有得 [アリナシセカイ]
++ 零隼・IF太極伝記 ++



外伝07 俺達の天使は奪わせない【ORIGIN】
<詳細設定>
※魔法はないが、前世もちが多くいる世界

【霜月シュン】
・真名は「神崎零」
・隼の成り代わり主
・前世は黒バスの火神大我
・一人称:俺
・前世の影響でとにかくよく食べる。胃袋ブラックホール
・バスケバカ
・運動するのが大好きで、現在は剣術をならっている
・火神の時に犬に襲われて以降、犬が怖い
・ペルソナの能力は、異空間でなら使える
・元、獄族
・獄族としては、氷系の能力者だった
・ハジメの契約者



※お題にある「舞台オリジン」とはまったく関係のない、並行世界のお話です。





バサリと翼の翻る音が聞こえ、思わず振り返る。
だれのものかなんてすぐわかる。

翼の形、翼の数。それだけで、風をきる音はみな変わるのだから。

この重い羽音は、自分ともう一人だけに与えられたもの。
自分と唯一同じ音を奏でることをゆるされた存在。

その音だけで、もう心は弾み、嬉しくなる。
本来であればこれほど心を揺らすことは、いけないことなのだろうけど。

『――ハジメ』

自分の片翼を歓迎しない存在など、いないはずがない。


どうか
どうか・・

今度こそ


貴方がこの手を取ってくれることを・・・・・


真っ黒な羽根がヒラリと視界をよぎる。







【俺達の天使は奪わせない!】
 「太極伝奇・零」世界 〜side 零〜








前世、獄族。
現世、アイドルの霜月シュン。

そんな転生者である俺の真名は、零という。
いうまでもなく、別の世界で大食いバスケ少年であった火神大我成り代わり主である。


現在は今度のイベントに向けての話し合いのため、ライバルグループでもあるハジメをこの共有ルームから追い出したところだ。

火神大我からすぐに、このアイドル世界のシュンになったつもりでいたが、実際のところもう一つ間に前世があることが判明したのが少し前のこと。
俺とハジメはそのことを忘れていたが、カイとハルは生まれながらに“もう一つの前世”のことを覚えていたらしい。
あと、ルイとヨウとイク。彼らも“もう一つの前世”の記憶がある。

“もう一つの前世”では、獄族という種族と人間がいる中華ファンタジーの世界で、魔物相手に戦うこともあった。

本来なら生まれ変わっても覚えていることはない記憶だ。
それがハルの企画したイベントをきっかけに蘇った。

俺は転生者でもあったこと、まず生まれた種族が違うなどの理由から、ある程度前世は前世と切り替えることができる。
しかし、あまりに唐突に記憶がよみがえったハジメは、前世の記憶にひきずられ、あげくトラウマまでひきずってしまっている。
おかげで最近ハジメがやたらと俺と離れることを恐れ、ハルに激しくつっこまれまくっている。

今回もその影響で、いつものごとくまとわりついてくるハジメを「グループの打ち合わせだから出ていけ」と強引に部屋から追い出し、一息ついていたところだ。
カイはハジメと一緒に出て行った契約者(相棒)のハルがいなくなったために、「はるぅ〜」としょんぼりして大の字でソファによりかかる始末。 やる気が一気になくなってんじゃねぇよ、参謀さんよぉ。
これからグループ会議だぞ。まだ始まってもいないぞ。
そんな脱力系カイを横で膝を抱えたプチ魔王なルイがいい笑顔でつっついていた。

陽「そういや、人間様ってめっちゃ記憶にひきずられてね?」

ふいに。まるで今日の天気を話題にするかのように、ルイの向こう側ソファーの隅にいたヨウがつぶやいた。
おいおい。それ言っちゃう?
だってこの場には、前世の記憶がないヨルがいるのに?
ヨルは「なんのこと?」と首をかしげている。
仲間はずれはよくないぞヨウ。

陽「ん?ああ、お前知らなかったっけ。
以前ハルさんが考えた中華企画を元に、あの世界観で人生ゲームやったんだよ。人間とキョンシーって設定にして、パートナー決めて。それでチーム戦やったんだよ。ちなみに俺、シュン、ルイはキョンシーな。
そのときシュンとパーティー組んでたハジメさんが、その設定に感情移入しすぎたあげく、ゲームで負けたことをひきずりまくってなー」
夜「ああ、それで最近ハジメさんがちょっと情緒不安定になるたびにシュンさんのところに来るわけか」
陽「そういうこった」

うまい!
なんだかとてもうまい言い訳をさらっとしたヨウに、ここにいる記憶持ちから「おー!」と拍手が送られる。
思わず俺もカイもしたよ。
それほどうまい言い訳だった。

陽「っで、ヨル。おちゃー」
涙「僕もほしい」
海「あ、やべぇー菓子きれてるわ。どうするお前ら?」
零「え。もうなかったっけ菓子・・・じゃあ、あれが最後!?やべ・・・」
郁「というか食べるというなら。シュンさん、予備のお菓子いつも部屋にもってましたよね」
零「・・・・・(視線をそらし)」
海「おまえ、それまでくったのか」
零「う・・・きょ、今日はちょっとざいこぎれなだけで、普段は・・・まだ・・・」

涙「きっとグラビなら常備してそう」
夜「あ、じゃぁ、ちょっと俺とってきますよ」
零「お、おれも!」
夜「ハジメさんをもう一度まくの俺ひとりじゃ無理なんで、シュンさんはそこで待機しててください」
零「あ、はい」

火神のときの癖がぬけず、見た目儚い系白いひとなのに、胃袋は相変わらずの俺は、イクが言っていたとおり部屋には常にお菓子やら食材が用意してある。
ただ今回は、今回は・・・
量も残り少なくて。手を出したら、ペロリとなくなってしまって。
その、今日にでも補充するつもりだったんだ。

俺は前前世から大食いなんだよぉ!!!!

海「開き直るな。まぁ、間食してもヨルの飯を一回も残したことはないことだけは許す。
だけどシュン、ほどほどにな。食べ過ぎて太ったりしたら、ハルが悲鳴上げて、鬼のダイエット合宿が始まるような気がするから。うん。ほどほどにしとけ。あいつ怒ると怖いから」

ごもっともです。

ヨルを見送った後、残ったのは“記憶持ち”だけ。
そこでヨウが再び、先程の話を再開させる。

陽「年長が能力とかバンバン使っても寮のやつら平然としてるから、すっかりヨルも思い出してる前提でいたわ。わるかった。
話を戻っす、けど。
俺らと人間様は、前世の記憶の引き継ぎ方が違うだろ?前世の記憶を思い出すと、けっこう人間様は・・・その、執着心が。な。
イクは・・・それほどでもないけど。
シュンは大丈夫か?あのハジメの状況で」
零「あー・・・なんでだうろな。人間様ってやっぱり記憶にひきずられんの?」
海「まぁ、テンションがちょいハイになるかんじか」
陽「そのハイのせいで、カイは今かなり酷く残念なイケメンになってて、ハルさんが怒り狂ってると自覚しろwww・・・・あ」
海「えーいいだろ。大切でしょうがねーんだから・・・お♪」
零「あぁ、そうだな。最近良く見る光景だなぁ。テンションハイな年長組。ハジメのやつもなー、もうほんとうざいったらねぇ!!・・・って」

春「くぅ!!なんか悔しい!いまじゃ残念2号なのに、ハジメってば記憶なくてもちゃんとシュンを護るあたり悔しいよねぇぇぇ!!」

陽「ハルさん、あんたいつからいた?」
春「ハジメを部屋から追い出したあとだねぇ。忘れ物しちゃったからとりに来たんだよ。とちゅうでヨルとすれ違ったから、ハジメにヨルを引き留めてもらうようにお願いして戻ってきたんだ」

どうやら前世組での話し合いになったのに気づいたらしい。
ちゃっかり忘れ物を確保した後、なにげなく席につきつつ、ハジメにスマホで指示を出すとか――さすが黒の参謀。
つか、本当にいつからいたんだろう?

春「さて。議題は術者と獄族についてってところかな。そういうのはオレの専売特許だからね。
ヨルがいないうちに、聞きたいことがあれば聞いてくれてかまわないよ。 答えられる範囲で教えてあげる。ハジメの奇行の原因についてもね」

足を組んで悠然と微笑む様は、まさに“年長者”の陥落と余裕を見せる。

そんなハルに、契約についてどう思っているのか尋ねた。
否、どう“感じている”かだ。

春「契約とは魂の結びつき。だからその結びつきが強ければ強いほど、死後も、来世もまた出会う。
転生を繰り返しても。
オレ達が前世で交わした〈契約〉とは、そういう“縁”の証明なんだよ。
たとえ魂がまっさらにされて、新しく生まれても。前世の記憶がなくとも。姿も形も何もかも変わってしまっても。
一度契約で結ばれた魂どうしは、必ずどこかで出会う。魂は呼び合い、賽は縁をめぐり合わせようとメを決める」

巡る魂は研磨され、白く無垢な状態で輪廻の輪に戻る。
それを幾度か繰り返せば、さすがに魂に刻まれた契約も削られ消えてしまう。
それまでは何度でも巡り合う。

春「契約とはそういうものなんだろうね」

ハルはまるで、物語を語るように朗々と教えてくれた。

たぶんそれは、ハルがこの世界で生まれ、そして“出逢った”ことで、再度実感した“契約の真実”なのだろう。

春「ハジメの傷心具合をを語るには・・・まずは前世のことから話さなくちゃね。
獄族と人は、契約をすると寿命が足しで2で割られて、契約した二人が同じ年月を生きるようになる。
知ってのとおり、獄族は力の大きさと容姿の美しさが比例している。つまりあの容姿のシュンは、とてつもない力を持っていたわけだ。
本来であれば、あの子はオレよりもはるかにね長く生きるはずだったんだよ――“あんなこと”がなければ。
オレとカイの様に、いやもっとだね。二人は千年ぐらいは余裕で共に生きることができたはずだった。
だけど、ハジメはこの中の誰よりも・・・契約者といれた期間が短い。
たちが悪いことに、ハジメは目の前で契約者の死をみてしまった。シュンが死ぬとき、そこにいたんだよ。 そのせいでハジメは・・・・。
いまは、ヨルがいつ帰ってくるかわからないから、詳細は省くよ。
獄族の方が先に死ぬっていうのは、めったにないことだからね。
それはあまりに衝撃だ。ショックをうけすぎたんだろうね。だから今世で、かたくなに彼は記憶を閉ざしていた。
それでも思い出してしまった今、ハジメは一生懸命に心の整理をつけようともがいてる。でもそれがまだおいつかない状況なんだよ」
郁「俺達はハジメさんとシュンさんが死んだってことしかしらされなくて・・・最期のことはしらなかったから」
涙「ハジメ、まだ辛いんだね」
陽「それがあの奇行の原因」

春「そう。あの・・・・必要以上にねばりっこく、しつこく、ねちっこく、うっとうしいレベルに進化した奇行の原因」

郁「あれ?なんだかしんみりした話が一気に何か違う方向に・・・」
春「ハジメの奇行。そう奇行ね。ふふ、そうだよねぇ。どうみたって今では奇行だよね。 むしろ変態か!って感じで!!! オレが寂しかったから企画したとはいえ。思い出す切欠作るべきじゃなかったかな?!ねぇ、どう思う!?オレが悪いのかな?オレの可愛い、愛し子に虫がついたよぉ〜!殺虫剤まけばいいの!?どうしようカイ!」
海「落ち着けハル。その手に握っているスマホを握りつぶす気か(苦笑)」

なんだろう。
途中まで“あのこと”を思い出して、すごくしんみりした気分になっていたのに、とちゅうでミシリという音が聞こえた時点で、「んんん!?」ってなって、思わず顔をあげた。
顔をあげたら、般若の形相をしたハルがいた。

そもそも今世でのハジメの奇行の数々を振り返ると、ハルのイラつきもなぜか納得してしまうというか。
思わず「たしかにあれはねばっこいというかしつこいな」と、遠い目をしてしまったのもしかたない。


前世の話をすると、獄族と人間の関係について、知ってもらう必要がある。

まず契約とはなにか。
契約は、人と獄族がかわす誓いである。
これは、内包されている力が互いに均衡していなければ不可能である。
かつ、両者が真に同意しない限り成立しないものだ。

獄族は世に知られている通り気まぐれかつこざっぱりした性格の者が多い種族だが、契約となれば慎重となる。
真名を明け渡すことは、魂の片割れとなることを了承するようなものだから、当然と言えば当然だ。
かくういう俺は、会って数回のやつにあっさり真名をあかしてしまったがなwwwまぁ、そこはそれ。

そこで死別となれば、魂の半分が一気に失われたような大きな喪失感を味わう。

契約した人間と獄族の寿命はたされて、それが真っ二つに二分割される。けれどたいがいは、もろく弱い人間の方が先に死んでしまう。 それはどれだけ命が共有され共に長く生きようと、確実に訪れるべき事象である。
故に獄族は、心のどこかでいつ“わかれ”が訪れてもいいよう覚悟が出来ている。出来ていなければ、契約しない。

またその逆に事故や致命傷で寿命ではなく獄族が人間より先に命が終わるケースも稀にある。だが、それはとても稀で。
おいていかれた人間が、その後を長く生きたためしはないという。

ハジメは、その“稀”なる例にあてはまった。


郁「そういえば、死別以外で獄族が恐れるものがあるって聞いたことがあるんですが」
海「あ、あー・・なんか聞いたことあるなそれ」

涙「ぼ、僕は・・・しらない。ということで(視線をそらし聞かぬふり)」
陽「うげぇ。それ聞く?まじできいちゃう?!あ!こういうときのハルペディア!!パス!!」
春「え。えぇーー。その“単語”を言葉にするのも、聞くのも嫌なのに。無理ぃ〜」

そう。獄族には、そういう“死別”以外で、本能で恐れているものがある。

郁「契約者に恋人が出来〜た。とかが、怖いことじゃなくてですか?」
零「え、それは良い事だよな?」
春「だね。ちゃんとそういう感情もってんダネ〜って気分?」
陽「そうそう、おめでとう!って応援するよな?」
涙「する。むしろ心から祝うよ」

郁「え?じゃぁ」

春「あんまり言いたくないんだよ。本当にやなんだけどね・・・それは」

思い出しただけでも背筋が寒くなる。
むしろ涙がこぼれそうな恐怖がおそってくるその“単語”。


それは―――《契約破棄》である。


春「うう・・・オレ、実際にいわれたことあって、心臓がぎゅうってなって。寮に戻った後、本気で泣いたよ。うん」
海「はぁ?!俺、お前にそんな話一度も持ちかけたことないぞ!?(汗汗)」
春「カイが仕事先のひとに、仕事をぼいこっとされて――それで電話相手のひとに“そう言ってる”のをたまたま聞いちゃって・・・」
海「・・言ったわ。なんでそうなったか、怒鳴りかえしたような・・・って、お前それ聞いてたのか」
春「う・・ぐす・・もう無理ぃ〜・・・ぐすぐす」

獄族組は、もうみんな、なみだ目だ。
心臓の上あたりを同じようにおさえて、グスグスと鼻を鳴らしてる。
口に出してその単語をつげたハルなど、普段の毒舌や暴風や般若具合が嘘のように、泣きながらカイにすがりついているほど。

涙「いっくん、辛い・・・ぐす。破棄しないでぇ・・・」
零「う・・・ぐす・・・(´Д⊂ヽ。こう鎖をガッと断ち切れたような、感じ?いたい。怖いこわい・・ぐす」
春「こうぽっかり胸に穴が空いたみたいな空虚な感じが・・・ぐす・・かいぃ〜」
陽「あ、もうだめ、死ぬ・・・体ん中なにかゴッソリなくなった感じ。ぞわぞわするわ(遠い目)」




零「思いっきり冷めた目で舌打ちして、“その単語”を吐き捨てるかのように言われた日には。ハジメに契約一方的に切られたら・・・ああ、もうだめだ。俺…生きていけねぇかも」

春「っそ、想定かなりエグいシチュエーションだよぉシュン!!!俺ですらそこまで酷いイメージしなかったよ!!」
陽「ヨルで?ヨルに・・・すてら・・・・・・・・・あ、目から・・・しょっぱいな(死んだ魚の目)・・・・絶対そんな想像したくねぇ」

海「おいおいそこ(笑)なんでそんな有り得ない妄想してるんだ。お前らも泣くな!」



その後、ヨルが帰ってくるまで、獄族組がじめじめしてしまい、そのまま泣き続けていた。
戻ってきたヨルが「え?これどういう状況?」と、びっくりしていたのはいうまでもない。

みんなでカケルとアオイ君からもらったお菓子を泣きながら分かち合った。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




そこにはただ光だけが存在していた。

きらきらと瞬く星のように、上も下も何もないその場所で、あまたの〈命〉が煌めている。
世界の中心には、大きな大きな樹がたたずんでいる。
白い樹は唯一ある地面ともいえない、鏡面のような水面から伸び、光にあふれる空に大きな枝を伸ばしている。

その枝の一つに、美しい六枚羽根の天使が寂しげに水面を見下しながら、こしかけている。



清廉されたその場所であるがゆえに、水の透明度も高いと思えるが、水面に映る樹は影になっているせいか、枝も葉もすべてが黒くみえる。
理由は明白、水の向こう側の樹は本当に黒いのだ。
この水面の下には、空がある。
そして向こう側には、闇の世界が広がっている。

表裏一体の二つの世界は、この生命の樹を中心に境界で分けられている。

とはいえ、住む世界、生まれた世界が違うだけで、光と闇二つの種族に交友がないわけではない。
両者の間で争いがあるわけではなく、むしろ生まれた国が違うだけという人間の感覚に近いほど、この二つの種は平和な関係を築いている。
闇と光で世界が違うからと、違う属性の種が境界を越えようと息苦しさを覚えたり、能力が下がる――そういったことはない。
どちらの世界をどちらの種族が行き来するのも制約も何もないのだ。

人族に、天使や悪魔と呼ばれる彼らは、天族・魔族という。

彼らは生命の樹の葉が枝から落ちるときに、人の姿を得た存在だ。
その証として、彼らの耳には、羽根のような形をした〈葉〉が、生まれながらに存在している。
これはそのまま天族と魔族の核にあたる。
彼らは〈世界〉の意思に従う順々なる生き物だ。

生まれた場所だけが違う。同じ役目を持った同じ存在。
住まう場所に境界はあれど、行き来は自由。

それが“彼ら”であった。



しかし同じであるが、色や外見といった“種”の違いがめにとまるだけで、それに“縛られる者”はいる。

議会をまとめる老齢な天使と悪魔たちは、権力と純潔を好む傾向にある。
彼らとしては、別の力が混ざり合うのは、己の力を下げる行為でしかないのだ。
そういう者たちは、同族以外を認めない。


けれどこの世界には、魂を共鳴させる相手――対羽という存在がある。

対羽は、光と光。闇と闇だけではなく、光と闇の間でもおこる。
なにをどうしたら対羽になれるのかは誰もわかってはいないが、その相手は一目みたらわかるのだという。
その者と対羽になったとたん、耳の〈葉〉の形状も変わる。力は倍増し、そして寿命も千年をあっという間に超えるほどに伸びる。
またそれは天使どうしだけでなく、悪魔と天使でもありえること。
何がきっかけで相手が対羽だとわかるのかは本当に原理さえ不明なのだが、それでも魂でひかれあい、“わかる”のだ。

その仕組みがあるからこそ、天族も魔族も同一存在であると証明されているに等しい。


『なにがだめなのだろうね』

少し前、光界には、生まれながらに対羽の双子が生まれた。
彼らは、すでに力と寿命が約束されているようなものだ。

そしてみなに歓迎された。
それは双子が、“同じ属性”の対であったから。

『それが“はじまりの王”だと、喜んではくれないくせに、ね』


古き者たちは、同属性でない対羽を厭う。

白い羽根を持つ者たちは、己の魂の具現化した耳の〈葉〉に、黒がはいることを汚らわしいと非難する。
黒い羽根を持つ者たちは、〈葉〉に白が混じると、色が失せたことで力も失せたと怒りをあらわにする。

そんな違いなどあるはずがないのにだ。
なぜか彼らは真実を受け止めようとせず、外見からの偏見で物事を思い込む。
そしてその思い込みを純粋なるものたちや、若きものたちへ植え付ける。
最早、悪習である。

古き者たちにも、対羽になったものはいるというのに。
それでも彼らは、色だけを見て対羽の巨大な力を真っ向から否定する。


――“権力”と“力”と“地位”にとりつかれ、本来の在り方を失ってしまった存在ゆえに。


『僕らはしょせん葉だ。葉は地面に落ちれば朽ち、そして新らたな命のための養分となり――世界に還る』

けれどそれを必死に長引かせようとして朽ち葉たちは地に落ちまいと足掻き、秩序をまもるべきだと若葉たちに語り掛ける。まるで若い芽をつもうとするかのように。
あるべき輪に戻ろうとせず、腐り、土くれとなってなお、新しさに嫉妬し、腐葉土となったその身にまだ無垢な若葉を取りこみ、己の力にしようと、新芽をもぎ取ろうとうめようとする。
腐葉土は腐葉土らしく、大人しく未来をはぐくむための栄養となればいいものを。それならまだ尊敬もできよう。

古き者たちは語る。
純粋なる力こそがすべてであると。
力ある己らこそが基盤であると。

〈世界〉はそんなことは望んではいない。
望んでいたのなら、二つの世界を等しくしたりはしなかった。


「彼らの言う秩序とは――“彼らにとっての”葉脈でしかないというのにね」


植物の葉に現れる葉脈は、決して同じ模様はないという。
なら自分たちも同じ葉だ。自分たちだけのみちを歩み、この翼に生きざまを刻むのだ――それこそ、“自分だけ”の。

誰かがしいたレールの上で、操り人形にはならない。
自分たちは人形ではない。
数多の世界を生み出していく世界、生命の樹の葉だ。
葉は人形(ニンギョウ)ではない。

葉は葉としての役目を担うべきなのだ。


『僕の愛しい葉が、梢の声に騙され朽ちてしまう前に――』





祈りの心が不安に揺れる。

六翼の翼を大きく広げ白い天族は宙をける。
得難いもののために。

心が流れ落ちるように、翼からこぼれた羽がヒラリと舞う。
それは生命の樹のふもとに滾々と湧き出る水面に散り、ひとつの波紋を起こす。

やがて波紋は羽根を飲み込んで消えていく。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




最近、俺は夢をよく見る。
いくつかの“記憶”が混ざり合う。
不思議な感覚。

それが自分だと確信が持てるのに、“違う”と思えるのだ。

前世の記憶をなぞる――獄族の時の夢。
これは分かる。

この夢を見るときは、「こんなことあったなぁ」と心が懐かしさに埋まっていく。あるのは懐旧の念と充足感だけ。
ハジメとのことが多いのには、我ながら気恥ずかしいけど…。

ああ、これは最期のときにあまりに印象が強く残ったから。

先に逝かなくてはいけなくて。ハジメを残して逝くことを、とても気にしていたから。
だから幾度も幾度も、壊れたカセットテープのように――繰り返す。
“幸せ”だった時を振り返る。
それ以上先がないとわかっているから・・・。



バサリ。
大きな音がする。

夢が切り替わったのが分かった。

これは、いつも鳥の羽ばたきの音とともに始まる。
獄族の前世の思い出ではない――― “な に か”。


零「“あんた”は・・・だれだ?」

答えはない。


黒い羽根が視界をよぎる。

獄族の夢よりこの夢はおぼろげで、とても話がつながっているようには見えない。
声も聞こえない。目の前の相手の顔も見えない。
ただ“翼”を持つ者たちが、会話をしている。
そんな光景。

頭に立派な二本の角を持ち、黒い翼をもつ…たぶん男と思われる相手。
俺はその相手と言葉を重ねていく。けれど、俺の意志に反して口は動く。相手の名前だけが聞こえない。
体が俺の意志に反して動く。


『ねぇ、僕はこの羽がどんな色に染まろうとも・・・怖くなんかないんだよ?』
『なんのことだか』
『わかってるくせに』


まるでもう一人の、いや、“別の世界の自分”に憑依したような。むしろそいつの視点で記憶をたどっているような。

――ただ、なにもわからないなかでひとつだけ。
黒い翼の男といるときの“自分”は、たしかに“とても幸せ”だという感覚だけは解るのだ。


零「うーーん。獄族の記憶を思い出す直前の頃のと似てるんだよなぁ…」

首を傾げて考える。
たかが夢と片付けるにはなんとも言いがたい感覚だ。

零「実はもう一つ抜けている前世があるとか?」

な、わけないか。
いや、でも、もしも“そう”だとしたら、俺はどれだけ記憶が吹っ飛んでいるだろう。

零「ハジメに聞いてみるかな?」

もしかすると、ハジメも同じような夢を見ているかもしれない。
そうしたら、なにか―――



『――ふふ。そういう“□□□”も嫌いじゃない。でも、ねぇ・・僕が待ちきれなくなって、どこかへ飛んで行ってしまってもいいのかな “□□□” は』

自分の声なのに、とても切なげな声が漏れる。
“もう時間がない”という切羽詰まった己の心だけは押し殺し、かわりに冗談を言うように笑ってみせる。
きちんと笑えただろうか。


夢の中の“自分”は、ただ目の前の相手に、手を伸ばしてほしいだけだ。
ただ手をとってくれるだけでいいのに。
けれど何度声をかけようと、相手は“僕”の手を取ることはない。

懇願するように、また“僕”が彼の名を呼んだ。

『“□□□”』

名前は聞こえない。
けれど僕という一人称の“自分”が、黒い翼の持ち主の名を呼んだのはわかった。

相手の男が息をのむ音がやけにリアルに耳についた。

男は視線をそらし、うつむいてしまう。
そのまま男が強く拳を握る。けっしてこちらに手を伸ばさないように。
願っても彼は拒絶する。


それではダメなのに。
もう“自分”には、時間がないのに。

時は無限ではないと、お互いわかっている。
それでも強く拳を握った男がその手を開き、こちらにのばしてくることはない。
ふいに力を込めすぎたその手から、赤い・・・・・・





――パチリと目が覚める。

眠気も何もなく、なんだか寝た気がしない。
ふと視線をさまよわせれば、見覚えのありすぎる自分の部屋だ。

なにか忘れてはいけないことがあった気がするけど。はて、なんだっただろうか。・・・思い出せない。

なにかを“止めなくてはいけなかった”気がする。
“だれか”の名前を呼んで触れたかった・・・ような?

