有得 [アリナシセカイ]
++ 字春・IF太極伝記 ++
【太極伝奇】 外伝 01
アイドルだった弥生春もとい《花さん》は、おかしなものがみえていたらしく、余計なものを見ないように人工物をとおしてから物を見ていたらしい。
眼鏡っていうんだって。
余計なものを見ないために眼鏡をかけていたから、オレがかけてもまったく問題はなかった。
《花さん》の眼鏡のひとつには、度っていうものがはいってない伊達メガネというのもあったから、弥生春を演じるときはそれをつけさせてもらっていた。
その“見えてるもの”に関しては、魂に付属する能力だったみたいで、肉体そのものは目が悪くはないらしい。
入れ替わっているときは、オレが彼の肉体を使っていても裸眼で平気だった。
なくてもきれいに見えていたから、途中から眼鏡はかけるのをやめた。
もとの世界でオレは眼鏡なんか必要なかったから、入れ替わっているときも顔に何もない方が楽だった。
オレは獄族だから、人間とは違うから、目が悪くなることも病に侵されるなんてことも普通はないはずなんだ。
だけど、元の世界の自分の体に戻ったら、目がみずらくなっていた。
せっかく身体の不調をあらかた取り除けたのに。
せっかく契約者ができたのに。
契約者の顔が少し歪んで見えるとか・・・・・。
ちょっと残念。
まぁ、日常に不便はないから問題といえばないんだけどね。
でも。むつ、じゃなくて、〈はじめ〉の目を見てお話がしてみたいっていうのは、我儘なのかな。
【眼鏡は本体ではありません】
〜side 獄族のはる〜
オレは〈はじめ〉と契約をした後、こちらの世界の〈あおいくん〉の国にお世話になることになりました。
《花さん》が使っていた巣穴?あ、ジューキョってやつだね。そこで軽く荷物をまとめて、といっても。何を持っていけばいいのかわからないから、他人任せだけど。
それをもって・・・というか〈はじめ〉が持ってくれた。
オレ、そこまでか弱くないんだけどなぁ。
人間より力もあるし、契約のおかげで太陽も大丈夫になったのに。
始「お前、不器用だろう?」
春「う、うう・・そ、そうだけど」
向こうの世界の始の記憶も引き継いでるみたいで、こっちの〈はじめ〉のニヤリとした指摘に、否定できなくなって思わず顔をそらす。
春「で、でも・・・」
新「鞄に一緒におさまっちゃうぐらいなら、人間でも重くないから大丈夫ですって」
たしかに用意してもらったカバンに詰めたのは、〈しゅん〉がくれたツキウサによく似た小さな人形(御守りだそうで)と、たくさんの花の種が詰まった瓶だけ。
洞にあった食器、茶器や布、茶葉は、すべて〈いく〉たちがひきとってくれた。
だから本当にオレの持ち物なんてないんだけど。
でも、申し訳なくなっちゃうよね。
そんなわけで仲間たちに見送られ、オレは〈あおい〉皇子の珍道中につきあうことになりました。
〈はじめ〉もいるし、〈あらた〉もいる。
四人で、月野国を目指しているところ。
獄族狩りもおちついたので、今回はゆっくり帰れるらしい。
かえれる場所があるっていうのはいいよね。
そういえば、目のことだけど。
どうやらあのワルイヤツが、無理やり契約しようとしたせいで、肉体が限界値を超えてしまった名残みたい。
でも体が消える前に《花さん》が起きて、あの場所から逃げ出してくれてよかった。
そうでなかったら、この世界は二度と両儀が戻らなくなってた。
世界が人間に絶望してしまうところだった。
旧時代の記憶を継いでいるからと、その記憶が世界再生のカギになるなんて・・・ちょっとわらえてしまう。
本当はその記憶があるからつらかった。ここまで来る間、この長い時をひとりぼっちで生きるのは苦しい以外のなにものでもなかった。
他の同胞たちの様に、光の中に飛び込んで消えてしまいたいと何度願ったことか。
世界に太陽が戻ってきたあの日、光に惹かれて近づこうとしたオレをかばって死んでしまった第一世代のあのひと。
あのひとが「生きろ」と言ったから、オレは死ねなくなった。
何度も何度も気が狂いそうになった。できなかったけど。
実際に今回のことで、オレは自分という存在を理解してしまった。死を前にしたら、役目をはたしていないことに不安になったのだ。
だって向こうの世界はとても光にあふれていた。
ああいう温かい世界をこの世界の人にも見せてあげたくなった。
だからオレは、死ぬわけにはいかない。
