有得 [アリナシセカイ]
++ 字春・IF太極伝記 ++



03:Faith and Promise
※『漢字の名』…アイドル世界の住人のセリフ
※「ひらがな名」…太極世界の住人のセリフ



あのこたちはどこだろう?

〈はる〉が気が付いた時には、そこはみたことのない明るい世界だった。





〜 Side太極伝記のはる 〜





〈はる〉がいた世界は、陰陽のバランスが崩れた世界だった。
否、バランスが崩れる前までは、二つの力が均衡を保つようにと人々は暮らしていた。

その世界では科学が発達し、陰と陽の力の解明が進み、陰陽もまた一つの原子として識別されていた。
そのため人々は二つの力が混ざりあったりせず、相容れないものであり、どちらかに偏るのは世界に大いなる影響を与えることをきちんと把握していた。

しかし「陽の力」は扱うには条件が厳しく、かつ動かせる力も微々たるものだった。
かわりに「陰の力」は代償もすくなく、動かせる力は「陽の力」の数倍はあり、その使いかってのよさに人々は「陰の力」こそ"願い"をかなえる物質と考えるようになった。
現に「陰の力」は、人々の"願い"に応え続けた。

そうして人々はしだいに「陰の力」に傾向するようになっていき、力のバランスの傾きによる弊害が目で見えるものではなかたっため、陰陽のバランスを維持しなければいけなかった意味さえ忘れていった。
目に見えないだけで、「陰の力」はじわじわと人々の体に浸食をはじめていたが、それを知る者はいない。


人々の欲はとどまることを知らず。
いつしか人々は陰陽の均衡など忘れ去り、「陰の力」ばかりを利用するようになっていった。

そうして陰陽は傾き続けるなか、ある科学者が「陰の力」を直接体内に取り込む「外法」にいきあたる。
いままでは「式(プログラム)」を用いて、力の動きや力によってうまれる現象を制御していた。
科学者が生み出した新たな手段は、いままでのようにプログラムや道具といったなにかを媒体とした使用方法とは異なり、「陰の力」を直接人間の体内に注入するというもので、少しの「因子」だけでいままで以上の効果を発揮し、取り込んだ者に超常の力を与えた。
その「外法」は世に出ればすぐに広まることは間違いなく、科学者のもとに多くの政界人が訪れるほどだった。
しかし世間に公表される間際、科学者はさらなる禁忌へと手を出した。
彼は人が制御できる範囲を超えた力を望み、それだけの「陰の力」を自分の身へとおろしたのだ。


その日、世界は闇に覆われた。


一瞬の出来事だったと、"当時を知る者たち"は語る。

それは科学者が「陰の力」がどこまで人間の器で耐えられるのかと、自分の体で試したのがきっかけだった。
「陰の力」は何ができるのかという問いに対しておおまかにいってしまえば、"どんな願いも叶える"。正確にはある程度のことに応用が可能だったにすぎない。適応範囲が広い物質だった。それはすなわちいろんなものと結合しやすいともいえる。
だがこの性質上、"願い"という強い感情と呼応することがある。
そのため科学者の最初の"願い"に共鳴した力は、どんどん「陰の力」を呼び集め科学者へと流し続けた。
科学者は己の中に埋め込んだ力と、外の力がリンクし影響が拡大していくのを感じた。
流れこみ続ける力に「もう無理だ」「身体が破裂してしまう」と身の危険を感じ取ったが、「もっと」「もっと」という最初の科学者の渇望だけが暴走し、その"想い"が「陰の力」と呼応していたがため、力の暴走は止まることがなかった。
科学者の体内にあった"願い"と力は空気中に満ちる「陰の力」とも融合していき、やがて世界中の「陰の力」が引きづられるように科学者のもとへと流れこんだ。
力は濃度を増していき、やがて眼に見えなかった原子たちが目に見えるほどに膨らんでいく。
黒い力の流れとなったそれは、「もう望んでない!」そう科学者が拒否を繰り返しているにもかかわらず、最初に「欲望という願い」に連結された「陰の力」は、ひたすらに世界中から同じ力をひきよせ科学者に注ぎ続けた。

「あいつは神を降ろしたんだ」

そう見えたのだという。

「陰の力」が目に見えるほど濃密さを増し黒い奔流となって科学者の男へと降り注ぐ様は、黒き光の柱のようであった。
男が悪魔と契約したかのようにも、神話に出てくる悪しき神の降臨のようにもみえたという。

男が力を拒否しても、とどまるところをしらない「陰の力」は、永遠と一人の男のもとにふりそそぎつづけた。
しかしそれは時間にして一瞬のこと。科学者だったものは、やがて人の姿を保てなくなり、巨大な力の奔流に飲まれやがて塵となってかききえた。
器となるべく存在が消えたことで力は行き場を見失い、かのものがいた地を中心に爆発するように広がった。
濃度を増し人々に視認できるようにまでなった「陰の力」は、黒く巨大な闇となり、太陽を覆い隠した。
そして「陰の力」は、黒い雨となり、黒い強風となり世界中に降り注いだ。
その影響は計り知れず、その日その瞬間に人類はほぼ滅んだとされる。
人間ばかりに影響を与えたのは、きっかけが人間の科学者の願いから始まったがゆえである。

世界が闇に覆われた瞬間、雨を通じ風を通じ世界中の人間の体中に、人が扱える度合いを超えた力が流れこむ。
生物の肉体はそれに耐えきれず、破裂し、塵となり、ときに力の奔流に耐えぬいた者もいたがみな異形へと姿を変えた。

世界が滅んだのは一瞬だった。

そうして、その日を境に世界中に「陰の力」があふれ、太陽は闇に飲みこまれ、空気中には常に目に見える濃度で「陰の力」が充満し、空さえみえない暗黒世界と変貌を遂げた。
常に夜しかない世界。 おかげで気温が上がらない世界では、雪がやまず、大地のほとんどを白銀がしめる氷で覆われた不毛地帯となった。

陰陽の崩壊と、寒波、太陽の喪失により、世界は多くを奪われたが、その中でも生き残った人々が地下へと逃げ、生き延びた生き物たちらとともに必死に命をつないでいた。

異変のあとの地上では、新たな種族が生まれていた。
世界が闇に飲まれた日、多くの人々が世界を覆う「陰の力」にのまれ消えていった。ある者は人間ではなくなり異形となった。「陰の力」が満ちた空間では、すぐに身体に「陰の力」がはいりこんでしまい肉体を再生してしまうため、死ねなくなったものもいた。そういったものたちが地上に取り残されていたのだ。
以降、ヒトガタのまま死ねなくなった人間だった者たちは、地獄を地上へ招いた一族 ――【獄族】とよばれるようになった。
基本「陰の力」は人だった者たちや人に作用される。だが、まれに「陰の力」がたまりにたまった場所では人以外の生き物たちも変異し、怪物となることもあった。そういったものは【陰のモノ】とよばれるようになる。
どちらも暗闇で生きることに特化した化け物たちである。


〈はる〉が生まれたのは、陰陽が陰に完全に傾いた直後だった。

死んでいった者たち、獄族となった者たち、異形となった者たち…そんな人々の悲鳴と嘆きと、崩壊前の輝く世界であったころにもどりたいという強い"願い"が連鎖反応を起こし、世界を覆う「陰の力(願いをかなえる因子)」と結合し、〈はる〉は高エネルギーを凝縮して生まれた。
それはすべての爆心地でもある科学者が、その存在を消した場所でもあった。

〈はる〉は人ではなかった。
人の形をした闇だった。
「陰の力」そのものともいえる〈はる〉は、"願い"を核とし生まれたため、“人々の願いをかなえる力”を持っていた。
そしてあまたの人々の想いを引き継ぐように、生まれながらに人々がまだ太陽の下を歩いていた頃の世界の記憶をもっていた。
それはまるで「人間が起こした罪を忘れるな」という世界からの人類への伝言のように。

〈はる〉は"世界の記憶"とともに、自分ではない"ひとりの人間"の人生の一生についても知っていた。
それは〈はる〉の身を形どるエネルギーが、その場にいた人間からはなたれたものがゆえだった。
実験に失敗したことで世界を滅ぼしてしまった科学者の絶望と心残りが、未練にあふれさまよう魂のように、その場に満ちる力に染み込んでいたのだ。
だからこそ〈はる〉は知っていた。
科学者はもともと気の弱い男で、野心もなければ世界を滅ぼすつもりはなかったということを。
彼の本当の目的は、長年使い続けたがゆえに人々の遺伝子の中に組み込まれた「陰の力」を除去することだった。
彼の愛する者が、「陰の力」を生まれながらに多く内包していたせいで、使用し続けた結果起き上がることもできない状況にあった。
その時代数は少ないながら「陰の力」の反動が人々に現れ始めていたのだ。
科学者が研究を始めたのもそのためだった。
彼はただ己の愛したものの病を治す手段を探していたにすぎない。誰かを幸せにしたかった。それだけだった。
世界を滅ぼしてしまったあわれなその人間が本当は何を望んでいたか、なんのために実験を繰り返していたか、何が原因で世界を滅ぼすにいたったか。そのすべての記憶を〈はる〉は引き継いでいた。
〈はる〉は、その秘めたる真実を生涯だれかに教えることもなければ、そのことについて口にすることはなかったが、本当にすべてを"知っていた"のだ。

悲しみのなか死んでいった哀れな科学者は、世界を滅ぼすという重い咎を負った。
世界は、人や生物ごときが滅ぼうが気にはしなかっただろうが、それが"世界そのもの"に及んだことで、責任を"人類"へ背負わせた。
咎をおった本人はすでに塵となって消えてしまっている。
ゆえにそれは、"その後"を生き抜いた者たちに"業"として引き継がれていくこととなる。


すべての始まりにしてすべての終わりをまねいた科学者の名は、ファウストといった。

歴史に刻まれることはなかったが、ファウストを止めようとする者も当然いた。
その者もまた科学者であり、ファウストとともに「陰の力」の研究をしていた。
××といった科学者は、無謀なファウストの研究を止めようとしたが、駆けつけたときには「陰の力」は暴走を始めていた。
そして××がファウストに手を伸ばしたまさにその瞬間、巨大な「陰の力」がファウストの研究に流れこんだ。それはまるで空を覆いつくす夜がそのまま大地に引っ張られているかのように、夜の帷は空から零れ落ちる黒い滝となって、一か所に集まり注がれた。
「陰の力」は空からのび、集中しすぎた力はやがて膨れ上がり、ファウストも、××ものみこんだ。黒い光につつまれ身体が身の内から焼かれ、肉体が変異するのを感じつつ××はことのなりゆきをみていた。
友が最後に涙をこぼしてこちらをみたのを。友の体が塵となり霧散していく様を。
そして爆ぜるように、力はあふれ出し、それはいっきに世界を覆いつくした。

これにて、一人の偉大なる科学者は、あまたの人間たちとともに世界から消えた。

何の因果か、××は暴走する力の根源のすぐ近くにいたにもかかわらず、彼は生き残ることができた。ただし、友を止めることができなかったその代償のように、彼は人ではなくなり、死ねない体となってしまった。

〈はる〉は、「陰の力」の大爆発後によって生まれた高エネルギーをもとに、かの科学者が死んだ場所にして、最も力が集まっていたその場所に、小さな子供の姿で誕生した。
××は世界が滅びる瞬間も、世界が変革していく様も経験し、変異した己とはまた違う"新たな種"が誕生した瞬間をも見た唯一の目撃者だった。

その後、新たに生まれたこどもは、自らを〈はる〉と名乗る。
世界から"そうあれ"と望まれたがゆえの名であり、世界が人類を見定めるために"崩壊前の人類の記憶"を生まれながらに与えられているとも。

それを聞いた××は、まだ人類は世界に見捨てられてはいないのだと涙した。
〈このあたらしい生き物〉が、再び世界に「春」をとりもどすための鍵となるのを知った。

友を止められなかった罪悪感に押しつぶされそうになっていた××が異形に姿を変えた後も、世界が闇に覆われてしまった後も、死を選ばず希望を見いだし踏み出せたのは〈はる〉のおかげであった。
××は、〈はる〉を育てることを決めた。
知識はあれどそれを生かす術も、使用法も、知識の意味さえもわからない無垢な〈生まれたての命〉に、人間とはどういうものかを教え、まだ空っぽの心にやがて感情が芽生えるようにと慈しみ育てた。
そうして××と〈はる〉の生活が始まった。