零「いや、わからん!!」

何かをしないといけない気がしたが、その何かが思い出せない。
モヤモヤだけが胸に残り、それを解消させるべくベッドから起き上がる。
暖かなベッドを名残惜しくも抜けると、のびをして着替える。
顔を洗ったあと、いつもの修練としてかかさない木刀を手に外へ出た。

一度汗をかいてすっきりした後には、夢を見たことさえ忘れていた。





 


夜「なんかシュンさん、雰囲気変わったよね」

陽「あん?そうかぁ?」
夜「ヨウは分からないの?」

いつものようにまとわりつくハジメをうっとうしそうに追い払いつつ、背後に笑顔の般若のハルと、風でふっとばされたカイ。という年長組の最近の定番となった光景をみつつヨルとヨウが首をかしげる。
ヨウにはいつもと同じようにしか見えない。

陽「さっぱりだな」
夜「うーん。本当にたまになんだけど……なんだかシュンなんだけど、まるで別人みたいなときがあって。
そういうときのシュンって、儚い、違うな・・静謐さ?みたいな、近寄りがたいようなすっごい清いものがそこにいるみたいな感じでね。
あ、でも声をかけたりすると、パッと空気は戻るんだけど」
陽「…へぇ、静謐、ねぇ(元獄族の俺達が?)」

いくら獄族としては規格外美人で、現人間のシュンとはいえ――あの氷の能力は“陰”に属すもの。

そこでテレビの絵画特集を見て、ヨルが「あっ」と声をあげる。

夜「“天使”これだよこれ!あの大食らいが嘘のように“天使っぽい”ときがあるんだよシュン!この絵の雰囲気!まさにこれ! この絵の天使みたいな。こんなイメージのシュンだよ!」
陽「どんなだそれ!?つか、天使とか人の感性によりけり過ぎねぇか?!」
夜「でも“天使”なんだって!」

あの「ぎゃぁー!」と色気の欠片一つない悲鳴を上げて周囲を凍らせているシュンをみて、どうして天使というイメージができるのか。
「あれが天使になるイメージがどうしたってわかねぇ」と、いつものコントのような能力合戦を始めた年長組を見つつヨウは顔をしかめた。
シュンがどんなに美人で綺麗な姿をしていようとも、ヨルが言う“陽”や“聖(清)”にあたる力はシュンにはないはずだった。
なにせシュンの前世は、天使などではなく、“陰”の生き物――“獄族”であるのだから。

前世が獄族であった者と、人間であった者の、術の使い方がちがうのだ。
ひとは、“陽(正)”の力を持つ。
その己の力で数多の現象を引き起こす。
獄族たちは、基本的に“聖(正)”とは真逆の力をつかい、それで自然エネルギーをあやつる種族だ。
どこまでいっても獄族は“陰”の存在。
転生してもそれはかわらない。


しかしヨウは、ヨルの観察眼を疑ってはいない。
前世の記憶がないとはいえヨルの観察眼は随一だからだ。
だからこそ、ヨウはヨルの言葉に嫌な予感を感じていた。

本人は自覚していないが、ヨルが言う“雰囲気”は、“ヒトの属性”から来るものをしめしている。 いうなれば、生き物が個々に持つオーラの違いを無意識に感じ取っているとでもいえばいいだろうか。


陽「なんつーか・・・なにも起きないといいんだけどな」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




シュ『ねぇ・・僕が待ちきれなくなって、どこかへ飛んで行ってしまってもいいのかな ハジメ は?』


世界で唯一の君。
“創造”の力を与えられた絶対なる存在。
黒き六枚羽の王。


シュ『ハジメ・・・』

〔シュン〕が声をかければ、強く握りしめた拳から血がこぼれおちる。
視線がそらされる。

彼もまた葛藤をしているのだというのは、もう十分に理解していた。

〔シュン〕は彼の手がこれ以上は傷つかないように、血を流すことがないように、〔ハジメ〕のその手にふれる。
そのままそっと握りしめられた手を開かせ、“これ以上”がないように自分の指を絡めていく。
自分の傷は厭わなくとも、他人の手を傷つけるのにためらはない者はいない。ましてや仲間を大事にする〔ハジメ〕は、そんな残虐的な嗜好性はない。
だから〔シュン〕は、血がつこうが構わずその手を握ったのだ。
意図を察した〔ハジメ〕が、包み込むようにからめられた手をみて一瞬顔をしかめ、こめかみの皺をギュッと増やす。
〔シュン〕は〔ハジメ〕が拒絶しないのをいいことに、天族特有の“力”を掌にそそぐ。
擦り傷程度の傷ならば、癒しの能力が高くない者でも治癒効果が働き、傷をふさぐことができる。
完全に治るまで手はつかんだままで、やがてなにかを諦めたように〔ハジメ〕の手から力が抜ける。
待ってましたとばかりに絡めていた手を開けば、〔ハジメ〕の傷は綺麗になくなっている。

〔シュン〕は〔ハジメ〕の手にもう傷はないかひっくり返したり近くで見たりして確認して満足するまで眺めたあと、 今度は嬉しそうにニコニコと彼の手をつかむ。
“包み込む”ではなく、しっかりと、離すまいと“つかんだ”。

ハジ『・・もういい、治った。離せ、シュン』

〔シュン〕の離すまいとする意図を察してか、〔ハジメ〕がその白い手を傷つけないように拒絶をする。
しかし己の魔族ならではの黒い手から白い手は離れない。

隼「ハジメのお願いでもそれは無理だねぇ。なにせ、せっかく捕まえたんだもの」

ふふと笑う〔シュン〕の言葉に、〔ハジメ〕は、戸惑いを隠せずその視線を合わせることができない。
〔シュン〕の言いたいことはわかるし、頷いてしまうのはたやすい。けれど願いを叶えることは、彼にはできないことだった。 その“一歩”を踏み出すことで先がどうなるかわからないがために。先が“よめない”ことに怯え、そのたった一歩のせいで世界に何かあっては困ると、世界を案じればこそ――彼は答えを引き延ばし続けている。


〔ハジメ〕は六枚羽根の魔族。
彼は対がいなくても永遠をほぼ保証された存在とされる。
それは“世界”そのもの愛し子こそが彼といわれているがゆえに。
現に、〔シュン〕が生まれたころには、すでに絶対なる存在として〔ハジメ〕は存在していた。

けれどそれでも〔シュン〕は、彼と出会った瞬間に気づいたのだ。
それはきっと〔ハジメ〕も同じ。

魂の共鳴に近い感覚。それは己の羽根の共振。
“対”であることの証。


〔シュン〕は一度目を閉じ、深呼吸をして、頭の中を整理する。
深く吸い込んだ息とともに目を開ける。
焦りも、苛立ちも、怒りも、悲しみも、喜びも・・・・すべてを抑え込んで、〔シュン〕はまっすぐに〔ハジメ〕の目を見つめ返す。
〔ハジメ〕をひきとめるその白い手に、懇願するかのように力がこもる。

シュ『ハジメ。もう僕は無垢でも生まれたてでもないんだよ。
僕はもう待てない。だから君を待つのをやめることにしたんだ。今日はハジメがうなずくまで離さない。今、そう決めた』
ハジ『・・っ!?』
シュ『何が嫌なの?僕は、なにも君がはぐくんできた世界を捨てろと言ってるわけじゃないんだよ。――ねぇ、ハジメ』


シュ『僕と君は対だよ』


ハジ『・・・・それはわかるが、俺は闇羽。お前の葉は光羽だ。光同士の対羽になるべきだ』
シュ『愚問だねぇ。愚問だよハジメ。僕は君がいいんだ』
ハジ『だが・・それはできない』
シュ『ちがうでしょう?“できない”じゃなくて、“しない”んだよハジメは』
ハジ『俺には“対”は必要ない』
シュ『僕には必要だ。いますぐにでも』

シュ『僕は対羽がなくても安定した存在でいるカイや君とは違う。
そもそも対羽と出会えるのはとても運がいいことだ。ねぇ、どうだい、僕とあと万の年月を共にしないかい?』
ハジ『・・・・』

シュ『強情だねぇ。僕はあと何度君にアプローチしたら、許してもらえるのやらw』
ハジ『だがお前は六枚羽の天族だ』
シュ『またそれかいハジメ。そういう君も六枚羽だよ?』
ハジ『・・・』
シュ『もう言い訳けはおしまいかな。僕は今日、なにがあってもこの手を離す気はないんだよ?いい加減、わかってくれないかな』
ハジ『・・』

言い訳けはもうこりごりだ。聞きあきてしまった――そう〔シュン〕が返せば、次に返す言葉が浮かばないのか、〔ハジメ〕は口をパクパクと動かして、けれど浮かぶ言葉がなかったのか、その口をしまいには閉じてしまう。
そのまま〔シュン〕と視線が絡みが合うが、それもすぐにいたたまれなくなったようにそらされ、彼の視線が己の腕をつかむ手に向けられる。

〔シュン〕は困ったように、けれど「しかたないなぁ」とばかりに笑っている。
しかしその白い手が・・・・・・・・・微かに震えていたのをみて、〔ハジメ〕は勢いよく顔をあげる。

シュ『はぁ〜。君もいい加減あきらめたらいいのに。
君だってわかっているでしょう? どうやたって、対羽の相手は変えることはできないって。 それは僕らが一番わかっていることだ』

対羽になる相手を探し求めても、どうやったらそうなるか、その相手はどうやってわかるか。条件はわからない、と伝えられてる。
出逢えただけでも幸せだというのに。
なにを戸惑う必要があるというのか。

彼が世界の愛し子だから?

ならばなぜ自分たちは“対”として生まれたのだ?必要ないなら“対”の存在など世界は作らなければよかったのだ。
〔シュン〕はそれらの憤りを言葉にはせずに、その苦い気持ちごと歯を食いしばる。
同時に〔ハジメ〕の腕をつかんでいた手に力がこもるも気にしてはいられない。 相当の力が込められているだろうが、〔ハジメ〕はただただ静かに〔シュン〕のするがままに受け入れている。

ふいに握られていた手が離れ強い力で、顔が上を向かされる。

ハジ『!?』

ふせめがちの〔ハジメ〕の頬をおさえ、〔シュン〕が視線を無理やりに合わせた。
ペリドットとアメジストの色が互いをとりこんで、ひかる。

シュ『ハジメ!』
ハジ『離せ、シュン』
シュ『ダメ!ちゃんと見て!!僕にはもう時間がないんだよ!!
君がどんなに嫌がっても!だけど僕らはお互いが対だって一瞬でわかったよね!? 一目見たその瞬間に、翼の片割れはあいつだ――って、理解しただろう?なにをこばむんだいハジメ。 今までの生きてきたことがそれで壊れたりなんかしない!だから!だから・・・・・ちゃんと周りを見て』

〔シュン〕の必死な叫びに、〔ハジメ〕の瞳がそこで初めてハッとしたように揺れ動く。

その揺れに〔シュン〕は寂しそうな目を向ける。
長く生きすぎればそれは強みになるが、ときに――

弊害も生まれる。


〔ハジメ〕の言いたいことはよくわかる。
だが、その考えのままでは・・
このままでは、〈世界〉を管理するこの“世界”さえも腐ってしまう。

想いが、揺れに揺れ動く。

〔ハジメ〕の言葉も同じ。
“木の葉”たちの言葉もまた同じ。
葉の囁きに共振して、生命の樹はその幹を揺らす。
“ことのは”に、葉たちが耳を貸してしまえば、それに染まってしまう。


――生命の樹(セフィロト)を。
その根を腐らせるわけにはいかないのだ。

〔シュン〕は今度こそ、“木の葉”たちのたわ言を取り払おうと決める。
いまだ揺れる〔ハジメ〕の視線に、深いため息をつく。

ハジ『シュン・・?』

シュ『やれやれ。君もしょせん地位にとらわれてる他のやつらと同じだったとはね。がっかりだよ』

ハジ『そんなことは!俺は!!』
シュ『ないなんて言えないでしょう』
ハジ『っ』

シュ『羽根の数、羽根の大きさ、それに宿る力の大きさ。そして階級。種族――そういう世間体を考えることこそ間違いなんだよハジメ。
年寄りどもに感化されすぎて、本当に見なければいけないものを見失いかけているよハジメ。
元は“同じもの”から生まれた僕らだよ。
本当は天使とか悪魔とか、“葉”には関係ないはずなんだ。
たまたまその葉に光が当たっていた部分だったか、日陰になっていたかの違い。同じ葉(モノ)なんだよ。
それに羽根の数が多くない子たちでも、光と闇で対羽になっている子もいる。ハジメはさ、光だ闇だと、そういう子たちが気にしてるの見たことある?
彼らは不幸そうだった?
ちがうよね。“対”がいるってことは、凄い幸せなことなんだよ。
ねぇ、ハジメ。もう一度聞くよ。――羽根が六枚あるからといって、何を戸惑うんだい?』

ハジ『俺が望むわけにはいかない。世界を壊すことはできない』
シュ『“君”が、世界が壊れるのが怖いと言うなら、そんな“知識”いらないね』
ハジ『何を、言って・・・』

シュ『わからないのはハジメだけだよ。
だって君は“創造”を司るものだ。崩壊したからなんだっていうんだい?そこから新たに“はじめる”のは君の仕事だ。君は生み出す存在だ。
終わりと始まりは常に表裏一体。
古きにとらわれ、君が作り出すという役目(未来)そのものをこわがるというなら、間違った“知識”はいらない』

シュ『“知識”をつかさどる僕が――君に新しい“知識”を“還そう”』

アメジストの目が大きく見開かれる。
まっすぐに向けられた黄緑の瞳に金の色が混ざっていく、そこに“力”が加えられ、〔ハジメ〕の中で暖かな何かが弾け、神経のすべてにそれが広がっていくのがわかる。
まるでかけられていた呪縛がほぐれていくように、揺らめていた〔ハジメ〕の瞳に光が戻る。
数回瞬きした彼が、正面にいる相手に苦笑を浮かべる。

それをみた〔シュン〕の瞳が、これ以上ないほどに柔らかく細められる。

ハジ『随分な強硬手段だな、シュン』

めまいを抑えるように頭を振り、髪をかき上げつつふっと笑う〔ハジメ〕に、〔シュン〕はいたずらを成功させた子供のようにクスクスと笑い返す。
いつのまにか彼の瞳の中から金の輝きが消えている。

シュ『ふふ。だってこうでもしないと優しいやさしい世界のいとしごたる君は、“木の葉”を切り捨てられない』
ハジ『やつらが俺に対し、どれだけ根気強く、長い間“知識”を突きつけてきたと思ってるんだお前は』
シュ『築くのは万年、壊れるのは一瞬っていうじゃない。いつかはかならず終わりがくるんだよ。それがちょっと早まっただけだよ。 いや、むしろ遅いぐらいだね。僕が君においつけるだけの力をつけるのに、ここまでかかってしまったから。ごめんねハジメ』
ハジ『“俺”に、役割としての“力”をつかい、その術が効いたのはお前がはじめてだ―――だが、“たすかった”シュン』
シュ『どういたしまして♪』


先程とは真逆で、今度は〔ハジメ〕から、〔シュン〕に触れる。
その頬をそっとなでれば、こらえたものが限界をこえたように、〔シュン〕の頬を涙がつたう。

対がいない葉の寿命は短い。
それでもなお〔シュン〕が対を得た者同様にここまで生きてきたのは、ひとえにそれが彼であるがゆえ。
六枚羽という巨大な力を持っていたからに過ぎない。

そんな〔シュン〕でさえ、長年にわたり〔ハジメ〕によからぬことをささやき続けた者たちの“言の葉”から彼を開放するのに、ここまでの時間を要した。
権力と力に執着する腐り果てた“木の葉”にたぶらかされた〔ハジメ〕の思考を、ハジマリの段階に戻すだけの力をつけるのにそれだけかかったのだ。
本来〔ハジメ〕という存在は、すべての中立であるべきだった。
すべてのはじまり。すべての見本となる存在だった。
それがじわりじわりと狂わされていた現実に、眉を顰めずにはいられない。


ようやく取り戻せた。
それに〔シュン〕は笑う。

もう頬を濡らすものはない。


そんな〔シュン〕をみて〔ハジメ〕が、表情を引き締める。

〔シュン〕の決意を、再度問う。


属性が違う者と対となれば、認めてしまった瞬間――真っ白な〔シュン〕の耳の羽には、黒が混じるようになる。
“色が混ざる”。それを嫌うもの多い。

ましてや、それが世界で二人しかいない六枚羽の持ち主であれば、周囲からの批判や糾弾は普通の対のそれよりもはるかに多くなることだろう。
対になったことを後悔して一生を終える者たちもいる。
力が釣り合わず、片方が暴走してしまった者もいる。

それらのすべてに挑む覚悟はあるかと。


いや、何千という告白めいたお誘いの後だ。もはや聞くまでもないのはわかりきっている。
けれど、〔ハジメ〕は、最期の逃げ道を〔シュン〕に用意する。

一度対になってしまえば、一生涯その楔から抜けれなくなるからこそ。


ハジ『お前は、“それで”いいんだな?』

零『とーぜん!むしろ始と同じ色の翼がほしかったから。君と対羽になれたらこれ以上うれしいことはないなぁ』

案の定、〔シュン〕から返ってきたのは、頷き。それと、満面の笑顔。
いまにも歌いださんとしそうなままに、彼は大きくうなずく。答えなどはじめから一つだと。

ハジ『なら・・・』




ハジ『手をとれ、シュン』




バサリ!と、この世で二つとない漆黒の六翼の翼がひろげられる。

きらめく白い生命の樹を背後にたたずむその黒き姿は、まるでそこにだけ果てのない銀河が広がったように錯覚させる。


ハジ『オリジンの葉として。この“俺”直々に、世界からの祝福をお前に』


いくつもの命を、〈世界〉を内包する生命の樹。
そのもののような輝きをまとう闇色の翼に、思わず息も吸うのを忘れて飲み込まれそうになる。
目の前にセフィロトの“命”そのものがあるようだ。



創造の翼を背に、その主が、どの〈世界〉にも見劣りしない煌めく宝石のような瞳に弧を描き――――白の翼の主に手を伸ばした。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




なんだか朝から背中に違和感がある。
疼くというか。
ひきつるというか。いやそれも違うか。
痛いとも違う・・・・・・・なんだかムズムズするんだ。

起きてすぐに、服を脱いで届く範囲に触れてみるが、湿疹などの凹凸はない。
身体をひねって鏡の前に立ってみたが、赤くなっている部分問何もなかった。

背中の表面というよりは、もっと内側。
皮膚の下。
なんだか体の中で不可思議な“力”があふれ出しそうな・・・

零「獄族の力が暴走してんのか?」

首をかしげつつ服をもどし、いつものように仕事にいって大学に行った。
変化があったのは、夕飯にまだ早い4時くらいのこと。


朝から感じていた違和感が強くなってきたのだ。
背中、特に肩甲骨付近に違和感があったが、いまでは背中がなんだかあついきがする。
力の暴走による発熱だろうか。
力の暴走なら繊細な操作技術を持つヨウが適任だが、彼はいま仕事でいない。
契約者にこのことをきいても答えは返ってこなそうで、前世が獄族だった者をさがして彷徨っていれば、運よくハルをつかまえることができた。
相談に乗ってもらうつもりで、そのまま彼を俺の部屋へ誘ってお茶をすることにした。

春「それでどうしたのシュン…」

俺とハルはティータイムなんて贅沢な時間を満喫していた。
言葉にするにも難しい感覚に口をとじたままでひたすらどういえばいいのだろうと紅茶をすすっていたら、きっかけをハルが作ってくれた。
俺の些細な動作に即反応するのは、やはり親だっただけあるのだろうか。――と、少し擽ったく思う。

零「あぁ、背中が――」

ハルに問いかけられて答えようとしたら、ドタバタ!と忙しない足音が下から聞こえてきた。
下からということは、グラビのメンバーの誰かだろう。なにかあったのだろうかと、ハルと顔を見合わせた後、思わず部屋の扉、そのむこうにある階段の方を二人で見てしまう。

始「シュン!」

零「どうしたハジーーーめぇぇぇぇぇ?!!」

バン!!と勢いよく扉が開かれ、そのまま弾丸のように部屋に転がり込んできたのは、ハジメだった。
普段からうるさい!といわれるような足音をたてないハジメの登場に、驚きを隠せない。
しかも何も言わず、俺の名を呼んだかと思えば、勢いよく服をめくられるし!
ハルが「ついにハジメがセクハラまで!!うちの子は嫁にはやりません!!反対です!!」と叫び、ハジメはだまったままだし。

ハジメは部屋に来たかと思いきや、早足に俺のところに来るやいなや、いきなり俺のシャツをひん剥いた。
これには驚きすぎて固まる。
最近の中で一番の奇行としてあげられる行為ではなかろうか。
だが、揶揄りたくともハジメの雰囲気が禍々しくて声がそれ以上出ない。

おい、誰か状況を説明してくれ。
なんだこれは?

