有得 [アリナシセカイ]
++ 零隼・IF太極伝記 ++



04. ONE CHANCE?
<詳細設定>
【霜月シュン/シモツキシュン】
真名:神崎零(カンザキレイ)
前世:P4→黒バス→“太極伝奇”→ツキウタ
成代:鳴神→火神大我→霜月隼
一人称:俺
備考:
・転生者
・前世の影響でとにかくよく食べる。胃袋ブラックホール
・バスケバカ
・運動するのが大好きで、現在は剣術をならっている
・火神の時に犬に襲われて以降、犬が怖い
・ペルソナの能力が・・・
・前世がもう一つあって、“獄族”だと最近判明した ←New!



――現世。
プロセラの共有ルーム。

それはいつものごとくまとわりついてくるハジメを「グループの打ち合わせだから出ていけ」と強引に部屋から追い出し一息ついていたとき。
カイは「はるぅ〜」としょんぼりして大の字でソファによりかかり、その様を横で膝を抱えたプチ魔王なルイがいい笑顔でつっついていた。
まるで今日の天気を話題にするかのように、ルイの向こう側ソファーの隅にいたヨウがつぶやいた。

陽「そういや、人間の契約者ってめっちゃ記憶にひきずられてね?」







【04. ONE CHANCE?】
 「太極伝奇・零」 〜Side 火神なシュン〜








陽「俺らと人間様は、前世の記憶の引き継ぎ方が違うみたいっすね。思い出すとけっこう人間様は執拗みたいで・・・シュンさんは大丈夫っすか?カイさんが今酷い残念なイケメンになってて、ハルさんが怒り狂ってるんですよww」
海「えーいいだろ。大切でしょうがねーんだから・・・ん?」
零「あぁ、そうだな。最近良く見る光景だな。ハジメのやつもなー、もうほんとうざいったらねぇ!!・・・って」
涙「うん。ハルがカイをみる目、うけるwww」

海零「「んん?」」

普通に受け答えをしてしまったが、明らかにいまのヨウの言葉はおかしい。
あと、ルイも・・・。

まさかと思って二人へ視線を向ければ、相変わらず淡々とした顔のルイが「僕何か言ったかな?」とばかりに首をかしげている。
その横ではヨウが、だるそうに麦茶をのんでいる。

二人とも自分が特別な発言をしたと気付いていないようである。

零「え?なに、みんな記憶ありとか?」

陽「何をいまさら。つか、俺、生まれた時から記憶持ちだぜ。
気づけなかったのはそっちのミス、な」

零「ま・じ・か!?」
陽「前世とこれだけ同じ顔のやつらがいたら、さすがにこの寮にきた時点で気付くっつの。まぁ、みんながそろったのもきっと前世の縁かなぁとは思ってたけど」
海「はははwwwそりゃぁわるかったな」
陽「っで、ハルさんとカイはちょくちょく二人で深刻そうな顔で“獄族”とか“契約”とかで会話とかしてたから、 二人は思い出してるかなぁっとは思ってたけど、まさかあそこで中華企画と称して前世ネタやるとは思わなかった」
海「あー、わり。まったく気づかなかったわwww
あの企画に関しては、ハルはちょっとしたイタズラのつもりだったみたいだがな。
なんというかな、俺としてはもっとハルのそばにいたくてだな。 愛情とはちがうんだが、まぁ独占欲?俺のものだからみたいな?そんなわけであの企画たてた」
陽「うわー独占欲強すぎーひくわー」
海「そもそもな俺はもっとハルにくっつきたいんだよ!だから記憶持ちがいたら、俺がハルにくっついていても違和感ないだろうし〜、説明いらないじゃん。でも今のお前らには、前世とか言っても誰も信じてくれないだろうし。なら、あの企画であわよくば誰か思い出してくれないかなぁ〜という魂胆があったりなかったり?(笑)
おかげでハジメがいい感じで覚醒してくれたので、俺も改めてハルといちゃい」
零「カイ、だまれ」
海「はいはいっとwww」
陽「なんというか年々、残念になってくなあんた」
海「そうかぁ?あ、そうだヨウ。言ってくれれば、あの企画にお前まきこんだのに」
陽「それが嫌だから言わなかったんだ!!本当にああいう企画とかは遠慮させてもらうわ。俺、そういうの向いてないしな。たくらみは参謀ズだけでやってくれ」

零「えーっと。ところでそこで優雅にお茶をすすっているルイくん。君は・・・」

涙「僕?契約とか前世とか興味ないけど。でもカイとハルが冷戦くりいろげてるのはしってるよ。前世の因縁?大変だねカイ(にやり)」
海「うぉっ!?ちょ!?なんでそこでルイは俺をみて笑ってんっだよ!?」
涙「だってカイが一番変態だから?」
海「ひでぇ〜なwww」

どうやらルイは記憶がないらしい(?)。
だが、それにもかかわらず前世の記憶がある者の会話に平然としていて、ふつうにツッコミを入れているところが、さすがルイといったところか。

そもそも人間サイドの契約者の反応がおかしいんだと、俺は思う。
現にカイのハルへの熱い思いがこのあといろいろ吐き出されたが、ヨウもルイもとても冷めたような目をむけている。

海「っというわけで、こう引力的なものが働いてだな。どうしてもハルのそばにいたくなるわけだ。お前らはなんで平気なんだ?」
零「何度も言うけどさ。カイやハジメほど、俺らはこうっ!ていう風にはテンションあがったりしないし。あれは過去だって割り切ってるっていうか、感情移入しないっていうか、そこまで執着ねぇっていうか」

陽「たぶん人間としての今の感覚と、獄族としての感覚が違うんだと思うぜ。それで人間様よりはひきずられないとかそんなかんじじゃね?」

涙「わー、あのヨウがまじめっぽいこといってる」
陽「失礼だなお前。つか、ルイは本当になんなの?」
海「ルイはうちのプチ魔王だからなwww」
涙「プチ魔王ウケるwwwww」

零「おいこら!まて!てか、ルイがプチなら“魔王”って誰だよっ!!」



そこからは、ルイもまじえて(なぜ前世ネタにツッコミを入れないのか恐ろしい子だ)のんびり会話をしていたのだが、カイが調子に乗り、記憶持ちだけの思い出話をしようということになった。

海「じゃあいってくんな!」
零「俺もかよ!?」
陽「うへぇ・・・」

涙「いってらっしゃ〜い」

通常運転のルイに見送られ、カイはゲンナリする俺とヨウをひきずって、ひとつ下の階のハルの部屋に乗り込んだ。
ハルの部屋ではハジメが部屋の真ん中で正座されて、まさに説教を受けているところだった。

ああ、もう。ハジメはまたなにかやらかしたらしい。
相方として恥ずかしくなるからやめてほしい。
本当にハルには感謝というか、謝罪をしなければいけない気がする。



零「・・・・・・どうしてこうなった(ムッスゥー)」


陽「えーっと大丈夫っすかシュンさん?」
零「現在進行形で、この俺の状況で大丈夫だと?」

始「シュンしゅん・・・どこにもいくな。おいていくな」

陽「俺の目からだとソファに座ってるシュンさんの腰を後ろから抱きかかえてるのがハジメさんという構図ですね。少女漫画のようでwwww」
零「分かってんじゃねぇかっ。そしてそんな甘ったるく優しい表現じゃねぇっ。ハジメ・・・目の前から消えないから締め付けんのやめてくれ!お前のそれは抱きしめるじゃなく羽交い締めだからなっ!!」
始「却下」
零「清々しいほどの即答ぶりで!――――このように格闘技並のガッチリホールドだ。誰か助けろ」
陽「無理っす。人間様の執着ぶりにはかてません」

海「ははwむしろたすけとかいらないだろ」
始「当然だ。ソレにこうでもしなきゃこいつは逃げるからな」

海「もう安定になってるなハジメのそれは。いや〜うらやましいwwwなぁ、ハル」
春「うらやましくもなんでもないから」


前世の記憶を取り戻した一騒動。
それによりハジメと俺の距離感がかなりおかしくなった。
主にハジメが原因でものである。
前世の記憶と感情が、一気に戻った反動だ。思い出したこれが、ぼんやりしたものだったら、ここまでの奇行には走らなかっただろう。
問題なのは、その記憶も感情も、“今”と分離して見ることができないほどに鮮明であったことだ。
そのせいで目の前のハジメはとくに、心と感情の整理がついていない。

零(真面目すぎるせいか、それともハジメの執念のなせるわざか。めちゃくちゃ前世の記憶にふりまわせれてるんだけど。そもそもなんでこいつら“人間様”サイドって、ここまで記憶思い出すと過剰アピールしてくんだよ。とりあえず・・・)

零「カイの残念具合はノリもあるだろ」
海「半分な♪でもハルの傍にいたいってのはマジだぜ。ハジメほど張り付いていたいと思うほどではないがな(苦笑)」
陽「だよな。以前までのカイって、最近のハジメさん程あからさまな“傍にいたいアピール”はしてないし。いや、人目がないとあれっすけど」

思わずヨウの言葉に、俺、ハルまで「ああ、そうだね」とばかりに賛同したのは言うまでもない。
もうカイがどこから本気どこまで乗りなのかがわからない。

チラリとカイを見れば、ハルの横に腰かけたままニコニコ笑顔だ。
たしかに。はりついてない。
隣にいるだけで満足とばかりで。

いい笑顔だなカイよ。

陽「・・・まぁ、カイのことは置いといて。
ハジメさんがそんなにくっつき虫になってるのって、何か理由があるんじゃないっすか?
たとえば契約の内容が原因とか。・・・・・その、死因とか」
零「思い当ることはあるけどな。まぁこればかりは、頑張って自分で消化してもらうしかねぇわ。俺はもうわりきってるわけだし」
陽「あーそっか。
じゃぁさ、ハジメさんとシュンさんの出会いとか契約の時とかの話ってきいても?
そういや俺って、ハジメさんとシュンさんの契約とか、前世でも聞いてなかったなー思ってさ。
時折ハルさんがハジメさんに辛辣なのもそこに関係あるようだし?・・・・・・そこらへんどうなんすか」

“死”という単語で、ピクリとハジメの肩が揺れた。
それでヨウも薄々察したのだろう。

話題をそらすように、持ち掛けられた話に、今度はハルがとんでもなくイイ笑顔浮かべ、持っていた湯飲みにピシリと皹がはいった。
ハルのアホ毛がちょっとしなびていたが、ゲゲゲの妖怪センサーのように、まるで妖気をまとったかのようにピンとたつ。