ため込んだ業の重責は消えた。
あとにのこった重さは、オレが背負う分だけ。
そうしてオレはこの世界に戻ることができて、生きて、そして契約者を得ることができた。
あのまばゆい世界と同じように、太陽と命のこえにあふれた世界を〈はじめ〉に見せてあげたい。
生きることがこんなにうれしいなんて思わなかったから。
だから、死ぬわけにはいかないし。
死にたくもない。
だって、今がとっても幸せなんだ。
ああ、でも一つだけ残念なことがある。
《花さん》が背負い続けた“業”は消えたのに、その影響は計り知れなくて、一度顔まで覆った業の痣のせいか、目がかすむ。
うっすらと顔に残った痣はこれ以上濃くなることはきっともうないだろうけど、一度失った視界は、輪郭がぼやける程度に歪みを残して視力を戻している。
それでもなかなか戻る気配を見せない。
かすむ視界になれなくて、それでよくなるわけではないけれど思わず目をこすってしまう。
〈はじめ〉をさがして周囲を見渡す。
オレの。
オレの紫はどこだろう。
葵「最近、はるさん。よく目をこすっていますね」
新「いく 呼ぼうか?あいつと るい なら、呼べばどこでもかんでも道を繋げて駆けつけてくれるっしょ」
やはり最初に気づくのは、向こうの世界でもそうだった〈あおいくん〉だった。
たいした歪みじゃなかったから、言う必要性は感じなかったんだけどね。
目をこする回数の多さは、半分は無意識でやっていたせいで、そこを〈あおいくん〉につかれてしまった。
まぁ、言う必要はないと思っていただけで、隠していたつもりはないし。
それにこれは、病気ではない。むしろずいぶん回復した方だと思うんだよ。ただ、これ以上の回復の見込みはなさそうだけど。
春「うーん、でもこれ病気じゃないからねぇ。薬じゃぁどうにもならないよ」
葵「薬じゃ・・・ってやっぱり目、どうかしたんですか?」
春「あおいくん は相変わらず目ざといねぇ」
どの世界でも君はかわらない。
そう思って笑えば、〈あらた〉がなぜか顔をひきつらせた。
どうしたのって首を傾げれば
新「“相変わらず”って・・・はるさん、あおい のことしって!?」
春「ああ、うん。だいたいのひとはどんな子かわかるよ。あおいくんは、料理が上手でしょう。それにうづき、じゃなくて あらた ととっても息が合う」
新「なんで!?誰にも教えてないのに国でもらった苗字を はるさん が知ってるんですか。えー・・これってあれですか。まじで、やっぱりなにかみえてるてきな」
春「え!?見えてるのはオレじゃぁないんだけど。むしろ今は、日常もちょっとぼんやりしててほとんどみえてないぐらいだよ」
「「「!?」」」
始「お前、目が見えてないのか?」
ありゃぁ。これはしまったというべきなのかな。
で、でも心配させるようなものでなはいわけで。
春「えっと、“業”の影響で、一度完全に視力を失う寸前までいっててね。あの!でもそんな大したことじゃなくて。今は色もわかるし、ちょっと輪郭が滲むぐらいで」
それを告げたら、ギョッとした顔をされたので、慌てて訂正をしておく。
見えてるから問題は何もないのだ。
心配とか、する必要もないことなんだよ。だって見えないものをみえるようにするなんて、技術も術もないからね。
なら、必要ないことに労力は使わなくていい。
少し視界が滲む程度すぐになれる。
慣れたら、それが普通になる。普通ってことは、当たり前の日常ってことだから。
気を遣う、必要はないのだ。
春「すぐにこの感覚にも慣れるよ。だから気にし」
葵「気にしますっ!!」
気にしないでと言おうとしたら、〈あおいくん〉にガッシリと腕をつかまれ、ぎゅうって握られる。
真摯な眼差しで何か訴えるようにみつめてくる。でも、なんで〈あおいくん〉がそこまで真剣になるのかわからない。
だって、これはやがて“普通”になることなのに。
葵「次の街で眼鏡を作りましょう!ねっ!はじめさん!!なにより はるさん が第一です!!」
始「ですね。獄族が二人もいるから、森を突っ切る最短距離のルートを行こうと思っていたが、ここは慎重に行くか。あおい様、ルートを変えます。眼鏡をおいているような大きな町というと・・・」
春「?」
新「あ!はるさん はずっと人を避けていたから、眼鏡が何か知らないんじゃ」
春「一応・・・知ってる、よ?」
早速とばかりに、〈あおいくん〉と〈はじめ〉が、旅路の変更を練り始める。
眼鏡を作る?