とりあえず遠い目をしておく。

零(今の性別が男で良かったなー、剥かれても気にしないしー、俺が女のままだったら見た目的にアウトだったぞー………アレー?なんか黒いオーラ放ってるけどハジメの術者としての属性は光じゃなかったかなー?(現実逃避))

現実逃避したが、現実は何も変わらなかった。
むしろハジメのまとう雰囲気がさらにいらただしげなトゲのあるものになった。

零「は?!ちょっ!?」

始「ーーチッ!なんだこれは」
春「な、なに、これ」

散々見回して背中を見たハジメから低い舌打ち。
ハルからは唖然とした声。

ちょっと待て。だからなにがあった。
なんだこれは、は俺のセリフだ。

零「俺の背中になにがあんだ?!」

ピロリンッとカメラのシャッター音。写真を撮ったハルのスマホ見せてもらって唖然とする。

零「なんだこれ?・・・翼?・・六枚羽の・・・六枚の翼、どこかで・・?」

驚いたことに、俺の背中には、まるで白い翼のような精巧に描かれた文様のようなものが浮かび上がっていた。
熱暴走による影響か?
六枚羽ってことは、大天使か!?
背中に手を回して触るが、おうとつはない。ペイントではないようだ

もしかして朝からのウズウズの正体はこれだろうか。
だけどこれが何を意味するかは分からず、首をかしげるばかり。

春「俺の知らない間にうちの子が刺青とか………」
零「してない!」

ヨロっとよろけたハルに慌てて弁明する。
というより、何故背中を見てないはずのハジメが気づくんだ。目線をむければ、ハジメからは欲しい答えが直ぐに返ってきた。苦々しい表情というオマケつきで。

始「コレは刺青とかじゃない。俺との契約が介入されてるんだ」
零「ひ!?け、契約が!?じゃ、じゃぁ俺の契約はどうなるんだ」
始「お前の持つペルソナと俺の契約。そもそもこの2つは契約にして次元が違う。そうそう書き換えられるようなものじゃないはずだが、誰かが魂に干渉してる!」
春「魂に・・・ぞっとする響きだね」
始「だが、事実だ。今、シュンの中で他の契約が結ばれようとしている。シュン、なにかへんなところはないか?」
零「とくには。ただ背中がすごいうずうずするというか・・・・・あ!なんか"力"が一気に増えてあふれてくる感じで」
始「それだな」

契約干渉という言葉の時点で、ハジメは今にも人を殺さんばかり表情を見せた。
思わずあまりの殺気に俺でさえ心底恐怖した。


その後、ハジメが一度なんらかの術札を取り出して、俺の背に貼ったが効果は見れず。
ハルが"獄族"の力を共鳴させようとしたが、どうやらあふれ出てくるような感じのするこの力は、獄族のものでも自然的なエネルギーでもないらしくお手上げ状態。
みんながみんな真面目そうな顔で、どうしようかと悩んでいる。



海「ただいまー」


ナイスタイミングだ。
いいところにカイが帰ってきた。
年長組が俺の部屋に集まっていると聞いて、カイはわざわざ俺の部屋までやってきてくれたらしい。

春「カイ!」
海「おっ!ハルの熱烈なお出迎え〜♪ ・・・・・・・・という感じじゃなさそうだな」

ことが重大過ぎて、仕事が終わって帰ってきたばかりのカイも巻き込むことにした。
カイが帰ってきたことで表情を少し明るくさせたハルにカイはいつものデレ顔したかと思いきや、そんな空気でないと即座に察し、表情を引き締める。
そういう瞬時の状況判断が出来る辺りは、さすがは年のこう。

海「状況は?その様子だとうちのがなにかしたか?」
始「そうだな。俺と同じ術者立場のカイから意見が欲しいところだが。正直、今感情が収まらない」
春「ああ、うん。ハジメはちょっと頭冷やしてこようか。頭に血が上りすぎてるよ?(頭ナデナデ)」
始「カイ、お前なら俺より冷静に分析できるだろう。話がまとまったら連絡くれ。・・・・・・・その頃には、俺も落ち着いて判断できるようになってる・・・はずだ」
春「ちょっとゆくっりしようね。じゃぁ、俺、席を外すからあとはまかせたよ」

前世のことが絡むとハジメとハルは、犬猿の仲とばかりに喧嘩が絶えない。 それでも今世で腐れ縁という人間では長い時間を共にしてきただけあり、ハルとハジメの相性はいい。心配だってする。
慣れた仕草でハルがハジメの頭をポンポンと撫でて、そのハジメの丸まった背を支えるようにして、二人で部屋を出ていく。

残されたのは俺とカイ。
カイには先程の話を事細かく説明し、同じように背中を見せた。

カイは俺の背をじっくり眺めた後、顎に手を当て目を細める。

海「この術式…俺達の覚えのあるものでないのは確かだな」
零「だろうな。あのハジメがさっき術が効かないって。ハルは獄族の力でも自然エネルギーでもないって」
海「こんなケース、俺も経験したことはないから憶測でしかないが。他人から契約に介入されてるんだ。シュン、お前今かなり不愉快なんじゃないか?体調、あるいは気分は大丈夫か?」
零「俺は背中がウズウズするくらいで、ハジメが乗り込んでくるまで事態に気づかなかったからな。得に以上は。
契約ウンヌンには獄族のほうが敏感な筈なのに・・・」
海「今はお前は人だ。契約が甘くなっていても仕方がない。なにより契約ってのは、人が主となるもの。そこに干渉されてるのなら、これは"ハジメに対し"影響が出ているのかもな」
零「主が行った契約だから、主たるハジメの方が敏感に違和感を感じた――と」
海「そうなるな。お前に影響したわけじゃないから、お前は気づかない。 けれどこれが"ハジメに対し"なら、お前のが契約の異変に気づくはずだ。なにせ契約の術の根源はハジメが握ってるからなwww
ま、この感じだと。今の場合、契約に干渉することで、主替えを強制されてるってことだろうな。
ちょろっとハジメの顔を見たが、あいつ相当精神にキテんな。 これがハルだったらと思ったら俺も分からんでもないが」

一瞬見せたカイの獰猛な顔にピャァっとする。
やだ、怖い。
が、気になることは色々あるため消化せねばならない。

零「記憶戻ってからってことになるんだと思うが。俺達は、契約が生きてるんだよな?俺はハジメと繋がりを実感してるぜ」

それがきれかけてるいるとは、どういうことだろう?
術者であるハジメではないので、俺には違和感以外の影響がなにもないため“その”感覚がよくわからないのだ。

海「んーそうだな。生きてはいる。
でなけりゃ、契約云々に元獄族とはいえ“今人間であるお前”が気にしないと思うんだがな。
契約解除や破棄の類は、獄族の本能で畏怖してるものって、ハルに聞いたことあるしな。
逆を言えば、今世でも繋がり切れてりゃぁ、こうして出会うこともなければ、ハジメが破棄って言葉を口にしようと何も思わないんじゃないか?これは俺とハルにも該当するな」
零「破棄…ハジメに」
海「ほら、俺のこんな言葉ですら目が揺らいでるぞ」

カイは俺の心を解すように頭をわしわし撫でる。
それに少しだけほっとする。

ああ、でもこの“恐怖”がある限り、俺たちは前世のままに契約がつながっているということだろう。

そう、この恐怖心や不安感――デメリットを過去の俺はしらずにハジメと契約した。そうして初めて魂のつながりというものを体感したのだ。
あのときは、獄族ハルにしこたま説教されたものだ。 「前々から獄族としての知識や本能を落っことしてたとは思ったけど!」と、それはもう嘆かれた。
なにせ、俺以外の獄族メンバーにすらチベスナ目をされたからな! 俺より以外の獄族全員――当時でいうなら、俺より若いカケルにさえも「ないわー。契約を顔見知り数回でするとかないわー」な、顔されたのは忘れられない。
しかも当の本人のハジメすら「獄族は契約には慎重になるから、断られる前提だった」「長い年月掛けて口説き落とすつもりだった」と言われ、自分の浅はかさを痛感したほどだ。

ハジメと契約したこと自体は後悔してないけども!


―――と、違うところまで思考が飛んだが、カイの分析で現実に戻される。

海「あと正確には“前世の”契約だからこそだ。転生したことで、魂が一度磨かれている。その分、契約は前世よりうすれているんだ。
どちらかの魂が潰えない限り継続されるのが契約。と、生まれ変わった世界での俺の見解だが」
零「そこに介入できる穴があったと」
海「今回のお前の異変にハジメがいち早く気付く…いや、感知出来たのも主である証拠だ。まだ契約は繋がってる証拠だな。
だが同時に、やはりつながりが薄れている証拠でもあるなー。薄れてるから、お前にまで大きく影響が出ていない・・・ともいえる」

険しい顔のまま、コーヒーを飲んだカイは盛大に大きなため息をついた。

つまり現状は悪い状況でもあるが、たしかに契約は生きている証でもあって・・・。
それはいいことでもあるわけで。

零「複雑ー」
海「俺もだ」

海「ああ、そうそう。あとな、“前世だからこそ”の歪みがあっても可笑しくはない。 俺とハルのように生まれた時から記憶があるのと違って、お前らは記憶戻るキッカケあっても唐突だったしな。
別れのショックがひどすぎたんだろう。記憶が一部欠けているだろう? 記憶とは魂に刻まれたもの。つまりそれが欠けてるってことは、お前らの魂も何かしら傷か痕か・・・まぁ、なにかしらあるんだろうさ。
だから俺とハルより、繋がりが甘い可能性もあるわけだ。 ハジメがあれほどお前に引っ付き虫になるのは、その欠けた部分の不安からくる無意識の行為なのかもしれん」
零「欠けて・・・」
海「そこはおいおいな。なにせ“その記憶がない”んだ。欠けていること自体にも気づかないこともある」
零「・・・」
海「あと気になる点をあげるとだな、痛みがないことがちょっと気になる」
零「ん?だってそれは、術者であるハジメにだけベクトルが向いてるとかなんとかで」
海「ああは言ったが、普通は無理やり契約を捩じ込まれていれば、だれだろうともっと苦痛を感じそうなものだろう?」

海「なにより、この術なぁー。たしかに人間でも獄族の者でもないんだが。それでも、なんかなぁ。うーん・・・いや、でもなぁ」

零「はっきり言えよカイ」
海「じゃぁサクッっと言うな♪」


海「この絡まってるやつの術者って“ハジメ”だと思うんだよなー」


零「は?」

海「はは♪なんでだろうなぁー」
零「しるか!こっちがききたいわ!!!!」








一方、グラビの共有ルームでは、ハジメと事情を聞くハルがいた。
ソファーに座り込み、頭痛をこらえるように額を抑えるハジメは、苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。
纏う空気も重い。

春「大丈夫?シュンに影響が出てないってことは、術の改ざんの影響、全部ハジメがうけてるんだよね?」
始「そこは俺も違和感しか感じてはないから大丈夫だ。だが」
春「うん?」

始「同族嫌悪に近い」

春「同族嫌悪?」
始「言い表しづらいが。俺のような奴?いや、むしろ俺か?・・なんとういうか術者の性質が似ているというか、な」
春「うーーーん。いまいち解りづらいな」
始「俺であって俺でないような。“別の俺”の気をあの術から感知したんだ。契約の糸が“それ”に上手く絡んで今のような状況になっている」
春「“俺”って単語がゲシュタルト崩壊起こしてるよハジメ。まぁ、こればかり感覚だから当人でないと理解できないのがもどかしい」
始「大した問題じゃない。むしろこれは“俺”の問題だ。だが、“別の俺”だろうが野放しにはしてやる気はもうとうないな。 このまま放置してれば糸が交じり合って上書き―――それを俺が許すはずないだろう。あれは俺のものだ」
春「・・・うん。今はその発言も許すけど。負の化身でもあった俺たち(獄族)より、ハジメの方が悪役ぽいよ。 神聖な光属性の君はどこにいったのかな?(うーわー。これ、絶対見た人がトラウマになる顔でしょ)」
始「光が属性であろうと、それを使う者次第だ。神聖なものをつかえるからとその使い手の心まで綺麗なわけじゃない!」
春「いや、正論だけど!正論だけど!!・・・・・いっそハジメが浄化されるべきじゃない?あと、ウチの子によこしまな感情は抱かないようにね」
始「断わる!あれは俺のもの。だれにも、“別の俺”にだってやる気はない」
春「・・・・・やだ、なんか病んでるよこのひと(遠い目)」

始「そうときまれば」

春「ねぇ、ハジメ」
始「なんだハル。いまこいつの術を倍にして、呪い付きで返す方法を考えるのでいそがしいんだ」
春「ハジメ清めるんじゃなくて。ハジメ清めてもらった方がいいよ」


春「なんなら、一度、俺に本気で殴られて魂をふっ飛ばしてみる――― っていうのはどうかな?(ニッコリ)」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




“それ”を認めた途端、力がどこかへ流れていくのを〔ハジメ〕は感じた。
これが“対”になるということか。
そう、思っていた。
だが、しかし。いつまでたっても噂のように、力が増える気配も何かが変わるような感覚も。ましてや耳の羽が進化するような気配さえ微塵もおきない。
どういうことだと〔ハジメ〕が〔シュン〕の方へ振りむけば、〔シュン〕の顔色は真っ青になっていた。
徐々に〔シュン〕の顔から血の気がうせ、青を通り越して白く、血の気が引いていく。それに驚き、声をかけようとしたところで、ふいに〔シュン〕が力尽きたように地面に座り込んでしまう。

ハジ『シュン!』

〔シュン〕は震える身体をおさえるように、己の体を抱き締めるように自らの手で腕をつかんでいる。
うつむく彼にどうしたのかとかけよれば、その背の羽根が実体をなくしかけていた。

ハジ『これは!?』
シュ『・・っ・・・ハジメ・・・・どう、しよう・・・羽根が、葉が・・・僕の葉が・・もって・・・いかれた・・・!』

セフィロト(生命の樹)の葉から生まれた彼らの命は、その葉そのものだ。
翼の大きさと数は、力の大きさとも比例する。
それが失せかけているというのは、命にもかかわること。
〔ハジメ〕は青い顔でうずくまる〔シュン〕にを抱え上げると、慌てて生命の樹の元まで飛んだ。

とちゅう楽し気に小鳥と戯れている魔族みつけ、その彼に〔カイ〕を呼ぶよう言伝を頼む。

ハル『あれ?どうしたのハジメ』
ハジ『ちょうどいいハル!カイを連れてお前もこい!!緊急事態だ!』

ハル『・・・・そう。たしかにこれは急をようするね』

半透明になり弱弱しくなった羽根をそのままに〔ハジメ〕の腕の中でぐったりとしている〔シュン〕に気づくなり、 〔ハル〕の態度が瞬時に切り替わる。
細められた瞳が状況を即判断し、ほわほわと小鳥と戯れていたのが嘘のように、あるべき雰囲気を纏う。

“探求の王”――勝利のハル。

そう呼ばれるだけあり、この世で最も知識を集め続ける存在だ。
その〔ハル〕ならば、この現象がわかるかもしれない。と、〔ハジメ〕はたまたまのこの出会いに肩から少しだけ力が抜けほっと息をつき、再び翼を動かす。



その背後で、皮膜のはった漆黒の大きな翼がバサリと広げられ、その衝撃によって風は斬りはらわれる。
若草の瞳がゆっくりととじていく。

ハル『だれかが作った世界ならば、それはどこまでいっても箱庭にすぎない。目に見えずとも、そこにあるのは“創りし者”によるルール。
ならばこの世界にあるのは“必然”だけ。“偶然”などありはしない』

二人の白と黒が対であったことも。
この空での出会いも。

立会人が“真実を見続ける役目”をおった者であったのも。



白の彼にからまる“別の縁の糸”の存在もまた――



ハル『すべてに“疑問”を――。
   すべての“回答(真実)”をこの手に・・・』



舞い散る羽根はなく、風を切り裂く音だけをのこし、“探求の王”の姿は風に消えた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




誰かが語り掛けてくる声がする。

零「だれ、だ?」

先程までカイと話していたはずなのに、ぐらりと眩暈のようなものを感じ視界が揺らいだあとの記憶がとんでいる。

現状を把握しようと周囲を見渡してみれば、そこには白しかない空間。
それでもずっと誰かに語り掛けられてるような感覚がして、直接脳にささやきかけられるようなそれに思わず頭を押さえる。
頭痛が少し収まったところで、そのまま足をすすめる。
声に呼ばれたような気がして、視線をさまよわせれば奥の方に何か小さな塊が見えた。

近寄って、それが小さくもない大きさであると気付く。
真っ白の布の塊。

その中心で泣く、小さな子供をみつけた。
子供の背には6枚の羽根がある。

零「あー・・・どうかしたのか?」

困惑に頭をかきながら声をかければ、天使は涙をこぼしながら振り返る。

『怖がっていたのは、“彼”じゃなかった』

零「ん?」

『僕の方だったんだよ』

零「何が言いたいんだお前?」

『最初は違ったんだ。でもいつしか“波”が僕に押し寄せてきて。それがもたらした不安を受け入れてしまった。 僕は、僕は・・・。僕の心が、セフィロトを揺らしてしまった』

零「せふぃ、ろと?なんだぁ、それ?きいたことあるような気はすんだけど」

天使の宝石のような瞳から、ボロボロと大きな雫がこぼれ落ちる。
キラキラと光をため込んだ涙がその都度、白い地面におちて波紋を描いていく。
不可視の振動が“世界”に広がるのを感じていた。

世界が、揺れ動く。


『お願い。どうか、どうか――』



『       』



天使の口が言葉を紡ぐ。
その単語を目にした瞬間



“糸”が・・・・・つながった。





 


ガッ!と目がひらく。意識が覚醒する。

ぶれる視界に額を抑えつつ周囲を見れば、そこは先程までいた自分の部屋。
横ではカイが心配そうに俺をみている。

大丈夫か?と気づかわし気なカイに答えることはできない。
グラグラとゆれる脳に悩まされ、上手く言葉を発することができないのだ。

俺にとってはこの世界は、いまだ白昼夢の延長上。

ああ、背がうずく。
この翼はあの天使のものだ。
それが自分のもとにきてしまった。
返してほしいと願ったあの子のもとにこれをかえさないと。


そもそもの原因(はじまり)は―――


零「ああ、くっそ!!帰ったら、ハジメをぶん殴る!"ハジメ"違いでも!!!」
海「シュン!?」

カイの裏返ったようなすっとんきょんな声が聞こえた。
それに気にせず、“目の前に見える小さな子供の手”を勢いよくつかんだ。

カイにはみえていないであろう、小さなこどもの手。
空中にぼんやりと浮くそれを握り返せば、背中がいままでにないほど熱くなる。
未知の“力”の本流が体中をめぐり、うなりをあげる。
巨大すぎるそれに思わず声がこぼれたが、しったことか。

“力”の流れが心臓から身体をひとめぐりして、背中へ流れていく。

海「しゅ、しゅん?それ」

驚きに目を見張るカイがなにをいいたいかはわからなかった。
ただ暴れまくる“力”を体にとどめておくのが難しく、意識を保つのに必死でそれどころではない。



バサリ!!



背が、軽くなった。
体の中にあったなにかが安定するのを感じた。

それと同時に、視界がかすみ始める。
もう限界だとおもったとき、クイっとばかりに握られていた手が前へとひかれる。


―― オカエリ・・・葉ヲ・・僕の、羽根・・・・・


たおれこむまぎわ、小さな天使に抱きしめられる感覚に目を閉じた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




カイと話している最中に、シュンが突然黙り込み、なにかをこらえるような表情をした後、なにかに手を伸ばすようなしぐさをした。
そのとたん、宙に突如パッと光の塊が現れた。

それは見ている前で一羽の鳥の姿を取ると、雪の結晶のようなきらきらした光の粒子をまきちらして、うずまくるシュンの傍へと舞い降りる。

耳では聞き取ることができない声で光の鳥が鳴いた。
それとともに、シュンを中心に光の陣がえがかれる。


海「シュン!!!」

とめようとしても弾かれてしまって近寄れない。
そばにいるだけでそれが途方もない“力”によって生み出された陣だとわかる。
やはり異変を感じたようで、バタバタと黒年長があわただしくかけつけてくる。
光の鳥は苦し気なシュンのその鼻先にちょこんとキスをするようにほおづりをすると、シュンから力が抜ける。
なにをしたんだとみているまにも、般若の表情のハジメが躊躇なく光の壁にたいあたりをかます。

鳥のおかげで体調が戻ったのか、シュンがチラリとこちらをみた。

始「シュン!手を伸ばせ!!」
春「ど、どうしよう!?」
海「なんなんだこれは?」

必死の形相で光のなかへと手を伸ばすハジメをみたとたん、シュンはそれはないだろうといわんばかりにハジメにむけて渋い茶でもすすったかのように顔をゆがめ、フン!とそっぽをむく。
それに驚いていれば、とまどいオロオロとしているハルへシュンが腕をのばす。

春「え?」

そのままクイッとひっぱられたハルが、光の陣の中にひきづりこまれ―――

零「ハジメの甲斐性なーーーーーーーーーーしっ!!!」

っという、シュンが雄たけびをあげれば、鳥が満足したように目を細め、再び天に向けてないた。

瞬間、ブワリと粒子が今まで以上に舞い上がり、陣が二人をのみこむ。
そのまま陣は消えるかとおもったが、シュンの言葉に衝撃をうけていたハジメが我に返ったことで慌てて行動を起こした。
まさに鍛冶場のバカ力とばかりに、消えかえの陣に手を伸ばし、「なんで俺が甲斐性なしだー!!!!」と叫びながら無理やりこじ開けるなり、そこへ飛び込んでいった。

カイはただただ一連の急な展開についていけず呆然としていたが、四人全員がどこともしれぬ“向こう側”にいくのはよくない。 誰か一人が残らなければと戻ってこれなくなるかもしれないと考え、その足を止める。

海「まぁ、シュンが自ら引きずり込んだなら、安全は保証されてそうだしな」

カイは一枚の札をピッとかかげると、そこに息をふきこむ。
ピチャーンと宙をまるで水の中のように優雅に泳ぐ一匹の青い金魚があらわれ、「あとはまかせた」と告げるカイに金魚は羽衣のようなヒレをうごかし頷くと、何もない空間へともぐりこむ。


海「式はうまく“向こう側”――ハルのもとについたな」

契約者であり、一対の証をしるべに、カイの式はハルのもとへむかった。
これで“道”は整った。

海「さってと。年下組への言い訳でも考えるとしますかね」

無事にみんなが戻ってくればいい。
良い土産をもってかえってきてくれれば、なおよし。

緊迫した空気がなくなり、カイはのんびりと背伸びをしたあと、シュンの部屋を後にした。


だれもいなくなった部屋の中心で、ヒラリヒラリと一枚の白い羽根がおちた。

しかしそれは誰かに見とがめられる前に、パキンと氷が砕けるような音を立てて、光の粒子となって消えてしまった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




たとえ、バカだ、アホだ、変態だ、甲斐性無しと言われようとも。
伸ばした手を振り払われようとも。

誓ったのだ。



今度こそ死なせない。
今度は守る

今度は絶対に、傍にいる―――そう決めた。


だから
そうやって守ってきたものを、横から奪われるのは



始「いい気分じゃぁない」



むしろ怒りさえ感じる程で。





白と黒の光が渦巻く本流のなか、ハジメは必死におのれの契約者との縁という“糸”をたどってさらにさらに潜っていく。

もぐればもぐるほど、“べつの”なにかを感じる。
ふいにハジメの耳に、どこかから「どうして?」と嘆く小さな子供の声と「それだけはだめだ」と自分を戒めようとする男の声がきこえた。

これは時も次元さえもこえた影響だろう。
シュンとハジメをつなぐ糸をたどってはいるものの、ハジメがいるのは次元の狭間と呼べる場所。
シュンにからまった別の糸が、ハジメに“異なる世界の記憶”をみせつける。


しだいにハジメは、駆け抜ける様々な光景に、とくに黒い翼の主に腹が立ってきていた。

始「あんなに“シュン”が泣いてんだろうが!!!」

生まれたての天使は、腰までもない身長を懸命に伸ばし、黒い翼の主に必死に手を伸ばす。
それを断り続ける王。

バカバカしい。

せっかくあんなかわいらしい天使が手を伸ばしてるのに。
モミジのような手はさぞ柔らかいに違いない。さぞ高く鈴を転がしたような声に違いない。さぞ――
そんなシュンが小さいころから傍にいれて、子供のころのシュンの姿を間近で見れたくせに。
しかもその小さいシュンには、まっしろで小さなはねがはえているとか、まさに天使。
その天使が必死にのばす手をふりほどくとか、あの黒い翼の男は角がある外見だけでなく、心まで悪魔かとののしってやりたくなる。
白いショタな天使とかかわいい!かわいすぎるこれこそ世界の正義なのに、なんてもったいない!