横にいたカイは訳知り顔で苦笑を浮かべ、なだめるようにハルの頭をアホ毛ごと撫で、そっと彼の腕からまだ原型をとどめている湯飲みをうばいとる。


春「ふふ。聞いて、くれるのかい?」

陽「なんでそこでシュンさんじゃなくてハルさんがイイ笑顔なんだよ!?なんでハルさんが反応するんだんよ!!!!おいハジメさん!あんた前世でなにしたんだっ!!!」

記憶を思い出した者は、ほぼ前世の能力や力、腕力がもどってくる・・・らしい。
ハルはそのパターンらしく、いままでかなり抑え込んでいたらしいが、その実かなりの怪力である。

ぶっちゃけていうと、オレとヨウ、ハルは、この世界でも獄族としての術がある程度使えるようだ。使ったことないけど。腕力も上がってもいないけど。
どうも術を出す法則が違うようで、前世の能力に関しては一回試したけどだめだった。
あと少し何かを変えれば、使える気はするんだけどな。
まぁ、それはおいおい。


春「ふふ。え?ハジメとシュンのなれそめ?ハジメ?だれだっけそれ(^v^)」
始「あれは俺だけの思い出でいい。ただの親でしかないお前に言う必要はないと思うが?(ドヤ顔)」
春「・・・(^v^)」

零「あー・・・・・(遠い目)」

たいした出会いではないと思うのだが、なぜかそこでグラビコンビが互いに互いを笑顔でけん制しはじめた。
あと二人とも、種類は違うにしろ笑顔で喧嘩とかマジやめろ。
こわいだろうが。
前世の記憶があるハルなんか、殺気なのか妖気なのかがじわりとにじみ出てる。

つかやめい!!いろいろこわいわっ!
ぶっちゃけ、まじで室内で風が吹き始めてるから!!!

ヒューヒューと、なぜか室内なのにうなり狂う風をみて思う。

こういうやりとりって前世を思い出すよねー。
“彼”はたしかに〈風〉属性の獄族だったと。
つか、さすがはハルだ。使えるものは何でも利用する黒の参謀だけある。腕力だけでなく、すっかり前世の力さえも使えるようになっている。

いろんな意味で怖すぎる。

海「こぉらハル。お前は落ち着けって」

そろそろヒューヒューが、ゴウゴウになり始めていたときだ。
そんな暴風になりはじめていたそれをとめたのは、カイだった。
俺とヨウはもう遠い目をして、風にあおられゆれる小物を死んだ魚のような眼差しで見つめることしかできなかった。
カイはペシっと掌でハルの頭を軽くたたき、その軽い衝撃一度でハルがハッと我に返る。

春「あ、ごめんね。つい怒りで我を忘れそうになっちゃったよ」

さすが契約者。あれを一発でとめたよ。
たとえ残メンでも。絶対零度の塩対応をしようとも。カイとハルはやっぱり契約者同士なんだなと思った。

暴走が落ちつついた後もカイはハルの頭をわしゃわしゃ撫でていたが、今回はハルがそれを手酷く払うこともなくあまんじて受け入れているようだった。

そうそう、契約者の手って、なぜか落ち着くんだよなー。
わかるわかる。

海「―――んで?話を戻すぜwwwまずはヨウからな。シュンたちの話をするにはちと心構えがいるようだからなwww
さてヨウ。お前さんは、ヨルに思い出してほしいとは思わないのか?」
陽「あ、俺から・・・まぁ、いいっすけど。
思い出してというと。俺だってヨルに思い出してほしいなってのはありますよ。 獄族は前世の記憶に対して淡泊とはいえ、少し寂しいですし。まぁ幼馴染として転生しただけめっけもんだけど・・・」

陽「そうだ。なぁ、“イク”はどうなんだ?“人間”のほうが不安定だろ?」


郁「俺はなんとかなってますね」


「「「イクもか!」」」

いつからいたのか、扉の前にイクがいた。

パタンと扉をしめ、ニコやかに「お邪魔します」と入ってくる。
さりげにイクが居たのにビックリする。
それほどまでに今の状況に囚われていたのを反省したくなった。

むしろイクも記憶持ちとか。
いま知ったわ。
つか、早く言えよ。まったく気づかなかった。
え?前世の記憶、あるの?!もうそっちの方に驚きだっての。

郁「あ、ルイが〈いっくんはハルさんの部屋にいくべし〉ってウィンクつきで言ってきたんで何事かなぁとは思ったんですが、前世会議だったんですね。あ、ここ失礼しまーす」

話によると、ルイに記憶はないらしいが、イクが前世の記憶をあることを一度話したことがあるのだという。
それで前世会議してるくるわと告げたカイの言葉を聞き、この部屋にイクをこさせさせたようだ。

海「イクはいつから“前のこと”を?」
郁「俺ですか?俺は小さいころから、あちらのことを夢に見ていて、徐々に思い出してて。デビュー頃にはすべて思い出してた感じかなぁ。 だからルイと会えた時はちょっと嬉しかったですね」
始「俺たちより“前世”に免疫があるのはそのせいだな。
俺の場合は、一気にずべて流れ込んできたからなぁ。はっきりいうとまだ整理がつかなくて困ってる。シュンから離れるのが怖い」

零「こうなると団体転生ってやつか?他に思い出してる奴もいそうだよなぁ」
春「うーん。どうだろう。ヨウやイックンみたいにうまく隠されちゃうと同族の気配でもさすがにわからないしなぁ」
陽「ハルさんが一番前世を引きずってなさそうに見えて、一番前世(獄族)のままだ」(顔引きつり)
春「え。だって能力使えるし、爪はさすがに無理だけど。腕力だって戻ってきたし。気配ぐらい・・・あれ?みんなちがうの?」
零「できそうだなぁとは思うが、ためしたことはねぇな。・・・いいなそれ。使えたらハジメ対策に使えそう」
春「あ、じゃぁ、あとでみんなにこっちでの術の使い方とか、応用とか教えるね」
陽「応用って・・さすが参謀」

零「ところでどう思う?このあとも思い出すやつ増えると思うか?」
春「どうだろう?でもそのときはいち早く気付いてあげたい。ハジメみたいな思い出し方だと、あっちに感情も人格も乗っ取られたりしかねないよね」
始「俺でさえギリギリなんだが・・・」
郁「ハジメさんでこれだと・・そこはわかりませんね。思い出し方って人それぞれみたいですし」
陽「現状では。思い出してるのって、俺らだけじゃね?つか“人間様”であるイクがここまで“かわらない”のには、俺も驚いだけど」
郁「とはいえ、俺だってルイと、前世の話を思い出話をかたるみたいに語れればいいなって思うことはあるんですよ。
そうなったら嬉しいけど――でも俺は、この世界でまた会えて、隣でルイが笑っていてくれるだけで幸せですから」

春零「「イッくんイケメン!!」」

キラリと白い歯を見せながら微笑む少年のあまりの漢具合に、俺はその頭をなでなでしまくり、思わずハルさんはイクにだきついたほど。
だってこんな小さいのに中身がイケメンすぎるだろ。
どっかの年長といわれる大人のくせに、ガタイがでかいだけのこどもと成り果ててる奴とは大違い。

ガタッ

なぁ〜んて思って、ハルと二人で小さなイケメンを構いまくっていたら、デカイ子供が二人ほど無言で席を立ち、自分たちを見つめてくる。
かまってとばかりにみつめてくるハジメ。
謎のポージングをしてキラリをさわやかスマイルを見せつけるカイ。

瞬間から、もうハルの目が座っていたよね。
さすがに俺もそんな二人に呆れた目を向けてしまう。

春「なに、してるのかな?(0度の眼差し)」
海「アピールだ(笑)」
始「シュン・・・」
零「やれやれ」

陽「そこの“人間様”二人。キメ顔でハルさんとシュンさんにアピールしないでください。落ち着いてください」

陽(カイはずっとハルさん以外に前世のことを言えなかったら色々たまってんだろうな。
ハジメさんはここ最近記憶取り戻したから仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけど)

ヨウが考えてることもなんとなくわかるし、ハジメが精神的にやばいのもわかってはいる。
たぶんカイはノリ・・・なのか?

迷子の子供かとばかりに、またハジメが俺の腹に抱き着いてきて、それで大人しくなった。
それにため息一つ。
今日で何度目だこれ。
カイは、ハルに思いっきりほほをつねられていた。でも嬉しそうに笑っていた。

・・・・・・。
あのままカイが別のなにかに目覚めないことを祈ろう。


郁「シュンさん」
零「ん?」
郁「獄族のお二人は、割り切りがしっかりしてますね。ハルさんなんか“前”の力を“こっち仕様”で利用しちゃうほどですし」
零「まぁ前世は前世――だけど、俺は今世でもハジメが大事なのには変わらねぇぜ。今でも続く縁って得難いものだと、再認識したとこだ」
始「さすがは俺のシュン!!」
零「とはいえ、最近はこんな感じでいろいろアレだがな」

イケメン。黒の王。クール。近づきがたい。などなど。
そう呼ばれていたはずのハジメだが、最近は王様オーラが減っている気がしなくもない。
むしろ“前”にひきずられすぎて、それを受け入れ始めているのか、もう俺に張り付くのをよしとしているような・・・まぁ、簡単に言うと、こいつもう残念な感じになりはじめているのが、ひどくもったいないところか。

こら。抱き着くな。
おいこら、少し褒めたらこれか。
だーかーらー!お前のそれは骨が折れそうだから!
いたいわ!どけよ!
万力か!

春「…………シュンはサラッと言えるよねぇ。…俺も気持ち近いけど(ポソッ)」
海「ハル…!!」
春「あ、ごめんカイのそういうところ嫌いかな。今のなかったことで」

ドン! ゲシ!!

