく生きている。 自由気ままにサ。 自分は()。 だけど“以前の”じゃない自分。 そして一度、世界から消えたはずの存在。 向こうの世界で死んでしまったから、は別の世界で生を得た。 この手は、今はとても小さいけれど この手で掴み取ったのは 何者にも得がたい 生 という名の奇跡―― 二度目だから 原作と似ているから 原作のある世界に転生したから だからどうした わたしには関係がないことだ わたしはただひたすらに“生きる”ことだけを目指すだけ だってこれはわたしの人生なのだから 生きようとあがいてなにが悪い ほら 横を見て。 なんど側で刃物が煌めこうが、怪獣もどきどものの牙をおがもうが、わたし、生きてる。 奇跡って、涙が出るほどすばらしい。 |