こんな素晴らしい天使の成長をじっくりみながら、ハジメは自分の前世の契約者もこんな可憐な時があったのかと妄想を膨らませる。

ああ、可愛い!
かわいい天使!まさに天使!


かわいいは正義だ!
それをなかすなんて万死に値する。

始「ふざけるなよ!」

むしろこれを俺にみせるとは、俺に悶え死ねということだろうか?
なんだその自慢。


そうやって自分があきらめれば、世界は守れると思っているのかあいつは。


世界で唯一の存在だからなんだ。
世界のいとしごだろうが、王だろうが。それがなんだ。
属性が違うのがどうした。
光も闇も関係ないだろう。

前世で俺とシュンは、人と獄族という種族の差まであったぞ。
そもそも光の属性もちなんて、自分以外はみたことなかったほど、人間のなかではレアな属性持ちだった。
シュンは氷だったし。
それでも魂の契約を交わしたのだ。

傍にいたいその理由に、何を悩む必要がある?
言い訳をつけないと傍にもいれないのか?
ちがうだろう!?
なら、なんで合理的な結果が出なければ、傍にいてはいけない?
なれるならさっさと対になればよかったんだ!!

そもそもああやって理論と正論並べまくって、黒の彼が長い間、あの無垢な白い天使を拒否するから――

始「“シュン”を不安にさせやがって。そのせいで。そのせいで――」

あの創造の王様は、許せる範囲を超えている。

長生きだから。力に差があるから。
様々な言い訳をしているうちに、あの黒い翼の主は、白い翼の天使を不安に染め上げてしまったのだ。
そういう理由ですれ違った想いが、やがて大きな波紋となり、大きすぎる不安は、起こしてはいけない現象を生んだ。
それにまきこまれた相方を思い出し、ハジメは苦虫を何十匹もかみしめたような顔をみせる。

そのせいで。
そのせいで・・・


始「そのせいで俺が甲斐性無し扱いされたぞ!!!!


ギリリと奥歯をかみしめた光属性の筆頭の偉大なる黒の王は、怒りを爆発させたのだった。
しかしその声は誰にも届くことはなく、次元の彼方へとかき消されていった。



だれかがどこかでゾクリと背を震わせたのは・・・・





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




光に飲まれた後、白い鳥の導きで時空を駆けた。

六枚羽根を持つ別の世界の〔シュン〕とつながっているせいか、次元の中では彼の記憶が流れ込んできた。
それは俺と手をつないでいるハルも同じらしく、眉をしかめて「向こうのハジメって本当に甲斐性無しだね」と低い声を出していた。

記憶の中の天使は、こどもからやがて成長していく。
その〔シュン〕の寿命が近づいたころまで記憶をたどる。
彼は自分の寿命を前に、〔ハジメ〕に植え付けられた固定概念を崩すべく決意を決める。
そしてついに二人が対になることを決めたところで――映像は乱れ始めた。
〔シュン〕がたおれ、自分自身を抱きしめるように縮こまる。
その背の羽根は、まるで吹けば消えてしまいそうなほどに力をなくし、実体を失いはじめていた。

〔ハジメ〕がかけつけ、〔シュン〕がその目を閉じる寸前――映像のむこうの〔シュン〕と、目があった。
その口が助けをこう言葉を紡ぐ。

零「さっき夢、つーか、白昼夢をみた」
春「シュン?」
零「俺のひざ丈もないぐらい小さな白い子供が泣いてんだよ。
こどもはさ、一目見たときから大好きな奴がいて、そいつにそっけなくされてもかわらず笑顔なんだ。
だけど心の中では、不安でこわくてしょうがなくて。そんな些細な不安がつもりにつもって、バカでかくなった心の闇に飲まれてしまった―――そういう天使の夢」

〔シュン〕が最後に俺をみて動かした言葉と、夢の中の小さな天使の口の動きはまったく同じだった。

零「天使は泣きながら言ったんだ。――“僕が悪い”って」

違うのに。そうじゃないのに。なのに子供は自分を責めて泣いていた。

いまなら、あの夢の中の白い子供の正体もわかる気がする。
どうして夢の中の彼が、子供の姿だったのかも。

きっとあちらの〔シュン〕は、体は成長しても、心はいまだ子供のままだったに違いない。
それは〔ハジメ〕にもだれにもみせたことがない〔シュン〕という六翼の天使の、心の奥底にしまい込まれた彼の本当の姿。
闇が心の中に生まれ始めたころから、心はずっととらわれてしまい、子供のまま時を止めてしまったのだろう。

もう抑え込むことが限界だったんだろう。

それに俺は夢の中で、助けを求めた小さな天使の手を取った。
助けるって約束したんだ。

零「いくぜハル!!“あっちのハジメ”に説教だ!!」

ピルルと道案内をするように俺達の前を飛んでいた白い鳥が、まるで応援してくれるようにこえをあげる。
ハルも意図をくんでくれて、「そうだね」と頷いた。

ふたりで次元をはしり――

突如現れた光が視界を覆った。



零春「「あ」」



白い光の眩しさに目を閉じつつも足を進めれば、地面の感覚が消える。

案内をしてくれていた鳥さんは周囲を見回してもいない。
目の前をヒラリと一枚の白い鳥の羽根がおちていく。たぶん役目を終えて消えたんだとは思う。
思うけど・・・

零「またこのパターンかよ!!」
春「こわっ!!こわこわ!!高いよ!高いよ!!!!!」

お空に放り出されました(*´ω`)
いやぁー安定ですな。

もはや頭なんかまわってなくて、落下から強烈な重力に、二人でだきあって悲鳴を上げるしかできなかった。

零「こんな展開嫌だー!!!!」
春「天界だけに?ああ、俺、このまま死ぬんだねぇ・・・なんでこんな高いところに放り出すかな!高いよ!怖いよ!!」
零「天界な展開だけに死ねと!?」
春「わ〜おもしろくない冗談だね!!」

だれも面白いことを言えとは言ってねぇ!!

白い羽根を持つ〔シュン〕の記憶をみたこともあり、この光がまぶしいこの空間が天界とよばれる領域であるのはわかっていた。
だが俺たち地球人からすると、天界=死後の世界というイメージもつよいのもまたしかり。
つまり《展開→てんかい→天界=死後の世界=死》という連想ゲームをしてしまったわけだ。
はっきり言おう。面白くもなんでもない!むしろ恐怖があおられただけだ!

高所恐怖症のハルと飛べない普通の一般人(ん?)の俺たち。
当然落下しますね。
俺たちは天使でもあくまでもないので、羽根なんざねぇよ!!
つまりこのまま落ちれば死ぬ。
ここにはセーブデータもなければ、回復薬もない。

死んで天に召されて天界です。な、展開はいやだー!!!

ギャーギャー雄たけびを上げて落ちつつ、重力にしたかっがて勢いがついて耳元の風をきる音がはんぱない。
次元を超えるためにつないでいたハルの手を思わずさらにつよくつかむ。
足元に見える地面が遠い。

っていうか、ちょっと足元はるか下の方に黒くて大きめのなにかあるけど。なにあれ?
黒い塊とかあまりいい印象はないけど、なんだかモフモフしていそう。
あれはもしかして黒い羊の群れか!?
なんて都合がいい!あの上におちればなんとかなるかも!?
まぁ、じっさいなんかもっさりしたのがわかるだけで、茂みかもしれないけど、っていうか、遠すぎてよくわからない。

それより重力に引っ張られる感じがきつい、下からの風がビュウビュウいっていて目を開けてられないほどだ。
どれだけの速度でてんだよこれ!うちの暴風と同レベルじゃねーの!!


ん?――― “ぼ う ふ う”?

あれ?
そういえば・・・


零「ちょいハルさんや」
春「な、なにかなしゅん!?地面はまだかな!?!!!お、おれ、もう・・・」
零「いや、そこで地面ついてたら俺達ぐしゃりだからな」
春「ぐしゃ・・・・こわいこわいこわいこわいこわい」(ふるふる)
零「まぁ、それはいいとして。目を開けて下をご覧ください」
春「め、めを?・・・ひっ!ひぃーーー!!いやぁぁーーーーー!!!!こわっ!!!こわいよぉ〜〜〜〜!!!高いぃ!!!!」

今にも魂が抜けそうな顔で気絶寸前のハルをたたき起こせば、なみだ目で怖さを紛らわせるかのように俺をぎゅぎゅしてくるハル。
だけどさ、うん。少しおちつこう。

たしかにハルは高所恐怖症だ。
だけどそもそもその前提条件をおもいだしてほしい。
ハルは“自分の能力が使えない状況”で高さがあることが怖いのだ。

そういえば、前世では、海と空の支配者がいたな。


水の海の怒れる雷神――“海の君”。
風の海をつかさどる風神――“風の君”。

その一撃で水は一気に蒸発し、とある聖書の十戒のごとく水をかちわってしまうほどの雷の術者。
それが“海の君”の正体、荒ぶる雷神だ。

そんな“海の君”のパートナーは、暴風の主としても有名であった。

風の海、すなわち空。
空を飛べるほどの空間能力者など、光属性よりもめずらしくて、とっても貴重な能力者だった。
風を友とし、もはや大気そのものに影響をもたらす力を持つとされ、“風の君”は我が物顔で悠々自適に空を自由に飛び回る。
巨大な山脈とて、彼にかかればひとっ飛びで飛び越えてしまうほど。

暴風の主の名をハル。


――なぁんてことを突然思いだしました。
・・・ああ、うん。そんなひとたちいましたね〜(チベスナ笑顔)


零「ハルって飛べるじゃん」

ハルの悲鳴がピタリととまる。

春「そういえばそうだね」
零「忘れてたんかい!」
春「あはは。ほら天使の記憶を見た後だから、つい自分はただの人間だって思い込んでたよ。ごめんね。・・・・そうとなれば・・・よっと♪」

呆れる俺を離すまいとハルに片手でさらに近くにとだきよせられ、反対の空いた手が指揮をとるようにふられる。
ハルの周りの空気が、優しい気が浸透していくように、あたたかなものへとかわる。
その風がハルの意思によって動く。
ふわりと優しい風につつまれ、落下速度が緩やかになるのを感じ、ホッとし肩から力抜ける。

春「この世界との空気の比重は把握したよ。これでもう大丈夫。この空はすべて俺の支配下における」

前世界に似て、この世界の空気は“力”にみちてるみたいだね。これで安心――と穏やかに笑うハルの言葉に、思わず頭を押さえた俺は悪くない。

そんなに異世界にすぐに順応しないで!
そもそも能力の使い方なんて、世界ごとに違うじゃないか!それをこの一瞬で把握とか普通にできるものなの!?すぐに使えるものなのか!?

今世で獄族だった時のように能力を使えるようになるには、力の出し方とか力の取込み方とか新しく学びなおさなきゃいけなかったし、 感覚を取り戻すのにすっげー苦労した記憶があるのに!

というか、うちの暴風なんて言った?
なんだか、かなりとんでもないこと言わなかった今?
え?空がすべて支配下とか・・・・・さすが風神の名を持つだけありますね!!
ついていけんわ。なんだその尋常じゃない分析力は!
さすがグラビの参謀!
というか、ハルだけは怒らしちゃぁだめだ。って、今物凄く思った。

零「つかぬことを聞きますが、その比重ってなに・・・(汗」
春「空気の性質の違いって意味のつもりで言ったんだけど。
あ、あとは能力の操り方、相違点について。って含みもこめたつもり♪
たとえば前世では、自分の魔力を餌に自然エネルギーをよびよせ、自然現象を操っていたでしょう。
逆に今世には、魔力はない。
今世みたいに、魔力もないにもないような世界では、自分の中にある“力”を自然エネルギーに変換するしかできない。
つまり能力にすごく制限がかかっていたのが今世。
だけどこの世界は、前世の世界に近いみたいで、空間中に“力”にあふれてる。
あ、そうだ!シュンもたぶん獄族の時と同じように、息を吸うように使えるんじゃないかな」
零「ああ、やっぱしそういう意味だよな!!!重力が重いとかそういう簡単な話じゃないよな!!!」

ハルには「なにを慌ててるの?」と不思議そうに首を傾げられたけど、全力でハルの参謀的頭脳におてあげだっ!!
うちのハルさん、なんか凄かった!!!

でも氷の力なんて使い道も特にないので、しばらくは試そうとか思わないかな。溶かしてくれるヨウもヨルもいないし。この天使がいる世界では必要ないかと・・・うん(遠い目)

春「さてと、じゃぁ、この縁の糸をたどってそのままこっちの〔シュン〕のもとに向かおうか」
零「あ!それなら!あれ!地面のもこもこ!個々からじゃぁ小さすぎて黒く見えるけど、たぶん茂みか、羊の群れだと思うんだ!あそこにおりようぜ。羊がいるってことはたぶん草もあんだろ」
春「あれは・・・ふふ♪いいねぇそれは。じゃぁ、いっくよー!しっかりつかまっててね!そぉーれ!!!!」
零「ひぃ!?急降下はやめろぉーーーーーーーーーーーーー!!!!」

ハルは「つかまってて」と言ったとたん、周囲を覆っていた風の威力を弱め――俺たちは急降下を始めたのだった。
さっきまでの落下とは違って死ぬという感覚はないが、それにしても紐なしバンジーをやっている気分だ。怖くないと言ったらウソだ。まぁ、しがみつけるもの(ハル)があるだけましなのだろうけど。
そうこうしているうちにグングン地上がちかづいてくる。
とはいえあまりに怖すぎて、急降下が始まった時点でさすがに俺もおもいっきり目を閉じている。


零「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああーーーーーーーーーー!!!!」
春「ふふ。はい、とうちゃ〜くっ!!」

『え』
『は?』

春「オマケで、えーい♪」

ドゴッ!!!!
ぐぅっ!!

零「悲鳴!?な、なんだよ!?こんどはなんだ!?」
春「シュ〜ン、もう大丈夫だよ。ちゃんと地面に…プププwww…うんうん。君が言う場所にちゃんとついたからねぇ〜ほ〜ら待望のふかふかだよ〜wwww」
零「いや、羊の上に着地しろとは言ってないからな!かわいそうだろ羊が!」
春「ん?ああ、それなら大丈夫だよ"羊"じゃぁなかったしね」

暴風定番の地面についた勢いの凄まじさをあらわしてるとおもわしき激しい振動とバカでかい音が響き、風を切る感覚も揺れもすべてが止まる。
なんだかハルがとても楽しそうなことがすごく気になるといえばきになるが。
なんだか何かを踏みつぶしたような悲鳴のようなものも聞こえたような気がして気が気でない。
まさか羊を踏んだのでは!?
いやいや、羊がなくならメェーだろ。
たしかに着地地点になにか落下の緩和剤になるものがあれびいいとは思ったけど、本当に生き物の上に着地とかはしちゃだめだろ!

つか、ハルはいったいなにを・・・


昔とかわらない仕草で子供をあやすように背を撫でられ、促されるままに目を開ければ―――


零「・・・・・・・・・おふぅ・・・」
春「ほ〜ら、ふかふか〜♪いい感触だよね」

俺をだっこしたままのハルが足をふみふみ。
否、正確にはゲシゲシと“それ”をおもいっきりふみつけている。
ふみふみ?もはやそんな生易しい単語ではこれはおさまらない。
能力使ってね?足蹴にしてるよね?踵落としじゃねぇの!?と叫びたいレベルで、その一撃一撃に悪意を感じざるをえなかった。

俺を抱えたハルに無残に踏みつぶされているのは、なんと“六枚羽の巨大な黒い翼をもった黒い人物”だった。

俺が羊の群れか茂みだと勘違いしていたのは、なんと魔族の〔ハジメ〕だった。
というか、その羽根だった。

ああ、あのひとたしか六枚も翼があったな。そりゃぁ、遠目でもあのデカさは十分確認できるよな。はばとるよなぁーあの翼は。

ハジメ違いではあるものの、相手が"ハジメという存在"である時点で、犬猿の仲でもあるハルからしたら、今の状況はさぞ楽しいことだろう。
そりゃぁ、喜んで踏むわな。

零「・・・俺の契約者の方のハジメさんにはもう少し容赦してやってくれよな。俺のハジメは普通の人間だからな!」
春「やだなぁシュンってば、なにをおかしなこと言ってるのかな? あのハジメが普通の人間なわけないじゃないwww 殴っても能力くししても・・・カイもハジメもいつも無傷だよ。アハハ、あの二人が"普通"なわけないじゃないwww」

言われてみるとそうかもしれないと思える不思議。

確かに。
俺もあまりにハジメがなにしても無傷すぎて気持ち悪っ!って、今世で何度か思ったことあるもんなー。

零「あ、じゃぁ今の訂正な。うちのハジメよりたぶん天使とか魔族の方が繊細ってことで。
その踏んづけてるハジメは魔族ってだけで、たぶん内臓とか皮膚とか一般人レベルだと思うからもうやめてやれハルさん」
春「うーん。本当はこんな甲斐性無しな奴、オレてきにはもう少し踏みつぶすべきだとおもうんだけどね」
零「それ以上ハルがふむと、地面に埋まるから却下!うちの“人間様”たちみたいな術チートじゃないんだからやめたれ」
春「じゃぁカマイタチをおこして羽根だけでももいどく?ほら、この羽根はだざわりいいしー布団に入れたらいい羽毛に。それとも重力であっし・・・」
零「ストップ!スットップ!!ハジメはハジメでも足元のこれはきっと違うから!だからもっと優しく!!・・・あとそろそろ降ろせ」

やだ、ハルがとてもいい笑顔で、くったりしてる黒い翼を持ち上げてる。
なんかマジにやりそうでこわいからやめてほしい。
冗談に見えないからハルこわい。

うちのハルさん、どんだけハジメのこと嫌いなんだろうね。
いや、グラビてきには仲良しな年長組なんだけど。
前世が絡むと本当に犬猿の仲って感じで。

・・・・・ところで、足元の〔ハジメ〕は大丈夫なのか?ピクリともしないけど。
俺はしらん。

黒衣の(しかも角がある)〔ハジメ〕をガスガスふみながらハルが、地面におろしてくれる。
ハルはふむのが楽しくなったのか、そのまま嬉しそうな笑顔でハジメの上に乗ったままだ。
あれはしばらくあのままだろう。長年のつきあいからそれを思って呆れてため息をついたところで。

『あ、あの』

なんだか今にも消えそうな弱弱しい声がかかった。
声の方を見ると、少し離れた位置に“俺”がいた。
そこにいたのはやっとというていで地面から上半身を起こした、白い布をまとわりつかせた静謐な衣装を着た、めちゃくちゃ髪の長い天使だ。
ひとめでこれが翼の持ち主だ。と、こちらの世界の“俺”だと気付く。
正確には俺に瓜二つな気もするが、似てないような気さえする。
力が入らないのか、地面を這うようにして動こうとするさまはとてもか弱く、纏う雰囲気さえ儚い雪のようだ。
今はその背に白い翼の姿は見えないが、まちがいなく彼が“天使のシュン”だろう。

〔シュン〕は戸惑うようにこちらをみてきていて、心配げにハルに足蹴にされている〔ハジメ〕をみている。
伸ばそうとした手はやはり力が入らないのか、届くことはなくて。

ふいに〔シュン〕の身体がふわりともちあがる。
〔ハジメ〕の巨大すぎる羽根で上空から隠れてしまっていたらしい魔族の〔ハル〕が、弱った〔シュン〕をかかえて近づいてきた。

あ、こっちのハルは、眼鏡がない。
かなり襟のひらいた洋服に、立派なねじれた角。リーダーズとは違った皮膜のはった翼。
ああ、こういうのゲームにいるいる。
あれだ。

零「魔王か!?」

そんなかんじの魔族だった。

うちのハルは自他ともに認める般若ではあるが、存在自体が魔王だ。だがこちらの〔ハル〕は外見からして魔王という感じだった。
ズバリ言うとこっちの〔ハル〕の怪しさと言ったらなかった。
色気然り、裏切りそうな雰囲気然り、なにか腹黒そうなところしかり。
なんか雰囲気が、雰囲気過ぎて、困ったように苦笑を浮かべられようとも、そこになにか裏がありそうな恐ろしい微笑みに見えてしまう。
しかも今はフルフルと震える天使の〔シュン〕を抱き上げているため、いかにもな悪魔が天使を食らおうとしているかのような―― いやぁ、ごめん。ぶっちゃけて言うと、もう悪役にしか見えません。
今、〔ハジメ〕さんを踏んでるハルも・・・・・・まぁ、見た目的にはホンワカしてる聖母っぽいんだけど、やってること完全悪だけど。 まぁ、あれは・・・みなかったことにしておこう。

ハル『俺は随分酷い言われようだねぇ』
カイ『ははwwwおもしろいこと言われてんなぁ。魔王、魔王ねぇwwwハルなんかいつもそこらで鳥と戯れてるか、花畑で昼寝してるようなほわっとしたやつだぞwww』
ハル『ちょっとカイやめて!なに俺の私生活ばらしてるの!』
カイ『ちなみに好奇心がくすぐられるようなことがないかぎり、基本的にはそのまま寝てることが多い』

零「花畑で、お昼寝・・・・・・」

なんだろう。あの色気大放出しまくったような妖艶にして、不敵な魔王的な容姿とは裏腹に、とてもかわいい私生活は。

えー。ウチのハルさん、鳥と戯れるって言ってもホケキョくんとだけだし。
前世では・・・鷹とか、マッハで飛ぶ物体Xという名の式や魔物とお空で競争したり、叩き潰したり。 指の一振りホホイノホイ♪で、極地的竜巻起こして都を滅ぼしたり。あ、途中から鳥の名残がなくなったわ。

・・・・・・・・。

ああ、うん。

零「世界が違うことを今実感した」


俺が遠い目をしつつ、ふみふみ中のハルをみていたら、こっちの羽根のある天使と魔族たちが俺と俺の世界のハルをみて顔を引きつらせた。
悪魔にひかれるほどって・・・。

ハルさん、そろそろおちついてください。


あの嬉しそうなハルをとめるにはどうしたらいいだろうか。
そう思っていたら、ハルのすぐそばの空間が波紋を描くように揺れ、そこから人間の頭一つ分は有りそうな大きめの青い金魚がヒレを優雅に揺らしながら飛び出てきた。
金魚は水の中のように宙を泳ぐと、ハルのそばをクルクルと回る。
そのしぐさに気づき、ハルがふみふみをやめた。

春「カイ?」

海《お!つながったな♪なんだかずいぶん式との繋がりがいいな。そっちの世界は前世と同じような“力”にあふれた世界と推察する》

さすが参謀ズのかたわれ。現場にいないのに状況が分かっているとか、恐ろしい慧眼の持ち主である。

金魚はフワリフワリと尾びれを揺らしつつ、カイの思念を伝えてくる。
どうやらあの金魚はカイの式神のようだ。

カイの気をまとっているためか、ようやくハルの暴走が落ち着き、ハルは微笑みをうかべてまとわりつく金魚をなでている。 その表情も雰囲気も優しく、可憐な花が咲くように本当に嬉しそうに微笑むものだから―――足元に六枚羽の悪魔を踏みつぶしてなければ、聖母のようにも見えた。
さすがは能力が高ければ美人度もあがるといわれた獄族の生まれ変わりだけあって、それはそれは綺麗な微笑みだった。
ぜひ式ではなく、ご本人にその笑顔をいつか見せてやるべきだ。

海《あ、そうそうそういえばハジ》


始「早く契約を破棄しろ!