そんな音が響いた方は、見なかったことにした。
イクはそれらの光景をしっかりと見てしまったらしく、顔を引きつらせていた。
だからみちゃいけないというのに。


ぱんぱんと埃をはらうように手をたたいたハルが、ソファーにもどってくる。
カイの姿はない。

それをみたハジメの顔が若干青ざめていて、ハルを真正面から見れず視線をあちこちに朝迷わせていた。

春「よいっしょっと。もう、変な奴らのせいで本題が反れちゃったね。ごめんね。
さぁて、ハジメ」
始「なんだ(視線をサッとそらす)」

さすがのハジメも、今は術も使えない普通の人間の状態だ。獄族の力を得たハルの敵にはなりたくないのだろう。 なにせカイであれだ。
ソファーの後ろの、カイののびきった足の先が見えるのが何よりの証拠だ。

春「俺からはなしてもいいけど。そうだね。うん。俺も“ちゃぁんと”聞きたいな。ハジメと、シュンの、契約した辺りの話」

それはもうニコニコ満面の笑顔でハルは、俺をギュッギュしてるハジメをみやる。
ハルが怖いのか、さらにハジメの腕がしまる。

思った。忍者だったらよかったのに。そうしたら、いますぐツキウサと入れ替わりの術でこの腕から逃げるのに。

あの、ハジメさん。くるしいんですが・・・


零「えーっと、あの時(前世で)いちおう説明したよな?」
春「ほら、あの時はかなり簡略されていたから事細かに聞きたいんだ」(ニッコリ)

契約した時か。
なつかしい。

っというか、俺がなにかいおうとするたびにハジメの腕の力が強くなるんですが。

いたい。
死ぬ。
意識が飛びそうになったところで、バリリと音がしそうな勢いでハジメがはがれた。
どうやらハルかそのあたりが、ハジメをひきはがしてくれたようだと、ようやく吸えた新鮮な空気にほっとする。

おー、助かった。と。
顔をあげた先には・・・


般若がいた。


春「はぁーじーめーくーん?なに、してるのかな?(ニィーッコリ)」
始「ハル・・これは、その・・・」

春「いい加減おのれの力加減を覚えんかー!!!!!」

ハルにギリギリと腕をにぎられていたハジメは、そのまま持ち上げられ、床でたおれてるカイの上に投げ飛ばされたのだった。

「ぐふっ」という二つ分のうめき声が聞こえたが、もう何も言う者はいなかった。


誰もが言葉を発せずにいる間にもハルが笑顔でこちらに振り返る。
思わず背筋を伸ばしてしまう。

零「あー、えっと。いちおう助けてくれてありがとうハル」
春「それでシュン。“あのとき”なにがあったのかな?うん?」

こ、これはまずい。
根に持っている。

俺は助けを求めるようにあちこに視線を向けるが、視線が合えばヨウは慌ててそらし、イックンは苦笑をうかべるばかり。
本当に大したことではなかったはずなんだけどなぁと思いつつ、一生懸命に“前世”の記憶を掘り返す。

そう突然言われても・・・。

春「しゅ〜ん?(^ ^)」

ああ、早く思い出せ俺。
はやく・・
じゃないと、あの笑顔の状態のハルの怒りがこっちに向く。
いや、もう向いてんのか?

ええと。
あれでもない。これでもない。

笑顔のハルに気圧され、もう頭が真っ白になりかけるが、自分を鼓舞し、必死になって頭を回転させる。


零「えっと・・あの時なぁ―――」





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





――あれは、忘れてしまっていたもうひとつの前世。
バスケ選手“火神大我”としての人生を終え、アイドルとして生まれるより前の・・・狭間の時間軸。




ハジメと契約した日。
あの日は運がなかったというか、それとも運がよかったのか。


深い深い森の奥。
いつもの調子で山に行っただけである。
本当になにひとつ普段と変わらない陽気で、かわらない行動だったのだ。

なのに、なんでこうなった。



目の前には巨大な犬。



グルルルル

零「ヒッ…!」

低いうめき声にのどが引きつる。

はっきり言うと、俺は犬が怖い。
転生前はそんなことなかったんだが、まぁ、原作通り修正力に逆らえなかったというか、【黒バス】の世界で、“火神大我”は幼い時に犬にかまれたのだ。
それ以降は、本当に犬がダメで。
ぶっちゃけ火神成り代わりを卒業したいまの“霜月シュン”となってもそれはかわらない。

つまり目の前にいるのは、俺にとっての恐怖の塊だ。

ああ、きっと今日は最悪の日と占いでもあったらいわれていただろう。
厄日だ!


零「く、来んな!!!……近づいて!?・・・・・・助け…や…は、ハル、カイ」


目の前のものにどうすることもできない恐怖がよぎり、身動きすることさえできなかった。

――頭に過るのは俺を育ててくれた2人。

パニックになってる自覚はあった。
自分は最強の種族獄族。目の前の相手ぐらいなら、本来ならば余裕のはずなのだ。
けれど無理だった。

そこにいるのは、俺にとってはとても恐ろしいもので。


ああ、歯が噛み合わない。
身体の震えが止まらない。
呼吸が一定じゃない。
全身の血の気が引いてるのが分かる。
体力自慢のはずなのに腰が抜けたまま。


なにって。
目の前には―――


大きい狗


の、妖。
そう、いつもと違うのは相対した陰のモノ。
それはずばり“犬”の姿をしたものだったのだ。



未だ火神大我としての苦手が抜けないままこの世界に獄族として転生をしまい、 テツヤ2号含め小型犬レベルの小さい犬は、なんとか、年の功か火神大我であるときに克服出来ていた。つか、本当に“なんとか”ってレベルだ。

だが、いま、目の前にいるのは、とにかくでかい。
体長は自分の二倍はあろか。
中型犬以降はもうだめなのだ。
それよりはるかに大きいなんて・・・・もう、駄目だ。怖い。無理。


なんか、ちょっとヤバイかも。
前世の・・・“火神大我”だったときの、幼い頃のトラウマが蘇る。

牙をむいてうなってきたあれを思い出す。
噛まれた痛さを思い出す。

いくら中身が歳を取ろうと、対処方があろうとも。あのときは、体が幼い子どものものであったため、自分はそのまま噛みつかれたのだ。
犬に噛みつかれた時はどうしようもなかった―――札やペルソナや剣を使えても。ときに逃げられないものがあるのだと、改めて思い知らされた瞬間だった。
結果、癒えない傷として心と体に残った。
とはいえ、前世の190cmほどでないにしても180cm超えた今、自分を余裕で覆い被される異常にデカイ犬など現実世界にはいないに等しい。

どっこい。
ここはファンタジー世界だ。
自分自身も獄族というファンタジーの象徴のような種族だしな。

つまりここには、妖と呼ばれる普通ではありえないような生き物が跋扈し、今までの常識と違うこの世界なのだ。


零「あ・・ぁ・・・」

グルルとうなるイヌの妖から、いますぐにでも視線をそらしたい気分だった。
そのまま耳も塞いでしまいたかった。

耳から入る大きな唸り声が怖い。
一瞬で切り裂かれそうなその大きな爪が怖い。
余裕で噛みつくだろうその大きな牙が怖い。

皮肉にも俺を襲った犬と姿が似ているのが更に恐怖を煽られる。
思わず左の腹を押さえる―――獄族という種族になった今では、今の体には残っていない傷痕なのに、前世の記憶がよみがえり、“火神大我”としてうけた痛みが駆け巡った。

零「っぅ!?」

わかってる。
これは幻覚だ。

イヌは怯える俺を獄族(上位者)ではなく、ターゲット(餌)として判断したようで、空に向かって一つ咆哮すると、ゆっくりとこちらに迫ってきた。
逃げないと思ってるのだろう。いや、その通りなんだけどな。イヌの歩みはひどくゆったりだ。
だがそのゆるやかな速度がよけいに恐怖をあおる。

零(分かっていても動けねぇもんだな)

こわい。こわいこわい。いたい・・・

冷や汗がとまらない。
ただただ、腹を抑えながら、イヌの目を見てるしかできなくて。

ああ、もうだめだ。


「《灯華燦爛(トウカセンラン)》」


ふいにシャン!っとした鈴の音が響いたかと思いきや、破裂するように光がカッ!と周囲を照らしだし、あまりの眩しさに視界が奪われる。
あざやかすぎる光の強さに、それが一瞬だったとしても視界を奪われたことで平衡感覚がなかなか戻せず、なんだかくらりとする。

「くらえっ《一閃戦戯(イッセンセンギ)》!」

かすむ視界にきらりと紫の光が閃光となって、白く染まった世界を切り裂く。
それとともになにかの断末魔のような大きな声が空気を震わせた。

始「大丈夫か!」
零「え・・ハ、ハジメ?」

聞き覚えのある声に、目を見張る。
かすむ目を何度も瞬き、周囲を懸命に見渡せば、しだいに周囲の輪郭も何とか把握できるようになってくる。
目が光からの攻撃にようやく慣れてきたようだ。まるで風が吹くように視界に色が戻る。

もどった視界の先には、俺を食い殺そうとしていた大きなイヌが、最後の声を振り絞るようにして・・・そして霧散する。
塵となったイヌの後ろには、右手に扇。左手に日本のそれとは違う両刃の剣をもったハジメがいた。

ハジメの扇には飾り紐がついていてそこに鈴がついていることから、強烈な光とともに響いた音の正体はアレだろう。
よくよくみれば、左手の剣には紫の光がキラキラまとわりついている。
紫。陽の気に一番馴染むという光属性というやつか。
ならば先程、みえた閃光は、彼がイヌを切り裂いたときの剣の軌跡に違いない。

零「なんで・・・ハジ・・メ?」

ハジメが剣をふるえば、剣についていた光は血を払ったときのように散って、宙でふわりと消える。
そのまま剣を鞘へと納さめたハジメが、もう地面に座り込んでいた俺のもとまでやってくる。

始「ふっ。今度は逆だな」

不敵な笑顔を浮かべ、延ばされた手に―――

俺はそこでもう大丈夫だと思えて。
安心したとたん、一気に全身から力が抜けた。


俺の意識はブツリと切れた。





次に目を覚ましたとき。
なぜか俺はハジメによって膝枕されていた。

膝枕とか乙女ゲーか!?・・・みたいな展開になっていた件。

うん。なんだこれ?

ささやかな葉擦れの音と木漏れ日から、まだあの森の中だというのはわかる。
そういう心が癒される効果音の中に、イケメンとかほんと絵になるよな
スチルにありそうありそう・・・って、違う!!!

(なんで俺!?こういうのは俺じゃなく可愛い女の子にやってやれよ!!その光景バッチリみたい!!)

絶対素敵スチルだから!

とはいえ、現実は俺が膝枕されてるわけで。
外見だけなら今のは俺の容姿は、乙女ゲーのヒロインに負けず劣らずの容姿なんだろうけど。いかんせん中身が俺の時点で、もう申し訳無さしかない。
つか恥ずかしいんだけど。
チェンジだ!!!
ぜひ、ここは女の子と俺の立場をチェンジさせてくれ!
俺でなく、華奢でフワフワという言葉が似合いそうな本物の女の子とこの膝枕をやってくれ!


