00.消えたわたしのこと。今の私のこと |
-- side わたし -- ――世界が光った。 その瞬間、わたしは世界から消えた。 その世界でのわたしの未来は断たれた。 わたしの名前は“()”。 小説とか漫画が好きだけど、グッズとか、二次創作とかまったく興味ない。 好きな小説はミステリー。好きな漫画は格闘漫画か冒険物。 ちなみに漫画がアニメ化しちゃうと、漫画からもすぐに興味を失うほどの厭き性でもある。 しかもゲームはやらないのではなくできない。 なぜなら、すぐに酔うからだ。 3D画面に弱く、小さなドット絵が動いている映像には眠気を誘われる。 わたしは、ひとよりも三半規管が弱いんだそうだ。 恋愛とか甘ったるい話は、性に合わないらしく鳥肌が立つほど苦手。 幽霊とかUFOなどの怪奇現象は、基本信じてない。すべて科学で解明できなきゃ嫌だと思っているほど現実主義者。 だけど、なぜかリアルにゴーストがみえ、おみくじをひけば、最近ではいれている神社は少ないないというめったに出ない『凶』や『大凶』がでるのは当然で、お守りとか買えば数日の内に必ず壊れる。 非現実が本当に嫌いなのに、人曰く、あんたの存在そのものがファンタジーのようだといわれ続けた――わたしはそんな人間である。 そしてつくづくわたしは馬鹿なようで、無謀だとわかっていて、3DCGをつくる技術者になろうと、そっち系の学校に入った。 そのとき先生が見本として、3DCG映像を実際に作りながら教えてくれていたのだが、その映像に酔った。 車で酔う人は、自分で運転すれば酔わなくなると聞いていたので、CGも作り手になれば平気だろうと思っていたが・・・やはりダメだった。 あげく、自分で作った3DCGアニメの見直しをしている最中に頭がいたくなって吐き気までし、見直しもせず課題を提出した。 とはいえ、作った自分自身、どんなものができたかよくわかってない。 かなりの高評価を得たが、授業はいつも具合が悪く死んでいたので、授業態度という評価は常にドベ。 先生にここを修正した方がよりいいですよと指導を受けたが、画面酔いを起こしどこがいいのか悪いのかさえ見てられなかった。 就職先の志望をのべたとき、ついに担当教師に言われた。 「お前、3Dもうやめろ。そっち系には行くな。死ぬぞ」と――。 事実、わたしも限界を感じていたので、泣く泣く諦めた。 結局、わたしの就職先は、コンピュータプログラマーとなった。 少し路線が変わったし、ゲーム関係の会社に行くことはできなかったけど、まぁ、不自由はない人生だった。 たとえ友達の言っている言葉が、専門的すぎるオタクや二次元用語ばかりでさっぱりわからなかったとしても・・・。 いろんな友達がいたから、けっこう楽しくやれた。 わたしの一番の親友は、自他共に認めるオタクだった。 二次創作というものも彼女から教わった。 ファンタジーが好きという意味では、わたしと彼女は意気投合した。 だから、 その日もわたしたちは、いかにもファンタジーな話題を中心に、喫茶店でお茶と会話を楽しんでいた。 この先もそんな日々が続くはずだった―― そう、あのときも――わたしは親友の 神崎 零 (カンザキ レイ) と、そんな話をしながら喫茶店でお茶をしていた。 そこで光が見えた。 たぶん交通事故とかだったら、わたしのことだから気合いでよけることぐらいしたかもしれない。 病気で死ぬにしてもやりたいことをやりまくって、根性で生にしがみついたはず。 昔からわたしは、あまり女らしくないと言われた。 三半規管が弱いのは悩みだった。 ファンタジーが好きだった。 友達いわく、わたしは例えどこかの世界にトリップしてもやっていけそうな人間らしい。 三半規管を抜かせば――わたしはひとなつっこくて話しやすそうであるとか。中身はとにかく図太く、気合いですべてやり遂げてしまいそうな雰囲気があるらしい。 