零「ひっ!は、破棄!?」
春「っ!?」

海《あー・・・・なんだ、そのだな。ハジメが後を追いかけていた――って言おうとしたんだが、もうついたようだな》
春「そうみたい」

カイが何かを告げようとした途端、空から何かが降ってくる音が聞こえて――
さっとその場をよけたハルにかわって、魔族〔ハジメ〕の上にボスリとハジメが下りてきた。

ハジメは〔ハル〕とそれに抱えられてるあちらの俺こと〔シュン〕をみるなり、再び声をあげる。

始「お前らか!シュンにかけた契約を解け!」

零「とけ!?ぅ・・その言葉はやめろ!ぶつりてきにくる・・・うぅぅぅ・・」
春「ムネガハリサケルヨウダヨ(ガタガタガタガタ…)」

海《おちつけ。今はその言葉も耐えろふたりとも》
春「そ、そうだね。き、気合だよシュン!オレも頑張るから」
零「契約者の口から出たってだけでもう心臓に穴が開いてそう(遠い目)・・・死ぬ」

もちろん〔ハジメ〕をめちゃくちゃ踏みつぶしつつ、ハジメが声を荒げるが、この世で一番獄族にとってダメージとなる言葉を連呼されてはもうこちらのSAN値の方がやばい。
痛む胸をおさえてその場でうずくまれば、膝をついてたおれそうになっていたハルが俺をみて目をガッ!とみひらいた。
何事だと思っていれば、ハルはそのまま重力に押しつぶされそうな重い体を無理やりおこすと、ゆっくりと立ちあがり、ハジメをキッ!と睨みつける。
驚きに目を見張っていれば、ハルはそのまま戸惑いを見せる天使と魔族たちにむけ攻撃的なハジメへのもとへ向かった。

始「俺の契約者を開放してもらおうか!」

“契約”“解放”その言葉に若干顔をさらに青くたハルだったが、背後からハジメをはがいじめにすると・・・・

春「おや、いい位置に膝が」
始「だぁ!?」

それはおもいっきり、ひざかっくんをした。

始「っぁ!?なにするんだハル!」

それでも倒れ切らずにたたらをふんだあとは踏ん張っている。まぁ、ハルが腕を支えていたせいで倒れることができなかったというのもあるだろう。
ハルは威嚇するように背後に振り返って睨んでくるハジメに呆れたように息をつくと、拘束していた腕をパッと離す。

春「空気読みなよハジメ」
始「ハル!だが向こうの〔ハル〕が原因で、俺達の天使(とかいて全世界のシュンと読む)が辛い思いしてるんだぞ!」

いえ、俺は辛い思いは一切してません。

始「それに悪魔のような〔ハル〕に天使(とかいてシュンと読む)が襲われてるじゃないか!?だから天使を救うべく・・・」
春「向こうのオレはただ〔シュン〕を運んでるだけだよ!そもそもあのこの契約者は〔ハジメ〕だからね!?もう!」

ハジメさん、シュンという言葉と、天使という言葉がゲシュタルト崩壊してます。
なんだかその当事者であるシュンである自分からすると、ちょっと意味を解りたくないような気がした。

始「どちらにせよけいや・・」
春「いい加減にして! オレたち獄族だった者にとって、その言葉がどれだけダメージになるかわからないわけじゃないでしょ!おかげでオレのシュンがダメージをうけてるんだけど!オレもけっこうきたからね!もうやめてよ!
そもそも契約者の前で、なんて単語を連発するのかなハジメは!?これだから最低だっていわれるんだよ!だから甲斐性無しの変態の残念って言われるんだよ?!」
始「甲斐性無しは俺じゃない!!!」

なるほど。ダメージをうけてもなおハルが立ち上がったのは、俺のためか。
さすが我が親。

そしてハジメよ。変態は否定しないのか。


チラリと〔シュン〕たちはあんなハジメをみてどう思うだろうかと視線をやれば、別の世界の自分達は呆然とそのおかしなテンションのハジメをみつめている。


ハルとハジメがいつものコントを始めたところで、俺はちょっと二人から距離を置き、こちらの世界の俺らと思わしき天使と悪魔たちを観察させてもらうことにした。

まず目がいくのは服装だろうか。
天使や悪魔として存在しているためか、彼らの服装や装飾にだいぶ違いがある。
自分のこと、もとい“霜月シュン”の姿で、豪奢な衣服を合わせると正に神々しいとしか言いようない…俺にはない儚げな感じがとてもかわいいらしい天使だ。

そして何より目立つのは――

始「ん?そっちの〔シュン〕にはみあたらなかったが、むこうの〔ハル〕や〔カイ〕には羽根があるのか。
ああ、うん。見事な皮膜だな。うちのハルにはよく似合いそうだ。・・・むしろこちらのハルより悪そう。向こうの俺達はすごいな。お前より悪者っぽいぞ」
春「なにがすごいのかなぁ、ハぁ〜ジ〜メ?うん?(ニコニコ)」
始「お前だ暴風」
春「やだなぁハジメってば。オレが風なら、君は光だよ?その聖なる御仁がなんでこうも口が悪いんだか。 その減らず口、顎ごと握り潰されるのと。良く回る舌を風で切り裂かれるの――どっちがいい?それともお祓いしてもらう?ちゃんと魂まで浄化されてきなよ。そのまま帰ってこなくてもいいけど」

〔シュン〕が呆然とした顔を困ったように視線を漂わせていたり、 〔シュン〕を大切な宝物のようにやさしく抱き上げていた〔ハル〕が愕然とした顔で目に涙をためてプルプル震えていたとか、 〔カイ〕が大きな羽根をバサバサゆらして笑いをこらえていたとか。

なんだかこちらの〔ハル〕がとても可哀そうなことになっているので、そろそろやめてあげてほしい。


海《あっちの“ハル”泣きそうじゃね?》

ふいに顔のそばまでふよふよ泳いできた金魚に、こっそり話しかけられる。

零「もしかして“視界”までリンクできちゃってる?」
海《ああ、音声だけでなく映像もバッチリ》
零「ならとめてやれよ!!!!」
海《はは♪うっかり》

とても明るく爽やかな返答が返ってきたのだった。

海《それにしても本当に天使と悪魔なんだなそっちの世界の俺達は♪羽凄いなーwwww》
春「羽根ねぇ。この世界の住人には羽根があって。人間じゃなくて。長生きで。しかもここは天界で。足元には魔界があって。君たちが世界を創造して、管理してたとして。
オレたちにはたいしたことではないかな。いま、オレたちがここにいる。それだけが重要」
海《だなw》

今更だけど…………思うに、人間が天使や悪魔に喧嘩を売るってどうなんだろう?天界と呼べる場所に生身で乗り込むってどうなんだろう?
いや、本当に今更だけど。
俺だってP4世界でシャドウとかと戦っていた日々あったけどさ。いまもTV世界に生身ではいれちゃうけどさ。
前世術者と獄族だから怖いものなんざないかもしれないけど……あれ?これ大丈夫なのか?


始「そんなことはどうでもいい!俺のシュンに契約を絡ませたこっちの“俺”はどこにいる!!そいつをいますぐだせ!」


地団太をふんで苛立ちのままに声を張り上げているハジメの言葉に、その場にいた全員が言葉をなくす。
その全員の視線がハジメの足元を見つめている。
もちろんそのなかには俺も含めてだ。

始「なんだ?この世界に俺はいないのか?」

零「いや、いることにはいるが・・・」
海《だなぁ(笑)》
ハル『な、なんてあわれなんだ〔ハジメ〕・・・(なみだ目)』」
カイ『俺ら管理者だぜ。なのに全体的扱い悪いなぁー。別世界の俺らにしても、相手は人間だろ。その人間に凄い言われようなんだが』
春「言ったでしょう?“オレたち”に限っては、君たちの理屈なんて関係ないって」
海《まぁ、そもそも世界線じたいがちがうからなぁ。お前らに管理されて生きていた覚えはないしなぁ〜》

別の世界の俺達なのに、姿形にどうでもいいような反応である。
俺のがトリップや転生に平行世界だって経験しててこのテンションなのに、3人ともドライ過ぎる。
まぁ、たしかに前世獄族だし。その能力をこの世界ではふんだんに使えそうだし、なにより別世界だし。
とか。理由はあるのだろうが。それにしてもドライすぎる。

始「で?その“ハジメ”はどこにいるんだ?」

ハジメの言葉に、再び全員の目が彼の足元をみる。

春「ふふ。ハジメったら。まだ気づいてないんだね」
始「だから、そいつはどこだ?」
春「君が思いっきりさっきから踏んでいるそれ。そう、その黒い物体。君のお目当ての〔ハジメ〕だよ」

告げたのはハルだった。
それはそれは嬉しそうに口角を持ち上げ告げるさまは、まさに悪魔のささやきのように甘く響く。

足元にいた〔ハジメ〕を認識したハジメは、大きく足をあげ、一度だけ彼を蹴り上げた。
うめく〔ハジメ〕の背から降りると、しゃがみこんでひっくりかえす。
バサバサバサリと仰向けにされたことで六枚の羽根が大きな音を立ててる。
ようやくみえた顔は、〔シュン〕の記憶にあったものとまったく変わりがない。その顔をみたとたんに、背中が酷くうずいた。

海《ちょ!?おい、シュン!大丈夫か!背の羽根が実体化しかかってるぞ!》

ふわりふわり。ペシペシと青い金魚のヒレが顔を撫でる。

ですよねー。
あーなんかそんな気がしたわ。一気に違和感のあるけれどハジメと同じ力が体に流れ込んできたような気がしたから、そうだろうなぁとおもったけど。

始「おい!おまえ!いますぐ・・・・ぐ!?」

そうこうしている間にハジメが〔ハジメ〕の襟をわしづかみ首を絞める勢いで、詰問をはじめた。
しかしその言葉はすべてを言い切る前に、ハルによって背後へひっぱられたことで飲み込んでしまう。

始「おい!ハル離せ!」
春「キャンキャンうるさいよハジメ。ハジメが騒ぐと話がすすまないからね。ここはおとなしく年配者にゆづりなさい」

それに言い返そうとしたが口が開くより先に、ヒョイという軽い感じでハルが動く。
軽く彼が腕を振っただけで、首根っこをつかまれていたハジメが勢いよく吹っ飛ぶ。

零「え!?こっち!?」

むずむずする背中をこらえつつその様子を見ていれば、ハルに投げ飛ばされたハジメが勢いよくこちらにむかってくる。
あんな剛速球で、しかもでかい物体をキャッチするのは無理だ!
ハジメのことだから身体強化の術とかかけていそう!そしたらあれはもう人間では有り得ない強度を持つ凶器でしかない!このまま受け止めたら自分の骨が砕けてしまう!
もうダメぶつかる!と思わず固まっていたが、俺にぶつかるまえに風がふわりと(剛速球でこっちにとんできていた)ハジメをつつみこみ、 そのまま俺のすぐ横にふわりと降ろす。 ただしその周囲にはいまだ風がまとわりついていて、ハジメは身動きできないように空気が調整されている。
こんな芸当できるのはハルしかいない。

みればハルは笑っていた。

春「ふふ。若造は引っ込んでてくれるかな?痛い思いしたくないでしょ?シュンの傍にでもいてね」
始「シュンの傍にいろとは、ハルが優しい!ついに姑からの許可が!やったぞシュン!!!」
海《じゃぁハルのかわりに俺が間にwww》

風の牢獄?みたいに渦巻く風に宙で固定されたっまのハジメがこちらをキラキラした目で見てくるが、それを阻むようにカイの式である青い金魚が楽し気な感じで割って入ってくる。
ちょっとハジメさん、なんで今日はいつにもまして残念なんだお前は。
思わず冷めた目で、横でじたばたしている相方を見てしまう。

春「ハージーメー、誰も許可してないよ。もうそのまま空中に張り付けにでもしておけばいいかな?
はぁ〜本当にこの子はもう。
いつも思うけど、どうしたらそんなポジティブに受け取るわけ?
違うよ、すっごい邪魔なの。だからすこーし大人しくしてようね、ねぇ、ハジメ」

春「さぁて。うちの若いのがごめんねぇ」
海《しょうがないしょうがない♪ハジメは俺らのなかで一番若いからなぁ。合わせて40年ぐらいしか生きてないしな。 活気盛んな年ごろなのよwwwまぁ、ゆるしてやってくれ》

ハル『え』
カイ『人間の年で40?は?その外見でか?!』

海《ん。そうだな。なんというか、俺たちには年齢と外見って比例しないんだわ》

ハル『というか・・・ねぇ、そこのハジメはどうして浮いてるの?そっちの“俺”彼になにかしてるの!? そっちの俺たちってなんなの!?ねぇ、きみたち本当に人間!?』

零「残念ながら正真正銘の人間だなぁ」

前世は違うけど。なんて言えなかった。
だって前世は前世で、今は確かに人間なのだ。なのに前世の能力が使えちゃうから人間をちょっと超越し始めてるだけで、それでもただの 人間なんだよ!と激しくうったえたい。

始「俺はいつもどこでも人間だ」
海《同じくー。とはいえ、中身そろそろ3000突破するか俺は。いや、4000くらいはいってるか?・・・あーハルはもっと上だなぁ》
零「俺、ハルに拾ってもらってからって数えると・・・そろそろ1500くらいかな?」
海《1300とちょっとだな》

カイ『人間は4ケタも生きません!』

向こうの羽根っこたちはとてもキレのいつっこみをしてくる。
ひそかに〔ハル〕の腕の中で〔シュン〕が口を押えて笑うのをこらえていたとか。
うん。なにも見ていないぞ俺は。

春「ところで、オレの子に手を出したのは誰かなぁ?ああ、やっぱり君か。“そっちのハジメ”ね。
っで?(にっこり)
うちのこになにしてくれてんのかな?ん?(*´▽`*)」

よやく意識を取り戻したらしく頭をふっている〔ハジメ〕をハルはターゲットと見定めると、彼をすぐ背後にあった樹のみきに勢いよく手をつく。 壁ドンならぬ樹ドンであるが、そのまま笑顔で〔ハジメ〕を追い込むハルは、目の前の悪魔たちよりはるかに悪魔らしくそして魔王のように見えた。



しばらくして尋問から解放された〔ハジメ〕が、憔悴しきったように青い顔をして戻ってくる。
その羽根は王の威厳はなく、なんだかいっきにやつれたように艶を失い、疲れきったようにくったりとしている。

ハジ『おい、あいつはなんなんだ?どす黒いオーラ振りまいてるが、あれは本当に人間か!?(汗)』
カイ『っていうか!むこうのハジメの立場弱くね!?人間が生身でこの狭間に来ることそのものにも驚きでしかないけど!』
ハル『(プルプル震えて涙目で)お、俺、あんなに怖いかな?』
ハジ『安心しろハル。お前は魔王的な外見だが、おそろしさはあっちの春の方が数万倍あるな』

向こうの俺達が、ドン引きしてる。
ドンビキ、シテイル。
何度も言う。
ド・ン・ビ・キ・シ・テ・イ・ル!!

天使と悪魔にどんびきされている!!!

海《はははwwwいやーうちのハルは、子離れできてないからなぁ。 うちの子になにかあると止められないんだわ。こわいぞー》
春「もう。カイだってそうなのにオレばっかりひどいなぁ」
海《まぁな♪なにせ自分の手で赤ん坊の段階からあそこまで育てるとなぁ。こうしんみりくるというか。ああ、あそこまで成長したのかぁって。 感慨深くてだなぁ〜。うん、なつかしい。シュンはもう破天荒にいい子に育ってくれて》
春「それをあっさり十数年しか生きてないこどもにもってかれるとか・・・・オレの気持ちわかるよね?(ニッコリ)」
始「ハッ!しらんな(鼻で笑い)」

海《っと、いう感じで。うちのハルはシュンがからむと非常にめんどくさい。 悪魔だか魔族だか知らないが。ハルが暴走する前にさっさとうちのシュンを解放してくれ》

春「そんでもってハジメはシュンがからむと頭のねじがかなり吹っ飛ぶね」
零「ああ、たしかに(遠い目)」
海《それはちょい訳ありだからしょうがないだろ(苦笑) ハジメはシュンがからむと情緒不安定になった挙句テンションがおかしくなる。現状がまさにそれだ》

まぁ、前世色々あったもんな。
とはいえ、それをこの世界の羽根っ子たちが知っているわけもないし、前世の話などするつもりもないから、この話はここまでなのだけど。
むしろ何も知らない羽根のはえたこちらの世界の俺達は、ひたすら呆然としたままだ。
ごめんなー。そんな顔をされてもこれ以上の説明はなしだ。

ので、俺の世界の彼らのいがみ合いやら、人間業じゃないいろいろとか。 天使と悪魔っ子らがひいているとか、おびえてるとか・・・そういうことはさておき。
そんなわけでまぁ、それはさておき。


零「で、俺の契約ってあっちのハジメに繋がってんのか?」


本題に戻る。

どうしたら本来の〔シュン〕にこの巨大な力を戻すことができるのか。
そう問えば、ハルが〔ハジメ〕に視線を向ける。
それにわかっているとばかり頷いた〔ハジメ〕がそばによってきて、俺の背中を触診していく。
横で不安そうにひとみを揺らしてカイの金魚をぎゅうっと抱きしめてるハルと、ギリギリギリと歯ぎしりの音を立ててなんと見えない渋い顔をしているハジメはこの際無視である。


診察?の間はちょっと手持無沙汰だったので、改めて向こうの〔ハジメ〕を観察してみる。
〔シュン〕の記憶では視たが、ここまで傍でその顔を見たのはいまがはじめてではないだろうか。
ハジメの属性である光と真逆の闇の属性の彼。
慣れ親しんだ陰の気にも似てて、獄族を目の前にしてるように感じる。
魔族だと一目で分かる黒い翼の六枚羽根。
その格好が前世の時のハジメとは違いすぎ、腰は素肌見えてるし、身体のラインがピッチリしてすごいし・・・服?あれは服なのか? それとも生まれながらの装備品なのか?なんにせよヤバイの一言に尽きる。はっきりいって若干目のやり場が困るのは、いやはや……。

魔族の〔ハジメ〕の触診結果は早かった。

ハジ『対羽の影響だな。〔シュン〕、いま大丈夫ならこいつの背を見てくれるか?』
シュ『みなくてもわかるから。大丈夫だよ〔ハジメ〕。
まさか僕達の対になる誓いが、平行世界に余波が行くなんてね・・・ごめんね“僕”』

のばされた、へたをするといまにも消えてしまいそうなほど細くよわよわしげなその手をとり、首を振る。

大丈夫。
だって俺は“僕”が頑張ってきたのを知っている。
すでに〔シュン〕の記憶を覗いたから。
彼がどれだけの想いで、どれだけの長い時間を“待ち続け”命を燃やし続けていたか知っているから。
ようやく〔ハジメ〕の了解を得た。そうして「共に生きよう」と伸ばされたその手がどれほど嬉しかったのか、しっているから。

彼に早く羽根をかえしてあげたかった。

この羽根は《葉》。
彼らの命そのもの。


俺にあつかえない力なんかいらない。
俺がこれをもっているせいで誰かが命を落とすような、世界がこわれてしまうような、そんな大きなものなどいらない。
もしこの力のおかげで不老不死やら永遠を約束されたとしても。

悠久なる長い時をひとりっきりで生きるなんてお断りだ!!

それに約束したんだ。
もう、おいていかないって。
人間の範囲内でいい。できる限りをやろうって。
一緒にめいいっぱい生きようって。

そうさ!
俺はよくある人間の三大欲求の地位、名声、永遠。そんなものなんか望んでないんでね!!

俺が望むのはただ一つ!!