思わず手で顔を覆う。
このポーズがどうのというより、もうイケメン直視に耐えられない。
下からハジメさんの超キラキラしたイケメン顔を見上げなきゃいけないって、どんな拷問だ!

始「目が覚めたか」
零「あぁ、もう“おかげさまで”バッチリ―――なぁ、あれからそんな刻は経っていないか?」
始「そうだな。まだまだ日は長い」
零「そうか。あ、膝枕悪いな。今、頭をどか・・・・・・おい。なんで額を抑えつけんだ?!」

ハジメの眉間にしわが寄った。
なんだよ。なんか文句あるのか。

始「その酷い顔で起こすのは承知しかねる」

その言葉に思わず押し黙った。
確かに未だ恐怖が身の内に居座っている。

――結論。諦めた。


始「それにしても3日ぶりだな」
零「あー・・そうだなぁ。でも結構な頻度で会ってる方じゃないか?」
始「違いないな」

そう。あの最初の熊を追いかけたハジメとの出会いから、やたらと頻度よくであっているのだ。
たまたま?かな。
たまたまだといいなぁ。いや、だって後を追いかけられてたとかだったらいやじゃん、もうそれストーカーだろ!?

まぁ、本当のことを言うと、俺がハジメの村の近くにちょくちょく遊びに来てるからなんだけど。
全国の皆さん、ご安心ください!みなさんの麗しのハジメ氏は無罪ですから!

そんなわけで、とにかくここ最近よく会うのだ。

零「ーーーにしても、よく俺が居るって気づいたな。ハジメが寄るには森でも深い場所だったのに」

始「自覚ないのか?」

零「は?」
始「不安定な気配を感知した。陰のモノかと、なにか起こる前にとその場所にかけつけた時、一帯が霜で覆われていた。 中心だと思われる場所には、お前がいて。 本当に吹けば消えそうなほど淡い炎だったが、お前は全身を覆うように白い炎をまとっていたんだぞ。一瞬別のやつに攻撃されて火だるまになってるのかとかと焦ったからな」
零「ほの、お?」
始「白いし、とくに触っても熱くもなかったからいいが」

零「やべぇ」

たしかに俺は見た目どおり、霜というか氷の属性だ。
だけど、実はもう一つ。見た目とは異なる・・・炎の属性も持っているのだ。

ハジメの言葉をきいて唖然とする。
自分のこの炎の能力は不安定で、以前怒りにまかせ暴走したことがる。
その時にとめてくれたハル達から、氷以外にも属性があることが判明したと教えられたが、あの場で“白い炎”をだした自覚はなかったのだ。
今日もそれは同じで。

あの炎が出るときは、パニックになっていることが多くて、いつか炎が周囲のひとを傷つけるんじゃないかと不安になる。
それでも“自分の意志で使えない”のだ。
にあれは“氷”とは何かが違うのだ。
まるで違う力がこの体に必死になじもうとするように、いつもの“氷”を扱うのと同じ感覚でやっても拒絶されるように、うまくつかえない。
ハルたちが、いつか使えるようになるといいねと、やさしく言ってはくれるが、今日は下手をするとハジメに怪我を負わせていたかもしれないのだ。
早く何とかしないとなと思いはしても、けっしていい気分にはなれない。
あと、あれだ。あの炎=俺ピンチという図式が、ハルとカイの間にできてしまっているので、ばれたら怒られる!!!
こわい!こわすぎる!!!
これは近いうちに“白い炎”の方も使えるようにならなくては・・・

俺が笑顔で「無茶したらだめだって言ったよね?」とそれはもうさわやかな笑顔で怒るハルの姿を想像していると、ハジメはまだあのイヌの恐怖が抜けないのかと勘違いしたようで「もうあいつはいない。大丈夫だ」と頭をそっと撫でられた。
いや、イヌじゃない!怖いのは、ハル(とかいて親)の方です!!

なんて言えない。


俺がもんもんとしていると、ふいにハジメから「あの炎はなんだ?」と聞かれたが、それは俺が聞きたいほどだ。

零「わりぃ。そこ記憶とんでるわ」
始「……そうか」

ハジメはフムと思案げな顔をすると、まっすぐに俺を見つめて言った。



始「なぁーー俺と契約する気はないか?」



零「は?」

思わず聞き直してしまったのもしょうがないと思う。
突然なんだ。むしろなんでそうなった。
意味が分からん。
なんだ?やっぱりストーカー・・いや、変態か。
だから俺をまだ膝枕してるのか!?
やだ。足しびれてないの!?やはり――

始「なぜか今すぐ“ちがうから!”と全力で否定したくなるのはなんでだ?」

俺があまりにも不審なものでも見るような顔でもしていたんだろう。首を横に振って「ちがうちがう」と前起きをして、ハジメが先程の炎のことをもう一度聞いてくる。
わかっている限りのことを話せば、といっても“自分では操れないもの”であるとしか判明していないが。するとハジメが「どうにかできるかもしれない」とつぶやいた。
目を見張る。驚きのあまり飛び起きたことで、ちょっとハジメにあやうく頭突きをしかかった。
さっとうまくよけてくれたハジメのおかげで、彼は無事だ。
運動神経いいな。人間にしておくのはもったいないレベルだ。

零「どうしたらいい!?このままじゃいつかしらないうちに誰か火傷おわせてそうでわいんだ!」
始「そのためのさっきの話だ」
零「さっき?契約のことか?」

また頭突きをするのもあれだし、むしろあの体勢いい加減恥ずかしかったしちょうどよかった。そのままハジメの正面に座りなおしてやった!やったぜ。これで見上げたまま話さずにすむ!!!
もうイケメンはお腹いっぱいだっての!!!

始「俺の属性は光。結界に特化している。俺なら、お前の暴走を止めることができる」
零「とはいえ、他人の自由を奪ってまでおさえたい能力じゃぁないんだよな。契約するとけっこうそれに縛られるってきいてるし。
そもそもハジメほどの術者なら引く手数多、選り取りみどりだろ」
始「能力の釣り合い叶った者同士でないと契約成立しないのを知ってるか?」
零「あぁ、そういえばそんな話、聞いたことあるような」
始「そういうことだ。お前と俺の力は均衡している」
零「でもなー。契約ってそうホイホイするもんじゃないって教わってるんだが」

始「安心しろ。等価交換だ」
零「へ?」
始「お前だけに有利な条件が嫌なんだろう?なら俺にもお前が力を貸せ」


始「俺には、お前をささえるだけの力がある。それでお前の大きすぎる力をおさえよう。
逆に、俺はお前の力がほしい」


どこか嬉しそうに、「お前を守るから力を貸せ」といわれた。
どこの中二病ですかと叫びたいが、なんだこのイケメン!イケメンがまじで言うと、なんと様になることだろう。
つか、その笑顔の破壊力は、きっと世界をすべてひれ伏すことができるぞ。やばいだろ。こっちまで顔が赤くなりそうだ。

始「守ることを主とした力では、限度があるんだ。戦える強さがほしい。お前の攻撃の力を俺によこせ。俺がうまく使ってやる」
零「っ!?」

もういやだこのイケメン!!!どんだけくさいせりふを言う気だ!?く〜!!!つかなんでそれが似合うんだよ!!!!
つかさ、いつまで続くのこれ?え?もしかして、これは俺が契約を承諾するまでつづくのか!この口説き文句のようなのが永遠・・・・

あ、もう契約しようかな。

思わず即決したのは仕方なくね?


さて。じゃぁ、契約しようかという流れになったのだが。
そもそも契約とか全く興味がわかず、契約について詳細をそんなに知らなかったと思い出す。そのことをハジメに伝えると、かなり呆れていた。

っで、説明をひととおりうけ。
あれよあれよという間に契約する至りになった。

なるほど。まとめると大体3、4個の工程をこなせばいいわけだな。
@条件を言いあう
A霊札を用意し、触れながら真名を交わす
B祝詞を上げる
C花が降れば成功!
祝詞ってのは、いわば誓いの言葉らしく。ぶっちゃけその場のノリ?自分で好きに言っていいらしい。
ただ、言葉にして言うことで、より契約を明確な強固なものにするんだそうだ。

なるほど。



まず何も書かれていない白い御札を渡された。

始「この札にそれぞれの血で紋を描く。」
零「血!?それ人間は出血多量にならね?」
始「つっこむところはそこなのか。まぁ、大丈夫だ。水で薄めればいいだろ」
零「へーありなのか」
始「ありだな。少しでも血が混じっていればいいんだ。一滴でもたぶん十分だな」
零「んで、祝詞を上げて、この札が俺に貼られると。
張るってなに?吸引力?なんなの?接着剤?それ、いたくないか?」
始「陰陽の力の作用らしいから、痛みはないだろう。
あとの楽しみだろうが、祝詞の段階で、札にも変化が起こる。それと・・・」

チャリッとハジメが取り出したのは、上品な蝶の耳飾りだった。
小さい割に意匠凝った職人技に驚く。
耳飾り。それは左右で一つであるのが普通なわけで、それを今取り出すということは・・・なるほど。

零「それが契約を媒介する“一対のもの”か」
始「そうだ。契約には《一対》という言葉が重視される。力が均衡であることもまた“一対”を意味するしな。
交換するものは特にそう。同じ素材で作られたもの、同じ意匠のもの、同じ色…指輪や足輪、形は様々だが耳飾りはその一種だな」
零「へぇ」

――で、言われたとおりに紋を描き、次の段階へと思ったが、全くその契約した感じが来ない。
何も変わらない。

零「契約成立しないんだが…」
始「シュン。もしかしてお前のその名は真名ではないのか?」
零「まな?真の名って書く真名のほうか」
始「ああ。獄族の中には名を隠す者も居るらしいからな」

そう言われて脳をフル回転させる。
別に隠しているわけではない。なにせこの世界で生まれた時から、俺は“霜月シュン”でしかなくて。

ん?
ちょっとまてよ。“この世界で”?