まぁ、それは正しい。それがわたし、という人間だから。 でも・・・『そのとき』わたしは、何もする余裕さえ与えられなかった。 たぶん爆発があったんじゃないかな。 光と熱が同時にやってきて、そこで意識が途切れた。 死んだ。 それほどの衝撃を身体に受けた。 だけど、わたしの意識は途切れることなく―― 目が覚めた。 わたしは死んだ。 それは間違いない。 だけど気がつけば赤ん坊になっていた。 実際、言葉の通り赤ん坊になってしまったのは事実で、どうしようもない。 だからこそ、この状況がわたしと親友の会話から生まれた、妄想によって見た、ただの夢――でないことも理解してしまった。否、理解せざるを得なかったのだと言っておこう。 なぜならば、どうみても赤ん坊でしかない“もの”が、“わたしの意思”で動くのだから。 つまりこの肉体は自分のものであるということだ。 なにより、自分の身だからこそ、“自分のもの”だとよくわかった。 『――冒険の世界?ん。まぁ、行ってはみたいかな』 友人と交わしたあの言葉を今となっては取り消したい。 こんなことを考えたのは何回目だ? たしかに行ってみたかったけど、それは、あくまで『行っては』だ。 いけないのならそれはそれで全然かまわない――漫画やネタならともかく、現実で行きたくない――ということだ。 だけどわたしは生まれ変わった。 世界からはじき出された。 その瞬間、わたしは死んだのだと理解してしまう。 転生?前世? これだけでもファンタジーで驚きだ。 小説や漫画ならともかく、まさかわたしがなるとは思いもよらなかった。 しかも、どうもこの世界は、どこかの二次小説のように優しくはなく、危ない雰囲気がビシバシするのはわたしだけじゃないはずだ。 なにせ目覚めたその瞬間から、「ハンター」という言葉をやたらと聞く。 これは間違いなく、危険地域に生まれ変わったのは間違いないだろう。 たぶん――この世界は、漫画【HUNTER×HUNTER】の、それにとても近い世界に違いない。 言語だけは通じるようだが、共通の文字はあの漫画にあったように楔文字のようだった。 こわいな。 自分は所詮平和な日本で生きてきて、本当の戦争も知らずに、ただ流されるがままに生を生きてきたに過ぎない。 平和ボケした現代日本人OLだったわたしが、この危険な世界でやっていけるとはどうしても思えない。もしかすると原作にない部分は平和なのかもしれないが…。 そもそも思考回路がここまで確立したまま赤ん坊からやり直しだと、子供らしくない子供になりかねないし、ここでの常識にわたしの価値観は当てはまらないかもしれない。そうなるとこの世界で生きるには、わたしというこの赤ん坊は、“おかしな発想の持ち主”と言われるのは目に見えるようだ。 むしろやっぱりこれは夢なんじゃないかと、喫茶店での爆発もなにかも夢で、現実のわたしはまだ布団の上で寝ているんじゃないかと思ってしまった。 否、思いたかった。 けれど現実とは残酷で、何度目を閉じても目覚めはいつも“昨日”の続きからだった。 そうしてわたしは――――― 終わりのない夢を…見続ける。 大切なのは あきらめないこと 絶望しないこと どんな未来でも いつか笑えるのだと信じて―― っと、 そう思わなきゃやっていけない。 だって―― いまだって… ザクッ! 「・・・・・・」 あのー。顔の横すれすれに包丁が刺さっているんですが… 泣いてもいいですか。 いいですね。当然ですよね。 「びええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーー!!!!!」 赤ん坊が怪獣のようだだと言った世の中の皆さん、訂正を。 怪獣はまさに今わたしの前で、お亡くなりになりました。わたしの顔の横に刺さる血濡れの包丁によって。 やっぱわたし、生きてけない! 怖い。無理! だれかてすけて!! |