あの寮に帰って、みんなで、仲間で笑いあうのだ。
一緒に笑って、光のしたを歩いて。歌って。
そんな日常こそが俺の望み。
そこにだれかの犠牲なんて言葉はふつりあいだろ。


零「羽の還し方をおしえてくれ!」


願うは――あるべき姿への“帰還”。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 




ハジ『“対羽”については、わかるか?』

聞かれた言葉にうなずく。
不思議そうなカイには、ハルが金魚をだきしめながら〔シュン〕の記憶からしった情報を教えている。



少しでも〔シュン〕のそばにいてくれ、それがいまは彼の延命につながる。と、こわれ、今俺の右隣には天使の〔シュン〕が腰かけている。
その左手をにぎれば、肩に頭を載せるように〔シュン〕がもたれかかってくる。
触れてる部分から微弱ながら俺の中で渦巻く熱が、少しだけ。ほんとうに少しだけれど、あちらに流れ込むのがわかり、それだけでほっと肩の荷が下りる。

それにしても自分と同じ顔がすぐ近くにあって、自分では無理だろうというような儚い雰囲気で柔らかく微笑んでくるとか。 もしかして俺ってば、いまけっこう珍しい体験をしているのではないだろうか。

あ、自分の顔がこういう表情もできるっていうのを客観的に知れたって意味の珍しさな。勘違いすんなよ。


〔ハジメ〕がまず語りだしたのは、俺の中に〔シュン〕の力が移ってしまった原因について。

ハジ『俺達には“対羽”というのがある。
これは見た瞬間にわかる。理由も理屈もない。ただ相手が“そうだ”とわかるんだ。
儀式も何もないし、どうすれば対羽として認められるのかは個々によりけりだが、対羽になることにより、更に力を得て存在を強固になるのは誰もが同じだ。
対羽になるかどうかで脆さは格段に違うからな』

ハル『もうハジメったら、わかりづらいよ。
簡単に言うと、半分だった魂が二人そろうことでようやく一つになり、能力が倍増し、さらに寿命も倍になるってことだね』

ハジ『これは魔族、天族どちらも共有の常識だ。対羽になるのに種族は関係ない」
カイ『とはいうが、この世界では羽の色はかなり重要視されててなぁ。
同族以外と対羽になると、羽根に相手の色が混ざるんだわ。〔ハジメ〕が心配していたのはそこだ。
〔ハジメ〕は魔族、〔シュン〕は天族。つまり対羽として認めてしまうと、羽根に白やら黒が混ざり込む。
黒の混ざった羽根を、それも六枚羽の天族がもつなんて。上層部が許さなかった――ってのがまぁ面倒なことに政事情というやつだな」

ハジ『俺と〔シュン〕がその対羽になろうとした時に、〔シュン〕が倒れた。
力がすべて別の場所へ流れていたんだ。
俺たちにとって羽根は力の象徴であり、葉である。葉は魂そのもの。力はすなわち命だ。
その命の流出がこのまま止まらなければ、〔シュン〕は死んでしまう。 あわてて〔ハル〕をつれてこの生命の樹まで飛んできた。俺達を生み出した生命の樹ならば、この現象をどうにかできるかと思ったからな』
ハル『その後、すぐに君達が現れた。もっとも人間である君たちは、〔シュン〕の力にひきずられて、連れてこられてしまったかたちのようだけど』

零「・・・カイ、ちょいヘルプ」
海《うーん。すげぇわかりやすく要約すると・・・。
〔悪魔ハジメ〕のせいで、〔天使シュン〕の力が、世界を超えて吹っ飛んで、隼のなかにイン。
その力がないと、〔天使シュン〕の命がやばい。
人間より天使の方が魂的ななにか、格ってやつだな。それが上だから、核の低いお前は、その力を体の中にためておけない!ピンチ!
で力は、磁石みたいに元の世界にもどろうとして、その“力”を内包している隼ごとこの世界にひきずられた。・・・・うーん、部分的に怪しいが。だいたいこんな感じか?》
零「なるほどな。……まぁ天使と人間じゃぁ、そうもなるか」
ハル『正直、君達が人間の括りでいいか分からなくなるけどね(顔ひきつり)』
零「人間、なんだけどなぁ。今は」
海《まぁその話は今は置いておけ》

始「そちらの力がこちらの世界にながれてきたのはなぜだ?
――その話だと、おかしくないか? 対羽の相手は生まれながらに決まっているのだろう。なら、なぜ二人が“対羽”になることができなかった?」

ハル『そこが俺たちにもさっぱりなんだよね。
こちらの〔シュン〕は知識を司るけれど、あくまで“この世界の知識”に限ってる。
俺も知識を集めるのが生き甲斐だから、そこそこ知識量はあるけど。
平行世界にまで影響するこんな大事件、前例がなかったからね。対処の仕様がなかったんだ。
だから君たちからきてくれたのは、実は願ったりだったわけ。
ありがとう、ここまできてくれて。 おかげで俺たちは大事な親友を失わないですむ。本当にありがとうね』

海《“ここのハル”はかわいいなー。なんかほわっとしてる。むしろ「ありがとう」の言葉にトゲがない!!!》
春「・・・・・・(^−^)」

海《ハル?》
春「ありがとう、カイ。オレたちのために次元を超えてくれてついてきてくれて!オレ!オレすごく嬉しい!!!」
零始「「!?」」
海《ハルがでれた!!》

春「・・・・とでも言えば満足かな?うん?オレにああいう顔させたないなら、カイはセクハラとちょっかいやめてよね」
海《おー!いつものハルだ!そういう強気なハルこそ俺のハルだなwwwツンデレ具合がいいんだよなーうちのハルは( *´艸`)》
春「・・・そういうのをやめろって言ってんの(冷たいまなざし)」
零「ここでのろけとかやめろよ参謀ズ(ゲンナリ)」
春「のろけてない!」
海《いやーそうみえるか?やったなハル!》
春「の・ろ・け・て・な・い!!――帰ったらおぼえてなよカイ」
海《ははww今日は式でよかったなぁ俺www》

いや、これはさ。もとの世界に戻ったら本当にカイたたかれるよな。うん。
とはいえ、海を割る男カイだ。たぶんなにをされてもピンピンしていそうな気はするが。



シュ『原因は僕なんだ』

ふいに横にいたもうひとりの俺から小さなささやきのような声がこぼれ、握っていた手に力が籠められる。


その言葉にその場の全員が彼を見る。
〔シュン〕は辛いことを飲み込むような、そんな険しい顔をしてうつむいている。

ひとまず落ち着かそうと、「大丈夫だから」と小刻みに震える手を握り返す。
横に視線向ければ不安げに揺れていた自分と同じ色の瞳が目に入る。 その目に答えるように頷いてやれば、彼は戸惑いつつも、小さくこくりと首を縦に振る。
自分と同じとは思えないその彼の白い頭を抱えて「なんでも聞く。だれもお前を否定しない。だから吐いちまえ」と、声をかける。
ポンポンと子供をあやすように背を撫でててやれば、おそるおそるとばかりに〔シュン〕が口をひらく。

シュ『みんなに迷惑をかけて、ごめん。すべては、僕のせい、なんだ』

ハジ『どういうことだ?』
シュ『僕から・・・僕から・・・〔ハジメ〕に対羽になろうって誘っておきながら。 僕はずっと感じていた不安を、最期の最期までぬぐうことができなかった』

話しているうちにしだいに不安がまたおしよせてきたのだろう。ゆれていた視線がまた下に向けられてしまう。
そのままきつく目を閉じた〔シュン〕は、俺の服に顔をうずめるようにしてしがみついてくる。

シュ『さっきこっちの〔カイ〕が言ったとおりなんだ。だんだんと僕も羽に色を混ぜるのはダメなのかもしれない。 六枚羽だから許されないのかもしれない。そう思うようになってきていたんだ。
周囲のささやきがこわかった!!梢の音がうるさいんだ・・・耳をふさいでもどこからか聞こえてくる。
こんな対羽では認められない・・って!っ!!!
もっと怖かったのは、世界の寵愛を受けた〔ハジメ〕には、僕は・・・僕は!!ただのお荷物だ! 邪魔にしかならない対羽なんかいらないと思ってるのかもしれない!!僕はいらないのかもしれない! 僕は必要ない――そう思ったら、もう前に進めなかくなってた!!否定されるのが怖くて!セフィロトの樹をゆらして時空を揺らしてしまったのは僕だ!!! こわ、かった・・んだ。
対羽がいらない・・・そんなことは、有得るはずがないのに。 でも対羽を必要としなくても僕の寿命分を平然と一人で生きる君を見てたら!ああ、やっぱり僕はいらない対羽なんじゃないかって。 そう考えてしまう自分が怖かった。自分の考えが怖くて。でも誰にも言えなくて・・・・・・』

ハジ『・・・』
ハル『シュン・・・』

シュ『・・・時間がたつにつれ、不安はどんどん大きくなってしまって。
気付いた時にはもうだめだった。僕自身でさえ、もうとめられなかった』

涙はこぼれていない。
けれど誰の顔も見れないと、俺の胸に顔をおしつける〔シュン〕は、信じきれない自分への悔しさか、それとも不安からくる恐怖へか、カタカタと小さな音を立てていた。
きつくきつくにぎられたその手にそっと手をのせて、固く握りしめられた〔シュン〕の手を開く。その手をこれ以上傷つかないようにそっと包み込む。
俺には〔ハジメ〕の傷を治した〔シュン〕のような治癒の力はないが、少しでもこわばった心がほぐれるように。 願いを込めて〔シュン〕の手をにぎり、その背をもう一度さすってやる。
気休めにしかならないし、それさえなるかもわからないが、もう一人の俺の不安が少しでも和らぐのを願う。

しばらくそのまま背をさすっていたが、〔シュン〕は一度大きく深呼吸したかと思えば、意を決したように顔をあげて俺をみる。
その表情には決意があるが、苦渋に満ちたようなそれは、胸元で握られた手がかすかにふるえていることで、まだ不安をすべて拭い去ってはいないのだとわかる。
それでも“続き”を、ことの真相を語ろうと、目には強い意思が込められている。

シュ『ありがとう“僕”。もう大丈夫だから・・・』
零「辛かったら言えよ!俺はどやらお前でもあるらしいしな(ニパッ)」

シュ『うん。君がいてくれて・・・よかった』

こんな繊細な表情は俺にはできねぇな。なぁんて笑ってしまう。

これは別世界の自分の話だ。
そこに俺は深く介入することはできない。できることは背中をさすってやるか、背中を押してやって一歩を踏み出させてやることだけ。
あとは彼ら自身で乗り越えるしかない。

相手は自分。だからこそ、俺は目の前の〔シュン〕に笑ってほしい。元気になってもらいたいと思ってしまう。
こいつのためなら、いくらだって力になってやりたい。
そう思ってしまうのは、やはり彼がもうひとりの自分だからかもしれない。
贔屓のなにがわるい?

〔シュン〕は俺が笑ったのを見て、ほっとしたように少しだけ力を抜くいた。

彼はもう一度だけ深く深呼吸を繰り返すと、今度こそなにかをふっきたように――まっすぐに仲間たちを見やった。

シュ『・・・・対羽になろう。そう言われた瞬間、僕が思ったのは、対羽になった後に“ハジメの期待を裏切ってしまったら”という恐怖だった。 ハジメが望むような力を彼にあげれなかったら?寿命を延ばすこともできなかったら?対羽になってもなにもかわらなかったら?
あのとき――僕の不安に思う気持ちが、せっかくのばされたハジメの手を拒絶してしまったんだ。
そのせいで交じり合うべきはずの力は、弾けてしまった。
セフィロトの愛し子であるハジメの力は、たとえ六翼の力を持っている僕にさえ大きすぎた。 方向性を失った力は僕では抑えきることはできず、僕の力もひきずられて外に出てしまった。その結果が今につながる。
別世界の君の中に僕の力が全部流れ込んでしまったのは・・・・・たぶん魂の在り方が、対羽に似ていたから。 君たちの言う契約と酷似していたせいだと思う』

シュ『ごめんね――“僕”』

ようやく、言えた。
そう笑う〔シュン〕は、スッキリしたというよりもむしろ申し訳なさが強いのか、迷子の子犬のようだった。

零「謝らないでくれって」

同じ顔だけど、違う。なんだかすべてを諦めきってしまったような笑顔に、おもわずその頭を撫でる。
この現象の理由も、そのプロセスもこれですべて解明した。
これなら俺も。そして〔シュン〕も先へすすめるだろう。
俺から〔シュン〕に《葉》をもどせばいい。
そうすれば―――


ゴキリ。
ゴキリ。

春「なるほどなるほど(ニコリ)つまり、かわいいかわいい〔シュン〕を不安にさせるまで待たせた〔ハジメ〕が悪いってことだよね」

変な音がするなぁーと思っていれば、ハルがそれはそれはいい笑顔で、拳を鳴らしていた。


〔シュン〕がビク!と殺気に怯えて、俺にしがみついてくる。
カイの式たる青い金魚があふれ出した殺気をよけるようにピチャンと水音をたてて、空中を泳いで逃げる。
鳥や虫やそばらにいたであろう生物たちが脱兎のごとく飛び立っていくのが騒がしい。
さすがのセフィロト!と思っていたが、生命の樹の葉までかすかに揺れている。
こっちの魔族の〔ハル〕がとっても怯えた様子で、横の天使〔カイ〕にだきついている。 〔カイ〕は緊張した顔で、ハルの殺気から〔ハル〕をかばうように彼を背後にやっている。
風に相変わらずとらわれたままの俺の世界のハジメが、「俺の分までたのむぞー!」となにかエールをハルに送っている。

そんなハルの殺気が、きまずけな〔ハジメ〕ただ一人にむけられる。

ハジ『わるかった、と・・・思ってる』

春「なにをいまさら」
零「それなー」

海《〔ハジメ〕さんよぉ、時間の速さなんて、ひとそれぞれ個人差がある。 お前さんはどうやら“特別”な存在だから、寿命なんてもはやないのかもしれないが。 〔シュン〕にとってのこの1000年は、そりゃぁとんでもなく長い時間に感じたはずだぞ。
そもそも“絶対”な対の存在だとわかってながら、それをお前寿命間近まで拒否ったあげく待たせるとか・・・そりゃぁ誰でも不安になるってもんだぞ》

零「ハッ!?そうだった!寿命が近いんだ!!」
春「そうだね。そうきくと、あらためてこっちのハジメってダメダメだよね。うちのハジメはダメはダメだけど、残念な意味でダメなわけで。君みたいにひどくはないよ。 あれとは別。 ほんと、君、最低。この甲斐性無し!」
ハジ『か、かいしょうなし!?』
春「そうでしょう。だって君は“特別”な存在だ。それを周りの子もみんな同じだと思ってるところからしてアウト!
オレがそんなことされたら、君のその角を引っこ抜いたあげく羽根をつぶすね。重力で身動きできないようにした後に風でみじん切りにして海に捨てるよ!! シュンのやさしさに感謝するんだね。
ねぇ、誠意が足りないよ甲斐性無しさん。 みんな君とは存在の在り方が違うんだから、もっと周囲に気を使ってよね。
いい?これからはちゃんと〔シュン〕の気持ちも考えてあげること! いますぐ〔シュン〕をなぐさめること!! これ以上、というか二度と〔シュン〕を泣かさないこと!返事は!?」
ハジ『と、当然だ!!』

海《甲斐性なしねぇ〜。ようやくうちのシュンが、ハジメのことをなんでそう罵ったのかがわかったわ。
天使のシュンの話を聞いた後だと、否定できない。
ほら、契約も対羽もさ。その後の人生をまるっと背負って、魂をかけてまで行うものだろ。
それが怖いってのはわかるがなぁ〜。あ〜・・・うん。だめだろお前のそれは」

始「そもそも対羽っていうのは、一目見たらわかるんだろう?」
ハジ『ああ』

始「俺達の契約のように、おたがいの了承で自由意思のもとに行うのではなく、魂が半分を求めてるというはなしだったな。
それは生まれながらに対羽の相手は決まっているも同然だろう。
それを地位がどうだ種族がどうだと怯えて、対羽にならかったというのは、ただの逃げだ」
ハジ『・・・・』

始「俺たちとて、契約をするのにはデメリットはあった。それを踏まえての契約だ」
海《契約したら、人間の寿命をあっさり超える。人の輪から外れる。そうなるデメリットをわかっていて、それでも俺たちは契約した――それほどまでに“相手をほしい”と思ったからできたことだ》

ハジ『・・・・うらやましいな。俺には、その勇気がなかった』

始「“相手を想い、相手を望む”勇気か?」
ハジ『そうだ。相手の未来を変える。それが怖かった。一歩がどうしても踏み出せなかった・・・・俺がもたもたしていたことがいけないのもわかっている。弱かったのは俺だ』


海《俺達の契約ってのはさ――》


海《契約すると本当に魂の根幹から全て作り変えられるんだ。
契約をした人間には、とてつもなく長い寿命と不老を。そして力も与えられる》
始「しかも契約を結べれば、俺の国ではその人間は英雄視されたな。
欲や権力に目がくらんだやつからすると、富・名声・不老・長寿・力なんてものがいっぺんに手に入る〈契約〉は、それはそれは喉から手が出るほど欲しがられたものだ」

始「当然、俺は、そんなものを望んでお前と契約をしたわけじゃないぞ」
零「んなことはわかってる」

海《たしかに契約したら、人間の望む“それら”すべてが得れる。 けどな、実際“それら”には、人間にとってはデメリットでしかないんだ》

悠久の時間を生きるのは、ただの人間には気が狂いそうなこと。そう、カイは語る。

海《俺達の世界における〈契約〉とは、人間と不老長寿の種族とのあいだでだけかわせるものだ。
そう、俺やハジメはただ人だ。だけどハルとシュンはその長寿の種族。
俺達は種族が違ったから、時間の感覚が違うんだ。
ハルやシュンたちは、時間の感覚がひどくゆったりしていて、人間で長いと思ったそれも彼らにはあっというまのことだったりする。
けれど俺たち人間には、悠久の時間を生きるのは気が狂いそうなほどに長い。 どれくらいかとかじゃない。とにかく長いんだ。
なのに何年何百年生きようと、感覚がマヒするなんてことはなく、契約をすると俺たちはちっぽけな人間の感覚のまま悠久を生きるはめになる。これはけっこうきついぜ》
春「カイ・・・・」
海《だけどな・・・それでもハルがいたから、俺は4ケタっていう年月を乗り越えられた》


海《――そんな種族の違い、感覚の違い。時間の流れさえ、“そう”。すべてをひっくるめて、一緒に越えてく。
“魂の契約”ってそういうもんだろ》


始「なにかを得たいとき、ひとはなにかの犠牲から、新しい何かをしるんだ」
零「等価交換だな」

海《そっちの〔ハジメ〕に足らなかったのは、そういう“覚悟”だな》

海《何かをするために、そのための対価を支払う覚悟。
背負う覚悟。
すべてを受け止める覚悟。
相手を思いやるなら、お前は一歩引かずに、その身でもって周囲のヤジからもあいつを守ってやるべきだった――そう、“まもる”覚悟》


海《共にあるということの意味をもっと考えるべきだったんだよ〔ハジメ〕はさ》

ハジ『耳が痛いな』

春「〔シュン〕はもっと痛かったと思うよ」
ハジ『そうだな』

それはきっと、羽根が散り散りになるほどの苦痛。
対になることを断られるたびに、〔シュン〕の心もまた悲鳴を上げていたに違いない。
だって俺がみた〔シュン〕の本当の心は、まだまだ小さな子供の姿をしていたのだから・・・。


シュ『・・・・・・もう、いいよ。もう、大丈夫だから』

零「大丈夫なはずねぇだろ!羽根がもどったら絶対に“対”になって、こっちの俺を大切にしろよ甲斐性無し!!絶対だからな!!!」

思わず確証がほしいとさえ思ってしまう。
こっちの世界の俺が、すべてをあきらめて、またかげで涙を流すことがないように。
こっちの世界の〔ハジメ〕が、また臆病風を吹かして約束を放棄することがないように。

記憶を見てきたからこそ、思うのだ。

この二人が互いのことを想いすぎて、またすれ違うことがないように。
もしまたすれ違ってしまったら。そのときはもう二度と線が交わることはない気がしたから。



春「さてと。俺も殴るのもあきたからねぇ。
というか、こっちの世界の〔ハジメ〕は、人間というより人形に近いかな。長く神聖視されすぎて、そばにひとらしいひとがいなかったんだろうね。だから感情に疎い。 そこはしかたない。だから〔シュン〕の気持ちも理解できなかったのもわかる。俺にも相方の気持ちがわからないって、そういう頃あったからねぇ。
つまり君はとても繊細かつもろそうだと判断したわけだけど。あ、物理的にってことね。
だから、言葉だけの攻撃で勘弁してあげるよ甲斐性無しさん。さぁ、唐変木、羽根お化け、まっくろくろすけ、布団、羽毛、墨、抜け毛、おたんこなす、うすっぺら、もやし、あ、黒いからカビの生えたもやし?うーんどれで呼ばれたい?」
ハジ『・・・・・・勘弁してくれ』
春「うーん。まだまだ言い足りないけど、そうだね。これで少しはっていうか、本当に少しだけど。“心が痛い”っていう感覚は少しでも分かったでしょう」
ハジ『十分すぎるほどに』


春「それで?」
ハジ『?』

春「それで君たちの“葉”とやらはどうやったらもとの器に戻せるのかな?」

カイ『・・・ソッチで言う〈契約〉。その仕組みがコチラで言う〈対羽〉と共通項が多いのも要因か。なら』
始「早く言え。当然、このとばっちりをどうにかしてくれるんだよな?」
カイ『まったく。人の話をさえぎるなよ。そっちのハジメはせっかちだな(苦笑)』

春「で?(*^-^*)」


『『『『・・・・・』』』』



ハジ『す、凄むな。本人がいれば、問題はない』
カイ『あー・・・その、だな。こちらの〈対羽〉とそちらの〈契約〉の糸どうしが絡んでるなら、どちらかの糸をほどけばいいだけの話・・だな』

春「じゃぁ、ちゃっちゃと解かなきゃね♪」

シュ『でも、僕の力はいまは全部そちらの僕のなかにあるから・・・・その・・』
海《ん?》
カイ『すまないが、そちらの糸“から”とくしかない』
始「つまり?」


カイ『いったんお前たちの〈契約〉とやらを解いてもらう必要がある』


「「「《!?》」」」


カイ『正確にいうと、しっかりと契約を結びなおしてほしいんだ。そっちは契約やらで魂のつながりができてんだろ?ならそこでお前らの縁を確固たるものにしてほしいんだ。そこからからんだ〔シュン〕の縁を解きほぐす』

契約を解くという単語だけでもドキリとしたが。
そもそも契約って解けるのだろうか。
それにいまの話だと、もう一度契約をしろってことだよな?
そんなこと――

チラリとものしり参謀ズをみやれば、青い金魚が尾をパタパタさせている。
ハルは青い顔で恐怖を押し殺すような表情で凝固している。
真顔のままのハルの手がその横で心配そうに泳ぐ金魚に延ばされ、そのままぎゅーとできしめて顔をうずめている。
金魚がパタパタしている。

海《なるほどな》
春「ぁ・・・でも・・・けいやくをきるって・・・」
海《おいこらハル、ちょっと離せ!話ができん》
春「う、うーんごめん・・・一瞬でも契約が切れるなんて不安で。何千年って繋がってたものがきれるなんて思ってもみなかったし。想像しただけで・・・うん、ごめんね」

ペシペシとひれでハルの頭をたたいた金魚は、するりとハルの腕から抜け出すと、ふわふわと浮いてみんなの視線の前におよぎでる。

海《そんなこと可能なのか?って視線が三つぐらいきてるから説明するが―――〈契約〉の破棄はできる》

海《こらそこのハルとシュンは息を止めんな。ハルだって契約の詳細うんぬんについては知ってんだろ。
いいか、落ち着て聞けよ。切るのは意外と簡単だ、逆式ってのがあってな。
で、そこからすぐに再契約をするんだ。
あいつらが望んでるのはそもそも“契約の破棄”ではなく、その先の“しっかり結ばれた魂の縁”だ。つまり再契約が必要なんだよ》
零「さい、けいやく?」
海《普段は生涯に一人しか選ばないから、あまり契約破棄も再契約もないから、若いハジメも含めお前らが知らないのも当然だが。
何も契約の修正が効かないわけじゃないんだ。何かの間違いで契約を交わしてしまうこともあるしな。
俺たちの〈契約〉は、短命の人族のほうが主となる契約だ。つまり主たる人間側から、破棄をする》
零「・・・・・血の気がひくような話だな」

獄族の俺達からすると何度も聞きたい単語ではない。
それが説明のためとはいえ繰り返されるたび、心臓の温度が下がっていくようだ。へたをするとそのまま止まってしまいそうなほど。骨の芯から凍えるように、背筋が寒い。

震える身体に身を固めていれば、横にいた〔シュン〕が心配そうに俺の手を握ってくれた。
〔シュン〕の命そのものともいえる力が俺の中にあるせいか、手を通してやりとりされるその力の流れが温かくて、少し力が抜ける。
ストと・・・いつのまにか風の拘束から解放されたハジメが地面に華麗に着地し、大丈夫だとばかりにそばに来てくれる。
青い顔をしているハルは、〔ハル〕と〔カイ〕にその背をさすられている。

俺達にとっての〈契約〉は、それほどのものなのだ。

海《魂の縁を切るってのは、たぶん“従”側にとんでもない負担がかかる。それこそいまの〔シュン〕のように、魂の力がごっそり持っていかれるような衝撃だ》
始「それは・・・他に方法はないのか!?」
海《ハジメ、シュンが大事なら、ためらうな》
始「つまり、他に方法はないんだな」
海《ああ》
始「そうか。なら・・・」

ハジメが問うように“俺たち”をみてくる。
俺も〔シュン〕も言いたいことはわかった。
握っていた手に力がこもる。俺もそれを握り返す。

答えは決まってる!