(シュンというのは今世においてハルが名付けてくれたものだ。次に浮かぶとすれば、火神大我という名・・・・・いや、この名でも成立するのか?大往生した甲斐もあってほぼ自分の名として馴染んではいるが。ちょっと違う気がする)

真名とは、真の名。
うん。それならあるじゃねぇか。もうひとつ俺が呼ばれていた名前が。

やはり真名というならば――


「“零(レイ)”―――それが自分の名だ」


ハジメの右手を取り、彼の手のひらにサラサラと爪で自分の名を漢字にしてなぞる。 ハジメはなぞられた手のひらをゆっくり眺め、俺の真名を改めて彼なりの祝詞と共に告げる。

始「【零】」

始「―――その名をこの儀にて我、主となる【ハジメ】が頂戴する。契約は言霊となりて魂に刻まれ互いを繋ぐ縁となろう」


そこで俺が持っていた札がふわりとした感じで温かくなる。
体でない別の何か、魂のようなものに、感覚がつながったのが分かる。ここでようやく「あぁ、これが契約か」と本能が実感した。
ハジメが祝詞を終えると、次いで俺が祝詞を返す。

零「我は汝・・・ 汝は我・・・
汝、新たなる絆を見出したり・・・
絆は即ち、まことを知る一歩なり。
我、獄族【零】は主【ハジメ】に更なる力の祝福を与えん」

わかりますペルソナですよね。
その祝詞は、己(零)の中でもっとも好きなペルソナのシーン。それをこの場にあわせてアレンジしたもの―――はは(笑)自分のペルソナ好きにも程がある。

言葉を重ねれば重ねていくほど、俺の腕のなかの札が熱さをまし、気づけば真っ白だった札は、真っ赤なそれにじゃわっていた。
まるで紋を描いた血の赤が抜けだし、札を覆ったようだ。かわりに血色をしていた紋が、白くなっている。

それを確認し、最後まできっちとりと互いの思うがままの祝詞を終えると、ふいに頭に自然とある単語が浮かんでくる。
ハジメをみると頷かれたので、きっとハジメもその単語を理解したのだろう。
浮かぶ単語を同時に発した。


始零「「《陰陽成就》」」


その瞬間―――


ドォォォォンン!!!!!ボフンッ!!!


「「は?」」

思わずお互いに唖然としてまうほどの轟音が鳴り響き、札からぼふん!と大量の土煙がでてきた。
おかげで俺たちの周囲は一瞬にして、モクモクとけむって、それが視界を覆い、なにがなんだかよくわからない状況に陥った。

次いで首元が重くなった。

零「ごほごほ!あ、えっなんだ?!」
始「ゲホッゴホッ」
零「ハジメぇ?!無事か!」
始「コホっ…も、んだいない」

つか、なんだいまのは!!!
いまのが契約か!契約って最後にお札からそれはもう涼やかな効果音がして、キラキラした光とか花とかがあふれてくる―――そういう綺麗で幻想的なものじゃなかったのか!?
土埃と轟音って何なんだ!まさか契約失敗とかか!?

慌てるもなかなか煙がはれず、しばらくその場を動くことができず二人そろってその場で咳込んでいた。

少ししてハジメが術で風をおこし、ようやく土埃が消えた。
ハジメを視認出来るほど土煙が収まると、今度は自分たちの変化に目が行く。
まず自分。自分の首には数珠があったのだが、それに変化があった。

零「増えてる」

元々掛けていた赤の長い数珠に、青の長い数珠が一連増えているのだ。
ほかになにか変化はないかと思っていると、土煙を吐き出したあの赤い札が手元にない。キョトキョト周囲をみわしていると、顔にちょっとなにか違和感を感じて、触れてみれば、帽子のあたりのカサリと紙の感覚が触れる。
どうやらなくなったと思った札が、どうにかして俺の頭に張り付いているようだ。
なるほど“貼り付ける”ってこういうことか。

「きゅぅ」

ふいになにやらかわいらしい声が聞こえ、そちらをみると。
ハジメがもっふとしたなにかを抱き上げていた。
よくよくみるともう一匹は、俺の足元にデーンと転がっていた。

まさか、あれとこれは笹熊!?

つーことは、契約は成功していたのか。
え。まじで?だってあの轟音と土埃だぜ。
あんな契約成就ってなにかひどくないか。


始「…これが俺達の笹熊、か?」

俺もハジメにならって、足元に丸まっている笹熊を抱き上げる。
腕の中には寝息を立てて眠る笹熊が。なんかこんなときだというのに・・・優雅だなお前。

零「いちおう・・・契約は完了したようだ、な?笹熊が無事ここに居るし」

とはいえ、本当におかしいだろ。

ハルとカイの時の契約は、辺りに薄緑と青の光の花の幻があらわれたらしいし。
アラタとアオイの時は、橙と水色の光の花がシャワーのように空からふってきたって言ってたし。
とにかくみんなの契約は、本当に幻想的で素敵だったと聞いていたんですけど!

なんで俺の時だけ轟音と土煙?!


思わず頭を抱えてうめいていたら、ハジメが笹熊を見ながらなぜか俺の顔を交互に見ている。
不思議そうに首までかしげているのでどうしたのだろうと思ったら・・・

始「お前の笹熊は変わった眉毛してるんだな」

ハジメの言葉で、改めて笹熊を見る。
そこにはひとつ前の前世で死ぬまで鏡で見た“当時の自分”とソックリな眉が・・・

パンダの眉毛は二又にわれていた。

零「は?眉分かれってこれどこの遺伝子だよ!!!俺の魂どんだけ(火神大我として)染まってんのか?!」
始「は?」
零「あ、あー!気にすんな。“ある意味”俺の笹熊なのに間違いないからっ」

(正確には前世の時の姿だがな!)

もう眉毛が変とか言ってられない。
これでいいです。
君は火神の魂を継いでるんだね(遠い目)。

あとは互いに笹熊に名を付けるだけ。

零「ハジュ」
始「カリン」

名を呼ぶとそれまでスピスピ寝ていたのが嘘のように笹熊…ハジュとカリンは同時にパチリと目を開きこちらを見る。

始零「「おお」」

テシテシとこちらに体を叩く姿が不覚にも可愛らしすぎる。



これで契約完了だ。





始「さてと、じゃぁ、帰るぞ」
零「だな。じゃぁ、またな。なにかあったらすぐ呼べよ」
始「まて。どこにいくシュン」
零「どこって家」
始「帰るのはこっちだろう。俺の村はこっちだ」
零「んん?」

始「お前を連れてくことにより俺が契約者だって皆に認識してもらう」


零(なるほど)

まぁ、人間の習慣と獄族の感覚が違うのはわかってるから、紹介程度ならと。
あっさりついていくよね。



まぁ、この選択があとあと、大問題になるわけだけど。





零「意外に視界の邪魔にならないんだな」

ペラッと捲るのは帽子に貼られた赤い御札。俺の昔の知識からすればキョンシーでよく見るアレだ。
この御札と肩にいるハジュこと笹熊は、いわゆる契約した獄族だという目印でもある。

それをいじくりながら、のんびりハジメと会話をしていれば、すぐにハジメの住む村につく。
ハジエはやはり人間のなかでもきれいな方だし、存在感が半端ないからか、村に着いた瞬間人の視線があつまってくる。

しかもハジメが暮らす東の村に入ると、ザッと人波が割れた。

そして熱い視線。
耳をよく澄ますと「ハジメ様が獄族を?!」「いや、ハジメ様のなら獄族様と呼ぶべきだ」「笹熊も連れてらっしゃる」 「獄族の中でも見目麗しいーーさすがハジメ様が契約された方だ」「これは目出度い」「お祝いの品を献上しなくては」 「なら、一等の酒を出さねば」とハジメの家に入るまで賛美などの是とする声が聞こえてくる。

たしかに獄族っていうのは、力の強さと外見の美しさってのがイコールで比例している。
力が強く上位の存在程、人外じみた美しさをもつらしい。
だから最初に会ったとき、ハジメが実は人外の存在だと思ったのは、秘密だ。
かといって、俺自身は自分のことが綺麗とかよくわらかない。だって自分のことだしな(笑)
俺としちゃぁ、俺よりハルの方がきれいだと思うんだけど。そういう基準は人間の価値観だし、まぁ、どうでもいっか。

っと、いうか。ハジメって力が強すぎて村人に嫌われてたんじゃ・・・
村人全員ってわけではなく、一部・・・だけなのか?
なら、いいんだけどな。
最初に出会ったときのハジメは、けっこう冷めた目をしていたし。あれが常よりはいいだろう。



あー・・・それにしても酒かぁ。
きっと美味しい料理とかも出るんだろうな。

オレは普通の獄族と違って霞をっ食ってるだけは生きていけない。前世の影響か、きちんとご飯は食べる派なのだ。
ハジメの横を歩きながら、そっとお腹をさすった。





始「シュン?!」


ハジメの声が響く。
なにがあったかというと、案内された屋敷に入った直後――俺はぶっ倒れた。


ぐぅぅぅぅぅ・・


お恥ずかしながら、理由はこれで明白ですよね(笑)。
その音を聞いたハジメがびっくりしている程だ。

始「…まさか、空腹か?」
零「悪い。俺は他の獄族となんか違うらしくって食べ物を摂取しないと体が貧血みたくなる」
始「とはいえ精々動物の血や生肉しか提供出来ないぞ人間は」
零「いや、むしろ人間の食事を下さい。生止めて。ちゃんと火の通った温かい人間が食べる料理じゃないと無理だから! 俺のは嗜好品じゃない。俺の場合、れっきとした“生きるためのご飯”だから!勘違いやめろください」
始「…人間じゃないだと?」

むしろ獄族の食事が人肉だと思っていたあなたの思考にビックリだよ。
せめて霞にしておけ。

零「人肉趣味じゃねぇ。魚でも獣でも野菜でもバランス良く食べるが、人間は食べねぇから!!」
始「ことごとくお前には驚かされるな」

いやね、ふつうの獄族は、さすがに人肉は・・・・
あ、でも間違いなく上位の獄族は食べないよな。
つか、それってうちの集落だけかな?
わからん。


とりあえず、あれからたっぷりご飯を食べさせてもらった。





そこからお風呂とかいろいろしてもらって。そのあとにようやく客室にとおされた。
もう夜も遅かったので寝台に横たわる。
仕立てのいい生地に、上の家柄だと再度理解した。

豪奢な天井を眺めながら、今日一日あったことを思い返す。
人間である始と契約を結び、改めて自分は今獄族、陰のモノだと理解した。

なんとなく、水色が脳裏によぎる。

零「陰…か。懐かしいな。光だった俺が。まさか影になるとは…アイツ(黒子)に言えねぇな」

前世の水色の影の薄い相棒を思い出す。
どうやら俺はもう“火神”ではいれないようだ。

寝台に寝っ転がりながら、傍にある大きな出窓から外を覗く。今日は晴れているらしく月が綺麗に出ていた。

そういや黒子が俺に宣言したのって、部活後だから必ず夜だったなと思い出す…いやー、懐かしい。

(アイツ、元気にしてっかな?俺の最期には、お互いに爺さんになってたけどよ)

ハ「きゅい!きゅ!!」
零「?!ちょっ…ハジュどうした!」

ふいにハジュが、ベシベシ俺の胸叩いて自分の主張をする。
まるで「自分が目の前にいるのに心あらずとは何事だ」と言わんばかりだ。
しかも俺が目線を向けるとフンスっと満足気で、思わず笑ってしまう。

そうだな。おまえがいたな。
そして、お前の片割れたる二割れ眉毛の“カリン”が・・・。

カリンなんて、名前からして、前世をほうふつとさせるだろう?
誠凛高校の火神大我。略して火凛ってね。
二割れ眉だし。

――なんてな。

だが、それが何よりの証拠だろう。
オレが“火神大我”であったことの証明。


零「ははっ…表情豊かだなぁ…ハルルとミミにもお前らを会わせてぇ。シンシンやキキとともに並べたらキュン死するわ」

うちの子めっちゃかわいい!
あんな爆音とともに生まれたと思えない。
いい子だなぁ。
そういえばペルソナってなんでこういうモフモフのキャラがすくな・・・・

ん?