オレには必要ない物だよね。
《花さん》はかけていたけど。
彼は“悪いものを見なくするため”に眼鏡をつかっていたから、そういう用途のはず。なら、やっぱりオレには必要ないよね。それは間違いはないはず。
思い返してみると、あの光輝く世界は、本当にすごいんだなって気づいた。だってあの世界にはたくさんの“みえる人”がいたってことでしょう。眼鏡をかけた人はすごくたくさんいたもの。
魔力っていう不思議な力があるぐらいだもんね。それなら納得だ。
あ、そっか。SOARAのあの眼鏡の子も、あのときあった司会者の人も・・・なるほど。彼らは“みえるひと”だったんだね。
あちらの世界には、眼鏡の人がたくさんいた。つまりその全員が特殊な目をした人たち。
本当にあの世界はすごい世界だったんだって、今更実感したよ。
春「眼鏡っていうのは、悪いものが見えないように目の上にガラスをはりつけて、悪いものが見えないようにする道具だよね?」
新「見えなくしちゃダメだろ・・・」
葵「はるさん!眼鏡っていうのは、視力が弱い人を助けるための道具なんです!!輪郭がぼやけるぐらいなら、眼鏡があれば、すぐに はるさん は今までと同じような視界を取り戻せるんですよ!」
始「まぁ、視野は若干狭くなるだろうが。ないよりいいだろう」
〈あおいくん〉との相談を終えた〈はじめ〉が近づいてきて、その手が頬に触れる。
あったかい。
人のぬくもりってどうしてこんなに心地いいんだろう。
これは心臓から血が全身へとめぐっているからだろうか?それとも、人間には、心や感情がいっぱいつまっているからだろうか。
いまなら、なんとなく人間が陽の力だけで生きてるのが分かるような気がする。
別の世界で、人々はとてもキラキラしていた。
心や感情のままに体を動かし、太陽の光を沢山浴びて、たくさん笑って、泣いて怒って。
きっと心というのは、そういうたくさんの感情とかが詰め合わせたキラキラしたもののことで、それこそが本物の「光」なんだって思う。
獄族の体温が低いのは、体の中に光がないからだ。
オレにももっと光がほしい。
あったかいそれがほしい。
そう思って、〈はじめ〉からのその温もりを逃がしたくなくなくて、自分から彼の手に頬を擦り付けるようにすれば、触れたそこから暖かくなっていくようだ。
ほわっとした、柔らかい笑い声が聞こえた。
手をたどって、〈はじめ〉の顔を探す。
ぼんやりと紫がみえた。
始「たしかに若干焦点がずれてるな。
なぁ、はる。あおい様 が言ったように、眼鏡ってのは、見えなくさせるんじゃなくて、お前の目をみえるようにしてくれるものだ」
春「みえるように・・」
眼鏡は、みえるようにする道具?