零「俺なら大丈夫だから。だから、たのむ!こっちの俺に羽をかえしてやりたいんだ!」
シュ『・・・僕は、もっと・・・・・・もっと生きたい。お願い・・“葉”をかえしてほしい!』

海《決まったな》

始「シュン・・・大丈夫か?」
零「当然!」

ちょっとだけ待ってろと横の〔シュン〕にいいおき、難しい顔をしているハジメの前に立つ。

ハジメはカイに方法を聞いたのかヒレをふるう金魚に頷くと、俺の前に立ち、俺の心臓の上あたりに手を当てる。
さて魂をがんじがらめにしているであろう契約をいかに解除するのかと思っていれば、なにかハジメは口の中で小さくつぶやいている。
そして〔ハジメ〕は己の指を歯でかみ切ると、流れた血を俺の心臓の上に、下から上へと線を引くように描き・・・

始「――解 !――」

パリン!と何かが割れた気がした。
魂が引き裂かれたようなとんでもない激しい衝撃に、視界が白くなる。
ごっそりと何かをうばわれたようなその感覚に、体に力が入らなくなってその場にしゃがみこむ。

シュ『“僕”!大丈夫かい?“僕”?』

自分もつらいだろうに〔シュン〕が傍に駆け寄ってきて支えてくれる。

片翅をもがれたような、けれど自分が自分のものだけになった――自分の中にあった別の力がなくなり、自分の存在だけを感じる空虚な違和感。
ああ、自分を守っていたハジメの欠片だけが、自分の中からなくなったのだと、漠然と分かった。
こうなるとわかっていながら、それでもいままであったものがなくなったそれに、しらずしらず涙が落ちた。

突然失せた穴は大きくて、すぐには立てなくて。
そうこうしているうちにハジメが俺から離れ、睨むようにしてハルと金魚カイの正面に立つ。

ハジメはハルとカイに向き直るやいなや、ガバリ!と頭を下げ――


始「お義母さん、お義父さん、息子さんを俺にください!!」


春「あ゛?


爆弾発言を投下した。

始「シュンを俺にく」
春「黙ろうね、ハジメ」
零「それ言っちゃう!?そう言う台詞は未来の可愛い嫁さんの時にだぞ?!!ハジメ、頭大丈夫か!?」
海《おー・・いまのでうちのシュンの意識が戻ってきたな〜》

始「うっさい!再契約のための許可をもぎとるためなら!俺はなんだってする!!!!!」
零「あ、そういう意味・・・だとしても使う言葉間違ってるんじゃ」

春「ッチ」

「「『『・・・・』』」」
零「えっと、ハル、さん?」

春「本当にハジメしつこい。契約のためだから仕方ないけど。
また泣かせたら・・次は、オレが、本気で。君を殺すから」

海《この世界の守護者な天使と悪魔の目前で契約すれば、前より強固な誓いになりそうだなぁ。 ・・・・・ナルホド。ハル、俺たちももう一度契約しないか?神代の御方たちの御前よりは効果薄そうだけどな♪あ、俺達は破棄しないですむから上書きだけだぜ》
春「ちょっとカイは黙って!!
ハジメ、契約は許してあげる。今回みたいなことが再度っての否定出来ないからっ。だけど天使の前でとか!!ないわー、ない。ほんとうに嫌だ。神代のやつらの前でやられるよりはましだけどぉ!!
あ、カイは一度あっちのハルの角に刺さればいいよ」
ハル『ひぇ!』
海《無理無理wwwささんねーってあれぐらいじゃぁ俺www》
ハル「!?」(←可哀そうなぐらいフルフルガクガク怯えている)

海《でもなー。ここで再契約しとかないと、今度はハルが・・・って可能性もあるだろ。シュン達の二の舞いは勘弁だぞ」
春「ぐっーーーずるいよカイ!もっともらしい説を出さないでよ!」


こうして今度はハル(親)証人の元、俺たちは契約をやりなおすことになった。
稀過ぎるケースとはいえ、二度目がないとはいいきれないためだ。

ハジ『あちらの契約とは、対羽みたいなもの、だったか?』
ハル『こちらにない技法は興味深いね』
カイ『こらこら邪魔はするなよ』


本当に天族達の前でやるとか、なにこの人の多さ。すっごいはずかしいんだけど。意識飛ばしたい。
この場が、とても特殊空間で、気が満ちてるからこそ契約しやすい――とまで言われちゃえば仕方ないんだが。

シュ『なにかあった時には手助けする。だから仕方ない事だって思ってね』
零「わかっちゃぁいるが・・・はずい」

俺の心をさっしてか、〔シュン〕が苦笑を投げかてくるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。

海《安心しろって。これくらい大した人数じゃない!》
零「そういうけどぉ・・・カイは今ここにいないからわからないんだ。かわれ!」
海《いや、無理だろwwwというか、俺とハルの契約の時はもっと多かったぜ♪》
零「え、そうなのか?」
春「まぁ、ざっと・・・えーっと、どれくらいだろ?」
海《全種族全人類の前だろwww》
春「ああ、そうだったかも。興味津々に一般の子らもみにきたもんねー」

始零「「・・・・」」

始「ぜん、しゅぞく・・・」
零「10人なんてほんと大したことなかったですね!!!!すみませんでした!やります。やらせていただきます!!」

なんだか聞いてはいけないことを聞いた気がする。
全人類の前でやるなんて!なんて公開処刑だ!そんなの無理ぃっ!!!
たかが10人未満!なんでもないことでした。
さぁ、そうなれば、さっさとやっちまおう!

とは思ったが。

零「…札はどうすんだ?」

そこからの問題でした!
あと“対”のものがねぇ!

春「うーん。オレ達もうただの人間だから、要らないんじゃないかな?とは思うよ。
材料足らなきゃ何も起きないんだし、やってみてからでいいんじゃないかな?」
零「一対のものものないぞ。どうす…」
始「それはある(ドヤァ)」
零「・・・・ああ、そうだったな(遠い目)」
春「あーうん。さすがハジメ。一対の品の準備に関してはまっったく問題ないみたいだね(遠い目)」

そう、前にハジメと指輪騒動があって、俺が今身に付けているものに“ハジメモチーフの指輪を通したチェーンネックレス”がある。 しかも“片耳のイヤリング”がある。
わかってると思うけど、“片耳”の残りはハジメの耳にキラリと光っているわけで。
あのドヤ顔からして、ハジメも“俺モチーフの指輪”を身に着けていると思われる。

零「あー、ハジメ。一対のやつ今回はどっちで媒体にする?」
始「そうだな…指輪のほうがいいんじゃないか?シュンは特にチョーカーとその指輪を通したネックレスが当たり前になりつつあるしな」
零「了解した」

そうやって場は整っていき、改めて再契約となった。

正面に向き合って立つ。
一対の物である互いの指輪を俺の掌に載せ、それを包み込むようにすれば、さらにその俺の手を包み込むようにハジメの手が重ねられる。
この胸の中に空いたような穴をはやくうめてほしい。体が軽く感じすぎて怖いのだ。
それがわかったのかハジメをみれば、彼もまたこちらをまっすぐにみていて、大丈夫だとばかりに笑顔を向けられる。

それにほっとし、今度は目を閉じる。力を練り上げるように。うちにある力を感じるように。
手の中にすべてがむかうように。



始「――【零】」


ふいにハジメの凛とした声が響く。
俺にだけきこえるぐらいの小さなそれ。
それは俺の真名。

ドキリと一度大きく心臓が跳ねる。

ああ、手の仲が温かい。手を伝って馴染んだ何かが流れ込んでくるのを感じた。
また名を呼ばれた。
滅多に呼ばれない本当の名をハジメに言われるのは少し新鮮だ。


始「その名をこの儀にて、我、主となる【ハジメ】が改めて頂戴する。
契約は言霊となりて、魂に刻まれ、互いをより繋ぐ縁となろう」


その言の葉に、力が込められていくのを感じる。
耳元でリィーンと鈴の音がきこえたような気がした。

ほんの少し前まで感じていた力が流れ込んでくる。
欠けていたものがうまっていく感覚。

魂が。
体のすべての細胞が。
その声に、その流れてくるものに歓喜するのがわかる。

感覚が、つながる。

細かった縁が、再び強固になる。
自分とハジメとの間でラインが通ったたのを直感で認識する。

ハジメが祝詞をつむぎ終えると、次いで俺が返す番。

あの言葉をまた言うことがあるなんて思ってもみなかった。
でも悪い気はしない。むしろふわふわして、体中に温かい血がながれていくようだ。


零「我は汝・・・ 汝は我・・・。
汝、輪廻を越えた絆を見出したり・・・。
絆は魂に継がれより強くなろう。

我、【零】は主【ハジメ】に今再び力の祝福を与えん」


前世で言った祝詞を思い出しながら、それでも以前とは違って、“今の”自分が思うままに言葉を変えて応える。

互いの祝詞を終えると、頭に自然とある単語が浮かんでくる。これは依然と同じ―――つまり契約が順調に運んでるということだ。
ハジメを見ると頷かれたので、浮かぶ“単語”をあの時と同じく同時に発した。



始零「「陰陽成就!!」」



その瞬間―――
幻が花開いた。

周りを覆わんばかりの紫と白の花の形の淡い光が舞う。
それは華やかに。
幻想的なまでにキラキラと美しい光のシャワーをふりかけてくる。
白い巨木の前、悪魔と天使に見守られて。場所と状況が状況なだけに、まるで夢物語のような光景だった。
やがてそれはキラキラと光の名残だけを残して宙へ溶けるように消えていく。


零(あぁ、これがハル達が言っていた光景か。…………………今回も土煙じゃなくて良かった!!!!)


二度目も轟音と土煙だったら俺は泣いていたね。

そして驚いたことに、まだ続きがあり

「「きゅっ」」

始零「「ハジュとカリン?!」」

見間違いではけして無い。
まさかのハジュとカリンが、指輪をつつんでいたその腕を押しやるように、ポンっと出現したのだ。

一対の物は気付けば消えていて、代わりに俺の手のひらの上には前とは違って小さいが笹熊がいる。
あきらかにそこから誕生しましたとばかりに、掌に乗るぐらい小さな笹熊たちは、ふたのように覆っていた俺達の手をはじいて姿を見せた。

これには流石に驚くしかない。

海《お♪人間になってもシュンは笹熊生めるのか〜》
カイ『?!男が生むのか?!!た、たしかにシュンの方の腕から…(真顔)』
ハル『へー、世界が違とここまで違うんだ。面白いね。君たちの世界みてみたいなぁ〜』

春「なんかとてつもない誤解を招いてる気がする……っっ」

ハル『え?違うのっ??(コテン)』
春「あれは獄族の特性の一つで、笹熊は2人の魂の一部が笹熊になってるってやつだからっ」
カイ『でも表現は間違ってないと?』
海《おう。前世じゃ一般的に“生む”って表現だったな》

呑気に外野が説明している中で、ハジュが俺の方によじよじ登ってくる。
存在を証明するかのようにハジュの体温を感じる…モフモフでヌクい。

それに改めてハジメと俺の繋がれた縁をさぐれば、先程より色鮮やかで濃い感じがする。

俺達が視認すると、役目を終えたとばかりに糸が見えなくなった。
もう大丈夫。魂の糸は太くしっかりしたものになっていた。もう、欠けた感じはしない。

カイ『色々と今のは驚きも多いが、これで他の世界から影響される確率は下がったはずだ。だが絶対ではないからな』
シュ『そう、だね。さがっただけで、“また”がないとは・・・』
始「ゼロとは言い切れないのは分かってる。十分だ」

海《あーでも、そっちでは魔力濃度がこいからハジュたちは生まれたが、こっち戻ってきたら消えちまうかもしれないぞ。かわりに指輪は戻ってくるだろうけど》
春「カイ、もうちょっと空気読もう。せっかくなんだかいい感じで笹熊たちとの再会!って雰囲気だったのに」
海《おーっと。わりーわりーwww》

零「でも、そっか。そう、だよな」

春「その様子だと、一対の物を媒介に具現化したって感じだったね。
元の世界に戻っても指輪を大切にしてあげて。たぶんそれだけでハジュたちには伝わるはずだから。たとえ姿をみれなくなったとしても」

ハルの言葉をかみしめ、いまだけでもと、きゅぅきゅぅと鼻を鳴らしてすりよってくる子パンダたちをつまみあげる。
可愛いけどずいぶん小さくなっちまったなお前(笑)
まぁ、それもしかたないか。というより、会えて嬉しいよ。


シュ『もう、大丈夫?』
零「ああ!あとはあんたに“葉”を返すだけだ」

モフモフをだきしめつつ、それに癒されていれば、衣擦れの音がする。振り返れば〔ハジメ〕にささえられて〔シュン〕がたっていた。
今だ弱弱しいものの、俺がそばにいたからか、少しだけ最初より血の気が戻ってきたように思う。
視線だけでもういいのかと問えば大丈夫だと返事が返ってくる。


シュ『ここまできたら〔ハジメ〕ならほどける?』
ハジ『ああ。・・・・問題ない。これならいける』
シュ『そう、ならあとは頼んだよ』

向こうの俺〔シュン〕が空間を一撫ですると、光の糸が俺からぶわりとあふれ出る。
その太さも長さもばらばらで。
けれどそれが空間を超えて別の場所へも伸びているのが分かる。
もはやそのなかのどれが誰との縁かなんて全くわからない。
けれど感覚で、〔シュン〕と繋がっていることだけは分かった。

それと同時に違う色でハジメと繋がってる。
これが一番太い。
・・・なるほど、これが術者と獄族の縁なわけか。
たしかにこれは他と違って切ったらまずい縁だ。それだけは俺でもわかる。
なにせその糸をめにしたとたん、「切らないでくれ!」と心が全力で叫んだのだから“そういうこと”なのだろう。
切らせないために、これに目印をつけておく必要があった。だから俺たちが先に再契約しなくてはいけなかったのだと、今ならよくわかる。


〔シュン〕にうながされた〔ハジメ〕が一歩前に出てきて、複雑に絡んだ大量の糸に手を伸ばす。
一本だけ別格に太くて、それのおかげで絡み合った糸に若干たるみがうまれている。
あちこちへとのびたそれは、まとめてもちあげればまるで布のように広がった。

視認化された縁の糸を〔ハジメ〕が、優しく触れていく。
糸に触れる彼の姿は、なぜ彼が生命の樹の愛し子といわれているのがわかるような、まるで命を愛しむような、そんな慈愛にあふれた表情だった。


スッと長い指が、光の糸をさく。
いや、ほどけたのだ。
糸は布のような固まりではなくなり、細く細く、さけるように、けれどするりするりとほつれて、本来の繊細なきらめきを取り戻す。
細く糸の姿を取り戻していくそれは、生命の樹からの日差しを浴びて輝く。それを〔ハジメ〕がやさしく梳くものだから、彼の手からキラキラと木漏れ日の光が落ちていくように、錯覚してしまう。
その掌を通って糸はさらさらほどけて、光を散らして流れていく。

命を紡ぐ。

その言葉がまさにぴったりの光景だった。
〔ハジメ〕は一言も発してはいないが、その表情、仕草が、世界中の命が愛しいと語っている。

そうやって愛情を注がれ、光を織り交ぜ紡がれ仕上がった糸は、さぞかし美しいのだろう。
織った者の優しい気持ちも込められ、とてもやわらかな極上の布が出来上がるに違いない。

すべての命を愛しむ。命の光をたばね、運命を紡ぐ――それこそが彼が生命の樹の愛し子である証なのだろう。

キラキラと輝く光の糸を優しく撫ぜ、スルスルと解いていく・・・人ならざる存在。
あまりに幻想的な光景に思わず見入ってしまっていた。


ハジ『終わったぞ』


言われた言葉にハッとすれば、すでにあれほどたくさんあった光の糸は見えなくなっていた。
残りは俺につながった〔シュン〕の糸のみ。

ならばつぎに行うのは、〔シュン〕と〔ハジメ〕の縁を結ぶことだろう。

〔ハジメ〕が少しだけ戸惑ったように、最後の一本の縁の糸を持っている。
そんな〔ハジメ〕に〔シュン〕はくしゃりと笑って、その不安げな顔に手を伸ばす。

シュ『僕を“信じて”。僕は君が思っているほど弱くはないよ。たとえこの場の誰よりも僕がまだ子供だとしても』
ハジ『なら、お前も俺を拒絶するな。それだけで、もう・・・・十分だ』

互いに互いをおもいやりすぎて不安になって。相手を守るためにすれ違って。

もうそうならないようにと、二人が言葉を交わす。
互いにもう間違えない。
それを確認しあったところで―――


零「っ!?」
シュ『!』

〔ハジメ〕が唯一残っていた糸をひっぱった。
瞬間、体の中でくすぶっていた熱がごっそりと消える。
かわりとばかりに、目を見開いた〔シュン〕の背中にバサリ!と大きな白い翼が現れる。

もどったのだとわかった。
だが展開が早すぎて、俺も〔シュン〕もついていけない。
〔シュン〕など驚いたように己の背を見つめて、羽根の感覚を確かめるようにパタリパタリと動かしている。

あまりに突然で驚いたが、痛みも何もなかったので、すぐに糸の先を見やる。
〔ハジメ〕は笑っていた。

ハジ『セフィロトの加護をおまえたちに』」

いたずらっこのような柔らかな笑みで俺と〔シュン〕をみる。
そのまま光でできたその糸に、いたずらをしかけるように、〔ハジメ〕がキスをした――とたん、俺の中にとてつもない“なにか”がながれてきた。 それは〔シュン〕も同じだったようで、あちらも目をパチパチと瞬いている。

それからまるでなにかの儀式のように、〔ハジメ〕は〔シュン〕のもとまで歩み寄ると、その〔シュン〕の右耳にふれ、光の糸を彼の腕に嬉しそうにむすびつける。
展開が早すぎてか、反応を見せない〔シュン〕におかまいなしにサクサクとことは進んでいき、〔ハジメ〕の手が離れると縁の糸はすっと宙に溶けるように消えてしまう。

ハジ『俺を認めろ、俺を望め、俺にお前の未来をくれ』
シュ『え』

ハジ『あとは――お前が望むだけ』

それだけで対羽になる。

そう告げられた〔シュン〕の表情が一気に華やぐ。
パァと輝く笑顔で「望むところだよ」そう〔シュン〕が告げれば、そばらの生命の樹からふわりと小さな二つの光がとびでてきた。白と黒の光がふわりふわりと、それは二人の耳もとへあつまる。

シュ『あ』
零「羽が、かわった」

〔シュン〕の右耳を飾っていた白い羽根が。
〔ハジメ〕の左耳を彩っていた黒い羽が。

互いの色を混ぜ合わせて、枚数を増やし開花する。


ハジ『お前が俺の“対羽”だ――〔シュン〕』


〔ハジメ〕に微笑みを投げかけられ、そのままくしゃりと頭を撫でられた〔シュン〕は、胸をおさえるようにして目を閉じた後、嬉しそうに笑い返した。
その背の六翼は先程よりも艶があり、まるで生き返ったように、新しい命を吹き込まれたように、降り注ぐ光を吸収して強く存在を主張している。

すでに〔シュン〕と繋がりが切れている俺にはわからなかったが、覗いた記憶から察するに、たぶんいま始めて二人の中で互いの力が巡っているんだと思う。
本来あるべき裏と表の葉がひとつになり、葉は命の力を最大限に発揮し始めたに違いない。

よかった。
これであちらの俺〔シュン〕の時は進む。


春「うん、背中に羽の紋は無いね!」
零「ちょ!?急にめくるなー!!」

あちらの俺達を見てほっこりしていたら、突然ハルに上着を背後からめくられびっくりする。
せめて一言ぐらい言え!
突然風が背中から入ってきてビビったから!!

ハルに続きハジメまで即座に俺の背後に周り、二人で俺の背中をまじまじとチェックした。
触れられてもとくに何も感じない。一瞬俺の背で実体化しかけた翼はどうやら本当にもう本来の持ち主の元に戻ったようだ。

春「ハジメ、感覚はどう?」
始「まったく問題はない」
零「ハジメ。ハル。心配かけた、ありがとうな」
始「…シュンは気にしなくていい」

背中をパシパシとたたかれ、よし!と満足げなハルの掛け声で触診が終わる。
そのまま服を直し、フヨフヨしている青い金魚とハルの傍から離れる。

海《んじゃ、次は俺達の番だな!》
春「………はぁ〜、仕方ない。カイの言う事も一理あるからね」

はねるような嬉しそうなカイの声とはかわって、その横のハルはどこか憂鬱そうにため息をついた。

二人の契約かー。
ヨウとかから聞いたことはあるけど、その感想はどれも「凄かった」ばかりであんまりよくわかんないんだよな。
そういえば誓いの言葉は人それぞれだったはず。
ノリトとか、一対の物とか、契約の時にでてくる幻とか。すげー気になる。

零「あれ?でもハル達の一対は?」

そう言った途端、カイの楽し気な「問題ないぜ」という笑い声と共に、金魚の式がクルリと宙で一回転をする。
クルっとまわった金魚がなにかキラキラしたものを二つ落とす。
それをみて、顔を顰めたハルが区切りながら言う。

春「今回の、異変で、念の為、俺達の契約に響くと、すごく嫌だから、万が一でもと思って」
海《コラボ指輪を届けてくれって言われててな。そっち送ったw》
零「ああ、そう。準備いいなー。備えあれば憂いなしって言うもんなー(棒読み)」
春「出来れば、この予想だけは外れて欲しかったけどね」

ギリっと音がしそうな感じで憎々し気に、二つの指輪を拾い上げるハル。

ねぇ、ハルさんや。あんた本当にカイの契約者?なんか復讐者の間違いじゃなくて?
あ、指輪に力こめんなよ!ハルの怪力じゃぁ一瞬で粉砕しちまう!