零「モフモフ・・じゃなくて!なんで気づかなかったんだろう俺。そうだ!ペルソナ。ペルソナがあったじゃねぇーか!」
ハ「きゅ?」

すっかりこの世界に生まれてから忘れていたが、俺は前の前の前世では【P4】の主人公に成り代わっていたのだ。
そして【黒バス】時代、火神に成り代わったあとでもTVのなかに入れたのだ。
つまり今もまだ、ペルソナの能力を引き継いでいることは大いにあり得るわけで。
だが獄族になってからは、一度も使ったことがないし、その可能性さえ思いつきもしなかったのだ。
なにせ獄族は、人間のそれと生き方も生態もちがっていたし、「氷」の能力を使えるのが楽しくて、すっかり忘れていた。


零「ちょうどここにはハジメもいる。なにかあればハジメが守ってくれると期待して――」

危険がないように、念のためにハジュを肩にのせる。 興味深そうに俺の行動を見ているハジュをひとなでして、ベッドに腰かけながら、大きく深呼吸。
昔のように、手のひらに意識を集中する。
TVの中であれば、それは光輝くカードとなってあらわれるのだが、なにもおきない。

だが

零「ちょっと手ごたえがあるな。召喚のなにかが違う感じなだけで」

体のなかにあるなにかが、外へ出ようと動いているのがわかる。 そこで感じるのは、いままでなにごともなく獄族として操ってきた己の“力”とは別の《力》の気配。

獄族は大気中にある自然エネルギーをあやつる。
だが、この感覚は、違う。体の外のものを動かす感覚ではなく、そう、いうなれば“なか”のなにかをあやつらねばいけないのだろう。

獄族が術を使う際に呪文を必要としないのは、自分の中にある“力”を代価に、自然界のエネルギーを操っているからに過ぎない。
簡単に説明すると、獄族は周囲に“ふつうにあるもの”を“力”を餌にひきよせて動かしている。
逆に人間はそういった感覚的なことができない。
なので人間は、方式をくみたてて“自分の力”を形あるものに変換することで“現象”をひきおこしている。
だから獄族は呪文など必要ないのだ。
ひとの術はとても精密な現象を起こすが、獄族の術は自然現象そのままでひどくおおざっぱだ。
そう。人と獄族とは、種族も力の使い方も生き方も何もかもちがうのだ。

その普段つかう“力”とは《別のもの》が体の中にある。
その存在に。感じたことのある感覚にビックリする。

零「まさかと思うが、これって・・・もしかしちゃう?」


気付いてしまうと、すべてがあてはまる。
“氷”属性の身体には、異質な力が宿っていることも。


井体の中にあるのは“異質な気配”。けれど、それは自分にとってはとても懐かしい気配だ。

体の中、魂に呼応する呼び声。
ドクンと心臓が音を立てる。
まるで「自分たちに気付け!」と訴えるような、魂につながるような強い《別の力の本流》を感じる。

ああ、なんて喜ばしい。

“彼ら”は常に傍にいたのだ。
思わず口端がニヤリと持ち上がる。
きっといまごろは、繊細なシュンの外見には不釣り合いな、火神の時のような獰猛な笑みを浮かべていたことだろう。
ハジュが不思議そうに首をかしげていた。


“あれ”は獄族の力ではなかったのだ。
だから体になじまず反発していた。
“あれ”は、獄族でしかないと思い込んでいた自分には制御できなかった。

できるはずものなかった。

なぜなら――



零「こい!《イザナギ》!!」



再び掌を正面へと掲げる。
カードは相変わらずあらわれなかった。
しかし意識を集中した場所へ、《別の力》が流れ込んでいくのが分かる。
それは獄族が操るものでも人間が操る術とも違う法則と本流をうみだし、掌へと勢いよくむかっていく。

ぼっ!

ふいに掌の上、宙に白い炎がともる。
炎は宙で円を描くと、そこから小さな黒い影が飛び出してきた。

ふわりと白い炎のなごりを全身にまとってあらわれたのは、手のひらサイズの《イザナギ》だった。
炎はすぐにきえるも召喚に成功した存在はまだいる。

零「うっしゃぁ!!!ペルソナ召喚、成功!!!」

どうやた《別の力》の正体は、ペルソナの力だったようだ。

この世界ではどうやらペルソナの力と獄族の力は全く違うようで、それが反発しあって、 いままでは顕現に結びつかないが引き出された力が、カスッペの炎として現れていたようなのだ。
これは、力の引き出し方の法則が違うからだと、体感した今なら理解できる。

あと注ぎ込む力の大きさによって、召喚したペルソナのサイズがかわるようだ。
昔は「注ぎ込む力の大きさ」が「召喚できる子のレベル」とイコールだったきがするけど、 まぁ、前世(P4)の段階で俺自身がLV99になっちゃってたし、つまり全員カンストしたってことで、 大した問題ではないのかもしれない。
というか、こう召喚陣ぽいのから光と共ににゅ〜って現れるのは、別のペルソナでこんなのあった気がするwww
ペルソナはペルソナでも、ペルソナ違いですよwww

さて。今回は獄族としての勘が働いたおかげで助かった。
なんとなくとはいえ、少ない量しか《力》をそそぎこまなかったおかげで、ミニマムイザナギですんんだのだから。
わけもわからず大量に注ぎ込んでいたら、いまごろノーマル状態の巨大な《イザナギ》が部屋を圧迫していたことだろう。
さすがにそこまででかいと、ハジメが気づきそうだ。

ハジメといえば

零「せっかくでてきたのに悪いなイザナギ。ここはひとんちでさ。後で仲間に紹介するから今は戻ってくれ」

掌のうえの小さなイザナギに願えば、あっさりイザナギは頷く。
彼が頷くと同時に白い炎がうまれ、シュンと音を立ててそれにのみこまれるようにしてミニイザナギが消えた。
炎ももう存在していない。


使い方はわかった。

あとは、ハジメに封印も結界も不要になったと。もう暴走の心配がないのだと・・・どうやって説明するかだが。
つか、そうなると契約って、無効化されるのか?

思わずハジュをみれば、くびをかしげられた。
まぁ、契約の証拠である笹熊がここにいる時点で、大丈夫なのだろう。っと、いうことにしおこう。

とりあえず

零「あー!!!もう今日はいろいろありすぎてつかれた!これ以上考えんのも面倒だし寝よ寝よ!」

難しいことは明日だ!
名を呼べばハジュがそばにやってくる。
そのままハジュを第上げて、ベッドへと潜り込む。
ふかふかでぬくぬくボディにつられて、俺はハジュを抱きまくらにし、そのまま眠りに落ちた。





――ハジメの家に滞在して次の日。


朝飯をハジメと食べているとき、ハジメさんがありえないことをおっしゃいました。
思わず食べていた物を吹き出しそうになったというか、のどに詰まりました。

だって、今日の予定を聞かれ、ふつうに「今度こそ帰るわ」と言ったら

始「家に、帰るな」

だよ。
ひゃっほー!ツンデレキター!とか・・・・喜べない。
だってひきとめられてるの自分だぞ。

そういうのは可愛い女の子にやってくれ!
できれば視線をはずかしげにちょっとそらすとかしながら!
可愛い女の子に、ツンデレイケメン男子が・・・・・なにそれ眼福です!

とはいえ、現実がなぁ〜

零「いや、帰るし」
始「何を言ってるんだ?家は此処だろう。帰るってどこにだ?」
零「自分が住んでるとこ」
始「は?」

ハジメさんの表情から、どうやら獄族にも集落や家があるなんて考えてもいなかったらしい。
なにその野生感。笑える。

っというか、ここで問題が発生。
人間たちの間では、契約した後はそのまま一緒にいるのが当たり前だと、そう思われているらしいってこと。
伝承でもそうなっているから、契約したのに別々に暮らしている獄族と人間は、おかしな目で見られるのだとか。
いわく、あの二人不仲のらしいぜ。ってことらしい。

思わず「うわー」って声が出た。

零「術者と契約した獄族は常に一緒、ねぇ」
始「それが村でも学び舎でも教えられたものだ。獄族と術者が離れ離れなど・・・想像してなかった」
零「認識のズレだな。俺の育て親は術者と離れて数日会わない生活も当たり前だったからな」

ハルなんかでかけるとき「いってくるねー」とすっげーあっさりだし。カイは笑顔で「おう!」って見送るし。
ヨウなんか、よくヨルに怒られては家出するように、でかけちゃうし。
アラタは昼寝の場所をさがすとき、必ずアオイちゃんのそば。というわけじゃない。むしろあいつ、ひとりでいるのが結構好きだし。

うちの集落にいるやつらは、だいたいそんな感じで。
四六時中一緒にいるなんて、みたことないな。
へたすると東だけのルールか、伝わってきた伝承のせいか。
風土によって本当に文化って変わるなと、ハジメの話には驚きしかない。

そもそも陽の力をコントロール出来る人間はそう多くない。
獄族と契約するとなれば相応の力も求められる。 加えて、獄族は自由気ままだ。と、なればゴロゴロと契約組の獄族&術者がいるわけない。 こっち(東)の地域では、あまり獄族に関する資料がないのかもしれないな。


始「帰るな、シュン」
零「えっと。でもな、家を出て山篭って3日だろ。狗に襲われてハジメに介抱してもらって1日。 そのまま歓迎されて1日――流石に5日なわけよ。っで、そこまで無断外泊した事ないんだよなぁ俺」

一日二日程度連絡なしで帰ってこないぐらいなら、ハルたちに咎められることはない。
だが。ここまで連絡入れてないのも初めてのことだ。
ここの一般的な連絡手段は手紙や早馬という原始的。メールや電話が存在しない。一言言えば済むが、中々に難儀である。

零「一度、育て親に契約したの伝えときたいんだけど」


とは言ったが、帰してもらえず。
ハジメなんかは何が不安なのか、俺が一度帰ったら、この村に二度と足を運ばないとでも思ったのか、かなり必死だった。

あーもう。自信満々で俺をイヌから助けたカッコイイハジメさんはどこにいったの。
おちこんだような姿がギャップ萌えで可愛いな。なんて思ってない!