向こうの世界での《花さん》の使い方と真逆な気がするけど。
けど“みえる”というその言葉に興味がひかれる。
もしそれが本当なら、この霞んだ視界はきちんと物をとらえることができるようになるのだろうか。
そうしたら――
春「それがあれば、ちゃんと はじめ がみえる?」
始「ああ。もっとお前にいろんなもんも見せてやれる」
オレのじゃない始の顔はもう見飽きるぐらい見たけれど、みたいのは彼の顔ではない。
オレの大切。
オレの世界の、オレと契約をしてくれた唯一の ――〈はじめ〉。
彼でなければ意味がない。
なのに、せっかく生きるべき世界にオレはもどってこれたのに、一番大切なものが見えない。
それだけがつらかったから。
春「はじめ の顔がみれるなら、それはきっと必要なことだね」
当然だろうと、不敵に笑う声が聞こえた。
新「よう じゃないけど・・・甘い。あますぎる。喉をこうかきむしりたくなるような・・・なんであの二人はああなんだ」
葵「まぁまぁ、あらた。
はるさん ってなんだか、すぐにも消えちゃいそうな儚い感じで、吹けば消えちゃいそうじゃない。
あのひとは、自分の立場をよくわかってるから身動きができないんじゃないかな。第二世代っていう重い宿命を負った獄族だからか、世間と、いやそれどころか仮にも仲間である普通の獄族にも一線をひいてる。それを絶対に超えない。たぶん はるさん 自身、そういう線引きしてるって自覚はないだろうけどね。
はじめさん は、そんな はるさん をつなぎとめようとするので必死なんだよ。邪魔しちゃだめだよ あらた」
新「それはわかる。わかるけど・・・あまい。よう が、死んでも俺たちの旅についていきたくないって言った意味が今ならわかる。目のやり場に困るというか」
葵「微笑ましいよねあのふたり。恋愛とかじゃなくてさ、互いに互いが、ようやくみつけた大切な宝物なんじゃない?」
新「・・・まぁ、な。色ボケしてるなら、さすがに本人たちに抗議のツッコミをいれてる」
葵「うん。二人とも違うんだよね〜そういうのとは。痛々しいぐらいに、すごい小さなことで幸せって思ってるみたいで・・・」
新「はるさん ってさ、誰よりも長く生きているだろ。だからこそ獄族らしいっちゃ、獄族らしいんだよ」
葵「うん?」
新「つまりさ。はるさん は、人間をあまり知らない。
だから、はるさん がもっている感情って、少ないんだよ。
はるさん は人間が好きだ。世界も好き。俺たちを育てるとき、最初に感情が育つようにと愛情をもって育ててくれたけど。
はるさんを育てたひとはいるかっていうと、答えはNO。
結果として、はるさん は愛情の渡し方は知っていても受け取り方を知らない。理解している感情も、たぶん人間の傍にいた俺より遥かに少ないと思う。
あのひとは、敵だと思ったものは無感情に切り捨てることができる。人間みたいに、いちいち相手のことを考えたりしない。滅ぼす相手に対して、 はるさん はあとにもさきにも何も思わない。
ひとやひとの笑顔が好きだと豪語していても、たとえば世界中のみんなが幸せになることを願っても。その世界中の中に、はるさん 自身は含まれていない。
あのひとはさ、そういうひとなんだよ。
だけど〈はじめ〉さんと出会って、はるさん は“一緒に生きたい”って願った。
それはずっとずっと叶わなかった願い。誰にもかなえてあげることができなかった、はるさん の唯一の欲。
願いが叶えられると知った はるさん が、こうやってどんどん“したいこと”をみつけてく。それがきっと生きがいにもなるし、とてもいいことだ」
葵「うん・・うん、そうだね」
新「っと、いうわけで。いいことなのはわかる。
はるさん は、しらないことを知るたびに、どんどん笑顔を増やしていく。うん。みているこっちも嬉しい。当事者の はるさん は、もっと嬉しいんだってわかる。
些細なことでもうれしいって感情があふれてくるんだって、見ていて凄いわかる。
そんな はるさん の笑顔をみたいっていう はじめさん の気持ちも、「子」としてはよーくわかる。
それが恋愛感情とは違うってのも。はじめさんは はるさん に過保護すぎなだけ。それはまぁ、わかる。たださ・・・」
新「その些細なことで見せるふたりの幸せオーラがまぶしいぃぃぃぃぃ!!!純粋すぎてみてられないというかっ!!清過ぎて近づけないというかぁ!