××は手始めに生き残った施設のすべての機能と使い方を〈はる〉へ教えた。
そして友の研究のすべてを。
二度と同じことが起きないようにと、人間への戒めとして、"すべて"を〈はる〉に知識として教えていった。


地上のすべてが暗闇に覆われてからどれだけたったのか、黒く染まった空気がずいぶんとうすらぎ、地上にもちらほら人間たちが出始めてきたころ。あるとき空の雲間が一部うごき、闇が一瞬薄らぎ、光が差し込んだ。
太陽が戻ってきたのだ。
しかしそれは闇の中の生活に特化した変化を遂げた人類を攻撃するものだった。
「陰の力」を許容以上に浴びて獄族になった者たち、「力」が入り込み"陰のモノ"となってしまった生き物たち――彼らは光を浴びたことがなかった。耐性などみじんもなかったのだ。
そういった者たちの体内では陰陽のバランスが一方向のみに偏っていたため、光を浴び「陽の力」にあてられると、体の細胞という細胞が状態を維持できず、体の結合がほどけ分解して崩れ消滅して消えてしまった。
世界中に「陰の力」があふれていたからこそ死ねない不死の肉体となった者たちだ。彼らには相反する「陽の力」はまさに猛毒だった。

〈はる〉は滅びる前の時代を記録として知っていた。そのため知識として太陽を知っていた。うん百年、いや数千年たっただろうか。ようやく望んでいた太陽に、思わず手を伸ばしてしまったのも致し方がないことだった。
だが光に手が触れ、そこで指先が火傷をおい、体の細胞がすべて蒸発するかのような感覚に目を見張り、驚きに光から数歩後ずさった。

獄族が、陰から生まれたものたちが、「陽の力」が弱点だと、このときようやくみな気づいたのだ。

そして光は動くということを長い年月の間に人々は忘れていた。太陽の傾きにしろ、雲の動きにしろ光は形を変えるのだ。

そのことにいち早く思い出した××が、動いた光の柱に身を焼かれそうになった幼い〈はる〉をかばい、光から遠ざけようと〈はる〉を投げ飛ばす代わりに身代わりとなった。
××は〈はる〉の目の前で光に焼かれた。

光という脅威。実感するのは、細胞が崩れていく痛みと衝撃。それとともに、××としてはようやく終わりを感じていた。
世界を破滅へと追いやってしまった友人。そうしておとずれた人類の滅び。世界が壊れた元凶の片棒を担いでいたというのは、いつまでたっても罪悪感となって残っていたし、××の心を長年むしばんでいた。
自分だけが生き残ったその負い目を感じるのは、今日で終わるのだと――××は身体を日に焼かれながら、安堵さえしていた。
だからその身が光に焼かれようと、××は満足していた。
ただひとつの心残りは〈はる〉を残していくことだったが、彼にはすべてを教えた。
だから××は、後悔と懺悔で泣いていた友人とは違って、笑って別れを告げられた。

××が最後に〈はる〉に言い残したのは――「生きろ」。

〈はる〉という存在は、重い咎を引きついだ人類へ世界が残した残したチャンス。××は〈はる〉という存在をそう考えていた。だからこそ死なすわけにはいかなかった。
否、長い年月ともにいたのだ。
そんな正義感や義務感よりもはるかに強い"想い"、情がすべてを勝っていた。

どうか。愛しい我が子が…あの子が望むままに、あの太陽の下を笑顔でかけまる日がきますよに。

だから笑って「生きろ」と告げた。
まだ何も始まっていないんだ。「こんなところで死んでくれるな」と願った。


その三文字だけを残して光に焼かれて消えていった××に、〈はる〉は死ぬことができなくなった。
呪いのように、その言葉がずっと〈はる〉を生かした。

動脈と呼ばれる個所や首を切ろうともすぐに修復されてしまう。「陽の力」以外では己は死ねはしない。
かといって、生きなくてはいけないから、太陽に飛び込むことはできなかった。
そもそも自殺はもってのほかだ。なにせ「生きろ」と「死ぬな」と"願われた"のだから。
そうして〈はる〉はひとりで生きた。

生きて生きて、生き続けて――。


太陽が世界に現れてから、また長い年月が経った。
一日のうち数時間だけ安定して太陽が出るようになった頃、〈はる〉の姿は10〜20歳程の青年の姿に近づいていた。
太陽の傾きと太陽が出る時間、どこに日が当たるかを入念に調べ上げたうえで、大人になった〈はる〉は研究所を飛び出していた。

そこから〈はる〉は世界を放浪し、仲間を探し求めた。

けれど出会う仲間はいない。
〈はる〉と同じ生まれの者がいないのだ。
出会うのは元人間だったものたちばかり。
"願い"を核として生まれた生粋の陰の塊のような存在とは出会わなかった。


地下に避難していて無事だった人間の生き残りが地上戻ってきたのは何時の頃だったか。彼らはいまとなっては、すでに地上にしっかり根付いている。
その頃の人間たちは、獄族の名の由来も、人類に栄光の時代があったことも、獄族が元は人間であったことさえしらなかった。

彼らは栄華を極めた化学という力を失った代わりに、術という不可視の「方程式」をあみだしていた。
その力で、自分たちに害をなすものを滅ぼすのだ。
人間たちは「陰の力」の異形種たちを敵とあつかった。当然、獄族もその対象だった。

「陰の力」が満ちるこの世界では怪我もすぐ治る不死身であったため、〈はる〉もまた獄族とみなされ、人に狙われる身となった。


同じ形なのに、人でもない。獄族でもない。
〈はる〉はひとりだった。

そんな〈はる〉の唯一の話し相手は、地上にわずかに生き残り子孫を残し続けた動物たちだけだった。
一番〈はる〉と相性が良かったのは鳥だった。
〈はる〉と同じ言葉を交わすことはできなくとも、寿命が異なろうとも、鳥は〈はる〉に語り掛け、よりそい続けた。





+ + + + +





気づけば〈はる〉は、まばゆいばかりの空間にいた。

人間と獄族が仲良く会話をしている。これはどういうことだろう。
大勢の人間がいる空間。
白い壁に囲まれ、人口の光が照らすそこは、〈はる〉が生まれ育った研究所に構造がどこか似ていた。
つまりここはなにかしらの建物の中と判断できる。しかもこれだけの光量を生み出している。ここは“崩壊の日”以前の科学技術が生き残る旧遺物に違いない。
まだ稼働していた施設があったのかと驚くと同時に、ここが明らかに自分が先程までいた場所と異なることに眉をしかめる。
〈はる〉の記憶では、"さっきまで"森で鳥と語らっていたはずなのだ。
しかし側にいたはずの鳥たちはいなくなっており、場所も森ではなく屋内になっていた。

それは瞬き一回分の間の出来事のような気もしたが、劇的な場所の変化に〈はる〉は自分が人間にとらえられしばらく意識を失っていた間に連れてこられたのだと判断した。

〈はる〉がいた世界では、「陰の力」に対抗する力―― 唯一地下に潜っていた人間だけが「陽」の属性を持つが、人間は夜に生きる「陰」属性の者にくらべれば、圧倒的に数が少なく、立場も力も弱い存在だった。
だがそれを補うように、人は陰にもつわる者たちを滅ぼし、使役し、封じるすべを得ていた。
地下では「陽の力」の研究が続けられていたのだ。

〈はる〉は、陰のモノだ。そのなかでも最強種族とされる獄族に"近しい"者。人間によく似た姿した存在である。

獄族の特徴は、陰の生物の中でももっとも強い“力”をもつこと。それは陽の力がないというのに、陰のモノをほろぼすことができるほど。
外見から特出した点をのべるのであれば、長い爪、身体を光から身を守るために厚着をしている者が多いのもまた特徴となろう。
そして――数珠だ。あれは“存在”が固定化された時にはすでに身に着けているもので、“業”を表すとされる。
業がなにをしめすのかは定かではないが、陰の力の大きさとともにか、生きた年数とともに増えるのか。数珠は常に一定というわけではない。

〈はる〉の数珠は、首から一巻きたらすにはかなり長い。

しかし力ある者であるはずの〈はる〉だが、彼は現在、自分の力を駆使することができないでいる。
どこかだるさのある重い身体。周囲にいる者が、人か獄族か、そうでないかの区別さえつかない――つまりは能力は封じられているとみていいだろう。

獄族や「陰の力」を内包する者は、常人よりはるかに強い鋼のような肉体を持つ。肉体操作をできるものは爪を伸ばし武器とする者もいれば、魔法のような不可視の力を扱えるものもいる。
〈はる〉とて常人に負ける気はしなかったし、それだけの力を持っていた。だが、いかんせん有り得ないぐらい現在は体が重い。いうなれば身体全体を見えない鋼鉄の布団で覆い身動きをとれなくし、そのうえで重く太い鎖で身体と地面をつなげられているような、地面に今にも引っ張られそうな重さを感じていた。本当に身動き一つとるのも億劫な状態だった。

これは人間が獄族や「陰」の者に対抗するために編み出した術のひとつだろう。捕まったあげく、術で拘束されるとはなさけない。
その状態で周囲の人間に反抗するのは得策ではないことだけは理解できたので、〈はる〉はその場でおとなしくしていた。

むしろ〈はる〉はつかれていた。
約束だったから、育ての親の遺言だったから、生きていたにすぎない。
〈はる〉の心は長い年月のせいで疲弊しきっていた。

自分たちは太陽以外で死ぬ方法がない種族だが、自殺は××の最後の最期の言葉が歯止めとなり、よしとしない。ならば、いっそ人間の術によって死ぬのもありかもしれない。そう、〈はる〉はこの状況を受け入れつつあった。



彼の記憶では、月明かりの全くない新月の夜。星のきらめきを肴に、夜の森で友である鳥たちとのんびりと会話をしていたはずだった。
それが最後の記憶だ。
そこから気が付けば、みたこともないこの場所に立たずんでいた。

〈はる〉には前人類の科学の知識があった。施設で暮らしていたこともあり、機械のこともよく理解できる。
しかし他の獄族はそうはいかないだろう。夜の世界でしか生きられない獄族には、この部屋を照らす天井につけられた照明が不思議なはずだ。地上にはいまは化学はなく、術で灯をともすか火をおこすかしか照明となる手段がないのだから。
それが照明と呼ばれるものであることさえ理解しているのか怪しいが、この場にいる獄族たちはみなそれを当たり前のようにうけとっている。
人工物の中で育った自分とは違い、ごく一般の獄族は光にさえ弱いだろうと思っていたが、どうやらこれほどの光の下でも獄族は平気なようだた。
それに少しだけ疑問がわいた。だが、すぐに獄族でさえ光の下を歩ける術を人間が編み出したのだろうと思い至る。
これだけの光を浴びて火傷はしていないかと自分の手をみつめ、獲物を切り裂くための長い爪が短くなっているのに驚く。
物理的に凶器となるがゆえに、きられたか。それとも力のすべてを封じられた結果か。
獄族の誰もがもちえる“長い爪”がないということに、〈はる〉はこのあと何が起きるのか全く想像することができなかった。 ただ、攻撃をする手段は、爪(物理)であれ、術であれ、己のもつ陰の力がすべて封じられているらしいということだけが、たしかだった。

あらためて、人間は凄いなと感じるばかりだ。

滅びた文明の知恵だろうとすぐに使えるようになる。
衰退しようと、どんどん新たな技術を生み出し続ける。

そんな人間たちにつかまってしまったのだ。


――攻撃手段をすべて封じられちゃったし・・・どうしようもないしね。


丸く人間のような爪の手をみて〈はる〉は、森でなにかしらの術で意識を奪われたあげく人の術で封じられてここまでつれてこられたのだろうとあたりをつける。
人間たちが何をしたいかはわからない。

