有得 [アリナシセカイ]
++ 零隼・IF太極伝記 ++
外伝11 獄族と世界の成り立ち
その世界では、古の時代天と地に別れた神々の戦いがあった。
それはまだ「人」という種族が生まれるよりもはるか昔の話。
人間と獄族が生まれるきっかけとなる物語。
【世界の成り立ちと獄族】
「太極伝奇・零」世界
ーーーその戦いにきっかけなどなく、あったとしたならば、天の神が肥沃な豊穣なる大地をうらやみ、地の神が果てなき空の広さを羨んだがためといえよう。
あるいは、とある創造神の機嫌取りのための、「楽しませろ」という酔狂な一言で、本能的に戦い続けているのかもしれない。
世界に生きる者は、戦いを「生」の象徴として、日々戦に明け暮れていた。
創世より続いたそんな戦いに最早意味はなく、戦いこそが当たり前であり、それこそが存在意義であり、それで全てという時代だった。
なぜならば、神々に「死」というものはなく、「自我」さえ薄かったからだ。
彼らは何のための戦なのか考えたこともなく、命じられるまま、本能のままに刃をふるった。
彼らにとって生きることとは、戦いだった。
彼らにとっての死とは、肉体の滅びを意味するが、その滅びとは自然にかえり別の姿となり再び戦うために顕現するたのものだった。
つまり彼らの中で、肉の破損とはただの循環のひとつにすぎなかったのだ。
寿命など存在しない、終わりのない当時の彼らにとっての死とは、そういう軽いものであったのだ。
しかし、あるとき戦いは志向性をもった意味のあるものへと方向をかえる。
戦いは生きる意味ではない。
力が全てでもない。
そんな戦いーーそれは嫉妬と憎悪の感情が世界にうまれたことによる世界の変革。
死という概念がない世界から、死を恐ろしいものと実感し、死ぬることを回避し生き延びるための戦いへ。おのが矜恃、信念、又は他者を守るための戦いへと姿を変えた。
すべては世界に「死」がうまれたがため。
消滅すればただ世界に還るだけだった。その流れが覆され、もう二度と出会えないのを「死」としたのは、一人の女神によるものだ。
「死」を誕生させたのは、太陽の化身。
世界に生まれ落ち、世界を作り上げた希望の存在だった。
* * *
その世界に最初に生まれたのは『空間』だった。姿も無きそれは、黙してあらゆるものの"誕生"を静かに見ていた。
その記憶をたどれば、世界が形作られていき、命がはぐくむ様を、そしてそれ以前の記憶を覗き見ることができる。
『空間』なるものが最初に目にしたのは、世界に零れ落ちてきたものたち。
誕生したのは光と闇。
世界に亀裂が生まれ、そこから“零れ落ちたもの”によって照らされた先とそれ以外にわかれたことで、光と闇が生まれたのだ。
光と闇は世界を安定させるために、彼らそのものが世界を構築する一部となって世界に溶けた。
そうして世界の外殻が形成された。
次に誕生したのは、光と闇の願いに彼らの子が。
世界には“キボウ”が生まれた。
“キボウ”の女神は、おのれを律するものも彼女になにかを教えるべき者も諭す者もいないため自由奔放に育ち、己を造った光と闇のこともしらず、己こそが世界の祖と信じ、自由に世界をつくりかえていった。
希望とは願い。
世界の核を作り出した二柱の神の願いにより生まれた存在は、“願う”力を持っていた。
ゆえに彼女が大きく手をふるえれば、空間が震え空が生まれた。
彼女が空の色をたたけば、それは零れ落ち海が生まれた。
“キボウ”は光輝く眩しい姿をしており、やがておのれが照らさない場所に影が生まれた。
影はいびつな形によくあらわれるのをしり、彼女は歪なものを影から取り出してみた。その歪なものは海の底から続く大地となった。
しばらくして空にはなぜ大地ができないのかと考えた彼女は、空には己が姿を消す時間帯を与えることで、その暗闇を夜とした。
夜が生まれたことで、そのときから彼女は自らを太陽と名乗るようになり、彼女は“キボウ”ではなく「太陽」となった。
そうして太陽は数多の現象・事象に名を与え、姿をあたえ、世界を作り上げていった。