俺ってなんて心がすさんでいて、汚い存在だろうと思い知らされるというかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
葵「はは(苦笑)。まぁ、それはわからなくはないかな」
新「だろ!?そうだろうとも。あおい だってそう思うだろ?」
葵「はるさん って、なんだか凄くものを知らないというか。変なっていうとおかしいか。旧時代の知識はあるみたいなんだよね。さすがは第二世代ってことだよね。旧時代の科学知識、世界がこうなる前の記憶があるから、いろいろくわしい。でも今の常識を知らないというか。
博識なのに、そこで純粋さをひきたててるよね」
新「はるさん は箱入りというか、本当に人をさけてたってせいもあるけど」
葵「自分の中にためこんじゃって。文句も不満もつらいことも全部のみこんでしまうひと・・・かな?」
新「たぶん、ちょっと違う。
本来の獄族ならではの思考に近いんだよあのひと。
さっきも言っただろ俺。感情がすくないって。
俺や月野国の獄族連中とは違って、はるさん は“必要”か、そうでないかでしか判断ができない。
ぼやけた視界でも慣れれば、それが普通になる。普通っていうことは、それは常の事で、問題ないことと同義。だから他人に言う必要はない。さっきそう判断したみたいに。
欲がないというか。なにかをしたいっていう感覚が薄いんだと思う。
はるさん が願っていたのは、“かえりたい”。“さびしい”。それだけが、唯一の強い強い願望だった風に思うし。それは今も同じ。ああ、でも今は“嬉しい”って感情がずいぶん増えたよね」
葵「その願いを叶えたのは、はじめさん だよね。
はるさん にとって、はじめさん は契約者っていう以上に、すごい大切なんだね。
だから はじめさん を確認できるようになるために、視力は必要――ってことか」
新「そういう考え方であってるとは思う」
新「はぁ〜・・・。
はるさん は、まだ許せる。あのひとあんなだし。しかたない。うん。
だけど、はじめさん はアウトでしょ。はじめさん、はるさん に激アマ!!まぁ、あんな出会いだったから仕方ないっちゃ仕方ないだろうけど。それにしても過保護すぎ!!!瓶一個ぐらい持って歩けるわっ!!」
葵「そ、そこはね(苦笑)あれはさすがにちょっとやりすぎだけど。
やっぱり心配なんじゃない?ほら、あんな出会いだし」
新「あんな出会いとはいえ!もう はるさん は治ったんだぞ!?体調不良も怪我も病もすべて吹っ飛んで、自分の足でもしっかり歩けるようになったし!!!荷物ぐらい自分で持つのもできるし。はるさん だって、火にヤカンを置くぐらいできるし!はるさん の淹れる紅茶は美味いんだぞー!それさえさせないなんて!!あんなに割れるガラスを扱うようにエスコートまでして!!!あまいぃ〜あますぎるぅ〜(ギリギリギリ)」
葵「大切・・・にしても。たしかに、さすがにやりすぎ・・・なのかな?」
新「あと、はじめさん の仕草がいちいちエロイぃ!!片思い相手を一生懸命振りむかそうと献身的な男の構図にしかみえない!!!」
葵「えろ・・・って。えぇー、さすがにそこまではいかないでしょ・・・・たぶん。いや、でも・・・・・・あー・・うん。はじめさん は、情熱的なまなざしだよね」
新「言葉を言い換えてもアウトだ!アウトぉー!!!」
葵「あらた・・・お母さんを再婚相手の新しいお父さんに奪われてだだこねてる子供みたいだよ」
新「Σ(゚Д゚)!?」
* * * * *
ついた人間の町はとても大きくて。結界もしっかりはられている。
大きいと思ったけど、月野国の比ではないんだって。
人間って本当にすごいね。
あの崩壊の日のあとも地上で生き残るすべを自分たちで編み出しちゃったんだもん。本当にすごい。
春「ふふ。なんだか顔がくすぐったいねぇ」
始「それこそ慣れだな」
それに眼鏡なんて技術も凄い。
光あふれるあの世界で、何度もかけた眼鏡を自分がかけることになるとは思いもよらなかった。
眼鏡をかけただけで、世界がパッと煌めくように鮮明になった。
〈はじめ〉と出会ってから、灰色だったこの世界にようやく色がついたような気がした。
だけどそれとも違う。もっと鮮明な視界。
そっかぁ、こんなに世界は綺麗だったんだね。
始「はる」
名を呼ばれて振り返る。
「似合うかな?」なぁんて、人間をまねてきいてみれば、「なるほどこっちが本体だったか。それほどしっくりくるぞ」と言われ、おかしくなってわらう。
あちらの世界でみんなが眼鏡を本体って呼ぶのは、そういう意味かと納得。
ああ、でもこれで――
〈はじめ〉の顔に手を伸ばす。
これが〈はじめ〉の・・
これが髪の毛。
これが眉。
これが耳。
これが頬。
これが口。
これが・・・目。
始「ようやく視線が合ったな」
春「ふふ。はじめ の目は、思っていたよりすごい綺麗だったんだね」
お互いの目の中に。お互いが映っているのまではっきりみえる。
ああ、嬉しいな。
冬はまだ終わらず、春もきてはいないけれど。
雪ばかりの世界だけど。
世界はこんなにもきれいだった。
新「アオイサン、ホッペサワリアウノハ・・・」
葵「二人が嬉しそうだからいいんじゃない?とりあえず、あらた。慣れよう。うん」