結局、なんだかんだでひきとめられ、六日目の朝を迎えてしまったわけであります。





零「あー、まじでどうしよう。絶対やばい」

井戸で顔を洗いながら、西をむく。
うむ、わからん。ハルの気配がするわけでもない。

だがさすがに無断外泊6日目って、あのハルが許すわけないと思うんだ。

コイとかカケルとかアオイちゃんとかに「霊布なしでそんな長時間外で何してたんですか!」って、泣かれてしまうかもしれない。
いや、俺って特殊体質だから、霊布とかほんとなくても太陽の下歩けるんだけど。
それにいまはハジメの札があるから、獄族でも太陽平気な状態なわけで。あ、契約したことを言ってなかった。それじゃぁ、だめか。
このままだと余計心配かけるだけだなぁ。

さて、どうハジメを説得するかと、屋敷に戻ろうとした時だった。


風がふいた。


覚えのある風に、そちらをみれば、空になにか豆粒のようなものが見えた。
それは見ている間にドンドン大きくなり――



ダァァァンッーー!!!!



俺のみている目の前で、大きな地面割れをおこしながら着地した。
「ふぁ〜やれやれ」と穏やかなさらっとした声が聞こえる。
クレーターの真ん中には、淡い髪色をした綺麗な獄族が何事もなかったように柔らかな笑顔でたたずんでいて。 その獄族の首にだきつきながら、後ろから覆いかぶさって快活そうな男がひとりはりついている。

「しまった。勢いがつきすぎちゃった。まぁ、いっか」
「びびったー!こら、ハル。いくらなんでも飛びすぎだろ!俺でも命いくらあっても足らないんだが?!」
「だらしないよね、カイも。ちゃんと、これでも気を使って跳んだだけだよ」
「どこがだ。〈カイ〜。ちょっとお出かけするからしっかり捕まっててね〉って背負われたかと思えば、一気にとぶし!! 東のっ!こんな辺境まで!!山いくつ超えたんだよ!此処まで遠出だと思わなかったぞ!」

ハルと呼ばれた獄族の背からカイと呼ばれた人間がそっとおろされる。

名前でわかる通り。ご存知俺の保護者様たちです。
恐ろしいことに、本当に西からとんできたようだ。

ちなみにハルは風属性であり、オレがみてきた獄族の中で、唯一“とぶ”ことができる。獄族だって足が二つある尾で二足歩行が主体の種族だ。つまり獄族がどんなに強い種族でも、翼もなければ普通に地面を歩くわけで、“飛べない”のだ。
これだけでもうハルがどれほどの実力者かわかっていただけることだろう。
跳躍力もたぶん風の力を使うので普通の獄族よりあるのだが、それとはちがって本当に“飛べる”のだ。
現に、ハルは普段からも高頻度で地に足をつけていない。 これは比喩や、性格や雰囲気を言っているのではなく、“本当”に風の力を利用してふわふわと宙に浮いているのだ。

そのハルが、カイ(契約者)をひっつけて、されに地割れを起こすスピードでくるって・・・・もう、わかるよな。
思わず遠い目をしてしまったのはいうまでもない。
視線をそらさなかっただけ、だれか褒めてくれ。


始「なんだ!今の音は!」

ふいに屋敷の方が騒がしくなり、ハジメを筆頭に使用人が駆けつけてくる。
ハジメが札を掲げて戦闘態勢をとっているので、まずいなーと思うが、あのハルとカイにきくだろうか?と、思わず口を開くのがためらわれた。

だって、あの二人がそろうと怖いんだもん。

つか、人間でしかないカイだけど、その攻撃力といったら、もうさすがハルの契約者とばかり。
契約できるのは、拮抗した力。といううたい文句で、カイの持つ“力”がどれほどかわかるようだろう。なんというか、その威力が。

始「・・・獄族?あの容姿からしてそうとうな力の持ち主だな・・・」
零「だろうな。なにせ、俺、鳥以外で空を飛べるのあいつぐらいしかしらないし。そりゃぁ格上じゃね」

うつろな顔をしていたかもしれない。
だが、ハジメにいぶかしまれるより先に、さっとハジメの背後に隠れた。


海「ーーーと、問答はここまででいいとして。本来の目的はいいのかハル?」
春「よくないね」

快活そうな男カイが、獄族ハルとの言い争いをやめると、人が集まってきたこちらへと振り返る。
もちろん俺はハジメを盾にした!
俺の心はバッチリ無事だ!
ハジメ?ああ、いいひとだったよね彼。

なんて、冗談はさておき。

海「ハジメってのはだれかな・・・っと。ああ、あんたかな?」

カイの声が聞こえた途端、ちょっと俺は、って、ビクッ!とか、したりしてませんよ!!
相変わらずさわやかな声ですね。
ここからだとよくみえないけど、というかみてないからわからないけど、たぶんカイは普段通りさわやかな笑顔なのだろう。
それはきっと彼の横にいるだろうハルも同じで。

海「その紫の目――ハジメさん?だろ?その容姿に覚えがある。あと強い力を持ったのが東村にいるってきいたことあるんだわ」
始「ああ、その通りだが――お前は・・・」
海「何でも屋のカイだ!よろしくなっ♪こっちのハルの契約者でなwww」
始「何でも屋・・・俺もその名は聞いたことがある。そうか、お前がカイか。・・・・・それで、お前が」


春「カイが紹介したとおり獄族のハルです。ところで――――シュンという容姿が真っ白な獄族を知りませんか?」


始(シュンが言っていた育て親とやらか)
春「ふふ。いないなんて嘘はだめだよ。そこにいる白い子はうちのこだよね?ねぇ、ハジメくん」

ハルは壮絶なほど綺麗な笑顔を浮かべて、けれど光属性の盾(という名のハジメ)さえ通り越して焼けつくような殺気を隠さずに飛ばしてきた。
口調は穏やかなのに、やばすぎる!

始(・・・っく!これが獄族の殺気か)

いえ、過保護の殺気です。

ハジメはいまだ本物の格上の獄族とやりあったことはなかったのだろう。西にはいっぱい綺麗どころがいるがな。こっちではきっとそうじゃないんだろう。
ごくりとつばを飲み込むと、ハジメは気を引き締め、名乗りを上げた。

始「たしかに。俺がハジメだ」

あ、ハジメが動いたことで、盾がなくなった。
しかたない。でるか。
ちょこんと一歩横にづれるだけで、保護者たちと視線がバッチリあう。
カイにいつものゆるい笑顔でおいでおいでとよばれたので、そばによれば――

春「ハジメくん?君、俺にいうことあるよね」
始「ここまでピンポイントに絞って、ここへきたんだ。ごまかすつもりはない。俺は睦月ハジメ!シュンの契約者となった」
春「だよねぇ。そうだと――――思ったよ!!!


ニコニコ笑顔の細められていた目がカッ!ひらいたかとおもいきや、突如ハルがとびだし拳を大きくふるった。
ガッ!!!と大きな音がする。
勢い良く拳を振るうハルに対し、ハジメが咄嗟に札を正面に掲げて盾のような結界を作ったのだ。
だが、結界はその効果を発揮するも一撃で激しい音とともに破れた。
札もボロボロと砕けて塵となってしまった。

春「へぇ、良い反射神経と即断力だね。俺の拳を札で防げるんだ」
始「こんな脆く結界が壊れたのは初めてだがな―――獄族でも高位の者と見受ける」
春「高位の者か。うん、そうかもね。・・・っで?だから、なに?」
始「そんなあなたに無断でいとし子たるシュンを奪ったこたびの非礼はお詫び申し上げる」
春「そこまでかしこまらないでくれる?俺たち獄族には階級とかないしね。そういうの人間が好きなだけでしょ。
詫びもなにもいらない。
俺の拳を防ぐだけの実力者ってのはわかった。しかも珍しい、光の加護もちってのは理解したよ。 そこまで力がある人間なら、まぁ、しょうがない。一応、認めてあげるけど」

その言葉で、いかりもなにもかも霧散させたハルに、ほっと息をつく。
それはハジメも同じだったようで、肩から一気に力が抜けるのが分かった。

春「あーあ、もうやになっちゃうなぁ。
君のことはシュンから最近よく聞いていたよ。でもまさか契約するとは思わなかったけども」
始「事情があったんだ」
春「ふーん。どうせどっちかがピンチになって、どっちかが助けるために〜とかかな? まぁ、しちゃったものはどうしようもないし、いいけどね」

そういいながら、ハジメの左頬へハルがそっと手を伸ばす。
さらりとそのまま髪をかき上げられたハジメの左耳には、蝶の耳飾り。

春「だってこれ契約の証でしょう?笹熊もいるようだし・・・。はぁー、俺がどうこういえる問題じゃないよね」

少し長めのハジメの髪の下で隠れてると思ったのに、気づくとか。
さすがハルだ。目ざとい。

海「いや、たぶんお前が右耳に見慣れないものつけてたからだろ」
零「原因俺か!?」
海「ま、認められてよかったなwwwてっきり村でも破壊するのかとヒヤヒヤしたぜ」

ハルとハジメのやりとりの被害がいかないようにと、それでカイが手招きして呼び寄せてくれたらしい。
たしかに、あのハルの術さえ使ってないとはいえ拳を防ぐとか。
あんな二人のやり取りのソバにはいたくはないからたすかった。

春「契約したからにはうちの子守ってよ、光の子」
始「ああ、もちろん」



っで。

ここまでなら、綺麗な感じで決着がついた感じである。

だが、しかし。
屋敷からでてきた使用人たちをハジメが落ち着かせて戻らせ、また屋敷にもどろうとしたところで――

春「こら帰るな」
始「っ!?」

ハルがハジメの襟首をつかみ、ひきとめる。
そこには、やはりいい笑顔のハルがいて。

春「どこに行く気かな?まだ、話は終わってないからね」
始「え」
零「ですよねー(遠い目)」
海「ははwwwこれは説教コースかなwwwまぁ、頑張れハジメ」

始「え」

春「ちょっと聞いてる?ハジメくん。あとね、できれば次から無断外泊させるとかやめてもらえます?
人間なんかに君を取られてはっきり言って腹が立ったんだよね。
うちの子を勝手につれてくとか、ポケ○ンゲットだぜ!じゃあるまいし、獄族だってね家族がいるんだから・・・・・」


そのあと、ハルの説教が永遠と続いた・・・。

なぁ、ハル。
なんかいま「ポケモ〇」がどうとかいわなかったか?