〈はる〉は穏やかな外見とは打って変わり、名の通り「陰」の世界で最強をほこる種族の・・・それも古き種族のひとりだ。
本来であれば、決して弱くもなければ、気配などすぐに感知できる。
自分に気づかせないほど、人間の呪術は進化したのかと、〈はる〉のなかからこの場から逃げるという選択肢が消えた。
長い時を生き続けた〈はる〉は、あまり生に頓着がない。
光に身を投げる以外の死に方をしらなかったから生きてるに過ぎない。

体は動かすのもおっくうなほど重く感じるし、力をすべて封じられている。ならばそれ相応の術師がいるのは間違いない。
これ以上ひとりきりで生きることにあまり意味を見いだせないでいる〈はる〉は、わざわざ争うことも面倒に思えていた。 そもそも人の"願い"を核にして生まれた〈はる〉には、人間と争うことなど元から頭の中にはなかった。
こうなれば逃げる気などおころうはずもなく、抵抗はいっさいみせなかった。
捕らえられたのなら、人間が望むままにするだけだ。

捕らえられはしたものの、〈はる〉はもう一度状況を確認しようと、周囲を見渡す。
予想よりもたくさんのひとがいる場所だった。
光の下で人間がたくさんいる・・・聞いた話のとおりなら、たくさん集まっているということはこれが集落というものなのかもしれないと、〈はる〉はひとり納得する。


〈はる〉という存在は、いつも一人だった。
彼の認識では、仲間はいない。
なぜならば、同じ獄族と呼ばれる者達でも、だれも〈はる〉と同じ時間を過ごせたものはいなかったためだ。
〈はる〉は古い種の生き残りで、寿命と呼ばれるようなものがない。しかも再生力が強く、光以外では死ねない。不老不死の存在といえた。
ゆえに同じ歳月を生きたものはおらず、気心あう者でもみな〈はる〉より先に世界に溶けて消えてしまった。
長い時間生きてきた中では当然獄族と呼ばれる存在に何度か遭遇している。けれど〈はる〉が知りうる限りでは、彼らは群れを嫌った。そして彼らは肉体があった。核というあいまいなものから生まれたのではなく、みな元は生き物だった。生き物の成れの果てだった。

気が付けば〈はる〉はいつも一人だった。

だから友と呼べるのは、いつも傍にいてくれた小鳥たちばかり。


――なのに、彼ら(小鳥たち)の声が全く聞こえない。
森のささやきも鳥たちの声も、陰の者の気配も。
なにもない。
かわりに自分を囲むたくさんの人間たち。
太陽の下のように明るい場所。

〈はる〉は周囲を楽しそうに囲む人間のされるがままだ。
生に執着がないとはいえ、人間を警戒しないわけではない。なにせ人間は、陰に生きるものたちへの対抗手段として、不思議な術を操るようになっていたのだから。
それに今の〈はる〉には、“力”のひとつもない。その状況では、一人対多数となってしまい、数が多い人間に勝てるみこみはない。

人間はこれほど明るい空間でいつも過ごしているのかと、〈はる〉は自分を映す巨大な鏡に反射する世界を見ながら、 うらやましくなるのと同時に、生まれ育った研究所を思い出し少しだけ懐かしくなった。
あの研究所はまだ残っているのだろうか。
そう、あれもまた旧人類が作り出した建物だった。
ここも同じ。で、あれば、自分は本当に人間につかまったのだと改めて自覚させられる。

けれど、たったひとりで長い時を生き続けた〈はる〉には、これといって生きる目標もない。もともと逃げる気力もなく、困ったなとは思うものの、抵抗はせずただうなだれる。

(こんなたくさんの“ひと”が集まってるいるところを見るのは始めてだ)

力が封じられているせいだろう。誰が人で、だれが獄族であるかも判断がつかない〈はる〉は、傍でみたことのない小物を出しては騒いでいる赤い髪の青年を見て、その髪に札をひっつけているのをみて、ようやく彼が獄族なのだと気づく。
噂に聞く人間と契約した獄族は、身体のどこかに札をつけているという。それだろう。

〈はる〉自身は、己の身を焼く太陽の下など好んで行こうとは思わないし、なにより彼は争う気はないが、“人間”が嫌いだ。
同じように、同族の獄族であれ、〈はる〉は生き物があまり好きではない。
寿命の差で、自分を置いて逝くとわかっている短命の種族に会うことは、太陽のあるなしにかかわらず避けていた。
周囲が〈はる〉のことを知っていても、〈はる〉自身はあまりに周囲を知らなすぎた。

ただそんな〈はる〉にも、人と契約する獄族が、たまにいるらしいという話は聞いたことがあったのだ。
今〈はる〉を囲んでいる札付きの彼らが"そういう輩"なのかもしれないと思うだけだ。

契約とはどんなものなのか。
なにか双方に恩恵をあたえるのか。どうして生きる時間も種族も違うのに共存できているのだろう。
人間、しいては同族とさえもまったくかかわりを持たない〈はる〉には、目の前の彼らのやり取りは理解の範疇外のできごとである。

(まぁ、おれには関係ないことだろうけど)

同じ種族といえど、どうせ〈はる〉とはなにもかもが違う者たちだ。
また置いて逝かれるのなら、仲良くする必要はない。


始『春?』


ため息が出そうになった時、ふいに名前を呼ばれて〈はる〉はそちらをふりむく。
そこには札のない――人間の青年の、紫の瞳がいぶかしむようにこちらをみてきていた。
見たことがないような極彩色に〈はる〉は戸惑い、どうしたらいいかわからなくなって、そのまま視線をそらして鏡へと戻す。



そこからは怒涛の勢いで、物事が動いた。

〈はる〉の見ている前で、突然大声を出して喧嘩を始めだした黒い人間と白い獄族の青年。
しだいに紫の青年は顔色を悪くし、洋服の蝶に手を当てて何かをやっている。
その様子に、自分に絡んでいた者たちも慌てたように、彼らのもとに駆け付けていく。
なかには泣いている者もいる。
〈はる〉からみれば、なにをしているのかまったくわからない。 蝶の絵から翅がなくなったようだが、それがどうしたのだろうか?人間の新しい術の一種かもしれないと、ただそれらを遠いことのようにみつめていた。


話はすんだのか、獄族っぽい白い青年がこちらをみたことで、鏡ごしに様子をうかがっていた〈はる〉は白い彼と目があう。
彼は紫の目の人間の肩をたたくと、鏡の前の椅子にポツンと座ったままの〈はる〉に近づいてきた。

隼『春、ちょっといいかな?』

その問いに頷く。
名前を知られていることからして、きっと“獄族の〈はる〉”は有名なのだろう。
そりゃそうだ。現存している獄族のなかで、たぶん最も古い存在が〈はる〉なのだから。
太陽が戻ってくるまででさえ途方もない年月がかかっているのだ。それよりも前、世界を滅ぼした元凶がいた場所に、「陰の力」の爆発が収束するとともに生まれたのだから、〈はる〉というのは最古の獄族であることは間違いないだろう。
いまだ彼をしのぐ“力”を持ったものは生まれていない。
かわいそうに。寿命がなく、強い力をもった獄族の存在など、人間にはさぞ脅威だろう。
その最たる存在が自分だという自覚が〈はる〉にはあった。
〈はる〉とはそういう存在だ。
一度も会ったことがない獄族とて、最古の存在くらいは知っているのかもしれない。
契約をとおして人の世にも噂ぐらいは広まっているのだろう。
それにここには、獄族もいる。彼らを通して人間の耳に〈はる〉の名前が届くのもおかしくない。


何を言われるだろう。力を貸せと契約をもちかけられるか。それとも実験にでも巻き込まれるのか。もしくは脅威として消されるか。
自分という存在が人間につかまった場合の、その後の展開などすぐに何通りも浮かんだ。
さぁ、言いたいことがあるならはっきり言え人間よ。
そういう気持ちで〈はる〉は相手を見やるが、けれど眉はなさけなく下がってしまう。
睨む気力などとうにない。
ただもう生きるのがつらいだけ。

いっそ自分を消せる人間はいないだろうか、そろりと顔をあげる。
白い髪に自分と似たような目の色の獄族の青年が、こちらを見下してくる。
視線が合うと、なぜかあちらは微かに眉をしかめてくるが、彼はすぐに表情をとりつくろうと「大丈夫だから」と優しく声をかけなおしてきた。
どかがだ?とは思うが、対抗する術(スベ)をもたない身。〈はる〉はしかたなく、彼の次の言葉を待った。

隼『どうやら“君”が答えを知っていそうだけど』

その言葉に、〈はる〉の眉間にさらにきゅっと力が入る。
知っているもなにも、自分を捕らえたのはお前たちではないのかと思った。
だが、ふと気づく。
彼らの数々の振る舞いと言動を思い返してみると、〈はる〉はあることに気づいた。
彼らが呼ぶ「はる」が自分ではないのだと。彼らが向ける自分が、別の誰かに向けたものだと・・・。
ああ、やっぱりかと思えば、この暖かい場所にも自分の居場所はないのだと〈はる〉は一瞬泣きそうになるが、彼らに勘違いさせてしまったことに申し訳けなくなってうつむく。〈はる〉にはその言葉を訂正することもどう切り返すかも・・・人間と会話などしたことがないため、答えを知らなかった。

白い青年は変わらず話しかけてくる。


隼『ねぇ、君は誰だい―――春?』



耳を傾ければ、まだ“別のはる”をもとめる声が聞こえてくる。
自分とは違う“はる”を探しているのだと気付き、申し訳なくなる。と同時に、ああまでも多くの者に好かれる「はる」が羨ましくも思う。
ふと、〈はる〉は突然いなくなった自分を探してくれるものはいるだろうかとあの夜の世界に思いをはせ、唯一の話相手の存在の気配も何もないことを思い出す。
世代を変えてもどこに行っても動物たちは側にいてくれた。その大切な存在がいない。

「あのこたち(小鳥)の声が聞こえないんだ・・」

意図せず〈はる〉の口からこぼれたのは、白い青年への回答とは異なるものだった。









〜 Side春成り代わり主 〜



――“あのとき”停電のように突然目の前が暗くなったのではなく、この世界は“夜”の方がメインなのだとしったのはずいぶん後のこと。

自分の目が暗闇に慣れた後も星一つないまっくらな空しかない場所。
昼は短くて、夜は長い。
暗いのが当たり前の世界。
昏く、だれかの悲しみが染み込んだような空気。
だからこの世界にひきこまれた当初、最初は目が突然光の中から夜の世界へ連れ込まれたせいで、脳がなれなくて真っ暗に思えたのだとわかった。

眼鏡ごしではないのに、この世界はどこまでも暗かった。
この世界では夜の方が長いというのを後で知った。
世界中に魔力が満ちているオレがいた世界とは雲泥の差である。ここに、魔力はない。
だから暗い。
生命にあふれたあの世界は、眼鏡(障害物)がなければオレには眩しすぎるほどだったのに。
これほど暗い空間は、弥生花として生まれてからははじめての体験だった。

突然世界に放置され、情報も何もない。
しかも魂が半分欠けていた。自覚できた理由は、己の半身であるロジャーの存在がなく、どこかとてつもなく遠い場所から何とかギリギリラインがつながっているような感覚がしたからである。自分の魔力を供給してくれる始の力の片鱗を感じ、なんとか精神を保てたが、この世界に来た当初はそれはもう花の精神的消耗は激しかった。
状況としては、どうやら肉体は"この世界の自分"のものらしいと気づいたのは、自分の姿を水に映して元の自分と酷似していたことから理解した。
体の中にほかに魂の気配はないことから、精神だけ追い出したか入れ替わったようだ。
しかしこの体は肉体というより、なにか"特殊な力の塊"のようで、実体はあるが重さがない。
ふわふわ浮いてしまいそうな体に、コントロールがうまくできず最初はかなりてこずった。
さらにいうと長年の転生経験で身に着けた超直感が働かないのだ。どうやら精神だけが入れ替わったようで、能力などはすべて本来の体に置いてきたらしかった。