思わずとめにはいろうとしたところで、ハタと、一番重要なことに気づく。

チラっとみても・・・。
宙をカイの声で泳ぐ金魚。金魚しかいない。
そう。再契約をしようというのに、いまは本人がおらず、その式しかいないのだ。

零「つか、カイいないじゃん。金魚じゃん・・・・再契約できんの?」

俺の言葉につられるように、ハルをぬかした天使と魔族を含めたこの場の全員の視線が、宙を泳ぐ青い金魚に向けられる。
「たしかに金魚だ」そんな羽根っ子たちの声まで聞こえてくる。
俺も激しく同意したい。

だが当の本人たちは気にした様子もない。
ハルなどはツーンと金魚から視線をそらしてそっぽを向いているし、金魚はハルの気を引こうとする相変わらず楽し気なカイの声を届けてくる。

春「こんなもの(指輪)でどうにかなるとは思えないけど、やらないよりはマシだからやるだけだよ」
海《よし、きた!早速やろうぜwww》

二人の会話を聞いてちょっと思った。
なんだ。ハルは照れているだけか。
なんだ。いらついて殺したいほど腹が立っているのでもなく、いつものツンデレか。と――。

心配いているこちらをよそに二人の言い合いは続き・・・・
かと、思いきや。

「よっ」という掛け声とともに金魚が突如天へ向かってかけあがる。
泳げば泳ぐほど、金魚の身体が青い光を散らしながら、粒子となって砕けていく。
最期に円を描くようにその崩れる身体で地面までもどった金魚は、地面に触れたかとおもった瞬間、完全に光となって消える。
散った光はまた集まり始め、そのまま人の姿を取る。

始「・・・・・式に魂を“映した”のか」
海《ああ、体は元の世界のままだがな。まぁ、必要なのは魂だからこれで十分だろ》

ハジメはわけしり顔で納得したようだったが、おいぃぃぃ!!!!もうどこから突っ込めばいいんだ!
なに?人間様の術にはこんな身代わり?の術みたいなのがあるのかよ!?え?まじ?あんの?

始「普通はできない。術の理論自体は伝わっていたが」
零「まじか」
始「うちのカイはあの暴風と契約するだけあって、たまに・・・・・たまにだが本当に人間なのか疑いたくなる」
零「いやいや、術でハルの怪力も風もふせぐわ。フラッシュ一発でいろんなもん浄化しちまう超レアな光属性のお前がそれ言うよなよハジメ」
始「(チラ…)シュン。お前自分のこと棚上げするのは卑怯だぞ」
零「っぁ!?な、なんのことやら〜」

そういえば氷の獄族って珍しいんだったか。
いや、まてよ。それ以前に“獄族以外の技”も仕えたわ。
ペルソナとか。
しかも“人外”ホイホイだったわ俺。
しかもホイホイの影響が、TVに反映しちまって――TVの中がよくダンジョン化してたわ。
俺のせいでなんかいろいろ起きてたなぁと、色々やらかした経験が俺にもあった。
俺も十分珍しい存在でしたね。

うん。普通ってどこに転がってるんだったか。誰か教えてくれ。

じっとりしたハジメの視線から逃れるように、別の場所を見ようと視線を彷徨わせ、ふと違和感に気づく。

零「・・ん?なんだこれ?」

ハル『ちょっと、待って、なに・・これ』
カイ『!?驚いたな』
ハジ『・・これは』


〔ハル〕の驚愕の声が響く。
異変の中心は、ハルとカイだ。

照れも何もないのだろう。俺達のことなど気にせず、二人は〈契約〉をはじめていた。

その二人をとりまくように、“力”が流れてくる。
正確には、二人からあふれているのではなく、なにか別の圧倒的なまでに“違う”そんな“なにか”の巨大な気配のようなものを感じたのだ。
それは目に見えるものではない。
ただ二人の傍に、大きな何かがいる。いや、その“なにか”たくさんの・・・・そんな“者たち”の力の残滓とでもいうのか。
“何者から”がいるような錯覚。
実際、そこにいないのはわかっている。
けれど〈契約〉にひきづられて、過去の光景が、いまそこにあるかのように存在だけをよびおこしているのだ。

二人を見守るように、多くの気配が、ハルたちの周囲に集まっていた。
それは“人”なんてそんなくくり収まるものではない―――もっと大きな。もっと純真な――“ナニカ”。


誰もが息をのむ前で、ハルが右手の拳を左手の掌で包むように拱手し膝をつく。


春「我が名はハル。風の司(ツカサ)が末(スエ)。
我らが高き天の頂きにおわせし父神に誓う。
【カイ】を主とし、この命潰えし時まで付き従うと」


“ナニカ”がハルの言葉にふるえた。
それはきっと恐れでも歓喜でもない。
空気を震わすそれは、この言葉によって、“ナニカ”たちのなかで変化があったのだろうとわかる。

それほどにハルの言葉が重く、空気に響く。


海《【ハル】―――その名、台地におちし雫を母にせし子が末裔、このカイが受け取った》

こたえるカイも厳かな空気を纏っている。
カイの言葉に、“ナニカ”ではなくハジメが眉を寄せ、胸を抑えた。
こちらは“人間側”に作用する何かがあったようだ。


海《我らが母神の海より深きその慈悲の名のもと、この儀をもって盟約の証明と・・・・・いや》

ふいにカイがいたずらをひらめいたかのように笑えば、いままでの空気が一気に霧散する。

海《・・・お前と揃いの歩みを》
春「喜んで」

カイの言葉は“前回”ではなかったのかもしれない。
顔をあげたハルにウィンクがむけられ、ハルが嬉しそうに驚いたような顔をした後「しょうがないなぁ」とけれど心底嬉しそうに微笑みを返す。
カイはそのままハルの手をひっぱって立ち上がらせると、手を握り、ひたいをくっつけ、二人は笑う。

さぁ、続きを。早く――そう木々たちがせかすように風がやさしく舞う。


春「雨は地に降り水となり海へ」
海《水は風となり空へ舞い上がる》


海春《「この“青”に誓おう」》


その言葉とともに二人の手のひらの中にある指輪に、周囲にあった“力”が流れ込む。

風が流れる。
まるで二人を祝福するように、パチパチと小さな雷が花火のように周囲を照らす。
指輪が、青くあおく―――光輝く。


海《我がかいなが、そなたの安寧の場となれるよう》
春「我が風は、貴方だけの追い風となりましょう」


ふいに、目を開いたハルが、今度は「こっちの番だよ」と言わんばかりの楽し気な笑みで。ハルが歌うように、言葉を紡ぐ。

春「我は、あだなす敵を切り裂く剣。
この身は敵を薙ぎ払い、立ちはだかる害の全てを穿く槍。
其方の真(シン)を守る不変の盾」

それは契約の続き。誓いの言葉・・・・なの、だろう?たぶん。
っが、しかし。
次に満面の笑みで告げられた言葉に、思わず背筋にゾクリと悪寒が走った。


春「たとえ――神の軍勢とて。貴方のためならば滅ぼして見せましょう」



零「え・・・なんか物騒」
始「・・・・壮大な誓いだな」



海《はは♪言うなぁ〜wwwならば》


海《お前の障害となるものには雷の裁きを。
其方を惑わせるものには――我らが祖、父たる神とて――我が怒りの劫火に心の臓まで爆ぜ、焼きつくしてくれよう》


パチン!


なにかが弾けるように、風が収まる。
過去を投影して現れた気配が、そこでとぎれる。
空気から威圧感が消え、一気に軽くなったような気がして、大きく深呼吸をする。

カイとハルはなんだかまだ楽しそうに笑っている。

輝きも失せ、もとの指輪に戻ったそれを互いに相手に手渡しながら、二人はパシンと手をたたきハイタッチをのんきにかわしている。

契約が終わったのはわかったが、その証である笹熊たちの姿はない。
どういうことだろうと思っていれば、ハルが「おいで」と宙を見上げて声をかける。その名をよべば、フューと風が集まりだし、風の塊がハルの頭上でポンと音を立てて笹熊の姿を生み出す。
続いてカイが掌を上にして右手を前にだし、同じように「こい」と声をかければ――のばしたその掌の上に小さな雷がパチパチと光り、パシンと光が弾けて笹熊が姿を見せる。

始零「「・・・・・」」

ナンダイマノハ。
思わず横にいたハジメと顔を見合わせた俺は悪くない。
ハジメの方も顔が引きつっている。


笹「きゅぅ!」
春「ふふ。意外とあっさりできちゃったね♪」
海《だな。おーハルルにミミも!ひさしぶりだな!》
笹「キュ!」


なぁ、笹熊たち今どっから生まれた?
一対の物から生まれないのかよ!?
じゃぁ、あの一対の物はなんなの!?

そもそも「陰陽成就」っていう宣言はいらないないの?え?だって、あの言葉って、力が互いにいきわたると勝手に心の中に浮かんできたんだぜ!
あれを合図に〈契約〉って完結しない?

え?俺が間違ってる?間違ってないよな?!


・・・・・・あれ?
つかさ、なんていうんだろう。なんか・・ハルとカイの〈契約〉って、根本からして俺達とちがくね?



え?ドウイウコト??


春「意外と“オレ達”でも〈契約〉って、できるものなんだね」

ハルが肩にとびのったカイのミミを撫でながら、言う。
片目を眼帯でおおわれた笹熊は、カイの魂の欠片というが、そういえばなんで眼帯してるんだろう?

海《あ、ミミの眼帯が気になるのか?まぁ、たぶん、あれだ(笑)》
始「あれじゃわからん」
海《だからアレだってwww最初の契約をしたとき、一対のものが“アレ”だったせいだろ。いやぁインパクトあったから、絶対そのせいだと思うぜwww》
零「いや、いみわからん!!」

春「そうだね。俺たちにとって一対のものっていうのは、互いにとって大切なものを交換し合うこと。双方にとって意味のある宝をだしあう行為。
本当は、こんな指輪程度で俺達の“契約”はなされないものだし」

ハルのその手には、交換したばかりの“カイの”指輪がつままれている。
その指輪を光に掲げて、ためつすがめつ不思議そうにみながら、ハルは苦笑のような自嘲のような笑みで指輪をはじいた。
ピーンと弾かれ宙を舞った指輪は光を吸い込んで、もう光を纏っていないというのに青い光を反射した。
まるでその指輪に途方もない“力”が込められているかのように・・・

笹「みゅ!」
春「あ、ちょっとミミ。かえして、ね。それはあげられないんだ」

おちてきた指輪をうけとめたのは笹熊のミミだった。
そのままいやいやとするミミをやさしく説得し、ハルは受け取った指輪を所在投げに手でもてあそんでいる。

いわく――絶対指にはめない!

そんな意思が伝わってきそうなほど。
こういときのハルのツンデレ具合は、とても酷い。そんじょそこらのことで意思を曲げないので、カイは苦笑を浮かべている。
カイのことが嫌いでつけたくない。ということはたぶんないだろう。今回は世間体を考えているのか、それとも恥ずかしいだけか。
なんにせよハルは眉間にしわを寄せたあげく、気遣った〔ハル〕からもらった鎖に指輪を通して首から掛けた。

零「っで?そのわけのわからないアレって呼ばれる一対のものって何だったんだ?」
海《なんていうかー。アレって言葉ではなんていえばいいんだ?》
春「青い物だね。たしか空の欠片と海の欠片をもらって、それで俺達の契約と同時に、全種族からごそっと力を引っこ抜いて、その〈青〉に封印した気がする」
海《ああ、そうだった。その空の欠片なぁwwwありゃぁひどかった。盟約って何をどうするんだと聞けば、突然そっちの王が目玉えぐって渡してくるし。あの時はどうしようかとwww》
春「まぁ、でもそのおかげで、戦争終結したし万々歳じゃない?あ、あのあと〈青〉ってどうなったんだろうね」
海《さぁな。まぁ、俺達には関係ないだろ。あのあと世界も平和だったしいいんじゃね?》


・・・・まって。いまなんて?え?目玉をえぐ・・・・・

零「あー・・・そのだな。二人は、いま、なんのはなしをしてるんだ?(遠い目)」
海《なにって。俺たちの契約は、“個人契約じゃなかったんぜー”って話だろ》

零「は?」
始「どういうことだ?」

海《あれ?言ってなかったけか?“前”の段階で、ヨウとかアラタあたりから聞いてないか?あとはルイかイク。イクはたぶん俺達の契約より少し前に生まれた人間だし、ルイもギリギリしってる世代のはずだ》
零「いや、まったく。つか、なにそのメンツ。あいつらに何かあんのか?」
海《ん。あいつらに何か、じゃなくてだな。“俺らの契約”の話だろ。ほら、あいつらだけだし俺らの契約みて生きてるの》
始「・・・お前たちの契約の瞬間は、すごかった。か、綺麗だったとしか聞いてない」
春「え、そうなの!?オレはてっきり誰かが言ったものだとばかり」
始「それは、聞いてはいけないものか?」
春「いや、ぜんぜん。まったく問題もなにもないよ。ね、カイ」
海《だな。俺達の契約がどう違うかって言うと、お前たちの〈契約〉と意味が違うってだけだしな》
始「意味?」
零「〈契約〉に意味なんかあるのか?」

今思うと、聞かないほうがよかったかもしれないと思わないでもない。
なにせ、その応えというのが、予想の斜め上をいっていて――

春「個人と個人でやりたいからやるっていう〈契約〉と違って、オレとカイの“契約”は、いわば“盟約の証”。
短命種の人族と長寿の種が仲良くしますよ〜っていう誓いとして、魂の従属関係をむすばさせられたんだよね」

海《または、世界初の政略結婚ともいうな♪》
春「いわない、いわない」

ほわほわと。それはもう何でもないことのように二人は言うが、この二人、さっきからとんでもないことを言っているからな!!

春「たしかにオレ、友好の証として人族にさげわたされたから、ある意味人族に対する人質にちかかったけどね。結婚はしてないからね。
でも同意の上で縁を結んだし。カイの傍は心地よかったよ」
海《まぁ、終わり良ければすべて良しってことで》

春「話を戻すよ。オレたちの契約ってのは、和平条約の締結につかわれる契約書を書くよーてきな意味と同じなんだよね。
獄族が人の下につくのは、そのとき優勢だったのが人族だったから。
で、オレがカイに従じることは、すなわちオレの種族が人族につきますよー。って、意味。
もう種族間で喧嘩はしませんて、盟約の証として、双方の宝を交換しあった。
ちなみに“うちのトップ”の目玉イコール“力の結晶”だったんだよね〜。別に血とか一滴も流れてないからグロくはないからね♪」
海《うちの種族からは、海の雫だな。神が落とした宝玉――あれはなんの力もない短命種に、能力を与えていた。その力の源だから、価値的には同等だっただろ》
春「ふふ。凄い綺麗な青色二つだったよね」
海《当然だろう。世界の至宝が二つだぜw》
春「その後、魂の縁を繋ぐ=契約って名称になったんだよ。
“契約”がまさかああいう形で、後世にまで広がるとは思わなかったよねぇ」
海《だなwwwあれは面白い進化を遂げたと俺も思ったわ》

始零「「・・・・」」


え?和平条約の締結とか何それ。二人が出逢った時代って戦争してたの?
しかも種族間の争いとか、規模、でかくね?
二人の寿命が数千年。それを考えると、二人が生まれた時代ってどんなだよ?
さすがにその頃についての歴史書とかないし、文献もみたことないし、俺は村で伝え聞いた話しか知らないわけで。
だれも戦争があったなんて教えてくれなかったけど!?あったんかい!!!

いろいろ初耳なんだけど。


つか。おいおい、まってくれ。
えーっと、今の話を聞くに・・・・


零「なぁ、それってさ。ふたりって・・・」
春「うん?」


始「世界で“最初に〈契約〉した”のは二人だった――ってことか?」


あ、やっぱりハジメも俺と同じ結論に達したみたいだ。
若干、ハジメの顔までひきつってる。
つまりハジメもそんな戦争の話は聞いたことなかったのかな。
むしろ、二人が契約の祖とか、そんな噂も伝承も一つさえあちらのお国にもなかったと見える。

けっこう重要って言うか、歴史的の真実な気がするけど――ハルはどちらともつかない笑顔をかえしてくるばかり。

春「さぁ、どうだろうね?(ニコニコ)」
海《だな。そもそも俺らの前にだっていくらでも魂の縁を結んだ奴らはいたはずだぜ。たぶんな》
零「さいごー!!!」

始「二人が契約した時代はどんなだったんだ?」

海《愛があつく燃え滾る、そんな動乱の時代だったぜ!》
春「たしかに戦時中だったけど、そんな暑苦しい展開はないからね」
海《いやぁ〜でもお互い顔を合わせれば拳をふるいあう仲だっただろ。 お前なんかめちゃくちゃ狂暴な顔してせまってくるしwww天が避けるのも、クレーターの十や二十あたりまえだったじゃねぇかwww》
春「もう。あの頃は若かったんだって!恥ずかしいからその話はやめてよぉ」

始零「「どんな時代だよ!!!!!」」


春「どんなって、だから戦争真っ只中だって。それがどうかしたの?(キョトン)」
零「どんな戦争!?クレーターってなんだよ!!!」
始「異常だ」
春「え。でも、ただの人だったカイが海を割って、ふつうにオレたちの軍とめてたし。他の人たちも普通にそれぐらいできたし、普通でしょ?」
海《海ぐらいなら俺でも割れるんだが、水を消せても台地まではさすがになぁ。“風のひと”はすごかったよなー。かくいうお前も、台地をえぐるまではできてたよなぁ。 いやぁ、あのときは、“風のひと”と同等っていわれたお前の首をどう取ってやろうかっていつも思ってたな〜》
春「だからその話やめてって!台地を割るなんてあの“風のひと”だけしかできないよ!オレがあの方と同レベルとか、そんなっ!!あの方に比べたらオレなんかもう恥ずかしいレベルなのに!!」

始「・・・・・・・規模が想像をはるかに超える超常的な戦争というのはわかった」
零「わかるかー!!!」





カイ『なぁ、天が避けるってなんだ。つかクレーターって、若気の至りで作れるもんなのか?』
ハジ『いや・・・』
カイ『台地を割るってのは、できないと恥ずかしいことなのか?』
ハジ『・・・』
カイ『人間って海をわれるのか?』
ハジ『・・・』

シュ『僕らでは歯が立たないのがよくわかる話だね。〔ハジメ〕、彼らを怒らしちゃだめだよ。僕、まだ君と生きたいし』
ハジ『も、もう怒らせるようなことは何も・・・ないはず(gkbr)』



ハル『・・・・(^_^)』


ハジ『大丈夫か〔ハル〕?』
シュ『ん?おやおや、〔ハル〕が固まっているけど、どうかしたのかい?』
カイ『おーい〔ハル〕?って。あ、こりゃぁだめだ。なんか魂飛んでる』





結果からいうと、まぁ、なんだかんだ言っても、無事に全員の契約やら対羽だか、魂の結びは完了した。
俺たちとはやり方が違うので何とも言い難いが、たぶんハルとカイの契約も滞りなく行われた・・・のだと思う。 かなり後半、いろいろと物騒なことを織り交ぜてくれたが。

ハル『ねぇねぇその笹熊って触ってもいい?』
春「どうぞ。うちの子、もうすっごいモフモフだよ!」
ハル『向こうの俺達も例外でなかったんだね〜。・・・あ、ほんとだ。わぁ、この笹熊ってふにふにボディきもちい』
零「ちなみに俺の笹熊はお腹がぽっちゃりだぜ」
シュ『あ、ほんとだもっちもっちー』

カイ『つか、そっちの俺らってなんなの?』
海《ただの人間だぜwww》
カイ『うそつけ。まぁ、いいやもう』

カイ『に、しても。俺とハルで契約・・・なんか同じ顔のせいでこそばゆい(顔真っ赤)』
海《いまさらかよ》

始「カイちがいとはいえ、あのカイが顔赤らめる姿とかっ・・・違う存在とはいえ衝撃的な図だな(遠い目)」
春「え、向こうの〔カイ〕可愛い」
海《え?!ハルさんんんっ!!せっかく笹熊まで生まれたのに浮気か!?》
春「笹熊だけおいて、消えてカイ」
海《そういう冷たいまなざしがいい》
零「・・・カイは、何してもタフだな」

ハル『あれが俺。お、おれ・・・・・(ぷるぷるぷるぷる)』
シュ『おちついて〔ハル〕。大丈夫だから。怖いことなんて何もないから、ね?』
カイ『現実を見ろ〔ハル〕。お前、“探究者”だろ。真実から目をそらしてどうするんだ』
ハル『で、でも・・・・・(ふるふる)』



始「ところでどうやって帰るんだ?」





 




 




【オマケ】

あれから。
向こうの世界で“道”をつなぐ術でカイが呼び寄せてくれて、金魚の式が案内人となってくれたおかげで戻ってこれた。

俺はあちらの世界の〔シュン〕に羽を返そうと必死で戻り方なんか考えてなかったので、今回ばかりはとても助かった。
だからカイは式だけで、あの世界にきてくれたのだとわかった。


で。
元の世界に戻った俺たちはというと。

「こんにちわ“カゼノキミ”。じつは貴方様とそのお仲間様にぜひともお話がありまして」

前世獄族だった仲間と遭遇した。

そのひとは有名な舞台監督で。
天使と悪魔をお題にした舞台オリジンというのを考えてるとのこと。
それにハルやカイ、俺を使いたいという。


「いや、そういうのは事務所を通し」
「もう社長と取引済みです!あとは役者が頷けば何人でもツキプロから借りていいと契約書をいただいてます!」

「「「・・・・」」」

「やだなぁ〜みんなだまちゃってwww
これは“契約”ですよ、“契約”。契約は、絶対のものですよね。――ねぇ“カゼノキミ”、“ウミノキミ”( *´艸`)」


あ、こいつ。ハルたちの契約を見た獄族だ。
その場にいた全員が、思わず遠い目をして、同時に思ったのだった。





――20××年 冬。
天使と悪魔の、心を揺らす物語。
舞台オリジン。

近日公開決定!!!













夜「あ、シュンさんの雰囲気が元に戻った」

陽「ん?なんのこっちゃ」
夜「シュンさんが天使ぽっくみえてたのが、なくなったっていう話だね。
うーん、やっぱりウチのシュンさんは、こう見かけとのギャップが激しい感じの・・・バスケバカの方がシュンさんって感じでいいよね♪」

陽「それ、けなしてんの?ほめてんの?」
夜「“らしさ”を言っただけだよ」

夜「それよりさー、最近ハルさんとカイさんもお揃いのコラボ指輪を常に持ち歩くようになったけど・・・相方のコラボ指輪を持ってるといいことでもあるのかな? ハジメさんとシュンさんもやってるし。なにかの流行り?」
陽「え?なんだよそれ・・・・ハルさん、ついにカイからのおねだりに折れたのか!?あのハルさんが!?」



春「み、みられてる!!!!いやー!!!恥ずかしい!やっぱり指輪で再契約はやめるべきだった!」
零「・・・めざとい」
始「ほぉ、ヨルは本当によくみているな」
海「へぇー。絶対指にしてないのに、知ってるんだな。さすがヨルwww」








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