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





零「―――犬に似た陰のモノから助けてもらったのがきっかけで。
そのあとは、人間の風習で、ハジメの傍から離れることができなくて。
っと、まぁ、あとはカイとハルが知っての通りの流れだな。
いや、ほんと、まさかまじでハルが乗り込んでくとは想定外だった」
始「それは俺もだ。いくら個体差とはいえ、獄族がまさか空を飛んでくるとはだれが思う?
むしろ単独でいるのが多いと教えられたのに、しかも獄族の集落があるとか。過保護な獄族とかきいてないからな」

春「そっかぁ、イヌが原因かぁ。シュンってむかしから犬系だめだったもんね。そこはほめてあげるよハジメ」
始「・・・あまり褒められた気がしないんだか」

出会いは熊との決闘にハジメを巻き込んでしまったと話し。そして契約については、あっさり犬に襲われたんだと語れば、ハルがちょうど復活したところだったハジメをほめていた。
カイは残念ながら、もう一度沈められた。
今度はソファーの後ろではなく、机脇からカイの足が見えている。

零「まぁ、こんな感じだな。俺の契約の時なんて」
陽「まさか契約が原因で、操れなかった炎の謎が解明したとか。つか今世でTVの中というかペルソナがつかえる原因って前世の契約がほったんか!?」
春「もういっそ。契約しなければよかったのに。そうしたら前世の能力のせいで今シュンが困ることもなかっただろうし。むしろ、もういっそハジメ、契約しないほうがよかったじゃない?ほら、大事だと思う者が始からなければ今の君はこんなにSAN値がやばいことにはならなかったよ、うん。だからね、シュン離れできなくなるぐらい前世を引きづるぐらいなら、いっそ契約しないでほしかったな〜とか思ったり?」
始「根に持つなお前」

春「だって、当時のシュンは、俺たち獄族の光だったんだよ」


ひととおり、語ってマグカップを置く。
ちなみに体勢は相変わらずハジメが俺を抱きかかえたままだ。

さすがに過去話をし始めたからか、よけいにハジメが不安定になっていて、さすがのハルも今度ばかりは怒らず苦笑でゆるしていた。
だが、しかし。
俺の腰はぎゅぎゅうされてしめられてます。許すなハルよ。じわじわ苦しくなるから、そのときは助けてくれ。

陽「ハルさんがカイを連れて飛ぶ?あ!俺そこら辺記憶にあるわ。 スゴイいい笑顔でハルさんがカイ連れて飛んでって、数日帰ってこなかったやつか」
春「そうそれ」
陽「まさかあの時に、そんな恐ろしい説教事件があったなんて」
郁「ん〜。俺がいないときですよねそれ。そんなに印象的だったのヨウ?」
陽「だってあのハルさんが!ハルさんがだぞ。カイにあそこまでデレを出して強請ったのは、俺が知る限りその時だけだからな。
んで、その数日後に、ハルさんが戻ってきたかと思えば、一緒にしらない人間もつれて戻ってくるし。まぁ、ふつうになにがあった!?って思うわな」
海「いやぁ〜、あの世界にカメラが存在しなかったのが残念でならない!!あの時のハルが可愛かった!」
零「あ、おきたのかカイ」

春「今度ヨルとアオイ君に頼んで塩でももらっておこう」

陽「あー、話を戻すぜ。
シュンさんはのんきに「契約したから〜」ってハジメさんを俺達に紹介するし、よくハルさんが許したなとおどろいていれば。
今度はハジメさんが挨拶してくるんだが、なんか彼女をもらいに実家に挨拶に来た彼氏みたいで。つかさすが“人間様”だと思ったよな。なんか形式ばった感じで固かった」

始「まさか獄族の集落にいくとは思わなくてな。しかもほとんどのやつらが、“特上”クラスの獄族ばかり。 そこへ身ひとつでむかったんだ。いつ殺されるんじゃないかと、あれでも不安だったんだ」
陽「極上ってなんだそれww」
郁「たしかに。獄族って容姿がきれいなほど能力が高いのが定番だったし。ハルさんやシュンとかもう最上級クラスですよね〜」
零「あるある設定ってやつだな。人外ゆえに人外じみた美しさを持つてやつだろ」
始「というか西はなんであんなに綺麗どころが勢ぞろいしていたのか知りたいぐらいだ」
郁「今思い返すと、ハジメさん以外のツキウタメンバーほとんど西にいたんでしたっけ。あれもまた何かの縁ですかねぇ」
零「笑える話、東だと獄族って人肉をくらう種族って教えてるらしいぜwww」
陽「それで“あの”対応かwww」

海「はは。そういってやるなって。それにしてもあのお迎え合流後の自己紹介云々は、本当に娘を取られる父親の気分だったなぁ。 怖いハル母さんをよくぞ攻略した!って感じでwww」
陽「だろだろwwwあのときのハジメさんほど、緊張したハジメさんなんて今世でもみたことないぜ俺www」

始「だまれヨウ、カイ!」

春「わー、ハジメが照れてる。めずらしー」
零「こらこらハルまでハジメで遊ぶなっての」

海「そういえば、あのあとからかね?」
郁「なにが?」
海「結婚ラッシュならぬ、契約ラッシュ」
始「ぶっ?!はぁ?なんだそれは?」

郁「あ、たぶんその時期、コイとカケルが契約したんだと思いますよ。アラタがようやく一か所に安定し始めたのもそのころでしたね」
零「そういえばその時期あたりから流行りなのか?と聞きたくなるくらい契約する獄族が増えたよな」

未契約でも傍にいたもの。
仲が良かったもの。

そういった者たちが関係なく、ここぞとばかりに契約をし始めたのだ。
おかげで一時期西のある地域では、桃色オーラがそこら中ででていた。
西の獄族のとある綺麗どころなんかは、「自分だけの唯一」を得れると知るやいなや、東へ相棒狩りという名のパートナーをもとめて燃えはじめ。 多くの美人たちが東へと笑顔で旅立っていったほど。

それを思い出したのか、ヨウが激しく舌打ちをする。

陽「村中の人間と獄族がそれはノリノリでものを交換し合ってさ〜。もうそこらじゅうでいちゃいちゃラブラブと・・・今思い出してもなんか腹立つんだけど」

そういえば、幼馴染だっていうルイとイクは、あの時期がくるよりも前にはもう契約していたな。あの二人って下手をすると俺が生まれるより前には契約してなかったか?
ハルとカイの契約なんか、噂でしか聞いたことがないほど前に契約されていたわけで。
ヨウとヨルもうそう。
あ、オレが一番年下か?

春「ああ、あのときのラッシュはすごかったよね。
ハジメが〈東では一緒に暮らす風習がある〉なんていうから、あの風来坊ですぐどっかにいってたあのアラタが、アオイ君とようやく同居はじめたし。コイとカケルが契約したよね。なんかすっごく可愛い契約だった」
郁「そういえばシュンさんがハジメさんを紹介した時期から立て続けでしたね。一気に笹熊も増えたりして、村は更に賑やかになりましたし」
始「西の者は・・・その、いろんな意味で強いな(遠い目)。東は無事だっただろうか」
陽「あー旅立ったやつらな。あいつら愛に飢えてんだよ。なんちゅうか契約=自分を手放さない相手。 と認識したみたいでなー。もう目が獲物を前にした獣のごとく・・・・あーなんというか。うん。あれだハジメさん。東、無事だといいなぁ」
春「笹熊がそこらじゅうで増えてるかもね」

海「あ、そうだ」

海「笹熊で思い出したんだが。ツキウタ獄族組全員が、笹熊組と集団昼寝していたことがあるんだが」
始「なんだと!?」
春「へ!?なにその幸せそうなの!?俺もみたかった!」
隼「というか獄族組ってことはハルもそのなかにはいってるんじゃ」
春「あ、じゃぁ。俺の寝顔はいらないから」
郁「はは(苦笑)ぶれないですねハルさん」

海「くぅ!!俺は写真を撮って今世に持ち越したかった…!それほどまでに天国な光景だったのに!」
始「たしかに天国だな。そうだカイ!念写は無理か?」
海「あ、試したことねぇわ。出来・・なくはないんじゃないか?よし、やってみようぜ!」

春「俺にもちょうだいね」
郁「あ、俺にも!あとルイの分もください」

海「よし!まかせとけ!!いくぞハジメ!」
始「まかせろ」


調子づいた二人は、そのままバタバタとあわただしく部屋を出て行ったのだった。





残された俺たちはというと、少しだけ静かになった部屋で、ほーーっと盛大に息をついた。

俺は、ようやくハジメベルトが外れたことへのすがすがしさから。
ハルは、騒がしいのが消えたという気のゆるみから。
ヨウは、まっとうな奴が残ったことに安堵のため息。
イクは、たぶん不安定だったハジメが、カイとのやりとりでちょっと元気になったことで、ほっとしたのだろう。

陽「いやーなんか、本当に獄族と人って違うのな」
郁「そうみたい。人間だった俺だからいえることですが、契約者って本当に大事で仕方ないんですよ。シュンさん、ハジメさん大事にしてあげてくださいね」
零「うーん。まぁ、努力する」

春「でも守るなら、ハジメの役目じゃない?俺、前世でハジメに何があってもシュンを守れって約束取り付けたよ」
零「ああ、あったなたしかに」
陽「うわー。ハルさんが徹底的だった(苦笑)」

零「まもるっていやぁ」
郁「どうかしました?」

零「そういや、前世を思い出すより前の話なんだが。
幼いころにさ。俺が一度も犬が苦手とか話していないのに、それなのにハジメが大型犬から俺を庇ってくれたことがあったなーと。
理由聞いたら、〈そうしなくちゃ駄目だと浮かんだからな〉って言ったんだよ。
あれって絶対に、記憶がなくても前世のことを感覚何かで覚えてたって感じじゃね?」

春「くぅ!!なんか悔しい!いまじゃ残念2号なのに、記憶なくてもちゃんとシュンを護るあたり悔しいよねぇぇぇ!!」








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