最初は、不安で不安で仕方なかった。

花としては、自分の身が力の強い種族だと知ってもじっとはしていられなかった。こちらの方が強かろうと襲ってくるやからはいたので、逃げに徹していた時期もある。
運がいいことに、この体は人間とは構造をたがえていて、食事も水も睡眠も必要としない。それに他の生物よりはるかに肉体は強く、再生力もあった。
長い爪を変化することで攻撃をすることができたし、魂と相性が良かったらしく己の魂の性質に肉体があわせてくれていたため植物を生やすことができた。
戦う術を学んでからは、逃げることをやめた。
目が徐々に慣れれば、薄暗い世界にもなれた。
そこから花はただ惰性のように生きながら、この世界のあり方を学んだ。
いろいろと情報を収集するためにも動き回った。

“陰”からうまれたものは、みな“陰”に還るのがさだめ。
血が流れても、血さえすぐに「陰の力」となって分解され、世界に取り込まれ循環する。
ひどい怪我を負えば存在を生み出している力が流れだしすぎて、やがては肉体は消滅してしまうものだ。
通常であれば。だ。
けれどこの世界の自分は、一味違った。怪我をおえば、当然血は流れる。しかしそこに大気中に満ちる「陰の力」がすぐに入り込み、肉体が再生してしまう。正真正銘の不死であった。
花は獄族と呼ばれる同族にも会ったことがあるが、彼らもある程度の再生力はあったが、自分ほどの再生力はなかった。彼らとて傷跡は残った。自分には残らなかった。
かつ、他の獄族は、みな体重があった。
雪の上にくっきり残る同族たちの足跡。なのに自分の足跡だけがうっすらとしている。
花はそこで己の肉体がほかの獄族と異なっていることに気づいた。
他の獄族たちも、本能的に"彼"が自分たちは何かが違うことを察しているようでもあった。

花は一度だけ昼間に動こうとしたことがる。
ただし光を浴びただけで大火傷をした。
軽く皮膚の表面程度が傷ついただけなら、時間をおけばそれは治った。たぶん長く光を浴びたら、存在そのものが砕けて“陰”として身体が原形をとどめず粒子にもどっていただろう。花のあつかう肉体は、きっと他の獄族のように体が炭化することはない。炭化すべき肉体が実体を持っていないのだから当然である。

花『実体化はしているし、血もでるが…肉体の"再現度が低い"なこの身体は』

この世界に飛ばされて長いこと一人で生きてきたせいか、最近ではすっかり花の口調から"春らしさ"がぬけ、素がこぼれでているがそこは御愛嬌である。
その花が、己の身体をしげしげと眺め、あきれたように息を一つこぼす。

花は今の己の肉体を生物としては判断していなかった。
再現度が低いと言ったのもそういう理由からである。
まるでAIが"人間という姿"を徹底的に解析して、その結果を映写機にかけて投影していて、その映像に精神だけ入り込んだような感じだと――己の身体を冷静に分析する。
血もでるし、触覚もあり己に触れることも第三者に触れることもできる。
だが味覚はない。体重もない。
AIに味覚という感覚も重さも感じることはない。しかも画面に話しかければ当然声は聞こえるから聴覚はAIにもわかるのだ。だから聴覚はある。そして怪我を負えば人間は血が出る、これはどの資料にもそう載っているし、本物の人間を見ていてもそうなのだから、AIもしっている知識である。だから傷を負えば血が出る。
だが、そこまでなのだ。
言いえて妙であるが、それこそが正解のように感じた。

花は知らないことであるが、その分析は大半間違っていない。
彼の使っている〈はる〉の肉体は、たしかに人間を投影されたものであった。
AIではなく、"世界"という存在により、であるが。
"世界そのも"が、長年記録し続けた"人間という存在"そのものを、「陰の力」をかためることで再現して作られたものだ。
反映されているのは経験ではなく、記録である。
それゆえの肉体の"違い"だった。
あくまで〈はる〉の肉体は模倣して作られたものであるため、肉体の中のパーツまで再現されていても本物にはかなわず正確ではないのだ。

花「ふはっ。違うとわかっていながら、黙っていてくれる同族のやつらのなんと優しいことか」

人からすればヒトガタで、人より力強く、「陽の力」によわければ、総じて獄族というくくりらしい。
ゆえに花も獄族のことを同族と呼んでいるが、その彼らが花を本能で特別視している。それは超直観を失った花でさえもわかることだった。つまりこの肉体はそれだけ特別性ということだ。それでも、同族たちは人間に"そのこと"を決して口にしない。それだけがありがたいことだった。
獄族だけど"違う"異端な存在がいると知れば、好奇心旺盛な人間に何をされるか分かったもんじゃない。

それだけは助かるんだがなぁ。と、〈はる〉の顔で花が苦笑を浮かべる。

この肉体の持ち主、へたすると人間嫌いになってないか?っと思うのも仕方がないことである。



さて、花が知りえた状況を整理しよう。
まずこの世界の日照時間は酷く短い。それは「陰の力」が世界を覆っているせいだ。
「陰の力」は、空気に混じるように世界中に満ちている。
そしてその力が影響し、花が知る生物や人類とは別の種族が誕生している。

「陰の力」によって変異を遂げた者たちの多くは、不可視の"力"を少なからず一つは身につけるという。
それは人でもほかの生物でもしかり。こうして変異を遂げ力を得た者を、人間たちは総じて"陰のモノ"と呼んでいる。獄族もそのうちの一つに含まれる。
そして「陰の力」しか持たないものたちの多くは、自我はないとされる。
彼らにあるのは本能だけ。

陰のモノたちの発生源は二つ。
大量の「陰の力」を浴びて肉体から変質したもの、逆に大量の「陰の力」が死体に宿り動き出すこともある。

死体に力が宿った者は元から魂が存在しない。かつ、肉体の変質で生まれた場合も、変質する際の衝撃で精神も魂も崩壊してしまうため、どちらにせよ自我が残らないのである。
稀に長い年月を生き抜いたものは、知恵を得て、自我を得ることがあるが、それは本当に一部にすぎない。

ヒトガタをしているからといって、上記の理由から獄族は基本的に集団では暮らさない。
生きるためには光を浴びなければいいだけの身は、共存する必要がないためだ。



花『どんな地獄だここは』

そう言葉がこぼれてしまうのも仕方がない。
オレにとって、この世界はひどく生きづらかった。
この世界に"オレ"という存在はいるのに、なぜか始も、他のSIX GRAVITYの仲間もProcellarumのこどもたちもいない。
傍には人間さえいない。
人間は獄族だと知ると、逃げるか攻撃してくるか。どちらかだけ。ましてや、夜の時間に出歩こうと思う人間は少ない。
かといって、同族である獄族は肉体があっても大本は、本能でフラフラしている輩ばかり。
まれに自我に近い物を持っている者もいたが、そういうやつらは人間と契約を交わしたりして人間の味方なので近づきがたい。

陰のモノは血が流れても基本的に通常の生物より体重が軽い。肉体や生命維持をすべて「陰の力」がおぎなっているためである。その分、人間より動きが速く、疲れ知らずだ。
だが、魂を半分“向こう側”に置いてきてしまったせいで、あまりオレの調子は改善しない。
たしかに人間の時よりは動きは軽いが、オレは本来のこの肉体の力を出し切れず、簡単に疲れてしまう。
ここでは“向こうの世界”ほど、存在の拒絶はされないが、それでもオレの《名》を呼べた者はいない。
だからこの世界でもみなオレを"春"とよぶ。

せめて自分をしめす“名”を呼んでくれるものが傍にいればよかったのだが、獄族のそばに人間は近づかない。
知性なき陰のモノが、名をよぶことはない。
獄族はわれ関せず、あまり団体行動さえしない。

しりあいのだれもいない世界。

名前も呼ばれないと、ただでさえ不安定なオレの魂は自分という存在さえ忘れてしまいそうになる。
そのまま世界の理の前に膝をついてしまいそうになる。それはイコール、オレという魂の消滅を意味するが。
あっさりと理に押しつぶされてしまいそうなほど、オレという存在は不安定だった。

一度耐えきれなくなって、《字(真名)》じゃなくてもいい《花》か「春」か。どれでもいいから名前を呼んでほしくて、強い力のある人間と契約をしたことがあった。
けれど、力が拮抗していないせいで、契約がうまくいかなかった。
いや、ちがうかな。正確なことはわからないけど、拮抗していなかったわけじゃなく、オレの性質と肉体の性質が合わなかった…という表現が正しいのかもしれない。
そのときは相手に契約の反動がかえる前に、とっさに契約をオレから破棄した。そうすることで、オレがその責をすべて受けることで、契約者を守ることはできたけど。

「すまんな春」
『やっぱりだめかぁ・・ごめんね、力になってあげられなくて』
「いや、まぁ、お互い無事で何よりってやつだろ。しかたねーよ。こういうこともある。うん」
『・・・それでも。
名前をよんでくれるかぎり、オレはあなたを助けるよ』

人間のそばにいるときは、元の世界の「春」と同じような柔らかな口調のほうがおびえられなかったので、口調をきをつけるようにした。
元の世界の父親の口調をまねていたものだけど、あれもあれで演技ではなかった。
懐かしい口調だったが、人間たちの受けはよかった。またすぐになれた。

人間の傍にいることはできた。

だけどやっぱりそれは長く続かなくて、契約をしていないことで他の人間には怯えられるし、警戒されてしまう始末。せっかく口調を穏やかなものに戻したのに、その効果はいまいちだった。
そうでなくても契約相手というのは人間なわけで、周囲の不安や不満などをまるめこんで一緒にいることができても、やがては寿命でオレを置いて逝ってしまう。

オレが守るべき者。オレに存在を与えてくれた、仮名であれ呼んでくれた人たち。
そんな彼らがいたから、どの世界でも生きてこれた。
誰かに依存して生きてきたオレには、こんなひとりぼっちの世界はつらくてつらくてしょうがなかった。





入れ替わってから気が遠くなるほどの時間が流れた。

もうオレは、少しばかり気が狂っているのかもしれない。
まぁ、気が狂っているなんて、転生するたびにいつもそうだから、いまの状態は結局のところ通常と同じ・・・なのかも。

心の支えは、こちらの〈はる〉と入れ替わってからもなお、かすかながら“始”の力を感じ続けること。
ロジャーを通して伝わる“向こう側”とのつながりと、いまだ色あせることなくある“弥生花”の記憶。
ここが自分の世界でないからか、それとも魂が半分“むこう”にもあるからか、記憶力の悪いはずの自分がなにひとつわすれていない。
そんな幸せな思い出たち。
いつか“戻る”。
自分の記憶の中だけの仲間たちに、誓う。


ある日、いつもどおり月灯かりをたよりに散歩をしていれば、ふいに誰かに呼ばれたような気がしてソチラにむかう。
月が細いおかげで、星がきれいな夜。
いつもは雲だか闇だか「陰の力」高が濃くて星さえ見えない夜空に、今日はいろんなものが姿を見せていていつもより世界が少し明るい。
日照時間が短いから、気温はあまり上がらないこの世界では、雪が年中残っているところもざらにある。 そんな一面銀色の世界を雪に薄いあしあとをのこしながら歩く。
さくさくさくぎゅぎゅと鳴る音が楽しくて、鼻歌まで歌いながら雪原をすすむ。
何かに呼ばれてる気がする方向へどんどん進めば、周囲の空気の感覚がいつもと違うことに気づく。
空気に満ちる“陰”の気配が、歓喜に震えているようだ。
それにさそわれるように周囲の木々がさわさわと梢の音を鈴のように奏でている。
雪原の中心に、“ソレ”はいた。

字『ふはっ。ずいぶんかわいらしい姿だね』

雪の中、産声のように「陰の力」が白い粉雪を舞う風を生む。
風がやむと、さきほどまで存在していなかった"者"がそこにはできあがっていた。

雪のような塊がもぞりと動く。
空に舞った花のような雪がその誕生を喜ぶように、その“かたまり”の周りをキラキラと月明りを反射して降り注ぐ。
新しい命の誕生だ。
これは雪玉の塊に「陰の力」がもぐりこんでうまれた存在。