『空間』はさもその時に作られたばかりに太陽が「風」をうみだしたとき、その現象に宿り、改めて「風」となった。
ゆえに、『空間』なるものは誰よりも前に誕生しすべてを見ていたが、また同時に太陽よりあとに誕生した存在でもあった。
やがてたくさんの神々がうまれた世界では、その神々がそれぞれおのが身を削っては新しい生き物を造りだしていった。
そうして空は、風を。雲を雨を。
海は、電気をつくり、そこから生物がうまれた。
たくさんのものが生まれた世界。
神々が作り出した眷属たちはすべからく兵士であり、そのひとつひとつが生みの親たる神の力を少なからず引き継いでいた。
力を多く引き継いだものは、自我を持つようになり、個としての感情を得る。
しかしそこには生きる意味がなかった。
ゆえに生き物たちは、自分以外のものと力比べをする事で、それを生の楽しみとした。
次第にその思考は広がっていき、やがて天と地により争うようになる。
ぶつかりあう天地の戦いは長らく続いたが、常に拮抗状態であった。
空の神々の力は絶大であり、みな巨体であったが、兵士の数を増やすことはうまくいかなかった。
地の神々は力が弱く小柄な身体のものばかりであったが数が多く、小さき彼らは際限なく新たな戦士を生み出していった。
なかでも地の戦士でもありながら、海と空の境目よりうまれた地の者の力は、もはや空の戦士に匹敵するほどの力を持っていた。
それが神々の在り方であり、世界の日常であった。
あるとき、太陽の女神となった彼女に子ができた。
彼女の胎に宿るは、彼女の“願い”より生まれた存在。今までの事象に肉体を与えたのとは異なり、真なる“命”そのものだった。
生まれいづる者こそ、世界で最初の“生”。命の象徴。生命の神となる存在だった。
しかし。
その時、彼女はもはや“キボウ”ではなく、その身は焼けつくさんばかりの強い光でできた太陽だった。
生まれた子どもは、世界で始めての“生命”となったが、同時に彼女の強い力によって生まれると同時に死に絶えてしまった。
それにより「死」が生まれた。
太陽の女神はこの瞬間、新たな負の感情を世界に解き放った。
死んだ子は死の神となった。しかしその姿は誰にも見えることはなく、子も姿を見せることは望まず。概念だけが世界に広まった。
世界に存在していなかった憎悪や嫉妬、悲しみの炎がうまれたのはそのときからだ。
永遠という時間の中、朽ちることも失うことも知らず生きていた世界中のものが、今まで存在しなかったその「死」という概念を恐れた。
死ねば、そこで終わり。
寿命など存在しなかった彼らに突如訪れたその恐怖は、太陽の女神が悲しみに狂った頃からジワリと広まっていった。
そこで、その恐怖を戦に利用した者がいた。
終わらない戦争とはいえ、天か地か。優劣はつく。地に情勢が有利となっていたころ、天の神がひとり時間神が地のものに「寿命」を与えた。
それはきっと今は亡き「子」の、死の神によるはたらきもあったのかもしれない。
本来生命の神となるはずだった「子」は、慈愛の神でもあった。
そんな神であったがゆえに、死後は「死」と「眠り」の神となったのだ。
長き戦いを、戦いだけの愛なき世界をかの神は悲しんでいたのだろう。
唯一「死」を認識できたがゆえに時間の神は、世界を愛するがゆえになげく死の神に協力したのだ。
「死」を与えられたことで、無限を生きていた大地の生き物たちは生きることに時間制限をもうけられ、有限の生き物となった。
それにより一時勢力は空側がおしたが、海から新たなものたちがおくりこまれ相変わらず天と地の勢力は拮抗し続けていた。
ときをへず、寿命により有限を定められた地のものは、太陽神をみならい自分たちの能力を引き継ぐ“子”をなすことを覚えた。
そのため地の軍は代を重ねてもなお、空の軍に食らいついけたのだ。
それをよきとしなかったのは、太陽の女神だ。
子をなくした悲しみに狂った女神は、子をどんどんなしていく地の生き物すべてに激しい嫉妬をした。