オレは生まれながらにかなりの数珠飾りを首から下げている2,3歳のこどもの姿のソレへそっと両手を伸ばす。
生まれたてにしては、人間ならば成長しすぎだ。だが獄族に、人間のような“赤ん坊”の期間はない。
獄族もまた普通の獣と同じ。生まれて、目を開けた瞬間から、彼らはもう自分の足で動かねばならない。だからこそ、生まれたての獄族は、すでに自分の足で立つぐらいの大きさで目覚めるのだ。

抱き上げた子供は、雪のなかでうまれたくせに、他の生き物と同じようにとても暖かい。
おだやかな寝息を立てているが、そろそろ目を開けるだろう。
目がひらいた瞬間から、この子はもう一人前。
本来なら陰のモノは、魂がないから自我などない。
けれどなんとなくこの子には魂のようなものがもう宿っている気がした。
すぐに自我を目覚めさせるだろう。

ああ、ほら・・・・・目がひらく。
パチリと淡い黄緑の瞳がこちらをみた。


それに、笑い返す。




字『はじめまして――――"しゅん"』









〜 Side太極伝記のはる 〜



春「・・・そっか。なるほどね。
そういうことなら、どうやら原因はきっとオレだね」

あまりに寂しすぎて、願ってしまったのだろう。
仲間がほしいと。
人間のような誰かと、誰かが寄り添うような、そんな温かい居場所がほしいと。

"願い"を核とし、"願いを叶える力"をもつ自分が、無意識にその力に想いをこめた結果がこの入れ替わり。
どうやら魂だけ入れ替わってしまったようだと、状況をきかされ〈はる〉は推測する。





隼『たぶん君は僕らが知っている《弥生春》じゃぁないと思うんだけど。
君はだれだい?どうして突然“君”があの子になりかわっているのかな?』

はじめにそう問われた〈はる〉は「やよい」がなにかを理解できず、いろいろと困惑したものの、自分を囲む者たちが“別のはる”をさがしていたことを思い出し、人違いだと困ったように苦笑を返した。

春「やよ、い?・・・えっと、やよいが何かしらないけど。
いちおうオレも“はる”だよ。獄族の〈はる〉・・・この世界では有名だと思ってたけど。そこの獄族の彼らもしらないなら、オレもたいしたことなかったってことかな。
あ、でも・・・人と契約してその傍にずっといた獄族なら野生の獄族のこと知らないのも当然、なのかも?
オレに似てるなら、その“はる”さんに悪いことしちゃったね。えっと・・・そろそろ帰りたいかなぁって思うんだけど。その、契約していない獄族なんて信じられないかもしれないけど、なにもしないから、この術をといてほしいんだけど」

〈はる〉は自分が捕らえられた結果、術で力を封印されていると考えた。
隼は、春のなかに別の“はる”がいると考えてたずねた。
その結果、お互いに、互いの言葉に首をかしげることとなる。

隼たちは、花もとい芸名「弥生春」を含めたツキウタメンバー12人で、撮影のための衣装合わせに来ていた。
その中のひとりは、いま〈はる〉が入っている肉体の持ち主である弥生春だ。
周囲の仲間たちからしてみれば、いま、隼と春がはなしているようにしかみえない。
そのせいで、二人が何を言っているかわからず、ハテナをうかべるばかり。

隼だけが、春が入れ"替わった瞬間"をみていた。
春の魂の性質がかわった気配に、隼はめざとく気づき、始が気づくまでのそのわずかな間様子をうかがっていたのだ。
だから“中身”だけが違うとわかったのだ。

隼が「春」の名を呼んでも違和感なく振り返り、自ら〈はる〉と名乗ったこと。 なにより〈はる〉は鏡も見てもあわてることはなかったことから推測するに、元の世界の彼も同じような容姿をしていたのだろう。 それらをふまえて、隼は〈はる〉を並行世界の弥生春ではないかと推測した。
きっと並行して存在するはずの世界の軸が、たまたまこちらの世界と混ざり合い、何かのきっかけで同じ波長の春と共鳴し、中身が入れ替わってしまったに違いない。

しかし、どうやらその並行世界とやらは、思っていたよりも世界環境が違うらしいと、会話をしていくうちに〈はる〉の言葉から察せられた。
こちらの世界についても詳しく説明する必要があるだろうと、隼がもう一度詳しくきこうと口を開きかけたところで――


始『だぁーーーーーー!!きついっ!!』


始が絶叫を上げた。
忍耐が切れたようで、汗だくの顔をいらだちに真っ赤に染めながら、服にはりついたロジャーに魔力を与えていた始はそれを放りだす。

始『隼、移せ。もう直接やる!』
隼『直接か、それはいいかもね。ってちょっとぉ!?・・・・あはは、やだなぁ、始ってば僕を喜ばせてもなにもでないよ!始クラスタとしてはどうして今僕はカメラを持っていないのだろうと・・・ねぇ、だきついてもいいかい?』
海『お前は黙っとれ!』

始は衣装がこれ以上汗で汚れることをさけるように、勢いよく服を脱ぎすて上半身裸になった。
それをみた周囲から黄色い声と、バタバタたおれていく女性の声が響いたのだった。黄色い声の一つに隼も含まれるが、この際そこはスルーしておく。
始本人としては、すぐに隼に服から自分の身体に直接ロジャーの残骸を肌に張りなおしてもらおうとしたのだが、いかんせん色っぽさで有名な睦月始である。

思いもかけない事態に、〈はる〉さえポカーンとしている。赤くなった顔を手で覆い、そっと目をそらしてる始末。なにせ獄族は光を避けるために厚着をする。獄族の彼は、裸というものに縁が遠かった。

春「に、人間って。あの、そのいろいろ大胆だね」

勘違いである。
べつに人間がみんな色っぽさなど備えてるわけでもなければ、人前で派手に脱ぐような趣味の輩はいない。
人間という生き物と全くかかわりがなかった〈はる〉ゆえの、勘違いである。
そしてその場には訂正できる心のゆとりがある人間はおらず、周囲も大パニックと化していた。

恋『ギャー!ぬいだ!始さんやめてぇ!エロい!!!えっちぃ!!!!』
始『うるさい恋。汗をかいたら衣装がだめになるだろうが。直接肌にロジャー貼り付けたほうが魔力提供が楽なんだよ』
駆『うひゃ〜!なんかみちゃいけないものをみてるみたいで・・・あっはーんでうっふーんな気配が!!!』
陽『これを毎朝見ても平然として何も気づかない春さんすげぇ。つか、夜にはまだ早いからな』
夜『おーい陽ってば。ちょっと!前が見えないんですけど!なに?なにがあったの!?』
葵『目、目のやり場に困るぅ』
新『わー、いい肉体してますね始さん(遠い目)』
涙『始、色っぽいね』
海『うーん、まぁ、いいたいことはわかるが。始さんよぉー、スタッフが数人伸びちゃってるし、年少組にダイレクトアタックいっちまってるから、さっさと移して服着ろ。あと汗はきちんとふいておけよ』

海指導のもと、それぞれが動き出す。
年少組がタオルと着替えをとりにはしり、年中組がスッタフの様子を見にかけつけてマネージャーズと今後のことで話をしている。
座ったままだった〈はる〉の横にいた隼が、準備ができたことで始を手招きすれば、相変わらず上半身裸のままの始が蝶の描かれた上着を持ってやってくる。

隼『いくよ』

差し出された上着へと隼が手をそえれば、周囲に満ちる“何か”が動く気配がして、ふわりと絵の中の蝶が浮かび上がってくる。
しかし片翅しかない蝶はそのままとぶことができず、始の上着の上でぱさぱさっと身をよじるので精いっぱいだ。
時間をかければ、このまま蝶は世界の修正力に負けて消えてしまうので、隼はいそいで蝶を手の上にのせると始の心臓の上へと近づける。
パサリと一度はばたいた蝶がじわりと始の肌に染み込むように消えていく。あとには、片翅の蝶のあざが始の肌に浮かび上がるだけ。

始『はー・・ようやく両手があいた』
隼『残りの半分も魂がちゃんとあればどこでもいいんだけどね。いまは一番いいのは、血脈にそった場所。血は魔力も載せて流れる命の流れ。 だから動脈とかの近くを好むけど、もう良し悪しとか言ってられないから。直接ってことで心臓にしたよ』
始『ああ、助かる』

駆『はい!始さんタオルです!』
恋『うわー本当にあざになってる。あざの状態はみたのはじめて見た。でも蝶にみえるところがまたまた〜(遠い目)』
涙『始、服』

始がきっちりと服を着こんだあたりで海がOKマークをだせば、年中組が色気で倒れたスタッフたちを起こし看病し始める。
先にマネズを説得したのがよかったのだろう。彼らの助力を得て、いったん着付けをやめて、少しの間休憩をはさむことになった。
その間に必要な情報交換をすることとなり、衣装を気にした者たちは着替えにいき、隼は不安そうに視線をさまよわせる〈はる〉に手を差し伸べて立たせると、エスコートする騎士のように、用意された別室へとむかう。

ひとが減ったことで〈はる〉の緊張がとかれたのか、彼からようやく肩の力が抜け、ほっと息をついていた。

隼『まずはじめに、僕も駆も陽も。あ、あそこの黄色のとか赤い髪のやつね。みんなお札を付けてるけどただの人間なんだ』
春「え・・・なら、どうしてオレは爪もなくて、力がふるえないの?術で封じられてるからじゃ」
隼『簡素に言うと、君の世界とこの世界は別だ』
春「へ?」

隼は隅にあったパイプをひきよせそこに〈はる〉を座らせると、自分の推理と、この世界のこと、自分たちがアイドルというものをやっていることを伝えた。

春「・・・そっか。なるほどね。そういうことなら、どうやら原因はきっとオレだね」

隼『そうだろうね。どうやらそっちの春は、ずいぶんと“力”が強いみたいだし。
こっちの春とは逆だねぇ。うちの春は微塵も“力”がなくてね、あそこでムスっとしてる紫の、睦月始っていうんだけど、彼に生命力を分けてもらわないと生きてられないほどなんだ。
いや〜世界が違うとずいぶん違うんだね。おもしろいな〜www』
春「オレが願ったから・・・・・“一人はもう嫌だ”って」
隼『それが共鳴したふたりの“願い”の正体だね』
始『・・・あいつは本当の孤独を知ってる。それは“おまえも”のようだな』
春「これでも〈獄族のはるさん〉っていえば、長生きの代名詞であちらでは有名なはずなんだよ。なにせ最古種だからねぇ」

泣きそうな、それでいて無理やり微笑みに変えたような苦笑を〈はる〉は浮かべた。
始がはじめて弥生花と出会ったときと同じ顔に、始は眉間のしわを増やす。

隼『そっちは願いの力が、強い力を生むみたいだし。
たぶん"それ"は君が言ってた契約にも、その法則は関係しそうだね』
春「うん。強い願いってけっこう威力があるんだよ。
人間はしらないけど、オレたち獄族は、本能でそういうことを理解してる。
それに人間が生み出した契約っていうのは、お互いの願いから生まれる絆のことらしいしね。
契約という儀式で、お互いの力が混ざり合って、互いの力が使えるようになる。これは“願い”をかなえるための代価なんだ。互いの願いをかなえてあげるために、力は渡される。
たぶんオレたちの世界は、とても偏った性質で満ちた世界だから、そういった“力”となるものは、想いの力でも力として還元されやすいんだと思うよ』
海『はは。そっちの春も“春ペディア”発揮してるな〜』
春「はるぺ?それがなにかは、わからないけど。
どうやらこの入れ替わりはオレのせいみたいだからね。オレが知っていることは何でも教えるよ。
なまじ旧人類の知識を蓄えてもいない。知っていることは、あの世界のだれよりも多いはずだしね。
かわりに、本物の春が戻るまで、この世界のこと教えてくれる?」
隼『積極的だね』
始『まぁ、春のかわりに仕事をこなしてもらわなきゃいけないんだから、いいんじゃないか?』
海『さっそく働かせる気マンマンっとかさすが王様』

それでいいと〈はる〉は笑う。
どこか儚く笑う彼に、始がその頭を殴った。

春「いたっ!?」
隼『おやおや始ぇ〜。暴力はだめだよ』
始『むかついたからやった』
春「えぇ??なんで?」

驚いたように目をぱちぱち瞬きを繰り返す鶯色の瞳が始をみると、「なんだかいらついた」とそっけない返事が返ってきた。
ハテナを沢山あたまに浮かべている〈はる〉と、そっぽをむいている始をみて、隼と海は「しょうがないね」「こればかりわな」と笑っている。





春「うわー!すごい!!陽の光はこれほどあったかいものだったんだね!」

〈はる〉に軽い自己紹介をし、いまの仕事がこの衣装あわせだけであることを告げ、段取りを説明した。
まだ全員の名前は覚えきっていないとのことで、なにかあったら始か隼、海をよぶということで、今回の話し合いはことなきをえる。
そのあと私服に着替えれば、〈はる〉は「え?普段からこんな薄着なのみんな!?」と驚いていた。
あちらの世界では、あの中華衣装が主流だったこと。獄族は光に弱いことを教えられ、ともにスタジオを後にした仲間たちが楽し気に驚きを共有する。

春「まぶし!あ‥ひ、光はちょっと…」

外に出るとき、〈はる〉は外が明るいことに気づくと怯えたように太陽の下に出るように怖がったが、まず恋が思い出したように〈はる〉に眼鏡をわたしていた。

隼『その肉体の機能がそのままなら、春には普通より世界がまぶしく見えているからそれをかけておいて』
春「ずいぶん抑えられるようになったけど、それでも十分まぶしいよ」

まだ光におびえを見せる〈はる〉に、その背を隼が「大丈夫」となだめながらそっと押し、「大丈夫ですよ、はるさん」と年少組がためらう〈はる〉の手をひく。
そうして出た外の景色に〈はる〉は目を見張り、そのあとは太陽を眺めて嬉しそうにクルクルと動き回っていた。

春「ふふ。しらなかったなぁ〜。人間って肌が強いんだね。すごいや」
駆『それはよかったー!春さ、えっと‥花さんの体だからダイジョブウだとは聞いてたんですけど。隼さんに』
郁『大丈夫ですか?その、いちおう花さんの体とはいえ、〈はる〉さんは“陰のモノ”ですし』
春「ありがとう。肉体はこちらの彼のものだからかな。大丈夫だよ。むしろ心地がいいぐらいだよ」

〈はる〉にとって、太陽は天敵だ。
あちらで太陽の光を浴びたことはあれど、痛みを伴う火傷を負うばかりで、生命を脅かす脅威でしかなかった。
それがこれほどやさしく人の肉体を温め、世界を明るく照らしていることに〈はる〉は驚きを隠せない。

体が鈍く重く感じるのは術などではなく、これが肉より生まれた証なのだと教わった。あと下に引っ張られるような力は重力というものだとも教わった。
目を閉じて大気にあふれる“力”を追えば、この体は触れることのできない力などを感知する感覚はあるようで、そこら中から命の気配に満ち溢れた躍動感を感じた。
これがこの世界でいう“魔力”であり、生命エネルギーなのだろう。

〈はる〉は目を開けると、自分の奇行にも穏やかな目で微笑むだけで何も言わず、見守ってくれて、好きなようにさせてくれる彼らに振り返る。
目の前にいる11人は、もうひとりの自分にとっての仲間たち。
彼らのエネルギーもまた温かい。
それはこの世界そのもののようで・・・

春「“陽”の気であふれてるここは、陰陽のバランスがくずれてないんだね。このままこの生にあふれた世界を大事にしてあげてね」

隼『ふふ、なら安心してよ。そういうのをちゃんとみてる子たちがいるからね』
恋『そうですよ!この世界には女神がいるんです!!』
隼『調停者たる麗しき女神たちが月で僕たちを見守ってくれてる』

太陽の恩恵を受けた世界。
月に守られた世界。

〈はる〉の目には、それらがまぶしく見えてしょうがなかった。
無意識に手に力が入る。
それはすぐにほどいたものの、それで〈はる〉は自分の感情に――ひとつ蓋をした。

うらやましいなんて思ってないよ。

〈はる〉はいつものとおり笑顔を張り付けると、この世界の自分のことをそばらにいる彼らに訊く。
これから入れ替わりがとけるまでは、弥生春としてふるまわなければいけない。
仕草や口調は変わらないようだが、〈はる〉にはこの世界そのものの知識がなかった。
「教えて」と言えば、こどもたちは嬉しそうに語りだす。
入れ替わりの事情を知る者たちは、こちらの弥生春を〈はる〉とわけるためか《花》とよぶことにしたようで、たまに間違えつつも《花》の名を何度も呼んでは彼について語りだす。
それは彼らにとってみれば普通の日常のことなのかもしれないが、獄族としてひとりで生きてきた〈はる〉にはどれも新鮮で、経験したこともないような―――とてもキラキラしたものに思えた。

春「ああ、崩壊前の旧人類がこんな世界だったかな。でもあの時代はここよりもいびつで、もっと箱というか建物に覆われていて空はもっと狭かった。あとここよりも機械や科学にあふれていたっけ。
ここはまるで夢のようだね。
ふふ。想像もできないや。オレが誰かと喧嘩したり、だれかと一緒に川の字で眠ったりなんて」

そばには誰もいなかった。
仲間と呼べた同族は、みんな死んでしまった。
自分を育ててくれた存在もまた同じ。
人間はもっと短い寿命しかない。だから置いて逝かれるとわかっていたから、人間には近づかなかった。

〈はる〉は永久を一人で生きる。

耐えきれなくなって、願った。
そうしてかなえられた“願い”。

ここはなんて温かい世界だろうと、少しいただけで理解できた。

春「本当に温かい世界だよね。あっちは基本夜だから、気温が上がらないし。そのせいかな。こんなに緑が濃くないんだ。日照時間の問題だろうね。
でも、太陽がこんなに温かいって、知れてよかった。痛いだけの存在だと思ってたから」

これでもう・・・

隼『“思い残すことはない”なんて言わないよね、はぁーる?逆に、つらいんじゃないの?』

隼の問いにドキリと心臓が跳ねる。
自分と同じような色の瞳が、まっすぐこちらのすべてを暴くように見つめてくるのに微かにいらだつ。

なぜ暴こうとするのだ。
なぜ放っといてくれないのだ。

会ったばかりの彼らに、すべてを話す必要があるだろうか。
もし自分の世界に帰れたとして、〈はる〉はもう生きることを望んではいなかった。
ひとりきりで生きることのむなしさをしっている。

こんなにもたくさんの仲間に囲まれて、会話をする楽しさを知ってしまったらよけいに。

隼『ここには君を知ってるひとはいないんだよ〜。見栄を張る必要も我慢する必要もない別世界だよ。もう全部吐いちゃいなよ〈はる〉。意外と何とかなるかもよ?』

なんとかなるだって?

そんなはずはないのに。
向こうより力にあふれているとはいえ、世界が違う彼らがどうこうできるわけじゃないのに。
たとえば「一緒に来て」と言えば、あの世界で一緒に生きてくれるとでもいうのだろうか。
この孤独を埋めてくれるのだろうか。
自分だけが死ねないあの世界で。
それとも光の下でも大丈夫な肌をくれるというのか。

何を無責任な。


・・・。

そう、思うのに。

どうして・・・


春「そう、だね。こんなに世界が温かくて・・・」


どうしてすべてを話してみたいと思ってしまうのだろう。


けれど、〈はる〉は"それ"を言葉にはしない。
言葉にして叶えてしまったのが、この入れ替わり現象なのだから。
もし叶ってしまったら?
今度は目の前にいる彼らをあの世界に連れ込むことになるのではないか?または、入れ替わりが解消されず、ずっと自分がこの世界に居座ることになるかもしれない。

だから蓋をする。
心と口に。
自分の感情も。
零れ落ちてしまいそうになった言葉も、すべて飲み込む。

――こんなにも君たちのような人間が温かいなんてしっちゃったら、これから先どう生きていけばいいかわからないじゃないか。

こんなことを言ってしまったら、きっと彼らは傷つくだろうから。
そう考える一方で〈はる〉は、胸の中を炎で焼かれるような痛みを感じる。
ああ、これは嫉妬だ。"この世界の自分"へ。いや、この世界そのものへ。
これで自分の醜さがよくわかってしまった。
このあさましい想いは隠さなければ。

でも、それが事実。

どうしようもないことだから、オレはあきらめるよ。
オレがあきらめればすべて片が付くことだから。

〈はる〉は今言った言葉の真意だけは隠し通そうと、再び笑顔を張り付けて、さもなんでもないことのように言葉を繋げる。
たわいない言葉を選んで。
相手も自分も気づかないように、違う方へ言葉を誘導する。
それはまるで明日の天気どうだろうねと語るようにそっけなく装って。

春「向こうの世界は寒くていやになっちゃうんだ。今度帰ったときには、いままでよりもっと厚着してそうだよ。
それに、ここだけの話だけど。さっきも言った通り、オレ、実はかなり古い種の獄族でね。いっぱい仲間がいるんだよ。 同族の仲間だってオレの名前をしっているぐらいには、じつは力が強いしね。ふふ、すごいでしょ。だから温度差なんて、なんとでもできるんだよ」

ナイショだよ。
古い種族だから、長生きでね。だから仲間がたくさん。
エライから、部下(下僕)もたくさん。
強いから、なにがあっても――

ダ イ ジ ョ ウ ブ

だから、つらくなんかないんだよ。



・・・なんて、嘘。

たしかに〈はる〉は、古い種の生き残りだ。
しかしそれは彼を孤独にするだけの枷。
強さは畏怖の対象であり、そばに他者を寄り付かなくさせるだけのもの。
仲間は、それはもうたくさんいた。ただし〈はる〉の記憶をすべてひっくり返して数えればの話しだ。
〈はる〉が仲間と呼べたそのだれもが、今となっては過去形で。みんな〈はる〉を置いて逝ってしまった。
群れをつくらない獄族に、上下関係どころか共存という概念はない。当然、部下なんて、はじめからいない。
それに〈はる〉が知る限り、最近は新しい獄族は生まれていない。下僕になるべき存在さえ世界にいないのだから、部下も何もあったものじゃない。
そもそも獄族に、外気温にどうこうといった概念はない。温度差なんか彼らは感じることもないものだ。
獄族だった〈はる〉の体は「陰の力」が集まってできたもの。人間のように外気温を感じることはない。

〈はる〉はひとりだ。
さびしいから、この入れ替え現象を起こした。

その事実にも蓋をして、笑って、見せる。
“大丈夫”と、まるで自分に言い聞かせるようにつぶやいて。


始『はぁー・・・どこのお前も同じようなもんか』


ふいに大きなため息とともに呆れたような声が聞こえた。
声の方へ視線を向けると、始が〈はる〉を睨んでいる。

始『気にするな。お前ら"弥生春"という存在は、総じてバカだと理解したところだ』
春「え?ちょ、それほぼ初対面のオレに対してひどくない睦月くん!?」
隼『ナイスツッコミ〜。いいね〜そのキレはうちの春とも同じだよ。さすが同一存在』
陽『いやなんというか、うちの方の春さんもちゃっかりディスられてたけどいいのか?』
涙『隼は拍手の入れる場所、おかしいよね』
郁『あはは(苦笑)』
始『おい隼、この〈はる〉はデリケートな生き物だ。《花》と違ってもっと優しく扱えよ』
海『いや、お前の花への扱いが一番酷いからな』
恋『なんだかなぁ。やっぱりあんまり〈はる〉さんと花さんってかわらないすよね。ほら、どこかずれたところが!』
駆『恋ぃー!それは本人を前に言っちゃだめ!』
海『ずれてるんじゃなくて、〈はる〉は、こっちの一般的な知識がないだけだからな』
涙『・・・一般的知識がない。つまり常識がない…ってことは、やっぱり「一緒ってこと」だよね。ファイナルサンサー?』
葵『そ、そうきたか』
涙『やっぱり〈はる〉も春なんだね。ぬけてるところが』
海『涙、おまえなー(苦笑)』