その憎しみの劫火は、空を焼き、大地を乾かしていく。
夜や月がなだめようと、太陽の光は増すばかり。
このままでは寿命を得たことで生まれた命たちが、ついえてしまう。
いつしか天と地で争っている余裕がないほど、世界は太陽の女神の暴走であれに荒れた。
このままでは世界そのものが滅んでしまう。
そうしてついに海の神と、空の神が立ち上がった。
互いに争いあっていた天の軍勢と地の軍勢が手を取り合ったのだ。
いままでは敵に向けられていた戦力すべてが、暴れ狂い狂神となったただひとりの女神に向けられた。
女神と世界の住民との戦いは長く続き、やがて天地連合軍は暴走する太陽を封じ込めることに成功した。
手を取り合うことをしった世界の住民たちは、これを期に戦いをやめ、平和条約を結ぶこととなる。
長きにわたる天地の戦いは、これにより終結したのだ。
盟約の証として
空の神は、その碧き目をくりぬき
海の神は、蒼き涙を流し
それを証とした。
二度と無意味な争いをしないことをあまたの神々の前で誓いたてたのだ。
碧き目には、過剰すぎる戦の力を神々より集めておさめられた。
蒼き涙には、無限なる神々の時間をうばい閉じ込めた。
時の神のもと、これにより神の兵士には力と枷がかせられ、世界にあるすべての者や物らに、寿命が与えられた。
盟約の証として献上された青き品は、太陽神を封じ続けるための鍵として、今後未来永劫その力を発揮し続けることとなる。
こうして「青の契約」はむすばれた。
「はい、めでたしめでたし」
「どうかな。オレとカイが契約するまでの流れはここまで。わかりやすく説明できたと思うんだけど」
「そうそうwwそんな感じだよなー俺とハルが契約した瞬間ってwww」
「ちなみにこうして弱くなった神様の兵士たちは、のちに獄族ってよばれるようになったんだよ。
あと、最初に寿命を与えられた地の種族というのが、人間のはじまりなんだ。
それまでは、天地の住民の誰にも寿命はなかったからね」
「寿命を与えられた瞬間はびっくりしたぜ。とつぜん力はそがれるは、日々を過ごしていくうちに年老いてく者は出るわwww」
「人だからしょうがないよ。だからカイたちのことは“神”ではなく“末裔”ってよばれてるぐらいだし」
「あとあれだよな。寿命ができたとはいえ、さすがは神の兵士!獄族って力が強いやつはそのまま寿命も長くてなぁー」
「うんうん。契約すると人間と獄族の寿命が足して2で割って分割されるはずが、オレたち契約後も数千年は生きたよね(笑)」
「契約っていえば、どうして獄族が人間に従うかってみんなは知ってる?」
「あの戦争締結のとき、優勢を誇っていたのは地の人族だ。
その人族に天が主従契約を結ぶことでーー主(=地)には逆らいません。もう天は地に侵略戦争をしない。ーーっていう約束が同盟ってわけだ。
だからそのあとも“契約”は人が主体の契約なんだぜ」
「契約の在り方が変わろうが、これだけは変えてはいけない普遍の誓いだね」
「そういえば太陽の女神を封印してからだよな。世界の陰陽が崩れて、一日のほとんどが基本的に夜になったの」
「そうだね〜。
どうしても植物とか太陽の恩恵が強かったからね。
さすがに一日中太陽光がでないとまずいと判断して、太陽神よりうまれた陽(ひ)の兵士をかき集めて、疑似太陽をつくったんだよ。正確には時代様をうみだしたんだ。
いやぁ〜、女神の代わりになるべく、陽(ひ)の兵士たちが自ら志願したんだよねあの時。彼らは力のすべてを開放してとけてひとつになって光の球体に姿を変えた時は、初代よりはまぁ小さいけど見事な光に歓声が上がったものだよ。しばらく夜が続いていたから余計にね。
そうして陽(ひ)の彼らは太陽になったから、陽(ひ)の属性を持った獄族がいないの当然ってこと」
「そう考えると、女神のしりぬぐいとかかわいそうだな陽(ひ)のやつら」
「うーん。とにもかくにも女性の嫉妬って怖いねぇって話だよね。こわいこわい」
「「「「「絶対最後違う!!!!」」」」」