隼『まぁ、始の愛情表現は、暴力的かつ分かりづらいんだけどね。
何を言いたいかっていうと、あまりため込みすぎないでねって話。僕らもできる限り協力するから』

春「――なにを、言ってるのかな?」

やさしい言葉も笑顔も、〈はる〉の笑顔をはがすまでにはいかない。
そんな〈はる〉に、ニセモノの笑顔だとわかっていながらも隼がからむのをやめない。

隼『この隼さんにまっかせなさーい!ってことさ』
始『言うだけあって、こいつやるときはやるからな。なまじ魔王とよばれてないぞ』
隼『この世界に願いの力はなくても。魔法というとんでもない力があるんだよ!さぁ、ドーン!と言ってくれていいんだよ?空を飛びたいなら僕がこのブラックなカードでアフリカでもサバンナでもピラミッドにでもつれってあげるよ』
海『まて。途中から魔法関係なくなってるぞ』
隼『だって榊さんがこのカードみせたら叶うって』
始『お前がただ今行ってみたい場所あげただけだろ』
隼『さっすが始!わかってるね!!』

〈はる〉の前で繰り広げられるテンポの速い会話に、〈はる〉は聞き覚えのない地名に単語を羅列させられ目を白黒させる。
その瞬間だけは鉄壁の笑顔もはずれ、素の彼が顔を出す。

そんな隙を待っていたかのように、隼がポンと〈はる〉の肩をたたく。
誘われるようにそちらをみやれば、〈はる〉の目には至極真面目な顔をした隼がうつりこむ。

隼『光の下で生きたいのなら、契約したらどうかな?人間、嫌いってわけじゃないんだよね?』

つまりあちらに戻ったら、契約をすればいいと彼らは言う。
その言葉に、首を横に振る。

彼らの真剣な目で気付く。
結局、目の前の彼らには、〈はる〉がどれだけ隠そうとしても。その本心さえも丸見えだったのだ。
これではせっかく話をごまかしても、いくら誘導をかけても、会話がここにもどってくるわけだ。

〈はる〉は降参とばかりに両手を上げた後、笑うのをやめる。
その表情からはごっそりと柔らかさが抜け落ち、端正な顔だちゆえまるで精巧な人形がそこにたたずんでいるかのようだ。
その口からこぼれるのは、たんたんとした言葉だ。


春「さっき言ったのは嘘じゃない。オレの力は相当強くてね。オレと力が釣り合う人間なんかいないよ」


本当は一度もいなかったわけではない。
たまに、それほどの力を持った人間が生まれることはあった。
けれども長くは一緒にいれない。
それが人間。

それにもう〈はる〉は、生きる意味を求めていない。
これ以上生きたいとも思っていない。

この世界にきて、この世界の自分をかこむ環境を目にし、自分がいかに孤立した環境にいたかをつきつけられた。
もう抗うことに疲れていた。
こちらの春と入れ替わったことで、ようやく自分の心に決着をつけることができた。
本当に"もういい"と思ってしまったのだ。
〈はる〉はすべてを諦めたのだ。
ただこの世界の春がもどるまでは、彼がこの後この世界で不自由がないようにと、彼のフリをして穴埋めすることは了承しただけ。


始『契約しろ〈はる〉!』


再び声を張り上げ吠えたのは、始だ。
諦観した〈はる〉の冷めた視線が始にむけられ、感情の宿らない言葉が返される。

春「睦月くん、オレの話聞いてた?契約には均衡した力の持ち主同士じゃないとだめなんだよ」
始『“俺が”いる』


・・・ い な い よ。


春「なに、言ってるのかな睦月くん」

向こうに君はいない。

君はそれを知らないから――
どこまでもやさしくて、とても残酷な言葉を投げかける。

春「契約とか、あっちじゃないとなんの効力も発揮しないと思うし。それに君はこちらの世界の人間。オレはあっちで…」
始『たしかにここにいる俺では無理だろうな。そもそも契約するための力が、今の〈はる〉と俺たちにあるかさえ分からんしな』
隼『つーまーりー』
始『当然向こうの世界の俺とだ』

その言葉に〈はる〉は息を飲み込む。
彼らに告げてはいないが、あのくらく冷たい世界に、ここにいる優しい11人はいないのだ。
獄族であれ人間であれ、彼らは存在していない。

春「・・・ば、バカだなぁ睦月くん。同族でも同じような力をもった子・・いないぐらい、オレの力、大きいのに・・ましてや人間・・・君がどうこうできるわけ」

ちがう。契約をしたくないわけじゃない。
力が拮抗とか、そんなの関係ない。実際やろうと思えば、力の大きさは関係なく契約できる裏技もある。

もし、あの雪と夜しかない世界にも君がいるなら。

そこに始という存在ぎるのなら。自分をしる存在が、手を伸ばしてくれるのなら・・・〈はる〉は一も二もなく、即契約してほしいと願うだろう。
それほどに、このわずかな時間で〈はる〉は、この世界の彼らが好きになっていた。

だけど――

春「無理なんだよ」

だってあの世界には、己が求めるこの11人はどこにもいないのだから。

感情が抜けていた〈はる〉の目が、様々な感情が混ざり合って揺れる。
泣きそうで、つらくて、だけど恋焦がれるように。今にもこぼれだしそうな熱いものがそこにはあって、複雑に揺れ動く感情が、彼の心をゆさぶる。
それにいち早く気付いた始が、〈はる〉の頭をポンとたたき髪をかきまぜると、落ち着かせるように口端を持ち上げて笑ってみせる。

始『だれがバカだアホはる。お前がいるなら、向こうにも俺はいる。
その向こうの俺と契約しろ〈はる〉。そうしたらお前は陽の光の下でも生きていける』

恋『うわー!なんておーぼー』
駆『だけど、始さんがそう言うと、本当にいそうな不思議』
陽『それなー』

春「・・・・・・・・かりに、かりに出会ったとしても。契約してくれるかなんてわからないよ?」

いもしない存在に何を求めろというのだろう。

〈はる〉はうつむき、彼らに顔が見えない様に唇を強くかみしめる。
また手に力が入ってしまい、爪が長くないのに手のひらを傷つけそうになる。
だが、その手が皮膚を破る前に、そっと手が握られる。
温もりに、視線を上げれば、隼が穏やかな顔で頷いた。

隼『だいじょーぶ』
春「でも、もしもだし。出会わないかもしれないし・・・」
始『それはないな』
春「・・・な、なんで?」

なぜ始は言い切れるのだろう。

始『他の人間なんかに、お前をまかせられるか!だから俺はいる!』
春「は?」

恋『ひゅー!やだ聞きましたか駆さん。始さんってばプロポーズみたいwww』
駆『ききましてよ恋さん!これはすごい展開ですね』
海『プロポーズかぁ。たしかにそう見えないこともないけどなー。とはいえ、始のことだから、あいつの基準っていうと“いかにしておもしろく人生過ごすか”ってことしか頭にないから。それを考えると今のセリフもプロポーズにはきこえなくなるけどなww』
恋『たしかにwww』

あまりに熱烈な言葉たち。
あちらの世界のことなど知らないくせに、自信にあふれた黒と白の二人。

思わず〈はる〉さえ、二人をみて笑いだす。
ただしどこか陰の残るそれは、まるで自嘲のようで・・・

春「・・・ふふ、おかし・・・ばかだなぁ。なに、言ってんのかな?」

鶯色の瞳から一粒だけ、涙がこぼれ落ちる。
それに始と隼以外の者が戸惑い周りがざわつくが、〈はる〉は涙をぬぐうと、もう一度「無理だよ」と、淡くあわく・・・微笑んだ。
その目にはまたじわりじわりと水をためはじめ、潤んだ瞳が「もうやめてくれ」と懇願するように二人の王を見つめる。

春「無茶なこと言わないで。ね、・・お願い」
始『無茶じゃない。向こうでも俺が俺なら、どこの世界であろうとお前を探し出す。きっとだ。
なにせ俺は生まれてからお前以上の(面白い)やつみたことはない。と、すれば、どこの俺もお前を逃すわけない!だからそのときは契約しろ〈はる〉!』
春「むーつーきくん。オレのお願い聞いてよ。これで、最初で最後だから」
始『断る。向こうの俺とお前は契約する!これは絶対だ・・・信じろ』

春「っ!?・・・お願いじゃない!絶対無理なんだって!!」

悲鳴のような〈はる〉の声が響く。

始は、何度言わせる気なのだろうか。
何度〈はる〉に、その言葉を否定させれば気が済むのだろうか。

鶯色の目からはじわりと大きな粒がこぼれだし、「無理だ」と、〈はる〉は始の言葉に勢いよく首を横に振る。
頭を振った勢いでダムは決壊し二つ目の涙とともに堤防は流れ去り、〈はる〉の目からはすでにボロボロと大きな雫が落ちては地面に丸い跡を残していく。
とまらないそれを拭うこともせず、なお〈はる〉は首を横に振って、始と隼の言葉を否定する。

春「できない約束なんかしないでよ!!」

隼『どうして?たぶん始なら向こうの世界でも、君に釣り合う力を持ってると思うよ。もしかすると君より強いかもよ。なにせ始だからね』
春「無理だ!無理なんだって!!!」
始『俺はそれほど信用ないか?・・・ああ、そういえば。改めて考えれば、まだまだ会ったばっかだったか』
春「やめてよ!やめてよもう・・・・・あっちに帰っても。・・傍には約束した君はいない!もしあちらに君がいても、オレと約束した睦月君じゃないんだよ!? それにあっちで、君たちが当たり前のように傍にいるなんて思わないでよ。オレはこの世界の、君たちの“はる”じゃないんだ!!・・オレに夢を見せないでよっ!!」
隼『おや。せっかくこの魔王な隼さんが、夢をかなえてあげるといっているのに?』
春「だって。・・・だって!!」


春「オレの世界には君たちはだれもいない!!
どこにもいないんだよっ!!」


春「オレは獄族だし、帰ればもう日は浴びれない!それでいい!それでいいんだよっ!!!!お願いだから・・・だからもう・・・これ以上“幸せ”をオレに教えないで」

夢を語る彼らにイヤイヤと首を横に振っては、隼と始の言葉をこれ以上聞かないように、耳も目もとざす。
泣きじゃくりながらその場にしゃがみ、耳をふさぐ〈はる〉の横に隼は腰を下ろし、すべてを拒絶しているその背をそっと抱きしめる。
ようやく聞けた本音。
けれど〈はる〉は、地面を向いたまま。
ない未来にあこがれないように、目を固く閉じしたまま。
そうして、すべてを諦めてしまった小さな背中に、隼は根気強く話しかける。

世界が違っても共に夢を見ようと――。

隼『泣かないで〈はる〉。大丈夫だよ。だぁいじょーぶ』
始『ったく。ほら泣くなよ。・・・きこえてるかぁ?おーい、はぁーる。
はぁー・・本当にどこの世界でも自虐的でこまる。少しは前向きに、“夢”に期待してもいいんじゃないか?』
隼『そうそう。この隼さんがとっておきのおまじないをあげるからね。
時期に君が、いや・・・向こうの世界で“はる”が“僕ら”と出会えますように』

その言葉にようやく〈はる〉が顔を上げる。
本来の花ではしない年齢以上に幼いくしゃくしゃな顔に、隼は苦笑を浮かべ、乱れた前髪をとととのえてやる。
始は問答無用とばかりに、耳をふさいでいた〈はる〉の手をつかんで引きはがす。

春「・・・あ、える・・・・・みんなと・・・ほんとう?」
始『隼のおまじないは効果てきめんだ』
隼『うんうん。花の勘の的中率には負けるけどね。
僕のおまじないは威力絶大だからねぇ、安心するといいよ』

春「どう、い・・う・・・?」


戸惑う〈はる〉に、隼と始が同じような顔で、それはそれは楽し気に笑った。

隼『ふふ。どうする始?』
始『どうもこうも、ここまできて教えてやらないのは悪趣味だ』
隼『やれやれ。始だってかなり悪趣味な酷いこと〈はる〉に言ってたくせに』
春「あの・・会える、って・・・」

隼『なぁーにたいしたことじゃないよ。もしかすると、今頃あちらでは“僕ら”は生まれてるかもしれないよってことさ♪』

ウィンクつきで告げられたそれに、〈はる〉は目を見開く。
会える。その言葉をかみしめるように、何度も何度も舌の上でその単語を転がす。

あちらの彼らは自分と約束をした記憶はないかもしれない。
それでも目の前の彼らと同じ魂を持つ存在と、あちらでも会える。

そんな煌めく未来を描く未来予想図。それだけで〈はる〉の中に希望が根付き、それだけで胸の中にホカホカしたものが生まれるのがわかる。
そんなものいままで一度も〈はる〉のなかに芽生えたことはなく、くすぐったく思うと同時に、彼にまた生きたいという望みをあたえた。
ポカポカ胸の中で芽吹く“歓喜”という感情。あふれてくるむねのなかの花たち。

それはまるで陽だまりのようで。

〈はる〉は、はじめて自分の中に生まれたそれを逃すまいと胸をおさえる。
その頬を、ひとつ雫がつたう。
それは先程とは違う感情によって流されたもの。



春「やっぱり、この世界は、あったかいねぇ」



〈はる〉がほわりと笑う。
それは彼が入れ替わってから初めてみせる、きれいで柔らかな笑みだった。

そんな〈はる〉に、太陽の下で、月の加護をもつこどもたちが喜び歓声を上げる。
その感情に呼応して世界がさらに色づき、“陽の気”がゆるりゆらりとあたたかな歌を奏でだす。


―――ねぇ、××。太陽はこんなにもあたたかくて、こんなにも優しいんだね。



しゃがみこんだままだった〈はる〉に、白と黒の王より手が延ばされる。

立て――と。
立って、自分の足で歩いて、すすめと・・・。

二人の王は、いたずらが成功した子供のように笑うと、〈はる〉の手をひっぱる。



隼『僕らと君の出会いは、まだはじまったばかりだよ』

始『いくぞ〈はる〉』









〜 Side春成り代わり主 〜



――・・宮の中 い〜つも 答えを探すよ〜♪
何度だってTryするんだ〜♪
明日目指して〜
Faith and Promise 忘れて〜しまわぬように〜
キミの 名前〜呼んだ〜
約束を抱いて〜♪

夢見ていた〜世界が急に遠くて〜
思い返したなら〜 また〜 白い部屋〜♪
あなたがいて 僕まだやれるかなって


「春さん!春さん!!」
「“それ”きれいですね〜」
「人間のしゃべり方ですかぁ?うん、おもしろい。それにきれいだ」
「へー人間のしゃべり方って鳥みたいでおもしろいな」

『これはね“歌”…って言うんだよ』

大きめの岩に腰かけていれば、小さな赤いこどもがやってきた。
そのこどもを抱き上げ、せがまれるままに歌っていれば、どこにいたのか森の中からわらわらとこどもたちがかけよってくる。

黒いこどもはたんたんと。
黄色いこどもは目を輝かせて嬉しそうに。
一番大きいのは、青年が今膝の上にのせている8歳ほどの赤いこどもだ。
赤いこどもは、うらやましがる他のこどもたちにあっかんべーをすると、《春》と呼ばれた青年を独り占めするように嬉しそうにその大きな身体に抱き着く。

『あまえたさんだねぇ』

ふんわりとした優しい声が頭上から降ってくるのが、〈よう〉は好きだ。
彼の手が、長い爪をうまくよけて〈よう〉の髪をすきあげる。

やさしいその手が、こどもたちは大好きだ。
みたことはない陽だまりというのは、彼のような存在をさすのだろうと、生まれて間もない獄族のこどもたちは思っていた。そんな獄族の子供たちを見守る青年の表情は慈愛に満ちている。
青年の恩恵を受けようと、こどもたちが順番待ちをするのはいつものこと。
獄族といえど、与えられる愛情をしることはできる。知れば、知識となり、知識から感情は生まれ増える。
今はまだ勘定に名前がなく、与えられたそのやさしさと温もりが、くすぐったくて嬉しくてしょうがないのだ。

『鳥のような感じに聞こえるのは、リズム。
言葉にリズムをつけると、“歌”っていうんだよ』

時がたとうと、自分がいるべき本当の世界のことを《春》はまだ覚えている。
そこでいつも聴いていた仲間たちの歌声。
それをまねてこの世界の彼らに披露している。
やがてこどもたちは、自分もやってみたいと、口々に告げるので、《春》は“向こうの世界の彼らの歌”をこの世界の彼らに教えていく。

やがて大切な相手と出会うとき。
こどもたちが、人間を嫌いにならないように。
人間と共存できるように。
自分が向こうの世界で覚えた人間としての知識を与え、感情と自我を育てるように教え込む。





夜明け間際。
朝が近づいてくる気配に、《春》はこどもたちに住処へと戻るように告げれば、きゃっきゃっと笑いながらこどもたちは雪の中をかけて森の中へときえていく。
花は、その様子を笑顔で手を振って見送る。

「はーる、君も戻らないとダメだよ」
『そうだね』

きゅっと背後で新雪を踏む音が聞こえ振り返れば、自分と同じくらい外見年齢の獄族がいる。
彼は〈しゅん〉だ。
〈はる〉の肉体の成長は、とうの昔にとまっていたのだろう。《春》がこの肉体を使い始めてから、〈はる〉の肉体はとまったままで成長をしたことはない。
その姿に〈しゅん〉がおいついた。
〈しゅん〉が世界に生まれてから、また長い年月が立っていた。
それはただの人間の感覚のままでは正常ではいられないほど、気が狂うのは当然といえるほどの歳月だ。

その〈しゅん〉が、両手を広げてまっている。
それに従い手を伸ばし首に手をまわせば、〈しゅん〉は《春》の膝裏に手をそえ「よいしっょ」と軽々とだきかかかえると、太陽があたらない場所へと向かう。

青年の姿に成長した〈しゅん〉は、何時の頃からか《春》の面倒を見るようになっていた。

「春、無茶をしたね」
『してないよ』
「何度も言うけど、太陽に挑もうとしないの。さっきの場所、あと少しで太陽直撃コースだよ」
『それは困ったねぇ。オレはまだ消えるわけにいかないし』
「なら、あんまり無理しないでよ」

獄族は肉体的な疲労しらずの存在だ。眠りはすれど、それはほかの生物のように体を休めるためのものではない。
けれど〈しゅん〉がみてきたかぎり《春》はよく睡眠をとる。それを睡眠といっていいのかはわからないが、〈しゅん〉が彼と出会ったときには、《春》はすでにそういう状態で、獄族でありながら疲れやすく、起きている時間の方が少ない。
今日はいつもより長く起きている。
そろそろ眠いだろうに。まだ平気だと、彼は笑う。
なにが嬉しかったのか、いつもより楽し気でテンションまで高い。

獄族はこの世で一番“業”に、縛られた種族だと〈しゅん〉は思う。

この世界では、どんな魂も生まれながらに役割が与えられていて、それを“業”と呼ぶ。
魂を持つ限り、誰にでも“業”は存在する。
しかし人間は、己も業をせおっているとしらないでいる。
“業”の存在を知っているのは、獄族だけだ。
獄族はその“業”を背負っていることを誕生した瞬間から魂で理解する。まるでその種族に、“業”という存在を忘れることを許さないかのように。
だというのに、彼ら自身が、自分の背負う役割の詳細について知ることはない。
おかしなことである。
けれど獄族は“業”という存在を忘れることが許されないことだけはたしか。その証のように、“業”の数だけ数珠を持って生まれてくる。

生きていればやがて“業”は、増える。

〈しゅん〉の腕の中にいる《春》の首にまかれている数珠は、一本だけ。それでさえ量は多いが。
彼の本当の“業”の多さは、はためには見えない。
長く生きたせいか、増えた“業”は服の下に広がっている。
それは黒く、無数の数珠がまるで螺旋状のツタのように痣となって、皮膚を覆うようにはっている。

《春》の足には片翅の蝶の刺青のようなものがあるが、それを縛るように数珠は翅にからみ、いつのころからか“業”に蝕まれた彼の足は自由をなくした。
ほとんど動かすことができなくなった足のかわりに、長い間ともにいた〈しゅん〉が彼の足がわりをかってでた。
それが現状だ。


〈しゅん〉の肩にあごをのせ、なにも不自由はないとばかりに、微かにしか動かない足を小さくばたつかせながら、《春》は鼻歌を歌う。




Faith and Promise
忘れてしまわぬように キミの名前呼んだ

静かな鼓動 密かに高鳴って
思い出していた あの出会いの日
あなたがいて 僕一人じゃないんだって
確かめ合ってた

揺れる陽炎 夏の陽
消せない痛みを 隠したまま笑いながら

さまよう迷宮の中いつも 答えを探すよ
何度だってTryするんだ 明日目指して
Faith and Promise
忘れてしまわぬように キミの名前呼んだ
約束を抱いて




忘れてしまわぬように
君の名前を呼んだ








ねぇ、待ってるよ――――始。





ささやかれた声を聞き取ったものはいない。
音にせずに口の動きだけでつぶやかれたそれは、明け方の冷たい空気に流され宙にへととけていった。













【オマケ】

隼『ところで始〜君、ねらった?ぷっwwww』
始『なんのことだ?』

隼『だって「俺と契約しろ!はる!」ってwwwwどこの魔法少女wwwww』

始『いや、ぱくってないwwwいま気づいた。
ぶっふぁwwwき、気付いたら笑える・・・・ぷwwww』

恋『は、はじめさんが「僕と契約して魔法少女になってよ」ってあの美声で言うとかwww始さんの容姿のままマド〇にはなしかけるすがたがうかんだwwっどこの騎士様ぁwwwwww』
陽『魔法、しょうwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwや、やべぇ。今、ちょっとピンクの衣装にツインテールした春さんの姿が浮かんだwwwふぁーwwwwwwww』
涙『はるが魔法少女・・・・ぷ』
駆『はるさんがピンクのwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
郁『えーと・・それって始さんが使い魔で、春さんが主人公の少女役って配役?いや、うん。なんかすごいイメージわくというか・・・くす・・・あ、笑ってすみません!』
海『あー・・・あれか。あの映画にもなったあの魔法少女の衣装かぁ。春にはちょっとピチピチすぎないか?』
駆『ひーwwwwwやめて海さんwwwwそう、ぞう、しちゃったじゃないですかwwwwwww』
新『www』
葵『あらたー!!無表情のままうずくまらないで!!!それはもう笑ってるよね!?』
陽『せ、せめて拳で戦う魔法少女〇リキュアの初代ピュアなブラックの衣装に変えてくれwwwwww』
始『ぶっ』
夜『どれもひどい!!』
駆『陽さぁ〜んなんでそれを選択したしwwプリ・・・あはははああwwwww』



春「・・・ねぇ」

始『な、なんだはるぶっふぉwwwぴ、ピチピチぴんくwwwwwwwww』

春「睦月君!オレをみて笑わないでもらえるかなぁ?!」

始『いや、だっておまえ・・・・ピチピチのピンクの衣装ってwwwwwwあとへそだし黒のwwwww』
恋『も、もうだめぇwwwプ〇キュア衣装の春さんとかwwwwwwwwwwww』
海『おもしろいこと好きがこうじて、まさかアニメネタまでしっているとは。なぁ、隼に始。おまえらのクールなアイドル像がどんどんぶち壊れてくんだが』
隼『ファンにばれなきゃよしだよ(キリッ)』
始『隼がキリっとかwwwwwwwは、はらいたいwwwwwwwwwwwwwwwwwww』

春「なんなの君たち!!ねぇ、ちょっとそこのピンクの子や緑の子まで、なんでお腹抱えて笑ってるの!?ちょっとぉ!!!」




春「オレ、ちょっとはやまった・・かも?」








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